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切り離されたアウロラは、本来なら安全上すぐに展開するべきパラシュートを開かなかった。重力に引かれて真っ逆さまに落ちていくアウロラの目は、彼女の部下達を蹂躪していく陸戦ネウロイらの姿を完全に捉えていた。
まだパラシュートは開かない。
代わりにカノン砲を構えた。
あまりにも無謀。だが、アウロラは戸惑うことなくカノン砲の引き金を引いていた。
ドゴンッ!!
発砲の衝撃でアウロラの体は一瞬止まるが、野太い銃声も排出された空薬莢も落下の速さに置いていかれる。が、弾丸は空気を切り裂いてネウロイを上部から貫いていた。堅牢な装甲を持つ陸戦ネウロイでも上部が弱いのは戦車と一緒。そこを正面から撃っても撃破できうるカノン砲の弾丸が襲えば・・・1発で撃破できる。
ネウロイが白い粒子へと爆散していく様子を脇目に、彼女は淡々と引き金を引き続けた。
ドゴンッ!ドゴンッ!!ドゴンッ!!!・・・
1発1発がネウロイを破壊しつくす弾丸を1弾倉分撃ち切った所で、アウロラはようやくパラシュートを展開した。地上からの高度はギリギリではあるが、落下のスピードが風圧によって一気に減速する。正規からかけ離れた手順で行っている分、体を破壊してもおかしくない桁外れの重圧が掛かっているはずだが、アウロラは眉をピクリとも動かさずに弾倉を取り替えていた。そして減速しきる前にパラシュートを自身の体から取り外していた。
地上から10mは切った時点で完全な自由落下になったアウロラはまるで砲弾。カノン砲とは逆の手で構えたスコップの切先を向け、アウロラは手近なネウロイに突っ込んだ。
砲声と代わらない爆音が辺りに響き渡り、雪煙が大地を割るように一直線に走った。その光景を見ていた男性兵士は陸戦
舞い上がった雪が治まり始め、段々と雪煙の先が見えてくるのは半分地面に埋まったネウロイ。そしてその上に立つ、オオカミの尾と耳を戦場の風に揺らし、カノン砲を担ぎ、ネウロイに突き立てたスコップに手をかける、スオムス最強の
「部下達が随分と世話になったな。お返しに・・・存分に暴れてやる」
その姿に味方の士気は否応無く奮い立たされた。
「まるで戦女神・・・。大尉らしいと言えばそれまでだが・・・あれは滾る」
アウロラのあまりに豪快な戦場への突入方法を目の当たりにして奮い立たされたのは神崎も同じだった。このまますぐにでも上空から援護したいが、現在携行している武器が『
眺めているしかない神崎の下に、鷹守から通信が届く。
『ウルフ1~ウルフ1~。さっき無理矢理突破した泥棒たちが戻ってくるみたいだよ』
「ウルフ1、了解。・・・今、レーダー情報は使えないはずだろう?どうやってその方法を?」
『別便からの情報でね。まぁ、そのうち来るんじゃないかな?』
「それはどういう・・・」
『おい!ゲン!なんで途中のヒエラクスを倒してねぇんだよ!?』
鷹守の通信を遮って飛び込んでくるのは随分久しぶりに耳にする親友の悲痛なる叫び声。何かを感じた神崎が自分が来た方向を振り向くと、青空にポツポツと現れる数々の黒点。その一番先頭の黒点が段々と大きくなると、それは見慣れに見慣れた戦闘機「零式艦上戦闘機」に変わった。
「お前ならヒエラクスなんて楽勝だろ!?」
「手が空いていなかった」
「今は重くて動き辛いっつうのに・・・!?」
見たところ島岡の零戦に腹には爆弾や増槽とは違うコンテナ状の物が装備されていた。確かのあの様子だと島岡お得意の格闘戦を繰り広げるのは難しいはず。神崎は援護するためにヒエラクス編隊に向かおうとしたが、待ったをかけたのは文句を言っている島岡本人だった。
「宅急便の別便だよ!!まずはこれを持ってけ!」
その言葉と共に零戦から切り離されたコンテナが宙を舞う。それは一時の間重力に引かれると、コンテナ自ら破砕し中身を曝け出した。その中身を見た瞬間、神崎の口に小さく笑みが生まれた。
「いい仕事をしてくれる・・・!」
スピードを合わせて手を伸ばし、掴むのはフリーガーハマー。抱えるように受け取めると弾帯を紐代わりにしてヰ式散弾銃改が取り付けてあった。
「ここでヰ式か・・・。こいつとも長い付き合いになるな」
流れるようにフリーガーハマーを肩に担ぎ、手早く弾帯を巻く。そしてヰ式散弾銃改を弾帯に挟み込んだ。神崎が戦闘準備万端になると同時に旋回してきた島岡が神崎の隣を飛ぶ。
