ストライクウィッチーズ 一匹の狼   作:長靴伯爵

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もう、シリーズで色んな新展開があって最高ですね


そんな訳で、第八十話となります
感想、アドバイス、ミスの指摘などよろしくお願いします



第八十話

 

 

 

 

 

 

 

「『私の娘を殺さないでくれ』・・・あなたは、そう言うべきだった。チャールズ・ビショップ」

 

 そう告げられたチャールズ・ビショップは、目を見開き何かを告げようとして・・・力なく首を振った。それはつまり、神崎の言葉を認めたということだ。

 

「ふむ、なるほど」

 

 ファインハルスは納得したようにまま呟き、

 

「・・・どういうつもりですか」

 

 いままで口を開かなかったシーナが、背後から声を投げかけた。その声には相当な殺気が籠っており、神崎からは見えないが向かいにいるチャールズの様子から相当な睨みを効かせていることが窺えた。

 神崎も無言のままチャールズの目を見据えると、チャールズは観念したように口を開いた。

 

「君達の腕は信用している。だからこそ、娘を『魔女殺し』達の近くに置くのは・・・」

 

 

 

 

 『魔女殺し』

 

 チャールズがその単語を口にした途端、神崎の背後で殺気が弾けた。

 荒々しい足音と共に背後のシーナがチャールズに近づき、彼の胸元を掴んだ。小柄な体格からは考えられない程の強い力で引っ張り上げ、憤怒の色に染まった瞳でチャールズを睨みつけた。

 

「その言葉を・・・!!!!」

 

「・・・ッ!?」

 

「旦那様!!」

 

 いきなりのシーナの行動にチャールズの背後に居た護衛達が一斉に懐に手を伸ばした。しかし、なぜかその動きはピタリと止まってしまう。それは彼らの視線を辿れば明らかだった。

 

「おいおいおい。無闇に動かないでくれよ?生憎拳銃はそこまで得意ではなくてね。動けない程度に、なんて器用なことは私にはできないよ」

 

 いつの間にかファインハルスが両手にルガーP08を構え、ピタリと護衛達に狙いを定めていたのだ。ファインハルスは狂喜の笑顔を浮かべ今か今かと引き金に指をかけている。

 ここで銃撃戦にでもなれば洒落にならないので、神崎はまずシーナを制止した。

 

「シーナ、手を離せ」

 

「この人は・・・!!」

 

「シーナ」

 

「・・・ッ!?」

 

 シーナは一瞬苦渋の表情を見せるも、きつく口を結んで手を離した。再び荒々しい足音先程まで立っていた場所に戻り、腕を組んで壁に背を預ける。目はチャールズを睨んだままだった。

 

「ファインハルスも」

 

「やれやれやれ。今日は戦争はなしだな」

 

 ファインハルスは神崎が声をかけるとすぐに両手のルガーをクルリと回転させ、腰の後ろについていたホルスターに直した。少し残念そうにしていたのは目を瞑り、神崎は首を擦るチャールズに向き直った。

 

「貴方の言いたいことは分かる。だが、それに応えることは出来ない」

 

「・・・何故だろうか?」

 

「彼女が普通のままであれば、俺は手は出さない。しかし、共生派に組することになれば、容赦なく殺す。それだけだ」

 

 その言葉には有無を言わさない断固ある決意があり、チャールズは暗い殺意を滲ませた神崎の視線に何も言えなくなってしまった。

 神崎の態度が面白かったのかファインハルスはクスクスと笑い、シーナは憮然とした表情のまま。

 

「他に、何か言うことはあるか?」

 

 その神崎の言葉を以ってこの会談は終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 帰路についた神崎達一行の車は、往路に比べて道中は非常に静かなものになっていた。なぜなら、車内が重苦しい沈黙に包まれていたからだ。

 

「シーナ。機嫌を直せ」

 

「さてさてさて、殺気で首筋がピリピリしてきたぞ」

 

「・・・」

 

 原因は一目瞭然。先程から憮然として腕を組んでいるシーナだ。先程の会談でのチャールズの発言が余程気に障ったのか。ファインハルスは軽口を叩いて運転を続けるだけで何もしようとせず、神崎も何度か話しかけるも全て無視されてしまっていた。

 チラリと運転席のバックミラーに視線を向けると、ファインハルスは諦めたように首を振るのみ。手がつけようがない、と神崎も嘆息して腕を組んだ。

 

「どうして、そんなに怒る?」

 

「・・・」

 

「お前が侮辱された訳ではないだろう?」

 

「そうですけど・・・」

 

 ようやく、返事をしたシーナは桜色の唇を悔しそうに噛み締めていた。

 

