お久し振りです
遅くなりましたが、更新します
感想、アドバイス、ミスの指摘などよろしくお願いいたします
発進します!のアニメが面白すぎてヤバい
リネット・ビショップが501に配属され、早3週間。
すでに航空
「まぁ、悪くはないだろう」
そう言ったのは、隊長室の応接セットのソファに座り緑茶が入った湯呑みを持った坂本だった。
「訓練に於いては、が最初に付くけれどね」
坂本の言葉に続けるように呟いたのは、坂本とは対面に座りコーヒーの香りを楽しむミーナ。2人の間にあるテーブルにはリーネの訓練評価が書かれた書類が置かれていた。
湯気が立つ緑茶を一口飲んでテーブルに湯飲みを置いた坂本は、軽く笑いながら言った。
「それは当たり前だ。だからこそ、今ここで話をしているんだからな」
「ふふ。そうね」
ミーナは微笑みながらコーヒーカップをテーブルに置き、書類を取り上げた。すでに何度も目を通してはいたが、確認の意味も込めてもう一度紙面に目を向けた。その上で彼女はこう告げる。
「そろそろ実戦かしら?」
「頃合だろうな」
ミーナの言葉に、坂本は頷く。
訓練だけでは本当の実力を測るのは難しい。本格的に戦闘に参加するのは到底無理だろうが、極至近距離でネウロイとの戦闘を見て感じることはリーネが戦う上で必要不可欠だろう。そのサポートをするのが上官として、そして航空
「皆には私から伝えておこう」
「ええ、お願いね。美緒」
戦場を飛ぶ航空
それを決めることができるのは最後はリーネ次第である。
その時、隊長室の扉がノックされ、コツコツという硬質な音が部屋に響いた。
「どうぞ」
「失礼します。以前話した夜間哨戒のシフトについてですが・・・取り込み中なら出なおしますが?」
訪ねてきたのは片手に書類を携えた神崎だった。別案件の相談で隊長室まできたらしいが、丁度この話し合いとバッティングしてしまったようだ。
半ば開けた扉から半身だけ出した神崎は、一言言われればすぐに退出する構えだったが、坂本が呼び止めた。
「いや、丁度良かった、ゲン。お前も話を聞いていけ」
坂本がミーナに視線だけで了承を求め、ミーナが頷く。それを確認した神崎は、軽く頭を下げて坂本の隣に腰を下ろした。心なしかミーナからの視線がきつくなった気がするが、無視する。
「で、話というのは?」
「リーネのことだ。そろそろ実戦に参加させる」
「坂本少佐とロッテを組ませますが、遊撃班のサポートも必要になります」
「・・・なるほど」
坂本とミーナからそれぞれ言われた言葉に神崎は神妙に頷く。エイラの未来予知があればサポートは楽になるだろうが、多少の骨を折ることになるだろう。
「具体的な日程は決定しているのですか?」
「今週末の出撃シフトに組み込む予定です」
「分かりました。イッルには自分から話しておきます」
「ああ。頼んだ」
この後、幾つか事務的な話と世間話をして神崎は退室した。神崎が退出したのを見届けた坂本は、空になった湯呑みをテーブルに置いてミーナに笑いかけた。
「まぁ、なんだ。お前も少しはゲンのことを信用してるんじゃないか」
「・・・仕事を手伝ってくれる分だけね。誰かさん達と違って」
「真面目だな、あいつは」
腕を組みウンウンと頷くと坂本をミーナは微妙な表情で視線を送る。その時間は僅かなもので、すぐににこやかな表情でコーヒーカップを傾けるのだった。
隊長室を後にした神崎はその足で格納庫に向かっていた。
途中自室に寄って手に入れた大きめの紙袋を脇に抱えて格納庫に入ると、ストライカーユニットの整備作業の真っ最中だった。今しがた訓練から帰投したシャーリーとリーネのユニットを集中的に作業しているらしい。
「どうも。班長」
「おお、大尉。お疲れ様です」
神崎は整備作業を監督している班長に声をかけた。階級は神崎の方が上だが、年齢は大分班長の方が上である。しかし、神崎はこういった関係はもう慣れたもので、軽く敬礼をして班長の隣に立ち、紙袋を手渡す。
「差し入れです。皆で楽しんでください」
「これはこれは。いつもありがとうございます」
手渡した紙袋から覗く幾つもの酒瓶に班長は顔を綻ばせたが、神崎の表情が真剣なものになったのを見て被っていた帽子を目深に被りなおした。
「最近の動向は?」
「大人しかったですが、近々動きそうです」
