幻想世界に誘われて【完結】   作:鷹崎亜魅夜

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 特別番外編で書かれた出来事、現在止まっている本編の事を忘れて読んでください。そして文字数が一章分あるというのはどういうことなの……?
 怪しい会話の後、表主人公視点。
 では時間軸番外編どうぞ。


時間軸番外編【バレンタイン】

 とある場所である人物達が話をしていた。片方が説明するように、もう片方はメモを取っているようにも見える。

 

「──外界ではもうすぐ【こんな行事】があるわけ。それをあなたに広めてもらいたいのよ」

 

「あやや……外界ではそのようなイベントがあるとは……しかし! それは確かに面白そうな【行事】ですね!」

 

「外界の日本としての【行事】を幻想郷に持ってくるわ。まぁ、その際で渡すのは【チョコレート】というものなのだけど……それは私が調達して藍に広めてもらうわ」

 

「【ちょこれぇと】ですか……わかりました! たくさんのネタが出来ると思いますのでお受けいたしましょう!」

 

「……よろしく頼むわね」

 

 

 

 

 

 

 

 人里で自分は珍しく静雅と一緒に行動していた。適当に大福を食べ歩いていると静雅から話し掛けてくる。

 

「そういやさ、幻想郷の日時で確認したんだけどさ……もうすぐだよな」

 

「? 何が?」

 

 唐突すぎてわからないので詳細を求めてみると、楽しそうに笑いながら静雅は答えた。

 

「何がって……バレンタインだよ! 楽しみに決まってんだろ!」

 

「……あぁ、あったねそんなの。幻想郷はこのタイミングなんだ?」

 

「反応悪いな、お前さん……侠はいつも陽花だけもらっていたっけか?」

 

「そうだね。というより静雅の所為で過去に君目当てで自分にチョコとか渡してくるんだもん……そういう日に限って静雅はモデルの仕事関連でいないし。だから自分はバレンタインの日はいつも学校休んでたよ」

 

「はっはっは。すまないな。オレがモテた所為で侠の疲労がマッハになった事は。でも幻想郷にいる限りそれは大丈夫だろ?」

 

 静雅は何だか浮かれているみたいだけど……自分はあることを言った。

 

「ここは忘れられたのが集まる幻想郷だよ? バレンタインは何処の国でもメジャーだし、忘れられることは永遠に無い。それはつまり幻想郷ではバレンタインが永遠にやって来ないことだと思うけど」

 

「──!?」

 

「いやいや……『そんなバカなっ!?』って表情をされても……」

 

 さっきまでの表情とは打って変わって驚愕への顔へと変わった。どうやらこの事は頭に無かったらしい。

 

 それでも静雅は諦めが悪いのか、呟くように言う。

 

「……誰かバレンタインを広めてくれねぇかな……?」

 

「……そこまで君はもらいたいの?」

 

 手に持っていた大福を食べ終えると……正面に見知った人物が手渡しで何か人里の住民に紙を渡している。烏の翼、頭に小さな頭巾みたいなものがある。

 

 静雅も気づいたようで、遠くからその人物に声をかけた。

 

「お? あれは──おーい文! 何してるんだー?」

 

 そう。静雅が言った通りそこにいた人物は烏天狗の射命丸文だった。

 

 射命丸もこちらに気づき、紙の束を鞄にしまうとこちらにやって来て話しかけてくる。

 

「これは静雅さんに侠さん。お二人で外出中ですか?」

 

「そんなもんだ……あぁ、それと……一応、幻想郷の住人でもある文に聞きたいことがあるんだがいいか?」

 

「? 何でしょうか?」

 

「……幻想郷で【バレンタイン】はあるのか?」

 

 ……悪あがきにも程があるよ、静雅……。

 

 でも……一瞬、射命丸が驚いたような顔をしたけど……改めて静雅に話を聞いた。

 

「……【バレンタイン】、ですか? ちなみにそれはどのような事で?」

 

「やっぱ浸透していなかったかー。バレンタインは男にとって一大イベントなんだ。とある物を貰えるかどうかで勝ち組と負け組が決まる」

 

「……そこまでの行事なんですか?」

 

「そこまでの行事だ……ちなみに、文は何を手渡していたんだ? やっぱ新聞だったのか?」

 

「まぁ、そのようなものです。では、私はまだまだやることがありますので失礼します」

 

 そう言うと射命丸は自分達から歩いて離れていった。そして再び人里の女の人に紙を手渡すのを再開した。

 

「……射命丸のあの紙、何が書かれているんだろう?」

 

「……そういやそうだ。オレ達にも渡してくれても良いはずなのにな?」

 

 静雅も疑問に思ったように発言したけど……考えたことを彼は言葉にして言う。

 

「もしかすると誰か限定で渡しているのか? それでオレ達はその条件に当てはまっていなかったとか」

 

「あぁー……それなら納得できるね。もしかするとさっきも女の人に手渡していたし、男に配っていない物なのかも」

 

「だったら野暮だな。じゃあ侠、もうちょっと探索しようぜ」

 

「ま、いいけど」

 

 自分たちは人里の探索を再開した……。

 

 

 

 

 

 静雅と別れ、博麗神社に戻ってみると……霊夢が縁側で何かの紙みたいな……新聞? みたいな物に目を通しながら独り言を言っていた。

 

「(……外界でこんな事があるんだ……。それで……【気になる異性に──】)

 

「霊夢? 何読んでいるの?」

 

 自分は霊夢に近寄って声をかけてみたけど……驚いた様子を見せて、自分から距離を取り始めた。

 

 ……特に驚かせるようなことはしていないと思うんだけど……?

