幻想世界に誘われて【完結】   作:鷹崎亜魅夜

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 ※これは特別番外編の一部です
 三人称視点。
 ではどうぞ。


5shutter【表主人公、辰上侠について】

「――ってなわけで図書館に来たオレと文である」

 

「では小悪魔さん、よろしくお願いします!」

 

「こぁっ!? 私何ですか!?」

 

『あなた達は何をしたいのよ……? 唐突に来たと思ったらこぁに詰め寄って……?』

 

 取材二人組みが焦っている小悪魔を囲っているのを見て、呆れたように言う図書館の主であるパチュリー。

 

 その事に答えたのは静雅だ。

 

「なんか最後の取材は小悪魔と聞いてな。それで取材内容を聞いてみなぎってきた」

 

「……取材?」

 

 また彼女の中で疑問が湧いたような声を聞いた文はずばり言った。

 

「小悪魔さんへの取材内容は――やはり、辰上侠さんについてどう思っているかお聞きしたいんですよ!」

 

「こぁあああっ!? きょ、侠さんについて、ですかぁっ!?」

 

 文の言った言葉に小悪魔は頬を赤く染め上げながら動揺していた。

 

 紅魔館の住民と一部の人物は小悪魔が侠に好意を持っている事を知っている(ただし小悪魔本人は隠し通しているつもりでいる)。しかし、目の前にいる文は知っているのを理解した小悪魔は動揺しながらも彼女の言葉に応える。

 

「そ、それは新聞に、私が言った事が、新聞に載って侠さんにも、それ以外の方にも伝わるという事ですよね!?」

 

「そうなりますね。もし自分とバレるのが嫌でしたら匿名で載せる事も可能ですが?」

 

「私が単に恥ずかしい思いをするだけじゃないですかっ!!」

 

 文の補足説明を聞いて小悪魔はますます拒否の意を示した。再確認するように文は問いかける。

 

「あやや? ダメですか?」

 

「ダメですよっ!!」

 

「それなら……静雅さん、少し頼み事をよろしいでしょうか?」

 

「お? 何だ?」

 

 文に手招きされた静雅は彼女の元に駆け寄って、耳打ちをされていた。そして話し終えたのか――彼女はカメラのフィルムを取り出し、静雅に渡した。

 

「――ではお願いしますね」

 

「三分間待ってくれ。それ以内にはきっと出来上がる」

 

 彼女の言葉にそう応えた彼は、急に体がブレて消えた。当然疑問に思ったパチュリーは文に尋ねる。

 

「……何を頼んだのよ?」

 

「少し【あるもの】を作ってくれないかと頼んだのですよ。これは小悪魔さんにも特する事かと」

 

「……?」

 

 文の意味深な言葉に小悪魔達は疑問を覚えたが――数分後、静雅は図書館に戻ってきた。だが……彼の右手には三枚ほどの紙を持っているように見える。

 

 彼はそれとフィルムを文に手渡してカメラにフィルムを入れた後、三枚ほどの紙をこっそりと小悪魔に見せながら言った。

 

「……今なら取材に応じてくれるならば、この三枚の写真をお渡ししましょう……」

 

「これは――こぁああああっ!? きょ、侠さんの……!?」

 

「? どうしたのよ――ってこれは……」

 

 文の写真を見た小悪魔は一瞬にして顔全面赤く染め上げながらも凝視していた。パチュリーも気になり覗き込んだが……ある意味小悪魔がそうなったのか納得した。

 

 

 

 

 

 ――その写真は寺子屋で侠と静雅の写真を撮った際の、侠だけの写真だった。

 

 

 

 

 

 普段の彼は学生服をキチンと着こなしている。だが、三枚の写真は着崩していた。写真越しに誘うような、魅せられている写真、胸元は完全に露出している。それに加えて不機嫌そうな顔をしているが、逆に引き立って男らしさを醸し出している。そのような写真が二枚だったが――最後の一枚は上半身ワイシャツ一枚のボタン全開、腰元のズボンはベルトを外していてこちらを座り込んで見ている写真だった。

