幻想世界に誘われて【完結】   作:鷹崎亜魅夜

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 前回の話で察した方はいるかもしれませんが。
 三人称視点。
 ではどうぞ。


『幻想裁判』

「──ふーん、そんな感じなのか……」

 

 本堂静雅は紅魔館にある図書館である本の類いを読みあさっていた。手に本を持っては凝視して感心するように、事前にある情報を確認するために。

 

 そこにおそらく、紅魔館での夕食が出来た事を伝えるために来たのだろう。小悪魔は静雅の近くに来たのだが──周りに置かれている本の多さに驚愕した。

 

「静雅さーん? おゆはんが出来ました──こぁっ!? どうしたんですかこの本の数々!?」

 

「あぁ、気にしないでくれ。ちょっくら気になる情報があってな。それの類いの本を能力でかき集めて熟読していたところだ」

 

「は、はぁ……そうなのですか?」

 

「そうなんだ。じゃ休憩がてら、おゆはんでも食いに行こうかね」

 

 静雅は読んでいた本にしおりを挟み、能力でその場から消えた。小悪魔は彼の読んでいた本に興味を持ち、パラパラと捲って読んでみる。

 

「えっと──【三途の川】に【裁判所】ですか? どうしてこの類いの本を……?」

 

 その日の夜、小悪魔は真意を確かめる意味合いで静雅に尋ねてみたものの、はぐらかされてしまった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日。静雅は紅魔館の本を調べた情報を頭に入れ、とある場所に来ていた。その場所こそが──

 

「……三途の川も幻想郷にあるとは知らなかったな……。普通、死人が来るんだろうが……渡る際には能力でそれは無効に出来るから問題ない。例え元が生者であっても……」

 

 ──三途の川に来ていた。彼はとある話を聞いて以来、ある人物に一言二言言いたくてたまらなかった。二言以上言うかもしれないが。

 

 彼は今の現状を確認するように呟く。

 

「……何か妖夢の半霊みたいなのが溜まっていて、ナイスバディの和服女性が昼寝しているとはどういう事だ……?」

 

「Zzz……」

 

 溜息をつきながら静雅は疑問しか思わない。静雅が視線を向けている昼寝をしている女性──小野塚小町は彼の存在に気づかず寝続けていた。彼女は船頭の渡し守なのだが……現在、絶賛職務怠慢中である。彼女が仕事を続けない限り、霊魂は溜まる一方だ。

 

「そりゃ、サボりたいという気持ちはわからなくともないが……まぁ、いいや。一先ずはこの霊みたいのを何とかしようかね──」

 

 そう言いながら、岸辺に木製に見える船を見つけ──彼は行動に移した……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『──最近、善行をしている人物がいない気がしますね……』

 

 三途の川の先にある──裁判所。そこの法廷で裁判長席に座る、背丈は小さいがそれを補う大きな帽子。肩から袖までは白い服の紺色ベースの服を着ている楽園の裁判長──四季映姫・ヤマザナドゥ。この【ヤマザナドゥ】は幻想郷の地名と役職である【閻魔】を示している。

 

 彼女はたまに幻想郷に降りては善行を積んでいない人物に、長時間説教をする人物でもある。それも含め、小さな悪行も見かけた際にも説教は欠かさず、数時間はくだらない。尤も、その人物における善悪の所業を映し出すという鏡で【浄玻璃の鏡】という代物もあるが。

 

「……そろそろ、小町が霊魂を運んでくると思いますが……来なかった場合は、説教をしなければなりませんね──」

 

『はーい、一列に並べよー? この先がお前さん達の運命を決める裁判所だからなー? キチンと言いつけは守るようにー』

 

 映姫が呟いていたとき──扉の先で男の声がした。その時点で彼女はおかしいと思った。彼女が普段相手している渡し守の死神の声ではない。すぐさま彼女は扉の先にいる男に声を掛けた。

 

「貴方は誰ですか!? 小町はどうしたのです!?」

 

『? 小町? もしかして寝ていた奴の名前か?』

 

「(……後でたっぷり説教ですね)貴方は他の渡し守ですか!? 一先ず、私の前に出てきてください!」

 

