ストライクウィッチーズ 一匹の狼   作:長靴伯爵

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色々とゴタゴタがあって相当忙しかったですが、なんとか投稿

そうだ フィンランドに行こう


感想、アドバイス、ミスの指摘等々よろしくお願いします




第五十一話

 

 

 

 

 ある日の午後。

 

 病室では暖炉の火が赤々と燃え、室内の温度を快適なものにしていた。しかし、病室の住人の表情は快適な物とは程遠かった。眉間に皺を寄せ、険しく細める目の先には・・・新聞。それもスオムス語のものである。住人、神崎は諦めたように顔を上げると気の抜けた声で呟いた。

 

「・・・分からん」

 

「何やってんだよ」

 

「暇そうですね。少尉」

 

 そんな時に病室に入ってきたのが島岡とシーナである。病室の扉で立つ2人に神崎は再び気の抜けた声で言った。

 

「ああ。暇だ。随分と久しぶりに」

 

 

 

 

 

 

 

 

 救出された神崎はラドガ湖防衛陣地ではなくヴィープリの軍病院へと輸送された。

 軽くない栄養失調と低体温症、軽度の凍傷に魔法力切れによる自然治癒力の低下が相まってラドガ湖の防衛陣地では対処し切れないと判断されたからだ。

 ヴィープリには未だに共生派がいるのではないかという意見もあったが、結局はアウロラの決断によってそのまま輸送され、入院という流れになった。実際、この判断は間違っておらず、ヴィープリの共生派は駆逐され安全は保障されていた。

 神崎は治療を受けた上で約2日間眠り続け、目が覚めたのは先日。ただベッドに横になっているだけの生活にどうにも違和感が拭えず、厚意で置かれていた読めもしないスオムス語の新聞に手を出したのが今しがた。島岡とシーナの訪問は今の神崎にはありがたかった。

 

 

「案外元気そうじゃねぇか」

 

「そうですね。心配して損した気分です」

 

「随分な言い方だな・・・」

 

 病室に入った途端のこの発言に神崎はげんなりした表情で島岡とシーナを見た。2人は部屋の隅に置かれたイスをベッドの近くまで持ってきて座り、これからのことについて話し始めた。

 

「とりあえず神崎少尉には2週間の休暇が与えられるそうです」

 

「しかも、この入院が終わった後にだってよ。纏まった休暇って随分と久しぶりじゃねぇか。ちなみに俺も同じ休暇を貰った」

 

 2人からの報告に神崎は頷き、次いで首を傾げた。休暇を貰えるのはとても嬉しいことだが、その間の任務は誰が就くのだろうか?それを尋ねようとするのに先んじてシーナが口を開いた。

 

「神崎少尉達が休暇の間は、再編成され復旧がすんだソルタヴァラの部隊が任務に就きます。休暇後も今まで少尉達が担っていた任務の大部分を引き受けてくれるらしいです」

 

「ソルタヴァラ・・・何時の間に?」

 

「つい最近みたいです。ほら、この新聞にも記事が載っています」

 

 そう言ってシーナが差し示したのは先程まで全く読めずに膝の上に放置していたスオムス語の新聞だった。一面には大きな見出しが描かれているが、まさかそのようのなことが書かれているとは思わなかった。

 

「へぇ~そんなこと書かれてたのか」

 

「全く分からなかったな・・・」

 

「2人とも、スオムス語を少しは勉強したほうがいいですよ」

 

「・・・善処しよう」

 

「しない奴ですよね。それ」

 

 サッと目を逸らした神崎と島岡をシーナはジト目で睨み、溜息を吐く。

 この気まずい空気を変えるために神崎はアウロラ達、ラドガ湖の防衛陣地がどのような様子か聞くことにした。自分を救出するために本来の任務から主戦力を抽出し、そこまでの距離はないとはいえラドガ湖からヴィープリ近郊まで出張ってきたのだ。どんな皺寄せがきていたのか分からない。

 

「陣地の方はどんな感じだった?」

 

「特に問題はありませんでしたよ。私達が抜けていた間も襲撃は無かったみたいですし」

 

