ストライクウィッチーズ 一匹の狼   作:長靴伯爵

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みんデキもなくなり暇なGWになってしまいました

亀更新ですが、楽しんでいただけたら幸いです

感想、よろしくお願いします!!



第八十五話

 

 

 

 

 真っ青な空と海に挟まれた空間を2つの機影が奔る。

 細かい機動を繰り返す先頭の機影に対し、後方から迫る機影は何とか追いすがりペイント弾を放っていた。だが、それを先頭の機影は悉く回避してみせていた。

 

(・・・大分、訓練では落ち着いた動きが出来るようになってきたな)

 

 先頭の機影・・・神崎は、至近距離を追い抜いていくペイント弾を回避しつつも、冷静に後続の機影・・・リーネを評価していた。基礎訓練を終えた状態で501に配属されて数ヶ月経ったが、技術的な錬度の向上は順調と言っていいだろう。

 後は精神的な面だった。

 

(実戦は訓練のようにというが・・・難しい言葉だな)

 

 そう思案してペイント弾を回避した神崎は、一転反転して一連射の反撃を行った。この急な反撃にリーネは大きく機動を乱したが、それでも直撃弾を回避した。そしてすぐさま反撃しようとペイント銃を構えるが・・・。

 

「・・・え?」

 

 その時にはすでにリーネの視界に神崎は無かった。そして、そこでの困惑が勝負の別れ目となる。

 

「・・・考え込むな。考えながら動け」

 

「・・・キャッ!?」

 

 そうしてリーネは教えと共に上方から降ってきたペイント弾の直撃を貰うのだった。これで彼女の本日の被撃墜数が4回を数えることになった。

 

「今日は終わりだ・・・帰投するぞ」

 

「は、はい・・・」

 

 慣れない教官業を初め数ヶ月。いまだに拭いきれない違和感を感じつつも、神崎は今日もリーネを2番機位置に控えさせて基地へ帰投するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 基地へ帰投してデブリーフィングを終えた神崎は、これももう慣れた様子で隊長室へと出向き、リーネの訓練状況を纏めた報告書をミーナへ提出していた。彼女の訓練の進捗と別案件ついて幾つか言葉を交わした所で、神崎は書類の日付を見てふと何かに気付く。

 

「そういえば・・・」

 

「何かしら?」

 

 反応したミーナは、手元の書類に目を落としてペンを動かしたまま。神崎としても手に持った書類を捲りながら、こともなげに呟いた。

 

「・・・いえ。もうそろそろ坂本少佐が帰ってくる頃かと」

 

「ああ・・・そうね。ようやく、と言ったところかしら」

 

 ミーナも書類に書かれた日付を見たのか、軽く気を抜くような声で呟いた。坂本が言っていた通り、3ヶ月程度の帰国の旅になるだろう。おそらく、すでに喜望峰を越え、ヨーロッパ近海に来ているだろう。

 

「この前来た連絡では、新人をスカウトしたそうよ?」

 

「・・・教官は坂本少佐に。自分は、教官職には向きません」

 

 そう答えた神崎の表情は僅かに苦みが含まれていた。そんな神崎の表情にミーナはクスリと笑う。

 

「そうかしら。リーネさんへの訓練はよくやっていると思うわよ?」

 

「坂本少佐には敵いません。・・・バルクホルン大尉やイェーガー中尉にも」

 

「そう?そこまで卑下することはないと思うけれど・・・」

 

 なんとも言えない表情でサインを終えた書類を神崎に差し出すミーナ。神崎は軽く頭を下げて受け取った。

 

「新人の件については、坂本少佐が到着してからです。そしてリーネさんの件は・・・」

 

「次の実戦で1度見極める。・・・ということで、よろしいですね?」

 

「ええ。その方向で」

 

「わかりました」

 

 ミーナとの話は終わり、神崎は静かに部屋を後にする。廊下を歩きながら懐中時計を見ると、昼過ぎを指し示していた。昼食にしては遅い時間になってしまったが、食堂に行けば何か残っているかもしれない。

 

「まぁ・・・、最悪地下のラウンジに行けば問題ない・・・か」

 

 むしろそちらの方が、マシな食事がありそうにも思える。整備兵の中には料理に拘りのある者もいる。・・・もちろん、ブリタニア人ではない。

 1度談話室に寄って書類を置き、食堂へ向かう。この時間になれば誰もいないはずだが、食堂に近づくにつれて誰かが居るのに気付いた。

 

