ストライクウィッチーズ 一匹の狼   作:長靴伯爵

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あけましておめでとうございます
職場が変わってものすごく忙しくなり更新に時間がかかってしまいました

がんばって続けていくつもりなので、気長に待っていてください
あと、ブレイブウィッチーズ最終話よかったですね!

そんな訳で六十話です

感想、アドバイス、ミスの指摘等々よろしくお願いします


第六十話

 

 

 

 

 ベルツィレに滞在する24戦隊の出撃回数は、他の部隊と同様、第二次ネウロイ侵攻が始まったのと同時に激増していた。

 今日も今日とて緊急出撃の合図と共に、航空魔女(ウィッチ)達が駐機場へと駆け出していく。

 

「今日も出撃かヨ~。いい加減疲れたゾ」

 

「疲れているのはイッルだけじゃないよ」

 

「いいよナ~、ニパは。超回復で体力も回復するンだロ?」

 

「いや、しないからね!?怪我が治るだけだから!!」

 

「2人とも無駄話はよせ」

 

 そんな雑談を繰り広げてストライカーユニットの元に駆けていくのはアウロラの妹であるエイラと彼女の同僚であるニパことニッカ、それにラプラことラウラ。エイラは、面倒くさそうな言葉とは裏腹に機敏な動作で出撃準備を整えていく。それはニパも同様で、からかわれながら、ラプラはそんな2人を諌めながら着々と出撃準備を終えていた。

 2人に続いて他の航空魔女(ウィッチ)達も準備を整えていく。

 

『ラプラ、聞こえているな?』

 

 インカムを通じて聞こえる声は、24戦隊の指揮官であるエイニのものである。彼女が基地で全体の指揮を、ラウラが戦闘隊長として陣頭指揮を執るのが普段のスタイルとなっていた。

 

「はい、隊長」

 

『ソルタヴァラからの情報では、ネウロイは30。北北東、カレリラ地峡の方角から侵攻中だ』

 

「了解、すぐに急行します」

 

 エイニとの通信が終わると24戦隊は一斉に離陸し、侵攻してくるネウロイへ急行した。その道中、暇を持て余したのかエイラはクルクルとロール回転してぼやいた。

 

「倒しても倒しても全然減らないじゃないかヨ~」

 

「これでもソルタヴァラにレーダーが出来て楽になったんだ。文句言うものじゃない」

 

 エイラのぼやきに答えたのはインカムで逐次通信しているラプラだった。戦闘の指揮を執っている彼女だからこそ、レーダーの恩恵をよく分かっているのかもしれない。そういえば・・・とラプラの言葉を聞いたニパが呟いた。

 

「確かに最近は、出撃した場所にネウロイがいないってことはないよね」

 

「以前の索敵では取り逃しも多かったからな」

 

 レーダーが導入される以前の索敵警戒は主に人の目に依るもので、連絡に時間がかかったり、悪天候によって視界が塞がれたりなど、常時監視は難しい部分があった。レーダーの有効性を知ってしまえば、以前の索敵警戒では性能が不十分だと思ってしまうのは無理の無いことだろう。

 

「ここ数日は、私達の部隊はラドガ湖方面も担当することになっている。出来る限り速やかに撃退するぞ」

 

 作戦の詳細を詰めることが出来たのか、ラプラはインカムから手を離して自分の背後に続く部下達の様子を伺った。多少の経験の差はあれど、極度に緊張している者は居らず、疲れきっている者もいない。現状のコンディションとしてはまずまずといったところだろう。

 

「もうすぐ、ネウロイと接敵する範囲に入る。各員、警戒を怠るな」

 

「「「了解!」」」

 

 ラプラは皆の威勢のいい返事を聞くと、自分の銃をしっかりと構えなおした。ネウロイを発見したら、いつでも攻撃できるように。

 

 しかし・・・。

 

「・・・ネウロイなんていないゾ?」

 

「全然見当たらないね・・・」

 

「確かにこれはおかしいな・・・」

 

 ソルタヴァラから指示された地点に到着したはいいが、そこにはネウロイの影も形も無かった。皆が不審に思って辺りをキョロキョロと見渡す中、ラプラはインカムでエイニと通信を試みた。

 

「隊長。指定された場所に到着しましたが、ネウロイを確認できません」

 

『確かか?』

 

「ソルタヴァラへの確認をお願いします」

 

『すぐ確認する。・・・何?』

 

