ストライクウィッチーズ 一匹の狼   作:長靴伯爵

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10周年記念のイベントには是非参加したい!

そんな訳で第七十三話です
ストライクウィッチーズ編も少しずつですが進んでいきます

感想、アドバイス、ミスの指摘などよろしくお願いします。


第七十三話

 

 

 

 

 

 

 

 

「厄介な連中が動いたものだ・・・」

 

「しかし、たかが1人です」

 

「陸軍だけでなくカールスラント、リベリオンからの圧力がかかっています」

 

「・・・2国からの圧力は内政干渉を盾に拒め。陸軍は何もできないだろう」

 

「分かりました。派遣された者は・・・」

 

「静観しておけ」

 

「ですが・・・」

 

「静観だ」

 

「・・・」

 

「さて・・・煮え湯を飲まされ続けたが、これからどうなるか・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今朝の第501統合戦闘航空団はブリーフィングルームでの朝礼が予定されていた。

 ブリーフィングルームに縦2列に並べられた長机には数名を除いた全魔女(ウィッチ)が着席している。

 

「ふぁ~。なんで朝礼あるんだよ~。まだ眠れたのに~」

 

「お前はいつも眠りすぎなんだ」

 

「もういいや。ここで寝よ~」

 

「こら!寝るな!ハルトマン!!」

 

 そんな会話をしているのはカールスラント帝国空軍に所属している、ゲルトルート・バルクホルン大尉とエーリカ・ハルトマン中尉。起床時間からすでに数時間が経っているはずだがハルトマンは未だ眠気が抜け切っていないらしく、長机に突っ伏そうとしている。バルクホルンがそれを怒鳴って止めていた。

 

「大体お前はいつもいつも・・・」

 

「え~。いいじゃん。ルッキーニだって寝てるし」

 

「すぴ~・・・」

 

 バルクホルンの説教に抗議するハルトマンの視線の先には最後尾の長机の上でロマーニャ空軍、フランチェスカ・ルッキーニ少尉が寝ていた。ご丁寧に毛布まで敷いて気持ちよく寝息を立てていた。

 怒りの炎が再燃したバルクホルンが怒鳴る前に別の声があがった

 

「そんなに怒るなよ。バルクホルン。中佐だって怒んないだろ?」

 

 そう言うのはリベリオン合衆国陸軍のシャーロット・E・イェーガー中尉だった。頭の後ろで手を組み、斜に構えてバルクホルンを見ていた。その顔にはからかうような表情があった。

 

「うるさいぞ。リベリアン」

 

「お前の怒鳴り声の方がうるさいけどな」

 

「なんだと!?」

 

 隣のハルトマンがウトウトし始めたのにも気付かずシャーリーに食って掛かるバルクホルン。噛み付くバルクホルンにシャーリーが軽い調子で応戦するのはいつものことだった。

 その様子を煩わしそうに眺める者もいた。

 

「全く朝から騒がしいこと・・・」

 

 大声の応酬に迷惑そうに顔を顰めているのは自由ガリア空軍のペリーヌ・クロステルマン中尉だった。眼鏡を位置を直しながら早く朝礼が始まらないかと待っていると、彼女の隣に今しがたブリーフィングルームに入ってきた坂本が座った。

 

「おはよう、ペリーヌ。朝から騒がしいな」

 

「さ、坂本少佐!!おはようございます!!」

 

 坂本の姿を見た途端、先ほどまで不機嫌そうだった表情が一気に明るくなり笑顔を見せるペリーヌ。彼女の坂本に対する度を過ぎた尊敬の念は、向けられる当人以外周知の事実だった。

 坂本は回りを見渡して1人足りないことに気付くと、知っているであろう人物に声をかけた。

 

「エイラ。サーニャはどうした?」

 

「夜間哨戒空けで寝てるゾ」

 

 坂本の後ろの長机の上にタロットカードを並べながら返事をしたのは、スオムス空軍のエイラ・イルマタル・ユーティライネン少尉だった。騒がしさを一切無視して自分の世界に没頭しているようだ。

 

「哨戒空けなら仕方あるまい」

 

「しょ、少佐。本日の訓練の件なのですが・・・」

 

 会話が途切れたのを皮切りに少しでも坂本の気を引こうと話しかけるペリーヌ。その試みはミーナの入室によって失敗してしまったが。

 

