幻想世界に誘われて【完結】   作:鷹崎亜魅夜

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 クールな人が照れると何かわくわくしてくる。(ただし二次元限定)
 では本編どうぞ。


四話 『小悪魔、パチュリー・ノーレッジ』

 美鈴との実技試験を終えて……折られた木をオレはただ見ていた。

 

 オレの表情がまだ固まっているままの状態で立ち尽くしていたら、日傘を持ったレミリアがこちらに近づいて、折れた木を眺めてこう言う。

 

「ふむ……この力加減だと言われた通り力は全力だったわね……。いいわ。外来人、本堂静雅。あなたを紅魔館に迎えるわ」

 

「は、はぁ……ども」

 

 レミリアの合格通知にオレは曖昧に頷く。

 

「咲夜。静雅を図書館に連れて行きなさい」

 

「わかりました。それでは静雅様……失礼いたします」

 

 レミリアに言われ、咲夜はオレの手を握ると──いつの間にか、大きな扉まで来ていた──って!?

 

「何だ今の!? 瞬間移動かっ!?」

 

「いえ、瞬間移動ではありません。私の能力でここまで移動したのです」

 

「……能力?」

 

 これはまたファンタジーなことだな……。誰にだって一度は超能力の類に憧れるものだろ? オレだけじゃないはず。

 

 咲夜はオレの疑問に答えてくれた。

 

「はい。私は【時を操る程度の能力】です。ここまで移動したのは私以外の時を止めて静雅様を持って移動したのです」

 

「……えげつない能力だな……幻想郷だと一人一つの能力を持っているのか?」

 

 時を操る能力とか……本当に凄い世界だな……。

 

「そういうわけではありません。元々の個人が持っている潜在能力みたいな物で決まるみたいで、能力を持っている人物や妖怪がいれば、持っていない人物や妖怪がいるのです。ちなみにお嬢様は【運命を操る程度の能力】、美鈴については【気を使う程度の能力】を持っています」

 

「レミリア半端ねぇ!?」

 

 運命を操るとかもろチートじゃねぇか!?

 

「話はこれくらいにして……この先には幻想郷一の本の貯蔵量がある図書館です。奥の方にお嬢様の御友人であるパチュリー様がおられます。ひとまずそこでご挨拶をなさってください。パチュリー様から直々にお話があると思いますので」

 

「わかった……ところでさ、咲夜……」

 

 ちょっと話題に出しづらい話題だが……話さなきゃしょうがないだろ。

 

 オレの戸惑いの問いに咲夜は疑問を持ちながら聞いてくる。

 

「何でしょうか?」

 

「手……ずっと握ったまんまなんだが……」

 

「──っ!?(さっ)」

 

 そこを指摘すると素早く手を離した。少し顔が赤くなっていて──

 

「──何か可愛らしいな……」

 

「か、可愛っ!?」

 

 呟きが聞こえたらしく、口をこもらせながら軽く動揺していた。

 

 ……クールビューティが顔を赤く染めると可愛らしくなるな。

 

「今の呟きが聞こえたのなら済まなかった。それとさ、敬語はもうやめても良いと思うぞ? とりあえずオレも紅魔館の住人になるわけだからさ、レミリアとか上司(いるのか?)の前以外とかタメ口で構わないからさ」

 

「……そ、そう。なら静雅もそうよ。お嬢様方の前では敬意を持って話すこと。それを忘れないように。それじゃ、私はお嬢様の部屋に戻るから」

 

 少し顔が赤いまま咲夜はその場から消えた。時を止めて移動しているんだな……オレも何か能力があれば良いな!

 

 そう希望を抱いて、オレは大図書館の扉を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『──ただいま戻りました』

 

『あら。咲夜──? 少し顔が赤いようだけどどうかしたの?』

 

『い、いえっ! お気になさらず!』

 

『……まぁいいわ。ところで咲夜。さっきの実技試験のことだけど……どう感じたかしら?』

 

『……予想外、でした。押され気味でしたが……まさか組み手でトップクラスで妖怪の美鈴とやり合うなんて……。そして何より驚いたのは、攻撃をしていたところです』

 

『そこも私は運命とは言え予想外だったわ。力のなき人間は避けるので精一杯のはず。しかし静雅は美鈴に攻撃を加えようとした。ただの外来人ならば攻撃するという選択肢はないはずなのに』

