幻想世界に誘われて【完結】   作:鷹崎亜魅夜

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 ……。
 鈴仙視点。
 では本編どうぞ。


四話 『吐き出した思い』

 外来人同士の弾幕ごっこが終わり。私達は謝礼を受け取り、永遠亭に向かって歩いて行った。うん。私達。

 

『初代龍神の件から侠強くなりすぎだろ……うどんもそう思うだろ?』

 

「初めて侠の弾幕ごっこを見たからどうもこうも言えないわよ……というよりいつまで着いてくるつもり?」

 

「オレからでも輝夜に話をと思ってな。好感度を上げに行こうと」

 

「いや、帰りなさいよ……」

 

 そう。静雅も私に着いてきている。というより、私に案内して貰うより能力で行けるにも関わらず。この道中で弄られるのかと思うと憂鬱だったり。

 

 そして──次の彼のとある単語に反応してしまう私。

 

「それにやっぱ【月】の話も聞きたいしな。外界の月と全然違うみたいだしよ」

 

「…………そう」

 

 やっぱり……月の事が気になるのね……。

 

 でも──静雅は私の事をじっと見始めた。その事に当然疑問に思った私は彼を問いかける。

 

「……何よ? 私の顔に何かついているの?」

 

「……うどんさ、何か【月】に後ろめたいことでもあるのか?」

 

「え……ううん、そんなことは──」

 

「嘘だな」

 

 まさかの問いかけの返しに、少し動揺しながらも言葉を返している途中で彼の否定の言葉──って何でそんなわかっているような言葉を発するの!?

 

 私は体裁を取り繕うとするけど……その後にも彼の話が続く。

 

「えっ!? う、嘘じゃないわよ!?」

 

「知っているかうどん。うどんは気まずいワードを聞くと、弱弱しく呟くように言って、目を若干反らしているという事を。ちなみに今のところオレの記憶が間違っていなかったら【月】と【臆病】に反応したぞ」

 

「う、嘘よね!? 私にそんな癖があるだなんてっ!?」

 

「割とガチ」

 

 何で私の抱えている問題に鋭いのこの男はっ!? そ、それに……私が一番に気にしているところを……!

 

 続けて静雅は私に話しかけ続ける。

 

「別にさ、オレが深く干渉してはいけないとわかっているんだけどさ……【月】と【臆病】をうどんは聞くたびに悩ましい表情をしているからさ。気になってしょうがないんだ」

 

「……静雅は気にしなくて大丈夫よ。静雅に話してもどうにもならないし──」

 

 

 

 

 

「──じゃあ誰に話したらそれは解決するんだ?」

 

 

 

 

 

「…………」

 

「なぁ、教えてくれよ。うどん。オレ以外に誰がそのうどんの悩みを解決してくれるんだ? 永琳先生さんか? 輝夜か? てゐか? それともそれ以外の人物か──」

 

「放っておいてよっ!」

 

 単なる自分の我儘なのはわかっているけど……逃げ道のない質問をしてくる静雅に乱暴な言葉をぶつけ続ける私……。

 

「あなたに話したからと言って解決するの!? まだ会って数日しか会っていないあなたに何がわかるの!? これは私の責任でもあるの! 静雅に話してもしょうがないじゃないっ!」

 

「確かにオレはよくうどんのことは知らないさ。だから……この機に知りたいと思う」

 

「……え……?」

 

 私は頑なに話そうとしない中……変わった言い回しに私は耳を傾けてしまった。

 

「逆にこう考えるんだ。【月】の関係者じゃないオレに話せばいいじゃないか? オレは月の概要を知らないし、同時にうどんの事も知らない。はっきり言って第三者の視点だ。てゐは地上の兎だが……もう大体うどんの事を知っているから数えないとして……【月】の関係者である先生さんと輝夜にはもう一部だろうが話しているんだろう? しかし、その二人は月の関係者という事で月びいきかもしれない。何も知らないオレはうどんの事情をゼロから知ることができる。これはある意味利点に働く。どんな悩みの概要、重い概要でも……オレでよければ個人の見解を言うことができる。オレの言うことは絶対ではないが……一部の参考として、オレの意見も聞くのも一つの手じゃないか?」

 

 ……私は静雅の言う通り、月から逃げた理由は永遠亭にいる人達にしか話していない。師匠も姫様もてゐも……私のした行動は間違っている類のことを言われた。

 

 でも……どうしてだろう? 静雅には話してもいい気がしてきた……大方、師匠達と同じような反応を返すだろうけど……。

 

「……前に、師匠の後に月から地上に来たまでは話したわよね?」

 

