502が今年の秋放送で、もう期待がヤバイですね
アウロラさん、でるのかな?
そんな訳で第五十話です
感想、アドバイス、ミスの指摘などよろしくお願いします
少し前まで応接室の小奇麗さは文字通り吹き飛ばされた。
突然の爆発による衝撃は窓ガラス粉々に砕き、品のいい調度品を破壊した。当然、立っていたコリンは衝撃にもろに晒されることになり、窓から反対側の壁まで吹き飛ばされて気絶してしまっている。
そんな彼女の手から、神崎はC96を取り上げた。
「これは返してもらう」
コリンのすぐ傍だったのにも関わらず、事前に爆撃を察知し、テーブルを盾にすることができたお陰で神崎は多少の埃とガラスの破片を被るだけで済んでいた。
C96を回収した神崎は気絶したコリンを一瞥した。C96を握った手に力が篭るが、すぐにコリンから目を逸らし、応接室から飛び出す。
今は脱出が最優先だと言い聞かせながら。
建物の中は突然の爆撃で警報が鳴り響き、混乱の中にあった。脱出したいのは山々だが、この状況下ではすぐに敵と鉢合わせになりかねない。
どうしたものかと思案しつつ廊下の曲がり角を覗いた時、案の定4人の敵集団と鉢合わせになった。相手側は皆帽子やニット帽を被っており、マフラーで顔を隠していた。もちろん銃で武装している。
(まさか既に脱走がばれたのか?だが、ここで諦める訳には・・・)
例え銃撃されても、なけなしの魔法力でシールドを使えばあるいは・・・。
そう考えた神崎は覚悟を決めると、ふらつきそうになる足に力を込めて一気に踏み込んだ。4人が目に見えて狼狽しているが、これ幸いと一番近くにいた小太り気味の男の銃を掴んで一気に引き倒した。そのまま2人目に接近しようとした所で、突然敵が銃を手放し顔を覆っていたマフラーを取った。
「待て待て!味方だ!助けに来たんだ!」
「・・・何?」
両手を前に突き出し大慌てで釈明する相手を前に、神崎も思わず動きを止めた。よく見れば確かに見たことのある顔である。しかも、帽子を被っていた兵は営倉にパンを届けに来た敵兵だった。
「ユーティライネン大尉の歩兵中隊の?」
「イテテ・・・そうだよ」
神崎の疑問に答えたのは、今しがた引き倒した兵士だった。倒された時に打ち付けたらしい腕を回し、苦笑を浮かべながら神崎に向き合った。
「歩兵中隊のヤッコだ。あんたを助けに来たんだが・・・、あまり必要なかったみたいだな」
「いや嬉しい。感謝する。ところで・・・上着と何か食べる物はないか?」
「時間が無い。移動しながらでな」
救出部隊の3人が神崎を囲むように位置取りし、廊下を進み始めた。ヤッコは神崎の隣に立つとおもむろに自身の装備を外し始め、上着を脱いだ。
「確かにワイシャツだけで外に出るのは拙いな。これを着ろ」
「だが、それでは・・・」
神崎はヤッコに迷惑がかかるのではと逡巡したが、周囲を警戒していた1人が声をかけた。
「大丈夫ですよ。ヤッコはもともと着込みすぎなんです。だから太ったように見えるんですよ」
「寒いんだよ。仕方ないだろ」
「スオムス生まれで寒がりとか笑い話でしょ」
敵陣の真っ只中だが、程よく緊張が解れている。2人のやりとりを見て、神崎も若干の余裕が出てきた。ヤッコからありがたく上着を受け取り、手早く袖を通した。
「食い物はこれしかない。食うか?」
「・・・いや、いい」
ヤッコが差し出してきた小箱を見て、神崎は冷や汗と共に首を振った。
今の状態でのサルミアッキは勘弁して欲しかった。
爆弾が着弾したのをアウロラが確認したのは完全装備でストライカーを駆り、前進していた時だった。
『投下成功!格納庫に直撃したから、ストライカーユニットは全部潰したぜ!』
島岡からの報告を聞き、アウロラは作戦が予定通りに進んでいるのを確認した。今後、先行して潜入させていたヤッコ達が、爆撃による混乱を突いて神崎を救出すべく行動を開始しているだろう。
「了解した。後はこっちの仕事だ。お前は警戒と次の準備を」
『了解!』
島岡への指示を終えると、アウロラはチラリと背後を振り返った。付き従ってくるのは、マルユト、シェルパ、リタの3人。今回の作戦に参加した4人の陸戦
(今更、悔やんでも仕方ないが・・・)
突入まであと数分はかかる中、アウロラはこの作戦のブリーフィングを思い返していた。
「神崎君の奪還作戦、始めようか」