 

『……おそらく、攻撃をすることで相手の思考時間を長引かせて時間切れを狙っていたのではないでしょうか?』

 

『予想外の行動をする外来人……スキマ妖怪も面白そうな奴を送ってきたものね。それで咲夜に聞きたいんだけど……組み手をしているとき、彼に不自然な点はあったかしら? 私の目だと何もなかったように見えるのだけど』

 

『…………実は、美鈴の攻撃について疑問があったのです』

 

『美鈴が?』

 

『はい……美鈴の攻撃する拳などが若干反れていたのが気になったのです。彼女の表情を見ると楽しんで本気でやっていたのは分かりますけど……拳が若干右に反れたり、蹴りが若干上の方へ反れたりと。それで静雅は逆の方向に避けていました。最後の攻撃の時も……やはり、攻撃が若干反れて彼は逆の方向に避けました』

 

『……拳法をやっている美鈴が目測を誤るはずがない。そうなると無意識での能力の発動かしら……?【攻撃を若干反らす程度の能力】かしら? ……なんか地味ね』

 

『いずれにしても、パチュリー様が静雅の能力を研究されると思いますので、結果を待ちましょう』

 

『そうね……ゆっくり待つとしましょう』

 

 

 

 

 

 

 

 

「すげぇ数の本だ……」

 

 扉を開けると、いくつのも本棚があり、一面中を本で埋め尽くしている。天井の近くまでもが本棚が置いてある。

 

 とりあえず奥まで目指して歩いてみる。ちゃんと奥まで行けば会えるのか?

 

 そう思った矢先、何やら頭と背中に羽根が生えた長髪のスーツ姿の女がちらっと見えた……悪魔だろうか? まぁ聞いてみるか?

 

「おーいっ! そこの悪魔っ子ーっ! ちょっくら聞きたいんだがーっ!」

 

 そう呼びかけると消えたところからひょっこり出てきて本を数冊抱えたままこちらにやってきた……どうでも良いけど、ここの住人って顔が整いすぎじゃないか? オレの目から見ても整形じゃないし……。

 

「はい? どちらさまですか?」

 

「今日からここに住み込みで働くことになった本堂静雅だ。咲夜に言われてここにいるパチュリーに挨拶に行けと言われたんだが、その人の場所まで案内を頼めるか?」

 

「あ、はい。ちょうどパチュリー様から頼まれた本を持って行くところなので。じゃあ案内しちゃいますよ?」

 

「おう。しちゃってくれ」

 

 見た目の種族のわりにはフレンドリーな悪魔だ。

 

 オレはその悪魔に一緒に歩きながら雑談をすることにした。

 

「お前さんの種族は悪魔なのか?」

 

「いえ、違いますよ。私は小悪魔です」

 

「小悪魔ねぇ……いろんな種族がこの館にいるのか?」

 

「そうですね。パチュリー様は魔女で、お嬢様方は吸血鬼。咲夜さんはこの紅魔館の中での唯一の人間で、美鈴さんは妖怪ですね。あとは妖精のメイドで構成されています」

 

「……は? 美鈴って妖怪なのかっ!? 見た目人間じゃないか!?」

 

「この幻想郷では見た目が人間で実は妖怪だなんて事は普通ですよ? 能力を持って人間だなんて人は私は四人前後ぐらいしか知りませんし」

 

「そんなに少ないのか……」

 

「ですから見た目が人間で中身は妖怪の人で、人間を食べる妖怪とかいるんですよ」

 

「うわぁ……」

 

「私も分類的は妖怪なんで、もしかしたら静雅さんのことを何かの弾みで食べちゃうかもしれませんよ?」

 

「──性的ならバッチ来い!」

 

「こ、こぁっ!?」

 

「お、おい……そんな真に受けんなよ……冗談を冗談で返しただけだろ?」

 

『何で驚かそうとした側が驚かされてるのよ……?』

 

 二人で雑談しながら歩いていたら突っ込まれた。

 

 そこには少し大きな机があり、机の上に本が積み上げられている。それに構わず本を読みながらこちらに話しかけた女。三日月が付いた紫の帽子みたいをかぶり、もみあげの両サイドにリボンをしている。そして肌は青白い。

 

 ……多分、この人がパチュリーだろう。

 