「・・・バルクホルン大尉?」

 

「ん?あぁ・・・神崎大尉」

 

 扉をくぐって食堂に入ると、テーブルにはバルクホルンが先客としていた。皿に盛られたジャガイモをフォークで突いているが、カールスラント軍人らしく規則正しい生活を行う彼女にしてはあまり見ない姿だ。

 

「・・・珍しいですね、大尉。こんな時間に」

 

「ああ。少し、訓練に熱が入ってしまってな。ハルトマンめ・・・」

 

「・・・なるほど」

 

 グサリグサリと潰されていくジャガイモがバルクホルンの苛立ちを如実に表していた。訓練の開始時間まで寝ていたのか、そもそも寝て訓練に来なかったのか。リーネの相手をしていた神崎には分からないことではあるが。

 厨房を覗けば、寸胴鍋にバルクホルンが食べている物と同じ茹でたジャガイモが入っていた。料理というにはあまりにも素朴すぎる昼食だが、何も食べないよりかはましだ。

 数個のジャガイモを皿に盛り、フォークを取ってバルクホルンの前に座る神崎。テーブルに置かれた塩を適当に振りかけ、ジャガイモにフォークを突き刺した。

 

「なぁ、神崎大尉」

 

「・・・どうしました?バルクホルン大尉」

 

 切り分けたジャガイモを口に運ぼうとしたところで、神崎はバルクホルンに声をかけられてしまった。やむなく手を止めて、彼女に目を向ける。

 

「リーネのことだが・・・意見を聞きたい」

 

「何の?」

 

「リーネを原隊に返すかどうかだ」

 

「・・・バルクホルン大尉はどうお考えで?」

 

 神崎としては、先程ミーナと話した通り、次の実戦が見極めのタイミングだと考えている。しかし、バルクホルンの意見はどうやら違うようだ。

 

「ここは最前線だ。新人が来ていい場所ではない」

 

「・・・一理あります」

 

 確かに、ここブリタニアはヨーロッパ陥落を防ぐ最後の砦である。ここが落とされれば人類には後が無くなる。新人ではなくベテランこそが求められる戦場であることは間違いない。彼女の言葉はもっともだ。

 

「・・・イェーガー中尉は?」

 

「享楽主義のリベリアンの意見など何の参考にもならん。何が、『大丈夫じゃないか?いけるだろ!』だ。あんな奴に仮とはいえ教官をさせるなど、金輪際辞めるべきだ!!」

 

「まぁ・・・確かに」

 

「リベリアンの意見はどうでもいい。神崎大尉はどう思う?」

 

「そうですね・・・」

 

 神崎はフォークを皿に置いた。ミーナにも話したことではあるが、それ以外にもまだ言葉にしていないこともある。

 

「・・・ビショップ軍曹の実力は、この部隊に配属されるには不相応でしょう。ここが最前線である以上、即戦力が必要となるのも分かります」

 

「ああ、その通りだ」

 

「ですが、ここほどの新人が生き残りやすい戦場は無いでしょう」

 

「・・・む」

 

 この言葉でバルクホルンの表情が動いた。思い当たる節があるのか、僅かにバツの悪さが滲み出ている。神崎は僅かに頷き、続きを口にした。

 

「バルクホルン大尉は勿論ご承知でしょうが・・・ネウロイとの戦線はどこも苛烈。新人が生還する確立は高くない」

 

「・・・そうだな」

 

「ですが、ここは各国のエースが任務に就いています。教官で名高い坂本少佐を始め、エースの動きを間近で学べる。ネウロイと戦闘しつつフォローに回る技量を持っている魔(ウィッチ)が揃っている」

 

「・・・確かに、神崎大尉の言うことも分かる。だが、ここは最前線だ。幾らフォローが出来る環境とはいえ、力のない者がここに来るのは・・・」

 

「・・・あります」

 

「何だと?」

 

 熱くなるバルクホルンの言葉を、神崎は一言で遮った。流石に機嫌を損ねたのか、彼女の目元がきつくなる。しかし、神崎は全く意に介さず食べ損ねたフォークを手に取った。

 

「力はあります。ビショップ軍曹はエースになる。・・・順調に成長すれば、ですが」

 

