ストライクウィッチーズ 一匹の狼   作:長靴伯爵

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何とかして7月のイベントのチケットを手に入れたい・・・!

あ、ノーブル完結しましたね
まだ読めてないのが悲しいです

感想、アドバイス、ミスの指摘などよろしくお願いします


第七十八話

 

 新月の夜。

 

 照らす月光は無く、ドーヴァー海峡に繋がる浜には小さな波飛沫が立っていた。穏やか、とはいえないが、さりとて時化ているとも言えない。

 そのような天候の方が彼らには都合が良かったのだろう。凪いでいれば侵入が容易にばれてしまい、時化であればそもそも侵入ができない。森からの侵入を何度も妨害されてしまえば、別ルートを模索するのは当然の判断である。

 

 だが、それを対処するのもこちらとしても当然の判断ではあるのだが。

 

 白波を蹴立て、弾丸が水を切り、炎が白煙を噴出させる。

 暗闇が満ちる水面にシールドで弾丸を弾く火花に照らされ、一瞬一瞬表情が顕になる。

 

 振り下ろされた銃尾を相手の懐に潜り込み腕を受け止めることで防ぎ、胸に押し付けたデリンジャーの引き金を引く。崩れ落ちる相手の体を盾に追撃の弾丸を防ぎ、別方向から回りこむ敵に崩れ落ちた敵から奪った消音器付き短機関銃で撃ち殺す。

 波際で行われる戦闘の音は波音で掻き消され、新月の暗闇の中では一瞬光るデリンジャーの閃光と弾丸の火花だけが戦闘が行われている証拠。それらが治まっても、そこには変わらず波音が聞こえるだけ。

 

「・・・終わったか」

 

 岸に打ち上げられた軍帽を拾い上げ、海水が滴る髪を軍帽の中に押し込む神崎。1度だけ海を振り返ると、海面には今しがた戦った跡が海面に浮かんでいる。それを無感情に一瞥し、基地への帰路についた。道すがら上着の内ポケットに入れていた煙草を取り出し、しかし咥えてからそれが水浸しであることに気付き投げ捨てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 日が昇れば、血生臭い戦いは鳴りを潜め、通常通りの仕事が待っている。

 任務、訓練、事務仕事などなど。神崎も類に漏れず、数組の書類の束を手に廊下を歩いていた。そんな神崎の後ろを付いて回る人物がいた。

 

「ねぇねぇねぇ、カンザキ大尉~!私もご飯行きたい生きたい行きたい~!!!」

 

「今言うのはやめてくれないか?ルッキーニ少尉」

 

 ツインテールを揺らし、神崎の後ろを付いて回るのはフランチェスカ・ルッキーニ少尉。神崎が少し前にエイラとサーニャと共に外食に行ったのを聞き、顔を合わせるたびに外食の催促をするようになったのだ。

 基地内の食事に辟易しているのは共感できるし、彼女がロマーニャ出身で食にうるさいのを考えれば外食に拘るのも分かる。

 しかし、仕事中に言われても困る。

 

「ルッキーニ少尉、次の非番の時まで待ってくれないか?」

 

「それ、この前も言ってたよ~」

 

 あしらう為の言葉も何度も使えば効果は無くなってしまう。結果、1度見つかってしまえば暫くは当分は追跡されてしまうのだ。

 

「それはしょうがないだろう。シャーリーに連れて行って貰ったらどうだ?」

 

「シャーリー、頼んだけどバイクのパーツ買っちゃってお金がないんだって~」

 

「どういう金銭管理なんだ・・・おっと」

 

 足を止めて呆れていると、いきなり神崎の背中にグイッと力が掛かってきた。崩れそうになるバランスを踏ん張って保っていると、ひょっこりとルッキーニの顔が神崎のすぐ横から出てきて。いきなり彼女が背中によじ登ってきたのだ。

 

「にっひっひ~」

 

「ルッキーニ少尉、動き辛いから降りてくれ」

 

「連れてってくれるまでやーだ」

 

「ふざけてないで」

 

「やーだやーだやーだ」

 

 体を揺らしても両手両足でガッチリとホールドしてビクともしないルッキーニに神崎は嘆息した。無理矢理引き剥がすのも可能だが、放っておけば勝手に飽きるだろうと高をくくりそのまま歩を進めた。