『……了解した』

 

 彼女の声に応えて、扉が開けられてその人物が明らかになる。その男は着崩した執事服、左目の近くには白い二本のヘアピンをした──【心お気楽荒人神】である本堂静雅が彼女の視界に入った。

 

 彼の姿を見て映姫は反応が代わり、少し怒りを含めた声で静雅に牽制し始めた。

 

「! 貴方は八雲紫が連れてきた本堂静雅!? ここは生者が来る場所ではないのですよ!? 貴方の能力があるとはいえ、三途の川を越えてくるなど──」

 

「へぇ……知っているみたいだな、オレの事と能力まで。何だ? 一種のストーカーか?」

 

「そういうのではありませんっ! あの八雲紫が連れてきた、只者ではない人物の一人である貴方は重点的に見ています!」

 

「……こう言っちゃなんだが、何故オレだけなんだ? 他の人物もいるだろうに」

 

 彼がそう問いかけた瞬間……彼女の口が止まった。そして……弱い声で、言葉を続ける。

 

「……辰上侠の事ですか。貴方の親友でもある人物。彼の情報は、ここからでは手に入らないんです。偶然、小町が持ってきた新聞で彼が異変解決者に数えられているのは知っています。何故彼の情報を知る事が出来ないのか……近日、彼を見極める為に博麗神社に向かう予定ですが──」

 

「──出来るはずがないだろ。見極めるのはやめておいた方が無難だ」

 

 軽口だった彼の言葉が重くなった。当然の変わりように疑問を持った映姫だが──冷静に、彼を追求し始める。

 

「……貴方がやめろと言っても、私は貴方に指図される筋合いはありません。彼がこの幻想郷にふさわしいかどうか私の目で確かめる必要が──」

 

「いちいち五月蠅いな。初代龍神の意思が取り憑いている侠に言えるはずないだろ」

 

「──龍神!? それはまさか──ティアー・ドラゴニル・アウセレーゼ様の事ですか!? 何故彼がこの幻想郷にいるんですか!? あの方は龍界にいるはずなのでは……!?」

 

 初代龍神という言葉で映姫の反応が変わった。実は彼女がまだ閻魔でない頃、初代龍神であるティアーと触れ合っていた人物の一人なのだが──彼女が驚愕している中、静雅は話を続ける。

 

「さぁな。だが──初代龍神のお墨付きの人物を、見極める必要があるのか? ましてや、初代龍神の存在を否定出来ると思っているのか? 初代龍神のおかげで──この幻想郷が創られた。その創造神が子孫に諸事情で憑りついている。侠を見極める事はすなわち、初代龍神も見極めると言う事。侠がどうあれ──幻想郷を創ったという龍神が取り憑いている子孫を【黒】と判断できないよなぁ? 裁判長のお前さんより、初代龍神の言葉の方が絶対。だから見極める事なんざ出来ねぇよ。侠の事は気にすることは無い」

 

「……どうして……ティアー様がこの幻想郷に……!?」

 

「(……まぁ、どっちみち侠の【龍神補正】だかで見極める事は出来ないと思うがな……)」

 

 珍しく動揺を見せている映姫だったが──静雅はそれに関わらず、本題を話し始める。

 

「ところで……オレは裁判長様に言いたいことがたくさんある。お前さんはよく説教する時に現時点での天国行きだが地獄行きだが告げるらしいが……それは本当に正しいと思ってやっていることなのか?」

 

「……言葉の真意はわかりませんが、事前に天国と伝えた方は、今まで以上に善行をするでしょう。しかし、地獄行きは違います。誰も皆、地獄よりは天国に行きたいのは当然なことです。私としても、地獄に行かせるには──」

 

 

 

 

 

 

 

 

「──それは違うだろっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 バンッ……と、静雅は近くにあった机を叩きながら、威嚇するように映姫を睨みつけながら彼は言う。一瞬だが、彼女の体が震えたが彼は話を続ける。

 

