ストライクウィッチーズ 一匹の狼   作:長靴伯爵

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今月はワールドウィッチーズの画集が発売しますね

一冊目も最高だったし、ほんと楽しみ

そんな訳で第七十五話になります

感想、アドバイス、ミスの指摘などよろしくお願いします


第七十五話

 

 

 

 

 

 

「501のエースに勝るか・・・」

 

「報告がいりますか?」

 

「ああ。閣下は静観だと言ったがこれは早急に対処すべきだ」

 

「では・・・」

 

「すぐにでも動かすぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 模擬戦の結果にベランダで模擬戦の全容を見ていたミーナ、ハルトマン、坂本の3人は驚きを隠せなかった。

 

「ええ~!?トゥルーデが負けちゃった!?」

 

「まさかここまでなんて・・・」

 

「ほぉ・・・。神崎の奴、相当腕を上げたな」

 

 三者三様の感想を述べる中、三人の関心は模擬戦終盤の格闘戦の攻防に帰結する。

 

「ねぇねぇ、坂本少佐。神崎大尉が最後の方にしたのって何?なんか赤いのがピカッってなったら大尉とトゥルーデの位置が入れ替わったんだけど?」

 

「それは私も気になるわね・・・」

 

 ハルトマンとミーナから疑問を投げかけられ、坂本は顎に手を当てて首を傾げた。

 

「私も確かなことは言えないんだが・・・恐らく固有魔法だと思う」

 

「神崎大尉の固有魔法は『炎』だったかしら?それを使ったのかしら・・・。けど、それを抜きにしても彼の格闘戦の腕は相当高かったわね・・・」

 

 ミーナは不安な表情で何か考え始める横で、ハルトマンも何か引っかかっているのか首を捻っていた。

 

「あの動きどこかで見た気がするんだよな~。どこでだっけ?」

 

「まぁ、1度格納庫に行ってゲンの様子を見に行ったらいいだろう。疑問があるならそこで聞けばいいさ」

 

 2人して悩み始めたのを見た坂本の提案に2人は頷く。神崎だけでなくバルクホルンの様子も確認する必要があるのだから、ミーナにとっては渡りに船とも言えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先程は見事だった。神崎大尉」

 

「ありがとうございます。バルクホルン大尉。しかし、運が良かっただけです」

 

 模擬戦を終えて基地の格納庫に入った神崎とバルクホルン。それぞれのストライカーユニットを繋いだのユニットケージの前に立ち、向かい合って先程までの模擬戦について話していた。

 

「色々と聞きたいことがあるが、大尉の腕は把握できた。坂本少佐の言う通り、いい腕だ」

 

「認めていただけて嬉しいです」

 

 神崎の腕はどうやらバルクホルンが認める程度にはあったらしい。彼女の表情は仏教面のままではあるが、話し方にどこか角が取れたように神崎は感じた。

 

「幾つか聞きたいことがあるのだが、いいだろうか?」

 

「自分が答えられることでしたら」

 

「ああ。まずは・・・」

 

 バルクホルンは口を1度閉じると、合わせていた視線をずらして神崎のストライカーユニットを見た。白系統に塗装されたBF109、メッサーシャルフシリーズのユニット。扶桑皇国海軍である神崎が使用するには不自然な機体だ。

 

「神崎大尉がなぜメッサーシャルフを?」

 

「・・・以前の戦場で、使用していた零式艦上戦闘脚が大破してしまい、代替できるユニットが投棄されていたこのBF109のF型しかなかったんです。急造で飛行が出来るまで改造し、少しずつ改良しながらそのまま使用し続けています」

 

「なるほど・・・。だから、さっきは中身は別物と言ったのか」

 

「ええ。最初の頃は投棄されていたのを使っていたので、当てにならない部品がざっと50はありましたが・・・。今では、既存のメッサーシャルフシリーズよりも高い格闘性能を発揮できます。飛び方さえ工夫すれば零式とも互角でいけます。一応、自分達の間では鷹式メッサーシャルフ、BF109―Type Hawkと呼んでいました」

 

「なぜ、その呼称を?」

 

「・・・・・・改造した者の名前から取ってです」

 

「な、なるほど」

 

 なぜか嫌そうな表情になった神崎にバルクホルンは一瞬戸惑ってしまった。そのことに気付き、神崎は取り繕うように口を開いた。

 

「それに自分にとってメッサーシャルフだからこその利点がありますので」

 

