幻想世界に誘われて【完結】   作:鷹崎亜魅夜

157 / 267
 一話だけですが。
 三人称。
 では本編どうぞ。


六話 『神々の争い』

 文達と別れた静雅達はどんどんと山頂へ近づいていく。途中で襲撃してくる天狗たちは魔理沙と鈴仙が退治しながら。そのことを繰り返し──守谷神社の参道が見えてきた。

 

 静雅は一先ずついたことに一安心したが、向かってくる敵を退治してきた二人はというと。

 

「……まさか同数だと!?」

 

「……この場合、どうしよう?」

 

「だったらもう二人一緒でいいだろ(まぁ、オレの能力で同数にしたんだけどな)。それで、この参道を超えて、社をくぐればようやく守谷神社──」

 

 

 

 

 

『神祭【エクスパンデッド・オンバシラ】!』

 

『神具【洩矢の鉄の輪】!』

 

 

 

 

 

 魔理沙と鈴仙を先導に社をくぐったその時──静雅達にめがけて御柱が、鉄の輪が襲い掛かる!

 

「はっ!? いきなりスペルカード!?」

 

「ちょっと!? 何で急に──」

 

 二人ともダメージを覚悟して目を瞑ったが……痛みがしなく、被弾もしていない。魔理沙と鈴仙は──無事だった。目の前に迫って襲ってきた弾幕が消えている。

 

 そして……魔理沙と鈴仙の背後で焦りながらも、突き出した右手を下げながら安堵に代わっていく声。

 

「あ、危なかった……能力を使わなきゃ魔理沙達に被害が及ぶところだった……」

 

「静雅!? まさか能力で!?」

 

「だ、大丈夫なの静雅は!?」

 

「……いきなりのことでいきなり寿命が縮んだ気がするけどな……そして目の前にいるのが……二柱か」

 

 静雅が向けている視線を魔理沙と鈴仙も見た。

 

 そこにいる人物たちこそ、円状に大きなしめ縄を背負った軍神──八坂神奈子。そして背は小さいが、特徴的な帽子を被っている祟り神──洩矢諏訪子。

 

「驚いたな……まさか不吉な気配がして攻撃したら私達の攻撃が消えるとは……」

 

「それだけじゃないよ神奈子。外界で見たことがある本堂静雅と違って神力を感じる。それに外界では気配から人間だったはず。幻想郷に現れた本堂静雅は偽物かな?」

 

「は……? 静雅が偽物……?」

 

「え……どういう事よそれって!?」

 

 知っているかのような諏訪子の発言に魔理沙と鈴仙は動揺したが、静雅は察しのついたように話を始める。

 

「これはこれは。外界でのオレを知っているようで」

 

「もっとも、目の前にいる君は置いておいてね。私達が幻想入りする前の本堂静雅は人気が出始めていたころだったし。でもこれは確実にこれは言えるよ──本堂静雅は人間。ただの人間が神力を持っていることはありえない。一度早苗に内緒で本堂静雅の通う中学校の通学路らしき道で見たことが私達あるもん」

 

「諏訪子の言う通りだ。本物の本堂静雅はただの人間の人気モデルだけだった。それなのに禍々しい神力を持っていること自体があり得ないんだ」

 

「……何だって!? 静雅が……人間!?」

 

「本当なの静雅!?」

 

 神様二人は外界出身だ。偶然にも隣町に住んでおり、会おうと思えば会える距離だったのだ。途中で語られた諏訪子の【諸事情】とは、人気モデルを直に見に行きたいという子供じみた理由なのだが……その事にある意味心配した神奈子も着いて行ったのだ。

 

 

 

 

 

 そして当時の静雅は神々を滅ぼす神の荒人神ではなく──人間だった。

 

 

 

 

 

 その事実を言われ、静雅は困惑している魔理沙と鈴仙に事情を詳しく説明した。

 

「魔理沙は過去に大雑把に、うどんは知らなかったな……オレは今【荒人神】という神ではあるが、この幻想郷に来たことにより何かが原因で突然変異を起こしたらしいんだ。元はオレはどこにでもいる人間なんだ。何故こんな種族になったのかはわからない。詳しい事情はオレにもわからない。だが、これはオレが把握している事実。嘘は決してついていない。それは信じてくれ」

 

 普段の静雅と違って、真面目な顔で語っている。魔理沙と鈴仙はその表情を過去にも見たことがあるので真実だと確信した。

 

 しかし、二神はというと──否定的な言葉を投げつける。

 

