ストライクウィッチーズ 一匹の狼   作:長靴伯爵

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来年はRtBが楽しみですね!

イベントもあるし、ウィッチーズの色んな展開に期待できます!

感想、アドバイス、ミスの指摘等々、よろしくお願いします!


第八十四話

 

 

 

 神崎は腕を組み、至って平静に目の前の人物に視線を向けた。 

 

「・・・で?」

 

 視線を向けられた人物、シャーリーはニヘラと愛想笑いを浮かべていた。

 

「いやぁ・・・だから、な?分かるだろう?」

 

「まぁ・・・分からんでもない」

 

「だろだろ!だったら・・・」

 

 シャーリーは希望を得たと言わんばかりの笑顔を浮かべる。が、現実は無慈悲だった。

 

「だが、却下だ」

 

 そうして、神崎の手によってストライカー改造用部品の補給申請書に不承認の印鑑が押された。

 

「えぇぇぇぇ!?」

 

 正午少し前の時間帯。

 他の面子が訓練で出払っている中、シャーリーの悲痛な絶叫が談話室の中に響いた。その絶叫の原因を作ったとも言える神崎は、申請書を突き付けることで応えた。

 

「・・・多少の改造は大目に見ると隊長が言っていた。だからと言って何でも許されると思うな。何だ、この魔導エンジン10機は」

 

「それは、魔導エンジンの個体差と幾つかのチューンの仕様から最高の速度を・・・」

 

「・・・ここは最前線だ。そんなことは後方でやれ」

 

「実戦でこそ真の速度が!!!」

 

「なら、その速度でネウロイの巣に突入して撃破してこい」

 

「そんな無茶な!?」

 

「お前の申請も、そのぐらい無茶だ」

 

 まったく妥協を見せない神崎にシャーリーはとうとう泣き落としに走った。

 

「お願い!この通り!」

 

「・・・なんで、リベリアンがそんな仕草を知ってる?」

 

 頭の上で合掌して神崎に頭を下げるシャーリーの、姿はなかなか堂に入っている。そこまでして欲しいのかと、ため息をついた神崎だったが遂に折れた。

 

「魔導エンジンは2つだ。・・・そのくらいならば問題なく申請が通るはずだ」

 

「5つぐらいには・・・」

 

「・・・あ?」

 

 悪足掻きをしようとしたシャーリーだったが、神崎の低い声にほとんど強制的に背筋を伸ばさせられた。何か危険な空気を察し、突き返されていた申請書を掴む。

 

「いえ!何でもありません!ありがとうございます!」

 

 発した言葉の勢いそのまま、一目散に談話室から出て行ってしまった。流石、超加速の固有魔法持ちと言うべきか。シャーリーが居なくなると、談話室には時計の針が進む音だけが響く。しかし、すぐに深い溜め息の音が混ざった。

 

「・・・ふぅ。何で俺がこんなことまで・・・」

 

 目元を押さえた神崎は、そう一人呟いた。この前、鷹守式魔導針の試験飛行で地下に築かれた共生派基地を爆撃したが、それ以降501基地に対する襲撃が全く無くなってしまった。鷹守の無線での言葉通り、あの襲撃で主要な共生派の拠点は壊滅したのだろう。

 これで神崎の負担が減る・・・と思いきや、坂本が扶桑に戻ったせいで彼女が負っていた仕事が舞い込んで来たのだ。半分以上はミーナが裁くことになってはいたが、神崎は実務つまりは戦闘の方を受け持つことになった。先任の大尉であるバルクホルンがいたものの、指揮を取ることも何度かあった。

 僚機に指示を出す程度しかやったことのない神崎には、小隊規模の指揮でも骨が折れるものだった。

 

「・・・まぁ、いいか」

 

 いくら考えても、変わるのは自分の心持ちだけである。神崎は溜め息を1つ付いて、机の上の書類を取り上げ眺めた。何か反応を示す訳でもなく、胡乱な目で書かれた内容を眺めていると、ガチャリという音と共に談話室の扉が開いた。目だけを動かして見てみれば、ドアノブに手をかけたまま固まっているペリーヌの姿が。

 

「あ・・・」

 

 そう小さく声を漏らしたペリーヌの表情は、しまったとばかりに眉がハの字になっていた。それもそのはず、彼女は神崎が着任して間もない頃に編隊を組んだ以降極力神崎との接触を避けていたのだ。坂本を取られたくない一心だったのが裏目に出て神崎の殺気を受けたしまった一件で、苦手意識が生まれるのも仕方のないことだろう。神崎としても、ペリーヌに関して何とも思っていなかったため、2人の関係性に何の変化もなかった。