 

 そんな風に考えていると、少し怒るようにして霊夢が話し掛けてきた。

 

「急に傍に現れないでくれる!? ビックリしたじゃないっ!」

 

「あぁ……気づいてなかったみたいだね……それはゴメン。それで改めて聞くけど……何を読んでいたの?」

 

「きょ、侠には関係ない事よ! それより夕飯の支度をして頂戴! 侠が当番なんだから!」

 

「? まぁ、わかったよ」

 

 自分は博麗の言う通りに夕飯の支度を始めるために台所へと向かった……。

 

 

 

 

 

  〜side 霊夢〜

 

 ……危なかったわ。この新聞を侠が読んでいたら予定が台無しになるところだった。私は再び新聞に目を通して読む。

 

「(……【女性限定! 一週間後には外界でいう【バレンタイン】の日が迫る!【チョコレート】を気になる異性に手渡してみたらどうですか? そのまま渡すのも良し、料理して手渡すのも良し! 詳しくは明日、八雲藍が簡単なレシピと共にチョコレートを手渡してくれるので正午頃、人里にて!【文々。】新聞特別号】……気になる異性、ね……)」

 

 私はちらっと食事の準備をしている侠を見る。確かに、同じ異性の霖之助さんと静雅とは違い何か気になる。渡したらどう違うのか分からないけど……行ってみた方が良いと勘で思った。

 

「……言うことにしたがって、侠には言わない方が良いのよね……」

 

 私は明日の計画を立て始めた……。

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。侠を博麗神社に留守番をさせて人里にやって来た。しばらく歩いていると……長蛇の列とともに、聞き覚えのある声が聞こえてくる。

 

『希望個数を言ってくれ。出来るだけ配慮しよう。まだまだ在庫はあるから心配しなくて良いからな』

 

 ……紫の式である藍の声だ。昨日の新聞通りに【ちょこれぇと】とレシピの紙を手渡しているみたい。

 

 私も最後尾に並んでみると──

 

『せっかくだからな。貰える物は貰っておかないと損だぜ』

 

『魔理沙は本当にいつも通りね……』

 

『でもどうして女性限定なのかしら……? 妖夢、あなたは知らないの? あの八雲紫が企んでいること』

 

『私も詳しく聞いてみたんですが、はぐらかされてしまいました……。当日、藍さんから教えて貰えるみたいで……』

 

 ……見覚えのある顔がいっぱいいた。順に魔理沙、アリス、咲夜、妖夢。あんたらも暇よね……私も深くは言えないけど。

 

 でも、知り合いがいるだけでも安心感がどこかにある。普通に並ぶのも含めて私は話し掛けることにした。

 

「あんた達もいるのね? この【ちょこれぇと】を貰いに」

 

「ん──お。霊夢もなのか。やっぱ貰える物は貰っておかないとな。外界の菓子とか珍しいしよ」

 

 最初に反応したのは魔理沙。次にアリスが私に話し掛けてくる。

 

「霊夢は何か紫から聞いてないの? こんな騒ぎになるような事をしておいて」

 

「知らないわよ。文が置いていっただけだから詳しいことを知るはずないじゃない」

 

 詳しいことに反応したのかわからないけど……咲夜が何かを思い出したかのように言った。

 

「詳しいこと……そういえば静雅が『バレンタインが無い世界なんて滅びれば良い……』とか言っていたような……」

 

「……そこまで外界では重要なの?【ばれんたいん】っていうのは?」

 

「……静雅の反応から見て重要そうよね……【ばれんたいん】っていうのは」

 

 しばらくその事について考えていると……急かすように妖夢が言う。

 

「あ、もうそろそろ私達の番ですね。行きましょう」

 

 妖夢の言われた通りに私達は前進する。すると藍がこちらを見ると安堵したかのようにしていた。

 

「ふむ……ちゃんと霊夢達も来たようだな。私の苦労も無駄ではなかったようだ……」

 

「御託はいいからその【ちょこれぇと】を渡しなさいよ。そのために来たんだから」

 

「まぁ、待て。紫様から【バレンタイン】について霊夢に詳しく説明しろと言われている。魔理沙達も聞いてくれ」

 

「? 何だぜ?」

 

 魔理沙の疑問も最もだったけど……藍は説明し始めた。

 

「外界のバレンタインというのは地域によって渡す物が違うんだ。今回は日本のバレンタインだが、違う地域ではメッセージカード──所謂手紙だな。それを女性が男性に渡すという行事だ」

 

「……聞いた話だと幻想郷は【日本】の分類よね。でも何で外界の行事を幻想郷に取り入れたのよ?」

 

 アリスの疑問に藍は何かの紙を数枚持った後、私達に手渡してくる。

 

「レシピの最初の冒頭に書いてある通りだ。まずはそれに目を通して欲しい」

 

 私達はレシピを受け取り、各々読んでみたけど……その中で咲夜が驚いたように発言した。

 

「! 外界では女性が渡すのはその男性に【好意】を持っている……!?」

 

「……その通りだ。基本的に日本のバレンタインでは異性の中で気になる男性に渡すとされている。そのチョコレート関係を受け取った男性はその事で逆にその異性に興味を持つとされている。まぁ、改めての挨拶と思った方が良いな。これからもよろしくという意味合いで渡す人物がいれば渡せば良いだろう。ちなみに同性に渡しても良いからな。女性が女性に渡しても問題は無いようだ」

 

「そ、そうなのですか……」

 

 妖夢の言葉を代表して大体は理解した。

 

 ……気になる異性っていうのは……私は侠よね……。

 

「(……私はこの場合だと静雅か? いつも弾幕ごっことかしているし……どうすれば良いんだぜ……?)」

 

「(……人形っていう観点なら静雅だけど……そうなると私が静雅に好意を示していることに──いいえ! これはお礼よ! 天牌人形を含めてのお礼! だから渡してもおかしくないはず!)」

 

「(……静雅とはコーヒーを一緒に飲んで喋ったり、暇な時間があるときはよく話す身近の異性よね……お嬢様へのも作ると同時に、静雅の分を作っても全然問題ないわね。それに静雅は欲しいようだし、ちょうど良いかも。静雅なら渡しても良いかもね)」

 

「(……この機に、侠さんは私を一人の女性として見てくださるのでしょうか……?)」

 

 ……まぁ、悩んだってしょうがないわね。そう思い、私は藍の行動を促す。

 

「じゃあその【ちょこれぇと】をもらっても良いかしら?」

 

「あぁ。ちゃんと侠に渡せるように頑張るんだぞ」

 

「っ!? 何で侠に渡すのが確定事項なのよ!?」

 

「はははっ。深い意味は無いさ。気になる異性、もしくはお礼の言う意味合いで渡せば良い。では、希望個数を言ってくれ」

 

 ……藍の言葉には納得いかないものの、私達はレシピとちょこれぇとを受け取って帰って行った……。

 

 

 

 

 

 

 

  〜side 侠〜

 

「……ねぇ、静雅」

 

「……何だ? 侠?」

 

「この頃、よく神社から追い出されるんだけど……」

 

「奇遇だな。オレも追い出される」

 

『……君達は何かしたのかい? 侠君に静雅君は?』

 

 静雅と考えが一致したのか……自分たちは香霖さんのいる【香霖堂】へ来ていた。自分たちの言葉に少し呆れている香霖さんだけど。

 

 その中で静雅が答える。

 

「レミリア嬢に怒られたときに【高い高ーい】ってやったから怒って追い出されたのか……?」

 