「はい、皆さん。注目」

 

 数度手を叩いて声をかければ騒がしかった空気はすぐに静まり、眠りこけている者以外全員がミーナに注目していた。

 

「今日の朝礼は新しく転属してきた隊員の紹介です」

 

「新しく隊員が来るのか?そんなこと聞いていないぞ、ミーナ」

 

 バルクホルンが抱いた疑問はもっともで、501の隊員にはこのことは知らされていなかった。皆の表情も多少の差はあれど不思議がっているよう。

 ミーナは軽く頷いてその疑問に答えた。

 

「話は前からあったのだけど最近急遽決定したの。・・・入ってきていいわよ」

 

「失礼します」

 

 まず数名以外が入室の挨拶の声で違和感を覚えた。そして机の列の真ん中を進む人物の姿に違和感の正体が分かり、そして着任に挨拶でそれが驚きに変わる。

 

「本日から第501統合戦闘航空団に着任します。扶桑皇国海軍大尉、神崎玄太郎です。よろしくお願いします」

 

 一瞬の空白の後、ガタリと立ち上がり声を上げた人物がいた。

 

「お、お前は姉チャンの所に居タ!?」

 

「・・・ああ。ユーティライネン大尉の妹の・・・」

 

 驚愕の表情で神崎を指差すエイラ。神崎も彼女の顔を認識し、若干遅れつつも思い出していた。

 

「あら?エイラさんとは知り合いだったの?」

 

「スオムスでは彼女の姉の指揮下に居たので、その折に」

 

 意外そうに聞いてくるミーナに説明していると、今度は別の人物から声があがった。ハルトマンである。先ほどまでの眠たそうな表情がすでにどこかに行ってしまったようだ。

 

「あ~!思い出した!めちゃくちゃ腕がいい戦闘機のパイロットの相方のハンナ贔屓の人だ!!!」

 

別に間違いではないのだが、あんまりな覚えられ方に神崎の表情が微妙なものになった。幾つか修正しようと思い口を開こうとするも、今度は今まで黙っていたシャーリーが口を開いた。

 

「じゃあ、神崎大尉は戦闘機パイロットなのかい?パイロットがうちに配属なんて変じゃないか?」

 

「それは・・・」

 

「それは違う。ゲンは男性でありながら魔法力を持つ魔法使い(ウィザード)だ。我々と共に出撃することになる」

 

「へぇ~!魔法使い(ウィザード)かぁ!そんなこともあるんだなぁ!!!」 

 

 シャーリーの疑問に答える前に坂本が返答してしまったので頷くだけに止まる神崎。シャーリーは快活に笑うが、それとは対照的にペリーヌがどこか焦ったような表情を浮かべていた。

 

「さ、坂本少佐は神崎大尉とどのようなお関係で!?」

 

「ん?ああ、ゲンの初陣は私と一緒だったんだ。いいところを見せようとしてヘマをしてしまってなぁ」

 

「そ、そうなんですか・・・」

 

 照れくさそうにアハハハ・・・と笑う坂本だったが、ペリーヌの心中は穏やかではなかった。もしや・・・まさか・・・と様々な方向に想像が飛び回り、無意識の内に神崎を睨みつけていた。

 ここでミーナが手を叩き、もう一度皆の視線を集めた。

 

「それでは朝礼を終了します。各人の自己紹介はそれぞれ行ってください。施設の案内は誰か予定が空いている人がお願いします。以上、解散」

 

 解散の号令がかかりミーナが退出すると、神崎は少し気を抜くように肩をすくめた。

 

魔法使い(ウィザード)として501に参加できるのは光栄です」

 

 打ち解けた雰囲気を出したからなのか、魔女(ウィッチ)の中で神崎に話しかけたのは意外にもバルクホルンだった。

 

「ゲルトルート・バルクホルンだ。以前はいい出会い方ではなかったが・・・」

 

「・・・あの時のことはお互いに水に流しましょう」

 

これから同じ部隊で戦うに確執はいらない。そもそも数年前の話を持ち出すのもおかしな話なのだ。

神崎の言葉にバルクホルンも微笑んだ。

 

「そうして貰えると嬉しい。坂本少佐の言葉を聞くに腕はいいようだ。期待してる」

 

「はい」

 

「ねぇ!ねぇ!私のことも覚えてる?」

 