「そうなのか?しかし、どんな利点が・・・」

 

「自分は固有魔法の影響で魔法力が熱を持ち、魔導エンジンが熱暴走しやすいんです。零式だと空冷エンジンなので熱暴走の可能性が高いのですが・・・」

 

「メッサーシャルフは液冷だからその可能性は少ないのか」

 

「その通りです」

 

「なるほどな。それで、次の質問なのだが・・・」

 

 ストライカーユニットについての疑問を解消したバルクホルンは次なる質問をしようとした時、ベランダから移動してきた坂本達3人が格納庫に到着した。

 

「2人とも模擬戦ご苦労様」

 

「見事な戦闘だったぞ」

 

 にこやかな笑みを浮かべながらそれぞれ労いの言葉を掛けるミーナと坂本。ハルトマンは頭の後で手を組みながらその後ろに付いてきていた。

 

「まさかバルクホルンに勝つとはな。驚いたぞ、ゲン」

 

「それはバルクホルン大尉が初見だったからだ。・・・だが、ありがとう」

 

 坂本の賛辞を小さく笑いながら受け取る神崎。すると、ミーナが咳払いをして神崎の方を向いた。

 

「神崎大尉、あなたの実力は十分把握できました。ですが、1つ気になることがあります。バルクホルン大尉の背後を取った時、あなたは何をしたの?」

 

「そうだ。それも聞きたかった。背後を取ったと思ったら、一瞬で視界から消えて逆に背後を取られていたんだ」

 

 ミーナの言葉にバルクホルンも同調したので、神崎は頷いて答えた。

 

「あれは私の固有魔法「炎」を使ったんです。前方に集束させた炎を噴出させることによって推進力を打ち消し、追撃してくる背後の相手を追い越させます」

 

 アフリカで初めて使った頃から約3年。神崎はこの技を、一度だけの使用なら完全に物にしていた。今では2連続は勿論、3連続まで行うことができるまでになっている。回数が増える毎に成功率は下がってしまうが、それでも成長したのは確実だった。

 

「やはり固有魔法だったか・・・」

 

「確かに初見じゃ対応し辛いが・・・。私もまだまだだな」

 

 納得する坂本の横で、悔しさが滲む表情でバルクホルンが呟く。しかし、1度見られたなら対処するのはエース級の腕を持つならば難しくはないのだ。その事を分かっているので神崎は静かに言った。

 

「・・・何度も言いますが、初見だから通用したまでです」

 

「しかし、負けは負けだ。・・・いい技を持っている」

 

「・・・まぁ、初めて使った時も後一歩でハンナに勝てる所までいったので」

 

 バルクホルンから手放しに褒められ、神崎は小さく笑みを浮かべてそう言った。その瞬間、今まで坂本達の後ろで黙っていたハルトマンが大きな声で叫んだ。

 

「ああ!!思い出した!!!」

 

「五月蝿いぞ!ハルトマン!」

 

 格納庫に響き渡る声の大きさにバルクホルンが渋面で注意するも、ハルトマンは全く意に介さずに神崎の前まで進み出て言った。

 

「・・・どうかしたのか?」

 

「神崎大尉の動きってどこかで見たことがあると思ったんだけど、あれってマルセイユの動きだよね?」

 

「よく分かったな・・・。そうだ。ハンナの動きを参考にしている」

 

 マルセイユの腕は神崎とは比べ物にならないほどいい物である。その動きは天才色が強いものの参考になるべきものが多々あった。神崎はアフリカにいる頃からそれを少しずつ吸収し、BF109を使い始めた頃からほぼ同じような機動を取るようになったのだった。

 マルセイユという言葉を聞いて、やはりと言うべきかバルクホルンの表情が険しくなった。

 

「マルセイユ・・・だと・・・。ああ、だからどこかで見たような動きだと感じたのか」

 

「はい・・・。バルクホルン大尉にはあまりいい感情は無いかもしれませんが、ハンナは私の尊敬する魔女(ウィッチ)の1人です」

 

「奴は確かに腕はいい。しかし、到底尊敬していい人物ではないぞ」

 

「それは人それぞれだということで納得していただく他はないと」

 

「・・・・・まぁいい」

 

 不承不承という感じではあるが、バルクホルンは一応は納得したようだった。神崎は少しだけ頭を下げ、ミーナに向き直った。

 

「これからどうすれば?」

 

