ストライクウィッチーズ 一匹の狼   作:長靴伯爵

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ブレイブも終わり今はラジオを楽しみに頑張ってます

はやくBDが出ないかな~

そんな訳で六十一話です
短めですが

感想、アドバイス、ミスの指摘などよろしくお願いします


第六十一話

 

 

 

 

 近寄ってきたウェイターに自身のコーヒーを頼み、才谷は足を組んで深々とイスに座った。

 

「私の部屋に逃げ込んできた教え子が、まさかこんなに立派になるなんてね」

 

「いえ・・・まだまだです」

 

「アフリカ、スオムス。どちらの活躍も聞いています。『アフリカの太陽』という2つ名もね」

 

 才谷から面と向かって言われ、神崎は恥ずかしい部分を知られていることもあり、羞恥の余りにコーヒーを飲むことに逃げた。

 才谷は神崎の軍学校時代の恩師。沢山の重圧で潰れかけた自分を知っている。沢山の魔女(ウィッチ)から蔑ろにされどうしようもなくなった時、聞きなれなかった音楽に誘われて辿り着いた先が当時教官をしていた才谷の部屋だった。

 

 ルーツィンデ・ヴァン・ベートーベン、交響曲第9番『歓喜の歌』

 

 彼女が部屋の蓄音機で流していたこの曲が、神崎の人生を変え始めた。

 

 思い出話に花を咲かせるのも悪くないだろう。だが、それは仕事じゃない時だ。

 神崎は未だ残る羞恥をコーヒーと一緒に飲み下し、真剣な表情で才谷に向き直った。

 

「才谷中佐、あなたがここに来たということは・・・」

 

「今は『(シュランゲ)』実働部隊の司令官を任されています」

 

 つまり神崎の直属の上司である鷹守の上司ということになる。神崎は背筋を伸ばし、鷹守から託された報告書を取り出した。

 

「鷹守大尉からの報告書です。どうぞ」

 

「ありがとう」

 

 受け取った報告書を早速読み始める才谷。報告書から目線は離さなかったが、読みながらも神崎に問いかけた。

 

「神崎君も共生派と戦ったようね」

 

「はい。アフリカで1回、スオムスで3回」

 

「誘拐の件は・・・」

 

「仲間達のお陰で・・・なんとか」

 

「そう・・・。大変だったようね」

 

 才谷は少しだけ報告書から視線を外し、神崎に優しげな視線を向ける。神崎の胸に色々な言葉が湧き上がったが、どれも口には出さずに黙って小さく頭を下げた。

 大した時間もかからずに才谷は報告書を読み終わり、テーブルのコーヒーカップを取りあげて口をつけた。

 

「なるほど・・・。共生派の狙いは紅い結晶を使ったネウロイの誘導か・・・」

 

 持っているコーヒーは既に冷め切っているはずだが、それを全く気にしないほど才谷は自身の思考に集中していた。報告書の内容は神崎には分からないが、おそらく鷹守が知りえた事柄が記載されているのだろう。この報告所の内容がこれからの「(シュランゲ)」の行動指針を決めることになるのかもしれない。

 

 神崎が才谷に代わりのコーヒーを頼もうかと考えてウェイターを呼ぼうとした時、カールスラント軍人が近寄ってくるのが目に入った。何の気無しに視線をあげて見ると、ブロンドの前髪から覗く眼鏡を通した無機質な瞳と目が合った。神崎の背中に悪寒に似た震えが走ったが、その男は自分の異質さを覆い隠すようなにこやか笑みを浮かべ、静な足取りで才谷に近寄っていく。

 

「司令官」

 

「ファインハルスか・・・。どうした?」

 

「ソルタヴァラからの通信が断絶しました」

 

「何?」

 

 ファインハルスと呼ばれた男は、才谷と彼女の正面に座る神崎にしか聞こえない小さな声量で報告した。才谷はいままで神崎に向けていた優しげな表情から一瞬で指揮官の表情となって立ち上がる。ファインハルスは従者のように一歩下がり、神崎も才谷に倣って立ち上がった。

