感想、アドバイス、ミスの指摘などお願いします。
『流石にこれはやべぇな』
ああ。
最悪だよ。
『撃墜させるのは・・・始めてじゃなかったわ。ライーサと一緒に墜落してたわ』
回数なんて関係ないだろう。
何でもいいから早く脱出しろ。
脱出してくれ。していてくれ。
『ライーサには・・・あ~・・・よろしく言っててくれ』
ふざけるな。
ふざけるな。
ふざけるな。
またお前は奪うのか。
俺から奪っていくのか。
昔も、今も。
許せるものか。
絶対に。
例え、1人になっても。
殺してやる
「アアアアアアア!!!!!」
「ッ・・・!!」
白熱する切先が奔り、微かに触れた頬を一瞬にして焼き焦がした。
僅かに漂う肉が焼ける嫌な臭いさえもその刀身の熱は、迫り来る斬撃は、一瞬にして命を奪い去る恐怖を体現していた。
「これがあなたの本気・・・いや、狂気」
片手しか使えないはずなのに、刀を振るうスピードは先程よりも速い。
こちらに突き刺さる視線は、睨みつけるというよりも獣のような理性の無い殺気に彩られている。
有利だったはずなのに。
今も有利なはずなのに。
タラリと流れる冷や汗が、自分がたまらなく怖がっていることを教えてくれる。
だが今のコリンは恐怖に気圧されはすれど、負けることはない。
漠然と。
これが最後の戦いであることを予感し。
なおも、罅割れた笑みを顔に貼り付けることは出来た。
魔法力の残量など考えてはいなかった。
神崎の絶叫が届くことはなく、大口径の弾丸の雨に貫かれた零戦は無残にもその翼を地面に晒してしまった。
その瞬間に、神崎は炎を最大限にまで
「アアアアアアアア!!!!!」
絶叫を上げて切りかかるその姿は、アフリカでの暴走の姿と酷似している。しかし、最大の違いは、あの時は恐怖がきっかけだったが、今は怒りが神崎の感情の大半を占めていることだった。
片腕だけであることを忘れているかのように振るう
それで止まるはずもなく、神崎は何度も何度も
『神崎さん!島岡さんの救出は私が・・・!』
五月蝿い。
うるさい。
ウルサイ。
シーナからの通信にも何も応えず、ただただ目の前の
ただただ目の前で薄ら笑う
「くぅッ!?」
神崎の振るう刃を、コリンは苦しそうに呻きながらシールドで無理矢理受け流した。
2撃、3撃と後先考えずに込めている魔法力による強大な膂力と纏わした炎の熱もあるはずだが、歪めはしても笑みを絶やすことは無い。
それが神崎の怒りに増長させた。
「クソがぁあああ!!!」
神崎は今までにない程に吼え、上段に構えた
渾身の力と魔法力を込めた一太刀をコリンは真正面から受け止めた。
頭上に展開したシールドで眼前に刃を見据え、炎に舐められて。
「私はあなたの親友を墜とした。あなたも私の部下を殺した。味方同士で殺しあった」
「誰が味方だ!お前達は敵だ!!!」
拮抗したようにみえる攻防は、コリンのシールドに罅が入ったことにより流れが変わる。神崎が
「いいえ。貴方は人間を殺すことが出来る。
「黙れ黙れ黙れぇえええええ!!!!」
吼えると同時に押し込んだダメ押しの一撃はコリンのシールドを完全に打ち砕いた。砕け散ったシールドの破片をも切り裂く
必殺の念を込めた一撃も届かずに大振りな振り切りの体勢で止まってしまえば、コリンが見逃すはずもない。だが、神崎の怒涛の攻撃を耐え切った後に機敏に動く余裕はさしものコリンにも存在しなかった。
その緩慢なコリンの挙動と、感情を爆発させ通常とは全く違う神崎の精神状態が合わさり、1つの結果を生み出す。
「これで最後・・・!」
「ガアアアア!!!」
銃口が向けられる直前、神崎は右の零式艦上戦闘脚だけ出力を上げてコリンの重機関銃に叩きつけた。