「今日の予定はこれで終わりです。明日は午前中に編隊での飛行を確認して、午後からは哨戒任務に就いてもらうかもしれません」

 

「わかりました」

 

「とりあえず、今日はもう休んで結構よ。お疲れ様でした」

 

「了解です。では、坂本、バルクホルン大尉、ハルトマン、自分は1度部屋に戻ります」

 

 全員に断りを入れ、神崎は格納庫を後にした。

 神崎を見送った坂本は満足げに頷いて口を開いた。

 

「エース級が増えるのは心強いな」

 

「私も楽できるかな~。朝もうちょっと寝たり!」

 

「お前は今でも眠りすぎだ!ちゃんと起床時間に起きろ!」

 

 3人が明るい雰囲気なのに対し、ミーナだけは表情は笑っているものの目だけは真剣に神崎が出た扉を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おおい!神崎大尉!」

 

「おおい!」

 

 格納庫から出た神崎に元気のよい声がかけられる。神崎が声の方向を向くと手を振るシャーリーとルッキーニがいた。神崎が立ち止まると、2人が楽しそうに駆け寄りシャーリーが声をかけてきた。

 

「凄いなぁ、神崎大尉。あの堅物に勝つなんて!」

 

「見ていたのか?」

 

「上の塔でね」

 

「なるほど」

 

 見当たらなかった2人がどこで見ていたのかが分かり納得した神崎に、ルッキーニが興奮気味に話しかけてきた。

 

「ねぇねぇカンザキ大尉!あのバビューン!!!ってなったの何!?」

 

「ばびゅーん・・・。あぁ、あれは俺の固有魔法だ」

 

「固有魔法だったんだ!ねぇねぇそれって・・・」

 

 まだまだ話し足り無いのかルッキーニは、両手を振り回すような身振り手振りで捲くし立てようとする。しかし、そこでシャーリーが待ったを掛けた。ルッキーニの両肩に手を沿えてやんわりと話しかける。

 

「まぁまぁ、ルッキーニ。大尉は疲れているだろうし、それは夕食の時にでも聞けばいいさ」

 

「え~。でも~」

 

「・・・そんなに夢中になるものだったか?」

 

 神崎の純粋な疑問にシャーリーは大きく頷いた。

 

「そりゃそうだよ!あの堅物大尉の強さは基地の皆が知っているからね。言い方は変だけどジャイアントキリングみたいなものさ!別の所で見ていた整備兵なんて態々写真を撮ったり戦況のメモまで取ってたんだよ。模擬戦が終わった後、急いでどこかに行ったけど、同僚に話に行ったのかな?」

 

「・・・なるほど」

 

「・・・?カンザキ大尉?」

 

 シャーリーの話を聞き終わった時の反応に違和感を感じたのかルッキーニが小首を傾げて神崎の顔を見上げようとする。しかし、ルッキーニが顔を上げ始めた瞬間にその頭は神崎の手で押さえられた。強めの力で撫でられながら、ルッキーニの耳に神崎の声が入る。

 

「少し用事がある。模擬戦の話はシャーリーの言う通り、夕食の時にな」

 

「ん~」

 

 ルッキーニの頭が開放された時には、すでに神崎は背を向けて歩き去ってしまっていた。不思議そうに神崎の背中を見続けるルッキーニにシャーリーは話しかけた。

 

「どした?ルッキーニ」

 

「なんかカンザキ大尉・・・ん~?」

 

「うん?」

 

「ん~・・・。よくわかんない」

 

 ルッキーニはシャーリーに抱きつき、彼女の豊満な胸に顔を埋める。どこか元気が無くなった相棒の様子にシャーリーは首を傾げるしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 部屋に戻った神崎はドアに鍵を掛けると、そのまま上着の内ポケットに手を突っ込んで煙草を取り出した。口に咥えて指先に燈した魔法力で火をつけると口に咥えたまま、机の上のラジオに手を掛けた。

 紫煙を吐き出しながらラジオのチューナーを一定の間隔で動かすと、ラジオの背後の板が外れて中から小さなモールス発信機が出てきた。

 無表情のままある符号を打電すると、ドサリと疲れたようにイスに腰掛け胸一杯に紫煙を吸い込み、脱力するように吐き出した。

 

「ふぅ・・・。案外速いが・・・仕事だな」

 

