ストライクウィッチーズ 一匹の狼   作:長靴伯爵

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ブレイブウィッチーズ、光ちゃんが少しずつ成長していくのが本当に面白いですね

そんな訳で第五十六話です

感想、アドバイス、ミスの指摘などよろしくお願いします


第五十六話

 

 

 

黒い影は進む。

 

その手に死を振り撒いて。

 

黒い影達は進んでいく。

 

その足で障害を踏み潰して。

 

黒い影達は突き進んでいく。

 

その目に敵の死に様を焼き付けて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 焼け焦げた建物、破壊尽くされた残骸と数々の死体が散乱するこの光景はまさしく戦場の跡だ。ネウロイとの戦闘が激化する中で、もはやありふれた光景だろう。ただ唯一違う点をあげれば・・・この光景が人間同士で引き起こされた点だけだ。

未だ散発的に銃声が聞こえる中、辺りで一番の高さを誇る建物の上で1人の兵士が眼下を見下ろしていた。

 部隊章無しのカールスラント帝国陸軍軍装を纏い、ヘルメットの影で眼鏡を光らせる兵士。『(シュランゲ)』実働部隊隊長、モンティナ・ファインハルス中尉である。

 

「さてさてさて。首尾はどうだ?どうなった?」

 

 どこか楽しげな口調で独り言にも取れる言葉に、背後に控えた通信兵が僅かに進み出た。

 

「敵の8割を撃破。敵残党は徹底抗戦の構えを見せており、現在掃討中」

 

「こちらの被害は?」

 

「死者無し。重傷者無し。軽傷者4名。いずれも戦闘行動に支障なし」

 

「ならば、このまま戦闘は続行。敵を駆逐だ」

 

 通信兵がすぐさま無線で各小隊、分隊に命令を伝達する。それを確認することなく、モンティナは右手で眼鏡の位置を直し、再び眼下に広がる光景を見下ろした。

 先程までの戦闘で、彼は先頭に立ち悉く敵を撃ち倒した。向かってくる敵も、逃げ惑う敵も、諦めた敵も全て。あまりの苛烈な攻撃に、何故そこまでと疑問を持つ者もいるかもしれない。

 

「敵は共生派。人類の敵。ならばどこに容赦する必要がある?」

 

 人類の敵であるネウロイに味方をするならば、いかに人間であろうとも共生派も人類の敵だ。人類の為に戦う・・・何も変わらない。この人間同士の戦闘は、魔女(ウィッチ)とネウロイの戦闘となんら変わらないのだ。だからこそ・・・モンティナは口元に浮かぶ笑みを抑えることが出来なかった。

 

「あぁ。楽しいな。人と人との戦争だ。そう、これこそが・・・」

 

 本来の軍人の存在意義だろう?

 

 

 

 

 

「中隊長」

 

 モンティナを思考の渦から呼び起こしたのは、先程の通信兵の呼び声だった。笑みを理性で無理矢理押さえつけ、通信兵からの報告を受ける。

 

「最重要目標を発見しました。しかし殆どが運び出され、残された物も爆破されています」

 

「遅かった。もしくは・・・徹底抗戦は時間稼ぎだったか。狂った頭で、いや狂った頭だからこそか」

 

 さてさてさて・・・と、モンティナは楽しみを抑えきれない子供のような足取りで建物を降りていった。通信兵も置き去りにして、それこそ一目散と言っていいほど足早に報告があった場所へと足を進めていく。そうして辿り着いたのは半ば瓦礫に埋もれた地下壕だった。

 周辺警備に立つ部下達の敬礼を受けつつ、地下壕に踏み入れると最重要目標と呼ばれた目的の物はすぐに見つかった。

 燃え尽きた木箱の残骸。焼け焦げた木材に混じり、黒く鈍く光る金属が覗いていた。

 

「これが共生派の武器・・・」

 

 焼け焦げた木材を除けると、その金属がなんらかの照明装置の一部であることが分かる。これを守るが為にこの戦場で数多の共生派の人間が戦い、死んでいったのだ。一切証拠を残さないという覚悟と共に悲壮感さえも感じられる。

 モンティナは地面に転がる炭化した木片を踏み潰し、そっと呟いた。そして、部下を置いてきて本当によかったと心中で安堵した。我慢しきれずに漏れ出たこの笑い声を聞かせるのは、さすがに不味いだろう。

 

「さてさてさて、これはまだまだ戦争が続きそうだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その知らせが届いた時、アウロラと鷹守は会議室に居た。

 