 書類仕事をするためにはミーナのいる隊長室が一番なのだが、部下がそこで仕事を行う訳にはいかない。自室や食堂で仕事をするわけにもいかないので、ミーナに報告したうえで談話室で行うことにしていた。

 

「ねぇねぇ、何書いているの?」

 

「見積もり書だ。いくつかの訓練と業務のな」

 

「ん~?よく分からない」

 

「少尉だろう?書類仕事も覚えろ」

 

「私は飛ぶ方がいい~」

 

 神崎が机に向かいペンを走らせて書類を仕上げていくのをルッキーニがそれを覗きこんでいる。彼女はすぐに飽きるだろうと思っていたが、意外にも一枚仕上げるまで動かなかった。2枚目に移ろうとした所で談話室に新たな人物がやってきた。

 

「あれ~?ルッキーニにカンザキ大尉?」

 

「あ、ハルトマン中尉だ」

 

「む?」

 

 談話室に入ってきたハルトマンは、ルッキーニを背負ったままで書類に向かい合っている神崎を見て不思議そうに目を丸くした。神崎自身もこの状況が可笑しいというのは重々承知しているので、軽く溜息を吐くだけに止めた。

 

「・・・大尉はそんな状況で何してんの?」

 

「いくつかの書類作成を。ミーナ中佐に頼まれてな」

 

「ミーナが?」

 

「ああ」

 

 意外そうな表情をするハルトマンに神崎は頷いた。

 そもそもどうして神崎が書類仕事をしているのかだが、神崎が戦闘記録の報告書を提出した時の何気無い一言がきっかけだった。

 

『自分に振る仕事はありますか?』

 

 この一言でミーナの表情は固まり、神崎もなぜ彼女がそんな表情をするのか分からず固まった。神崎の感覚としては、隊長は部下の仕事を統制し確認するものだ。士官であるならば魔女(ウィッチ)であっても、魔法使い(ウィザード)であっても机に向かうのは当然のことだろう。

 しかし、この神崎の一言にミーナは思考停止するほど衝撃を受け、しばらく停止した後にいくつかの案件を神崎に任したのだ。その時の表情は、ミーナが神崎のことを警戒している関係を踏まえれば、到底見せるとは思えないほど喜色に溢れていた。

 

「ハルトマン中尉は事務仕事は・・・」

 

「あ、あ~!そういえば、トゥルーデに呼ばれてたんだったー!」

 

「・・・なるほど」

 

 神崎が水を向けるとそそくさと談話室から出て行ってしまったハルトマンの様子と昨日のミーナの様子から察するに、この部隊では書類仕事の殆どをミーナが担当しているのだろう。部隊の中堅である中尉があの様なら、ミーナの苦労を察せざるを得ない。

 

「ん~?どうしたの?」

 

「・・・ルッキーニ少尉は、少しずつでいいから書類仕事を覚えいこう」

 

「やだ」

 

「・・・」

 

 最若手のこの有様を目を瞑るだけで諦め、神崎は2枚目に取り掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 2枚目以降の書類仕事は流石に飽きたルッキーニはどこかに行ってしまい、神崎は軽くなった背中で隊長室のドアを叩いた。

 

「神崎です」

 

『どうぞ』

 

 ドア越しに入室の許可を得て扉を開けると、先程書類仕事を振られた時と同じように机でペンを動かすミーナの姿があった。神崎が書類で埋まっている机の前に立つと、ミーナはペンを止めた。

 

「何かしら?」

 

「頼まれていた仕事が終わりました。確認をお願いします」

 

「そ、そう。早いわね」

 

 完成した書類を差し出すと、ミーナは驚きに抑えきれない喜色を滲ませながら受け取った。たったこれだけのことであそこまで自分を敬遠していた人物がここまで変わるのかと内心呆れながら、神崎はミーナの確認が終わるのを待つ。

 数分して彼女は書面に落としていた視線を上げた。

 

「幾つか修正する箇所はあるけど、概ね大丈夫よ。助かったわ」

 

「いえ、大したことではありません」

 

 実際、神崎が担当したのは難しいものではない。しかし、ミーナにとっては少し違った。

 

「手伝ってもらったことに意味があるのよ。本当に・・・」

 

「・・・なるほど」

 

 彼女の言葉には余りにも実感が籠っていたので、神崎は若干引きながら一言で済ました。彼女の言動に引いたというよりも、彼女にこうも言わせる環境に引いてしまったというべきか。