「お前の救出に成功したって言ったら皆喜んでたぜ」

 

「・・・ありがたいことだ。皆には随分心配をかけたみたいだな。鷹守やユーティライネン大尉にも」

 

「鷹守はよく分からねぇけど、ユーティライネン大尉は清々した感じだったぜ。共生派の連中に相当ムカついていたみてぇだったし」

 

「隊長、帰ってから秘蔵のお酒飲んでましたし随分とご機嫌でしたよ。でも、早く帰ってきてくださいね。皆待ってますから」

 

 まぁ待たずにお見舞いに来そうですけどね、とシーナは微笑んだ。神崎も釣られるように頬を緩め、島岡もやれやれといったように笑った。戦闘続きでは味わうことのできない無駄で貴重な時間の使い方だった。

 

 

 

 

 作戦立案した鷹守とアウロラの様子や、救出作戦中のあれこれ、それに神崎が捕まっていた最中のことなどを話している内に時間は過ぎ、1時間程して2人は帰っていった。どうやら、今回は顔を見せるだけのつもりだったらしく、臨時の買出しに託けてやって来たとのこと。

 

「帰隊が遅れなければいいが・・・」

 

 

「そうだね~。さすがに遅れたら罰則かな」

 

「・・・何でここにいる?何時の間に来た?」

 

「酷いな~。お見舞いに来たのに」

 

 何時の間にかベッドの傍に座りヘラヘラと笑う鷹守に神崎は軽く睨んで溜息を吐いた。いつもの通りふざけた雰囲気ではあるが、彼は上官で今回の件でおそらく一番骨を折ったはずだ。しっかりと礼を言うのが部下として以前に人としての礼儀だろう。

 

「今回は迷惑をかけた。ありがとう」

 

「全然問題ないよ~。僕としては神崎君が裏切ってなければそれでいいんだけどね」

 

「・・・何?」

 

 感謝こそすれ、怒りをもつ理由はなかったはずだ。だが、こう言われてしまえば話は別。神崎が先程とは別な意味で睨みつけると、鷹守はふざけた笑みを浮かべたまま眉間の部分を押さえた。日が落ち始め冷たくなり始めた風が2人の間に流れる。

 

「・・・俺が裏切っているとでも?」

 

「君はコリン・カリラ大尉と話したんじゃないかな?」

 

「・・・ああ」

 

「そこではなんて言われた?」

 

「一緒に・・・戦わないかと」

 

「この時点で疑うのはしょうがないと思うんだよね~」

 

「俺はアフリカであいつ等に殺されかけ、拉致され、こんな様になったんだ。何を今更奴らに寝返る?」

 

「人の考えなんてすぐに変わるものだよ」

 

 睨む神崎と笑みを浮かべる鷹守。2人の間に流れる緊張を先に破ったのは鷹守だった。眼鏡を抑えていた手を神崎に差し出し、ニッコリ笑って言った。

 

「手を握ってくれないかな?君ではなく、君の魔法力に聞こうと思う」

 

「何?」

 

「魔法力は実に素直なんだよ。いいかな?」

 

「・・・ああ」

 

 神崎はゆっくりと鷹守の手を握り、魔法力を発動させた。飛び出したフソウオオカミの耳と尾は神崎の感情に合わせて逆立っているが、鷹守は全く気にすることなく目を閉じていた。

 大した時間がかかる訳でもなく、鷹守はスッと目を開けた。

 

「うん、いい魔法力だね」

 

「・・・それで、俺が裏切ったかどうか分かったのか?」

 

「ん?そんなの分かる訳ないじゃないか~」

 

「・・・は?」

 

 この時ほど神崎は呆気に取られたことは無かったかもしれない。ポカンとした表情になった神崎を置いて、鷹守は1人口早に話し始めた。

 

「いやぁ~やっぱり神崎君の魔法力はいいね!君の魔法力量が膨大だから包み込まれるような奥深さを感じるし、なにより他の子からは感じられない熱さがあるのがいいね~」

 

「まさか・・・」

 