重機関銃と零式がぶつかりお互いに自壊してしまう。
この時コリンは重機関銃の破片から顔を庇いつつ、冷静に戦局を見極めていた。片方の零式を失った神崎は機動力を失い、滞空することすらままならない。加えて神崎は左手が使えない上に右手には扶桑刀を持っている。
機動する手段も無く、攻撃する手段も無い。
破壊されてしまった重機関銃を手放し、拳銃に持ち替えれば今度こそ決着がつく。
そう考えて腰のホルスターに手を伸ばしたコリンだったが、しかし次の瞬間に自分のミスを悟った。
コリンの目に映ったのは、落下していく中で扶桑刀を口に咥え、右手に持ったC96の銃口を向ける神崎。
コリンと神崎の視線が一瞬交差する。
互いに感じた感情は一体なんだったのか。
それを自覚する暇もなく、神崎はC96の引き金を引いていた。引き続けていた。
連射による衝撃で暴れる銃口とマズルフラッシュ。
重力に引かれていく中で、それでも神崎は確かに、コリンの体から紅い花が散ったのを目で捉えていた。
「ハァ・・・ハァ・・・クソッ」
片方のストライカーユニットを破壊され完全に魔法力を使い切った後の着陸は、殆ど墜落と変わらなかった。着陸の衝撃によって無事だった片方の零式も損傷し、神崎は満足受身を取ることが出来ずに冷たい雪面に投げ出された。
荒い呼吸の中で悪態を吐き、スクラップになった左脚の零式を外す神崎。弾切れになったC96もホルスターに戻し、近くに転がっていた
左脚の零式を重機関銃にぶつけるという無理な挙動の弊害で、左脚に激痛が走っている。それでも
「シン・・・!!生きているんだろう!返事をしろ!!」
向かうのは零式艦上戦闘機の墜落地点。島岡は絶対に死んでいないと頑なに信じ、神崎はインカム越しに叫び続けた。
「シン!」
『あぁ・・・。生きてるよ。多分な・・・』
雑音に紛れではあるが確かに島岡の声がインカムから聞こえた。アドレナリンが切れたのか左腕まで痛みが走り始め、歩く速度は途方も無く遅くなっている。
『零戦が潰れたから無線機は無ぇっつうのに・・・。ヘイヘさんから・・・インカムを借りたんだよ』
「シーナは救出してくれたのか・・・」
『燃料ギリギリだったおかげで燃えなかったわ』
自分の歩く速度が恨めしい。
早く助けに向かいたかった。
「お前は?大丈夫なのか?」
『死ぬ気はねぇよ?体中痛ぇし・・・右目もよく見えねぇけどな』
「俺も体中痛いし、左脚と左腕がまともに動かないが死ぬ気は無い」
『んだよ・・・。お前ぇもボロボロじゃねぇか・・・。ひでぇ様だな』
途中途中で木の幹に体を預けて回復しながら雪を踏みしめる。
「似たようなくせしてよく言う」
『はっ・・・。2回も・・・撃墜されといてよく言うぜ』
「復帰したから勘定にいれなくていい」
普段ならなんなく踏破できるちょっとした斜面を気の遠くなるような労力を持って進んでいく。息が絶え絶えになりながらも斜面を登りきると、向こうから島岡とシーナがやってくるのが見えた。島岡の飛行服は所々が血に染まりボロボロになって、頭には右目を包むように包帯が巻かれている。どうやら島岡に肩を貸しているシーナが応急処置を施してくれたようだった。シーナ自身も脇腹の傷は治療を施したのか、しっかりとした足取りで島岡を支えている。
どうやら合流は出来そうだと、神崎は心なしか歩く速さを上げて島岡達に近づいた。
トンッ・・・と左肩を叩かれたのはその時だった。
なんだ・・・?と思った時には不自然なほどに体勢が崩れ、雪に紅い模様が散った。視界の先のシーナが血相を変えて何かを叫んで片手で
雪に突っ込むように倒れてようやく、神崎は自分が撃たれたことを悟った。
「島岡さんは私の後ろに!はやく・・・」