「騙されるな魔理沙に兎妖怪!【突然変異】で人間から神になっただと!? そんなふざけた理由があるかっ!」

 

「しかも現人神? 現人神はあくまで人間の体を媒体にした早苗のような人物を言うんだよっ! 目の前にいる君は完全に神の気配がする! 口から出まかせを言うんじゃないよ!」

 

「……説明するのがいちいちめんどくさいな……まぁ、ここに来た要件だけ言う。それの伴った良識のある行動をとってくれるとありがたい」

 

 そして静雅は本来の来た目的を二柱に告げた。

 

「オレの親友である初代龍神の先祖返り、辰上侠がここに滞在しているはずだ。霊夢からの命令でな。連れてこないとオレがひどい目にあわさせれるんだ。まぁぶっちゃけ能力でそういう事を無しにもできるが……それだけだ。どうやらこれだけ騒ぎになっても出てこないということは今は出かけているか、そこらへんか? とりあえずオレ達は争うつもりは全然ない。そこのところをわかってくれ」

 

 戦意がない事を示し、和平交渉で静雅は済ませたかったが……人生、そんなに甘くないもの。

 

「……できない相談だな。侠自ら博麗神社に行くのはともかく──不確定要素の人物に促されるつもりはない」

 

「それに何? 争うつもりはないって? それは実力者が言うセリフだよ? 見たところ君はそこの二人を利用してここまで来たようだけど……戦っていないでしょ。侵入者には天狗が対処しているはずだしね。そこの二人が言うのならともかく……従う気は全然ないね。むしろ侠は博麗神社より守矢神社に置くべきだよ! 早苗の事も考えてね!」

 

 交渉決裂。二人は侠を渡すつもりはないようだ。

 

 ……この時に実は二柱は早苗の風邪が治る一週間だけの滞在を忘れていていたりするが。

 

 静雅は二柱の返事を聞いて……ため息をつきながらも、次の案に移行させる。

 

「……雛は話せばちゃんと了承してくれたんだけどな……じゃあ弾幕ごっこで負けたら潔く引き下がる。それでいいだろ?」

 

「……良いだろう。そちらは誰が最初にやるんだ? まぁ誰でもいいが……諏訪子、私が最初でいいか?」

 

「いいよ。神奈子だけで片付けられるなら別に──」

 

「──何勘違いしているんだ──」

 

「「「「……(え)は?」」」」

 

 急な意味深な静雅の発言に誰もが注目する。

 

 ……そして、静雅の言ったことは──

 

 

 

 

 

「──お前さん達二人ならオレだけで十分だ。魔理沙や鈴仙の出番はない。二人がかりでかかってこい」

 

 

 

 

 

 ──普通に判断するならば、どう考えても静雅が不利になるような弾幕ごっこの内容だったからだ。

 

 無論、味方である魔理沙と鈴仙も困惑した。言う事が信じられなかったからだ。それでも彼は人差し指を動かして挑発しているが。

 

「なっ!? 静雅!? それは本気で言っているのか!?」

 

「本気だ。魔理沙達は天狗達と戦ってもらっていたからな。この弾幕ごっこはオレだけで十分だ」

 

「信じられない……相手の実力わかっているの!? ここは三人で順番に行った方が良いに決まっているじゃない!」

 

「普通ならな。でもあの二柱の喧嘩腰なのはオレの性質の所為でもあるんだ。それと全く関係ない魔理沙と鈴仙が戦う必要はない。これはオレがすべて引き受ける。それによ──」

 

 そして──静雅は核心のついた言葉で言う。

 

 

 

 

 

「──オレがそんな簡単にやられると思えるか?」

 

 

 

 

 

 静雅の言った言葉。その言葉には不思議と説得力が魔理沙と鈴仙には感じた。

 

「……侠以外に負けた事ないもんな。静雅は」

 

「……能力とかも考えて、負ける姿が思い浮かべないわね……」

 

「だろ? だから大船に乗ったつもりでいろって」

 

 そして魔理沙達と話し終えた静雅は二柱へと振り返り──舐められた発言を受けてか、怒りの表情が読み取られる。

 

「ほぉ……これは大きく出たものだ。それなりのことを受けることは……わかっているんだろうな!」

 

「それで負けても文句は言えないからね。自ら不利な条件を提示したんだから!」

 

