幻想世界に誘われて【完結】   作:鷹崎亜魅夜

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 椛ェ……。
 三人称。
 では本編どうぞ。


五話 『進んだその先で』

 紅魔館での深刻さを知った侠達より少し前。静雅達はというと──

 

『──まったく、何を考えているんだぜ……! 能力が万能だからって、そのまま厄の塊だった雛に近づこうとしたんだぜ!?』

 

『あなたはいつも行動が急すぎるのよ! 事前にそういう事を説明してからそういう事をしなさい! かなり心配したじゃないのっ!』

 

「……すいやせん」

 

 ──シャツの後ろの襟元を二人に引っ張られながら静雅は説教を受けていた。改めて【負担をなくす】事にしているので引っ張られても首は締まっていないが……その様子は滑稽にも見えた。

 

 彼は首を後ろに向け、二人に頼むように言う。

 

「なぁ……そろそろ離してくれないか? 能力で負担をなくしているものの、この姿でいるのはお互いに恥ずいだろ?」

 

「……わかったぜ。次からは気を付けろよ?」

 

「はぁ……本当に静雅は行動が読めないんだから……」

 

 二人の同意を得られたので静雅は解放され、背伸びをした。

 

「はぁ~……ある意味疲れた――お? あれは……河か?」

 

 背伸びしながら歩いていたとき、森を抜けて河の風景が広がった。心安らぐような川のせせらぎが聞こえてくる。

 

 その光景を見て、魔理沙は呟くように言った。

 

「河に出てきたとなると……ここら辺は河童がいるな」

 

「河童? それって幻想郷のエンジニアの河童か?」

 

「そうだぜ。基本、河童は戦闘的じゃないからいいが──お、ちょうど河童のにとりがいるな。おーい、にとりーっ!」

 

 魔理沙の声と視線に静雅と鈴仙が同じ方向を見る。にとりと呼ばれた河童は……黒い色の【携帯電話】をいじくっている。

 

 その携帯電話をみて静雅は気づいた。

 

「あの携帯……侠のじゃないかっ!」

 

「あ、そうなんだ……」

 

『ひゅいっ!? 人間──何だ、魔理沙か……って知らない盟友もいる!?』

 

 魔理沙の言葉ににとりは反応し、相手を確認して冷静になったが……知らない人物もいたのを確認すると再び驚く。

 

 とりあえず三人はにとりへと近づき、魔理沙は彼女に話し始めた。

 

「よっ。単刀直入に聞くが、侠は見なかったか?」

 

「侠? 龍神様の先祖返りの? だったら今日は見ていないよ。それに魔理沙……妖怪の山は例外は除いて人間禁制なのに……」

 

「そこは気にすることじゃないぜ☆」

 

「……まぁ、しょうがないとして……永遠亭の兎妖怪と……人間?」

 

 にとりは鈴仙の存在は確認したが、見たことない人物……静雅に問いかけた。

 

「いや、オレは人間じゃない。強いて言うなら神様だ」

 

「あ、盟友じゃないんだ……まぁ、一応自己紹介しておこうかな。私は河城にとり」

 

「オレは本堂静雅だ。もしかしたら新聞でもう知っているかもな」

 

「本堂静雅──あぁ! 日食異変の犯人っ! それで確か文さんの新聞で侠とは外界の親友だっていう!」

 

「察しの通りだ」

 

「……それじゃあ外界の機械を持ってたりする?」

 

「今の手持ちでは持っていないなぁ……あったとしても携帯か音楽再生機器だけだし」

 

「そっか……」

 

 静雅の返事に少し落胆したにとりだったが、話題を変えて話しかける。

 

「そういえば侠について話していたけど……どうかしたの?」

 

「ちょっくら霊夢から守矢神社から奪還してこいと言われてな。そこで俺達が駆り出されたわけだ」

 

「……霊夢に? 別に守矢神社は侠の事を監禁しているわけじゃないだよね? 確かに元々居候先は博麗神社と新聞に書いてあったけど……守矢神社に乗り換えたんじゃないの?」