「君は今すぐレミリアに謝ってこい」

 

「……紅魔館の主に静雅君はよくそんなことが出来るね……ある意味尊敬するよ。その態度は」

 

「だろう?」

 

「いやいや、誇らしげに言う事じゃないから……」

 

 何だろう……年の離れた妹をあやしているような風景が浮かんだ。

 

 静雅の発言に苦笑する香霖さんだったけど、今度はこっちに話を振ってきた。

 

「それで……侠君は霊夢に何かするとは思えないんだけど……」

 

「してないですよ。ただ『暇しているなら神社から出て行ってて』っていうことで、暇な時間はよく追い出されるようになって……」

 

「……なるほど。その間に【いろいろ作っていた】のか……」

 

 ……? 何か香霖さんの発言に違和感を感じた。そのため、問いかけてみる。

 

「自分たちが出て行っている間に何か作っているんですか? 博麗は?」

 

「……悪いけど口止めされていてね。言えないんだ」

 

「……?」

 

「霖之助もある意味大変だな……そうなると魔理沙は知らないか? よく弾幕ごっこを申し込んできていたんだが、最近来ていなくて──」

 

 静雅がそう香霖さんに話を聞こうとしたときに──扉の出入り口から強く開かれた音がした。当然自分たちは振り返る。

 

『香霖っ! 悪いが今日も試食していってくれ──』

 

 全体的に白黒の服、三つ編みにリボンと言った人間の魔法使いの霧雨魔理沙だ。何かバスケットを持って差し出すようにしていたが……自分と──静雅を主に視線を向けると固まった。

 

 その事に当人である静雅が魔理沙に話をしてみる。

 

「魔理沙? 霖之助に何か用だったか? それにそのバスケットは──」

 

「じゃ──邪魔したぜ!?」

 

 何故か霧雨は扉を閉めて出て行ってしまった……?

 

 その様子を見てか香霖さんはお願いするように言う。

 

「……侠君、静雅君。霊夢達にいろいろ言われているならしばらくの間は香霖堂に来てくれ。いるだけでもいい。君達がいるだけでも随分違う」

 

「? は、はい……」

 

「(……試食、そしてかすかにあった甘いにおい。もしかしてな……)」

 

 ちょっといつもと違う香霖さんに感じたけど……自分たちはしばらくの間、香霖堂に寄ることになった……。

 

 ……どうしたんだろう? 香霖さん……?

 

 

 

「(……何やら魔理沙や霊夢、さらに咲夜やアリスに妖夢まで……【チョコ】を使った食べ物の試食させられている所為であまり気分がよくないんだよ……。何か外界の行事の真似事の予行演習みたいだが……)」

 

 

 

 

 

 

 

  〜side out〜

 

   【裏のバレンタイン】

 

 本堂静雅は咲夜に『夕刻過ぎに帰ってきて頂戴』と言われ、人里に珍しく歩きで向かっていた。フランを寺子屋に届けてすぐに言われた静雅だったが、渋々出かけることに。

 

 だが……彼はあることを確信しつつあった。

 

「(……過去に魔理沙がバスケットにあった甘い香り……アレは間違いなく【チョコ】の類いだ。そうなると……誰かが【バレンタイン】を広めているという事だ! 通りで最近人里に行くとチョコの臭いがして、女の視線がいつもよりあったわけだ!)」

 

 彼は察した。今の幻想郷はバレンタインが広まっていることを。それを確かめるべく、人里に向かっていた。考えを確信に変えるために。

 

 そして──彼が人里について数十秒後。人里の女性が静雅を見つけると──

 

『! いたわ! 彼が人里に来たわよー!』

 

『私が一番乗りするんだからぁー!』

 

『抜け駆け厳禁ー!』

 

「(おう。ある意味予想通りだ)」

 

 彼の周りの人里の女性達が集まっていった。そして次々と彼に包装された物が渡される。

 

『私の作ったの食べてー!』

 

『いっそ私を食べ──』

 

『言わせないわよ!?』

 

 時間が経つほど彼の周りに何十人も集まっていく。それぞれの目的は同じようだ。

 

 だが、静雅は──傍にいる全ての女性に聞こえるように言った。

 

「──悪いがオレは受け取らないぞーっ! そのチョコは友人にあげるとかしてくれーっ!」

 

 彼は──何と受け取りを拒否した。その事にざわめくが、静雅は言葉を続けた。

 

「そもそもそんなもらっても食べきれないんだ! 食べようとしてもおそらく今日中に食べ終わるのは無理。そうなると不公平になってしまうだろう? この日に食べてもらったのと食べてもらえなかったのとよ! 気持ちだけは受け取っておく! だが……お前さん達の好意は素直に嬉しいぞ!」

 

 静雅がそう説明すると人里の女性たちは渋々納得して静雅から離れていった。離れる時に彼の心を評価しながら。

 

 ……しかし、当本人はというと。

 

「(……貰えるのはともかく、知り合い以外からは貰う気しないんだよな……何かオレの求めているものとは違う)」

 

 どうやらあまり親しくない異性からは貰いたくないらしい。

 

 この発言で、女性の評価を上げる一方――

 

『『『――ちっ』』』

 

 ――静雅の発言を聞いていた男性の評価は下がった。

 

 

 

 

 

「人里厳禁となると魔法の森を探索することになるんだが──お? あの家は……」

 

 静雅は魔法の森で探索していたところに、見覚えのある一軒家──アリス・マーガトロイドの家を見つけた。

 

 本来の彼なら入っていくのだが──

 

「(……バレンタインに男が女の家にアポ無しで行くのは野暮だよな)」

 

 そう思い、翻して去ろうとしたとき──

 

『(ガチャ)ありがとなアリス! ちょっと静雅に渡してくる──』

 

「……ん? 魔理沙? アリスの家で何していたんだ?」

 

「…………は? 静雅?」

 

『どうしたのよ、魔理沙──って静雅!? どうしてあなたが私の家の前にいるのよ!?』

 

 魔理沙の行動が止まったからであろう。アリスが彼女の様子確かめに家から出たが……静雅がいた事を確認すると彼女も止まった。

 

 呆然としている魔法使い二人に説明する静雅。

 

「ちょっくらフラフラしていたらアリスの家の前に来ていてな。そのままどこかに行こうとしたら魔理沙がオレを見つけたわけだ。それで……魔理沙、オレに何か渡す物があるって言っていたみたいだが……何だ? その手に持っているバスケットは?」

 

 本当は何が入っているか彼は分かっているのだが、あえて言わない。魔理沙の言葉を待っている。

 

