ストライクウィッチーズ 一匹の狼   作:長靴伯爵

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ペテルブルグ大作戦面白かったですね

ライブも楽しみです

そんな訳で第六十六話です。

感想、アドバイス、ミスの指摘などよろしくお願いします


第六十六話

 

 

 上空を飛翔する航空魔女(ウィッチ)

 雪上を疾走する陸戦魔女(ウィッチ)

 

 この2種類の魔女(ウィッチ)達が戦場で、協力はすれども砲火を交えることは本来ありえないことだ。

 

 当然といえば当然。

 

 そもそも味方であるという点はこの際除外するが、航空戦と陸上戦では求められる戦闘の形がかけ離れているからだ。

 空では高速で三次元的な戦闘が行われ、コンマ秒での戦闘が短い時間で繰り広げられる。ひるがえって陸上では、航空戦に比べればお世辞にも速いとはいえない速度で、しかし長時間戦い続けることになる。

 この2つは航空支援、対空戦闘という形で絡み合うことは多々ある。しかし、正面からぶつかり合う、お互いが一瞬の隙で命を散らす死闘を繰り広げることは有り得なかった。

 

有り得なかったのだ。

 

 

 

「・・・ッ!?」

 

 顔のすぐ傍を掠めた弾丸に肝を冷やすも、雪を蹴立てて超信地旋回し上空を通過したコリンに左手のKP/-31で弾幕を張る。弾幕といっても短機関銃一丁での対空砲火など高が知れているが、ある程度コリンの機動を制限できる。コリンが自身と数百キロの速度差で攻めてくる今、そのある程度の制限が次へ繋げる重要な一手だった。

 超信地旋回した地点から弾幕を張りつつ最高速度で移動し、右手のM28/30(スピッツ)を構える。数秒前に接近していた機影は既に遠く離れているが、進路は予想通りで距離も射程内。

 彼女の魔法力に呼応し淡く光を帯びた「死神の目」を細め、躊躇無く引き金を引いた。明確な殺意を込められた弾丸が、彼女が視た道筋をなぞり一直線にコリンへと飛翔する。

 数秒の間が空き、もはや黒点にしか見えなくなったコリンがガクリと進路を落とし・・・すぐに体勢を戻した。

 再び増速した黒点をアイアンサイト越しに見つめ、シーナ小さく溜息を吐いた。

 

「これも避けられた・・・ムカつくほどにいい腕ですね」

 

 一時的に停まり、手早くKP/-31の弾倉を代えM28/30(スピッツ)のボルトを引き次弾を装填する。

 戦闘が始まって幾度も砲火を交えたが先程のような戦闘の繰り返しだった。短機関銃で牽制して狙撃銃で止めを狙う。だが、シーナの魔眼を持ってしてもコリンに直撃させられないでいた。

 

「まさか、視切れないとは・・・。視界に捉えられないのが問題?」

 

 この戦闘ではコリンと接触する時間が極端に短い。それこそ数秒にも満たない時間ではコリンの攻撃を回避し、KP/-31で牽制し、死神の目で捉え、M28/30(スピッツ)で狙い撃つにはあまりにも短すぎる。

 シーナにはこの戦闘でコリンを倒す必要はない。神崎からは抑えるようにしか言われていない。

 だがシーナはここで倒すつもりだった。神崎に余力が無く何かしらの異常があるのは察せられた。島岡の頑張っているが航空魔女(ウィッチ)に対抗するにはどうしても限度がある。

 2人が生き残るには自分がコリンを倒すしかないのだ。

 

 

・・・弱点がばれる前に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「流石死神といったところ・・・」

 

 移動し始めたシーナを視界に入れて、コリンは機関銃を持つ腕に視線を落とした。肘辺りから肩口にまで切り裂かれた服は、シーナが放った弾丸が殆ど彼女を捉えていた証拠だった。

