幻想世界に誘われて【完結】   作:鷹崎亜魅夜

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 今更ですが、活動報告で本編修正をして以来、冬の時間軸です。
 最初は霊夢視点。
 では本編どうぞ。


共通・第十一章 変わりゆく日常
一話 『感じる痛み、冬の妖怪と』


 初代龍神、ティアー・ドラゴニル・アウセレーゼの騒動から一夜明けて……私は起床していつもの服に着替えていた。もちろん、二日間眠り続けた侠に家事を押しつけている。

 

 ……それにしても、侠が幻想郷を創った龍神の先祖返りねぇ……驚きしかなかったわ。この機に侠を神社に祀れば賽銭ががっぽがっぽ入るんじゃないかしら? 守矢神社以上に。

 

 でも、博麗神社への道中は整備されていないから来ないか……仕方ないわね。

 

 私はあることを思い出しながら呟く。

 

「けど……侠が私を選んだのよね……」

 

 ティアーの一人は許可するという事で、侠は私を選んだ。内心……嬉しかったのは秘密。

 

 ……何で嬉しかったんだろう?

 

 身支度を終えて居間に行ってみると……食事の用意は既にされている。侠もきちんといるが、紙に何かを書き記している。時折頷きながら、書く。そんな繰り返し。

 

「? 侠、何書いているの?」

 

 私が問いかけると、侠は書くのを止めてこちらに振り返った。

 

「これ? ご先祖様にいろいろ龍神の先祖返りとしての特性みたいなものを教えられて書いているんだよ」

 

 そう言って侠は書いたモノを私に渡してくる。

 

 

 

 

 

 ─龍神の先祖返りとしての特性─

 

・竜人に変化(へんげ)が出来る(ただし現状では完全な龍になるのは不可。力が足りないらしい)

・龍神の先祖返りは霊力、魔力、妖力、神力をすべて持つ(デフォルト設定は妖力。これにしていることで妖怪から襲われなくなる特性がある)

・全ての種族に当てはまる事が出来る(幻想郷の創造者の所為か、当てはまる)

・体は人間だが、普通の人間と比べると段違いに丈夫

・適合スペルは変化と同時に可能

・取得した属性能力はそのままでも使用可能だが、属性に適した適合スペルを使って使用した方が威力、コントロールしやすくなる。ただしその適合スペルを止めるまでその属性しか使えなくなる。なお、属性スペルでないと龍化は出来ない。

 

 

 

 

 

 まだ書きかけのようだけど……箇条書きでわかりやすく書かれている。

 

 でも──

 

「……ツッコミたいところが二つあるんだけどいい?」

 

「? 何?」

 

「まず二つ目に書いてある霊力云々のところよ。別に妖怪に襲われなくなるといっても、別に霊力でも良いんじゃない?」

 

「そうだと思うんだけど、妖力に設定していた方が問題事が少ないんだって。知能の低い妖怪は『こいつは襲ってはいけない』って本能的にわかるみたい」

 

「……だからルーミアとか襲わなかったのね……」

 

 一人の人間が四つの力を持っていることに驚きよ。

 

 次に、最もな疑問を侠に聞いてみる。

 

「……すべての種族に当てはまるってどういうことよ……? 侠はあくまで人間でしょ? それなのに全ての種族って……?」

 

「そこに書いてある通りだと思うよ。ご先祖様は生き物を創ったって言っているし。同じ種族ばかりいるとアレだから、違う種族を創ったって。それで四つの力も持っているからそれぞれの種族の特徴に沿う事も出来るんだって。霊力なら霊夢みたいに人間とか魂魄の半身半霊や、魔力なら魔法使い魔女──いや、男だから魔導士かな? 妖力はたくさんあるね。紫さんのスキマ妖怪やレミリアの吸血鬼、射命丸の烏天狗とか。神力に関しては言うことはないけど」

 

「ま、まぁ……【龍神】だしね……そりゃあそうよ」

 

 言っちゃ何だけど……人外よね。人間と言う名の。もう侠って幻想郷側の人物よね……。

 

 ……そういえば、侠は外来人だったわね。考えてなかったけど──

 

 

 

 ──侠といつかは別れなきゃいけないんだ。

 

 

 

 そう考えると……どうしてか胸が痛んだ。どうして? 同じ外来人なら静雅だってそうなのに……侠がいなくなるのは嫌だった。

 

「……? どうかしたの霊夢?」

 

 俯いていた私を見てか、侠が心配そうに声をかけてくる。

 

 ……心配をかけるわけにはいかないわね。

 

「いえ、何でも無いわ。さっさと食べましょ」

 

 とりあえず私達は朝食を食べ始めた……。

 

 

 

 

 

 

 

  〜side 侠〜

 

 朝食を食べて、博麗神社を出て寺子屋に向かう途中で少し霧の湖に寄る。

 

