三人称視点。
では本編どうぞ。
『──!? 初代龍神……ですって……!?』
偽侠が静雅達に自らの正体を明かした光景をスキマ越しで見ていた──八雲紫。ようやく足を掴み、彼らの観察を続けていたら……紫も知らない真実を知ることになった。
「(龍神は確かに存在している……だけど、初代!? 龍神は永遠の命ではないの!?)」
紫は自分の考えていることとは思い違い、混乱していたが……一先ず落ち着き、考えを整理する。
「(静雅の言っていた事である、侠の先祖返りが龍。どうしてかはわからないけど、残留思念……侠に取り憑いていたって事? 私達が感じてた違和感がそれなのかしら? その龍神が侠と関係しているならば……侠はこの幻想郷を創った龍神の先祖返りってことになるわね)」
紫は納得した。どうして膨大な妖力を人間の体ながら持っていたのか。龍神の先祖返りとして生まれた侠のデフォルトの大きさ。そして龍神自体が持っていた力が合わさって妖力が膨大になっていたのだろう。
「(でも……そうなると妖力だけじゃない。他にも妖力以外の元が積み重なって──)」
『八雲紫よ。能力で覗き見をしていないで出てくるか隠れるかどちらかにせい』
「(──えっ!? そんな……!? 気配の境界を操ってまで気づかれないようにしたのに……!?)」
スキマに視線を合わせた初代龍神のティアー。紫は反射的にスキマを閉じてしまった。
そして、紫はこれからどうするか考え始める。
「(……幽々子達に知らせると同時に、まずは侠の容態を確認して……。それでいつでも侠に伝えられるように霊夢に教えておく方が先ね……!)」
紫は能力で博麗神社へと向かった……。
八雲紫が来る前の博麗神社。霊夢は侠を布団に寝かせ、容態を見ていた。
「…………侠…………」
霊夢はそう呼びかけるも反応はなく、正しい寝息だけが聞こえてくる。まるで彼女の言葉が彼に届いていないかのように。
「……早く、目を覚ましなさいよ……っ! さっきあんた起きたばかりでしょう! 本当にあんたは心配かけて……っ!」
焦燥を含めた声でそう言いながらも霊夢は顔を侠の顔に近づき、侠の頬を手で添える。そして──彼の顔を見ながらある考えがよぎる。
「(何で私……侠の事をこんなに心配しているんだろう?)」
霊夢は不思議だった。侠が幻想郷に来た当初は便利な人しか思っていなかった。しかし……静雅の起こした異変で評価が変わった。
真面目。
恥ずかしがり。
女々しい。
男らしい。
ヘタレ。
格好良い。
霊夢は様々な侠の一面を知りたくなった。だから一度、侠を知るため買い物に誘おうとしたが……その時は紫によって攫われてしまった。
気分が悪くなった。紫を退治しようとした。仕方ないから静雅に侠の事を聞くことにした。
そして侠を迎えに行き、神社に着いて……嬉しかった。約束を覚えててくれてた。楽しかった。彼のことを少しでも知ることが出来た。
今まで魔理沙や霖之助、紅魔館、白玉楼、人里、永遠亭、妖怪の山、守矢神社、天界、地底。様々な人妖や魔法使い、神様と触れ合ったりしている。無論、静雅もそうだが……侠だけは何かが違う。霊夢はそう確信していた。
「(……たまに脈が速くなるけど……これは多分関係ないわね。うん)」
──しかし、霊夢は気がつかない。今までそういう感情とは無縁だったのだから。
彼のことを考えるをやめ、霊夢はじっと寝ている侠の顔を見る。
「……案外、可愛い顔して寝てんのね」
悪戯心が沸いたのか、霊夢は寝ている侠の頬をつつき始める。
フニフニ。
「(……癖になりそう)」
フニフニフニフニ──
しばらく、霊夢は侠の頬をつついていた。つれに回数が増えていったのだが──霊夢の背後の襖が大きく開く音が響いた。白黒が特徴な人物が霊夢の行動を把握する前に──