「地獄に行かせたくないからネタバレをする!? それは違うだろうがっ! 人に言い、間違いを正したいのはわかる。だが──人生に関わる間違いは自分で気づかなきゃダメなんだよ! 口答で、そいつの人生を正せたら苦労はしない! むしろ閻魔様である人物がそういう事をネタバレしても良いと思っているのか!? 幻想郷の一部の実力者は言われても気にしないかもしれない。ちょっとは気に掛けるかもしれない。だけどな──繊細な奴は罪の意識が強すぎて感じるんだよっ! それくらい気を使え! 閻魔の言った言葉で追い詰めることが出来る事をお前さんは知らないのか!?」

 

「なっ……!? それとは話が違うでしょう!? 閻魔たる者、幻想郷に住む住民を思ってのことです! 私としても、多くの人物を地獄に行かせるのは苦に思います! そういう人物は、あえてそういう事を伝え、善行を積んで貰いたいのです! その人物が抱えている【悪行】を昇華してもらいたいには変わりはありません! 貴方が知った風に言わないでくださ──」

 

「じゃあ、地獄行きと言われた極悪人がいたとして……今更、善行を積むと思うか? オレは思わないね。本当にねじ曲がっている奴は開き直る。『地獄行きは確定しているから思う存分悪行をやるか』と思って行動する人物はいないとは言い切れない。死後の事なんざ死んでからじゃないとわからない。世の中、人はそう簡単に変われないないもんなんだよ。お前さんの発言は人物にはリスクが伴っている。閻魔様の言葉を聞いて少なからず、改心する奴はいるかもしれない。だがそれと同時に──罪意識を抱えて悩む奴、閻魔の言われた事を苦にしてさっさといなくなる人物、大して気にしない奴、開き直る奴とかそういう多くのデメリットしか生まないんだよ。何で閻魔と関係ないオレが言っているんだよ? それともあれか? 自分がそういう事されていないから分からないのか? お前さんの行動を元にした結果、天国行きか地獄行きどっちなんだ閻魔様──いや、お前さんの能力だと自分の行動は【白】と【黒】どっちなんだ? これだったらオレが閻魔をやった方が良いね」

 

「…………!?」

 

 映姫は少なくとも本堂静雅の言葉の数々に驚いている。自分の行動をここまで客観的に言う人物は誰もいなかった。それはもちろん、立場の問題もあったが……この男はそれを気にしない。自分の思ったままに、客観的に分析して自分に意見をしている。

 

 だが──映姫はあることを思い出し、思いとどまる。

 

「(彼は何かの原因で種族が変わったのもありますが──人の心を荒らすという【荒人神】! 流されてはいけません!)」

 

 そう思い、体勢を整えて映姫は彼にあることを尋ねながら【浄玻璃の鏡】の鏡の焦点を静雅に合わせる。

 

「……そういう事を言うならば、それ相応の善行を積んでいると言う事ですね? 今まで、貴方の人生をこの【浄玻璃の鏡】で見ていなかったですが……見るとしましょう」

 

「……一つ言っておく」

 

 映姫の言葉に、注意するように言う静雅。彼女は彼に詳細を求める。

 

「……何でしょうか?」

 

「悪行はしている。ただ──それを帳消しにするぐらいの善行はやっているつもりだ」

 

「…………」

 

 彼の言葉を耳に入れ、【浄玻璃の鏡】で静雅の人生を探る。

 

 そして──見終わった彼女はというと。

 

「(──!? 確かに、外界ではお酒の年齢が決められているというのもありますが……大きな悪行が無い!? それに比べて、それを帳消しに出来る多数の善行が……!?)」

 

 悪行といっても、小さな、数えられるか分からないぐらいの悪行だ。人とのコミュニケーションの際の冗談。もちろん、生者がこの裁判所に能力を使って来るというのも悪行の一部だが。

 

 数え切れない善行の中で、一番彼女が驚いたことが──マイナスな人生を下手したら歩もうとしていた人物の道を正している事だ。言葉だけじゃなく、伝えたいことが心まで伝わっている。とある吸血鬼だったり、月の兎だったり──彼の親友だったり。

 

 能力で判断したとしても──白。

 