 そうして、神崎はようやく冷め切った昼食を口に運ぶのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の実戦とはいえ、ここでの戦闘は基本的に迎撃戦というのは言わずもがな。

 ネウロイの襲撃があるまでは、シフト通りの待機と訓練の日々。

 出現予想では、まだ数日猶予がある状況だった。

 

「・・・んんん?」

 

「・・・だからといって、なぜ木の上で寝ている?ルッキーニ少尉?」

 

 猶予があるとはいえ、まさか今日の迎撃要員である人物が基地の裏手にある雑木林、しかもその木の上で昼寝をしているとは思いもしないだろう。

 

 

 事の発端は、早朝。

 貴重な睡眠を堪能し、パっとしない朝食をエイラと世間話をしながら食べ、ブリーフィングルームでシフトと編成を確認していた。基本的に編隊長は少佐である坂本と大尉である神崎とバルクホルン、時々ミーナが配置される。最近は、坂本が不在の為、シャーリーも配置されることもある。

 今回のシフトでは神崎が緊急発進時の編隊長に充てられていた。僚機にはシャーリー、ペリーヌ、そしてルッキーニ。

 ここで神崎は気付いた。今朝の朝食の段階から、ルッキーニを見ていない。

 

「・・・シャーリー。ルッキーニ少尉はどこに?」

 

 

「あぁ・・・。そういえば、今朝は見てないな~」

 

「いそうな場所は分かるか?」

 

「どこかの寝床かもしれないけど・・・どこだろう?」

 

「・・・まぁ、いい。シャーリーはクロステルマン中尉と待機していてくれ」

 

「大尉は?」

 

「格納庫に顔を出すついでだ。・・・少し探してくる。何かあったら、初動は任せる」

 

「りょ~か~い!」

 

 ひらひらと手を振るシャーリーを置いて、神崎は格納庫に向かう。訓練や緊急発進(スクランブル)のために整備班は朝早くから作業している。機体の整備状況や今後の整備計画の確認の為にも顔を出す必要があった。

 ・・・そこまでの道中でルッキーニが見つかれば問題はなかったのだが、そう簡単には事は運ばず。

 格納庫に向かう道中にも、そして格納庫にも彼女の姿は無く。何人かの整備兵に声をかけてみたものの、手掛かりは何も無く。どうしたものかと軽く溜息を吐いて窓の外に視線を向ければ・・・、木の枝から垂れ下がる黒いツインテールが。

 

「・・・嘘だろう?」

 

 そんな言葉がポロリと零れ出ても仕方が無いだろう。

 

 

 

 

 

 そうして、神崎は木の下へとやってきた。

 見上げれば、太い枝に毛布かタオルケットを敷いて、猫のように・・・、いや黒ヒョウのように丸まりながら気持ち良さそうに寝息を立てるルッキーニの姿が。

 

「よく落ちないな。・・・器用なものだ」

 

 怒りや呆れを通り越して、もはや感心の域にまで達してしまったが、起こさなければ何も始まらない。

 

「ルッキーニ少尉・・・!起きろ・・・!」

 

「・・・ん~・・・?」

 

 声を張って呼びかければ、僅かに身じろぎするルッキーニ。タラリと片足が枝から落ちるのを見て神崎は一瞬落ちるのではないかと身構えるも、器用にバランスを保っていた。

 

「・・・ふぅ。さて、どうするか。・・・木を揺する訳にもいかないが」

 

 いっそのこと枝を切り落とすか、などと物騒なことを思い始めた時、剣呑な雰囲気を感じたのか、ようやくルッキーニが重い目蓋を開けて、神崎を視界に収めた。

 

「・・・んぇ?・・・大尉?」

 

「随分と遅いお目覚めだな。ルッキーニ少尉」

 

「・・・ぇえ。まだ、眠ぃ・・・」

 

「待機任務だ。・・・降りて、待機室に戻るぞ」

 

「やだぁ・・・」

 

 説得も虚しく、再び夢の国に旅立とうとするルッキーニ。神崎が強硬手段に訴えることも視野に入れ始めた時、ようやくモゾモゾと木から降りようとする素振りを見せた。

 

「ようやくか・・・ッ!?」

 

 ゆっくりと木から降りてくるものと思いきや、まさかの滑り落ちるように枝から自由落下してきたのだ。神崎のようやく一仕事片付いたと一瞬抜いた気が、一気に引き戻される。だが、神崎が受け止める態勢を取る前に、彼女は器用にも空中で態勢を立て直し・・・、あろうことか神崎の肩の上に乗った。