 コリンが高速でのヒット&アウェイに徹していたせいか、交戦当初、シーナの弾丸は全く当たらなかった。「死神の目」を持つシーナの射撃の腕はスオムス軍内では有名な話でコリンも勿論承知していた。こんなものかと少々安堵し、ヒット&アウェイを繰り返した。

 だが、すぐにその考えの浅はかさが露見することになった。

 確かにヒット&アウェイは有効だった。

 だが、1回。更に1回行うことに弾丸の音を感じ、風を感じ、振動を感じて・・・そしてついに掠めるまでに至った。

 

「捉えられた・・・。次は無事では済みそうにないですね」

 

 高速で飛んでいるにも関わらず、常に首に鎌を添えられたような感覚。すぐ近く死神が迫ってきていた。

 

「次が最後。彼女の回避行動を先読みして直撃させれば・・・回避行動?」

 

 そこまで考えた時、コリンは自分の言葉の一部に違和感を覚えた。そしてそれはすぐに疑念に変わる。

 

「そもそも、なぜ彼女は回避行動をとっている?」

 

 陸戦魔女(ウィッチ)の最大の利点は重装甲と余裕ある魔法力の運用による強固な防御力(・・・)である。

 防御力だ。ともすれば大型の陸戦ネウロイのビームすらも防ぎきるそれに、多少魔法力が付与されているとはいえ機関銃の弾丸を防げないはずがない。

 つまり、シーナがとるべき戦術はコリンの銃撃をシールドで防ぎ、安定した状態で狙いを定め、撃つ・・・というものになるはず。

 だが、実際はシーナは回避行動を取り続けている。そこから考えられるのは・・・。

 

「何らかの理由でシールドが展開できない・・・ということでしょうか」

 

 罠という可能性もある。

 しかし、どちらにしろ捉えられてしまったコリンには後が無い。

 賭けてみる価値は十分にある。

 

「負けるつもりは毛頭ありません」

 

 コリンとて生半可な覚悟でこの場にいる訳ではない。自分の命を懸けてでも、同志達の命を背負ってでも、理想を実現すべく戦ってきた。

ならば自分の全力を持ってシーナを殺すだけだ。

 

 コリンはシーナを中心にして輪のように旋回していく機動を取った。できるだけ相手の狙いから避けるようにランダムに速度を変えながら機関銃を構え、1弾倉分全てを撃ち尽くす勢いで引き金を引き続けた。

 この攻撃に対しシーナは回避行動を取り、反撃のために銃を構え・・・ガクリと態勢を崩した。直後シーナから白煙が噴出し彼女を覆い隠したが、コリンの魔法力で強化された視力は確かに捉えた。

 雪原に咲いた真っ赤な花を。

 

「さて・・・詰めましょうか」

 

 相手がシールドを使えないのは確定した。ならば後は反撃の暇を与えずに射撃を続ければ自ずと相手は倒れる。

 煙が晴れれば終わり・・・とコリンは撃ち尽くした弾倉を取り替える。そこで視線を白煙から銃に移したのが彼女の運命を分けた。

 機関銃を照らす日光が一瞬翳る。それを見たコリンは本能が赴くままに身を翻した。

 直後、暴風が彼女が襲い、巨大な質量と爆音が体を掠めた。暴風に揉まれながらもコリンは確かにこの現象の原因を捉えていた。

 

ボロボロの零式艦上戦闘機。

決死の目の「ゼロファイター」、島岡信介。

 

「その状態で向かってきますか・・・。いいでしょう」

 

 どちらにしろここで全員殺すのだ。その順番が前後しようが問題はない。むしろ逃げ回られるよりも手間は省けた。

 

「さっさとケリをつけましょう」

 

 弾倉を換え、確実に初弾を装填する。再び接近しようとする零式を見据え、コリンは魔導エンジンの出力を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 コリンの機動が変わったのを確認したシーナは、自分の弱点に気付かれたことを察した。