 

「え? 乗り換えた?」

 

 にとりの急な話題に鈴仙が疑問の声をあげ、それににとりは答えようとするが──

 

「今朝、文さんの新聞に──」

 

 

 

 

 

『また魔理沙さんですかっ!? そして兎妖怪は良いとして――そこのだらしない服装をした男──』

 

 

 

 

 

「ト○ップカードオープン!【亜空間物○転送装置】発動!」

 

『――の人間――(ヒュンッ)』

 

「空気を読めない妖怪は飛ばしちゃいましょうね~」

 

 一瞬、剣と盾を持った白浪天狗が現れたが……静雅が謎の言葉を言いながら手の焦点を白浪天狗に合わせると……体がブレるように消えた。

 

 そして何もなかったように静雅は会話を再開させる。

 

「──で? 文の新聞がどうかしたのか?」

 

「…………いやいやいやいやっ!? 何で何事もなかったように会話を進めているの!? 椛をどこにやったの!?」

 

「大丈夫だ。今頃その椛という奴は人里で尻尾をモフられているさ……」

 

「その遠い目気になるよ!?」

 

「……移動させるの久しぶりだな……私もいきなり紅魔館の門に飛ばされたのが懐かしいぜ……」

 

「飛ばされたって……どうしてそうなったのよ……?」

 

 魔理沙も遠い目で思い出している様子に鈴仙が疑問に思った。

 

 それでもなお、静雅は気になる言葉をにとりが言ったので改めて聞く。

 

「その椛というのは無事だろうから安心しとけ……ところで文の新聞で気になることを言ったな? その新聞持っているか?」

 

「あ、うん。リュックの中に入ってるよ」

 

 そう言いながらにとりは背中にあるリュックに手を伸ばし、数秒後に新聞を取り出して静雅に渡し、隣にいた魔理沙と鈴仙は覗き込むように読んだ……。

 

 

 

 

 

 少年少女確認中……

 

 

 

 

 

「──結果として、文の新聞が原因だと分かった」

 

「文の所為だったのか……」

 

「あのブンヤは本当に余計なことも書いているわね……」

 

 新聞を大雑把に読んで静雅はそう判断した。彼女は例え真実でも誇張することがある。その事を知っている魔理沙と鈴仙は呆れた声を出した。

 

 三人の言葉に同調するように、にとりも会話に参加する。

 

「あー……やっぱりそうなんだ。噂によると確かに神社の神様達は侠の事を気に入っていると聞いたことあるし……」

 

「さて、文は一体どこに――」

 

 

 

 

 

『呼ばれて登場っ! 清く正しい射命丸――』

 

 

 

 

 

「縛符【這いつくばる愚者達】!」

 

「──あややっ!? 体が急に重く!?」

 

 静雅が文をどこにいるか見渡した時に──ちょうどいいタイミングで現れたので重力スペルを発動させ、文を這いつくばらせた。当本人の文は急な行動で対応できなかった。

 

「とりあえず確保。文……お前さんの所為でオレ達は来たくなかった場所に来ることになったわけだが……言い残す事はあるか?」

 

「あやややややっ!? その事で霊夢さんを怒らせてしまったので侠さんか静雅さんを探していたんですよ! 霊夢さんをなだめてもらおうかと思って!」

 

「だったら最初から記事にするなよ……」

 

「だって霊夢さんがあそこまで怒るとは思わなかったんですよ!? 自分の個人的な意見を書いて、侠さんの有志を称える記事内容でしたのに! 私は速さを生かして逃げましたが……少し落ち着いた後に肝心の侠さんは寺子屋にいなかったですし、それで慧音さんに聞いたら『霊夢に侠を取り返しに行って来いと言われた静雅と魔理沙、鈴仙が妖怪の山に向かったぞ』と聞いてこちらに来たんですよ!」

 

「……まぁ、おそらく霊夢が怒ったのは救出記事じゃなくて、個人的な意見で怒ったんだろうな……」

 