 

「・・・俺に用が?」

 

 だからといっても、立ったままのペリーヌを放置する理由にはならない。神崎は書類を机の上に戻して、彼女の方に顔を向けた。向けられた本人は、しどろもどろになりながら口を開く。

 

「わ、私は、ただ休憩しようと・・・」

 

「そうか」

 

 自分に用がないと分かった途端に、神崎は目線を戻して書面の文字を追うことに集中していた。急に放置されてしまったペリーヌは、拍子抜けした表情で扉に立ち尽くしていたが、どこか憮然とした様子でソファに腰を下ろした。

 ペリーヌは、テーブルの上に置かれた雑誌を―談話室には娯楽用に新聞や雑誌が置かれている―手に取っていたが、後ろで作業している神崎が気になるのかどこか注意が

散漫としていた。そうして神崎が書類を1枚書き上げた時に、意を決したように口を開いた。

 

「あ、あの!大尉!」

 

「・・・どうした?」

 

 まったくこちらを見ずに返事をする神崎に早くも心が折れそうになるも、ペリーヌは絞り出すように本題を切り出した。

 

「以前、私が大尉の2番機で飛んだ時・・・その、何故あのようなことを仰られたのでしょうか?」

 

「・・・向けられる殺気は敵からの物だけで十分だ。違うか?」

 

 まさか彼女からそのあの時の話題を出すとは思わなかった神崎だったが、それでもハッキリと答えてみせた。

 

「・・・ネウロイからの攻撃を防ぐ。たが、その後ろから撃たれるかもしれない。そんな状況で、お前は戦えるか?クロステルマン中尉?」

 

「わ、私は!大尉に殺気を向けてはないですわ!?ましてや、撃とうなどと、そんなことは・・・!!」

 

「だが、俺が邪魔だったのだろう?何故かは分からないが、俺が存在したことが」

 

 そこで神崎は手を止めて、ペリーヌに顔を向けた。その目は怒りの感情などなかったが、むしろ何も感情がなく、そのことがペリーヌを震え上がらせた。

 

「・・・俺にも恐怖はある。自分を危害を加えようとする存在は消そうとする。それが戦場だったら尚更な。だから、お前に待機の命令を出した。分かったか?」

 

「・・・分かり、ました・・・わ」

 

 あの時の自分の振る舞いを思いだしたのか、ペリーヌは神崎の言葉に反論することなく、揃えた膝の上できつく手を握りこみ俯いてしまっていた。

 その様子を見て、まだ話が分かるようで助かったとばかりに神崎は小さく溜め息を吐いた。そして、再びテーブルに向き直り、新たな書類を取り上げつつ口を開いた。

 

「・・・なぜ、俺にそんな感情を向けたのか、気になるところではあるが・・・」

 

 そう呟いた瞬間、ペリーヌは顔を上げて決意の篭った目で書類仕事を再開した神崎を見つめた。そして、身を乗り出さんばかりに、こう言い放った。

 

 

「か、神崎大尉は!坂本少佐とどのような関係なのですか!?」

 

「・・・なに?」

 

 神崎は、こいつは何を言っているんだ?とばかりに手を止めてペリーヌを見た。彼女が自分に対して敵愾心を持っているのはまさかそれが理由だったのかと。真剣な彼女の眼差しが頭痛を引き起こしそうだった。

 

「・・・坂本はこの部隊の戦闘隊長。俺はその部下だ」

 

「そ、そういうことでなく!プライベートな物といいますか・・・。も、もしや、だ、男女の・・・」

 

 後半のペリーヌの言葉は、彼女が俯いたせいでほとんど聞き取れなかったが、神崎は大体のことを察知した。慕っている坂本が神崎と付き合う、ないし婚姻で奪われてしまうのではないかと危惧したのだろう。だからこそ、あの敵愾心か。恐るべきは、坂本の人気の高さと言うべきか。扶桑にもペリーヌと同じように坂本に憧れる、もしくは憧れ以上の感情を持つ者の少なくないと聞いていた。

 

(・・・確かに、俺なんかよりも余程男前だからな、あいつは)

 

 あからさまに溜め息を吐くのは心の中だけに留め、新しい書類を手に取った。紙面に筆を走らせながら、尚もこちらを見つめるペリーヌの問いに答える。

 

