幻想世界に誘われて【完結】   作:鷹崎亜魅夜

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 ようやく表主人公の出生とその後が明らかに。
 霊夢視点です。
 では本編どうぞ。


五話 『語られる答え』

「───ここは……どこ?」

 

 侠と手を繋いで、初代龍神のティアーとかいうやつが侠の体に入ったとき……侠と同時に意識を失った。それで目が覚めて、場所を確認しようとする。

 

 ここは何かの白い空間部屋みたいだけど……両端に扉がある。その内の片方は赤紫なような色で半開きになっていた。もう片方の黒い扉は閉じられている。

 

 ……っていうより侠が身近にいないわね。探さなきゃ。

 

 私は半開きになっている扉まで行き、声をかけてみる。

 

「侠ーっ? どこにいるのー?」

 

 探して問いかけたとき──背後の黒い扉から鍵を開けるような音が聞こえた。私はとっさに持っていた御札を構える。

 

 そして警戒した扉から……ガチャッと鍵を開けたような音が聞こえる。

 

 そこから出てきたのは──

 

「あ。霊夢いた」

 

「侠!? そこから出てくるの!?」

 

 普通半開きの所から出てくるんじゃないの!? それと何で鍵を開けたような音がするの!?

 

 侠は私を確認すると黒い扉の部屋から出てくる。何故か侠が完全に出た瞬間、侠の背後の扉が閉まり鍵が掛かったような音がした。

 

 だけど侠は背後の部屋を気にせず、こっちに来て話しかけてきた。

 

「よかった。ちゃんと霊夢いたんだ」

 

「逆に何で傍に現れないのよ? それで侠のいた部屋は何?」

 

 私は侠の背後にある部屋を指し示すと、冷静にこう答えた。

 

「……この中間みたいな部屋はともかく、黒い扉の部屋は自分の部屋だと思う。心の部屋的な意味で。自分の記憶とか心の状況っていうのかな? そういうの」

 

「侠の体に二つの心があるの──というよりあれね? この赤紫のような色の扉が初代龍神とかの部屋だというワケ?」

 

「……そういうことだと思う」

 

 ……一人の体に二つの心、ねぇ……侠は本当に謎の多い奴ね。

 

(あるじ)、霊夢よ。きちんと会えたのなら我の部屋に入ってくるといい。説明した後始めるぞ』

 

 二人で話していると、赤紫の扉の向こうから声が聞こえてくる。ティアーとかいう龍神の声だ。

 

 その声を聞き、侠は扉に手をかける。

 

「行くよ……霊夢」

 

「えぇ……良いわ」

 

 侠が扉の取っ手を掴み、開ける。

 

 

 

 扉の先には──森や川といった自然が広がっている。何……? 何で心の中なのに自然が広がっているわけ?

 

 

 

 少しその先に腕を組みながら仁王立ちしている初代龍神のティアーがいた。

 

「驚いたかの? 我の部屋は幻想郷が出来始めた頃の風景なのだ。まだ動物たちがおらぬ世界での」

 

「動物がいない……? じゃあどうやって幻想郷が栄えていったのよ?」

 

「……我は突然発生した生き物での。いや、すでにこの幻想郷という環境が創られたのと同時に出現したのかもしれん。もしくは一度外界で『龍』が忘れていてこの幻想郷の来たのかもしれぬ。ここの大地を見たとき、我は楽園を創りたかったのだ。人妖、神の共存できる世界を。その時の我は全盛期での。いろんな能力を持っておったのだ。能力を駆使して環境の発展を、同族も創り、または違う種族も創ったりしてのう。今では八雲紫が外界で神隠しをしているときがあるであろう? 外界で彷徨っている妖怪や人間、神をこちらの世界に招待したりの。我は幻想郷のためを想い、幻想郷を発展させていったのだ」

 

 ……長ったらしい説明だったけど、こいつも紫みたく幻想郷を好きなんだということは伝わってきた。

 

 でも……侠はティアーにこう尋ねる。

 