 静雅は呆れながらも、意図的にスペルブレイクをした。解放された文はすぐさま起き上がり、体に着いた埃などをはらう。

 

 詳細を聞いた魔理沙と鈴仙はこれからどうするのか静雅に尋ねる。

 

「どうするんだ静雅? 霊夢の言う通り侠を取り返すのを続けるか?」

 

「いっそ、霊夢にブンヤを突きだしても良いんじゃない? それで改めて説明させれば終わりだとおもうし?」

 

「……でも、その二神が侠を拘束していたらそれで問題だからな……まぁ、そんな物理的にはしていなくて、『もう少しここにいないか?』というニュアンスかもしれないが。とりあえず、その二神と話し合う必要がありそうだ……」

 

「まぁ、それでもいいか。私は別に構わないぜ?」

 

「ここまで来たんだし、今更引き返すという選択肢はないわ。あなたは神様に嫌われやすいんだし、私が着いて行ってあげる」

 

「お前は必要ないけどな。私がいれば十分だぜ」

 

「! 同じ数を退治しているからって!」

 

「お前さん達ここまで来て喧嘩はやめろよ……」

 

 静雅は疲れたようにため息をつきながら呆れていたが、その光景に文は疑問を覚えたので静雅にどこか楽しそうに問いかける。

 

「……そういえば魔理沙さんはともかく、鈴仙さんがいるのは珍しいですね? まさかのハーレム狙いですか?」

 

「そんなことになったら夜道に刺される。魔理沙は妖怪の山のナビ、鈴仙は妖怪だから同行してもらっているんだ……とりあえず文、これから山の山頂にある守矢神社に向かうからもう天狗達の攻撃や警告はやめるように言っておいてくれ」

 

「……ある意味、静雅さん達がこうなったのは私の所為でもありますからね……ですが、それは無理です。私は静雅さん達の行動に目を瞑りますが、ほかの天狗達は何とかしてください。というよりは静雅さんも妖怪の山の出入りは厳禁なんですが……」

 

「文。今更言うがオレは人間じゃないぞ? 神様の分類だ」

 

「…………あやっ!? そうなのですか!?」

 

 彼のカミングアウトに驚きを隠せない文。同時に文の新聞で誤った情報を頭に入れているにとりも同様なのだが。

 

「まぁ、侠が人間ってことだからそう書いたんだろ。これ以降、オレが妖怪の山に入っても問題ないことは頭に入れておけ」

 

「……了解です。では今度発行する新聞にはきちんと静雅さんの種族について載せておきましょう」

 

「それは別にいいんだけどな……。魔理沙、うどん。そろそろいくぞ」

 

「わかったぜ」

 

「えぇ」

 

 文達と話し終えた三人は、再び山頂を目指し始めた……。

 

 

 

 

 

「……そういえばにとりさん。椛は知りませんか? 当時でも仮に静雅さん達は侵入者ですから彼女がいち早くたどり着いたはずなんですが……?」

 

「椛は……今人里にいるらしいんだよ」

 

「……え? 人里に? まさかの職務怠慢?」

 

「ううん……椛が来た瞬間、静雅の能力っぽいので人里に飛ばされたみたいなんだよ……」

 

「いつも【トップシークレット】と言って秘密にしている静雅さんの能力ですか……どうして外界の人たちはいろいろ恵まれているんでしょう……?(それに……魔理沙さんの静雅さんに対する印象が変わっていて……鈴仙さんは静雅さんと繋がりができていたことに驚きですけどね……)」

 

 

 

 

 

 そして、妖怪の山、山頂では――

 

「──諏訪子」

 

「わかってるよ神奈子。何か不吉な気配が近づいていることは」

 

「やれやれ……ようやく早苗の想い人が見つかって、安泰に近づいているときに何が起ころうとしているんだ……」

 

「ま、何が来ても……追い払うだけだけどね!」

 

 ――二人の神様は、戦闘準備を行っていた……。

 

 

 

 




 次回で短いかもしれませんが、対面。

 ではまた。

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