 

 その写真を見てパチュリーは疑問そうに文に尋ねた。

 

「よく彼がこんな写真を撮るのを許可したわね?」

 

「静雅さんの説得のおかげで撮れたようなものですからね。彼は異変解決者としても有名ですし、需要は確実にありますからね!」

 

「……まぁ、需要はあるのは確かね……」

 

 パチュリーは隣にいる使い魔に視線を向けると――顔を赤く染め上げながらも写真を見続けている。彼の普段と違うギャップの所為かもしれない。

 

 そして……文は誘うように小悪魔を誘惑し始める。

 

「小悪魔さん。今なら匿名で取材に応じる事でこのサンプル写真は差し上げます。おそらくこの写真を持っているのは私だけでしょうねぇ……。侠さんも、私の取材にもうほとんど応じないかもしれません。彼はガードが固いですからね。その侠さんが普段しないような格好で写真に収められています。しかも、この写真についての話題を小悪魔さんだけにしています。あなたは……この機会を棒に振りますか?」

 

「うぅ……」

 

 文の言葉に迷いが生じている小悪魔。良心を取るか、欲を取るか。

 

 迷っている小悪魔に――静雅が決心を促すように言った。

 

「素直になっちまえ。我慢する事はない。自分の好きなようにしたらいいさ」

 

 彼に言われて踏ん切りがついたのか――小悪魔は判断し、告げる。

 

 

 

 

 

「……文さん――申し訳ありませんが、その写真を受け取るワケにはいきませんっ!!」

 

 

 

 

 

 ――彼女は意を決したように断った。その事にかなり驚いた文は問い詰めるようにして彼女に話しかける。

 

「あややややっ!? 何故なのですか!? 貴重な侠さんの着崩しなのですよ!? 私の調査で小悪魔さんは間違いなく侠さんに好意を持っているはず! それなのにどうしてですか!? この機会を棒に振るのですかっ!?」

 

 文としては間違いなくこの誘いに乗ると思っていた。しかし小悪魔は先程までの表情が嘘のようにはっきりしており、もう迷いが無い顔だった。

 

 小悪魔は自分の考えをはっきりと伝え始める。

 

「確かに私はその写真が魅力的に感じ、揺らぎました。でも……同時にこう思ったんです。『これを受け取ると侠さんから遠ざかってしまうのではないか』と……」

 

「遠ざかる……ですか?」

 

「はい。文さんの言うとおり、私は侠さんの事を一人の男性として好きです。最近……よく図書館に通ってくださって、私なんかと雑談をしてくださっています。その時間はとても有意義で、楽しくて、嬉しくて……使い魔である時間ではなく、私でも一人の女性としても嬉しく思うんですよ。ずっとこのまま時間が止まっていたら良いなって……」

 

 頬を赤く染め上げながらも、愛おしそうに話を続ける小悪魔。

 

「雑談を通して侠さんをわかった事がたくさんあります。真面目な性格の中にある男らしさ。苦手なものがなさそうと思った時がありましたが、『そんな事はない』と言って照れている一面があったりなど。侠さんの魅力は数え切れないほどあるんですが……一つだけ、気がかりな事があるんです」

 

「……気がかりな事……ですか?」

 

 文は小悪魔の疑問について問いかけようとしたが――代弁するように静雅が答えた。

 

「……特定の人物にしか依存しない、という事だろう?」

 

「はい。聞いた限りですと……外界での友人が静雅さんしかいないと言っていました。侠さんは話す際も言葉遣いが正しく、性格も良いはずですのに……。それに加えて侠さんは過去の出来事を話してくれた事は一度もありませんでした。もしかすると侠さんは過去にトラウマがあると思うんですが……静雅さん、違いますか?」

 

「……正解。それで……その出来事をオレに聞いてみるか?」

 

 小悪魔の言葉を肯定した静雅。そして彼は何かを試すような言い方で彼女に問いかける。

 