「シーナ達は動くのか?」
「別拠点の襲撃の為に動けないとのことです」
「なるほど。・・・ネズミは?」
「8割程は処理済みです」
「早く、確実にだ」
「了解です」
小さな声での会話だったが短時間で連絡を済ませ、神崎は表情を明るくした。
「それでは、班長。整備の方よろしくお願いします」
「もちろんです、大尉。任せてください」
帽子を被りなおした班長もにこやかに返事をして紙袋を抱えて歩いて行った。その後姿を見送り、神崎も格納庫を後にする。自然胸ポケットの煙草に伸びた手を自嘲気味に元に戻しつつ、今度はエイラを探すために足を進めた。
「・・・そう。そうだね。じゃあ、その話はそれでいこうか」
品のいい調度品に彩られたどこかの書斎で、部屋の奥にある部屋かた漏れる電話での会話の声が響く。
その声を聞きながら、部屋の中央に据えられたソファに腰掛けたシーナが面倒くさそうに呟いた。ソファの前のテーブルには、飲みかけのコーヒーカップが置かれている。
「今月で20回の出撃ですよ。手当でも欲しいんですが。特別休暇でもいいです」
「なら、この前みたいに命令書を偽装したまえ。それで神崎大尉をまた呼び出せばいい」
彼女の言葉に返事を投げかけたのは、斜め対面のソファに座ったファインハルスだった。足を組んで紅茶を香りを優雅に楽しむ彼の姿に、シーナはイラつきを隠さずに眉を顰めた。
「誰も神崎大尉のことを口にしてはいませんが?」
「これは失敬。いつも君の二言目には彼の名前が出ていたのでね」
「そんなに言ってないですけど」
「重ねて失敬」
シーナの棘の付いた言葉を涼しい顔で受け流すファインハルス。こうやってシーナをからかうのがファインハルスの楽しみであり、シーナは自分がからかわれているのは分かってはいるものの、内容故に言い返さざるを得ないのだ。
このやり取りが彼の暇な時間の潰し方であり、このやり取りをした後には決まって面倒事が舞い込んでくる。
ジリジリジリッとテーブルに置かれた電話が鳴り、カップを置いたファインハルスが受話器を取り上げた。ファインハルスは幾つか言葉を交わすと笑みを深めて受話器を置き、胡散臭い目を向けるシーナに一言告げた。
「喜びたまえ。戦争だ」
「喜んでるの、少佐だけですけど」
シーナは溜息を1つ吐くと先程までの気だるげな雰囲気は無くなり、代わりに殺気にも似た真剣な空気を纏って立ち上がった。ファインハルスは彼女の変化にニヤリと笑い、奥の部屋に向け胸に手を当てて声をかけた。
「それでは、行ってまいります」
ギシリというイスを軋ませる音と、コツコツという足音、そして足音よりも硬質なカツカツという音が奥の部屋から漏れ出ていた。
そして部屋から姿を現した人物は、立ち上がった2人に底抜けに明るい声で告げた。
「怪我しないようにね~」
リーネの初陣は、出撃が決まった日から3日後だった。
ほぼ予測通りの襲撃タイミングになり、シフトも調整済み。雲は多いが、風は強くない天候。初陣にはもってこいの環境だろう。出撃したのは、坂本を始めとした、神崎、シャーリー、エイラ、ルッキーニ、ペリーヌ、そしてリーネの7機編隊だ。
『なぁ、大尉』
「どうした?」
『今日はリーネのサポートだよナ?』
報告された空域に向かう途中、僚機位置のエイラから神崎に向けて通信が入った。神崎がチラリと後ろを振り向けば、MG42を背中にかけて暇そうに頭の後ろで手を組んでいた。
「そうだ。出撃前の打ち合わせ通り」
『りょ~かい。まぁ、なんとかなるカ』
出撃する前に神崎とエイラはリーネのフォローの為に幾つか相談していた。相談といっても普段の遊撃の役割は殆ど変わらない。ただリーネに対して重点的な位置取りをし、いつでもフォローが出来るようにして戦闘するようにしていた。
「大丈夫だとは思うが、気を抜くなよ。」
『分かってるテ~』
ヒラヒラと手を振るエイラに神崎は片眉を上げて応え、視線を前に向けた。その方向には坂本とペリーヌの僚機位置で緊張した固い表情で飛行するリーネの姿が。
「・・・何も起こらなければいいがな」
『知ってるカ、大尉。そういうのはフラグって言うらしいゾ』
悪戯のように言葉を飛ばしてくるエイラに内心溜息を吐くが、その意味を身を以って知ることになるのはすぐあとになる。
『見つけたぞ。いつも通りの大型だな』