「あ、パチュリー様っ! 言われた本を持ってきました!」

 

「ありがと。悪いけどこっちの四冊は読み終えたから元の場所に戻しておいてくれないかしら?」

 

「は、はい……お任せください! ……あ、それとこの人は──」

 

「咲夜伝いでレミィから聞いて知っているわ。あなたが本堂静雅ね?」

 

 パチュリーは一度本から目を離して、オレを見てくる。向こうはオレのことを知っているだろうが、ちゃんと聞いた方が良いよな。

 

「あぁ。そうだ。念のために聞きたいんだがお前さんがパチュリーか?」

 

「そうよ。パチュリー・ノーレッジ」

 

 本を交換しながらパチュリーは答えてくれた。

 

 小悪魔はパチュリーから本を受け取るとどこかに歩いて行ってしまった。

 

「……ちなみに」

 

「ん?」

 

「……今まで読んだ本から推測するこぁの好みの異性は、大人しくて優しいタイプの異性が好みだと思うわ。あなたみたいなチャラそうな人は好みではないから、口説くことはお勧めしないわ」

 

「うん。何を言いたいのかさっぱりだがその気はないから安心しとけ」

 

「あら、あんなことを言っておいてこぁには興味がないの?」

 

「こぁ=小悪魔ってことはわかったが、好みではない。彼女とか作る気は今のところはない」

 

「ところであなたのことで聞きたいのだけど……」

 

 何かスルーされた。

 

「……あなた、人間?」

 

「まさか種族を聞かれるなんて思いもしなかったぞ。見た目通り人間だ」

 

「美鈴と肉弾戦でやるような奴はただの人間だとは思えないのだけど?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──ばれてしまったのならしょうがない。実は──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一応、あなたに素質、何かの能力がないか調べさせてもらうわね?」

 

「ボケ殺しっ! せっかくボケようとしたところを遮るなよ! 何かオレが悪いみたいだろっ!」

 

 この世界なら冗談が通じると思ったのに! 何というボケ殺しだ!?

 

 そう言いながらパチュリーは椅子か立ち上がり、本を持ってこちらに近づいてくる。

 

「……そこを動かないで」

 

 そう言うと本を開いて、何かを詠唱する。その後、オレの足場には魔方陣が展開され始める。

 

 ……マジファンタジー。

 

 詠唱を終え、魔方陣がなくなっていくと──一瞬、顔の表情が変わった気がした。

 

「……どうかしたか?」

 

「……率直に言うわ。あなたは人間でない、人間に近い存在よ」

 

「………………………………………………………………………………はっ?」

 

 え……オレ、人間卒業? What?

 

「待て待て……オレは普通に人間だ! DNA改造手術なんてしてないぞ!」

 

「おそらくだけど幻想郷に来た影響であなたの体に変化が起きたんじゃないかしら? 元の世界では人間らしいけど、多分この幻想郷限りでは種族が違うんだと思うわ」

 

「……元の世界に帰るとき、人間に戻るなら問題ないか」

 

「まるで他人事なのねあなた……自分のことなのに」

 

 何故かジト目でこちらを見てくるパチュリー。

 

「いや、なっちまったもんはしょうがねぇだろ? だったら幻想郷にいる間はその種族で楽しむさ」

 

 ……内心まさか冗談で言おうとした人外発言が本当だったことに軽くびびっている。

 

「……ま、いいんじゃない? 私もあなたのことを研究できればそれで良いし」

 

「……原形を保ったままで精神状態も正常なままでしてくれよ? 魔女が言うと冗談な気がしない」

 

「あら? 魔法使いや魔女などは調べたいことを研究してなんぼよ? あなたの種族は生では初めて見るし、知的好奇心がわいてくるわ」

 

 何これ怖い。

 

 だが……ここである疑問が生まれてくる。

 

「それで、今のオレの種族って何だ? 神か?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──神よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 とりあえず気になるだろうという場面で話を区切ってみた。
 裏主人公はパチュリーの言う通り突然変異。幻想郷の環境に触れたことで種族が変わってしまったと思ってください。もしかすると察しの良い人は「こいつと同じような種族なのか?」と思う方もいると思います。詳しくは次話──というよりも次話で裏・第一章は完結する予定。しばらくは書き溜めしないとなぁ……。
 ではまた。

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