「……ご先祖様、一応聞きたいんですが……ご先祖様の能力はどのような条件で発動するんですか?」

 

 別に喋らなくても良いんだけど、声に出して聞いてみる。すると──頭に響くような声が聞こえてきた。

 

『「現状では特定の属性の【力】に反応するの。チルノは能力を対象に。妹紅は弾幕の火の弾幕を対象に。別に能力で属性でなくとも、属性を使う弾幕なり効果はあるのだ」』

 

 ──ご先祖様である初代龍神、ティアー・ドラゴニル・アウセレーゼ。簡単に今の状況を説明すると、見えない守護霊的なものになっている。

 

 ご先祖様と和解(?)してから、心からご先祖様の声が聞こえるようになった。前みたいな実体化について今はできないらしい。満月で力の底上げは出来たけど、現状では力が戻っていないため実体化は出来ないらしい。

 

「……特定の属性、ですか……」

 

 自分は左手で空気中の水分や水蒸気を集めて水を作り出し、それを冷やして氷にする。それを加工し──氷の剣を作り出す。

 

 ……ご先祖様の能力と自分の能力は相性が良い。多分、チルノは冷気で氷は操れるけど、水は操ることは出来ない。自分はチルノの能力を発展させて【氷水を操る程度の能力】となった。

 

 自分は氷の剣を使い、振るってみる。直接に氷を触っているけど、冷たくない。ご先祖様曰く、【力】を手に入れたら、適合スペルでその本人の【特性】も付くという。

 

「……触っても冷たくない。それでチルノは妖精。多分、これからわかる【特性】は──」

 

 

 

『キョー……!?』

 

 

 

 考察していたら……聞き覚えのある声が聞こえてくる。聞こえた方向に振り向いてみると……チルノ、大妖精、ルーミア、ミスティア、リグルがいた。橙はいない代わりに……何か大人の女の人もいる。その人は帽子を被ってセミロング、スタイルの良い人の様に見えるけど──あれ? ちょっとまずい? チルノが何やら言いたそうにして、他の生徒は呆然としているし……。

 

 どうしようか考えているときに、ご先祖様は安心させるように声を掛けてくる。

 

『「その心配は無いと思うぞい。我には氷精は嬉しそうに感じるの」』

 

 ……え? 嬉しそう?

 

 そしてチルノが……改めて問いかけてきた。

 

 

 

 

 

「アンタって──雪女だったの!?」

 

 

 

 

 

「そうなのかー?」

 

「違うよっ!?」

 

 何か予想外の発言が飛び出した!?

 

 チルノの発言にルーミア以外がずっこける様子が見えるが、すぐさま大妖精が立ち直りチルノに話しかけた。

 

「ち、チルノちゃん!? 確かに侠さんがチルノちゃんに似た能力を使えるのは驚いたけど、侠さんは男の人だよ!?」

 

「じゃあ雪男!?」

 

「チルノ、まずは冬の妖怪(?)を思い浮かべるのは止めようか?」

 

 暴走が止まらないチルノを宥めるけど、ミスティアとリグルが順に尋ねてきた。

 

「侠……どうしてチルノの能力っぽいような能力を使えるの?」

 

「前に侠さんと氷鬼をして傍に寄ったときとか寒くなかったのに……侠さんって人間だよね……?」

 

 ……すっかり怪しまれている。どう説明したら良いんだろう……?

 

『「氷の力に目覚めたと言えば良いと思うぞい」』

 

 ……単純な言い方で嘘はついていない。採用させてもらいます。

 

「どうしてか氷の能力が使えるんだよね。何故か」

 

「……そうなんだ……」

 

 自分はそう答えるとチルノは──何故か……自分の腰に抱きついてきた!?

 

「ゑ……!? どうしたのチルノ!?」

 

「……アタイ、レティ以外でそーゆー能力を持っていたのを見たのが初めてだから……嬉しいの!」

 

「う、嬉しい……? それに誰? その人?」

 

 自分の疑問に大人の女性が近づいてきて、その人は自分に話し掛けてきた。

 

「貴方が辰上侠かしら? チルノから色々と聞いていたけど……まさか、氷系統の能力者とは思わなかったけど? チルノはそう言ってなかったわ」

 

「ちょっと色々訳ありで……あなたは?」

 

「チルノが言っていた通り、私はレティ・ホワイトロックよ。今は冬でしょう? 冬限定でチルノの保護者をやっているわ」

 

「は、はぁ……どうも」

 

 どうして冬限定なんだろうと思いつつ、ホワイトロックさんは自分からチルノを引き離し、優しく話し掛ける。

 

「チルノ、侠と少しお話してくれるからちょっと離れて待っててくれる? なるべく早く終わるようにするから」

 

「……わかった……」

 

 意外にもチルノはホワイトロックさんの言う通りに離してくれた。そして自分を手招きして、少し湖から離れたところまで誘導され、歩みが止まり話を振ってくる。

 