 バルクホルンとの会話に割り込むように話しかけてきたのはハルトマンだった。彼女の名はアフリカにいた頃にマルセイユから耳にタコが出来るほど聞かされているので忘れるほうが難しい。

 

「勿論、ハルトマン」

 

「あの戦闘機のパイロット君はどうしたの?また話をしたいな」

 

「・・・すまない。数年前に部隊が別れてから会ってない」

 

 態々島岡の現状を伝えることもない。

 神崎の言葉をどう捉えたのか分からないが、ハルトマンは残念そうに呟いた。

 

「そっか・・・。あいつの話、面白かったんだけどな~」

 

「さて・・・。いくぞ、ハルトマン。今から私達は飛行訓練だ」

 

「え~」

 

「え~、じゃない!」

 

 文句を言うハルトマンを引き摺ってバルクホルンがミーティングルームから出て行くと、入れ替わるようにエイラが近づいてきた。どこか表情に怒りが滲んでいる。

 

「おい!カンザキ大尉!なんで姉チャンに手紙の1つも遣さないんダヨ!寂しがってたんだゾ!」

 

「そうだったのか・・・」

 

 正直言えば、アウロラが寂しそうにしている様子を全く想像できなのだが、妹が言うのなら本当のことなのだろう。アウロラとのやり取りを懐かしく思いながら、神崎は目を伏せた。

 

「それはすまなかった。・・・忙しさに筆を取るのを忘れていた」

 

「全ク・・・。今度はちゃんと書けよナ!」

 

「ああ」

 

「それと・・・。一応よろしク・・・」

 

 消え気味の挨拶と共に差し出された手を、神崎は握って応えた。

 

「こちらこそ・・・。ユーティライネン。・・・そういえば、あっちではイッルで呼ばれていたか?」

 

「・・・ここじゃ久しぶりにその仇名を聞いたナ。イッルでいいゾ。ユーティライネンじゃ長いだロ?」

 

「分かった」

 

「じゃあ。私も自己紹介をしようかな」

 

 エイラとの挨拶を終えた神崎に、今度はシャーリーが話しかけた。

 

「シャーロット・E・イェーガー。リベリオン陸軍の中尉だ。シャーリーって呼んでくれ」

 

「・・・よろしく。シャーリー」

 

 リベリアンらしい快活でフランクな物言いを新鮮に思いつつ、神崎は彼女の握手と握手した。思いの他強い力で握られたことに内心驚いていると、シャーリーは狙っていたことなのかニヤリと笑っていた。

 

「私は魔法使い(ウィザード)ってのを今初めて知ってね。(ウィッチ)達よりも早く飛べたりするのかい?」

 

「気にしたことはなかったが・・・機会があれば計測してみよう」

 

「それは楽しみだ」

 

 にこやかに会話を終えたシャーリーは、何かを思い出したのか後ろを向き、大きな声で未だ眠りこけているルッキーニを呼んだ。

 

「おい!ルッキーニ!起きろって!新しい仲間だぞ!」

 

「ん~~~?もう朝礼、終わったの~」

 

 寝ぼけた声を出して起き上がって言う欠伸混じりの言葉に、流石の神崎も苦笑を隠せなかった。

 

「寝ぼけるなって。ほら・・・」

 

「ん~・・・。あ・・・」

 

 目を擦りながら机から降り、シャーリーの元に近づいていくルッキーニだったが、その途中で神崎の姿を見て動きを止めた。不思議に思う周囲を他所に彼女の表情は喜色満面に変わった。

 

「わー!本当だったんだ!」

 

「嘘は言わないさ。・・・だが、寝たままというのはどうかと思うが?」

 

「え~。だって眠たいし~。面倒くさいし~」

 

 周りを置いてけぼりにして話をしていく2人に、一足早く我に帰ったシャーリーと坂本が話しかけた。

 

「おいおい。2人は知り合いだったのかい?」

 

「ゲン。お前は以前ロマーニャにも居たのか?」

 

 眠っていたはずのルッキーニがなぜか神崎と既知であることにシャーリーと坂本が驚くのは当たり前だろう。勿論、神崎がロマーニャに配属されていたことなどない。困惑する周囲に神崎は説明した。

 

「昨日のことなんだが・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

昨日

 

「・・・うじゅ?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・うじゅ?」

 