「何も知らない人に・・・口にして欲しくないだけです」

 

「そうか・・・」

 

 シーナの言葉に神崎は憂鬱な表情で煙草を咥えた。棚引く煙が窓の隙間から流るのを眺め、ボソリと呟く。

 

「・・・そうだな」

 

 その言葉を最後に車内での会話は途切れてしまった。

 

 

 

 

 

 

 車は連合軍司令部の裏手に止まった。人通りは少なく、司令部の建物に繋がる裏門に歩哨が立つだけだった。

 

「さてさてさて。到着だ」

 

「ああ。世話になった」

 

 運転席から振り返ったファインハルスに礼を言い、神崎はドアを開けた。そのまま外に出ようとしたのだが、背中を引っ張られる感覚に動きを止めざるを得なかった。原因は把握している。

 

「どうした、シー・・・」

 

 振り返った神崎だったが、完全に彼女の名前を完全に呼ぶことができなかった。なぜなら、振り返った瞬間にシーナの顔が目の前にあったから。彼女の唇が神崎のそれを塞いでいたから。

 2つの唇が触れていたのが数秒だったのは、ファインハルスの気障な口笛が聞こえたからだった。我に返った神崎がシーナの肩を掴み、無理矢理体を遠ざけた。神崎の目には剣呑な色が滲んでいた。

 

「・・・どういうつもりだ?」

 

「私が、こうしたかったんです」

 

 神崎の視線に対するシーナの表情は殆ど変わらなかった。だが、僅かに揺れる彼女の瞳には、悔しさが滲んでいた。その悔しさの意味が分かってしまったからこそ、神崎はこれ以上何も言わなかった。何も言わぬままシーナと額を合わせ、今度こそ車から出た。

 

「ああ。トランクに頼まれていたものを入れているから、持って行きたまえ」

 

「すまない」

 

 神崎が車のトランクに置いてあった黒い布張りのアタッシュケースを受け取ると、程なくしてファインハルスは車を発進させた。街並みに消えていく車を見送り、神崎は敬礼する歩哨に軽く頷くことで返礼とし、裏門を通過していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてさてさて。随分と大胆だったじゃあないか」

 

 神崎を送り届け、司令部から離れた車の運転席で、ファインハルスは楽しげな声で後部座席のシーナに声をかけていた。チラリとミラーを見てみれば、シーナは無表情なままで窓の外を眺めていた。

 

「・・・ただ私がそうしたかっただけです」

 

 そう返事をするシーナの表情は殆ど変わらない。神崎ならば彼女の感情の機微を感じることができるだろうが、ファインハルスには全く分からなかった。そもそもファインハルスに他人の感情を読もうとする気が全くないのだが。

 

「あの言葉で彼が傷ついたとでも?」

 

 だからこそ、ズケズケと人の感情に踏み入ることができるのだが。

 シーナが窓の外に向けていた視線をファインハルスに向けた。その目は明らかに不機嫌で、殺気さえ滲ませる勢いだった。

 

「少佐のそういう所、嫌いです」

 

「それは光栄だ」

 

 シーナの殺気にあてられても楽しげな表情を一切崩さず、ファインハルスは視線だけで質問の答えを催促した。それに対し、シーナは軽く溜息を吐き再び視線を外に向け、呟くように言葉を零した。

 

「ただ虚しかっただけです」

 

 誰も好き好んで手を染めた訳ではない。

 それでも、どんなに後ろ暗くとも、どんなに残酷であろうとも。自分達の意志で行ったことでもあり、その結果も罪も全て背負ってきた。目を背けなかった。

 だからこそ。

 だからこそ、怒りはした。それは、怒りを爆発させなければ・・・それ以上の虚しさで崩れ落ちそうだったからだ。

 

「意味がなかったみたいじゃないですか・・・」

 

そういう彼女の姿はひどく寒々しく、寂しげだった。ファインハルスも何も言わず視線を前に戻し、ゆっくりとハンドルを切るのだった。

 

 

 

 

 

 神崎はアタッシュケースを片手に司令部の片隅にある待機室に入った。

 部屋に置かれたソファに座り、膝の上でアタッシュケースを開く。

 中には、幾つかの紅茶の袋とコーヒー豆の袋、そしてクッキーの箱が収められていた。

 

「あいつめ。面倒くさいことを」

 

 物が良い物だけに、悪いように出来ないのが辛い所だ。神崎は溜息を吐いて、紅茶の缶の下にあるケースの裏地に手を伸ばした所で・・・、待機室の扉が開いた。

 

「待たせたわね」

 

「・・・。会議は終わりましたか」

 