 まだ先端からは煙が立ち昇っているが、神崎は構わず握り潰し燃やし去ってしまった。そして、魔法力を宿したままの手でデリンジャーが収められた収納箱を解放し、一丁抜き取り懐に入れた。

 

「何はともあれ・・・まずは夕食か」

 

 収納箱とラジオを元の状態に戻し、神崎は部屋を後にする。神崎が後にした部屋には、煙草の臭いしか残らなかった。

 

 

 

 

 夕食は決して旨いとはいえなかったが、会話は神崎とバルクホルンの模擬戦の話で盛り上がった。任務で模擬戦を見ることが出来なかったペリーヌとエイラはまず驚き、神崎の様子が普通に戻っているのに気付いたルッキーニが先程聞きそびれた固有魔法について興奮気味に話しかけ、ハルトマンがバルクホルンをからかって騒いだりと中々の賑わいを見せた。

 夕食後はそれぞれ部屋に戻り、基地には徐々に静寂に包まれていく。起きているのは仕事が残っている者と当直の任に就いている兵士だけ。しかし誰もが神崎の部屋がもぬけの殻になっているのは気が付かなかった。誰もいないはずの部屋に流れる音楽。電源が付けられたままのラジオから流れている音楽は、あるオペラの序曲として使われている物。その曲名を「魔弾の射手」と言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 501の基地に続く石橋を眺めることが出来る高所の森。その暗闇の中に蠢く幾つもの人影があった。

 

「・・・様子は?」

 

「予定通り、橋の警備が交替で」

 

 全身黒ずくめの装備で統一し、手には消音器を取り付けた短機関銃を手にした十数名の兵士だった。顔は目だし帽で隠され、兵士ならば当然着用しているはずの階級章も認識章もない。だが、明確な殺意だけは目出し帽から覗く目から分かった。

彼らの目的は・・・魔女(ウィッチ)の抹殺。そう、共生派の一派である。神崎の加入により力を増す501の脅威を早急に排除すべしと動いたのだった。

 

「基地への侵入経路の確保は?」

 

「潜入中の同志が手配しています」

 

 森の中を音も無く進む彼らの目は爛々と殺意でぎらついている。しかし、感情に囚われることなく粛々と体を動かすその様は、彼らの錬度の高さと事に慣れていることが窺われた。

 もうすぐ森を抜けるという所で、突然指揮官の足が止まった。

 

「待て」

 

 すぐに部隊全員の足が止まる。指揮官の視線の先には、暗闇にポツリと燈る小さな灯りがあった。灯りを辿ればそれが煙草の火であることが分かり、それを咥える何者かが木に寄り掛かっていることが分かる。

 襲撃者達は一斉に木に寄り掛かる人物に銃口を向ける。しかし、向けられる本人は慌てることなく煙草を煙を吸い込んだ。煙草に燈る火の勢いがほんの少しだけ強くなり、咥えている人物が照らされる。

 

「『魔女狩り』・・・か。随分と堪え性がない」

 

 黒い第1種軍装に身を包み、腰に扶桑刀「炎羅」を差した神崎の姿が。

 現れた人物が目標であると分かった瞬間、襲撃者達の殺気が膨れ上がる。指揮官の命令1つで数多の弾丸に貫かれる状況でありながら、神崎は気だるげに煙草を捨て木から離れた。

 

「少し突いたらこれだ。俺の上司も言っていた。・・・そんなだと、女を満足させられないとな」

 

「貴様に話すことはない。消えてもらう」

 

 指揮官が消音器付きの拳銃を構える。ビリビリと感じる殺気はすぐにでも爆発するだろう。しかし、その前に神崎が動いた。

 

「なら好都合だ」

 

 気だるげな様子のまま上着の内ポケットから何かを取り出す。警戒心を高めた襲撃者達が見る中で神崎が構えたのはちっぽけな拳銃のデリンジャーだった。片手に収まるであろうそれは本来隠蔽用、護身用である。本格的な戦闘には余りにも無力。向けられた襲撃者達も警戒して損したとばかりに嘲笑で対応した。

 それらを無視し、神崎は無表情なまま告げる。

 

「お前等が悉く、死ね」

 

 魔法力の発動と連動してフソウオオカミの耳と尾が現れ、デリンジャーの引き金が引かれる。その瞬間、閃光が瞬いたと思うと拳銃を構えていた指揮官の頭が吹き飛んだ。いや、消し飛んだ(・・・・・)

