幻想世界に誘われて【完結】   作:鷹崎亜魅夜

190 / 267
 戦闘は二話構成。
 三人称視点。
 では本編どうぞ。


四話 『非想非非想天の娘』

 比那名居天子の手元から要石が出現し、回転しながら侠を襲うが冷静に侠は弾幕を放って相殺。それを見通していたのか、天子は緋色に染められた剣を取出しては何かを見極めようとしたのだが──

 

「あんたの気質を見極めてもらうわよ──って何これ!? どうしてあんたの気質を感じないのよ!?」

 

 相手は動揺していたが、何か全くわからない侠は天子の言葉に疑問を思う。彼女の様子に察した、侠の心にいる初代龍神ティアーが補足する。

 

『「あやつは持っているのは天界の道具であり武器である【緋想の剣】だの。あの剣は、必ず相手の弱点を突く事が出来る剣なのだ。天人にしか扱えない剣であるが……まぁ、主はその事は気にせんでいい。緋想の剣は相手の気質を霧に変え、誰の目にも見えるような形に変える。そして、その気質の弱点である性質を纏う。言わば弱点攻撃ができる武器なのだ。緋想の剣が見せる気質の形とは天気の事であり、緋想の剣で斬られた気質は緋色の霧となることで天気を変えることができる。簡単に言えば人の持つ気質を天気として具現化できるのだよ、主」』

 

「(……天気の気質で弱点を突く剣、ですか……その気質は誰もが持っているものでは?)」

 

『「確かに気質によって弱点は持っておるものだが……龍神にそんな弱点はあるかと思うかの?」』

 

「(こういう時にありがたいですね……【龍神補正】は)」

 

 幻想郷の創造神たるもの、弱点は無いとティアーは言いたいのだろう。龍神の先祖返りであり、初代龍神が心の中にいる。対象の負に働く力を無効化できるのがティアーの言う【龍神補正】だ。

 

 ティアーの分析により、有益な情報を得た侠は天子に話しかけながらスペルカードを持つ。

 

「悪いけど、自分にその剣の能力は通用しないよ──武符【リトルセイバー】!」

 

 相手が剣を持っているのに合わせてか、換装スペルを唱え、緋想の剣と似たような赤い色の剣を左手に持って構える。

 

「はぁ!? あんたこの剣の事を知っているの!?」

 

「教えてもらったからね。誰とは言わないけど。ちなみに永江さんじゃないよ」

 

「……ふふふ。初めてのケースだわ。緋想の剣の能力が通用しない相手なんて。その分、楽しませてもらうわ!」

 

 天子は緋想の剣を構えながら突進して斬りつけてくる。それに対して侠は冷静に受け流し、相手の癖やらパターンを覚えていこうとしたが──

 

「(……? 剣の扱いが素人……?)」

 

 受け流して防御したり回避したりしているなかで侠は違和感を覚えた。同じ剣の使い手である魂魄妖夢、妖怪の山の白浪天狗の犬走椛。彼女二人と比べてみると扱い方が雑に感じたのだ。

 

「(……まぁ、その分隙も見つけやすいけど!)」

 

 そう考え直し隙を見つけ、カウンターの要領で天子の腕を斬りつけようと振るったが──

 

 

 

 

 

 何故か、頑丈な壁に当てたように剣が反発した。

 

 

 

 

 

「……えっ!? 今確実に入ったはず──」

 

「隙あり!」

 

「おっとっ!?」

 

 斬れないことに動揺していた侠の隙を狙い、天子は斬りつけてくる。だが侠は間一髪のところで体勢を崩し、転がって回避する事に成功した。

 

 改めて体勢を立て直して侠は今の現象の事について天子に問いかける。

 

「今のは……一体何? 確実に攻撃が当たったはずなのにはじかれた……?」

 

「ふーん……それは知らなかったみたいね。私は成り上がりとはいえ天人。あんたとは違って防御力があるのよ。並みの攻撃じゃあ私に通用しないわ」

 

 天人としての特性というのは語弊があるかもしれないが……天界に木から実っている桃がある。その桃を食べ続けることによって体が着々と防御力、耐久力を上げる効果があるのだ。その桃は天界にしかなく、天子自身も暇な時間があるときは食べたりしていてその結果……ナイフすらはじく防御力を兼ね備えることになった。

 

 彼の心の中にいるティアーも説明。

 

 説明し終わったあと、侠は作戦を考え始める。

 