魔眼を発動させた坂本の一言が、戦闘開始の狼煙となった。
接敵したネウロイは扁平な胴体を中心に短い十字の翼が生えた姿をしていた。坂本の言う通り、大型の部類に入るだろう。
最初に仕掛けたのは、シャーリーとルッキーニのペアだった。彼女達が得意とする高高度からの急降下による一撃離脱戦法。最高速度に達する彼女達とネウロイが交錯するのは一瞬。その一瞬の内に数多の弾丸を叩き込まれ、ネウロイは悲痛な嘶きをあげた。
そこからは完全にこちらのペース。
ネウロイの態勢が整う前に、後続が到着し攻撃を始めた。やや後方に置かれたリーネを覗いた全員による包囲攻撃により、ネウロイの装甲がみるみるうちに剝がされていく。時折ある反撃のビームも、皆危なげなく防御または回避していた。
「・・・手緩いな」
『そうカ?楽でいいじゃないカ』
神崎はMG34の引き金を引きつつ訝しげに眉を顰めた。
神崎の呟きが聞こえたのか、同じように銃撃を加えているエイラが言う。しばらくすればコアを撃ち抜くだろうが、それにしても簡単すぎる。チラリと周囲を見渡せば、リーネは少し離れた位置で待機していた。坂本の指示だろうが、その距離ならネウロイの攻撃も当たりにくいだろう。
一抹の不安を感じつつも、神崎は弾切れになった弾倉の交換を始めた。
エイラの焦った声が聞こえたのはそんな時だった。
『・・・ッ!?大尉、新入りが危なイ!?』
「何!?」
エイラの未来予知による警告に神崎は弾倉交換に向けていた意識をネウロイに向けた。所々装甲を白く発光させ、殆ど撃破されかけていたネウロイ。しかし、神崎が意識を向けた時に最後の力を振り絞るように装甲を紅く発光させた。
直後、ネウロイは白い粒子となって爆散。だが、その粒子を突き破るように4つの黒い影が飛び出してきた。
それは直前までネウロイの十字の翼として機能していたものだった。
『なんだ、あれは!?』
『おわッ!?』
『キャッ!?』
まさかの攻撃に坂本達は驚きの声をあげるが、片やシールドで防ぎ、片や到達するまでに撃ち落して3つを対処していた。
問題はエイラが警告した通り、完全にノーマークになっていたリーネに最後の1つが向かっていったことだった。
『リーネ!!避けろ!!』
『えッ・・・!?あ・・・』
坂本の警告にも酷く動揺し右往左往するだけのリーネの姿に、神崎は眉を顰め、短くエイラに通信を送った。
「援護に入る」
『エッ!?カンザキ大尉!?』
戸惑うエイラの声を他所に神崎はMG34を捨てストライカーの出力を上げた。それと同時に両手に魔法力を集束させる。
「ッ・・・!!」
短く息を吐いた瞬間に、両手に集束させた魔法力を一気に解放した。集束に費やしたのは数秒という短い時間だったが、加速には十分すぎる量の魔法力を集束している。MG34を捨てたことにより僅かながら軽量化した神崎は、空気を切り裂く勢いでリーネの元へ飛行するネウロイへと向かった。
「ビショップ!!シールドを張れ!!」
『ヒッ・・・』
「動けないか・・・!」
万が一を考えての指示も、混乱しきっているリーネには実行する余裕はないらしい。神崎はいち早くネウロイを破壊することにし、加速による強烈なGに耐えながら目標を見据えた。このままいけば、リーネに到達する前にネウロイを破壊することができるだろう。
しかし、ネウロイを炎の射程に捉えた時、神崎が予想だにしない事態が起こった。
「あ、あ・・・.あああ!?」
混乱してまともに動けなかったはずのリーネが、恐怖心からかネウロイに向け対物ライフルを乱射し始めたのだ。碌な照準がされていない射撃なぞ、神崎は防御なり回避なりとどうとでも対処できる。しかし、最高速度で加速し、尚且つ攻撃態勢に移った状態では話は別だった。
「・・・チッ!!」
舌打ちと共に神崎は一瞬思考を廻らせるが、そのまま進路を変えなかった。数秒後、神崎はネウロイを捉え、炎を噴出させてネウロイを焼き尽くした。それとほぼ同時に、リーネが乱射した弾丸のうちの1つが飛来し・・・
「それでこうなった訳ですかい」
「・・・そういうことです。面倒をかけます」
「まぁ確かに。大尉のユニットは特別製ですからなぁ・・・」
501基地の格納庫。
点検で分解されたBF109-Type Hawkを前に神崎と整備班長は溜息を吐いた。