 数十秒だろうか……小悪魔は考えを口にした。

 

「……いいえ、聞きません。侠さんの過去は本人からでないと意味がないと思うんです」

 

「過去の侠が今とは違って人格破綻者だとしてもか?」

 

 

 

「だとしても……どんな過去を持っていたとしても――侠さんには変わりありません! 過去にどのような出来事があったとしても――私は侠さんの事が大好きですっ! 例え侠さんが私を拒絶したとしても――私は侠さんの事を受け入れますっ!!」

 

 

 

 彼女にしては珍しく、大きな声で自分の意思を伝えた。

 

 予想以上の純粋な言葉に文は呆然としている中、静雅は笑いかけて誉めるように言葉を送った。

 

「充分だ小悪魔。いつか……侠に伝えられると良いな」

 

「はい……侠さんに口にして言葉を――」

 

 

 

 

 

「こぁ……彼、あなたの言葉を聞いていたみたいよ?」

 

 

 

 

 

「「…………えっ?」」

 

 パチュリーの言葉で静雅以外の人物は会話に間抜けな声を出しながらも、パチュリーの視線を追う二人。静雅は一人だけゆっくりと振り返る。

 

 

 

 視線の先には目を丸くしながら小悪魔を見ている――辰上侠がいた。

 

 

 

 彼への想いを熱弁していた小悪魔はみるみる顔が赤くなっていく中、文が恐る恐る彼に問いかける。

 

「きょ、侠さん? いつからそこに……?」

 

「……君が何かの紙をこぁさんに見せる前からいたよ。途中、フィルムを持っていた静雅に会って『侠はこれから起こる出来事を傍観していると良い』って言われて……それでこぁさん……さっきまでの言葉って本当……?」

 

 確かめるような言葉で彼は彼女に問いかけたが……小悪魔は手で顔を隠して――後悔するように泣き始めて座り込んでしまった。

 

「――ひぐっ……侠、さんに……聞かれちゃい……ました……」

 

「ちょっ!? 泣かないでこぁさん!?」

 

 侠はすぐに小悪魔に駆け寄ったが……彼女は彼に背を向けて、嗚咽を含めながらも言葉を言った。

 

「で、ですが……め、迷惑、ですよね……。私、なんかに、好かれても――」

 

「迷惑なんかじゃない!!」

 

 基本的に大人しい侠から出た響く声。その事で図書館にいる人物達の視線は侠に集まる。

 

 そして――

 

 

 

 

 

「自分――いや、俺だってこぁさんの事が好きなんだよっ!!」

 

 

 

 

 

 ――彼女が想いを言ったように、彼も――小悪魔に想いを告げた。

 

 当本人の小悪魔は顔から手を外して彼に振り返り、信じられないように言った。

 

「…………こぁっ!? きょ、侠さん!? じょ……冗談ですよねっ!?」

 

「誰かを好きという冗談は言わない! これは俺の本心だっ!」

 

 口調が男らしくなりながらも口にして伝えた。

 

 補足するように侠の親友でもある静雅は説明する。

 

「オレは結構侠の相談にのっていたんだぞ?『こぁさんにどうやったら想いを伝えられるか』ってな。図書館で会話を重ねる度に小悪魔の事を好きになっていたって。まぁ、侠だからこれ以外の理由もまだまだあるんだが」

 

「……そうだな。静雅の言うとおりだ。会話を重ねているうちにこぁさんがどんどんそうなっていた。まさか幻想郷で誰かを好きになるとは思わなかった。それだけ……俺にとって、こぁさんが異性として魅力的だったんだと思うんだ。そして何より……こんな俺を受け入れてくれる……その言葉にどれだけ惹かれたか……」

 

「……侠さん……!」

 

 彼の言葉で小悪魔は泣くのを止め、先程とは違う頬の染まり方をしながら、どこか期待しているような眼差しで侠の事を見ていた。

 

 そして、最初は遠慮がちな言葉を彼が言っていたが――

 