「(考えが正しければ物理防御に特化しているという事かな……? だから剣の扱いは素人といえど、その防御力を生かした戦法を得意とする。比那名居は少ないダメージで、自分にはそれなりのダメージを受ける。でも比那名居の遠距離攻撃は岩を主軸とした攻撃……それなら、弾幕の遠距離の攻撃かつ──速さに一点特化したほうがよさそうだ! 相手のパターンを把握できたら……新しい【力】を使う!)」

 

「何を考えているのか知らないけど、こっちから仕掛けるわよ──要石【天空の霊石】!」

 

 天子がそう宣言すると彼女の手から要石が出現し、侠にまっすく放たれるが……それは難なく躱した。

 

 それでも、侠は警戒する。

 

 彼は読みが当たったのか……侠の躱した要石が空中に留まり、円球上の弾幕が放たれる!

 

「設置型のスペルカード……!」

 

「後ろを見ても構わないけど、前方も注意よ──!」

 

 侠の前方から再び天子が要石を放ってくる。先ほどの設置する要石とは違い、速い。前方から要石が、後方から弾幕に挟み撃ちにされたところで──侠はスペルカードを宣言した。

 

「適合【ストームオーバードライブ】!」

 

 宣言し終わり……侠の体を中心として風が発生。それにより前方の要石、後方の弾幕を反らした。

 

 そして風がやむと……過去にならず者から早苗を救った姿であり、親友の神々の戦いを止めた姿になる。持っていたスペルの剣は赤い色から緑に染まっている。

 

 無論、遠くから見守っていた衣玖も驚いたが……当然天子もその変わりように驚愕した。

 

「姿そのものが変わるスペルカード!? あんたの力って一体何よ!?」

 

「……自分の能力は一つだけなんだけどね。まぁ、これは借りて自分の能力で強化と言っておこうかな?」

 

「借りるだがよくわからない発言ばっかりするけど……それで私を倒せるとは思わないことね!」

 

 天子は体勢を立て直し、再び要石を侠に向けて放つ。しかし侠は……目にも止まらない速さで攻撃をグレイズする。

 

「やっぱり、一点特化にした方がよさそうだね!」

 

「さっきの風といい、その速さをいい……風の力で速さに特化しているという事ね」

 

「ご明察!」

 

 侠は天子に近づきながら、手元から圧縮された素早い風の弾幕を繰り出す。それに対して天子は緋想の剣ではじきながら距離をとる。そして天子は要石を出現させて、要石から弾幕を放ってくる。風の力を得た侠は持ち前の速さ、そしてデフォルトで龍化してなくても飛べることを利用し、舞いながら躱す。

 

 そして、要石の設置をしなくなったという事は時間切れによるスペルブレイク。侠はその事を確信した。

 

「よし! スペル攻略だね!」

 

「まだまだよ! 私の実力はこんなものじゃないわ!」

 

 そうして、新たに天子はスペルカードを取り出して宣言。

 

「乾坤【荒々しくも母なる大地よ】!」

 

 宣言すると、天子は空高く飛翔し、侠の上空に移動したところで……要石を出現させて乗り、そのまま落ちてくる!

 

「そのまま落下? それなら簡単に避けられる──」

 

 そう考え、侠は浮かびながらちょん避けに近い動作で天子が乗った要石を躱した。

 

 ──が、それは誤った判断だった。

 

「引っかかったわね!」

 

「え──」

 

 天子の乗った要石が地面に着いた瞬間――近辺の地面から、地面でできた柱が飛び出す! それを予想していなかった侠は柱の攻撃を受け、空高く打ち上げられてしまった。

 

「がっ……!? その岩が地面に落ちたら周りの地面が隆起するスペル……!?」

 

「ご明察、と言っておこうかしら? 私の能力でもある【大地を操る程度の能力】の表れでもあるわ。この能力で地震も起こすこともできるんだけど……相手が常に空中じゃあまり意味がないしね。それにも対応できるスペルを宣言させてもらったわ」

 

 天子の説明を聞きながら、侠は空中で何とか体勢を立て直したが……どうやら相手は待ってくれないみたいだ。

 

「ほら、次も行くわよ!」

 

 天子は再び飛翔して、侠の真上に来たところで要石を出現させて再び乗り落ちてこようとしている!