「えっと……その、だぜ……」

 

 言葉に詰まりながらも魔理沙は言いにくそうにしていたが──

 

「──受け取れっ!(ヒュッ)」

 

「(パシッ)おっふっ!? 急に投げてくるな!?」

 

「食いたきゃ食え! それだけだぜ! じゃあな!」

 

 バスケットを静雅に投げてそう言うと魔理沙は家に立てかけてあった箒を手に取り、帽子で目元を隠しながら飛翔してどこかに飛んで行ってしまった。

 

 その魔理沙から受け取りながら、彼女を目で追っていた静雅は呟くように言う。

 

「……随分スタイリッシュな渡し方だな……」

 

「それが魔理沙の渡し方なんでしょうけど。まさかここであなたに会うとは思っていなかったのよ」

 

 呟きが聞こえていたアリスは補足するように言った。静雅の意識はアリスへと移す。

 

「二人で何か作っていたのか?」

 

「……まぁ、魔理沙はあまり手先が器用とは言えないからね……型とかいろいろ作ってあげていたの」

 

「……食っても良いのか? 魔理沙、毒キノコとか入れていないよな?」

 

「疑う気持ちは分からないでもないけど入れてなかったわよ。せっかくだし食べてあげたら?」

 

 アリスに促された彼はバスケットの布を外して見る。そこには一個だけだが……大きめな星形のチョコがあった。

 

 それを手に取った静雅は一口食べて、溶かすように口の中で転がす。

 

 そして……一言。

 

「……やっぱ市販より、手作りの方がうまく感じるな。オレが求めているのはこういうのなんだ」

 

「……じゃあ、その事を魔理沙に伝えておくわね……」

 

 彼の魔理沙への評価を聞いていたアリスは一時的に家の中に戻り、手に布で包まれた物を静雅に差し出していた。顔を少し反らして頬を少し赤く染めながら。

 

「……わ、私のも食べる? いらないならいらないで良いけど……」

 

「オレは知り合いの好意を無駄にはしないぞ。出来ればアリスのももらいたい」

 

「そ、そう……じゃあ、はい……」

 

 アリスの差し出した物を静雅は受け取り、魔理沙のチョコをバスケットに戻して腕にぶら下げた後、彼女のを開封。

 

 彼女が作った物は以前、上海を直してくれたお礼としてクッキーを作ってきたことがあったが……茶色い斑点がある、チョコチップクッキーだった。

 

 それを確認した静雅は驚愕しながらアリスに尋ねた。

 

「すげぇ!? 外界の市販で売られているのと大体同じぐらいのクォリティだ!? アリス女子力本当に高いな!?」

 

「あ、ありがとう……褒めてくれるのは良いけど、食べてみてくれない? 味覚での評価を知りたいの。だから……食べてくれない?」

 

「モチ食うに決まっている!」

 

 静雅は彼女の願いを承諾し、一枚口に入れた。咀嚼した後に一言。

 

「やっぱうまいぞ! 本当にアリスは良い嫁さんになれるなっ!」

 

「ちょっ!? そんな事口に出して言わないでくれる!?」

 

「本心だから誇って良いさ! アリス、こんなうまいものありがとな!」

 

「なっ──」

 

「じゃあな、アリス! これからもよろしくな!」

 

 そう言うと彼はご機嫌そうに歩いて去って行った……。

 

 

 

 

 

「…………バカ」

 

 

 

 

 

 

 

  ~side 静雅~

 

 紅魔館に戻り、美鈴からレミリア嬢の伝言で『能力で部外者は入らせないようにしなさい』と言われてその通りにする。それが済むとオレと美鈴は紅魔館に入ると……甘いにおいがしてくる。

 

「……やっぱ、【バレンタイン】だからオレは一時的に追い出されていたのか……」

 

「前に咲夜さんに愚痴をこぼしていたみたいじゃないですか? それでサプライズとして、紅魔館の総意で静雅さんにあるんですよ?」

 

「ほほぅ? それは楽しみだ」

 

 そして美鈴と共にそのサプライズ場に行ってみると──スカーレット姉妹、咲夜、パチュリー、小悪魔が待っていた。テーブルの上には……薄いチョコの色で染められている【チョコレートケーキ】があった。

 

 待っていたかのようにレミリア嬢がオレを確認すると話し掛けてくる。

 

「喜びなさい。私達の総意という事で、【ちょこれぇとけーき】を作ってあげたわよ。これからも紅魔館のために尽くしなさい」

 

「……皆で分け合うバレンタインか。いいな、そういうの。じゃあ皆で食おう!」

 

 各々自分が普段座っている席へと移動し、咲夜がケーキを切り分けて渡していく。どうやらこのケーキはそれぞれの作る過程において手を順番に加えているらしい。もちろん、咲夜の監督の下で。

 

 フォークでケーキを刺し、一口食べると……程よい甘さが口の中に広がった。

 

「皆……うまいなこれ!」

 

「やった! 美味しいってお姉様!」

 

「当然よ。私達も作っているのだもの。おいしくて当然よ」

 

 オレの言葉にレミリア嬢とフラン嬢は上々の反応をしてくれた。ここまで心温まるバレンタインはないだろうな……!

 

 それぞれケーキを食べて舌鼓をしていると……小悪魔が思い出したようにして、立ってオレに近づいてきた。

 

「あ、忘れるところでした……個人的に用意しているチョコがあるんです。よかったら静雅さんにもどうぞ」

 

「……オレはついでか……」

 

「こぁっ!? つ、ついでではありませんよ!?」

 

 チョコが入っているだろう包みをうけとりながら軽く冗談を飛ばしてみたが、小悪魔は焦るような反応をした。小悪魔の言葉に反応してパチュリーと美鈴も会話に参加する。

 

「個別で貰えるだけでもありがたいんじゃない? 本来は辰上侠に渡したやつと大体は同じだけど」

 

「そういえば小悪魔さんは侠さんに渡しに行ったんですよね……彼、ちゃん受け取ってくれましたか?」

 

「はい! 普段あんまり見られないような表情でしたが……ちゃんとお礼を言われました!」

 

 どうやらちゃんと侠に渡せたらしい。あいつのことだから『ゑ? あ、うん……ありがとう……』とか言いそうだな。

 

 これで終わりかと思ったら──今度はフラン嬢が言葉を口にした。

 

「静雅ーっ! 私も個別にあるよーっ!」

 

「お? そうなのか? いやぁー、オレってばモテモテ──」

 

 フラン嬢がキッチンに向かっていき、持ってきたお皿に載せてあったチョコは──

 

 

 

 

 

 シュワワワワァ…… ←形容しがたい何かから発生している音

 

 

 

 

 

 ……………………チョコ? あるぇー? オレの知っているチョコとは随分違うなー? それともオレの目と耳が疲れているのかー?