今回の戦闘で神崎は炎によりネウロイを撃破した。しかし、その直後にリーネが撃った弾丸が直撃してしまったのだ。勿論、神崎は危なげなくシールドで防御し、かすり傷1つ負っていない。だが、固有魔法による急加速で悪影響が出てしまったのか、不調をきたしてしまった。
つい先程夕焼けに照らされる中エイラの肩を借りて着陸し、ユニットはそのまま分解作業へ。
そして今に至る。
「大尉も災難でしたなぁ」
「生きているのなら、たいした問題では」
「流石、経験した場数が違いますな。ビショップ軍曹は大分坂本少佐に絞られておりましたが」
「それは仕方が無いことでしょう」
本来は味方に対する攻撃など許される訳も無く、軍法会議にかけられてもおかしくは無い。しかし、初陣であることと、攻撃を受けた神崎が対して問題にしていないことを考えるにそこまで大事になるとは思えなかった。
「ふぅ・・・。ところで」
神崎は溜息を1つ吐き、静かに話題を切り替えた。班長は気配を察したのか、神崎を促し格納庫脇にある班長専用の待機室に入った。待機室内で班長は煙草を差し出し、神崎は黙ってそれを受け取り、咥えたまま指先に燈した火で煙草の先を炙る。同じように班長が咥えた煙草にも火をつけた。
「・・・首尾は?」
「今夜辺りです」
薄暗い室内で2人してゆっくりと紫煙を吐き出す。
「・・・打ち合わせ通り、実行は私が」
「後処理はお任せを」
「頼みます」
煙草を握り潰し、神崎は部屋から出た。班長も自身の机に置いてある灰皿に煙草を押し付けた。
「後味が悪いことばかりだ・・・」
そう呟く班長の顔は苦りきっていた。
「いいか?味方に銃を向けることは今後一切ないように!」
「はい・・・」
所変わって談話室。
帰還後、リーネはテーブルに座り、坂本から数時間に渡るデブリーフィングを受けていた。内容の大部分を占めていたのは、ネウロイの攻撃を受けたことによる硬直と神崎への誤射。特に誤射に関する指導が凄まじく、坂本がどれだけこのことを重要視していたのかが察せられた。
デブリーフィングが終わり坂本は談話室から出ていったが、リーネは椅子から立ち上がることが出来ずにいた。疲労感と後悔に恐怖と様々な感情が胸の内で入り乱れ、体の何処にも力が入らなかった。
どのくらい時間がたったのだろうか?
リーネが顔を上げた時、談話室に差していた夕日はすでに、代わりになく僅かに月明かりが差していた。
「もうこんな時間・・・」
夕食の時間はとっくに過ぎているが、空腹はまったく無かった。ただただ全身にのし掛かるような疲労感を感じるだけ。このまま机に突っ伏して寝てしまってもいいのだが、それはまだかろうじて残っていた理性が拒否反応を示した。
鉛のように重い体に力を入れて椅子から立ち上がる。談話室の扉に進むのも億劫で、溜め息と共にドアノブを押した。
廊下は完全に消灯され、灯りは廊下の窓から入る薄い月明かりだけだった。普段なら足がすくむかもしれないが、そんな感情が起こらないほど頭が働かなかった。
廊下に音はない。消灯しているから当たり前だ。響くのは自分の靴が鳴らす音だけ。コツコツと音がなる。しかし、廊下から反響して戻ってくるのは静かで硬質な音ではなく、もっと重く煩雑としたもの。
ふと思った疑問が何故か引っ掛かった。自室に戻るつもりだった足が自然と音がする方へと向かっていく。
「あ・・・はッ・・・!?」
「・・・う・・・すぐ・・・・!」
「こ・・・は、だ・・・」
「・・・ぐ、そこ・・・!や・・・!?」
進むにつれ、音は段々と声に変わっていった。途切れ途切れにしか聞こえないが、声と共に圧し殺したような緊張感も感じる。ふとリーネが足を止めると、すぐ横に下の階に階段があった。どうやら、声はこの階段から聞こえていたようだ。
闇に呑まれるような階段を1歩1歩降りていく。階段の下からはもう声はしなかったが、バタバタとした足音が断続的に聞こえていた。
階段を降り終え、廊下に出る。窓から入る月明かりは何故か紅いように見えたが、そのまま廊下の曲がり角に差し掛かった。もう、物音は何も聞こえない。だが、今まで以上の恐怖と緊張感がリーネを襲っていた。頭は曲がってはならないと訴えるが、足はゆっくりとではおるが確実に前進し、やがて曲がり角を曲がってしまい・・・、