倒れてしまっても神崎はどこかぼんやりと視界の先のシーナを見ていた。彼女は、満足に動けない島岡を庇おうと、押しのけるようにして前に出る。
その意識を外した瞬間が狙われてしまった。
パンッ・・・!という軽い音が聞こえたと思うと、神崎が見つめる中、シーナが仰け反る様にして倒れてしまう。
神崎はシーナの顔から鮮血が飛び散ったのを見た。見てしまった。
もう一度、パンッ・・・!と音が鳴り、今度は島岡が不自然に体をくの字にして倒れてしまう。
「シン・・・。シーナ・・・」
「今度こそ・・・これで最後です」
呻くように2人の名を呟いた神崎の腹部に強烈な衝撃が走り、無理矢理うつ伏せだった状態から仰向けへと変えられてしまう。苦痛に顔を歪めた神崎が見たのは、馬乗りになって拳銃を構えた血塗れのコリン・カリラ。
「何故・・・生きている?」
「死ぬまでの時間が・・・残っているだけです」
神崎の疑問に答えたコリンに、確かに銃弾は直撃していた。銃弾が当たっただろう服の穴からは今もとめどなく血が流れ出ており、足を伝って雪を紅く染めていた。真っ青な顔といい立っているのも不思議だが、彼女の言葉通り死ぬ前の最後の足掻きなのかもしれない。
その足掻きに神崎は屈しようとしている。
「私にも・・・時間がありません。残念ですが・・・すぐに・・・終わらせます」
神崎の顔面に銃口を向けるコリン。しかし彼女も限界なのか、銃口は揺れ続け、目も良く見えていないのか焦点が合っていないように泳がせている。
神崎も簡単にやられるつもりはなく、倒れたときに手放してしまい近くに転がった
神崎の
コリンが拳銃の引き金を引くか。
一瞬の勝負を制したのは・・・コリンだった。
銃口が神崎の頭に向けてピタリと止まり、目の焦点が合う。
「さようなら」
コリンは小さく呟いて引き金に指をかける。
神崎はそれでも
銃声が鳴り響く。
真っ白な雪のキャンバスに一際大きな大輪が咲いた。
ピシャリ・・・とかかった暖かな液体を浴びて、神崎は目を閉じて自分の手に伝わる微かな振動を感じていた。
「カハッ・・・」
耳元で聞こえる息が漏れる音はまるで命が無くなっていくのを音にしたようだ。
神崎はゆっくりと目を開けた。
「負け・・・ました」
微かな、本当に微かな声がコリンの口から漏れる。
神崎は固く口を結び、コリンの胸に突き刺した
コリンに撃たれる瞬間、
もはや立つ体力さえ残っていない神崎は地面を這いながら、倒れた島岡とシーナの元へと向かう。
少しづつ、少しづつ、這い進む神崎の上に、ふわりふわりと雪が降り始めていた。
報告
ラドガ湖防衛陣地に展開していた扶桑皇国海軍スオムス派遣分隊兼「
戦闘班である神崎玄太郎少尉及び島岡信介特務少尉と同陣地に駐屯していたスオムス陸軍スオムス陸軍第12師団第34連隊(以後34連隊とする。)は同時期に発生していたコッラー川防衛線での戦闘に出撃しており、当初は「
218人による地上部隊と12人の航空
共生派航空
しかし、3名ともに重症を負い、特に島岡特務少尉及びヘイヘ曹長は意識不明の重態となり、コッラー川より後退したアウロラ・E・ユーティランネン大尉が率いる34連隊により鷹守大尉等を含めて救出された。
神崎少尉、島岡特務少尉は任務継続困難と判断し、扶桑皇国へ帰還させるものとする。
なお、スオムスが呼称する第二次ネウロイ侵攻にかかる本案件により、スオムス空軍内における共生派を完全に排除し、またスオムス全体における共生派の排除も大幅な進展をみせた。しかし、連合国内においては未だ共生派の存在は確認されており迅速な対処が必要だと痛感する。
本案件は自軍同士による戦闘という連合軍全体の士気に影響するものとし、不測な混乱を避けるため秘匿する必要があると具申する。