ストライクウィッチーズ 一匹の狼   作:長靴伯爵

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神崎と島岡の過去

あまり言及していなかったので、今回改めて色々と考えることがありました

感想、アドバイス、ミスの指摘等々気軽によろしくお願いします




第五十三話

 

 

 

 

 

 軍用トラックの幌の隙間から入り込む日に当てられ、座席に座りウトウトしていた島岡の意識はゆっくりと覚醒した。埃っぽい荷台に居る人間は自分1人。荷台には軍用の資材が所狭しと詰め込まれ、島岡はその隙間に自分の体を滑り込ませていた。

 少ししてトラックが止まり、荷台から降りる指示が出た。続々と進む荷降ろしを島岡は自分の背嚢を担いで荷台から飛び降りた。途端に眩しい日光にジリジリと焼かれ、潮の香りが鼻腔をつつく。

 

1939年、舞鶴海軍航空基地

 

 何処かからか航空機のエンジン音が聞こえ、島岡は手でひさしを作りつつ空を見上げた。明らかに飛行機よりも小さい軌跡が青空に飛行機雲を描いていく。

 

魔女(ウィッチ)か・・・。やっぱすげぇな」

 

 あまりに強い日差しに目を細めつつ、島岡は1人呟いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 島岡は当初筑波海軍航空隊にて戦闘機のパイロットになるべく訓練を積んでいた。しかし、彼の操縦の腕前は他の訓練生よりも遥かに抜きん出ており、時折教官をも負かす程だった。

 対ネウロイ戦線において扶桑皇国陸海軍は一時期多大

な消耗を強いられた。特に消耗が顕著だったのは対ネウロイ戦において主戦力となった魔女(ウィッチ)だったが、航空機のパイロットも多大に消耗していた。というのも、魔女(ウィッチ)の絶対数は他部隊に比べ圧倒的に少なく、その数の劣勢を補うべく陸海軍の航空機が多数戦闘に参加していたのだ。

 現在、ある程度消耗から回復してきたとはいえ依然パイロットは不足。その為、島岡は2等飛行兵曹に特別昇進したうえで即戦力として実線部隊に配置され、不足分の技量はその部隊での訓練で補うことになったのだ。

 

 部隊への着任報告と挨拶が終わり今は昼食。

 島岡は先輩パイロット達相手に緊張した精神を癒すべく、味噌汁をゆっくりと啜っていた。

この舞鶴に配備されている戦闘機部隊は本土防空の最前線で戦っており、本土近くに接近するネウロイに対する先行偵察、威力偵察、航空魔女(ウィッチ)が到着するまでの牽制など様々な任務をこなしている。それを完遂するパイロット達がこれから島岡の上官になるのだ。否応なしに緊張してしまう。

 

「先輩たちスゲェ。勝てっかな~。」

 

 気の抜けた声でひとりごちる島岡が汁茶碗を置いた時、外からエンジン音が聞こえてきた。それは聞き慣れた航空機のものではなく、少し軽いもの。ストライカーユニットのエンジン音だった。窓の外に目を向ければ、基地上空を編隊飛行する航空魔女(ウィッチ)達の姿が。

 

「へぇ~。結構低空を飛ぶんだな・・・。ん?あれは・・・」

 

 ストライカーユニットの塗装が細部まで見えるほど低空を飛ぶ航空魔女(ウィッチ)達だが、編隊の最後尾を飛ぶ航空魔女(ウィッチ)のどこか不自然に見えた。どうにも乗れていないというべきか・・・。

 

「それに服装もどこか違ぇし・・・?」

 

 何がどう違うのか分からない内に航空魔女(ウィッチ)編隊は島岡の視界から消えてしまった。島岡は少しの間そのまま空を眺めていたが、予想以上に時間が経過していたことに気付き慌てて食器を片付けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「神崎少尉。先程の飛行はなんだ?」

 

 編隊飛行の訓練が終わって着陸した神崎を待っていたのは部隊長である鈴木昌子大尉だった。既に他の航空魔女(ウィッチ)達は格納庫の中へと向かっている。

 彼女は飛行の際、編隊の最後尾に位置していた神崎の飛行がどうにも不安定で、再三指示を出したにも関わらず一向に改善しなかったことの原因を聞きに来たらしい。

 神崎は鈴木を前にして無表情のまま口を開いた。

 

「・・・すみません」

 

「ユニットの整備不良か?」

 

「・・・いえ。整備兵が調整していました」

 

「体調不良か?」

 

「体調は・・・万全です」

 

「なら貴様の技量不足か?」

 