 部隊運用でのズレがないように隊長同士が話し合う細かな調整の必要があるのだ。スオムス派遣分遣隊が来た当初はそこまでする必要はなかったが、今はラドガ湖方面を守るスオムス陸軍にとっては必要不可欠な戦力となってしまっている。連携に少しの遅れも許されない。

 そんな場で、2人はそれぞれ持ち込んだ嗜好品をテーブルに広げて会話していた。互いの嗜好が合わないのを承知しており、鷹守は紅茶をアウロラは酒と泥のように濃いコーヒーを飲んでいた。

 

「君も紅茶を飲めばいいのにねぇ・・・」

 

「紅茶なんぞで眠気は取れるか」

 

「知ってるかな?コーヒーよりも紅茶の方が眠気が取れるんだよ」

 

「この泥みたいに濃くて苦いのがいい」

 

 これが本当に重要な調整なのかと疑いたくなるぐらい気の抜けた会話だが、実際の所調整らしい調整は必要ない。この2人、日頃の行いとは裏腹に職務に関しては非常に優秀なのだ。この時間は隊長同士の息抜きになっていると言っても過言ではない。

 

「そういえば、この前の休暇は随分と楽しんだみたいだねぇ~」

 

「ああ。いい休暇だった」

 

「勝手に神崎君を連れて行くのはどうかと思うんだけどねぇ」

 

「前から決めていたことだからな」

 

「だとしてもねぇ。休暇申請書をでっち上げたからよかったけど、一歩間違えれば脱走扱いだったんだけど?」

 

「そう固いこと言うな」

 

「僕がこんなこと言うことになるなんてなぁ」

 

 ブリタニアでミーナ少佐にどやされていたことが懐かしいなと感慨深げに呟いて紅茶を一口飲む鷹守。ひょんなことから宮藤博士が開発したストライカーユニットの改修を担当することになり、色々なことがあって『(シュランゲ)』に所属し、なんだかんだで神崎、島岡と共にスオムスに来ることになった。

 

「中々に忙しい人生だねぇ・・・」

 

「世界が忙しいんだ。人生も忙しくなるさ」

 

「確かにねぇ」

 

 会話が途切れ、鷹守はクッキーを摘む。アウロラもサルミアッキを数粒口に放り込む。2人が黙ったまま時間がしばらく続くが、ふと鷹守が思いだしたかのように口を開いた。

 

「そういえば。大尉って神崎君のこと好きなの?」

 

 この言葉を聞いた瞬間、アウロラは飲んでいたコーヒーを吹き出してしまった。ベルティレでの一件は誰にも洩らしていない。もしや、神崎がもらしたのか?とギロリと鷹守を睨みつけるが・・・。

 

「アッハッハ!大尉に睨まれると怖いねぇ!あ、神崎君は何も言ってないよ?」

 

「なら、なぜだ?」

 

「そりゃあ、沢山人が居る駐機場で言ったらね~。僕の耳にも入ってきちゃうよ」

 

(こいつ、『(シュランゲ)』の諜報網を使って・・・)

 

 ニヤニヤと笑う鷹守に軽く殺意を覚えるも、アウロラは苦りきったコーヒーと一緒にそれを飲み下した。調子に乗っていたあの時の自分を殴り飛ばしたくはなり、後悔の溜息を吐く。

 

「で、どうなのかな?」

 

「嘘に決まっているだろう」

 

「本当に?」

 

 さすがにイラついてきたアウロラが本気の殺気を覗かせるが、鷹守は全く動じた様子も無くニヤニヤとした笑いを止めない。神崎がイラつくのも分かるとアウロラは歯噛みし、悔しげに言った。

 

「確かにあいつはいい男だと思うが・・・」

 

「ほうほうほう」

 

「だが、私には合わないな」

 

「君に合う男となると大概は駄目だろうしねぇ」

 

「それでも・・・」

 

「ん?」

 

 鷹守が楽しそうに相槌を打ってくる中、アウロラはコーヒーを一息で飲み干し、鼻で笑いながら言った。

 

「あいつが嫁を取り損ねていたら、貰ってやるさ」

 

「じゃあ、大尉は結婚出来そうにないねぇ~」

 

「そう言うお前は・・・」

 

 やられっぱなしは性に合わないとばかりにアウロラは反撃しようと息巻くが・・・。

 

「た、隊長!緊急です!!」

 

「ッ!!どうした?」

 

 血相を変えた伝令が会議室に飛び込んできて、アウロラの意識が切り替わった。鷹守の表情も笑みが消えて、目つきが鋭くなる。

 その後、伝令から伝えられた情報に滅多に動じない2人の顔が驚愕に染まることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その知らせが届いた時、島岡は食堂に居た。