 

 オレは助けを求めるようにフラン嬢以外の人物に視線を向けるが──駄目だ!? 皆気まずそうに顔をそらしやがった!?

 

 フラン嬢は他の人物の顔に気づかず、フォークで刺してオレの口元に持ってくる……!

 

「はい、あーん♪」

 

 ……天使のような笑顔をみせて処刑しようとしている悪魔ですかこの子? 確かに悪魔の妹だけどさっ!! これがまともなチョコだったら間違いなくフラグイベントだった! 恨むぞフラグの神様!

 

「──ままよ!」

 

 意を決してオレは形容しがたい何かを口に入れた。

 

 しばらく咀嚼して──オレは椅子をひっくり返し、仰向けに倒れてしまう。

 

「!? 静雅!?」

 

 フラン嬢の焦りの声が聞こえる。このままだとフラン嬢の思い出が苦くなってしまう。だからこそオレは口を開いて──

 

「フラン……嬢! ひと思いに全部食べさせてくれっ!!」

 

「! わかった! もっと食べたいんだね♪」

 

 オレの言葉をプラスの意味で受け取ったフラン嬢はオレの口に劇物を流し込む……能力で緩和してもダメージが発生するというのはどういう事だ!?

 

 そして……オレは全てを胃の中にいれた。仰向けだとオレの表情を悟ってしまうため、俯せになりながら……体が今もなお、ビクンビクンしていた。

 

「静雅……?」

 

 やはり不安になったのか、心配そうなフラン嬢の声が聞こえた。

 

 オレは安心させるために──右腕を上げ、手をグーの形にしながら親指を突き出した。

 

「! お姉様! 静雅が美味しいだって♪」

 

「そ、そうね……良かったわね、フラン……」

 

「うん♪」

 

 ……表情は見えないが、オレの犠牲でフラン嬢が笑顔になれるなら安いな……。

 

 

 

 

 

 

「……バレンタインってこんな鬼畜イベントだったか……?」

 

 オレはベッドで俯せになりながら自然回復を図っていた。能力でやれば本来手っ取り早いが……それだと体本来の治癒力が鈍るような予感がしたので能力は使用しなかった。

 

 今日はこれでもう終わりだなを思っていたとき──自室のドアからノックが聞こえたきた。

 

「? 誰だー?」

 

『十六夜咲夜よ。静雅、開けて良いかしら?』

 

「開けちゃってくれー」

 

 咲夜の声がし、入ることを許可すると……手元には──薄いチョコの色で染められているプリンを持っていた。

 

 念のためにオレは咲夜に問いかける。

 

「……それって咲夜の個別のか?」

 

「えぇ。本来はお嬢様達に出すべきなんでしょうけど……バレンタインということで、味見を最初にお願いしようと思ってね。それで……食べてみる?」

 

「……食わせてくれ」

 

 オレは咲夜からのバレンタイン物とスプーンを受け取り、すくって一口食べる。フラン嬢からのバレンタインの傷を癒やしてくれるような喉越しで──

 

「……どう?」

 

 少し心配そうな咲夜の声。オレはゆっくりと飲み込んだ後、こう答えた。

 

「咲夜──」

 

「? 何かしら?」

 

「──マジで嫁に来てくれないか?」

 

 無論、『冗談はよしなさい』と言って、少し照れながら軽く殴られたのは当然のことだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ~side 侠~

 

  【表のバレンタイン】

 

 朝早く寺子屋に行く際、人里に甘いにおいが広がっていた。このにおいは自分はよく知っている。

 

「……【チョコ】だ……このにおい。そうなると外界のバレンタインが何時の間にか幻想入りしていたのかな……?」

 

 いろいろ不思議に思うものの、自分は寺子屋の扉を開けると──

 

『あ、侠が来たー』

 

『! 遅いわよキョー! 待ちくたびれたわ!』

 

『チルノちゃん……侠さんは多分いつも通りの時間帯に来ているんだと思うよ? 私達が早く来すぎたんじゃないかな……?』

 

『それはみすちーが早く行こうって促したから、私達はこんな早くの時間から来たんだよね……』

 

『う……だってせめて一番に……』

 

『紫様の言っていた【バレンタイン】ですからね! わくわくする気持ちがあります!』

 

 ……氷鬼関係で遊んだことがあるメンツだ。順にルーミア、チルノ、大妖精、リグル、ミスティア、橙。そして橙が言ったことで今日の事を確認。

 

「……何時の間に幻想郷にバレンタインが幻想入りしたんだい?」

 

「紫様は外界での【面白い行事】という事で、烏天狗の元で広めたと事です。もちろん、私や藍様もお手伝いしました!」

 

「……まぁ、うん……頑張ったね……」

 

 ……紫さんはバレンタインを幻想郷に取り入れて何をしたいんだろうか? あの人の事はよくわからない。それでこの間射命丸が配っていたチラシがもしかしてバレンタイン関係のだったのか……。

 

 少し考えていると……ミスティアが自分に詰め寄ってきて話しかけてきた。

 

「侠っ! まだ誰からも【チョコ】もらってないよね!?」

 

「う、うん……まさか幻想郷にバレンタインとか普及するとは思わなかったし――」

 

「やった! 私が一番乗りだ! じゃあ侠――受け取って!」

 

 少し顔を俯けながら、ハートの形にラッピングされた……多分チョコを差し出してくる。

 

 ……生徒の物を断るわけにはいかないからなぁ……。

 

「……ありがと、ミスティア。後でゆっくり食べるね」

 

「後でじゃなくて今食べて感想言って欲しい!」

 

「そ、そう? じゃあ一口ずつ……」

 

 ラッピングを解いて、ハート型のチョコを一口齧る。

 

 ……うん。チョコだ。多分溶かして定番なハートの形に固めたのかもしれない。

 

 期待しているような目で見られているので、当たり障りなく言う事に。

 

「うん……おいしいよ」

 

「やった♪」

 

 褒められたのが嬉しいのか、ミスティアは小さくガッツポーズ。まぁ……喜んでくれて何より。

 

 一口ずつ齧り続けていくと、今度はチルノがミスティアの前に出てきて、てで後ろに持って隠していたものを――

 

「フフフ……キョー! アタイからも特性チョコあげるわ! こーえーに思いなさいっ!」

 

 

 

 

 

 ――そう言われて目の前に出されたものが――氷漬けになった板チョコ。

 

 

 

 

 

 ……どうしろと?

