THE WORLD WITCHES2018 面白いな~とかしてたら10周年イベントですね!
501、502の合同らしいですし、今から本当に楽しみです。
そんな訳で第七十六話です
感想、アドバイス、ミスの指摘などよろしくお願いします。
神崎が諸々の仕事を終わらせて基地に帰ってきたのは殆ど明け方だった。
誰にも・・・特にミーナに感ずかれないように、ひっそりと基地に忍び込み部屋に入った。多少の障害物を物ともしない魔法力による身体強化さまさまである。
部屋に入ってすぐに第1種軍装の上着を脱ぎ捨てベッドに放る。放る前にポケットから抜き取っていた煙草を咥え、下に来ていたカッターシャツの首元のボタンと空になった両脇下の拳銃のホルスターのベルトを緩める。そして、窓を空けて外の空気を入れつつ明るくなり始めた空を眺めた。
「完全に寝そびれたな・・・。少しだけでも眠った方がいいのだろうが・・・」
まだ夜風に近い冷たさを感じつつ煙草の煙を揺らす。
独り言通りに眠ってしまうのもいいのだろうが、段々と明るくなる空を眺めているうちにその気は無くなっていった。気分転換を兼ねて身嗜みを整えコーヒーでも飲めばいいだろう。
神崎は吸い終わった煙草の吸殻を燃え上がらすと幾つかの洗面具と着替えを持つと足早に浴室へと向かう。整備兵用の簡素なシャワー室で汗と若干の血の臭いを洗い流して部屋に戻り、第2種軍装へと着替えて食堂へと足を向けた。
誰もいない廊下は神崎の足音だけが木霊する。その音と夜明けの光に照らされた廊下は疲労と眠気で若干鈍った頭にはどこか幻想的だった。
だからこそ、廊下から続く曲がり角に進む人物の足音に気が付かなかった。
ボスンという音と走った胸の衝撃に神崎は足を止めた。たたらを踏むまでもない軽さだったが、ここまでの接近に気付かなかったのに驚いていた。
「ッ・・・!?お前・・・は・・・」
「スゥ・・・・スゥ・・・」
一瞬警戒するも、自分の胸元に見える銀髪と胸元から伝わる規則正しい呼吸にその気も失せてしまった。何せぶつかってきた相手が眠りこけているのだから。
「いくら夜間哨戒空けとはいえ・・・どうなんだ?リトヴャク・・・」
3年前に声だけを聞き、
神崎は微妙な表情をしつつもこれからどうするか考えた。ずっと待っている訳にもいかず、彼女の部屋に行くのはミーナに禁止されているがそもそも場所を知らず、神崎の自室に運べば銃殺を志願しているのと同義だ。
「落ち着いた所で会いたかったとは言ったが・・・、これはいささか落ち着きすぎだろう」
ふぅと溜息を吐いて神崎はゆっくりとサーニャを横抱きで抱え上げた。この状況を見られただけで相当危険なので、足早に、しかし極力揺らさないようにこの場を後にした。向かったのは・・・。
「・・・ャ。・・・ニャ」
つつまれるような温かさに身を委ねて沈んでいた意識が僅かに浮上した。しかし、このまどろみを手放すのは余りにも勿体無く、再び意識が沈んでいこうとする。
「・・・ァーニャ。サーニャ」
しかし、今度ははっきりと名を呼ばれながら優しく体を揺すられれば沈み込んだ意識は完全に浮かび上がってしまった。浮かび上がりはしても覚醒しきらない眼を開き、自身を覗き込む人物の顔を見上げた。
「ん・・・。エイ・・ラ?」
ぼやけた視界が結んだ像は、少し怒ったような表情をしたエイラだった。
「部屋に居ないと思ったら・・・。ここで寝てちゃダメじゃないカ」
「あれ・・・?私・・・」
エイラの言葉を聞いて初めてサーニャは自分が自室ではない所で寝ていたことに気付いた。体を起き上がらせれると、体に掛かっていた毛布がずれて自分が談話室のソファで寝ていたことに気付く。
「なんで・・・ここで・・・」
「昨日の哨戒で疲れたのカ?」
