最初は表主人公視点。
では本編どうぞ。
一話 『登山への準備』
早朝。今日から一先ず一週間近くは博麗神社を離れて守矢神社に行くことになる。ご先祖様曰く、そこで風の力が手に入る。
……でもそれって手早く弾幕ごっこで勝てって話だよね? 見知らぬ相手にそう言いづらいけど……。
『「そう言うな主よ。これも試練だと思って望めば良い」』
ご先祖様は気楽すぎです。
ちなみに一週間の寝床はどうするか聞いたところ、人里の誰かに泊めてもらうとご先祖様は言っている。この機会に住民との親睦を深めるだとか。それと伴い【力】を手に入れるという。人里を拠点とする分、寺子屋でも働ける配慮とかも。
霊夢と一緒に朝食を作って。食べて。身支度を終えて。最終確認で忘れ物がないか確認しているときだった。
『……侠、ちょっと良いかしら?』
「霊夢? どうしたの?」
傍に霊夢がやってきて話しかけられる。その手には何かを持っており、自分に差し出される。何か確認すると──
「──お守り?」
「……一応持っておきなさい。あそこの神社は信仰信仰うるさいから。私のお守りを持っておけばそんなことがないはずだから」
手渡されたのは赤い巾着のお守り。丁寧に刺繍で【博麗神社】と書かれている。一応神社だからそういう類いのはあったんだ……。
「言ってくれればこのお守り人里で売ってきたのに」
「だってめんどくさいじゃない。何個も何個も同じ物を作るのって。そんな気力しないわよ」
「作り方を教えてくれれば作るんだけどなぁ……まぁ、ありがと」
「……ん」
このお守りどこに付けようか……いや、少し見えるようにベルトを通す輪に結んでおこう。
鞄を背負い、玄関までに行って靴を履き、玄関まで来てくれた霊夢に挨拶をして──
「──じゃあ行ってくる」
「……行ってらっしゃい」
──とりあえず歩きで寺子屋へと向かっていった……。
〜side 霊夢〜
「……やっぱり、最近の私はおかしいわね……」
侠を見送った後、何故か心に……穴みたいな……寂しい? みたいな感じがする。
……侠が来るまで実質一人で暮らしていたようなものなのに、侠がいなくなると物足りなくなっちゃう。どうして?
その事について悩んでいたとき──スキマが現れ、紫が神社に上がってきた。そして何故か私に向かって安心させるかのようにこう言う。
「──大丈夫よ。あなたの年頃になってくるとそういうことを思っても不思議じゃないから」
「……聞いてたの?」
「彼の情報はいち早く手に入れないと。何だって幻想郷に影響しうる龍神の先祖返りだもの。ちなみさっき霊夢がお守りを渡しているところも見たわ」
「……そ」
私は居間に戻り、侠が貢ぎ物でもらった急須にお茶っ葉を入れようとしたとき──紫が意味深な言葉で尋ねてくる。
「──わざわざ侠の所有権は私の物だと見せびらかせているような証よね。他人に唾を付けられないような対策?」
「……別にそんなんじゃないわよ。ただ、幽々子みたく現れる奴がいるかもしれないからそういうのを防ぐだけ。侠はなんか変な奴に好かれるから」
「……まぁ、良いわ。ところで……そのお茶っ葉人里では高級なものらしいわよ? 私にも淹れてくれない?」
「……お茶菓子を持ってきてくれたら考えてあげる」
「はいはーい♪」
紫は私の正面に座りながらスキマを開いて手でお茶菓子を出して、二人でゆっくりした……。
〜side 侠〜
寺子屋で慧音さんの助手を務めて、時間帯は正午。一先ずは、慧音さんにこれからのことを話した。拠点がしばらく博麗神社ではなくなることを。
それを聞いた慧音さんは気にするように話し掛けてくる。
「それじゃあ、寝床はどうするんだ? まさか野宿……なんて事はないよな?」
「それについてですか? いっそ野宿でも良いと思うんですけど……ご先祖様曰く、知能が薄い妖怪は襲わないという事なので」
「ダメに決まっているだろうっ!? 侠はもう人里に欠かせない人間だ! 人里の守護者として、それは許さん!」
案の定、怒られた。まぁ、どんな妖怪にしても他者から見たら一種の自殺行為か……。
怒りながら、慧音さんは話を続ける。
「それに最近、ここでは有名なならず者が人里外を徘徊しているんだ。いくら妖怪を初代龍神の加護で取り除けたとしても、人間はさすがに無理があるだろう?」
……それはご先祖様からは聞いてない事柄だ。それでご先祖様……実際はどうなんですか?
『「我が心から気配を感じて見張っても良いが……もしも頻繁に来たりなどしたら、主は睡眠不足で不調になるの。先祖返りの体としても……主は寝ていたとしても、我が体を動かせば肉体的負担は当然ある。さすがにそれはどうかと思うの」』
……自分が寝ている時に体がかなり動いていたらそれはそれでシュールだ。
さすがに慧音さんの言う通りだったので、ご先祖様の言葉を伝える。
「ご先祖様が頑張ればいけるそうですが、その分肉体的疲労があるみたいです。先祖返りの体といえど」
「だろう? そこまでは無理する必要はないだろう……も、もし、良かったらな──」
少し言うのを躊躇いながら──頬を染めながら、慧音さんを言葉を続けた。
「──私の家に、寝泊まりすれば良いんじゃないか……?」
「……………………それはちょっと」
「!? どうしてなんだ!?」
まさかの拒否かと思ったのか、慧音さんは凄い驚いているようだった。
……少し控えめに、自分は理由を言う。
「慧音さんみたいな大人の女性と二人っきりというのは……常に緊張感があるような気がしてならなくて……。見た目同年代や、年下なら大して気にならないんですが……」
「…………それは、わ、私のことが……気になる、っていうことなのか……?」
何か、答えを求めているような慧音さん。正直言うと義母さんは除くとして、慧音さんみたいな外見と性格の人は触れ合いが少なかったような気がする……。多分、そういう事を気にしているんだと自分は思う。
「……気になるからこそ、遠慮しているんです。自分は妖怪やならず者に襲われない場所でも探します」
「……侠。もし良い場所が見つからなかったら私の家に泊まっても良いからな? それは覚えていて欲しい」
「その時は……その時で」
もしもの事を言って、瓦版作り作業を再開させた……。
慧音さんと仕事が終わり──妖怪の山の麓の前に自分は移動していた。心の中にいるご先祖様に声をだして問いかける。
「……飛んでいった方が早いですかね?」
『「早いのは確実だが、目立つの。時間は結構あるのだ。妖怪の山に住む住民と触れ合いながら徒歩で進めばよい」』
「そういえば妖怪の山は人間立ち入り禁止っていう話を聞いたことがあるんですけど、それはどうなんですか?」
『「龍神権限で無効だの。さ、進もうぞい」』
何という権力の暴力。まぁ、幻想郷の創造神に言われたらしょうがないかもしれない。
ご先祖様の言う通り、自分たちは進んでいった……。
慧音の家に泊まるかどうかは……この章にて。
ではまた。