三人称視点。
では本編どうぞ。
幽霊が集まる、冥界にある和式の大きな建物があるという──白玉楼。
その建物の庭で剣を振るい、己を高めて汗を流している半身半霊──魂魄妖夢がいた。
「(外来人でありながら、侠さんはどんどん強くなっていく……! 私も負けていられません!)」
そして一時的に剣を振るうのをやめ、目を閉じてイメージトレーニングをする。自分の持てる技術で勝てるかどうか。相手はもちろん、同じ剣の使い手でもある侠。
「(侠さんは相手の行動を分析する。それに対してどのように攻めるか──)」
『だ~れだ?』
いきなり妖夢の視界が黒く染まる。気配を感じられなかったので一瞬彼女は驚いたが、冷静に頭を働かせて考える妖夢。
「(……普通に声色から考えて幽々子様ですよね……でも、手はこんな大きかったでしょうか……?)」
疑問を覚えた彼女だったが、とりあえず思った事を言う事に。
「……幽々子様? おふざけはそれぐらいにしてください」
「あら? 残念──」
それと同時に妖夢の視界が光に満ちていく。振り返りながら妖夢は言葉を繋げようと──
『……やぁ。魂魄』
「…………みょん!?」
「正解は声は私、手は侠でした~♪ まだまだ修行不足ね、妖夢♪」
確定した矢先、目の前にいたのは何時の間にか白玉楼にいた侠。その背後から出てくる主、西行寺幽々子。
急な人物の出現に無論、妖夢は誰もが見てわかるように困惑して侠に問い掛ける。
「ど、どうして侠さんが白玉楼にいるんですか!? 気配など全然しませんでしたのに!?」
「まぁ、移動や気配云々は縁側でこちらを見て笑ってる静雅のおかげ(?)なんだけど……ここに来たのはちょっとしたお誘いなんだけどね」
「お誘い……ですか?」
一呼吸を入れ、本題を話す侠。
「今のところ自分や博麗、紅魔館従者や霧雨が参加する守矢神社での宴会のお誘い。それで魂魄もどうかなって」
「そ、そうなのですか? でも……せっかくのお誘いなんですが、幽々子様の夕食を作らないといけないので──」
「……その点なら大丈夫だよ。魂魄が修行中の時ゆゆさんにも話して……『魂魄への悪戯に協力してくれたらいい』的な事を言われてね……。せっかくここまで来たんだし、仕方なくやる事に……ゴメンね? かなり驚いていたみたいだし……」
「いえいえっ!? こんな事で驚いてしまう私が悪いんです! 侠さんは悪くありませんっ!」
「いや、明らかに自分が悪いと思うけど……」
お互いに謝っているのを繰り返していたところ、幽々子が会話に入り込む。
「そういう話はもう終わりにしなさい。それに妖夢、私は紫の家で食べてくるから楽しんでいらっしゃい」←そういう話の原因
「は、はい……ありがとうございます。幽々子様」
「でも流石に……体の汗を流してから行きなさいよ?」
妖夢は言われて気づいた。汗をかいている──気になる異性の前で。
「──っ!? きょ、侠さんっ! 静雅さんもそうですが、少しお時間をください! なるべく早く済ませるのでっ!」
「あ、うん。時間はまだ余裕があるからね」
侠が言ったのと同時に、汗を流し着替えてくるため妖夢は浴場へと向かった……。
妖夢の身支度が終え、紅魔館で待っていた霊夢達の場所まで静雅の能力で向かい、お互いに顔を確認が終わったので彼の能力で移動。守矢神社に着き侠は神社に呼び掛けた。
「東風谷ー? 来たけど大丈夫ー?」
『はいーっ! ちょっと待っててくださいーっ!』
『予想より随分来るのが早いな……』
『ちゃんと約束を守ってて良いんじゃない? さて、私達も出迎えよう』
侠が声を掛けるとそれぞれの反応が返って来た。
数十秒待つと正面の扉が空き、青白の巫女服の上にカエルがプリントされているエプロンをしている早苗が出迎えた。残りの二人──いや、二柱の神奈子と諏訪子はいつも通りの服装で出迎えた。
二柱は侠の連れて来た人物を見てそれぞれの反応を。
「……薄々魔理沙は来るんじゃないかと思っていたが……」
「まさか紅魔館のメイドと白玉楼の庭師が来たとはね~。主は大丈夫なの?」
「お嬢様は許可をくださったので」
「幽々子様も今回は紫様のご自宅で食事をする事になったので、私も大丈夫です。本日のお誘い、ありがとうございます」