『おい霊夢! 紫から聞いたが何か大変なことに──』
「────(パンパンパンパン!)」
「──ちょまっ!? 霊夢!? 何で寝ている侠に往復ビンタなんてしているんだぜ!?」
「うっさい。侠の目を覚まさせてんのよ。魔理沙は邪魔しないで」
「他の起こし方もあっただろ!?」
急に魔理沙が現れ──霊夢は指でつついているところを見られたくなく、乱暴だが往復ビンタに変えた。
「(他意はないのに‥‥あんなところを見られたらあんた突っかかるに決まっているじゃない……)」
内心表情を隠している霊夢とツッコミを入れていた魔理沙のところに──スキマが現れては、紫が出てくる。偶然にも霊夢の往復ビンタは見られていなかったが……紫は霊夢に侠の容態を尋ねた。
「霊夢……侠の容態はどう?」
「……ダメね。起こそうとしても起きないわ」
「……確かに起きない侠もどうかしてるぜ──」
「ごめん、さすがに痛みで起きた」
魔理沙の言葉の途中で──急に寝ていたはずの侠は布団から上半身を起こした。それを見た霊夢は驚愕。彼女は侠に問いかける。
「……何時から起きてたの……?」
「何か博麗に理不尽な往復ビンタをされているときかな……まぁ、何時までも寝ていた自分が悪いと思うんだけど」
「……なら良いわ」
「いや、そこは霊夢謝れよ……」
魔理沙は呆れ声を出したが、霊夢は気にしない。
そんな二人をよそに、紫は確かめるように侠に質問をする。
「侠? 体の具合はどうかしら?」
「……少し体が重く感じます」
「無理はないわね。侠の力の一部が持っていかれているんですもの」
「紫……何か進展でもあったの?」
彼女の言葉に疑問を覚えた霊夢は問いかける。彼女の質問に紫は答えた。
「えぇ。重大な事よ。侠も落ち着いて聞いてちょうだい」
紫はスキマを作って、この場にはいない幽々子達にも聞こえるように話し始めた……。
淑女(?)説明中……
「──以上のことが明かされた侠の真実よ」
「…………」
この場にいる三人は驚愕した。特に侠は最も驚いたであろう。まさか思い込みだが、龍と関係のある子孫と聞かされたときは。
それはすなわち──辰上と関係のあること。
それを聞いて魔理沙は気を掛けるように、侠に言葉を投げかける。
「ま、まぁ……ある意味良かったんじゃないか? 自分のことが少しでもわかって」
「…………いろいろと静雅に問い詰めたいことはあるけど……この際、気にしないでおくよ。何らかの事情があって静雅はそうだったんだろうし。でも、何でその初代龍神ってのは自分のことを『
「外見そのものが侠に瓜二つだからじゃないかしら‥‥? 詳しいことはその初代龍神に聞かないとわからないわね」
侠の疑問に紫は答えた後──霊夢は立ち上がり、覇気のある声で紫に話し掛けた。
「侠のちゃんと意識は戻ったし、その初代龍神とやらをしばきに行くわよ!」
「……霊夢? 一応自称かもしれないけど……幻想郷の最高神よ? 喧嘩売るつもり?」
さすがに相手が相手なので紫は確かめるように霊夢に聞き返す。しかし、霊夢は何処吹く風。
「最高神だか知らないけど、しばくと言ったらしばく!」
「……いつもより霊夢のやる気が感じられるぜ……」
「……まぁ、いいわ。行きましょう──」
普段の彼女とは違う様子を見て魔理沙はある意味感心した声を出す。紫は彼女の行動を補助するかのように、移動するスキマを作っていた時──侠は呼び止めるようにして紫に話しかけ始める。
「──紫さん、自分も連れて行ってください! 直感的に自分も行かないと気がするんです!」
「……当然よ。むしろあなたがいないと事が進まないからね」
紫、霊夢、魔理沙──そして侠はスキマを通して初代龍神の元へと移動した……。
次話はようやく対面。
ではまた。