 テーブルに紙幣を置いて喫茶店から出て基地に向かう中で、ファインファルスは話を進めていく。

 

「管制、通常無線、共に沈黙。管制が消失し、航空部隊は混乱しています」

 

「ネウロイの動きは?」

 

「小規模な襲撃は確認していますが、現場で対処したようです。しかし・・・」

 

 ファインハルスはチラリと神崎を見て、そのまま言葉を続けた。

 

「ラドガ湖の鷹守大尉から経由されてコッラー川の陣地が空襲を受けたことが確認されました」

 

「ッ!?」

 

 神崎は思わず息を呑んでしまうが、才谷もファインハルスも全く反応せず、歩を進めていく。

 

「コッラー川の部隊から全力魔女支援要請(ブロークンアロー)が出ています。しかし、ベルツィレ、ヴィーブリの部隊は共に他方面に出撃しているため対応できません。更に遠方の部隊は、レーダーが沈黙したことにより迂闊に動くことが出来ないと。陸戦兵力も同様です」

 

「レーダーの依存がこの結果か。鷹守の報告書に書かれていた仮説が当たりだったのかもしれん」

 

「早急に必要なのはコッラー川への増援です」

 

「それならば、当てがあるし適任がいる」

 

 そう言って才谷は司令部の前で立ち止まった。振り返って神崎を見て小さく頷くと、今度はファインハルスを見て言った。

 

「ユーティライネン大尉はどこにいる?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とっくの昔にイラつきを我慢する気は失せた。だが、腕を組みながらこれ見よがしに貧乏揺すりをしてみせても、いまだ書類を書き続ける少佐は気にも留めない。それがさらにアウロラをイラつかせた。

 そうしてようやく少佐はペンをテーブルに置いた。

 

「大尉、ご協力感謝します」

 

「ああ。もうこれで終わりだな」

 

「ええ。重要な書類は全て終わりました」

 

「もう私は帰るぞ」

 

 少佐が書類の束を整えているので、アウロラは勝手にイスから立ち上がり出口に向かう。もうこの部屋にこれ以上居たくなかったのだ。

 しかし、ドアノブに手をかけたところで、面倒くさそうな溜息を吐いた少佐が待ったをかけた。

 

「いいえ。それは駄目です」

 

「なんだと?」

 

 ビキリッとアウロラの額に青筋が立つが、振り返って見た少佐の姿に彼女の思考は一気に冷たくなった。彼の手にはいつの間にか拳銃が握られていたからだ。体から余分な力を抜きつつアウロラは口を開く。

 

「拳銃一丁でこの私を止められるとでも?」

 

「いいえ。思いません。だが、これは必要なことだ」

 

「何のために?」

 

「我等が同志達のために」

 

 そうして拳銃の引き金は引かれる。アウロラはその銃口から目を逸らさなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここです」

 

 ファインハルスに先導され、才谷と神崎はアウロラが居るであろう部屋の前に辿り着いた。司令部の奥に位置するこの部屋は、司令部の喧騒から離れている。どうも不審な気配があり、神崎は腰の「炎羅(えんら)」に手を伸ばした時・・・。

 

 部屋から銃声が鳴り響いた。

 

 そこからは一瞬だった。

 ファインハルスはいつの間にか懐から抜いた拳銃でドア鍵部分を撃ち抜き、それに合わせて魔法力を発動させた神崎がドアを蹴破る。すぐにでも抜刀できるよう「炎羅(えんら)」の柄に手を添えて部屋に突入した神崎が見たのは・・・。

 

「神崎か。よくここが分かったな」

 

 地面に臥した将校を踏みつけて牙を剥くアウロラだった。その額からは血が一筋流れているが痛がるそぶりは一切無く、だらりと垂らしている右手には拳銃が握り潰されていた。

 

「大尉。大丈夫ですか?」

 

「ああ。拳銃程度で私を殺そうとするとは共生派の連中は舐め腐っているな」

 

「いや・・・。普通、人は拳銃で殺せます」

 

 アウロラは流れ出る血をペロリと舐めると、近寄ってきた神崎に歪みに歪んだ拳銃を渡し後ろに控える才谷とファインハルスに目を向けた。

 