「プライベートだとしても、あいつは友人だ」

 

「本当ですの!?」

 

「ああ」

 

「で、ですが、少佐との、その、スキンシップが・・・」

 

「・・・それは、あいつの性格だろう?」

 

 思い返してみても、そんなスキンシップを取った覚えはない。あったとしても肩を組まれたぐらいだが、彼女からしてみれば過剰なものになるのかもしれない。

 だからと言って要らぬ疑いをかけられるのは本意ではない。

 神崎は再び筆を置き、ペリーヌに向き直った。

 

「どう疑おうが構わないが、坂本は上官であり、友人。そして、婚約者の親友だ。それ以上でも、それ以下でもない」

 

「上官で、友人で、婚約者の親友・・・。婚約・・・者?」

 

「そうだ。分かったな」

 

 何故か言葉を反芻するペリーヌに不安を覚え念を押した神崎は、書き上げた書類をまとめ、立ち上がった。

 

「俺はディートリンデ隊長の所に行くが・・・、他に用は?」

 

「あ、いえ・・・、ありませんわ・・・」

 

「そうか。ではな」

 

 放心気味にソファで座るペリーヌを放置しておき、神崎は談話室を後にした。

その後、ペリーヌの神崎に対する態度が僅かにだが軟化したとのことだが・・・それはまた別の話だ。

 

 

 

 

 

 

 神崎が隊長室の扉を軽くノックすれば、すぐに応答があった。

 

『どうぞ』

 

「失礼します」

 

 一言入れて扉をくぐれば、ミーナは相も変わらず机の向かい書類にペンを走らせていた。神崎が軽く頭を下げるのを見ると、ペンを置き、書類を机の脇に寄せた。

 

「どうしたのかしら?」

 

「幾つかの報告と書類の確認を」

 

「そう。見せて頂戴」

 

 その言葉を皮切りに、ミーナと神崎の間には仕事の話が繰り広げられた。訓練や任務のシフトのことは勿論だが、大半が整備隊やの厚生施設改築やら作業環境の改善など。ネウロイ迎撃を行う為には航空魔女(ウィッチ)は勿論重要だが、それを支える後方、特に整備や補給が機能しなければ意味を成さない。しかし、神崎が転属してくるまではそれらとの調整は殆ど行われていなかった。その原因は整備隊がほとんど男性で構成されていた為である。ミーナが魔女(ウィッチ)との接触を制限していたために、現場レベルでの相談や調整が上手くいかず、魔女(ウィッチ)側からの要求ばかりが整備隊の方に行き、大きく負担をかけていたのだった。改善しようにも、接触を制限したせいでミーナ1人で対応しなければならず、他の仕事との関係上なかなか進まなかったのだ。

 しかし今は、神崎が橋渡し役となり、整備隊は勿論のこと後方関係全般に対する環境改善が徐々に行われてきている。アフリカやスオムスでは、整備隊と魔女(ウィッチ)隊との関係が良好だった経験があったからこそ、こうも神崎が動いているのだが。

これには、ミーナ個人の感情を抜きにしても、頭が下がる思いだった。

 

「・・・ええ。問題ないです。助かったわ」

 

「いえ・・・。仕事ですので。それと、補給物品の申請ですが、イェーガー中尉の要望で・・・」

 

 言葉少なな2人のやり取りも、もはやお馴染みだった。幾つかの仕事の話が終われば、神崎が頭を下げて退出するのがいつもの流れである。しかし、今日は隊長室から退出しようとした神崎の背中にミーナが声をかけた。

 

「坂本少佐から連絡がありました。来週には扶桑を出発するそうです」

 

「・・・そうですか。では、新人も?」

 

「ええ。そうみたいね。また訓練を手伝ってもらうことになります」

 

「分かりました。では・・・」

 

 今度こそ退出しようと神崎がドアノブに手をかけた瞬間、再びミーナが語りかけた。

 

「343中隊でも、新人教育をしていたのかしら?」

 

 ドアノブを掴む手が一瞬止まる。神崎が背中越しにミーナに視線を向ければ、彼女は手元の書類に目線を向けたままだった。

 静寂に包まれたのは一瞬だった。

 

「・・・激戦区でしたので。新人は中々来なかったです」

 

「そう・・・。何度もごめんなさいね。退出していいわよ」

 

「・・・失礼します」

 