「本来なら幻想郷にいるはずのご先祖様が、どうして自分の心の中にいたのですか?」

 

 うん……侠の言う通り、私も気になる疑問。何で侠の体にこいつが取り憑いていたのか? それについて私も疑問に思っていた。

 

 少し間を開けて、目を閉じながらもティアーは答える。

 

 

 

 

 

「……昔話になるが──我は外界にいた人間のおなごに一目惚れしたのだ」

 

 

 

 

 

「「……え?」」

 

「何度も言わせるでない。我は外界にいる人間のおなごに一目惚れしたのだ」

 

 ……唖然していている私達。幻想郷の神様といえる龍神が人間に一目惚れ?

 

 少しテレながらも、ティアーは話を続ける。

 

「当然我はそのおなごを幻想郷に招待しようとした。だがの……『外界での生活に困っていませんし、私がそちらの世界に行けば両親と会えなくなるのは寂しいです』と言われての……。ならば親も連れてくると良いと言ったのだが今度は友人とか言われての……。話がおさまりつかなかったのだ。そしてなにより言われたのが『あなたと私では寿命が違いすぎます』と言われてしまってな。そのおなごは自分が夫より早く死ぬのは嫌らしくの。当時の我は幻想郷を統次する者として、能力で不老不死だったのも原因かもしれぬ。だが……我の我が儘で不老不死をやめて、我の分身に幻想郷のことを引き継がせ、人間の寿命に合わせ、そのおなごが死ぬ少し前までの寿命設定を我に施したのだ。恋というものは恐ろしいものでな。惚れたおなごのためなら何でも出来るとわかったのだ」

 

 一呼吸を入れて、話を再開する。

 

「そして外界で我は『辰上』として生活を送った。名字に『辰上』とあるのは我の子孫なのだ。そして我は寿命で死んだ。それと同時に幻想郷の分身の我もいなくなったが……ちゃんと継がせる我の幻想郷の子孫を残しておる。しかし……幻想郷のことを悔いに思っているのか、我の亡骸に残留思念が残ってしまっての。何だかんだで離れていても、我は幻想郷を愛していた。幻想郷の未来が心配になったのが原因だの」

 

「……ご先祖様。少し伺いたいことがあります」

 

 ティアーの説明を聞いた侠は、少しためらいながらも聞く。

 

「ご先祖様のいう残留思念というものが何故自分の体にあるんですか!? それとも残留思念はほかの辰上家の人間が全て持っているのなのですか!?」

 

「…………」

 

「……どうして答えないのよ?」

 

 侠の言葉に黙るティアー。どうしてか……あまり喋りたくないように見える。

 

 そして……重い口を開いた。

 

「…………世の中には善人と悪人がおる。主は善人だった。本当の家族もそうだの」

 

「……本当の家族!?」

 

「そうなのだ。主の家族はちゃんと存在しておる。ただ……本家という恥さらしの所為で離ればなれを余儀なくされておるのだ。そのため、主の身分を『身元不明』にする必要があったのだ。本家に『成功体』として扱われないようにするためにの」

 

「……? 何よ『成功体』ってのは? 侠にどんな関係があるのよ?」

 

 侠の本当の家族がちゃんと存在していたのは驚いたけど……『成功体』っていう言葉が気になった。

 

 そして龍神、ティアーは──こう答える。

 

 

 

 

 

 

 

「…………主の心臓には我の細胞──我の体の一部と表現した方が良いかの? それが主の心臓に植え付けられているのだ。本家の者どもによっての」

 

 

 

 

 

 

 

「──え……何ですか……それ……? 冗談ですよね……?」

 

「……冗談だと良かったんだがの」

 

「それってどういうことよ!? 侠の体にあんたの体の一部があるって!?」

 

 侠は無意識に胸に手を当てながらも聞いたけど……ティアーは肯定してしまった。そして私は怒りを含めた声で問い詰める。

 

 何故だかわからないけど……侠の事で私も珍しく怒ってる!