 中でも、月の兎──鈴仙への説教はしたことがある映姫。彼女は静雅の言う通り、彼女が言ったことをにとらわれていた。しかし、彼の言葉で──善行を積もうと行動している。本来、彼女の言い分が間違っていなければ、閻魔である彼女の言葉で善行を積ませなくてはいけないのだ。それなのに──幻想郷に来て間もない彼が、鈴仙の道を正していた。

 

 彼女が驚愕している中で、彼は誇るように言う。

 

「どうだー? それなりの善行はしているだろー? オレってば本当にマジ善人。その様子だとオレのギャップに戸惑っているところだな。じゃ、客観的に見ても閻魔様の意見が間違っていると言えたオレは満足だ。今のところ幻想郷住民の一人として言わせて貰う──お仕事頑張ってくれ」

 

 ある意味、挑発的な言葉と共に彼は能力でその場から消えた。一瞬その言葉にムッときた映姫だが……頭の中に、とある考えが浮かぶ。

 

「(……彼が幻想郷にいるのならば──)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日の昼。三途の川の船はキチンと戻し、本堂静雅は人里で適当に買い物し、能力で紅魔館の図書館に帰還したとき──やけに疲れているパチュリーと小悪魔を見つける。疑問に思った彼は問いかけることに。

 

「パッチェさんに小悪魔はどうしたんだ? ノイローゼか?」

 

「……静雅、変な呼び方はやめなさいって言っているでしょうに──それはともかく。あなたは裁判長に目を付けられる行動をしたの?」

 

「……閻魔様か? 確かに昨日喧嘩を売りにいったが」

 

「それが原因ね。何で私達までとばっちりを貰っているのよ……?」

 

 彼女の言葉に、静雅はあることを尋ね始める。

 

「……は? 何だ? 閻魔様が来ているのか──」

 

 

 

 

 

『ようやく来ましたか。本堂静雅さん』

 

 

 

 

 

 図書館の扉が開けられる。静雅達は振り返ると──尺を持ちながら静雅に近づいていく四季映姫・ヤマザナドゥ。後方には疲れた表情でレミリアと咲夜も着いてきているが。

 

 静雅はその三人に近寄り、まず彼は映姫に尋ねる事に。

 

「……閻魔様が何か用か? それとも前言った事を根に持っているのか?」

 

「持っていないと言ったら嘘になりますが……紅魔館にいる人物から貴方の生活を聞きました」

 

「……聞いてどうした?」

 

「──貴方は自分の生活に堕落しすぎている」

 

 彼女の言葉に、静雅以外の人物は「またか……」と思っているが、彼はそのまま思ったことを意見する。

 

「別に良いじゃないか。オレの人生なんだから」

 

「貴方は自分が与える影響力の自覚が足りないのです。ただでさえ、言動に加えて能力まで影響しうるものです。その能力を悪用しないだけでも十分良い方なのですが……生活に関しても、能力に頼り過ぎている。聞いたところ、掃除する場所が充てられているみたいですが……それでさえも、自身の能力を直接使っては楽をしている。貴方は苦から逃げているのに変わりはないのです」

 

「お前さんはオレの母親か?」

 

「そういう事を言っているんじゃありませんっ!」

 

 少し怒るようにして映姫は、尺を静雅に突きつけながら言う。

 

「善行を積んでいるのは認めます! ただ、その貯金を使うような生活の仕方が良くないと言っているんです! その行動を改めていただけないと──」

 

「だが断るっ!」

 

 彼女が言いかけている途中で彼は能力を使い、逃げた。しばらく彼女達は呆然としていたが──映姫が怒りを隠しきれない。

 

「……貴方という人は……! 人を小馬鹿にしたような態度で──良いでしょう! 貴方の考えを改めて貰うまで、時間が空いたときは説いてあげます!」

 

 彼女はそういうと、紅魔館から出て行った。

 

 そして……レミリアは咲夜に尋ねる。

 

「ねぇ……どうしてあの閻魔は静雅に執着しているのよ……?」

 

「……さすがに私でもわかりませんって……」

 

 誰も、答えを見つけた人物はいなかった……。

 

 

 

 

 




 根本的には彼は善人です。

 ではまた。

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