 そんなことを考えていると、ミーナが申し訳無さそうに幾つかの書類の束を持っているのに気が付いた。

 

「神崎大尉、整備隊との調整でいくつか頼みたいことがあるのだけど・・・」

 

「分かりました」

 

 神崎が了承すると、ミーナはもはや喜色を隠さずに書類を差し出してきた。ミーナとの関係は難しいものになると考えていたが普通の仕事をしただけでここまで取り入りやすくなるとは夢にも思わなかった・・・というのが神崎の正直な感想である。

 どこかいたたまれなさまで感じつつ、神崎は受け取った書類を小脇に抱えた。

 

「それでは、自分はこれで」

 

「待って。もう1つ知らせることがあるの」

 

 神崎が回れ右をしようとした寸前、ミーナは新たな書類を取り出しつつ呼び止めた。眉を顰めた神崎に、ミーナは書面の内容を伝えた。

 

「2週間後に、ロンドンの司令部で新たな統合戦闘航空団設立の意見交換会が開かれるの。そこに私も現統合戦闘航空団隊長として招集されているわ」

 

「はい。・・・それが?」

 

「それに神崎大尉にも同行してもらいます」

 

「自分が同行する理由が分からないのですが?バルクホルン大尉は?」

 

 部隊に来て大して日も経っていない神崎が行くよりも、ミーナと同時にこの基地にいるバルクホルン辺りを同行させたほうが意見交換には十分に役立つだろう。というか、ミーナが警戒している神崎を同行させるのは明らかに不自然だ。

 

「そうね。私もそうしようかと思ったけれど、命令書に貴方を同行させるように書かれてあるの」

 

「・・・分かりました。では、自分はこれで」

 

 いきなりの司令部への呼び出しが何を意味するのか。

 神崎はこれ以上は余計なことは言わず、頷いて回れ右をした。隊長室を退室すると、早足で自室へ向かい歩を進める。その神崎の表情はどこか無機質だった。

 

「司令部に何があるのやら・・・。」

 

 思い出すのは、先日のファインハルスとの会話。このタイミングでの司令部の呼び出しはそれに起因していると考えるのが妥当だろう。

 何の気なしに神崎は胸の内ポケットに手を突っ込み、そこで目的の物がないことに気付いた。なくなった理由を思い出し、神崎は溜息を吐いて呟く。

 

「あぁ・・・。煙草が吸いたい」

 

 煙草の箱は海水でずぶ濡れになって捨てていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてさてさて。準備はどうだ?」

 

「人員、装具共に異常なし」

 

「よろしい。よろしい。ならばこそ、戦争のやり甲斐があるというものだ」

 

 闇夜に沈む狂喜は、静かにそして確かに伝播していく。

 ファインハルス少佐が率いる13名の兵士は、鋭い眼光で森の地面を踏みしめる。

 敵は隠蔽に長けていた。ようやく掴んだ情報からここまで手繰り寄せてきたのだ。

 

「狼君には迷惑をかけた。ならば、少しぐらいは鉄火を以って報わなければ」

 

 あぁ・・・とファインハルスは手に馴染む銃の重さにバラクラバ帽の下の頬を緩めた。体に掛かる装備の荷重に足が重くなるどころか、弾んでしまう。

 待ちに待った戦争だ。

 木の陰から目を覗かせれば、人里離れた場所に建設された工場がある。

 表向きは織物工場。しかし、それが嘘だというのは各入り口と屋根の上で警備についている完全武装の兵士を見れば一目瞭然だ。

 バラクラバ帽越しでも分かるほどの深い笑みを浮かべてファインハルスは指揮者のように片手を上げた。

 

「電撃戦だ。脇目も振らずに進み続けて、悉く殺し尽くせ」

 

 サッと腕を一振りするだけで、13人の死神達が動き出す。

 待ちに待った戦争だ。

 まもなく見ることが出来る光景に胸を高鳴らせ、ファインハルスは告げる。

 

「攻撃、開始」

 

 静寂は一瞬。

 次いで、爆発、銃声、怒号、悲鳴。

 

「さてさてさて。存分に楽しむとしよう」

 

 ファインハルスは狂喜を纏い、動きだす。

 

 あぁ、戦争はこうでないと。

 





この小説を書き始めたのは、ノーブルよりも前ですけど、先にノーブルが完結してしまいました。
時間の流れというのは・・・

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