「どうしました?」

 

 基地にいるエイニがソルタヴァラとの連絡を試みるが、その途中に通信越しで彼女の声が曇るのが聞こえた。落ち着いた声で問いかけるラプラだったが、その胸中には嫌な予感が湧き出ていた。

 そして、その予感は的中してしまう。

 

『ソルタヴァラとの通信が途絶した。向こうに何かあったのかもしれん』

 

「何ですって・・・!?」

 

『ラプラ。ここからはレーダーからの情報はない。周辺警戒を厳にして、すぐに撤退しろ』

 

「了解」

 

 エイニとの通信を終えたラプラは、すぐさま部隊全員を率いて基地への航路に入った。

 しかし、その道中でネウロイの奇襲を受けて戦闘状態に突入してしまう。ネウロイの戦力は当初知らされていたものよりも多く、24戦隊はネウロイを撃退するも多くの時間を費やすことになった。

 

 

 

 その空白になった時間で、1つの戦いに決着がつくことになるとは誰にも予想できなかっただろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ソルタヴァラ基地が通信を途絶する数時間前・・・。

 基地のレーダー施設はフル稼働で動き、警戒監視と迎撃の任務のサポートに全力を注いでいた。

 レーダーは昼夜を問わずに侵攻してくる航空型ネウロイの姿を捉える。それを管制官が各方面を担当する飛行部隊に連絡し、場合によっては直接管制することで、スオムス空軍の防空力を高めていた。

 

「レーダーに反応!カレリア04からネウロイ侵入!」

 

「現在、ヴィープリの部隊はモスクワ方面からのネウロイの迎撃に出ています」

 

「24戦隊に出撃要請を出せ」

 

「お待ち下さい。今、24戦隊を動かせば・・・」

 

 指揮官からの指示を受けた管制官が24戦隊に通信を入れる直前、指揮官の隣にいた副官が待ったをかけた。

 ラドガ湖の航空部隊が神崎不在の為に戦力が大幅に落ちているという通達はすでに受けている。ヴィープリの部隊が出払っている今、24戦隊がカレリアへ出撃してしまえばラドガ湖方面が無防備になってしまう。カレリラ地方の部隊に要請するのが適切に思えた。

 

「構わん。24戦隊に出撃要請を」

 

「了解」

 

 しかし、指揮官は命令を変更しなかった。二度も言われれば従う他無く、管制官は命令通り24戦隊に通信を入れた。

 その後、管制官が凝視していたレーダーが事態の急変を伝えた。

 

 

「カレリア04のネウロイが進路を変えました!」

 

「やつらの進路はどうなった?」

 

「大きく東に転進。オラーシャへと向かっていきます」

 

「分かった」

 

 管制官の報告を受けたが、指揮官は何も動こうとはしない。その事に疑問に思った副官が口を開いた。

 

「24戦隊に伝えないのですか?」

 

「ああ。そうだ」

 

「このままでは24戦隊が会敵できない可能性が・・・」

 

「そうだ。それでいい」

 

「それならば、早く24戦隊を引き戻さなければラドガ湖方面の防衛が・・・!」

 

 ここまで会話して副官は焦り始めた。この指揮官が冗談でこのようなことを言っていないのは明らかである。

 管制官達は息を飲んで2人の会話を見守る中、指揮官はゆっくりと立ち上がって言った。

 

「勿論、手薄にある。それが同志達の望みだ」

 

「何を言っているんですか!?まさか・・・あなたは・・・!?」

 

 驚愕と怒りの滲んだ声を上げる副官だったが、その声はくぐもった銃声が強制的に消してしまった。ドサリッと崩れ落ちた副官の返り血を浴びた指揮官は、硝煙の香りを漂わすサプレッサー付きの拳銃を下ろし、呆然とした表情で視線を向ける管制官達に向けて一言言った。

 

「やれ」

 

 その瞬間、管制官達の一部が立ち上がり、隠し持っていたサプレッサー付き拳銃で何も知らない管制官達を即座に撃ち殺してしまった。悲鳴1つ上げる間も無く床に伏した元同僚達を、表情を一切変えずに一箇所へ集め、併せてレーダー施設を閉鎖していく管制官達。

 その作業の合間に、指揮官はゆっくりと通信機のスイッチを入れた。

 

「こちらの準備は完了しました。ええ・・・。はい。では、そのように。御武運を・・・。カリラ大尉」

 