 

 哨戒任務を終えた直後で、コーヒーでも飲んで休憩しつつ、この前届いたアフリカからの便りを読むことにしたのだ。

 アフリカでは島岡達が居た頃と変わりなくネウロイとの戦闘が続いているらしい。ただ、トブルクでの暴動のような住民による妨害活動は激減したようだ。

統合戦闘飛行隊『アフリカ』でも加東がマルセイユを御しつつ元気にやっているらしい。ライーサや真美も変わりなく頑張っているそうだ。

しかも『アフリカ』に新たな陸戦魔女(ウィッチ)が加わったと書いてあった。アフリカに来て早々、ロンメル将軍にお姫様抱っこされるという衝撃的な登場だったらしい。彼女の趣味はお洒落らしく、沢山の魔女(ウィッチ)達の髪や服を綺麗に飾ったりしているようだった。手紙に同封されていた写真にも黒のドレス姿の加東や、綺麗に着飾ったライーサの写真もあり、島岡は躊躇することなくライーサの写真を自分のポケットに突っ込んでいた。

 

「あ!シマオカさん!」

 

「休憩ですか?」

 

「誰からの手紙だ?」

 

「お?三人とも休憩か?」

 

 コーヒー片手に読みふけっていた島岡の元に、休憩に入ったシェルパ、リタ、マルユトがやって来た。それぞれコーヒーとサンドイッチやパイなど軽い軽食を持っているあたり、長距離偵察か何かの任務に就いていたようだ。

 シェルパが島岡の隣に、リタとマルユトが正面に座る。

 

「いやぁあ!やっぱり任務開けのコーヒーよね!」

 

「それに合わせてサンドイッチだよ」

 

「いや、カレリアパイだな」

 

 まずは腹ごしらえとばかりにコーヒーと軽食を口にする3人の魔女(ウィッチ)達。美味しそうに食べてるなぁ・・・と感心しながら島岡もコーヒーを飲んでいると、3人の視線が島岡の手元にある手紙と写真に集中していた。

 

「で、誰からの手紙なの?」

 

「ああ。俺らが前にいた部隊の隊長からだよ。アフリカのケイ隊長」

 

「へ~。写真もあるんですね。見てもいいですか?」

 

「ん~。いいんじゃねぇかな。あんまり他の人には言わないでくれよ」

 

 そう前置きして写真をテーブルの上に滑らせると3人はいそいそと額を寄せて覗き込んでくる。気象がスオムスと正反対と言っていいアフリカの写真だ。基地の風景を撮った写真でも面白そうに眺めている。そんな彼女達が一番興味を持った写真が・・・。

 

「えぇえ!?こ、これってマルセイユ中尉!?」

 

「あの『アフリカの星』ですか!?」

 

「ほぉ・・・これは・・・」

 

 3人が注目している写真はストライカーユニットを駆るマルセイユが背面飛行を捕らえた写真だ。本当にマルセイユは世界中で人気らしい。その事を再確認した島岡は妙に納得した様子でコーヒーをテーブルに置いた。

 

「じゃあ、シマオカさんとカンザキ少尉が前にいた部隊ってマルセイユ中尉と同じ部隊だったの!?」

 

「おう。確かに凄い航空魔女(ウィッチ)だったぜ」

 

 カラリと乾き砂埃が舞い上がる砂漠の空を思い出し、島岡は懐かしげに言った。この言葉に好奇心が刺激されたのか3人は次から次へと質問を飛ばし、島岡も思い出しながら楽しげに答えていく。

 戦いとは無関係で、年相応な楽しげな時間が過ぎていく。

 そんな時に聞こえた慌しい足音がその時間を壊すきっかけになってしまった。

 

 バタンッと大きな音を立て食堂の扉が開け放たれる。島岡達を含め食堂にいた人達の視線が集中する中、扉を開け放った肩で息をしている兵士が告げた言葉。それを聞いた島岡は表情を驚愕の色に染めた後、テーブルに拳を叩きつけ格納庫へ一目散に駆け出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その知らせが届いた時、神崎は滑走路近くの雪原にいた。

 

「久しぶりにあの子達と遊んでくださいよ」

 

「休憩中なんだが・・・」

 

「連絡も無しに隊長に付いて行ったんですから、付き合ってください」

 

「それは俺のせいでは・・・。・・・わかった」

 

 いつもの出撃任務ではなく書類仕事をしていた神崎はペンを持ち続けた手と細かな文字を見続けた目を休ませていた。ストーブの近くに座りリラックスしていた所にやってきたのが雪に塗れたシーナだった。