鷹守が宣言すると格納庫に集まった二十数人の顔の色がそれぞれ変わり始めた。ある者は覚悟を決めたように表情を引き締め、またある者はやる気を漲らせ、またある者は訝しむように眉を顰めていた。
「まずは状況を確認しようか」
そう鷹守が言うと、彼の後ろに控えていた数人の整備兵が幾つか地図が張られたボードを運んできた。
「行方不明になっていた神崎君だけど、調査の結果拉致されたことが判明した。場所は・・・」
鷹守は言葉を切って地図の1つを指し示した。
「ヴィーブリ近郊の簡易飛行場だよ」
「簡易飛行場?」
耳慣れぬ単語に島岡が首を傾げると、アウロラが反応した。
「第一次ネウロイ侵攻時、空軍は基地が潰されてもすぐに部隊運用できるように各所に隠蔽された飛行場を建設した。神崎を拉致したやつらはその内の1つを利用しているんだろう」
アウロラは確認を取るように鷹守に視線を向けると、鷹守は満足そうに笑った。
「そうだよ。で、そこを占領しているのはコリン・カリラ大尉が率いる部隊」
「コリン・カリラ大尉・・・。この前私達に攻撃してきた人ですか?」
リタの少し気後れした声にアウロラは頷いた。
「そうだ。あいつらが神崎を拉致した」
「何故・・・とも思えないですね。あいつらが私達を疎んじて戦力を削ごうと考えてもおかしくありません」
マルユトもこの状況に納得したようだった。他にも疑問を持っている者が無いことを確認した所で鷹守は作戦説明を始めた。
「作戦としては、潜入して奪還して離脱するって感じかな~。具体的に言うと・・・」
鷹守はボードに貼られた別の地図を叩いた。簡易飛行場の見取り図が描かれた物である。
「まず、最初に潜入部隊として工作班と救出班を送り込もうか。工作班は
「だからヤッコ達も呼んだのか・・・。分かった」
工作班は作戦の支援、救出班は文字通り神崎の救出を担当するとのこと。アウロラがヤッコに視線を向けると、ヤッコは自信に満ちた表情で頷いてみせた。
「で、次の段階として、島岡君に動いてもらう」
「おう」
島岡の力強い返事に鷹守はニヤリと笑い、そのまま地図のある地点を指す。
「島岡君にはここの格納庫を爆撃してもらうよ。そこのストライカーユニットを全滅させちゃいたいから、今ある一番大きい爆弾使おうかな。でもそれ以外は徹底的に軽量化を図って速度を出せるようにするよ」
「ん?なんでだ?」
「その理由は作戦全体に関わってくるんだ」
鷹守は地図の別の場所を叩いた。
「爆撃を行う前提として、島岡君には上昇限界高度で基地に接近してもらうよ。で、爆撃・・・だけどまだ離脱しないでね」
「はぁ?」
「さぁ、ここで奪還だ!」
素っ頓狂な声を無視して鷹守は楽しげに言った。
「潜入部隊救出班は爆撃に合わせて神崎君を確保。そのまま滑走路へ護送。工作班は確保の支援をした後に離脱準備。そしてユーティライネン大尉達も爆撃に合わせて飛行場内に突入。滑走路の制圧と確保をお願いするよ」
「分かった。つまりこの作戦は・・・」
アウロラは作戦の全体像が見えたのか楽しげに笑って見せた。その笑いに不安になるのは島岡である。果たして自分は何をさせられる羽目になるのかと。そして島岡の不安は的中した。
「そう!陸戦
ここで呆気に取られたまま聞いていた島岡
「ゲンを乗っけるって俺の零戦は単座じゃねぇか。まさか・・・」
「あ、もう複座型に改造してるから」
「はぁ!?おま・・・何時の間に!?」
「君が寝てる間にパッとね。大丈夫大丈夫!仕上がりは完璧だから!」
「勝手に弄るなっつってんだろうが!!」
「ま、島岡君は放っておいて。皆はこれでいいかな?」
島岡の悲痛な叫びを笑顔で切り捨て確認を取る鷹守。幾つかの修正案の提言とアウロラからの参加への条件の提示があったものの結果的に全員が了承した。後は細かな調整と作戦準備の為に解散の流れになった。アウロラ達も格納庫を後にしようとしたのだが、アウロラだけが鷹守に話があると呼び止められた。その話の内容は・・・。
「隊長ぉ!敵影無いよ!このまま行く!?」
「ああ!」
シェルパの声が聞こえアウロラは回想を止め、思考を元に戻した。ここからは少しの隙も作戦失敗に繋がる可能性がある。
(最後の最後で私に肝心なことを伝えて丸投げとは・・・この貸しは高いぞ)
とりあえず今は鷹守に向ける怒りを目の前の柵にぶつけよう。もし、何かあったとしても別行動のシーナが何とかしてくれるだろう。後の問題は時間とタイミングだけ。