 シーナの弱点。

 それは「死神の目」による多大な消費魔法力だった。相手が死ぬ弾道を見据えるという破格の能力を持つが故に。「死神の目」を発動してしまうとシーナは陸戦ユニットには辛うじて稼動出来る程度の魔法力しか送ることが出来ない。陸戦魔女(ウィッチ)の最大の利点であるシールドを張る余裕が無いのだ。

 だからこそシーナは遠距離からの狙撃でしか「死神の目」を発動せず、「モッティ」戦術を仕掛けた時は高機動での射撃戦のみに徹し白兵戦には参加しなかった。

 高速で三次元機動をとるコリンを撃墜するには「死神の目」を使わざるを得ない。

だからこそ、この弱点が気付かれる前にケリをつけるつもりだったのだが・・・タイムリミットが来てしまった。

 

「クッ・・・」

 

 少しでも有利な状況に持ち込もうと移動しようとしたシーナだったが、突如インカムから島岡の悲痛な声が響いた。

 

『ヘイヘさん!!ゲンが堕ちやがった!!』

 

「まさか・・・ッ!?」

 

 神崎の撃墜。

 あまりに衝撃的な情報がもたらされるも、それに驚く時間は満足に与えられなかった。動きが乱れたのを見抜かれたのかコリンが仕掛けてきたからだ。

先程までのヒットアンドアウェイではなく、自身が攻撃に晒されることも厭わない集中砲火。

 回避行動だけでは捌き切れず、攻撃を止めるべく反撃しようと銃を構えようとする。が、そこで回避行動への集中を切らしたシーナの痛恨のミスになった。

突如、体の至る所に走った焼けるような激痛にシーナは堪らず体勢を崩してしまった。

 

「まずいッ・・・!!」

 

 このままでは完全に狙い撃ちにされてしまうとシーナは歯を喰いしばってT-26改に装備されている発煙装置を起動させた。途端にシーナの周辺は白煙で満ち、完全にコリンの視覚を遮った。

 そこまでしてやっと、シーナは自身の状況を把握できた。

 

 頬と右腕に銃弾による裂傷。脇腹の浅い部分に銃創。幸いにも弾は貫通しているようだ。

 本来ならば治療に専念するべきだが、今は最優先するべきことがある。

 

「島岡さん、神崎少尉の墜落地点は?」

 

 シーナはM28/30(スピッツ)の擬装用の布を解くと簡単に腕と脇腹の部分にきつく巻きつけた。

治療はこれだけ。

 今は少しでも早く神崎を捜索したかった。

 

『ヘイヘさんは大丈夫なのかよ!?』

 

「大丈夫です。いいから早く!」

 

 島岡の心配する声にシーナは断固とした口調で情報を要求した。時間が無いのはお互いに分かっていることで、島岡はすぐに折れた。

 

『・・・クソッ!?そこから東の雑木林だよ!!』

 

「分かりました。島岡さんは・・・」

 

『俺がコリン・カリラを押さえりゃいいだろ!!!』

 

 インカムからそう聞こえた瞬間、上空で一際大きな轟音が響き渡った。慌てて上空を見上げたシーナの目は、コリンに挑みかかる零式艦上戦闘機の姿を捉えた。あまりにも無謀な行動にシーナは悲鳴に近い声を上げてしまう。

 

「そんな機体では無茶です!!!」

 

『無茶でも何でもやってやるよ!絶対にゲンを見つけてくれよ!!通信終了!!!』

 

「島岡さん!?・・・ありがとうございます」

 

 一方的に通信を切りコリンとの激闘を開始した島岡。地上からみても島岡が駆る零式艦上戦闘機はボロボロでいつ空中分解しても可笑しくない有様だ。

だが・・それでも時間稼ぎのためにコリンに挑んだ。

それにシーナも応えなければあらない。

 

 自身が展開した白煙を突き破り、シーナは東の方向にある雑木林へと全速力で向かう。

 

 苦痛に顔を歪ませながら雪上に点々と赤い花を残しても、ただひたすらに神崎の無事を信じて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 才谷はファインハルス以下数名の部下を引き連れてソルタヴァラ基地に移動した。