「昨日は・・・少し。でも・・・格納庫に帰ってからは・・・」
ストライカーユニットを格納庫に収め、そこから部屋に戻ろうとして・・・。疲労が余程溜まっていたのか記憶が曖昧だった。先日の夜間哨戒では、基地周辺で不審な電波の揺らぎ感じ取り、集中して警戒していたのだ。結果として特に問題はなかったが電波に沢山の地形物が反射し、それを見分けるのに相当労力を費やしたのだ。
いまだ抜け切れない眠気を持て余しながらボ~としていると、外からストライカーユニットの離陸音が連続して聞こえてきた。何気無く談話室の窓の方を向くと、エイラが気付いて口を開いた。
「今日は編隊での模擬戦するって言ってたナ。昨日からカンザキ大尉も大変ダナ」
「カンザキ・・・大尉?」
「うん。この前新しく配属された
「
首を傾げながらサーニャは言葉を反芻する。そんな彼女が向く窓からは2つの航跡が絡み合っていた。
『よく着いてくる!本当に腕を上げたな!』
『まだこの程度・・・!』
『ならこれはどうだ!!』
『望むところ・・・!』
無線で交わされる言葉には、聞いている者に気安さと真剣さ、そして確かな友情があるのを感じさせるものがある。そして会話に呼応するように、上空の2つの航跡は複雑さをましていく。その会話を耳のインカムから聞きながら、ミーナは滑走路から複雑な表情で見上げていた。
神崎の編隊飛行のテストが開始されて30分が経過していた。
坂本が長機として戦闘機動を行い、それに神崎が追随していく。ただそれだけだが、坂本が行う戦闘機動は一握りの熟達者が可能なものであり、それに追随する神崎は技量の高さを証明しているのと同義だった。
「うん。やはり、神崎大尉の実力は申し分ないものだな」
隣から聞こえた声にミーナが視線を向けると、腕を組んだバルクホルンが自身と同じく上空の航跡を眺めていた。当初はバルクホルンが今回の長機を務める予定だったが、急遽坂本と変更になってそのまま訓練を見学することになったのだ。その表情は、無表情ながらどことなく満足そうなもの。純粋に部隊に即戦力が配置されたのが喜ばしいのだろう。
普通の航空
「くぅ~~。あんな坂本少佐の近くで飛べるなんて・・・。なんて畏れ多い・・・なんて羨ましい・・・」
少し離れた所では、坂本を慕うペリーヌが嫉妬に彩られた眼で神崎を睨みつけている。確かに坂本の神崎への気にかけ様を見れば、嫉妬を覚えるのも無理はない。しかし、ミーナが神崎に向けるのは嫉妬よりも別な感情の方が大きかった。
『ならば、これはどうだ!!』
『左捻り込み・・・!?こっちはメッサーだぞ・・・!?』
『お前ならばできる!!』
『簡単に言ってくれる・・・!』
気安い、本当に気安い会話だ。友人、あるいはそれ以上の関係にあるかのよう。
こうして傍から聞いているうちに無意識に腕を組んでいる手に力が篭る。自分の大切な人が、今自分が最も警戒している人物と楽しげに会話しているのがどんなに心を掻き乱すことか。
「ミーナ。もうそろそろ、訓練終了の時間だが?」
航跡を見ていたはいいものの別なことを考えていたミーナの意識は、バルクホルンの呼び声で呼び戻された。自然な動きを装って腕時計を見れば、確かにもうすぐ決めていた訓練終了の時間だ。
「次は編隊での模擬戦だったか?」
「ええ。相手はシャーリーさんとルッキーニさんに。神崎大尉を長機にしたいのだけど、坂本少佐は・・・」
「ミ、ミーナ中佐!神崎大尉の2番機は私が!!これ以上坂本少佐と神崎大尉を・・・!」
ミーナが編組を考えていると、猛烈な勢いでペリーヌが進言してきた。その鬼気迫る表情に隣のバルクホルンが引き気味になっていた。
「え、ええ。じゃあペリーヌさんはストライカーを装備して・・・」
「感謝いたしますわ、中佐!」