 今度こそ、神崎はドアノブを回してドアを潜った。パタンッと扉が閉まった音が聞こえた瞬間、ミーナは手に持っていた書類を机の上に放り投げた。先日のラルとの会話以降から感じる魚の小骨が喉に刺さったような違和感に任せて質問を投げかけたものの、意味などほとんど無かった。

 

「今更何を疑ってるのよ。私は・・・」

 

 そう呟いたミーナは、溜息を吐いて疲れたように目元を押さえるのだった。

 

 

 

 

 

 隊長室を退出した後も、書類仕事をこなしていればすぐに夕暮れ。食堂でエイラやルッキーニ達と話しつつ食事をし、その後に夜間哨戒に出発するサーニャを見送れば、もう夜である。

 仕事を終えた神崎は自室には向かわず、自室より更に基地下層へと歩を進めていた。昼間は忙しなく人が行き来する基地の通路も、夜になれば静かなもの。どこか緊張感さえも醸し出す廊下を無表情なまま進む神崎の目の前には、重厚な鋼鉄製の扉。僅かに空いた扉の隙間からは、揺れるような光と喧騒。見る人が見れば、こちらを拒絶しているような扉を神崎は躊躇無く開け放った。

 逆光で一瞬眩んだ視界。それが回復すると、そこは・・・。

 

「大尉!お待ちしておりました!」

 

「おおい!立役者の御出ましだぞぉお!!」

 

「いやぁ、大尉!こんな所を作ってしまうなんて流石です!」

 

 バーカウンター、簡易キッチン、ラウンドテーブル、ダーツ、ビリヤード台、etc。

 ラウンジとして新たに設置された大部屋に、神崎は野太い歓声と共に迎えられた。歓声の元は整備隊や基地の業務に携わる兵士達。今日のラウンジ開放を今か今かと待ち望んでいた彼らは、すでにここを満喫していたようだ。

 

「・・・楽しんでくれて何よりだ」

 

「いやいや、これも大尉のお陰ですよ」

 

 すでに赤ら顔になった兵達に導かれるままソファに座ると、整備班長がグラスを手渡してきた。ブリタニアらしくエールによって満たされたグラスを受け取ると、楽しげにこちらを見てくる兵士達に応えるように神崎はグラスを掲げて見せた。一際大きな歓声に包まれるラウンジを、神崎はグラスに口を付けながら眺めた。

 整備班長や兵士達が言っていた通り、このラウンジの設置には神崎が大きく関わっていた。というのも、神崎が取り組んでいた基地の厚生施設改築の一環がこのラウンジだったからだ。閉鎖的な環境にあるこの基地は、男性兵士が息抜きできる環境が少なかった。今までは魔女(ウィッチ)達に関しては優遇されていた厚生関係だったが、それを一般の男性兵士にもと神崎が動いた結果だった。

 

「まさか、この基地でこんなに楽しめるとは思いませんでしたよ!」

 

「隊長殿は真面目でしたから・・・」

 

「お考えは分かるのですが・・・少し窮屈ではありました」

 

 ミーナは魔女(ウィッチ)達と男性兵士との接触を極力禁止している。それに加えて、最近はそうでもないが、彼女が魔法使い(ウィザード)という異分子を異様に警戒しているのも神崎は自覚していた。

 なぜそのような規則を作ったのか?

 アフリカ、スオムス共に、神崎が経験した戦場では魔女(ウィッチ)も男性兵士も一丸となってネウロイに立ち向かっていた。2つの戦場では魔女(ウィッチ)の絶対数が少なかったのもあるだろう。しかし、魔女(ウィッチ)の数が多く防衛戦がある程度安定しているとはいえ、わざわざ部隊の士気、連携を下げるような規則を適用することに、神崎は不合理を感じていた。

 だからこそ、神崎は規則に触れない範囲で男性兵士達に対する厚生関係を改善に努めた。隊長の反感を買わず、少しでも蟠りを無くすように動けば、いざと言う時に彼らは助けになってくれる。

 

 神崎の予測では必ずそれが必要となる。

 

(彼女達を守るには・・・絶対に。・・・俺がこんなことを考えるとは、な)

 

エールの苦味か、自身への皮肉か。

神崎は一瞬だけ眉を顰め、すぐに笑顔を顔に貼り付けた。

 

そんな神崎の思いなど露知らず、基地の下層での喧騒は続いていくのだった。

 




日常回といいますか、幕間回でした

物凄い亀投稿ですが、楽しんでいただけたら嬉しいです!

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