 ハァハァ・・・と段々と呼吸が荒くなっていく鷹守に神崎は理性を総動員して怒りを押さえつけながら、搾り出すように尋ねた。

 

「まさか・・・今までのは俺の魔法力を感じたいが為の茶番か?」

 

「はぁはぁ・・・。うん?そうだけど?まさか神崎君が裏切るなんて、そんなこと思う訳ないじゃないか。ん?どうしたのって痛い痛い痛い痛い!?潰れる潰れる!?手が潰れちゃう!?」

 

「ああ・・・感謝はしているさ。感謝はな。だが、これは別だろう。やっていいことと悪いことがあるんだ。ほら、大好きな魔法力だ。最大限で感じさせてやる」

 

「あれ!?本気で怒ってる!?ちょっとした悪ふざ待って本当に待って!?魔法力最大にして握り潰す気!?それはそれで・・・待って待って待って本当に痛いからやめてやめてやめてぇぇぇえええ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで神崎の入院生活は約1週間続いた。

 暇を持て余したのは最初の数日ぐらいで、島岡やシーナ、鷹守が来た以降続々と来訪者が来た。シェルパ、リタ、マルユトを含めた陸戦魔女(ウィッチ)達、ヤッコを始めとした救出班の面々、そして「(シュランゲ)」構成員兼スオムス派遣分隊整備兵達など、神崎が予想もしていなかった訪問者も現れ退屈する暇が無かった。

 もっとも、(シュランゲ)の面子は特に会話をすることなくお土産を置いていっただけで帰っていったが・・・。

 

 退院当日。

 神崎は病院を出た後、駅のホームに立っていた。

 前もって届けられていた黒の第1種軍装と軍帽に外套を羽織り、着替えと細かな日用品が詰められた鞄を足元に置き、直立不動で列車を待つ姿には傍目にはどこもに違和感は無い。だが、実際は魔法力が十分に回復し切っていなかった。魔法力が枯渇した状態で数々の症状が重なった影響だと考えられているが、恐らく以前の6割程度の戦力にしかならないだろう。休暇を挟むことになるので多少はマシになるはずだが・・・。

 

 汽笛の音と共に列車がホームに入ってきた。

 スオムスに着任した時、シーナに案内されて島岡と共に乗ったものと同じ列車である。神崎は何か感慨深いものを感じながら目の前に列車が停まるのを確認し、乗り込もうと鞄を持ち上げた所でよく見知った人物が列車から降りてきた。

 

「随分と元気になったな。最後に見たときは死にかけだったが」

 

「・・・おかげ様でよくなりました」

 

 腰に手を当てて満足そうにしているアウロラに、神崎はまずは頭を下げた。恐らく今回鷹守に次いで迷惑をかけたに違いない。島岡は彼女はそこまで気にしていなかったと言っていたが、礼を言わなければ自分の気がすまなかった。なお、鷹守に関してはもう感謝するつもりはない。

 

「ユーティライネン大尉、今回はありがとうございました」

 

「お前の支援には随分と助けられたが、いささかあの作戦は割に合わなかったな。これからの道すがらいい酒でも奢ってくれ」

 

「はい。・・・はい?」

 

 アウロラの言葉に違和感を覚えるも、汽笛の音で列車がもうすぐ出発することに気付いた。この列車を逃せばラドガ湖の陣地に到着するのが夜になってしまう。夜の雪中行軍など、こんな体の状態では是非とも遠慮したい。

 神崎は一言入れ列車に乗ろうとしたが、先んじてアウロラに腕を掴まれ動けなかった。何をするのかとアウロラの顔を見ると、悪戯に成功した子供のようにニヤリと笑っていた。

 

「お前が乗る列車はこれじゃあないぞ」

 

「は?しかし、これの列車を逃せば・・・って大尉、何で魔法力まで使って停めようとするんですか!?」

 

 そう言った直後、再び汽笛が鳴り響き列車が動き始めた。慌てて乗り込もうにもガッチリと掴まれた腕はビクともせず、全く動けないまま無情にも目の前で列車は走り去ってしまった。