 扉を開けて入ってきたミーナを一瞥し、神崎はケースに伸ばしていた手を戻した。アタッシュケースを閉じ、立ち上がってミーナの傍による。

 

「荷物を持ちます」

 

「いいえ、結構です」

 

 ミーナの顔には疲れが滲んでいたが、彼女が小脇に抱えている書類と封筒の束を渡す神崎の提案は毅然とした態度で断った。断られた神崎の方も何事も無かったように表情を崩さずに、ミーナの正面に立つ。

 

「このまま基地へ戻ります」

 

「了解です」

 

 有無を言わさない口調だったが、神崎は二つ返事で了承してみせた。ミーナも頷いて待機室から出ようとしたが、神崎が持っているアタッシュケースに気付いた。

 

「それは?」

 

「・・・知り合いからの差し入れです」

 

「中を見ても?」

 

「どうぞ」

 

 ミーナが見ることが出来る高さまでアタッシュケースを持ち上げて中身を見せる。先程神崎が見ていたのと同じラインナップを見せると、ミーナの視線がある物で止まった。視線を辿ってみれば、コーヒー豆にたどり着いた。

 

「アマゾネスのコーヒー・・・」

 

「・・・コーヒーがお好きで?」

 

「・・・まぁ、そうね」

 

 神崎の質問に気まずそうに答え、今度こそミーナは廊下へと歩を進めた。その後ろ姿を確認してからアタッシュケースを閉め、後に続く。

 

「501に増員がきます。教官経験は?」

 

「少しは。しかし、501に来る魔女(ウィッチ)に訓練は必要ないのでは?」

 

「少し事情がね。手を借りることになると思うわ」

 

「・・・命令とあらば」

 

 ビショップが言っていたことはこのことだったのか・・・と、神崎は嘆息した。リネット・ビショップがどのような人物かは分からないが、自分はチャールズに言ったように行動するだけだと、一瞬だけ瞑目した。

 その様子をミーナが気付く訳もなく、以降2人の間には沈黙が横たわったまま帰還の途につくのだった。

 

 501基地に到着したのは、深夜に差し掛かる時間帯だった。

 照明によって照らされた滑走路にJu52は着陸した。消灯時間はとっくに過ぎ去っており、基地は暗闇に閉ざされていた。ミーナと神崎も手短に挨拶し、それぞれの部屋へと別れてた。

 暗い廊下を歩いて自室にたどり着いた神崎は、机でアタッシュケースを開けた。中身をテーブルの上に広げると、フェルト地のケース裏を指でなぞる。

 

「ありがちな。奴らしいが・・・」

 

 そう呟きながら、神崎は指に火を燈してフェルト地を破いた。そこから覗いたのは、整然と並べられた数々のデリンジャー。手早く数えて、溜息を吐く。

 

「頼んだ分は準備してくれたか・・・」

 

 デリンジャーの隙間に挟んであった「good luck!」の走り書きを燃やし、イスに座って煙草を咥える。

 

「『魔女殺し』か・・・」

 

 煙草の先で揺らめく灯りを眺め、神崎はポツリと呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ハハハハハハハ!!!!いいぞ!最高だ!戦争はこうでなくては!!』

 

『上空に6。地上は押さえます』

 

『1小隊は壊滅!爆撃だ!隠れろ!隠れ・・・』

 

『さてさてさて。シールドとは厄介だな。アハトアハトでも持ちだすかね?』

 

『そんなのどこにあるんですか。どうするんです?いよいよ年貢を納めますか?』

 

『よく扶桑語を勉強しているようだ』

 

『敵、再度攻撃してくる模様です。こんな所で拳銃自殺は嫌なんですが・・・』

 

『ふむ・・・。自決の準備もしなければ』

 

「その必要はない」

 

「ウルフ1、敵機視認。交戦開始」

 

「死に晒せ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ・・・・・・寝ていたか」

 

 指に奔った痛みに、沈んでいた意識が呼び覚まされる。どうやら、煙草の灯りを眺めている内に船を漕いでいたようだ。根元まで燃え進んだことで焦がされた指を軽く舐め、短くなった煙草を握り燃やす。

 

「・・・ふぅ」

 

 夢見は良くなかった。

 再び煙草を咥え、今度は窓を開けて縁に座り、夜風を浴びる。流れてくる風によって運ばれた潮の香りが混ざった紫煙を吸い込み、吐き出しながら、胡乱な目で煙草を投げ捨てた。

 

「・・・あぁ、なんでだろうな」

 

 無性にお前に会いたい、醇子。

 

 呟いた婚約者の名前が夜の闇に消えるのと同じように、投げ捨てた煙草も灰になって消えていった。

 






え?一番の楽しみ?
発進しますのアニメ化かな?

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