 

「…………うん、チルノありがとう…………」

 

 一先ずだけど、お礼は言っておく。

 

 チルノっぽい能力を使えるようになって以来、寒さや氷関係を触っても冷たくなくなったけど……扱いに正直困る。

 

 しかし……チルノはミスティア同様、期待したような目で話しかける。

 

「食べないの?」

 

「さすがに氷まで食えというのはさすがに無理があるから……。解凍してから食べる。最強のチルノが凍らせたチョコはおいしいだろうなー(棒読み)」

 

「! そうでしょそうでしょ! 何せアタイはサイキョーなんだから!」

 

 なんだかんだチルノを褒めるとうまくいく。最近そう学んだ。このチョコは……休み時間にチルノっぽい能力で溶かせられるかな……?

 

 氷漬けチョコをどうしようか決めた時、大妖精とリグル、橙も小さな包みを出して、各々渡してきた。

 

「私達からもどうぞ。日頃の勉強のお礼でもあります。これからもわからない問題があったらよろしくお願いします」

 

「侠さんに結構助けられていますから。よろしかったらどうぞ」

 

「藍様と紫様と同じものですが……今後とも、お願いします!」

 

 三人にお礼を言い、いまだアクションがないルーミアを見てみるが――

 

「うー……食べたいー(じゅるり)」

 

 ……葛藤していた。おそらくそのままの板チョコなんだろうけど、本人が食べたいのか涎を垂らしながらも……最終的には自分に渡してきた。

 

 ……ずっと涎を垂らしたまま、渡してきたチョコをずっと見ているけど――さすがにこれは……ね。

 

 自分はルーミアの渡した板チョコを半分に割り、その半分をルーミアに差し出しながら話しかけた。

 

「ありがとうルーミア。気持ちだけでも嬉しいよ。でも……ルーミアは食べたいんだよね? 自分は半分で構わないから、食べちゃっていいよ?」

 

「! じゃあ食べる―♪(パクッ)」

 

 迷いが消え、自分が差し出したチョコを口の中へ入れた。

 

 ――自分が差し出している左手を巻き込みながら。

 

「……ルーミア? ちょっと自分の手は放そうか?」

 

「ほぉこがほぉけていふー」

 

「いやいや、溶けていくからといって舐めまわすのはどうだろう……?」

 

 左手がものすごくくすぐったい。それを見ているチルノ達は笑っていたり、苦笑していたり。

 

 ルーミアがチョコを食べ終わって(舐めまわすのも含める)左手の状態を確認している時に――慧音さんと共に、他の寺子屋の生徒が入って来た。

 

 状況を確認するなり、慧音さんは少し笑って話しかけてきた。

 

「ははは。侠はもうさっそくもらったか。懐かれているようで何よりだ」

 

「やっぱり……慧音さんも知っていたんですね? 前の日とか教えてくれてもよかったじゃないですか?」

 

「いや、外界からやって来た侠と静雅には教えないようにされていたんだ。まさか外界の行事が幻想郷でやっているとは思わなかっただろう?」

 

「そりゃあ外界はバレンタインは忘れられることはないでしょうし」

 

 そう慧音さんと話していると……男の生徒から羨ましそうな声が飛んできた。

 

『侠先生すげーもらってる!? 俺まだもらってないのにー!』

 

『異変解決者になれば女の子からモテモテ……グフフ』

 

『お前が異変解決者になるとかねーから! むしろ俺がなるし!』

 

 ……それぞれの反応だと受け取っておこう。

 

 しかし、慧音さんはそれを見てかどうかわからないけど……生徒達に声をかけ始める。

 

「大丈夫だぞ? 今日ちゃんと寺子屋に来た生徒達は必ず一個はもらえるからな? だからもう席に座っていると良い」

 

 慧音さんがそう言うと、生徒達、自分の近くにいたチルノ達も席に座り始めた。

 

 途中でもちろん静雅とフランドールが出現し、静雅は彼女を送ると去って行った。それで一応、フランドールに今日の事を話してみたら――

 

『うん♪ 紅魔館の皆で一緒に【ちょこれぇとけーき】を作るんだけど……静雅には個別で私が作ったちょこを食べてもらうんだ♪』

 

 ……愛されているね、静雅は。

 

 そして……授業が始まる時間だけど、慧音さんは少し大きめな器を教壇の上に出しながら言った。

 

「皆の知っての通り、今日は外界で言う【バレンタイン】だ。そこで……私からのバレンタイン。男女問わず順番に並んでくれ! 一口で食べられるようにしたチョコを渡したいと思う。欲しい生徒は並ぶと良い!」

 

 慧音さんがそう言うと……一瞬にして男女問わず生徒が教壇の前に行って列を作って並び始めた。

 

 ……順番が少なくなるのを待って並べばいいのに……だけど、生徒たちは活気があふれている。やはり特に男子は、もらえるだけでも嬉しいみたいだ。慧音さんみたいな凛とした大人の人にもらえるのは大部違うんだろうね……。

 

 自分はその光景をずっと見守っていた……。

 

 

 

 

 

『……気のせいか、良く生徒たちは授業に集中してくれたな。バレンタイン効果か?』

 

『自分にはよくわかりませんが……『もらったんだから頑張らなきゃ』的なことかと』

 

『……まぁ、生徒たちが喜んでくれて何よりだ』

 

 授業が終わり、明日の為の瓦版作りをしながらそういうことを話していた。

 

 あれからというものの、休み時間に入ると女子がとある男子に渡していたり、【友チョコ】という事で女子が女子に渡していたり。

 

 ……まぁ、チルノ達以外の女子から数個もらったけど。

 

 すっかりカバンがふっくらしている状態を眺めていたら、慧音さんは気づいたようで話題を振ってくる。

 

「やはり……侠は外界でもらっていたのか?」

 

「外界でそういう日は休んで、他人から貰わないようにしていました。静雅目当てで自分に渡してくる女子が絶えなかったもので。そういう事で身内で義妹ぐらいしか」

 

「……それは意外だな。それで侠に妹がいたのか……」

 

「アグレッシブすぎる義妹ですけどね」

 

 そうこう会話をしながら作業をしていると……ノルマを達成した。

 

「一応、仕事が終わりましたので今日はこれにて帰りますね。では――」

 

 そう言ってカバンを持ち上げようとしたとき……慧音さんから制止の声がかかった。

 

「あぁ、待ってくれ、侠。確か君は順番に並ばず、ただ傍観しているだけだっただろう?」

 