途端、視界一面を真っ白な煙が塞いでしまった。それと同時に、刺すような刺激が目と喉を襲った。
「ケホッケホッ!?」
咳き込んでしまったリーネに投げ掛けられたのは気の抜けたような軽い言葉。
「ああ、すまない。ビショップ軍曹、居るとは思わなかった」
涙が滲む目を開けると、そこにいたのは煙草を片手に立つ神崎。今、リーネが一番会うのが気まずい人物だった。
「あ、あの・・・すみません!帰ります・・・!」
「待て、ビショップ」
反射的に離れようとしたリーネを神崎は呼び止めた。恐る恐る振り向くリーネに対し、神崎は惜しむように紫煙を吐き出すと軽い調子で言った。
「話がある。着いてこい」
「あ・・・」
リーネが返事をする間もなく、煙草を握り潰した神崎は先に歩いてしまっていた。リーネは慌てて神崎の後を追ったが、ふと後ろを振り返った。視界に入るのは窓から入る月明かりに照らされた薄暗い廊下と仄かに漂う紫煙だけ。特段に変わったことがない。けれど、煙草の薫りに混じってどこか鉄の匂いが混じっていた。
「コーヒーはいるか?」
「えっと・・・はい・・・」
神崎がリーネを連れてきたのは食堂だった。夜中の食堂は暗闇に閉ざされて静まり返っていたが、神崎は全く頓着せずに最小限の灯りだけつけて厨房に入ってしまった。リーネかできることといえば、押しきられるように返事をして、灯りがテラステーブルで黙って待つことだけ。
ほどなくして、神崎は両手に湯気が立つマグカップを携えて現れた。片方のマグカップをリーネの目の前に置き、神崎はそのままリーネの向かい側に座ってマグカップに口をつけた。その様子を見ていたリーネも恐る恐るといった様子でコーヒーに口をつけ・・・、あまりの苦さに顔をしかめた。
「苦いか?」
「は、はい・・・」
「次からは砂糖がいるな」
いつもとは違う声音にリーネが顔を上げてみると、神崎は見たことのない穏やかな表情でこちらを見ていた。しかし、もう1度コーヒーカップを傾けた後には、そんな穏やかな表情は隠れていた。そして、そのまま堅い口調で告げた。
「今日のことは気にするな」
「・・・え?」
一瞬呆けたリーネだったが、すぐに彼の言葉が今日のフレンドリーファイアだと重い至った。何か言わなければと、マグカップを持つ手に力が入るが、口を開くのは神崎の方が早かった。
「お前が撃った弾は無駄弾こそあったが、最終的にはネウロイに直撃していた。あれは俺が独断で割り込んでしまったから起こってしまったことだ」
「も、もしそうだとしても、私は神崎大尉をし、死なせて・・・」
「だが、死ななかった。それでいい」
自分が死の危険に晒されたのに、そう簡単に告げる神崎の思考がリーネは全く理解できなかった。自分に気を遣ってそんなことを言っているのかと思えば、こちらを見る目は伽藍堂のようで全く判断がつかない。
「でも、それは・・・」
「・・・もしそれが難しいなら・・・」
「え・・・?」
答えあぐねていたリーネに神崎は予想外の言葉を発した。
「交換条件だ。俺を助けてくれ」
「神崎大尉を・・・助ける?」
「そうだ。さっきの・・・」
そう言って神崎は人差し指と中指を自分の口に持っていき、煙草を吸う仕草をしてみせた。
「屋内での喫煙は命令で禁止されてる。・・・ばれたら、ディートリンデ中佐に殺される」
だから・・・な、と目線で告げる神崎。
そんな彼の姿を見てリーネは酷く困惑した。この厨房でのやり取りが今までの印象からは全くかけ離れていたこと。そして、今の発言が冗談なのか、それとも本気なのか。それらの事が頭で廻り廻って・・・最終的にコクンッと頷いた。
「分かりました」
「助かる」
リーネの返事を聞いて神崎は微かに口元に笑みを浮かべた。次いで、自分のマグカップを持つとイスから立ち上がった。
「俺はもう寝る。お前も早く寝て明日に備えろ。・・・あぁ、マグカップは流し台でも置いておけ」
そう言い残し神崎は食堂から立ち去っていった。1人残されたリーネは、少し考えた後にもう一度コーヒーに口をつけた。
「やっぱり苦い・・・」
どうもこの味には慣れそうにない・・・と、リーネは苦味で痺れた舌をチロリと出して思った。それでも、結局全部を飲み干し、僅かに軽くなった足取りで食堂から立ち去っていった。
8月はライブイベントですね
はい、チケット確保しました