 

 ティアーは重々しかったが……話を続けた。

 

「…………これから話すことは真実だの。『辰上』はもちろん我は子孫を善人に育てていたつもりだった。だが……中には『悪』が生まれるのは事実。その集まりが……今の本家なのだ。『今』の主の分家は『善』なのは本当だの。本家にふさわしいのは『今』の主の家族なのだ。本家は従兄弟などで血を薄くしないように、血縁同士で結婚をする。そういう習わしを設定した。我はそんなことを気にしないというのに。そもそも我が人間のおなごとそういう関係なのだから矛盾しているではないか。今の本家は腐っとる」

 

 深呼吸をし、重みのある言葉で話を続ける。

 

「話が反れたの……本家は我の亡骸を掘り出して、外道なことを始めた。人体実験だの。生まれて2,3歳の我の子孫の童に、我の体の一部を心臓に植え付けた。より人工的な先祖返りを作ろうとし、繁栄させるのが目的だったのだ。だが──そんな簡単にいくはずもないの。子孫とはいえ、体に亡骸の一部を適合なんて出来るはずがないのだ。本家の息子の実験の前に他の分家の童を実験し──拒絶反応が当然に起こり、バタバタと死んでいきおった。全員の死亡を確認し、実験は中断された。本家の息子は何もされずな」

 

「…………」

 

 侠は言葉が出ていない。多分……人外なことで言葉が浮かばないのかもしれない。だから──言葉に出ない侠の代わりに私が聞く。

 

「……だったら侠もその実験に巻き込まれたんでしょう? 何で侠は無事なのよ?」

 

「……そう。実験された童は確かに死んだ。主の本当の両親から本家は主を奪い実験道具にした。主の両親は実験なんて望んでいなかったのだ。死んだら使い捨てにされたのだ。本当の両親は悲しんだ。しかし、奇跡が起きたのだ」

 

 ティアーは侠に近づき、指で侠の胸に触りながらこう言った。

 

「──主は仮死状態だった。厳密には死んでなかったのだ」

 

「…………じゃあ……あの夢は……本当のこと……!?」

 

「主が見た夢は知らぬが……主が生き返ったのは残留思念の我が必至にこの童には死なせまいと行動をした。そして何より……ほう──いや、辰上侠。お主が我の血を最も濃く受け継いだ先祖返りであり、そのおかげで我の細胞と適合できた。主は天然の先祖返りでありながら我の細胞と適合できた子孫なのだ。ただの先祖返りでも十分に能力や才能に恵まれているうえに、我の細胞でさらに活性化されておる。お主が非道な実験で生き残った『成功体』なのだよ」

 

「…………もう、何て言ったら良いのかわかりませんよご先祖様…………」

 

「侠──」

 

 私は……不安に包まれて目の焦点が合っていなかった侠の手を両手で取る。

 

「……博麗……?」

 

 

 

 

 

「……侠が何者でも関係ない。実験の成功体でも関係ない。受け入れがたい事実でも関係ない。それでもあんたは人間には変わりはない。元は外来人でも──侠はちゃんと幻想郷で生きているのよ。あんたの事を受け入れている奴だっているの。誰もあんたの事の過去なんて気にしないわよ。紫の言葉だけど──『幻想郷は全てを受け入れる』のよ? 幻想郷は侠の事を受け入れている。それに目の前にいる初代龍神の子孫なワケでしょ? いいじゃない? 龍神もあんたを死なせないようにしてたって言っていたし。どうこう気にしてもしょうがないわよ」

 

 

 

 

 

「……そっか……気が楽になったよ。ありがとう」

 

 私の言葉に侠は安心したようにしてお礼を言ってくれた。

 

 ……ちょっと恥ずかしいわね……。

 

「勘違いしないでよ。私は単に侠が死にそうな顔をしていたから声をかけただけなんだから」

 

「……そんな顔をしてた?」

 

「してたわよ。少し心配したわ」

 

「ふむ……」

 

 話している中、ティアーが私達を見定める……どうしてよ?