 神崎にあてがわれた部屋に置かれた木箱。

 その中には神崎が前もって発送していた荷物が入っているはずだった。

 確かに、荷物は入っている。しかし、なぜかツインテールの少女も入っていたのだ。

 

「・・・誰だ?」

 

「ヒッ・・・!」

 

 先程は変な声に釣られてしまった神崎だが、すぐに警戒心を取り戻して後ろに構えた炎羅(えんら)を握りなおす。尋ねる声も自然とドスが効いたものになり、尋ねられた少女は涙目になってしまっていた。その目は完全に怖がっているものだった。

 

(殺意は無し・・・か)

 

 その反応で、この少女が少なくともこちらに危害を加える意図がないことが分かった。神崎は心中で溜息を吐くと、握っていた炎羅(えんら)を鞘に戻し、今度は幾分穏やかな声音で話しかけた。

 

「驚かせたな。俺は神崎玄太郎。扶桑海軍の大尉だが・・・。君は?」

 

「ふ、フランチェスカ・ルッキーニ・・・少尉ですぅ・・・」

 

 怯えながらで尻すぼみではあったが、答えてくれた少女に神崎は微笑んだ。彼女ぐらいの年の子供と話すのも随分と久しぶりだったが、稲垣や幼い頃の竹井やとのやり取りを思い出しつつ会話を続ける。

 

「ルッキーニ少尉。この木箱は俺宛の物なんだが、とりあえず出てくれないか?」

 

「は、はい!」

 

 ピョンとルッキーニが木箱から飛び出すと、丁度神崎と並ぶ位置に着地した。神崎はざっと木箱の中を見渡すが、特に荒らされた形跡はない。横のルッキーニを見れば不安そうに神崎を見上げていた。

 

「どうしてこの部屋に?」

 

「えっと・・・。ここはね、私の秘密基地だったの」

 

「秘密基地?」

 

「うん。大きな箱とかが沢山あって・・・。その中で寝るとね、探検みたいで楽しいんだよ!でも・・・。気付いたら全部無くなって、部屋になってて・・・。そしてさっき来たら木箱があったから気になって・・・そしたら・・・」

 

「・・・俺達が来た、と」

 

 彼女の言葉から、以前この部屋が倉庫だった際に彼女がよく出入りしていたことを察した。いきなり部屋に変わり、一つだけ木箱が置かれていれば確かに気にはなる。彼女の場合は理性より好奇心が勝って空けてしまったようだ。運が悪いタイミングだったが。

 

「なるほど・・・。しかし、封がされていたのを勝手に開けるのはどうかと思うが?」

 

「うじゅう・・・」

 

 よほど怖かったのか肩を落として傷心気味な彼女の姿に、流石に神崎もそこまで責める気はなくなってしまった。代わりに、膝を落として彼女と視線を合わせて小さく笑いかけた。

 

「・・・君の秘密基地を俺の部屋にしてしまった代わりに、別の場所に作るのを手伝おう」

 

「本当!?でも、なんでカンザキ・・・大尉はここに住むの?男の人達って別の場所だよ?」

 

「それは、俺も魔法力が使えるからだ」

 

「え~!?嘘だよ!!だって、魔法力が使えるのは魔女(ウィッチ)だけなんだよ?」

 

「普通はそうだ。だが、俺は使える。明日、ディートリンデ中佐から紹介があるはずだ」

 

「じゃあ、明日で嘘かどうか分かるんだ!!ウヒャー!楽しみ~!」

 

 先程までの落ち込んだ雰囲気はどこにいったのか、底抜けに明るい感情を出すルッキーニ。彼女の性格が少し分かった気がした神崎は、懐中時計で時間を確認して言った。

 

「これから俺は荷解きをしないといけない。ルッキーニ少尉、今日は帰った方がいい」

 

「分かった!じゃあ、明日ね!絶対来てね!」

 

「ああ」

 

 ルッキーニはぶんぶんという音が聞こえる程に勢いよく手を振ったとあっという間にドアを開けて走り去っていった。神崎も一応小さく手を振りはしたが、彼女が気付いたかどうか・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、いうことがあってな・・・」

 

「なるほど。まったくお前という奴は・・・」

 