「あぁ。話してくれたな。途中でてゐが現れたから詳細は聞けなかったが」

 

 ……そして、どうしてかわからないけど、静雅に話すことにした。

 

「……私は月では軍人として働いていたの。月では私のような服を来て、訓練するんだけど……一応、これでも期待はされていた方なの」

 

「……ほう」

 

「でも……その時に月にある噂が広まったの……月に人間が攻め込んでくるって噂を」

 

「……月に人間が攻め込む?」

 

「えぇ……本当は私はそこに残って戦わなくちゃいけなかったんだけど……臆病風に吹かれて逃げたの。仲間を見捨てて……」

 

 話の内容からか、私への印象の変わりかわからないけど……余計なことは言わないで、静雅は質問をしてくる。

 

「……人間が攻め込んだ結果、どうなったんだ?」

 

「……結果的には、月は無事だったわ。それとは違って過去に姫様が起こす異変の前に、地上人と月人が戦争するかもしれないという事で戻ってきてほしいっていう通信で言われたんだけど……当時、姫様達は月人に見つかるわけにはいかなかったの。それで、月の異変を起こして以来……それとは関係無しに月は大丈夫みたい」

 

「だったらそれで良いんじゃないか? 月も無事だったんだし──」

 

「良くないっ!!」

 

 気楽に答えた静雅の言い方に感情的になって言葉を返してしまった……。

 

「……それでも、私は戦争から、仲間を見捨てたには変わりはないのっ! 閻魔様にこのままだと地獄行きって言われて、自分のやった罪が重くて……!」

 

「は? 閻魔?」

 

「……まだ知らないようだけど、たまに閻魔様は裁判所から下りてこの地上に来るの……それで善行をしていない人物は、閻魔様から過去にやった事とか説教されるの……それで、私は月から逃げてきた事を言われたの……」

 

「…………」

 

「結局、私が臆病じゃなかったら、勇気があったら……こんなことにならなかったのに……善行はしているつもりだけど、どれほどすれば私の罪は帳消しにできるかわからなくて……! 私が誤った選択をしたから、悪いことをしたから……! 逃げたから……! 臆病だったから……! ずっと後悔しているの……っ!」

 

 ……どうして私は静雅に打ち明けているんだろう? 師匠や姫様、てゐにこんな説明の仕方をしたことなかったのに……!

 

 それで……私の永遠の後悔を聞いた静雅は──

 

 

 

 

 

 

 

「──鈴仙。お前さんは悪くない」

 

 

 

 

 

 

 

 ──信じられない発言をした。

 

「…………えっ? 今、何て──」

 

「何度でも言ってやる。『お前さんは悪くない』」

 

「……同情ならやめてよ……!」

 

「違う。オレの素直な印象だ」

 

「嘘でしょ……そんなの──」

 

「嘘じゃねぇっ!!」

 

 私が否定的なことを言おうとしたとき……静雅は大きな声で私を牽制した。普段の静雅と比べると全然表情、態度が違った。静雅は私に話し始める。

 

「大きい声を出してすまない……でもさ、その戦争の噂でびくついていた仲間もいるんだろ? それでその噂をちゃんと本当か嘘かはっきりさせなかった上司は何をしていた? 上の奴が部下の不安を取り除くことが大事だろ。いつ攻め込んでくるかわからないという状況だったらなおさらだ。鈴仙のように臆病になるのも当然だ。それは仕方がないことなんだ」

 

「でも、私は戦争になる前に逃げて──」

 

「それはもう、許されているんじゃないか? あくまで個人的な見解だが」

 

 ……え? 許されている……?

 

「どうしてそんなことが言えるの……!?」

 

「だってさ、もしも本当に鈴仙が許されていないとしたら戦争救援要請なんて来ないだろ? おそらくその時はもう許されていたんじゃないか? オレが鈴仙の上司だとしたら『二度と月に帰ってくるんじゃねぇ裏切り者がっ』……という事を言うんじゃないか? 言葉は荒っぽいが……むしろ鈴仙の能力を評価しているこそ、戻ってきてくれって言われたんじゃないのか? そこは鈴仙がネガティブに考えすぎなんだよ。おそらくお前さんの上司は怒ってねぇよ。そもそも戦争なんてするなよ、話し合いで解決しろと言いたくなるが。これも鈴仙は悪くない。戦争になりかけた上司が問題だろ」

 

「でも、その通信の時帰れなかったことは!?」

 

「それはしょうがねぇとしか言いようがない。じゃあ聞くが……今の鈴仙は地上と月、どっちにいたいんだ?」

 

 ……どっちが良いって聞かれると……一つしかないじゃない……!