ミーナが戸惑いながら了承すると、ペリーヌは猛然と駆け出して格納庫に消えていった。そして程なくして格納庫からストライカーユニットを装備して現れ、あっという間に離陸してしまった。
「あいつは何を焦っているんだ?」
「さぁ、なんでかしらね」
ぽかん・・と上昇していくペリーヌを見上げるバルクホルン。ミーナも微妙な表情をしつつも、坂本に通信を入れた。
「美緒、あなたはペリーヌさんと交代して」
『む、そうか・・・。仕方ないな』
『・・・あんな無茶苦茶な編隊機動はもうたくさんだ』
『ハッハッハ!!そう言いながら追随してきたじゃあないか!』
坂本は楽しげな、神崎は疲れたような、無線での2人の会話。おそらく、これはペリーヌが乱入もとい合流するまで続いた。坂本が滑走路に降り立ったのを見届けていると、今度は格納庫からシャーリーが歩いてやってきた。頭を掻きながらバツの悪い顔をしている。
「中佐。私とルッキーニの出撃は遅れそうだ」
「あら。何かユニットに問題が?」
「さっきペリーヌが出撃したろ?こっちが調整している横であいつがストライカーをふかしたから、工具やら整備機材やらが吹っ飛んじまったんだ。調整も一からやり直し。むしろ片づけがあるから時間がかかるな」
少なくとも2,30分・・・と指を折りながらのシャーリーの言葉に、ミーナは溜息を吐いた。バルクホルンも戸惑いを通り越して呆れている。
「まったく、もう・・・。確かに許可はしたけど・・・これは注意が必要ね」
優秀な人を集めているはずなんだけど、なんでこう問題が起こるのかしら・・・と心中で嘆息しているミーナだったが、そんな悩みを吹き飛ばすかのような大きなサイレンが響き渡った。
ネウロイ襲撃の警報音である。
「ネウロイ!?」
「予測では明後日のはずでは!?」
シャーリーとバルクホルンが驚きの声をあげる中、ミーナは思考を迎撃に切り替えていた。現在、即応可能なのは上空にいる神崎、ペリーヌの2人。先程着陸したばかりの坂本も出撃できるかもしれないが、シャーリーとルッキーニはしばらく出撃できない。基地で待機しているメンバーを出撃させるべきか・・・。しかし、無線を通して知らされたネウロイの情報が選択肢を狭めることになる。
『確認されたネウロイは、ガリアからブリタニアに向けて侵攻中。超低空且つ高速で飛行しるため、発見が遅くなった模様。予想到達は約10分後です』
「速いわね・・・」
ミーナの表情が固くなる。判断に時間がかかるほどにネウロイがブリタニアに侵入する可能性が高くなるのだ。しかし、ここで即応できるであろう上空の2人、特に神崎に命令を下すには不安要素が大きかった。
『ディートリンデ中佐』
「・・・何かしら?神崎大尉?」
その不安要素が多い神崎から通信。ミーナは上空で滞空している神崎を見上げて続きを促した。
『ここ周辺の空域は把握しています。自分が先攻して足止めを』
「・・・銃も持っていないのに足止めが出来るわけ無いでしょう?」
先程までの編隊飛行訓練は機動を主目的にしていたため殆どの武装せずに行っていた。今の神崎の装備は拳銃と扶桑刀だけのはずである。だが、神崎の返事はまったく揺らいでいないものだった。
『足止め程度なら、固有魔法を使えばなんとかなります。後続の到着に時間がかからないのなら問題ありません』
ミーナは沈黙してしまう。ここまで躊躇する原因は、神崎がこの空域に不慣れであることもあるが、その殆どは自身が持つ神崎への不審感に他ならない。しかし、今のところは神崎が不審な行動をとっているのを少なくともミーナ自身は把握していない。そんな曖昧な理由でブリタニアを危険に晒すのか・・・。指揮官としての彼女の決断は自ずと決まる。
「分かりました。神崎大尉は迎撃に向かいなさい。準備が出来次第、後続が向かいます」
