三人称。
では本編どうぞ。
「……そろそろこれでお開きにするか」
「そうだね~。私の命令もちょうど終わったし、だいたい全員に命令が──」
「待ってください諏訪子様! まだ侠君が王様になっていません!」
二柱がそろそろ王様ゲームをこれで最後にすると言うと、早苗が一度も王様になっていない侠の事を言う。
彼女の言葉で気がついた妖夢も同調するように言った。
「確かに侠さんは命令されるばかりで一度も……!」
「いや、自分は別に王様になっても命令する事無いし……」
「あなたって基本的に無欲よね……」
彼自身は気にしている様子は無い。しかし、これで最後の回となり、あることを霊夢は侠に指摘する。
「侠じゃない? ちょうど侠で一週回って一番に引くんでしょ?」
「霊夢みたいに一発で引いたりするんじゃないか?」
「(魔理沙、それはフラグだぞ)」
霊夢に促され、魔理沙は予想するが……侠自身は気楽に引いたつもりなのだが──
「まさかー? そんな事あるわけ──あ」
彼はくじを引いて……間の抜けた声が出た。隣に居る霊夢は察しがつく。
「侠……引いたのね……」
「うん……本当に引くとは思わなかったけど……」
「フラグ回収乙」
霊夢と静雅は現実を受け止めていたが……他の人物達は考えをめぐらせた。
「(基本大人しい侠が命令を?)」
「(今までの命令の報復が来そうで怖いわね……)」
「(どのような命令をされるか想像出来ません……)」
「(まさかあんな事やそんな事!?)」
「(案外精神的にくる命令をする可能性もあるな……)」
「(あーうー……私も侠を命令しちゃったけど……大丈夫かな?)」
「ほら、さっさと命令しなさいよ、侠。この命令が終われば、こ、この状態も終わるんだから……」
「(……侠の事だからだいたいの命令は察しつくけどな……)」
……一人だけ考えがずれていた人物がいたが、それは気にしないでおこう。あえて他の割り箸をその場にいる人物達に引かせず、あらかじめ命令するように霊夢は言い、侠は──命令。
「じゃあ──7番の人に王様の権限を譲渡するという事で」
『…………え(は)?』
「だろうと思ったぞ」
静雅は予想通りという反応の言葉を言ったが、その他の人物達は能の処理が追いつかなかった。
──命令する権利を他の人物に譲渡する?
意外すぎた命令に魔理沙は問いかけ、咲夜は感心を通り過ぎて呆れて言う。
「待て待てっ!? お前はそんな命令で良いのか!?」
「本当に無欲過ぎるわよ、あなた……」
「(逆に侠さんの命令がこれで良かったような気がします……)」
「特にしてもらいたい事もないし……だったら他の人に自分を除いた形で。傍観している事にするよ」
妖夢は逆に安心したが、この場にいる人物達は静雅以外気づいていない。今の侠の発言はこれ以上の干渉の被害を防ぐため。逆に自分の命令による中傷を防ぐための命令なのだ。第三者の立ち位置で王様ゲームを傍観するのが目的だ。
……一人だけ、落ち込んでいる人物もいるが。
「(うぅ……少し期待してたんですが……)」
「じゃあもう次の人物が引いていくか」
「7番が実質王様くじだね! だったら私が当てちゃうよ──」
そう諏訪子が言いかけた時――侠とある人物を除いて全員がある事を思い出した。最初の王様ゲームで引いて尚、いきなり王様くじを引き当てたのは誰だったか? そして……侠が引いた事により、実質周回したと言っても良い。逆時計回りで先ほど早苗が引き、侠が引いて前もって命令した。
その結果──
「私が7番ね。じゃあ侠の命令分は貰うわよ?」
「うん。博麗が引くと思った。君が引いたんだから一向に構わないよ」
「ん。ありがと」
──脅威的な勘を備えた博麗の巫女、博麗霊夢が引き当てた。
「……やっぱ霊夢の勘はある意味卑怯だぜ……」
「仕方ないじゃない。たまたま引いた奴が7番だったのよ」