 案の定、二人は静雅の挑発に乗った。彼は神々に嫌われやすい性質を利用し、確実に侠を取り返せる選択を選んだのだから。静雅の言葉通りに魔理沙と鈴仙は被害が及ばない場所へと移動。部外者がいなくなったのを神々は確認し、二柱は静雅へと重い弾幕を放ち始めた……。

 

 

 

 

 

 そして――二人がかりでも、静雅に苦戦するのは当然の話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 神々の戦いが始まり……かつて【諏訪大戦】でお互い敵同士だったものが組み、共通の敵で不吉な気配がするといわれている──本堂静雅に各々の弾幕を放つ。

 

 二人は手加減しているつもりはなかった。よく凝らせば弾幕の回避場所がわかるぐらいだが、弾幕ごっこのルールを守り、あくまで密度の濃い弾幕を放った。

 

 まずは小手調べで運動神経はどれくらいあるかどうか調べるつもりだったのだろう。

 

 だが……静雅は何もしない。動かない。

 

「(!? 動かないだと!?)」

 

「(あんなの被弾させてくれって言っているようなものじゃん!?)」

 

 そう思った矢先、残り数メートルというところで静雅は余裕の笑みを浮かべ──

 

 

 

 

 

「おいおい、狙うならちゃんと狙えよ。お前さんたちの目は節穴か?」

 

 

 

 

 

 ──笑っていただけで挑発しただけにも関わらず──二神の放った弾幕が静雅を恐れるように反れた。

 

「何っ!? 弾幕自身が反れた!?」

 

「嘘っ!? 何がどうなってるの!?」

 

「同じ神々としてそんな実力なのかお前さん達は? まぁ──どうでもいいが!」

 

 静雅は多く槍の弾幕を形成し、神奈子達に放つ。普段なら単なる弾幕だが……今の静雅の弾幕には能力が上乗せされており──追尾する!

 

「何だこの弾幕……!? 私達を追いかけている!?」

 

「何なの避けても避けても追いかけて!? こうなったら相殺するしか!」

 

 諏訪子が相殺し始めたと同時に神奈子も弾幕を放ち相殺させる。何とか神奈子達は相殺できたが……実はその気になれば静雅の能力で【壊れない】ということもできたのだが……さすがに最低限は自重し、【対象を追いかける】だけにした。

 

 その様子を見て、静雅はスペルカードを取出し宣言。

 

「神符【戻りゆく軌道線】!」

 

 槍の弾幕と違い、円球状の弾幕を弾幕を放つ。二柱は追いかけてきた弾幕を体験した所為か、警戒して避けるも正面から来た弾幕の回避は成功した。

 

「単なる攻撃スペル……? それで倒せると思わないことだ! 天竜――」

 

「水のスペルだね! じゃあこっちも――土着神――」

 

 攻撃が終わったと思い込み、二人は水系統のスペルを宣言しようとしたが──宣言している途中で二人の背中に弾幕が被弾する。

 

 急な攻撃に二人はよろめき、混乱。

 

「背後から弾幕……だと!?」

 

「しかもこの弾幕……さっきのスペルカードの弾幕だよ!? まさか避けた分だけ戻ってくるスペル!?」

 

「やっぱ、普通はその反応で被弾すべきなんだ。これを初見で避けられる侠は強すぎるんだよまったく……」

 

「侠が避けられる……!?」

 

「うわぁ……どうしてこんなスペル避けられるの……?」

 

「さぁ、まだ背後から弾幕が襲ってくるぞ!」

 

 次々と弾幕が背後から神奈子達に襲い掛かる。それでも神奈子は冷静に諏訪子に話しかけ、スペルカードを構えなおす。

 

「諏訪子! 私は背後の弾幕を対処する! お前はあいつに攻撃を!」

 

「わかったよ!」

 

 二柱は背中合わせになり――それぞれのスペルカードを宣言!

 

「天竜【雨の源泉】!」

 

「土着神【ケロちゃん風雨に負けず】!」

 

 神奈子は流れ込むような水の弾幕で背後から来る弾幕の対処。諏訪子は風雨にも似た弾幕を手元から出現させ、雨のようにして静雅に襲い掛かる。

 

「……別にいいんだけどよ、もっと濃い弾幕でもいいんだぞ?」

 

 今度は静雅は動き、槍を持って踊るような、また槍で弾幕をはじきながら躱していく。今度の静雅は能力を使わずに弾幕の回避をする。

 

「今度は体を動かして躱す……!? さっきの立っているだけの回避は何だったんだ!?」

 