 

「・・・大尉?」

 

「お前が乗るべき列車はあれだ」

 

 神崎の責める視線をきっぱりと無視しアウロラが指し示したのは、二人が立つホームに今しがた反対方向から入ってきた列車である。つまり、ラドガ湖とは反対方向に進む列車だった。

 

「しかし、あの列車は・・・」

 

「ぐずぐずするな。さっさと乗るぞ」

 

 片方には自身の鞄、もう片方には混乱する神崎を持ってずんずんと列車に向かうアウロラ。化け物じみた腕力に神崎が対抗できるわけも無く、されるがままに列車の中まで連れて行かれ。あれよあれよという間にボックス席に向かい合って座っていた。

 

「大尉。もう訳が分からないのですが?」

 

「シーナからは何も聞いてなかったのか?」

 

「・・・退院後、一週間の休暇が与えられるとは聞きましたが?」

 

「ああ。その通りだが、少し違うな」

 

 アウロラは自分の鞄の中から酒瓶を抜き取ると、親指だけで栓を抜き美味そうに一口飲んだ。そして、困惑の色が隠せない神崎に瓶の口を向け楽しそうに宣言した。

 

「これから私と2人旅だ。美味い酒、美味い料理、我が祖国の美しい景色。胸が躍るだろう?」

 

「・・・・・・は?」

 

「一週間だ。楽しみにしておけ」

 

「これが・・・俺の休暇なのか?」

 

 神崎が状況を理解しきれず呆然と呟く間に、列車はどんどん進んでいく。

強引で突拍子のない予想外のスオムス旅行。これからの行く末を暗示するがごとくの始まりに神崎はとりあえず溜息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 霧を纏う早朝の静かなブリタニア海軍軍港、プリマス。

 ブリタニア海峡を挟んで欧州の大陸と向かい合うこの軍港は、連合国海軍戦力の主要拠点の1つである。

 各国の艦艇が停泊している中、霧をゆっくりと切り裂いて軍港の片隅に進む大きな黒い影があった。

 

 扶桑皇国海軍所属潜水艦「伊399」

 

 水面下に隠した潜水艦の範疇を越えた巨体と城塞のような艦橋。その艦橋から司令官である才谷が左目で軍港を睥睨していた。

 

 やがて伊399は着岸するために運航スピードを段々と落としていく。霧が薄まり着岸地点がはっきりと見えてくと、陸上に作業員とは別に何十人規模の集団が立っていることに気が付いた。それを確認した才谷は左目を細め、ゆっくりと軍帽を被りなおした。

 

 伊399が着岸し、陸上への準備が整うと才谷は軍刀を携え数名の部下を伴って上陸した。彼女が向かったのは、陸上でずっと待機していた集団。カールスラント製の装備で身を包み、しかしカールスラントの認識を表す部隊章を一切外した小隊規模の部隊。

才谷が部隊の正面に立つと、部隊の先頭に立っていた小隊長であろう人物が動いた。中肉中背でヘルメットからブロンドの髪を覗かせた眼鏡の中尉である。

 

気をつけ(Still gestanden)

 

決して大きな声ではない。しかし、号令に応え小隊は統制のとれた動作で一斉に不動の姿勢を取った。

 

「モンティナ・ファインハルス中尉以下39名。皇帝陛下の勅命を受け、扶桑皇国軍と共に実働部隊として『(シュランゲ)』に参加します」

 

「扶桑皇国海軍中佐、『(シュランゲ)』司令官、才谷美樹中佐。諸官らの参戦を歓迎しよう」

 

 ファインハルスの敬礼に合わせて小隊全員が才谷に向かって挙手の敬礼をした。才谷もゆっくりとそして厳格に同じ挙手の敬礼で応えた。

 

 着々と(シュランゲ)は力を溜めている。毒を溜め、牙を研いでいる。その目が見据える獲物は・・・果たして・・・。

 

 

 

 

 

 





ブレイブウィッチーズまで約一ヶ月ですね

あ~サーシャさん可愛いんじゃ~

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