「これじゃあ私達が番号を隠しても霊夢は当ててくるわよね……」
魔理沙の言葉にしれっと返したが、咲夜の溜め息ついた言葉に静雅は反応して霊夢に問い掛ける。
「でも今回の命令は侠は含まれないワケだが……どうするんだ?」
「何で侠を含む前提の命令にしてんのよ……? 安心しなさい。あんたなら大丈夫だと思うから」
「オレ前提の命令なのか!?」
「多分、あんたにとって得する事だと思うわよ?」
「一向に続けたまえ(キリッ)」
「変わり身早いですね静雅さん……」
静雅の態度の翻す反応に妖夢は少し呆れたような反応を示した。
もうほとんど霊夢の勘で当たるようなものだが……侠と霊夢以外の人物達は まだくじを引いていないので早苗達は周りの人物達の行動を促す事にした。
「とりあえず私達も早く引く事にしましょう!」
「そうだな……もしかしたら霊夢の勘が外れる事もあるかもしれないからな」
「じゃ、最後だしさっさと引いちゃおう!」
そうして各々引き始めた……。
「全員が引き終わりましたが……霊夢さんは最後にどのような御命令を?」
王様を譲渡した侠以外の人物は早苗に促され霊夢に視線を。
視線を気にする様子はない霊夢は気楽そうに発言。
「この宴会が終わってそれぞれ帰る時に、1番が6番を……お姫様抱っこっていうの? それで自宅まで」
「オレ得イベントキタ──────! 霊夢イヤッホォーイ!」
「……案の定、あんたは騒がしくなったわね……」
予想通りの静雅に霊夢はやっぱり、と呟いた。
──そして……1番は静雅に確定している。6番は誰に当たったとかいうと──
「…………私!?」
「え!? 咲夜さんに当たったのですか!?」
同じ紅魔館の従者でもある、十六夜咲夜が指名された。隣にいた妖夢は驚愕の声をあげ、命令が命令なので咲夜の頬は赤く染まる。
しかし、命令した霊夢自身が少し意外そうに言った。
「あら? 私としたら魔理沙が当たるようにしたんだけど……外れたようね」
「私狙いだったのかよ!?」
「そりゃそうよ……私をこんな状態にさせたんだもの……ま、当たらなかったけどね」
「当たっていたらまた私の黒歴史が増えるところだったぜ……」
「(私は侠君とこんな状態を提供してくれた魔理沙さんに感謝ですけどね♪)」
最後の命令を終えて、侠の腕に密着から離れた霊夢だったが……まだ早苗は離れていないのを見て、怒りを含めた声で行動を促そうとする。
「早苗! あんたもさっさと離れる!」
「う……は、はい……わかりました……」
名残惜しそうな表情をしながらも、早苗は霊夢の言う通りに侠と密着をやめて離れた。
そして、ゲームが終わったのを確認した神奈子は皆の行動を促そうと発言。
「まだ料理と酒は残っている。後は各自飲んで騒げ!」
「(……後は早苗が酔いつぶれるのを待つだけだね!)」
本来の目的を知るのは守谷神社を人々しか知らない。それ以外の人物達は各々の事を。
「じゃあ残っている料理は食べちゃおう。せっかくの小宴会なんだし」
「そういえば侠って結構食べるわよね……」
「静雅! どちらが酒に強いか勝負だぜ!」
「オレのボルテージが上がっている時に勝負か……いいだろう! その勝負受けてたつ!」
「咲夜さん、こちらの料理お食べになりますか?」
「……え、えぇ……お願いするわ(帰り本当にどうすればいいの……!?)」
それぞれ違う反応をしながら……早苗は隣にいる侠を見ながら思う。
「(諏訪子様の言う通り……後はお酒の力を借ります! その後はきっと……)」
そう決意して、彼女はお酒を喉に通した……。
小宴会は続き、それぞれの違う反応をしていた。
静雅と魔理沙はというと──
「よし……能力を使わず魔理沙に勝ったヒャッハー!」
「Zzz……」
気分が高揚している静雅に、酔いつぶれて眠っている魔理沙。