「避けるのがめんどくさい時に使っているだけだ。この弾幕なら能力を使わずに避けられる。魔理沙との弾幕ごっこの成果が生きているな」

 

『ばっ!? そ、そんなの事よりも早くやってくれよ!? 霊夢が来る前に!』

 

『(……魔理沙と弾幕ごっこしてたんだ……)』

 

 躱しながら言ったことが魔理沙の耳に届き、静雅は悩んだ後……新しいスペルカードを取り出そうとする。

 

「そういえば遊んでいる場合じゃなかったな……能力で決着を付けないとして、オレの性質を表した【神様対策】のスペルでも使うか──」

 

 そして気が進まないようだったが……静雅は宣言した。

 

 

 

 

 

「──神槍【ジャベリン・ザ・ロンギヌス】!」

 

 

 

 

 

 宣言し、静雅の空いている左手から……灰色の弾幕でできた、先が分かれている二又の槍の弾幕を生成した。

 

 魔理沙と鈴仙はレミリアの同じような弾幕だと思ったが、二柱の反応が変わった。

 

「神殺し!? まさかそういう系統の神なのか!?」

 

「何なのそれ!? 邪神じゃない!? 神を殺す槍の弾幕って!?」

 

「……せっかくだからオレの性質を生かしたスペルとレミリア嬢のスペルを参考にした結果がこれだ。まぁレミリア嬢は『キリスト教の神を滅ぼすなんて素敵じゃない』と言っていたが……そんなことはどうでもいい。さっさと片付ける!」

 

 そして静雅は振りかぶって──彼の性質を生かした槍の弾幕を二神に投擲!

 

「出し惜しみしている場合じゃないな──【風神様の神徳】!」

 

「そうだね──祟符【ミシャグジさま】!」

 

 二柱は攻撃力の高いスペルカードを宣言し、神々の弾幕が衝突しようとする──

 

 

 

 

 

『秘法【九字刺し】!』

 

『風天【ウインドストライク】!』

 

 

 

 

 

 ──お互いに衝突しあう前に、囲むような色鮮やかな光線の弾幕、そしてその網目に入るように多数の素早い質量のある風の弾幕が上空から放たれる。

 

 五つのスペルカードが衝突しあい――その場から消えていった……。

 

 そのうちの一つのスペルカードに心当たりがあり、驚いたような様子を見せる二柱。

 

「『秘法【九字刺し】』のスペルカード……もしかして早苗かっ!?」

 

「それで知らない風の弾幕……ってもしかして全体的に緑色をしているのが侠!?」

 

『よかったです……まだ間に合っていたようで……』

 

 上空から二人が降りてきて、一人は驚いている二柱に近づき、安堵した表情を見せる──守矢神社の巫女の東風谷早苗。

 

 そしてもう一人……早苗に似た髪をしていた人物の姿が元の黒い目、赤みのかかった黒髪戻り、静雅に近づいて話しかける人物。

 

『……自分は静雅が神様だなんてさっき紅魔館で初めて知ったんだけど……』

 

「……そういえば言ってなかったな。オレ的には緑色に染まってたなんて知らなかったが──もしかして【力】を手に入れた姿だったのか? 侠?」

 

「…………まぁ、そうなるね」

 

 静雅達が探していた人物が目の前にいる。それを確認した魔理沙と鈴仙は侠達の元へと駆け寄り、話しかける。

 

「侠……さっきの姿について問いかけたいがそれはまた後にして……どこにいたんだぜ?」

 

「寺子屋を出る前に東風谷に迎えられてね。今日で自分は博麗神社に帰る前に、紅魔館にいるであろう静雅に会いに行ったんだけど……すれ違ったみたいだね。十六夜から静雅達は妖怪の山の守矢神社に向かったって言っていたからすぐに来たんだよ。そのとき、静雅が【神々を滅ぼす】という神様だっていうことは初めて聞いたけどね……途中、何故か人里にいた犬走を射命丸に渡してきて」

 

「(あの白浪天狗の事ね……)親友であるあなたが何で静雅の種族を知らなかったのよ……?」

 

「だって静雅は自分と同じ外界だし、静雅の家系は神様云々の家系じゃなかったし。まさか何かの原因による突然変異で神様になったなんて信じられなかったよ」

 

「侠には能力は教えたが、種族については教えてなかったな……だがとりあえず、誤解は解けそうだ」

 

 その場にいた人物達で、静雅の素性について話し合いを始めた……。

 

 

 

 

 




 まだ、この章は続きます。数話は。

 ではまた。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。