従者の二人は言葉を返す。
今の早苗を見てか、とある疑問を持った魔理沙は念の為問い掛けた。
「宴会の料理は全部早苗がやってるのか? 大変じゃないか?」
「大変ですけど、先週は風邪を引いてしまってその分できませんでしたし、ここで侠君に改めて私の女子力を知って貰おうかと!」
「いやいや、八坂さん達から聞いて女子力はあるって知っているから……」
侠は少し呆れながらも、霊夢は侠に行動を促すように言う。
「なんだかんだ大丈夫そうね。侠、私達はゆっくり待ちましょ」
「あ、うん。でも……いいのかな? 手伝わなくて?」
侠がその言葉を言うのを狙っていたかのように、目を光らせた諏訪子は発言しようとしたのだが──
「じゃあ悪いけどきょ──」
「なら私、手伝いましょうか? 何か家事していないと落ち着かないのよ」
「私もそうですね……普段幽々子様に家事を頼まれてこの時間帯、動いていますから……咲夜さんと同じく、私も出来る事がありましたら手伝いますよ?」
「お前さん達それはもう職業病だろ……」
静雅は冷静にツッコミを──咲夜と妖夢にいれる。普段この二人は主のために忙しなく働いているので、待っていたら落ち着かないのだろう。
守矢神社の三人は驚いたような表情を見せたが、それに気づかず侠は安堵したかのように二人に話し掛けた。
「十六夜と魂魄が手伝うのなら男の自分が手伝うのは野暮だね。二人なら安心だし、任せてもいいかな?」
「別に構わないわ」
「はいっ! 任せてください!」
侠の言葉に頷く二人。その様子を見てなのか、少し慌てるように静雅にも話し掛ける諏訪子。
「お、男で野暮って事はないんじゃない!? 静雅だっているじゃん!」
「オレに料理を任せるとゲロまずになるぞ?」
「ゲロまずって一体何だぜ!?」
聞き覚えのない単語に魔理沙は驚きを隠せない。彼女が聞いたこともない単語である分仕方ない事かもしれないが。
その静雅特有の単語を疲れたような感じの説明で侠は説明する。
「静雅は手先は器用なんだけどさ……外見は本当芸術的で美味しそうな感じに見えてゲロまずいんだよ。外見だけを重視して材料を選ぶ所為で味がね……」
「料理は見て楽しむものだろ?」
「防腐剤を仕込めばね。でも本来そういう物は仕込まず食べるものだから」
「食べ物の無駄遣いよそれ……」
侠の説明に呆れたような表情をした霊夢だったが……守矢神社の神様達はというと。
「(どうしましょう諏訪子様、神奈子様!? 侠君と一緒に作る計画が出来なくなってしまいました!?」
「(侠が連れて来た人物が伏兵だったとは……しかも妖夢は侠に好感を持っている……さり気なく好感度を上げるなんて恐ろしい子!)」
「(とりあえずその計画は置いて、後は食事時にゆっくりとすればいいだろ?)」
三人は会話をし終え、改めて手伝いを名乗り出た二人に早苗はお礼を言う。
「じゃ、じゃあお願いします。咲夜さん、妖夢さん」
「こちらこそ」
「それでは早苗さん、私達はどうすればいいですか?」
「では、こちらに着いて来てください……」
早苗の誘導に二人は着いていく。向かった先は台所だろう。
「じゃあ私は料理が出来るまでゆっくり待ってるわ」
「咲夜と妖夢がいれば安心だぜ。三人に任せて適当に喋ってようぜ」
それを見て霊夢と魔理沙は遠慮なしに神社の中に入っていった。どうやら彼女達は手伝うつもりは無いらしい。
侠も神奈子と諏訪子に会釈して中に入る。静雅も中に入ろうとしたが、諏訪子に呼び止められた。
「あ、静雅。ちょっと良い?」
「? 祟り神様が何か用か?」
「えっとね──」
彼女は被っている帽子の中から……ペンと色紙を取り出して──
「──せっかく人気モデルが目の前にいるんだから、サイン頂戴!」
「……まさか幻想郷でサインを要求してくるとは思わなかったぞ……まぁ、別に構わないが」
「やったー! ありがとー♪」
「(やれやれ……諏訪子はなんだかんだ静雅の出ている番組は欠かさず見てたからな。幻想郷では忘れがちだが本来有名人の静雅。本当はこの反応が正しいんだろうな……)」
サインを書いて貰っている諏訪子を見て、神奈子はそう思った……。
特にゆっくり過ごすつもりです。
ではまた。