 既に「(シュランゲ)」の本隊が展開し終えており、占拠されたレーダー施設の制圧作戦を実行していた。

 作戦は完了済み。

 その結果を確認するため才谷はレーダー施設に赴いた。

 

 ファインハルスの先導の元、レーダー施設の入り口に立つ才谷。

 施設の入り口には識別章がない(シュランゲ)所属の兵士2人が歩哨に立っており、才谷と(シュランゲ)以外の兵士の入出を制限していた。その入り口自体も突入の際に爆発物を使用したためか焼け焦げた跡が生々しく残っている。

 ファインハルスが話しかけると歩哨は頷き、才谷達を招きいれた。

 入り口から続く通路にも焼け焦げた跡は残っており、加えてある無数の弾痕と血痕が制圧戦の苛烈さの様相を表していた。

 通路を抜け、管制室へ。

 そこは無残に破壊された管制装置やレーダー機材、無線機などの残骸が広がっていた。

 

「機材は悉く破壊されました。復旧は殆ど不可能でしょう」

 

 ファインハルスの説明に才谷は頷く。銃撃や爆弾も使って悉く破壊尽くされているのは一目瞭然だった。だが、知りたいことは他にもある。

 

「共生派は?」

 

「半数は制圧時に殺害、もう半数は制圧完了直前に自決。残念ながら・・・」

 

「確保できなかったか・・・」

 

 いままでの共生派との戦闘でもそうだが、身柄確保する前に彼らは自決してしまい情報が得られないのだ。

 今回も同様だった。

 

「他の共生派の洗い出しは?」

 

「スオムス空軍での洗い出し及び逮捕は殆ど完了しています。陸軍の協力によって予想以上に迅速に終わりました」

 

「確保できていないのは?」

 

「コリン・カリラ大尉が率いる一派だけです」

 

「所在は?」

 

「不明です」

 

 報告では、神崎奪還作戦後ヴィープリから姿を消してしまい一切の所在を掴めていない。「(シュランゲ)」実働部隊が幾度と無く行った「共生派」狩りでも尻尾を掴むことが出来なかった。

 いったい何処に隠れているやら・・・と、いい加減うんざりしていると一人の(シュランゲ)隊員が焦りを滲ませて近寄ってきた。

 

「司令官、緊急の報告が」

 

「なんだ?」

 

「民間からの通報です。ラドガ湖で戦闘が起きていると。加えて、短時間ではありますが全周波数で救援を求める通信が出ていたと」

 

「ラドガ湖だと?」

 

その瞬間、才谷の中で何かがカチリと噛み合った。浮かび上がるのは想定上最悪の状況。

 

「ファインハルス。制圧作戦に参加した人員を再編成してラドガ湖に向けろ」

 

「了解しました」

 

 才谷は背後に立つファインハルスに指示を出すと踵を返して管制室を後にした。自然と早くなる歩調が事態の重大さを物語っている。

 

「可及的速やかにだ。スオムス陸軍の手も借りていい」

 

「すぐに要請します」

 

「ここで鷹守と神崎、島岡を失う訳には行かない。」

 

「共生派の襲撃を受けていると?」

 

 レーダー施設から出て外付けされていたジープに乗り込む才谷にファインハルスは尋ねた。すでに分かっているはずだが確認の意味なのか。だが、彼の表情は餌を前にして辛抱たまらない犬のように、無表情から喜色を滲ませていた。

 

「そうだ。共生派を殲滅し、是が非でも救出しろ」

 

「さてさてさて。大変な仕事になりそうですね」

 

 ついに我慢できずに笑みを浮かべたファインハルスを一瞥にし才谷はジープを発進させた。

 事態の急変に気付かなかったことを悔やみはしても、すぐに切り替えて作戦の方に集中する。

 知ってか知らずか、軍刀を持つ手には力が篭っていた。

 

 

 

 

 

 





 息抜きにブレイブウィッチーズの小説も書いてますので気が向いたら読んでみてください

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