「・・・・・・はい」

 

「・・・ふぅ。その腑抜けた精神を鍛えなおせ。訓練終了後、基地の周りを走ってこい」

 

「はい」

 

 鈴木が溜息を吐いて格納庫へと向かっていく。少ししてから神崎も僅かに体の緊張を解き、格納庫へと向かった。

 中に入れば、鈴木以外の航空魔女(ウィッチ)達から向けられる嘲笑の視線。もう既になれた物で無視して自分のユニットケージの場所まで進んでいく。ストライカーユニットの駆動音が彼女達の嘲笑を掻き消してくれるのはありがたかった。

 ユニットケージに繋いでから自身のストライカーユニットを見る。外側から見れば何も変なところはないのだが・・・。

 神崎は近づいてきた整備兵の指示に従い、魔導エンジンを切ってユニットから足を抜く。ケージを伝って地面に降り立ち、皺の寄ったズボンを軽くはたいて伸ばしていると点検を始めた整備兵が何かに気付いた。

 

「あれ?これは・・・エルロンが・・・」

 

 チラリと後ろを見ると整備兵がストライカーユニットのエルロン部分を見て慌てていた。

 

(やっぱりか・・・)

 

 飛行中の不自然な機動の原因はこれだった。離陸してすぐに片側のストライカーユニットの操作がしにくくなってしまった。ただ緊急着陸を要するほど重大なものではなく、結局最後まで訓練をし通した。

 問題はなぜ損傷していたか、だ。訓練前の整備兵立ち会いの点検では、神崎は何も問題が無いと判断し、整備兵からも問題無しと報告を受けた。自分が傍にいた分、整備兵が嘘をついたとも考え辛い。

 ならば・・・その後か。

 後ろを振り返れば、格納庫から出て行く魔女(ウィッチ)達の後姿。その中に1人がこちらを振り返ってニヤリと笑った。

 

「・・・クソッ」

 

 ああ。この怒りは魔女(ウィッチ)達へなのか。軍へなのか。それとも自分へなのか。

 胸の中が渦巻く熱く暗い感情に、どうしようもないまま右手を握り締めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ゛あ゛~。先輩たち強ぇ~」

 

 薄暗くなり始めた夕方遅く。午後に部隊での訓練を終えた島岡は、基地の周り沿って続く道を走っていた。

 午後の訓練の際に早速模擬戦が実施されたのだが、勇んで挑んだ島岡はケチョンケチョンにのされて全敗。いくら同期の中で随一の腕を持ち、教官相手に勝てても、やはり第一線で戦うパイロットには敵わなかった。しかも先に負けた回数分基地の周りを走ると賭けをしていた分性質が悪い。少しはおまけしてくれたが、10周は回って来いとのお達しだった。

 

「井の中の蛙って奴か~」

 

 今は3周目。賭けに乗った島岡自身が悪いのだが、やはり面倒くさく思えてくるのはしょうがないことだろう。気分を紛らわすために走りながら周りの風景を見ている。

そんな時だった。

 

「・・・あ」

 

「・・・ん」

 

 外柵沿いにある小さな土手に誰かが座っている。島岡は知らず知らずのうちに走るのを止めていて、土手に座る人物も座ったまま目線だけをこっちに向けていた。ラフな運動できる服装で、見たところ島岡と同じぐらいの年齢そうだ。他のパイロットは全員自分より年上だったし、どこかの整備兵だろうか?

 

「よ、よう。お前も走ってるのか?」

 

「・・・ああ」

 

「やっぱ、キツイな。これ一体何kmあるんだ?」

 

「・・・さぁな」

 

「俺この前来たばかりだからよく分からねぇんだけど・・・」

 

「・・・なら、その話し方は許してやろう」

 

「・・・え?」

 

 何を言っているんだと聞き返す間も無く、整備兵らしき人物が立ち上がった。そして・・・鋭い目つきで島岡を見据えた。

 

「神崎玄太郎少尉だ。次からは口の利き方に気を付けろ」

 

「し、失礼しました!!」

 

 一瞬で直立不動になり敬礼する島岡。それを興味を無くした目で一瞥し、神崎は走り去っていった。神崎が視界から消えてから、やっと島岡は体勢を崩した。

 

「俺と同年代で少尉かよ・・・。訳分かんねぇよ・・・」

 

 坊主頭をかきながら呆然と呟いたこの時こそ、神崎と島岡の出会いだった。

 

 

 

 

 

 





過去偏は少し続きます

ブレイブウィッチーズがもうすぐ始まるので、もうテンションがヤバイです
ヤバイです

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