 

 落ちてくるのに対し侠は相手の攻撃よりも速くするため……適合スペルに龍化を重ねた。龍化することにより、拳に緑色の鱗をだし、翼、さらには角を出す。その姿──風龍の竜人。

 

 天子は要石で侠の姿を確認できなかったのだろう。適合スペルに龍化を重ねた侠は、スペルカードを宣言した。龍化するほど自らのダメージが多くなるが、その分攻撃力が上昇するスペルカード──

 

「壊符【ドラゴンインパクト】!」

 

 そう宣言すると……リトルセイバーを持っていない右手に力が収束すると……適合スペルの影響なのか、風も纏う。そのまま侠は天子が乗った要石に──拳を突きだす!

 

 まだ勢い付けて落下していなかった要石は、素早い侠の力の込めた拳に当たると……真っ二つに割れた。

 

「!? 要石が割れた!?」

 

 足場が崩れて対応が遅れている天子は真下を見ると……侠は片手に持っていた剣で思いっきり振りかざして天子に攻撃!

 

「ゼァッ!」

 

「くっ……!」

 

 侠の繰り出した攻撃は天子に当てることが出来た。先ほどのはじかれた攻撃とは違い、龍化して攻撃力を高めた腕の攻撃だ。多少でも天人の天子にダメージを与えることに成功した。

 

 天子は地上に足をついて侠と距離をとり……今の状態の侠を見て驚愕するしかなかった。

 

「!? その姿って龍!? いや、もしかして人の形態に収めた竜人……あんたって人間なのにどうして変化できるのよ!?」

 

「それが【先祖返り】。血はかなり薄くなったかもしれないけど……突発的に龍の血が濃く表れるのが【先祖返り】なんだよ。自分は幻想郷の創造神の先祖返りの特徴として表した人間でもある」

 

「【先祖返り】……深くは考えなかったけど、今まであんたみたいな【特別】な奴なんて初めて知ったわ……。それで幻想郷の創造神である龍神の先祖返りな上に、異変解決者……つまり、あんたを倒せばまた地上の妖怪達は私に注目するわけね! 良いわ良いわ面白いわ! 本当にあんたは楽しませてくれるわね!」

 

 お互いにスペルカードがブレイクしたものの、天子は侠の情報を聞く度に上機嫌で笑い始めた。まるで侠との戦闘を楽しんでいるみたいに。

 

 そして侠は……ダレている右腕を見ながら状況を整理する。

 

「(しばらく右腕は痺れて使えない。それでもって相手はまだ体力に余裕がある。さすがに悠長には出来ないかな……そろそろ使い時だろうか)」

 

 どうするか考えを練っていたとき、天子は話し掛けながらまたスペルカードを取り出して宣言。

 

「次のスペルもあんたはどう対処してくれるかしら──霊想【大地を鎮める石】!」

 

 宣言すると同時に、天子の手から要石が出現するのと同時に、光線のような弾幕が散らばる。さらには近辺の頭上に白い光が出現。その白い光はゆっくりと落ちて、地面に落ちると――要石が地中から出現した!

 

「! また厄介な……!」

 

「ほらほら、ちゃんと避けないと被弾するわよ!」

 

 天子自身も移動して、侠に近づくと弾幕を放ってくる。それに対して侠は後退して避けようとするが……白い光は後方にもあるので、タイミングが悪かったら要石出現時に重なって攻撃が当たってしまう。侠は後方にも気を配って回避。

 

 そして……少し攻撃が止みかけた瞬間を狙い──風の適合スペルを解いた。同時に剣の色も元に戻る。その光景を見て天子は機嫌がよさそうに侠に話しかけたが──

 

「どうやらそれはスペルブレイクみたいね。緑の鱗じゃなくて赤い鱗……元の属性を介さないのになったと見て間違いない。それがあんたの限界かしら?」

 

「自分は──いや、俺の限界はまだ全然出していない!」

 

 侠の口調が変わり、白紙のスペルカードを取り出しているとき、侠の言葉の使いように疑問を抱く。

 

「(……? 態度が変わった?)へぇ。これからが本気ということね。私もまだ本気はだしてないわ。同じね」

 

「……そうか。だが……俺もまだ全力を出さない。新しく手に入ったこの【力】を使う──」

 

 そして──侠は輝かせながら新しいスペルカードを宣言する。

 

 

 

 

 

「──適合【エレクトリカルオーバードライブ】!」

 

 

 

 

 




 新しき力。

 ではまた。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。