『了解』
「ペリーヌさん、あなたは神崎大尉の2番機になってサポートを」
『りょ、了解しました!』
それぞれ返事を残して迎撃に向かう神崎とペリーヌを見送り、ミーナは格納庫へと向かう。そこでは先程まで上空にいた坂本と、離陸準備中だったシャーリー、ルッキーニ、そしてバルクホルンとハルトマンが出撃の準備に取り掛かっていた。
「神崎大尉とペリーヌさんが先行して足止めしています。準備が出来次第、出撃。指揮は坂本少佐が」
「任せろ、ミーナ」
坂本の頼もしい言葉と微笑みに、ミーナも微笑みを以って応えた。
問題は、彼女達が出撃して到着するまでの時間を神崎達が稼げるかであった。
ネウロイの迎撃の為に501から移動を開始した神崎とペリーヌは、基地から通報される観測されたネウロイの位置情報を頼りに飛行していた。最初のうちは空域に慣れていないだろうとペリーヌが誘導しようとしていたが、神崎は完全に記憶していたらしく全く必要がなかった。一人で躊躇なく進んでいく姿に、ペリーヌは坂本とのやり取りに対する嫉妬も含めて不満を感じていた。
しかしそんな不満を燻ぶらせる時間も無く、状況は次に進む。
「前方1時の方向、洋上。距離ではまだ遠いはずだが、視認できる」
「私も視認しましたわ。300m級です」
2人が視認したのは、全翼機のような形状をした巨大なネウロイだった。アフリカやスオムスでは殆ど相手にすることはなかったタイプである。その巨体故に攻撃力と防御力は段違いだろうが・・・ある意味、神崎にとっては好都合だった。
「さて・・・。クロステルマン中尉」
「は、はい!」
「戦闘に入る前に1つ命令を出す」
洋上にネウロイを視認しながら、速度を落とした神崎は背後のペリーヌに視線を向けることなく話しかけた。ペリーヌも今から戦闘に突入するだろうと意気込んでいたのだが・・・。次の神崎の言葉で出鼻を挫かれることになる。
「お前は手出しするな」
「・・・は、はい?」
「戦闘に参加せず待機していろ」
まさかの言葉に一瞬呆けてしまうペリーヌ。しかし、すぐに怒りが沸きだした。それは当たり前だろう。ペリーヌは自由ガリア空軍の中でも随一ともいえる腕前を持つ航空
「侮らないで下さいまし!私は、あの程度のネウロイは何度も・・・」
顔を怒りで赤く染めて声を荒げるが、神崎はチラリと一瞥すると冷たく言い放った。
「敵意を向けてくる奴に背中を任せる気は無い」
「な・・・!?」
まさかの言葉にペリーヌは固まってしまうと、神崎は更に言葉を続けた。
「俺のことが気に食わないのは別にいい。だが、戦闘にそんなものを向けられたなら・・・反射的に殺しかねん」
だから絶対に着いて来るな。
そう言い残して、神崎はネウロイに向かって加速して言った。ペリーヌは、告げられた言葉と、何より神崎の視線に滲んでいた殺気で動くことができなかった。
接近するにつれ、みるみる大きくなるネウロイの巨体に神崎は素直に驚いていた。
「本当にでかいな・・・。まぁ、狙いが付けやすくて楽だが」
アフリカやスオムスでは殆どが小型で高機動のネウロイ、大きくても中型で、ある程度機動力があるものを相手取っていた。ここ最近だとより小型で高機動のものも相手にしていたが・・・今は関係ないことだ。
神崎は頭を振って思考を切り替えると、左手に魔法力を集束させた。集束した魔法力は熱を持ち始め、それが炎を発生させる。
「・・・行け」
いぜん加速させながら振った左手。その軌跡から放たれるのは20発にのぼる炎。それらが左右から包囲するように大型ネウロイに襲い掛かった。複数の小型ネウロイを木っ端微塵にする威力を秘める炎が一斉に爆発した。
ギギギギギャアアアアアアアアアアアアアア!?!?!?!?