「そいつらは?」

 

「自己紹介は歩きながらで。コッラー川で緊急事態が起こっている」

 

「なんだと?・・・分かった」

 

「そいつは私が処理しておきます。お急ぎを」

 

 部屋に入ったファインハルスと入れ替わるようにアウロラと神崎は部屋の外に出た。早足になった才谷の後に付いて行きながら、話を続けた。

 

「私は才谷美樹。扶桑皇国海軍中佐、『(シュランゲ)』実働部隊の司令官だ」

 

「鷹守の上司か。私は・・・」

 

「報告は受けている。貴官の協力には感謝の念が絶えない。ユーティライネン大尉」

 

「こっちの利害と一致したからこそだ。才谷中佐」

 

「そして、さらに協力してほしい」

 

「仲間の危機だ。もちろん協力させてもらう」

 

 才谷とアウロラは、どこか波長が合うのか神崎を置いておいて、現在置かれている状況とこれからどう動くのかをトントン拍子に話を進めていった。

気が付けば司令部の建物から出て、近場にある平原に到着した。雪化粧した真っ白な平原にトラックが一台停まっている。ここに来て才谷とアウロラの話は詰めに向かっていた。

 

「ならもうここにあるのか?」

 

「装備はこちらのを使ってもらう。これはうちの任務にも関わってくることだ。気兼ねなく使い潰してくれ」

 

「それはありがたい。だが・・・」

 

 トラックの前まで来て立ち止まった3人。トラックの中から出てきた、やはり識別章を外した兵士達の敬礼を受けたアウロラはニヤリと笑って才谷を見た。

 

「だが・・・中々無茶なことを考えるな」

 

「少しぐらいおかしくないとこんな仕事はできないさ」

 

「確かにな」

 

 才谷もニヤリと笑い返す。それとほぼ同時にトラックの幌が解放され、荷台の中身が明らかになった。

 扶桑皇国製ストライカーユニット「零式艦上戦闘脚」

 カールスラント帝国製陸戦ストライカーユニット「Ⅳ号戦闘歩行脚」

 

 バンッと荷台を勢いよく叩いた才谷は力強く言い放った。

 

「神崎君、成長した姿を見せて頂戴」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 新品の零式艦上戦闘脚はすでに調整が済まされていた。魔法力を注入し、魔導エンジンに火を入れて暖めればすぐにでも飛行が可能だった。鷹守から既に神崎のセッティング情報を得ていたらしい。見事な手際だった。

 そしてアウロラが装着したⅣ号戦闘歩行脚もセッティング済みだった。また彼女が好みそうな武器も準備されており、大口径のキャノン砲、集束手榴弾、スコップ等々完全武装を整えていた。また何故か背中の中心に取り付け部を増設させた落下傘も装着していた。

 

「さて、私の準備は済んだぞ」

 

 アウロラは闘争心を無理矢理押さえ込むように笑っている。神崎は小さく頷いて自身の装備を確認する。

 扶桑刀「炎羅(えんら)」、拳銃C96。

 武器はただそれだけだ。そして胸の中心に取り付け部を付けたハーネスを装着していた。

 

「こっちも大丈夫です」

 

「よし。接続(・・)しろ」

 

「・・・了解」

 

 神崎はふぅ・・・と深呼吸すると零式の出力をギリギリまで絞り、ゆっくりとアウロラの背後に近づいた。そして胸の中心にある取り付け部をアウロラの落下傘の取り付け部に接続し、さらにサポートに入っていた兵士達がストライカーユニット同士も固定していく。

 緊急の状況で緊張感があるはずなのに、今やっていることはとても馬鹿らしく感じてしまい神崎はなんとも言えない気分になってしまう。

 そんな神崎の思いに気付いているか分からないが、才谷は神崎に小さく笑いかけ、はっきりとした声で宣言した。

 

「強襲降下作戦だ!これが『(シュランゲ)』初の本格的な作戦となる!一層奮励努力せよ!」

 





なんだかんだで神崎の対人戦闘経験がとんでもないことになっているなと書いていて思った
かわいそうに()


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