 神崎の説明を聞いた坂本は渋い表情でルッキーニを見下ろした。見下ろされたルッキーニ本人は良くない空気を敏感に感じ取って隣にいたシャーリーの後ろに隠れていた。そっぽを向いて音が鳴らない口笛を吹いている。

 

「まぁまぁ少佐。中佐だって何も言ってないんだからさ~」

 

「全く、程々にな」

 

「分かった!ホドホドに~!」

 

 本当に分かっているのか怪しい返事だったが一応坂本はこれで満足したらしい。どこか諦めている雰囲気を感じなくもない坂本が神崎の方に向き直った。

 

「これからの基地案内は、私が案内してもいいんだが・・・」

 

「しょ、少佐!これから私との訓練が・・・!」

 

「という訳だ。申し訳ないが他の・・・そうだな」

 

 坂本が困り顔で周りの顔を見渡すと、ルッキーニが飛び上がるように手を上げ名乗りを上げた。

 

「私がやるー!!!」

 

「ルッキーニが行くなら私も付き合うよ」

 

 ルッキーニだけだと渋面を作っていた坂本だったが、シャーリーの言葉に満足そうに頷いた。

 

「それなら大丈夫だろう。2人とも、ゲンを頼むぞ」

 

「失礼いたしますわ!」

 

 何故かペリーヌが睨んできたが、特に気にすることなく2人を見送る神崎。シャーリーとルッキーニ以外の面々も一言入れてそれぞれの仕事へと向かっていく。最終的に、神崎、シャーリー、ルッキーニの3人だけがブリーフィングルームに残った。

 

「じゃあ、基地案内を始めようか~」

 

「私の秘密基地も教えたげる~!あと、隠れる場所とか、登ると面白い場所とかも!」

 

「それは楽しみだ。よろしく頼む」

 

「まっかせて~!レッツゴー!」

 

「お~!」

 

「・・・おー」

 

 ルッキーニが意気揚々と先頭に立ってブリーフィングルームから出て行く。その後ろにノリノリのシャーリーが続き、更に後ろに神崎が続く。

 前方の2人は気付かなかっただろう。

 

「色々と教えてもらうのは嬉しい。・・・色々とな」

 

 神崎の口元が小さく笑みを浮かべていたことに。

 その笑みが、暗く歪んでいたことに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昨日のルッキーニとの出来事には続きがある。

 

「分かった!じゃあ、明日ね!絶対来てね!」

 

「ああ」

 

 そう言って部屋から出て行ったルッキーニを見送り数分。神崎は徐にドアへと行くと、通路の人の有無を慎重に伺う。誰も居ないことを確認すると、踵を返して木箱の中へと歩み寄る。

 

 木箱の中には、衣服と私物を詰めた革のカバンが2つ。そして、厳重にロックが掛けられた大きなトランクが1つ。

 神崎は先にカバンを取り出して中身に不足が無いかを確認し、ついでトランクを取り出した。トランクを開けるには、挟み込むようなダイヤル式ロックとカバンに直接設置された鍵をそれぞれ解除しなければならない。

 

「・・・」

 

 手馴れた手つきでダイヤルに数値を入れ込み、制服の内ポケットから取り出した鍵でトランクを開ける。

 中に入っていたのは、古ぼけた木目調のラジオと工具箱のような金属製の箱だった。

 

 ラジオと箱を机の上に出し、箱の方に手をかける。一見、箱には鍵も付いてなく、さりとて開ける為の取っ手なども無い。しかし、神崎が手を翳して魔法力を込めると音も無く開いた。中から覗くのは、艶消しの黒い塗装が施された、世間ではデリンジャーと呼ばれる小型の拳銃。それがズラリと10丁並んでいるのだ。

 

「ふぅ・・・」

 

 一息ついて、神崎はラジオのスイッチを入れる。

 流れ始めたクラシックの音楽を聴きながら、内ポケットからクシャクシャに潰れた煙草の箱を取り出した。

 

「まで出番はないといいが・・・」

 

 そう呟きながら、神崎は煙草を口に咥え魔法力を指先に集め火をつける。空中にたゆたう神崎の目は疲れたように澱んでいた。

 






最近506のドラマCDを聴いていたのですが、ボーナストラックは脳みそ溶けそうになります

個人的にはアドリアーナの声が好きですが、マリアンも負けないぐらい好きです。
というか、マリンコ魔女組は本当にカワイイ

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