 ドサリッと指揮官が倒れた一瞬後、指揮官の喪失に瞬時に反応した襲撃者達が持つ十数丁の短機関銃が一斉に火を吹いた。消音器に銃声の大部分が消されているが、殺意に満ちた銃弾が容赦なく神崎に襲い掛かった。

 

「無駄だ」

 

 殺意に満ちた弾丸の全てが神崎の目の前で火花を散らして防がれる。神崎の言葉の通り、彼が展開するシールドの前には短機関銃の銃弾は余りにも無力だった。

 神崎はシールドを展開したまま溶解(・・)したデリンジャーを捨て、もう一丁のデリンジャーを取り出した。そのまま、今度は銃口を横に動かしながら引き金を引くと、再びの閃光の後、並んで立っていた2人の兵士が倒れた。

 ここで襲撃者達が動きを変えた。

 銃撃を途絶えさせないままに神崎を包囲しようと左右に展開しはじめたのだ。シールドで防がれるならば、シールドが防げない箇所を見つけだそうとしているのだろう。

 神崎はその動きを把握しながらも何もしなかった。

 

「・・・殺れ」

 

 いや、何もする必要がなかった。

 インカムを通した神崎の呟きと同時に展開しようと走り出した1人の額に風穴があく。それを皮切りに次々と襲撃者達の頭に銃弾で射抜かれていった。

 また1人、また1人とどこからともなく放たれる銃弾に撃ち抜けれていき、気が付けば襲撃者達の人数は片手で数えるほどにまで減っていた。そして、最後の数人の前に炎羅を抜いた神崎がゆっくりと前に進み出た。

 

「逃がしはしない」

 

 至近距離にまで迫った神崎に追い詰められた襲撃者の1人は弾切れになった短機関銃を捨てて拳銃を突きつけた。その瞬間、一気に距離を詰めた神崎により拳銃を持つ腕を切り飛ばされ、返す刀で袈裟懸けに切り裂かれた。振りかかる返り血は、神崎が発する炎によって蒸発する。鉄臭い空気を切り裂くように炎羅を振り、神崎は一瞬の内に最後の1人の首を切り飛ばした。

 

「・・・ふぅ」

 

 炎羅に付いた血を払い鞘に収める神崎。カチリッと鯉口が小さく音を鳴らした時に、インカムが誰かと通じた。

 

『確認できる敵は殲滅しました。死体はこちらで回収します』

 

「ああ。・・・いつも通り、いい腕だ」

 

『お世辞より物がいいですね。そうですね・・・サルミ』

 

「却下だ。サルミアッキは。絶対に」

 

『・・・なら食事でも』

 

「・・・・・・ああ」

 

『なら日取りは後日。・・・楽しみにしています』

 

「・・・まったく。いや・・・まぁいい」

 

 戦闘とは別の疲労感を覚え、神崎は溜息を吐く。チラリと視線を向ければ、かすかに見えるか見えないかの森の遥か奥で黒い影が移動していくのが見えた。

 

「あいつもずいぶん・・・。ん?」

 

 この場には用はないと基地に足を向けたが、すぐに神崎は歩みを止めることになった。

インカムから漏れ出る微かなノイズ。

急に聞こえ始めたそれは、時折変調しながらも少しずつ確実に大きくなっていた。

 

「なんだ?いや・・・前にもこんなことが・・・」

 

 インカムに手を当てながら、鋭い視線で辺りを見回す。警戒心と既視感を同時に抱いているとノイズが少しずつ形を成してきた。それを耳にした時、神崎は納得したように警戒を解いた。

 

「どこかで聞いた名前だと思ったが・・・。そうか、あの時の・・・」

 

 そう呟いて神崎が見上げた夜空には赤と緑の翼端灯を煌かせる1つの機影があった。そしてノイズはその機影から流れていた。

 

『ランラララン・・・ララランランラン・・・』

 

「この歌を聴いたのは3年ぶりだが・・・まさか同じ部隊になるとはな」

 

 強いて言うなら・・・と、神崎は新しい煙草を吸って溜息を吐いた。

 

「もっと落ち着いた所で会いたかった。サーニャ・ウラジミーロヴナ・リトヴャク」

 

 夜空から視線を戻した神崎は、死体が転がる森を後にした。

 501にして着任して密度の濃い数日がようやく終わりを迎えた。

 





ちなみに、神崎とサーニャはいまだ顔を合わせたことがありません。

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