「……俺は卑怯だとは思う。こぁさんの気持ちを知っていながらこういう事を言うのは。だが……俺にも【男】としてのプライドはあるつもりだ。だから、言わせてくれ――」

 

彼もまた頬を染め上げながらも――

 

 

 

 

 

「――俺を一人の男として見てくれっ!!」

 

 

 

 

 

 彼もまた、想いを告げた。小悪魔の目を見ながら、真剣に。

 

 侠の想いを聞いた小悪魔は――先程の涙とは違うものを、頬を伝いながら――

 

 

 

 

 

「――はいっ!」

 

 

 

 

 

 目元から流れた涙を指で拭いながら、侠の想いを受け取った……。

 

 

 

 

 

 

 

『えっと、静雅さん……』

 

『……何だ?』

 

『もう、この小悪魔さんの取材内容は【図書館の司書、想いが繋がる】でいいですかね?』

 

『……それが良いと思うぞ……』

 

 取材二人組は目の前にいる――お互いに照れているように見える侠と小悪魔を見て文は静雅に問いかけたところ、彼は同意した。

 

 パチュリーは恋が叶った使い魔を祝福しながら、侠にある事を問いかけた。

 

「こぁ……通じ合って良かったわね。それで、やっぱり辰上侠は――」

 

「ノーレッジの考えている事と同じだよ。博麗には悪いけど、居住点を紅魔館に移そうと思う。レミリアは許可してもらえると思うし。【彼女】の隣で一緒に過ごす時間を作りたいしね」

 

「侠さん……♡」

 

【彼氏】の言葉に嬉しくなった小悪魔は、彼の腕に抱きついた。その事で侠は頬を少し赤くし、その行動した小悪魔も頬を赤くしていた。

 

 その光景を文は見て、小声で静雅に話しかける。

 

「(あの、静雅さん……見せつけられたのにも関わらず、妬ましく思う事はなく、逆に微笑ましいと思うのは何故でしょうか……?)」

 

「(二人がお互いに素直で真面目だからというのもあるんだろうな。それと、まだ言える事柄はある)」

 

 静雅は一度侠と小悪魔に目を向けるとパチュリーが会話に参加しており、彼女と侠が小悪魔に何か言った事に反応して先程より顔を赤くして抗議している。彼女の主と彼氏は反応を見て面白がっているように見える。

 

 そして、その様子を見て静雅は言う。

 

「――【小悪魔マジヒロイン】という事だったのさ……」

 

「……なんとなく納得出来たような気がしますね……」

 

 不思議と文は静雅の言葉に同調した。また侠達を見てみると、今度は侠が彼の彼女とその主に抗議しているように見える。

 

 そしてその光景を見て満足したのか、静雅は文に行動を促した。

 

「さて、邪魔者は退散するとして……文。一応取材はこれで終わりなんだろ? だったらもう文の家で新聞でも発行しようぜ?」

 

「そうですね……じゃあ戻りますか!」

 

 取材二人組は静かに図書館から出て行った……。

 

 

 




 次にこの話の感想を書いてくださるユーザー様は必ず最初に【小悪魔マジヒロイン】と書き込んでしまうでしょう。

 実は三回目の表主人公の写真、咲夜の回想での表裏の会話はこの為でもありました。侠と小悪魔との取材の間を一つ開けたのもこの為です。

 そして……小悪魔がアンケートで一位になった時、『これはやんなきゃいけないな』という使命感がありました。この小説の小悪魔は純粋に出来ているため、綺麗なヒロインだったら写真は受け取らないだろうなと思いつつ執筆していました。

 そしてようやく五人目……つまり、最後はあの人です。それに伴い──活動報告で企画した取材当てにおいて、見事に正解者がいました! おめでとうございます! 該当するユーザー様は取材当て企画の活動報告に書き込むか、メッセージにて特別番外編のリクエストをお願いします! 本編優先なので遅くなると思いますが……よろしくお願いします!

 ではまた。次回でこの特別番外編は終わりです。

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