「……一つ聞きたいんだけど、その氷の能力について教えて貰っても良いかしら? それと貴方の種族も」

 

「この氷というよりはむしろ【水】の能力で……水の状態変化を操る能力で有り、【氷水を操る程度の能力】です。種族については……一応、人間です」

 

「……? どうして一応が付くのかしら?」

 

「……実はと言うと──」

 

 

 

 少年説明中……

 

 

 

「──と、いうことなんです」

 

「……うん。納得しきれないけど納得するしかないわね。龍神の先祖返りで、その龍神様の能力を通してその能力が使えるようになった。それ以来、チルノからの肉体的接触があっても冷たく感じなくなったのね?」

 

「そうですね。そんな感じです」

 

 ……説明してかなり驚かれたけど割り切ってくれた。奇想天外なことを言われても受け入れてくれたのは幻想郷だからだと思う。

 

 でも、説明を聞いた後のホワイトロックさんは、安堵したように話してきた。

 

「正直、貴方みたいな寒さを感じないというので、チルノと触れ合ってくれて嬉しいわ。あの子、普段強がっているけど……私がいなくなると、寂しそうにしているのよ」

 

「……冬の妖怪のため、ある意味同系統の能力持ちであるホワイトロックさんがいなくなると、チルノは寂しい……ですか?」

 

「あの子は友達はそれなりにいるけど……過度な肉体的接触は厳禁なのよ。それが原因で友達が辛い思いをするというのは本能的にかわからないけど、ちゃんとそういう距離はとっているのよ。氷の妖精というのは、人肌に触れることが出来ない。触れ続けることで、凍傷になるかもしれないから。でも……前に、チルノが話してくれたのよ。『アタイに触っても冷たくないって言ってる人間がいる!』ってね。その時のチルノは凄い嬉しそうに話していたわ。それで……貴方のその能力。同系統の能力者はかなりいない。でも目の前にいた事に嬉しく思っているのよ。ようやく、自分と同じで一年中を通して会える人物の出現にね」

 

 ……ホワイトロックさんの言う通り、チルノは寂しかったのかもしれない。チルノの周りに寄れば寒くなる。夏はそれで良いのかも知れないけど……冬は逆だ。チルノにとって嬉しい季節かも知れないけど、冬で暖を取りたがる人達にとっては近寄りがたい。その中でチルノを受け入れてくれるのが寺子屋の友達と、そのホワイトロックさんなのだろう。同じ寒さが好きなんだけど……冬しか会えない。約九ヶ月も会えないとなると、寂しいだろうね。ましてやチルノは精神年齢が幼いんだから。

 

 でも……自分は何時か外界に帰らなくてはいけない。その事を口に出して伝える。

 

「自分は何時か外界に帰らなくてはいけないんですが──」

 

「なら、せめて幻想郷にいる間だけでも仲良くしてくれない? それであの子の『友達』でいて欲しいの。それは……お願いしても良いかしら?」

 

「……出来るだけ、心がけます」

 

「そう……ありがとう」

 

 軽くお礼を言われて、二人でチルノ達が待っている湖へ。そして──チルノの頭を撫でながら、安心させるように言葉を言う。

 

「自分はチルノに触っても、冷たく感じないからね。自分にはドンドン触っても良いから」

 

「(……やっぱり、レティみたい……)」

 

 撫でていると少し戸惑っている様子は見せるものの、満更でもなさそうだ。自分とチルノの様子を見て、ホワイトロックさんは微笑ましそうに見守って笑みを浮かべているけど。

 

 そんな時に──

 

「…………(じーっ)」

 

 チルノの頭をなでていたら何故か……何故かミスティアの視線を感じる。始めはどうしたのだろうかと思っていたけど……近づいて背後に回り込んで……どうしてか自分の後ろに回り込んで同様抱きついてきた。

 

「(……私の方が嬉しいもん)」

 

「? ミスティアはどうかしたの?」

 

「侠……今夜私の屋台に来てね! 絶対だよ!」

 

「う、うん……わかった」

 

『「夜雀のお誘いはともかく、そろそろ寺子屋に行った方が良いのではないか?」』

 

 あ、そうだ。時間が時間だし、そろそろ行かなくちゃ。

 

 自分はホワイトロックさんと離れ、生徒達を連れて寺子屋へと向かった……。

 

 

 




 ミスティアの約束事。少なくとも章の終わり頃には書かれます。

 初代龍神の、『「──」』と表示されている二重カギ括弧は、侠の心からの問いかけです。侠が表に出ている時、彼が侠の体を借りているにこの表示の仕方の場合は侠以外の人物は聞き取れません。

 そして──龍神云々のところで、【全ての種族に当てはまる事が出来る】にとある事を思い浮かべませんか?

 ──性別で固定されている種族でさえも、当てはまることに。

 ではまた。

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