体のいたる所を吹き飛ばされ、悲鳴のような金属音を響き渡らせるネウロイ。少なくない魔法力をつぎ込んだはずなのだが、コアを破壊するまでには至らなかったようだ。
「・・・まぁ、いい」
神崎は再生が始まったネウロイを一瞥すると、腰に差してある
神崎の接近にようやく気付いたのか、ネウロイがビームを放ち始めた。その巨体に見合うだけの高威力の複数のビームに、神崎は表情を変えずに突っ込んだ。
「フンッ・・・」
鋭いロール機動でビームを回避し、直撃コースのものは速度を落とさないようにシールドで逸らしながら、尚も接近し間合いに捉えた。刀身に神崎の魔法力に呼応して炎が発現した
「シッ・・・!!!」
短い気合の呼吸音と共に放ったすれ違い様の斬撃は、見事にネウロイの右翼を切り裂いた。再び響き渡る金属音を聞きながら、そのまま速度を活かして距離を取ってネウロイの状況を確認すると、切り離された翼の付け根に紅く光る結晶を発見した。
「コアを確認。さて、ここから・・・」
『神崎大尉!やはり、私も!』
「チッ・・・」
神崎はここから反転して再び攻勢に出ようとしたが、神崎はネウロイの近づく1つの機影を見つけて思わず舌打ちしてしまった。ペリーヌが神崎の命令を無視してネウロイに攻撃を仕かけたのだ。
「よりにもよってこのタイミングで・・・。再生したネウロイの的だぞ・・・」
短時間でこれほどのダメージを追ったことに危機感を感じたのか、ネウロイは先程とは段違いのビームの弾幕を一番接近しているペリーヌに放ち始めた。最初の方はペリーヌも上手く回避していたが、シールドでまともにビームを受け止めてしまったのを皮切り押し込まれてしまう。
その様子に神崎は眉を顰めて、すぐさま反転してネウロイに向け加速した。
『クゥ・・・!?』
インカムから漏れるペリーヌの苦悶の声で、ネウロイの攻勢の激しさが窺える。完全に弾幕に捕らえられているようで一刻の猶予がないのが明白だった。神崎は
「ここだ・・・!!」
交錯する時間は一瞬。
しかし、その一瞬で神崎は的確にコアの位置に炎を噴出させた。
高温の炎がいとも簡単にネウロイの装甲を溶解させ、その奥にあるコアを破壊する。
交錯した後には、背後に光の粒子だけが残った。
「・・・ふぅ」
魔法力の使いすぎによる疲労を覚えながら息を吐き出して僅かながらに緊張を解く神崎。その傍にゆっくりとペリーヌが近づいてきた。強力なビームの弾幕をシールドで防いでいた為か若干息を切らせ、そして申し訳ない表情をしている。
「神崎大尉・・・。あの・・・」
「無事か。・・・坂本への義理立ては出来たな」
「え・・・?」
「・・・軍人なんだ。命令は守れ、クロステルマン中尉」
「は、はい・・・。ですが、私は・・・」
「・・・来たな」
何か言おうとしたペリーヌには目もくれず神崎は別の方向に視線を向けていた。その視線の先には、増援でやってきた坂本達の姿が。
「・・・ネウロイ撃破。RTB」
「あ、あの・・・!」
さっさと帰還する旨を通信に乗せ、神崎は坂本達の方へと移動を開始した。結局、その後も神崎はペリーヌとは一切会話しないままであった。
坂本達との合流後、神崎はそのまま基地に帰還しミーナに簡単な戦果報告を行った。ペリーヌには有無を言わさず協同撃墜として報告し、戦闘の詳細は後日報告書として提出することになった。いい機会だからと、バルクホルンに報告書の作成について教えてもらうことになり、それは夕食後ということになった。