 その言葉を最後に、指揮官は通信を終えてマイクを置いた。そして、躊躇することなく通信機を拳銃で撃ち抜くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スオムス軍の総司令部が置かれている街、ミッケリ。

 各方面の戦線から情報が集められ、その情報から戦争の舵を取る、いわばスオムス軍の頭脳とも取れる重要な拠点である。

 総司令部の建物は沢山の軍人で溢れ、忙しなく駆け回り、戦場と比べても見劣りしない喧騒に包まれていた。

 

 しかし、ミッケリに到着して神崎と別れたアウロラは、そんな喧騒とは隔離された部屋にいた。

 淡い照明に照らされる中、簡素なイスに座らされているアウロラは明らかにイラついていた。足と腕をそれぞれ組み踏ん反り返ったように座る彼女は、目を閉じているがその目元は時折ピクピクと動いている。

 だが、そんなアウロラの雰囲気を感じ取れる位置にいるにも関わらず、彼女の正面に位置したテーブルにつく少佐は動じることなく手元の書類に何かを書き込んでいた。十分すぎる時間をかけて書類の書き込みを終えると、勿体つけた動作でペンを置いて尋ねた。

 

「それでは、確認のためにもう一度コッラー川の戦況を説明していただけますか?」

 

「・・・いい加減にしろよ。もうこれで何度目だ?」

 

 開いたアウロラの目は明らかに怒りを湛えていた。それもそうだろう。すでに数時間、何の意味があるかは分からないが、コッラー川の戦闘の詳細を述べさせられ、他愛の無い質問を出され、確認のためといって同じ説明を何度もさせられる。アウロラの苛立ちは沸々と湧き上がっていた。

 しかし・・・。

 

「必要なら何度でも」

 

「一体何時になったら終わるんだ?私には無駄なことをしているとしか思えない」

 

「これは貴女が出席する次の会議に必要なことです。そして貴女が全面的に協力していただくことが一番早く終わることです」

 

 アウロラの怒りに中てられることなく、少佐は淡々と答えた。その事務的な対応に、アウロラは逆に二の句を告げなくなってしまった。怒りを押し込めるように沈黙すると少佐はニコリともせず再び告げた。

 

「確認のためにもう一度コッラー川の戦況を説明していただけますか?」

 

 

 

 

 

 

 

 アウロラがミッケリの総司令部の一室に缶詰になっている中・・・。

 神崎は総司令部近郊にある街の目立たない小さな喫茶店に居た。総司令部にアウロラを送り届けた後、前もって受けていた鷹守からの指示でこの喫茶店へと向かったのだ。誰が来るかは分からない。「(シュランゲ)」の関係者だけというのは確かなのだが・・・。

 待ち人がくるまで、隅のテーブルに腰を落ち着けた神崎は頼んだコーヒーにゆっくりと口をつけ、レコードから流れ出るBGMに耳を傾ける。このBGMは神崎のお気に入りの曲だった。

 

「ルーツィンデ・ヴァン・ベートーベン・・・」

 

「交響曲第9番、『歓喜の歌』・・・か」

 

 神崎の何気無い呟きに誰かが静かな口調で答えた。声から女性であるのか分かる。神崎が誰かを確認する間も無く、正面のイスにある女性が腰掛けた。神崎が着る黒の第1種軍装とは正反対の真っ白な中佐の階級章付きの第2種軍装と右脚側にスリットが入ったスカートを纏っていた。白い髪で短髪の髪型は神崎が最後に見た時と変わりなく、右目の眼帯も相変わらず無骨な物だった。

 なぜ彼女がここにいるのか?

 ここにいるのなら自ずと分かるはずだが、神崎は驚きでそれどころではなく、コーヒーカップをテーブルに置く途中で固まってしまった。そんな神崎を知ってか知らずか女性は眼帯に隠されていない左目を楽しげ細めて言った。

 

「久しぶりね、神崎君」

 

「・・・お久しぶりです。先生」

 

「もう生徒じゃないでしょ?」

 

「お久しぶりです。才谷中佐」

 

 「(シュランゲ)」実働部隊司令官、才谷美樹は満足そうに微笑んだ。

 




ブレイブウィッチーズが終わってしまい一気に寂しくなりましたが、13話が楽しみですね!
後最終話のネタバレですが















アウロラねーちゃんキタぜ!FOOOOOOOOOOO!!!

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