「まぁ、慧音さんのチョコは生徒にあげているみたいでしたし。一応教師である自分はただ見ているだけにしていました」

 

「……その、何だ……ちゃんと私は侠の分を用意してある」

 

「……ゑ? そうなんですか?」

 

「そうなんだ……だから少し待ってくれ」

 

 慧音さんはそう控えめに言って一時別の部屋に行くと、一口チョコとは違う、ショコラみたいなチョコをフォークと一緒に机の上に出してきた。

 

「……自分のだけ他のチョコとは違いませんか?」

 

「侠が寺子屋に来て以来、私の仕事が軽くなったのも含んだお礼的なものだ。それに……侠は異変解決者でもあるからな。侠が人里にいるだけでも心強いんだ。そういう期待もある。それで……よかったら食べてくれないか? 感想を聞きたい」

 

 そう言われ、自分はフォークを持って切り分け、食べやすいように一口サイズにしたのを口に入れて咀嚼。

 

 味わっている自分の様子を見てか、不安なのかよくわからないけど……一言聞いてきた。

 

「……どうだ?」

 

「普通においしいですよこれ。よく外界のお菓子を作れましたよね?」

 

「そ、そうか……美味しいか……!」

 

 素直な評価を口にしてみると、笑顔を浮かべながら喜んでくれた。少し照れくささを感じるも食べ続け、ちょうど完食した時――

 

『侠さーん、いらっしゃいますかー?』

 

 外から聞き覚えのある声が。声の質から判断すると――

 

「……こぁさんかな? 今の声?」

 

「……どうやら侠を呼んでいるみたいだな。もう仕事は終わっているんだろう? 帰りがてら会いに行ってはどうだ?」

 

「そうします。それで……御馳走様でした」

 

 挨拶をして、自分はカバンを持って寺子屋から出て行った……。

 

 

 

「……この調子で人里の警備隊にどうかと誘いたかったが……間が悪かったみたいだな……また今度にしよう」

 

 

 

 

 

 

 

 寺子屋から出てみると、スーツ姿で頭と背中からは悪魔の翼。紅魔館の図書館の司書をやっている小悪魔さん、通称こぁさんが寺子屋の前で待っていた。

 

 その事に当然疑問に思い、自分はこぁさんに話し掛けてみる。

 

「どうしたのこぁさん? 人里の寺子屋まで来るのは珍しいね?」

 

「この時間帯だとまだ寺子屋にいると過去に静雅さんは言っていたもので……今日は何の日かご存じ──というよりもカバンからのにおいで、やっぱり侠さんはたくさんもらっているみたいですね……」

 

「外界にバレンタインが普及したのはかなり意外だったよ。しかもその発端は紫さんらしいし。あの人の行動はいまいち良く読めないんだよね……」

 

「で、ですので、あの──」

 

 話している最中で急にこぁさんはモジモジし始め、こぁさんの肩にかけていたカバンからラッピングされた小さな箱を取り出して──

 

「──よろしかったらどうぞ!」

 

 ──顔を伏せて、自分に渡してきた……ってこぁさんも?

 

「ゑ……あ、うん……ありがとう……」

 

 何て言うんだろうか……慧音さんとはまた違った印象が強い。すこしその印象に戸惑ったり。

 

 少しぎこちない笑いをしながらお礼を言って受け取ると、その事がよっぽど嬉しかったのか笑顔を浮かべながら言葉を言った。

 

「はい! こちらこそ! では侠さん、感想は後日図書館に来てくださった時にお聞きしますね♪」

 

 こぁさんはその場で感想を聞くことはなく、上機嫌な様子で飛翔して去って行った。

 

 ……正直、こぁさんの応対は助かった。また試食してくれと言われたら夕飯が胃に入らなそうだったから。

 

 少しラッピングをほどいて中身を確認すると、小さな生チョコが六個あった──って生チョコって早く食べなきゃいけないものじゃないか……。

 

 だから自分は歩きながら一口ずつ食べていく。こぁさんの作った物は甘さ控えめで食べやすかった……。

 

 

 

 

 

 

 

「……しばらくの間食はチョコになりそうだ……」

 

 こぁさんの生チョコを食べ終え、カバンの中身を確認しながらこれからの間食予定を立てる。正直ここまで貰えるとは思ってなかった……。

 

「……絶対一日で食べたら味覚がおかしくなりそう……」

 

 うん……チョコを食べている最中に誰か欲しいと言ったら分けよう。一口は最低限食べて、残りはルーミアに。極力は食べるつもりだけど。

 

 歩いて博麗神社に帰っているときに、自分の場所に急に影が掛かった。その人影と――人魂に見えるようなのもある。この人物は……。

 

「……魂魄? 何か用?」

 

「えっと……はい、そうです。ちょうど博麗神社に行って侠さんに渡すものがあって……ちょうど会えたようで何よりです」

 

 白玉楼の庭師でもある魂魄妖夢だった。手には小さなポーチを持っており、ポーチの中を手で探りながら確かめるように話しかけてきた。

 

「本日は外界の行事でいう【バレンタイン】じゃないですか? ですので……侠さんにこれからの意味も兼ねてお渡ししようかと……」

 

「あはは……とりあえずありがとう魂魄……」

 

 ……またチョコが増えるのか……。

 

 胸の内でそう思うがしまっておき、包みでもらうと……魂魄の視線がデジャヴ。自分と視線が合ったからというのかはわからないけど……やっぱり問いかけてくる。

 

「……食べてくださらないのですか……?」

 

「……うん、開けるよ……」

 

「! はい!」

 

 寂しそうな表情をしていたので、それでは何か可哀想に見えてきたので了承した。自分の声を聞くと元気に返事。

 

 本当は連続で食べるのは遠慮したいんだけど、表情はなるべく隠しながら包みを開けると――今まで見慣れた茶色いチョコではなく――

 

「……ホワイトチョコ?」

 

「あ、やっぱりご存じでしたね……。たまたま藍さんが配っていたチョコを数個もらったところ、紛れていたんですよ。チョコ関連はもちろん幽々子様や紫様にも渡しましたが……侠さんには【特別】にこの変わったチョコをお渡ししたかったんです」

 

「……別にゆゆさんでも良かったんじゃ――」

 

「ば、【ばれんたいん】というのは異性との行事とお聞きしていますので、やはりそこは侠さんじゃなくちゃダメなんです……!」

 

 上目遣いで訴えるような魂魄の声。そこまで重く考えなくても良いような気がするんだけど……まぁ、魂魄にも譲れないものがあるんだろうね……。

 