「お~い、大尉」
「イッルか・・・」
夕食までもう少しといった時間帯。
煙草でも吸おうかと考えながら廊下を歩いていた神崎にエイラが声をかけた。彼女も増援で出撃していたのだが特に疲れた様子は無い。
「なぁ、大尉。今日の夜、暇カ?」
「ああ。夕食後は用事があるが、夜は何も無いな」
「じゃあ、用事が終わったら食堂ナ!絶対ダカンナ!」
「ああ」
神崎が了承すると、エイラはホッとした様子でどこかへと走り去ってしまった。神崎も少し首を傾げたが、特に気にすることなく食堂へと向かう。時間を潰すのは煙草ではなく、コーヒーか紅茶にしよう。
また微妙な夕食を終え、特別に入室を許可された談話室でバルクホルンから報告書作成の指南も受け終えての夜。神崎はエイラに言われた通りに食堂で待機していた。暇を持て余して淹れたコーヒーを一口飲み、顔を顰める。スオムスでアウロラのコーヒーを飲んでから、自分が淹れるコーヒーも随分と苦くなってしまった。眠気覚ましには最適だが、こうやってリラックスする為に飲むものではないことがよく分かる。
「お!いたいタ」
「む。来たか・・・」
苦いコーヒーをテーブルに置き、食堂の入り口に立つエイラを見る。どこかソワソワした様子なので、神崎は顎でコーヒーを指し示した。
「コーヒーでもどうだ?ユーティライネン大尉の味を再現したつもりだが・・・」
「それってメチャクチャ苦いってことじゃないカ!そんなの飲みたくないンダナ・・・」
「そうだな。不味い」
渋い表情でのエイラの意見に同意しながら、神崎は残っていたコーヒーを飲み干してエイラに向き直った。
「で、呼び出した用件はなんだ?」
「ソウダナ。・・・ほら、サーニャ」
エイラが食堂の入り口から1度出ると、新たな人物を連れて食堂に入ってきた。白のブラウスと黒のビスチェを合わせたオラーシャ空軍の制服を纏う銀髪の少女。神崎が今朝遭遇した
「あの・・・アレクサンドラ・ウラジミーロヴナ・リトヴャク・・・です」
「この前話したロ?まだサーニャに会ってないって。サーニャも挨拶したいって言ったから連れてきたンダヨ」
あ、サーニャっていうのは愛称ダゾと言うエイラの言葉に頷き、神崎は立ち上がり2人の前に立った。挨拶するのに座ったままでは失礼だろう。
「つい先日、501に転属した神崎玄太郎だ。初めまして・・・か?」
「・・・いいえ」
「サーニャ?」
神崎の言葉にサーニャは首を振る。エイラが不思議そうに彼女に声をかけるが、サーニャは神崎を見つめていた。神崎もしっかりと彼女の視線を受け止める。
「3年前の夜間飛行で・・・一度だけ・・・。電波の乗せて・・・」
「覚えていたのか・・・。なら、初めましては失礼だな」
「エ?エ?」
完全に置いていかれてしまったエイラが交互に2人の顔を見て困惑しているが、神崎もサーニャもエイラのことは完全に視界に入っていなかった。数年越しの出会いに神崎は小さな笑みを浮かべ、改めて口を開く。
「君の歌で俺は救われた。まさか直接、礼が言えるとは思わなかった。ありがとう、リトヴャク」
「私も・・・あなたの言葉で。夜の空は1人じゃないって・・・安心しました。神崎・・・大尉」
神崎の微笑みに釣られて、サーニャも華のような笑みを浮かべた。自分が命を救われただけかと思っていたのが、あの時電波に乗せたことが彼女の一助になっていたことが神崎には素直に嬉しかった。