 半ば強引に神崎を連れてきた先には雪原を走り回る6匹のハスキー犬の姿が。

 無表情の中に少しの期待の色を滲ませたシーナの視線から逃れることができず、神崎は諦めてハスキー達が跳ね回る雪原に足を踏み入れた。

 ハスキー達にじゃれつかれて雪上を転げ周ったり、木の棒を投げて取りに行かせて遊ばせたりと一通り動き回った後、倒木に座って休憩することになった。シーナが魔法瓶で持参したコーヒーが入ったアルミのカップを片手にいまだ元気一杯のハスキー達を眺めていると・・・。

 

「隊長との旅行はどうでしたか?」

 

 荒っぽい仕草で神崎の隣に座るシーナ。手に持ったコーヒーが零れそうになるのもお構いなし。あまり機嫌はよくないようだ。当然と言えば当然だが。

 

「まぁ楽しかったが・・・。・・・怒っているか?」

 

「いいえ。皆が心配していたのに退院後何の連絡も無しに1週間隊長と遊び回っていたことなんて全く気にしていません」

 

「あぁ・・・その・・・すまん」

 

「だから気にしていないと言っているでしょう」

 

(じゃあ、脇腹にぶつけてくるその肘はなんだ・・・)

 

 コーヒーを飲みながら肘をぶつけてくるのは怒りの表れだろう。だが、自分も巻き込まれたようなもので、少しぐらい言い訳をしたくなるものだ。

 

「こっちはこっちで大変だったんだが?」

 

「へぇ?」

 

「飲んだくれた大尉の面倒を見たり・・・」

 

「どうせ自分も飲んでいたんじゃないですか?」

 

「・・・まぁ、そうなってしまったが」

 

「なら十分に楽しんでいますよね?」

 

「・・・そうなるの・・・か」

 

「へぇ~」

 

 突き上げてくるようなシーナの責める閉めるジト目が辛い。もうここまできたら謝り倒した方がシーナの機嫌も良くなるかもしれない。

 

「すまなかった・・・」

 

「別に・・・。ただ・・・」

 

 シーナは一息でコーヒーを飲み干すと倒れこむように神崎に寄りかかり、神崎の肩にゴツンと頭突きをかました。

 

「いえ、何でもありません。ただ・・・本当に心配したんですから・・・」

 

「すまなかった・・・。それと・・・ありがとう」

 

「・・・」

 

 シーナの様子が変なことに気付いたのかハスキー達が近寄ってきて彼女に心配そうに鼻先を向けている。シーナは神崎から離れると地面に膝を付き、ハスキー達を抱え込むようにして撫で始めた。神崎は無言でシーナの様子を眺めていたが、しばらくしてハスキー達を撫でる手を止め、そして・・・。

 

「いいですよ。許してあげます」

 

 まるでさっきまでの無表情やジト目が嘘のように、ふんわりとした笑顔を向けられて神崎は思わず息を呑んでしまった。何か言わなければと思うのだが、様々な感情が渦巻いて思うように言葉が出ない。それでもなんとか口を開こうとした時・・・。

 

 基地から鳴り響いた警報が神崎から言葉を奪い去った。

 

 今まで抱えていた様々な感情が全てリセットされ、戦闘用のそれと切り替わる。シーナも瞬時に笑みが消え去り、目が切り替わっていた。

 2人は頷きあうとハスキー達を誘導しつつと走り出した。雪を掻き分け、蹴り分け、出来る限りのスピードを持って格納庫に駆け込むと、すでにアウロラ、鷹守、島岡、そしてシェルパ、リタ、マルユトを始めとした陸戦魔女(ウィッチ)達が集まっていた。

 

「これで全員揃ったな・・・」

 

 息せき切って入ってきた2人を確認したアウロラの表情は今まで見たことがない程に固い。一見いつものようにニヤニヤしている鷹守もどこか笑顔が引きつっており、島岡は腕を組み押し黙っていた。この状況を見れば何かとんでもないことが起こったことが嫌でも分かる。神崎は無意識のうちに両手を握り締めていた。

 

 そして、その知らせは告げられた。

 

 

 

 

「オラーシャのネウロイが一斉に侵攻を開始した。敵の正確な数は分からないが、確認されただけでも第一次ネウロイ侵攻時に匹敵する。スオムス軍は全部隊が臨戦体勢に移行した。・・・相当辛い戦いになる。覚悟しておけ」

 






ロスマン先生が思ったより厳しくて・・・
でもあの最後の笑顔は卑怯だと思います(小並感)

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