三人称視点。
ではどうぞ。
『──雨が降ってきたな。早苗は傘をちゃんと持って行っていたか?』
『あーうー……多分持ってていないからびしょ濡れで帰ってくるね……』
妖怪の山の山頂にある──守矢神社。そこには神社では珍しく二人の神様がいる。小さな鏡が胸元の服の近くにあり、頭には小さなしめ縄があり、今は外しているが身の丈ほどの大きなしめ縄を背負っているという──【山坂と湖の権化】の八坂神奈子。それに対して身長は子供ぐらいで、目玉のような物が付いている大きな帽子を被っているの人物──【土着神の頂点】の洩矢諏訪子がいた。本来この神社は諏訪子のものなのだが……過去に起こった諏訪大戦で諏訪子は敗北し、神奈子がこの神社を手に入れた。しかし、だからといって仲が悪いわけではない。むしろお互いの利益は得ており、良好である。この場にはいないが、【祀られる風の人間】で、静雅とは違う【現人神】である風祝、東風谷早苗もいる。
元々この三人は辰上侠と本堂静雅と同様、外来人でもある。しかし、違いは自らこの三人は幻想入りしてきた。今の外界では【科学】という現実的なものに興味がいってしまい、非現実的な【神様】に興味が無くなっていった。通常の神様の力の根源といわれる【信仰】が減っていってしまっていたのだ。この状態を危惧した神奈子達は神様や妖怪が集う幻想郷へと移住することを決めた。
──ただ一人の悔いを置いてきて。
『──凄い通り雨ですよ〜!? こんなの予想外です〜!』
二人が心配していたとき、話題の中心人物であった東風谷早苗がスブ濡れで神社に帰ってきた。服装は……博麗神社の霊夢に似た巫女服である。違いといえば霊夢を紅白と例えると、早苗は青白。胸元にリボンを付けているか付けていないかの違いくらいだ。
……とは言っても、プロポーション的な意味で言えば、早苗の方が上回っているのだが。
帰還したことを確認した諏訪子はタオルを持っていき、早苗に気遣うように渡す。
「はいタオル。しっかり体を拭かないと風邪ひいちゃうからね~」
「ありがとうございます、諏訪子様──へっくし!」
タオルを受け取り体を拭くものの、くしゃみをする早苗。通り雨とはいえ、雨にうたれて帰ってきたのだから体温が下がっていっているだろう。
それを見かねた神奈子は心配そうに話しかける。
「おいおい……さっそく風邪をひきそうな感じじゃないか。風呂を焚いて入ってきた方が良いんじゃないか?」
「はい、そうします──あ! 神奈子様! 諏訪子様! その前に少しご報告したいことがあります!」
「? どうしたんだ?」
何かを思い出したように話を切り出す早苗。いつもと違う表情に当然二人の神は疑問を抱く。
「何やら人里で誰かを信仰しているような状況があったんですよ! それで人里のほとんどの人がその人かどうかわからないですけど集まっていて……」
「……? 人里にまで行って信仰を集めてくるのは早苗だけのはず。それで誰かを信仰……?」
「間違いなく言えるのはそいつは霊夢じゃないね。あそこは同じ神社だけど神様がいるかどうかも不明だし、信仰にも大して執着していないはずだからね」
神奈子の疑問はともかく、諏訪子の発言は合っている。博麗神社は幻想郷と外界を分ける大結界である【博麗大結界】を管理し、幻想郷の平和を維持するためと神社といってもいい。博麗神社がなければ(正確には結界を管理する霊夢や紫達なのだが)大結界は崩壊し、幻想郷自体の消滅もありうる。この世界は忘れたものが集う世界、幻想郷。
だが、それには信仰は関係なく、日々を平凡に過ごしている霊夢。彼女は一時期信仰にたいして心配していたときはあったのだが……今では本当にのんびりと過ごしている。
情報を付け足すように早苗は話を続けた。
「何故かところどころに【龍神様】と聞こえたのですが……それはどうしてでしょうか?」
「龍神? それは幻想郷を創った創造神といわれる龍神か? 実際には【龍界】にいるらしいが……それはおかしいな。龍神は私たちが今いる地を【下界】として、下界の人々と触れ合うのは禁止されているはずだ」
「そりゃあ不公平になっちゃうからね。実際にはそんな簡単に会えずはずもないし、生きている中で会えたら奇跡だよ。それにこの世界の最高神だもん。『そんな暇があったらちゃんと仕事しろ!』って言いたくなるよ」
二人の神の考えを聞き、早苗は自分の推察を意見する。
「じゃあそうなると……新しい神社の神様がその龍神様を語っているとか……でしょうか?」
「私達と同じ外界の信仰が減って幻想入りして、龍神を名乗る神……ありえなくもないな」
「あーうー……今は様子見だね。せっかく幻想郷で信仰してもらった分を奪われるにはいかないし。向こうからの何かしらのアクションを起こしたら突撃してみよう」
「そうですね……わかりまし──クシュン!」
方向性を決め、同意した早苗だが……途中でくしゃみをする。
「……早苗、早く体を温めておけ。風邪をひいたら困るのは早苗だけじゃない」
「そうだよー! 私達まともに料理とかできないんだし、早苗が風邪ひいたら死活問題だよー!」
「は、はい……今すぐ入って──ハクションっ!」
くしゃみをしながらも一通り体についていた水滴を拭きとると、いったん早苗は自室へと向かった。風呂から上がった時の替えの服を取りに行ったのだろう。
早苗がいなくなったのを二神は確認すると、神奈子はある話題を諏訪子に持ちかけた。
「……諏訪子。そろそろ早苗もいい歳だ。人里とかの男で早苗は好きになったやつはいないのか?」
「聞かないね~。逆に早苗の方がモテるから男には好かれているけど。でも──どこの馬の骨に早苗を渡すつもりはないっ!」
「……まぁ、それには賛成だ。ちゃんと早苗に【良い人】が見つかればいいんだが……」
「……あーうー……やっぱり、幻想入りする前に探せばよかったかな──」
諏訪子はいったんそこで言葉を区切り、繋げる。
「──顔はおぼろげで覚えていない。唯一わかるのは男で──早苗の体調を気遣って掛けられた黒いコート。早苗の──初恋の人」
「……初恋は言いすぎじゃないか?」
「いいやっ。早苗は『お礼を言いたい』って言っていたけど、あれは間違いなく恋している瞳だったねっ!」
諏訪子の言葉に少し神奈子は押されながらも、話を続ける。
「そ、そうか……幻想入りしてしばらく経つが……。早苗はずっとそいつの事を想っているんだろう? 顔もわからない、名前もわからないやつに」
「……そういえばあの時も今日みたいな雨の日だったね。諸事情で私達がいない間に──早苗が縁側で寝かされていたんだもん。見た瞬間びっくりしたよ本当に」
「私達が早苗を見ていたなかったことが原因だったな……風邪ひいているとは気づかずに学校に行かせてしまった」
「少しでも和らげるためか、布団替わりにコートが早苗に掛けられていたもんね。早苗という美少女に何もしないはおろか、体調を気遣う紳士だね。顔とか性格とか分かればその人に早苗を任してもよかったんだけど」
「……早苗には悪いが、そいつの事は忘れてもらって新しい人を見つけるべきだと私は思うんだ」
「そんな簡単に見つかるかな……? 早苗の初恋に上回る人物で顔や性格が良い人間」
「……性格はもちろんだが、顔は平凡ではダメなのか?」
「どうせならかっこいい部類で心もイケメンの子孫が欲しい!」
二神は早苗が風呂から上がるまで議論が続いた……。
……露骨。
ではまた。