「さっさとあいつ等を片付けようぜ!」
「ああ」
キャノピー越しに神崎と島岡の目が合う。いままで何度も繰り返してきたように、
「フリーガーハマーで出頭を押さえる」
「その後、俺が突っ込むか!」
「弾幕はそっちが上だ。頼む」
「まかせとけ!」
簡単な打ち合わせの後、島岡は一気に上昇した。神崎がフリーガーハマーを放った直後に上から逆落としをかけるつもりらしい。
ならばと、ヒエラクスが島岡を追って上昇する前に神崎はフリーガーハマーを発射した。無駄撃ちはできず、9発中3発のロケット弾がヒエラクス編隊のど真ん中に飛翔し、盛大に爆発した。ヒエラクスはロケット弾に気付き回避したが、数割は爆発に巻き込まれ消滅。残りも殆どが爆発の影響を受け混乱の坩堝に引き込まれてしまう。
そこに上昇していた島岡がここぞとばかりに襲い掛かった。
「もらったぜぇえええ!」
直上から猛然と急降下してきた零戦とヒエラクス編隊が交差したのはほんの一瞬。しかしその一瞬で、島岡は雄叫びと共に零戦の機関銃の引き金を引き、7.7mmと20mmの弾丸を雨のように撃ち放っていた。混乱の極みにあったヒエラクス達にはこの雨はひとたまりもなく、次々と爆散あるいは火を噴いて墜落していった。
さらにここで神崎の攻撃が続く。
「フッ!!」
フリーガーハマーを背負い代わりにヰ式散弾銃改を抜いた神崎が、ヒエラクス編隊の懐へと入り込み手当たりしだいに散弾を撃ちまくった。至近距離からの散弾の威力は凄まじく、ヒエラクスは穴だらけになるどころか木っ端微塵に砕け散っていく。神崎が装填していた分を撃ち切った頃にはヒエラクスの数は半数にまで減っていた。
ヒエラクスが混乱から脱する暇を与えるつもりもなく、島岡が再び襲い掛かって銃弾の雨を浴びせ、その間に再装填を終えた神崎がヰ式を乱射していく。
この2人のコンビネーションでヒエラクス編隊は瞬く間に壊滅した。
このまま向かうのは地上の援護である。
地上での戦闘は均衡状態に入っていた。
アウロラが参戦したことにより地上部隊の指揮は回復し、彼女自身存分に暴れまわることで戦線を押し戻し、コッラー川の向こう側までネウロイを撃退した。
だが、そこまでで戦線は停まってしまった。アウロラの奮戦虚しく、陸戦
アウロラは膠着した戦線で突破されかける地点を火消しして回らざるをえず、泥沼に陥りかけていた。
神崎と島岡が航空支援に参加したのはそんな時だった。
「隊長!上空のウルフ1から通信!こちらの援護を行うと!」
「神崎は制空権は確保したのか!」
マルユトのカノン砲を発砲しながらの報告に、アウロラはネウロイに突き刺していたスコップを引き抜いて牙をむいて破顔した。この航空支援で戦況をひっくり返す可能性は十分にある。待ちに待ったと言ってもいい声がアウロラのインカムに届く。
『ユーティライネン大尉。こちらウルフ1。イーグル1の観測の元、航空支援を開始する。目標の指示を』
「神崎!目標はコッラー川を越えたネウロイ全部だ!遠慮なく吹き飛ばしてくれ!」
『また無茶を・・・。射点に着きます。3分後に攻撃します』
「頼むぞ!」
『・・・お任せを』
神崎との通信を終えたアウロラは、3分後の航空支援に備えて地上部隊全体に通信を入れた。
「総員、突撃用意!神崎の攻撃後、突っ込むぞ!」
『隊長!さすがにきついですぜ!』
ヤッコからの通信。陸戦
「神崎も私を運んできて相当消耗している。援護できるこのタイミングで奴らを撃滅しなければ後は撤退するしかない。ここが正念場だ。やるぞ」
『ああ、クソ!了解!野郎共、やってやるぞ!』
ヤッコは悪態をつきながらもそれでも命令に従った。アウロラは一呼吸置いて、集合してきた陸戦
「聞いての通りだ。この突撃でこの戦いを終わらせるぞ」
覚悟を決めた表情で陸戦
そして・・・。
『ゲン、集まっているのは川の中心だ!』
『ウルフ1、攻撃を開始する・・・!』
神崎の短い宣言の直後突風のような音が6連続で聞こえ、刹那巨大な爆炎が大地を薙ぎ払った。神崎は島岡が指示したネウロイが集中していた地点を爆心地とする地点に3発、そこから広がるように残り3発を撃ちこんだのだ。
いきなりの上空からの攻撃に陸戦ネウロイ達は足並みを乱している。乾坤一擲の突撃をするならここしかない。