 

「何? 文句でもあるの?」

 

「いや、気にせんでいい。主もとりあえずは吹っ切れたようだしの……では、我と戦う弾幕ごっこについて説明しようかの」

 

 私は侠の手を離し、概要を聞くことにした。

 

「ルールはごく単純だの。我の明らかな敗北の状況、もしくは我が降参したときは我の負け。逆にお主達がどちらかが戦闘不能になったらお主達の負けだの」

 

「自分か博麗がどちらか動けなくなったら負け、か。正式に自分が負けたらどうなるんですか?」

 

「体の主従権は我になる。まぁ、たまに主を表に出すがの。逆に主達が勝てたのなら、我が制限している変化(へんげ)についての上限を無くそう。さらには我の力を貸す」

 

「変化というと……龍化? アレって自分の能力じゃないんですか?」

 

「違うの。幻想郷の環境に触れたのがきっかけで先祖返りの素質が目覚めたに過ぎぬ。あれはいわば濃く先祖返り受け継いだ特徴でもあるのだ。変化についてはもう外界でも使えるが、すすめはせぬ。我は主のために思い、変化の時間を制限したのだ。先祖返りとしての恵みといえども、常に変化状態は感心せぬからの。前に霊夢が何の能力か確認したときは……幻想郷に来たばかりのせいか、龍化について注目してしまったんだろうの。それに──主はきちんと能力を持っている」

 

 ……やっぱり、龍化は能力じゃなかったのね……っていうか、明らかに龍化の方が何か能力っぽいじゃない。

 

「侠は実際はどんな能力なの?」

 

「その事については弾幕ごっこが終わってから話すとしよう。一応言っておくがの、その能力は主だけでは意味がない。我の能力か、繋がりがあればあるほど発揮する。実は主は今、絶賛能力を発動中だの」

 

「ご先祖様……自分の能力って常時発動なんですか?」

 

「まぁ、分類的にはの」

 

 そう肯定して戦闘態勢を整えるティアー。これ以上は教えてくれないみたいね……。

 

 私もお札を構える。

 

「侠……あんたの体なんだからちゃんとやんなさいよ!」

 

「……了解!」

 

 侠はスペルカードを取出し、宣言。

 

「武符【リトルセイバー】!」

 

 侠は武器スペルを宣言して、左手に持って構える。そしてティアーに剣先を向け――いつかみたいに――

 

「──先祖とか関係ない! ご先祖様のおかげで俺は生きることができているのかもしれないが……これは俺の体だ! 誰にも渡さない! 博麗、勝つぞ!」

 

「……あったり前でしょ!」

 

「ふむ……現状での主の全力を惜しみなく出してきたか。まぁ、いいの。我も現状での全力を見せるのみ!」

 

 そう私達に言い、ティアーもスペルカードを取り出して宣言した。

 

「──適合【フレイムオーバードライブ】!」

 

 宣言し、ティアーの体は炎に包まれた。そして、髪の毛は伸びて白髪に、朱色のコートを着て、目の色も朱色。一見外見は妹紅に見える。妹紅の力を手に入れているみたいね。

 

 その光景を見た侠はティアーに話しかける。

 

「……ブリザードと少し似ている……やっぱり、あの時の言葉は空耳じゃないかったのか……」

 

「悪魔の妹のフランドール・スカーレットの戦いのときに助言したのは我だ。お主に我の能力で手に入れた氷の妖精の能力をお主に渡したのだ。そして――お主の能力が発動し、さらなる力となって能力をお主は使ったのだ」

 

「……ご先祖様、俺の能力とは──」

 

「さて、雑談は終わり。戦いが終わったときに教えてやるがの……まずはお主たちで考えることだの!」

 

 ティアーがそう言うと、私と侠の弾幕ごっこが始まった……。

 

 

 




 語りだから良かった物の、その行動が描写されていたらちょっとな内容……。

 次回はようやく戦闘。

 ではまた。

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