そして妖夢と咲夜。
「──幽々子様が定期的に悪戯するわけですが……どのようにしたらされなくなると思いますか?」
「……耐え忍ぶしかないんじゃないかしら?」
少し酔っている妖夢の愚痴に付き合っている咲夜。
そして……早苗、侠、霊夢はというと──
「侠君との距離がかなり近いです~♪」
「東風谷……距離が近いのは君が引っ付いているからだと思う……」
「何で命令でもないのにあんたは侠にくっついてんのよっ!」
もう完全に酔っている早苗。彼女は酔いにより羞恥を感じている事はなく、侠の腕にしがみついており、霊夢が彼女を侠から引き離そうとするが離れそうにもない。
そして……二柱の狙い通りの言葉を侠は言った。
「八坂さん、洩矢さん……霧雨みたく東風谷も酔いつぶれそうなので寝かしてくれませんか?」
「あぁ。そうしてくれると助かる。だが……悪いが早苗を連れていって介抱してくれないか?」
「早苗はあまりお酒は強くないからね~……一応聞くけど早苗の部屋わかるよね? この時のためにもうすでに布団を敷いているから!」
「こういう事は予想通りだったんですね……わかりました。部屋まで連れていきます。東風谷、悪いけど立って」
疑わずに侠は了承し、肩を貸すように早苗を立たせた。
「東風谷、部屋で寝よう」
「はい~わかりました~♪」
「……ここまで酔うなら飲まなきゃ良いのに……まぁ、過ぎ去った事はしょうがないか」
呟くように言っていたが、その呟きは誰にも聞こえないで侠と早苗は部屋から出て行った。
無論、霊夢は侠の事を気にかけたのだが──
「……私もついていった方が良いような──」
「そういえば霊夢は風呂云々で早苗と同様に恥ずかしがって話をそらしていたな?」
「前博麗神社にお風呂の事で恥ずかしがってなかったのに……絶対その後何かあったね!」
「うぇ!? な、無いわよそんな事!?」
──当然、二柱が引き止めるのも忘れない。
「……本当に敷いてある……まぁ、それならちょうど良いか」
侠は早苗を布団に寝かせ、これからどうするか考える。
「(……ご先祖様には悪かったけど、お酒は飲めなかったね……この際自分も飲んでみたかったけど、静雅や霊夢達は飲むのを止めてくるし……飲んだとしても眠るだけなのに?)
……世の中知らない方が良い事柄もある内の一つである。
「時間もまだあるし、戻ろう」
そう言って立ち上がろとした時──寝かけていた早苗に侠は左腕を掴まれた。いや、実際起きていたのだが(ただし本当に酔っている)。
「帰っちゃ、嫌です……!」
早苗がそう言った瞬間──侠は急な事だった所為か、対応出来ずに腕を引き込まれた。その結果体も動き──侠は早苗に覆い被さる事になった。それに加えて腰をホールドされるおまけ付きである。
「ちょっ!? 東風谷!? 離して!」
「侠君の体暖かいです……ずっとこのままでいたいくらいです……」
「暖かさを求めているなら掛け布団があるから! 自分布団じゃないから!」
「人肌の暖かさが良いんです~……」
「会話が成り立っているなら離してくれないかな!?」
「やぁです!」
侠が訴えるものの早苗は拒否して離そうとしない。むしろ力を強くしていっている。
「(この状況はダメだって!? 東風谷のが自分の胸板に当たって、自分が襲っているように見える! この状況をどうすれば──)」
彼は考えを巡らせていたが──唐突に驚いた様子に変わった。おそらく、彼の体にいる初代龍神から何か干渉があったのかもしれない。
「(……そんな事が出来るのが驚きでしが……この際、その事を気にしてもしょうがないですね……! この際、自分の体が元に戻れれば何でも良いです!)」
侠自身は乗り気じゃなかったが、腹をくくったかのようにしながら行動に移した……。
さて、この後の侠はどうするでしょうか……?
ではまた。