態勢を低くし魔導エンジンの出力を上げる。今にも飛び出さんとばかりにⅣ号戦闘歩行脚が唸り声をあげた。
「突撃ッ!!!」
言葉を置き去りにかのように。
アウロラは雪煙を巻き上げて疾駆し、盛り上がった地形を利用してコッラー川を跳び越えた。彼女に続いて次々と陸戦
彼女達の衝突力が損なわれることなく陸戦ネウロイに接触した時点で攻撃は成功したのも同然だった。
「喰らい尽くせ!!」
「「「「了解!!!」」」」
カノン砲の砲声に負けない声量でのアウロラの叫びに、陸戦
まずコッラー川を飛び越えた後の着地の時点で付近のネウロイを蹴り砕き、着地した勢いそのままスコップで叩き砕いた。それだけに止まらず、カノン砲を全弾撃ち放って手当たり次第に破壊しつくすと地面に捨て置き、スコップをクルリと回した。
「さて・・・私はお前を相手にするか」
周辺のネウロイを瞬く間に破壊し尽くしたアウロラの視線の先には一際大きなネウロイが前進してきていた。恐らく、ここの指揮官の役割を担っているのかもしれない。格好の獲物だと、一瞥した瞬間にはⅣ号戦闘歩行脚を走らせていた。
低い姿勢のまま一直線に突っ込んでいくと流石に大型ネウロイも気付いた。副砲のような小口径のいくつかの砲塔を向けてビームを放とうとしてきた。だがアウロラがシールドを展開する前に上空から炎が襲い掛かり気を逸らせていた。チラリとアウロラが視線を向ければ、急上昇していく神崎の姿が。今は心の中だけで感謝しつつアウロラは更に加速してネウロイに肉薄して行く。滑り込むように腹部にまで潜り込み回転しながら脚部を纏めてスコップで薙ぎ払ったのだ。アウロラの膂力による破壊力は凄まじく、いとも容易く脚部を破壊する。いきなり脚部を全て失えば当然ネウロイは自重を支えることができず地面に崩れ落ちてしまう。腹部に潜り込んでいたアウロラは当然潰されてしまう位置にいる。
だが、それこそがアウロラの狙いだった。
頭上に落ちてくるネウロイの腹を見てニヤリと笑みを浮かべるアウロラ。彼女はスコップを持つ手に更に力を込めると、思い切り突き上げた。落下のエネルギーと突き上げることによる運動エネルギーがぶつかり合い、それによる衝撃波が辺りに撒き散らされる。
その結果・・・、砲声以上の爆音が辺りに響き渡りネウロイは真下から真っ二つに砕け折れてしまった。
白い粒子から飛び出したアウロラは次の獲物を探すが、周辺を見てもネウロイの影はどこにもない。くまなく周辺を見回しているアウロラの元にマルユトが報告にやって来た。
「隊長、ネウロイの撃滅完了しました」
「予想以上に早かったな」
「隊長に指揮官らしき大型を相手取っていただいたおかげで奴らはより混乱したようです。航空支援のお陰もあり、スムーズに進みました」
「神崎も消耗しているはずなんだが・・・感謝しなければな」
「はい」
一息つきスコップを下げると辺りを見渡す。皆ボロボロで、中には味方に肩をかりている者もいる。歩兵部隊の男性兵士はボロボロだが
嘆息しているとインカムから神崎からの報告が入ってきた。
『ウルフ1。帰投します』
『イーグル1。同じく帰投するっす』
「ああ。2人ともよくやってくれた。レーダーが使えないから気をつけろ」
『『了解』』
大きく上空で旋回していく2つの軌跡を見送るとアウロラはマルユトに向き直った。
「お前もご苦労だった。私がいない間よくもたせてくれた」
「いえ・・・。はい、ありがとうございます」
一瞬、表情が崩れそうになるもすぐに引き締めなおすマルユト。少し見ない間により一層指揮官らしくなったようだ。よくやったと微笑みかけたアウロラだったが、そこでふとあることに気付いた。
「シーナ達は?あいつらに限ってやられた訳じゃ・・・」
「彼女達は負傷者の後送を。地上だけでなく上空の索敵が必要な以上、シーナに同行してもらいました。シェルパとリタも同様です。出来るだけ少ない人員で護衛を可能とするためにやむを得ず」
「そうか。分かった。・・・よし、私達も必要最低限の守備隊を残し、補給と再編成のために後退するぞ」
「了解しました」
アウロラの指示の元テキパキと撤退準備を進めていく部隊一同。このままラドガ湖陣地まで後退できればまだまだ戦うことができるはずだ。
はずだった。
『あ~。こちらラドガ湖。誰に通じているか分からないけど、現在襲撃を受けているね。状況はよくないかな~。そうだね。至急、至急救援を頼むよ』