「リトヴャクのQSLカードはまだ持っている」
「私のことは・・・サーニャでいいです。まだ、持っていてくれたなんて・・・」
無線と手紙でほんの少しだけ、この激動の世の中ならば人によっては忘れ去っていてもおかしくない僅かな交流だ。しかし、2人の間には確かに友情が芽生えていた。
だが、それが面白くない人物もここに1人いる。
「私を無視するナー!!!」
完全に話についていけなかったエイラが半分泣きながら2人の会話を遮る。そこでようやく、神崎もサーニャもエイラのことを思い出したかのように視線を向けた。
「大尉もサーニャも!私が分からないことばかり話しテ!なんだヨ!大尉はサーニャと知り合いなのカ!?ネーチャンが居るくせニ!?サーニャは渡さないゾ!?」
「エ、エイラ・・・」
「お前は何を言っているんだ・・・」
サーニャは困ったように、神崎は呆れたように、泣き喚くエイラを見る。3人の喧騒は、サーニャの夜間哨戒の離陸時間まで続いた。
食堂で神崎達3人が話していた頃・・・。
隊長室には、ミーナとペリーヌが居た。机に座るミーナとその正面に立つペリーヌ。ペリーヌの顔は緊張で強張り、目には若干の怯えもあった。
「クロステルマン中尉。あなたの軽はずみな行動で格納庫内での作業が大幅に遅延し、出撃が大幅に遅れてしまいました」
「はい・・・」
「あなたの行動で最重要防衛目標であるブリタニアが危機に陥ったのよ。今回は神崎大尉のお陰で事なきを得ましたが、今後はこのようなことは絶対にしないように」
「はい・・・。申し訳ございませんでした」
今回の一件でミーナはペリーヌに厳重注意に処した。被害が出ればこの程度では済まなかっただろうが、これは結果オーライと言った所だろう。ペリーヌも十分に反省している様子なので、ミーナは真剣な表情は解いて安心させるように微笑んだ。
「けれど、神崎大尉と2人でネウロイを撃破したのはよくやったわ。さすが
たった2人で大型ネウロイを撃破したのは十分賞賛に値する。しかし、ミーナの言葉にペリーヌは表情を曇らせた。
「そのことですがミーナ中佐。今回の戦闘には私は殆ど参加していません」
「・・・どういうこと?」
「神崎大尉は・・・私に待機を命じて単独でネウロイに攻撃をしかけました。でも、私は・・・その命令に我慢ならずに攻撃に参加して、ネウロイの集中砲火を受けてしまい・・・。神崎大尉がトドメを刺したのです」
「そう・・・だったの」
ペリーヌの申告にミーナは顎に手を当てて少し思案した。気になるのは、なぜ神崎がペリーヌに待機の命令をしたのかだ。
「神崎大尉は、その命令を出したときに何か理由は言ったのかしら?」
「はい。確かその時に・・・」
理由を言おうとした時のペリーヌの目に恐怖の色が入るのをミーナは見逃さなかった。声が震えそうになるのを無理矢理抑えて、ペリーヌは言った。
「敵意を向けてくる人物を2番機には置けない。反射的に殺してしまいかねない・・・と」
「そんなことを・・・」
「ミーナ中佐。神崎大尉は・・・何者なのでしょうか?私は・・・私は、あんな冷酷な目をいままで見たことがありません」
自身に向けられた冷徹な目を思い出し、ペリーヌの声は震えてしまっていた。しかし、ミーナはその問いには答えられない。それはミーナも知りたいことなのだから。
感想欄の島岡の人気に神崎、ライーサもニッコリ
なお本編には・・・