 

「地上の……永遠亭の方が良い……! こんな臆病な私を受け入れてくれた永遠亭の方がっ!」

 

「それならそれでいいだろ。鈴仙の人生なんだ。どんな間違いの人生を送っても、臆病になっても……それが鈴仙の人生なんだ。誰もが悩みを持つんだ。そこからどう楽しく生きていくのかが問題なんだ。過去を切り捨てろとかは言わないが……視点は過去じゃなく、未来に向けるべきなんだ。無論、仲間を見捨てたという事を自覚しているなら……それで良い。反省しているんだ。誰が鈴仙を否定してもそれを気にするな。これからを精一杯過ごせばいい。閻魔とかに言われた自分なりの善行をすればいいさ。そうすれば……報われるさ」

 

 どこからか感じる、彼の優しい言葉。でも、まだ私は納得しきれなくて……。

 

「む、報われるって……閻魔様は地獄行きって言われているぐらいの罪なのに……そんなの──」

 

「だいたいそういうやつが発言するのは、基準値以上の善行を積んでほしいだけだよ。地獄行きとか言っておけば『地獄に行きたくないから善行をしなきゃっ!』って思わせるのが目的だ。どうやらそいつは人物が性悪説の【X理論】みたいなようだから気にすんな」

 

「……なによ、その理論……?」

 

「単純に言えば人物の心は元々【悪】である考え方だ。そういう人物に対してはアメとムチが効果的に作用する。善行を積まなければ地獄に堕ちるぞというのはそういうことだろ。閻魔も地獄に行かせたくないからそういうことを言っているだけだ。何で逆の【Y理論】をしないのか……過去のことを掘り返してそれを指摘するなんて、間違ったネガティブフィードバックだろうが……! よほどその閻魔は説教が下手なんだな……!」

 

 彼は独自の単語を使いながら、説明してくれている中で……彼の怒りが、どんどんと溢れている。でも、どうして……!?

 

「な、何で閻魔様に喧嘩を売るような発言をしているのっ!? 私の事で言われたのに、静雅は言われてないでしょっ!?」

 

「その閻魔の発言で鈴仙がこんな風になっているんじゃないかっ! オレのからの見解で鈴仙は悪くないっ! それだったらオレは鈴仙の味方になってやる! 閻魔の言われたことを気にするな! 上司のことはもう気にするなとは言わないが、考えすぎることはない! 例え鈴仙を世界中が否定したとしても──オレが味方になってやる! そして──何度でも言ってやるっ! 鈴仙──お前さんは悪くないっ!!」

 

 今までに言われたことがない事を言われた。師匠達に話しても、『それはうどんげが悪いわね……』と言われた。

 

 

 

 

 

 でも……本当は同情してほしかったんだと思う。こんな臆病な私を肯定にしてくれる人が。味方になってくれる人が。

 

 

 

 

 

 その人が……私のために怒ってくれて。同情してくれて。味方になると言ってくれて。

 

 

 

 

 

「……うっ……」

 

 

 

 

 

 私は……目頭が熱く感じていた。でも、我慢しようとするけど……静雅に見抜かれてしまって──

 

 

 

 

 

「……鈴仙。泣きたければ泣け。誰にも言わない秘密にしておいてやる。ここで──今まで溜め込んだもの、全て出せ。オレが受け止めてやる」

 

 

 

 

 

 もう……そんなこと言わないでよ……っ!

 

 耐えきれなくなった私は静雅の胸元に寄りかかって──

 

 

 

 

 

「──あぁあああああああああっ!!」

 

 

 

 

 

 ──泣いた。安心する人物の胸の中で、溜め込んでいたのを吐き出した……。

 

 

 




 今まででちょくちょく出ていたフラグの話題の回でした。

 少し途中で出てきた用語の解説を。


 X理論……人を性悪説として考える理論。単純に言えば全ての人物は【悪】であり、自ら課題などに積極的に取り組まない。その人物の課題を与えるなどの場合はアメとムチ(褒美と罰)を設定すると命令された課題をするようになる。

 Y理論……人を性善説として考える理論。単純に言えば全ての人物は【善】であり、その人物は自ら課題をこなしていくので、その人物に合った課題を与えると効率的である。

 ネガティブフィードバック……ある人物の起こした間違いを指摘し、その問題を修正していく。やってはいけないことは、実際に起こった問題で、それとは関係無いその人物の悪い習慣や他の間違いを指摘してはならない。
(例えばテストで悪い点をとった時、指摘するのはあくまでその勉強についてだけ。その人物が例え遅刻常連の人物だったとしても、「テストの点数が悪いのは遅刻をしている所為、生活態度の所為」と叱ってはいけない。)


 ではまた。

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