 所謂肩車である。

 

「・・・おい」

 

「にっしし~。楽チン~・・・」

「降りて自分の足で歩け」

 

「ん~・・・。パァパと同じ匂いがする~・・・」

 

「・・・・・・・俺はまだそんな年じゃない」

 

 無遠慮に頭に手を置いて体重をかけるルッキーニの言葉に、神崎は存外にダメージを受けてしまう。もう何も言う気力も無くなってしまった神崎は、ルッキーニを肩に乗せたまま待機室に向かうのだった。

 その後、据わった目でルッキーニを肩車したまま待機室に到着した神崎を見たシャーリーに爆笑されることになり、再び精神にダメージを受けることになるのだった。

 

 

 

 日中に関しては、ネウロイの出現は予測通りであり、緊急発進(スクランブル)のサイレンが鳴ることはなかった。日が暮れれば今度は夜間戦闘航空魔女(ナイトウィッチ)の出番である。待機組の編隊長としてサーニャに幾つかの申し送りを行い、待機組は解散となった。

 解散ついでに夜間哨戒に出発するサーニャを、いつの間にやら現れたエイラと共に見送り、引継ぎが完了したことをミーナに報告して自室に戻った。

乱雑に物や書類が置かれたテーブル。その上に腰の拳銃と扶桑刀炎羅(えんら)を乱雑に置くと、ラジオに手を伸ばした。ダイヤルを回して、背後のモールス発信機を取り出し、幾つかの符号を送る。そのままモールス発信機を戻してラジオの周波数を合わせた。

 ニュースを流す幾つかの局を通り過ぎ、古風なクラシックを流すだけの局に合わせる。この局はいわゆるダミーカンパニー。「(シュランゲ)」が共生派に対処するために活動する時に使用する企業の1つだった。大手を振って連絡を取り合うことができない「(シュランゲ)」が神崎と連絡を取るために利用している。

 ・・・利用しているだけなのだが、センスいい選曲をしているのが憎い。恐らくファインハルスあたりが適当に選んでいるのだろう。

 

「・・・事が終わればラジオディレクターか。・・・似合わない」

 

軽く鼻を鳴らして取るに足らない想像を払いのけ、上着を脱ぐ。イスの背もたれに適当に掛けた時、機嫌良く流れていた音楽が尻すぼみで消えていった。そして直後に流れ始めたのは流暢なブリタニア語。

 

『ラジオ広告の時間です。あなたのお家の害虫、害獣駆除。一手に引き受けます。腕利きのスタッフ、30人が必ずあなたのお家から追い出します!お問い合わせは・・・』

 

「・・・なるほど」

 

 広告の内容を理解した神崎は1人小さく呟いた。おそらく、この広告は神崎への定期連絡だろう。(シュランゲ)の部隊をどこかへと大規模移動させるようだ。どうやら、鷹守達も本格的に動こうとしているようだ。外での共生派狩りが一段落したのか、本格的に軍内部への働きかけを始めるのかもしれない。

 

「・・・まぁ。下手な動きが無ければいいんだがな」

 

 窮鼠猫を噛むという言葉もある。追い詰められた共生派が自爆テロを起こしたりしたら目もあてられない。・・・そんな事態になる前に、鷹守ならば抹殺するのだが。

 そんなことを思いながら、神崎はベットに潜り込んだ。

 

 

 

 

 

「私だ。ああ・・・こっちは相変わらずだよ。まぁ少し、あの乾いた空気と吹き荒ぶ砂漠が恋しくなるぐらいだ。扶桑のフロイラインの美味な食事にもな。それに少し張り合いも足り無い。貴様のように殴りあうような相手も・・・。いや、結構。私は葉巻より紙巻タバコの方が好きなのでね。・・・ああ。その件だ。いや、彼の意向通りこちらからは何も伝えてない。あちらからも何もない。・・・おお!そうか!!ならば、すぐにでも・・・。何?なるほど・・・。では・・・。分かった。それに関しての支援は惜しまない。鷹守中佐にもそう伝えておこう。あぁ・・・ようやく、ようやくか。いや、楽しみだよ。また、『ゼロ』の翼が見れるのを」

 




ルミナスのPVよかったですね!
とても楽しみです!!

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