 自分は一口で食べられるようになっているホワイトチョコを一つ手に取り、口に入れた。

 

 途中で噛んでみると――チョコ以外の何かを噛んだ感触がある。これは――

 

「――ホワイトチョコの中に【アーモンド】が入っているような……?」

 

「そうなんですよ。紫様が『これを入れたらおいしく感じる』という事で入れてみたんですが……どうですか?」

 

「うん。美味しいから心配しなくていいよ」

 

「よ……良かったです……! 初めて作ったのでかなり心配で……!」

 

 自分の言葉で魂魄は安堵したように胸をなでおろしていた。まぁ……喜んでくれて何より。

 

 ……おっと。確か今日の夕飯の当番は自分だった。急がなくちゃ。

 

「魂魄、ありがとね。じゃあ自分は博麗神社に戻るから」

 

「は、はい……」

 

 そう思い、魂魄に別れの挨拶を告げてその場を去って行った……。

 

 

 

 

「……やっぱり、これだけじゃ振り向いてくれませんよね……もっと精進しなければ!」

 

 

 

 

 

 

 

 博麗神社に戻ってみると……カバンの中から同じようなにおい――まさかチョコ?

 

「……このために自分は追い出されていたのかな……?」

 

 そう分析すると――いつもの巫女服に白いエプロンをして、頬にチョコがついたまま霊夢が出てきた。その様子は何ていうんだろうか……戸惑っているような、恥ずかしそうにしていた。

 

 霊夢は自分の存在を確認すると、少し控えめに話しかけてくる。

 

「あ、ある意味……ちょうど良い時に帰ってきたわね、侠……」

 

「一応念のために聞きたいんだけど……まさかチョコを使った何かを作っていたの? それを知られないように追い出してまで?」

 

「う、うっさいわね……この【ばれんたいん】というのは異性のサプライズ的な行事ってあったからそれに従っただけよ。他意は無いわ」

 

「……ちなみに誰にあげるの?」

 

 少し悪戯心が湧いてきたのでちょっと聞いてみた。多分、消去法で大体は予想できるだろうけど。

 

 自分の言葉を聞いた霊夢は珍しく顔を背けながら答え始める。

 

「そ、それは……」

 

「まぁ、大方香霖さんか静雅だよね? 香霖さんは幼いころからお世話になっているというし、静雅とはもちろん交流はあるし――」

 

「違うわよっ!? 侠に決まっているじゃない――」

 

 わざと違う事を言って霊夢の反応を見てみたところ――見事に自爆した。言いかけている途中で詰まり、少しずつ顔を染めていく霊夢。

 

 ……最近、霊夢の感情表現が豊かになっているのを見ていると楽しい気がする。

 

「そっかー。自分だったのかー。まぁ、居候の時点でもしかしたらくれるんじゃないかと思っていたけどね」

 

「だったら言わすなっ!」

 

「ごめんごめん。ちょっとからかいが過ぎたね」

 

「……あげないわよ?」

 

「うーん……個人的にもらえると嬉しかったり」

 

「そ、そう……じゃあ、着いてきなさい……」

 

 霊夢に促されるまま居間に移動していく。そして居間の机には――大福?

 

「えっと霊夢……これ?」

 

「……食べてみなさい」

 

 どうやらこの大福がそうらしい。霊夢に言われ、数個ある内の一つを口の中に入れて味わうと――

 

「(ごくん)……大福の中にチョコがあったんだ……」

 

「……そうよ。あんた、人里で間食するとき和菓子関係のばっか食べているのを思い出してね……その中身をチョコに変えてみたのよ。それで……どう?」

 

 不安そうな霊夢の声。それに対して自分は思ったことを発言。

 

「結構好みだよこれ。毎日でも良いくらい」

 

「! そ、そう! なら良かったわ! 私が作ってあげたんだから当然よね!」

 

 うんうんと頷き、腕を組みながら自画自賛を含んだ言い方で喜んでくれた。

 

 ……まぁ、それは何より何だけど……さっきからずっと気になっていることがあるので、霊夢に聞いてみる。

 

「ところで霊夢……ずっと顔に付けているけど気づいていないの?」

 

「? 何か付いているの? 私の顔?」

 

 どうやら気づいていなかったらしい。

 

「ほら、ちょっと動かないで……」

 

 霊夢に近づき、指で霊夢の頬にくっ付いていたチョコを拭きとった。急な行動の所為か霊夢の体は一瞬震えたけど、指に付いたチョコを見せると納得したように言葉を言った。

 

「……いつの間に付いていたのかしら?」

 

「さぁ? 自分はいなかったからよくわからないけど……話している最中ずっと気になっていたんだよ」

 

「その時に言いなさいよ!?」

 

「いや、言い出すタイミングがあまりわからなくて……」

 

「……何か私ばっかり恥ずかしい思いをしている気がするわ……」

 

「いや、そう言われても……」

 

「……」

 

 一通り話が終わると霊夢は少し頬を赤くしたまま……チョコをふき取った指を凝視している。

 

「……霊夢? どうかしたの?」

 

「…………(あむっ)」

 

 

 

 

 

 そのまま霊夢は――口元を指に近づいて加え始めたっ!?

 

 

 

 

 

「ちょっと霊夢!? 君は何しているの!?」

 

「うっしゃい。すこひだまひなさい」

 

「いやいやいやっ!? 離そうよ!?」

 

 霊夢の舌がかなりこそばゆい!? ルーミアと違う感じで何かおかしく感じる! 咥えながら喋っている時とか特に!

 

 数秒立ってようやく口元から離して、さっきより顔を赤く染め上げながら何故か勝ち誇るように言った。

 

「私だけ恥ずかしい思いさせられるのは不公平じゃないっ! それにからかいもあったしっ! 仕返しよバーカっ!」

 

 舌をだしながら居間から出ていってしまった。多分自室に行ったのかもしれないけど――

 

「こんな仕返しをするとは思わなかったなぁ……バレンタインは人の行動までおかしくするんだろうか……?」

 

 霊夢が口に含んだ指を見ながら、【バレンタイン】の日が過ぎていった……。

 

 

 




 初めて時間軸番外編を書きましたが……これを書いてある間、本編の書き溜めが進められなかったでござる。申し訳ないですが、これからの時間軸番外編は本編の書き溜めが終わっていたら書くことにします。少なくとも何か月以上は書く事はなさそうです。締切に追われる感がやばい。

 次回からはようやく本編に戻ります。そして……この時間軸番外編の事は忘れて、フラグ回を読み直してみてください。

 ではまた。

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