「私が先鋒だ。一直線に続け!」
そう言った直後、アウロラは榴弾を装填したカノン砲で進路上の鉄条網を吹き飛ばした。4人が爆炎の中を走り抜ければ目標である滑走路はもうすぐそこである。
「いいか!滑走路は傷つけるな!敵への発砲は制圧射撃と威嚇だけだ!白兵戦で無力化しろ!絶対に殺すな!」
「「「了解!!」」」
この命令こそアウロラが鷹守に出した条件である。
未だに明確な活動根拠が明示されていない「蛇」の作戦で協同の形で参加するアウロラ達ラドガ湖の防衛部隊が味方と見なされている兵を殺害してしまえば、事の次第によっては反逆罪と捉えられかねない。
自分だけ責任を負うならば、アウロラはおおいに暴れられただろう。しかし、神崎を救出するのは1人では到底無理であり、だからこそ彼女達を守る必要があった。無力化ならばまだ奴らが共生派であることを立証することができる。万が一こちらが罪に問われたとしても、最悪銃殺刑だけは免れるはずだ。
なお、ヤッコ達にも同じ命令を下したが、彼等は拒否していた。敵陣の真っ只中ではそのようなことに構う余裕はない、と。もし、銃殺刑となっても悔いはない、と。
滑走路上の敵を見定め、アウロラは唇を噛み締めた。
こんな戦いに部下を巻き込んでしまったことに悔いはある。だが、これは必要なことであったし、その責任から逃れるつもりは毛頭無い。
「いくぞ!」
だから、アウロラはいの一番に敵へと突撃した。武器を使わず、ただ体当たりするだけで十分。それだけで敵兵を行動不能に追い込める。カノン砲を無人の車両に放ち、叫んだ。
「救出班がくるまでだ!耐え抜くぞ!」
神崎を含めた救出班は比較的順調に所定のルートを進んでいた。作戦準備の時間は殆ど無かったが、前もって簡易飛行場の見取り図からルートを選出しており、工作班による支援によって迷うことも無い。
ただ敵の放つ銃弾に追われることだけが問題だった。
「逃げろ逃げろ!ここまで来てやられたら笑い話だぞ!」
「分かっている・・・!!」
ヤッコが先頭に立って脱出ルートを突き進み、神崎はその後ろを消耗している体に鞭を打ち追いかける。神崎の傍らにはカバーの兵士が1人、そして残り2人は敵の追撃を迎撃していた。
「こう逃げていると、あの時を思い出しますね」
「あの時?あぁ、隊長の秘蔵の酒を盗み出そうとしてバレた時か?」
返事をしつつも前方に飛び出してきた敵兵を短機関銃KP-31の銃床で殴り飛ばすヤッコ。そのまま流れるようにKP-31を構えると更に前方に出てきた敵兵等に発砲した。瞬く間に足を撃ち抜いていき、倒れた所にカバーの兵士が殴打を加えて的確に無力化していく。
「それもこんな感じでしたっけ?でも。それじゃないです。サウナのやつです」
「酔っ払って陸戦
「いやぁ、あの時は死ぬかと思いました」
「重機関銃やらカノン砲やら撃ってきたからな。あれは本気で逃げたよ」
(今も銃弾が飛び交っているのだが・・・)
会話を聞いている神崎はC96を構えたまま微妙な表情をしていた。そんなことに構わず、ヤッコ達は会話を進めていく。
「班長~。もう弾無くなりそうです」
「これ使え」
迎撃組から声がかかると、ヤッコは先程無力化した兵士の銃を投げ渡した。迎撃組は自前の銃を背中に回し、嬉々としてそれを受け取る。
「へぇ~。MP40じゃないですか。いいの使ってますね~」
「ほら、弾幕張れ。追いつかれたら元も子もないだろ」
「う~っす」
「・・・」
逃走中のはずであるのに、どこか緊張感が欠けている。いや、それほどの余裕があるのか。少なくとも神崎にはそんなものは一切無いため、もうただただ付いていくことにした。
程なくして、救出班は建物内を突破して滑走路に繋がるエプロン地区に到達した。外に出るや否や救出班の目に飛び込んできたのは、そこかしこで爆発が起こる中、敵兵を殴り倒していく鬼の姿だった。神崎だけでなく先程まで軽口を叩いていたヤッコ達も言葉を失ってしまう。周りが妙に静かになったところで、鬼がこちらに近づいてきた。
「ヤッコ!神崎を確保したな!よくやった!今度、酒を奢ってやる!」
もちろん鬼であるはずもなく、エプロン地区を制圧中のアウロラなのだが。
「どうした?負傷者が出たのか?」
「い、いや、隊長。全員無傷で神崎少尉も無事です」
「ご迷惑おかけしました」
「無事でよかった。色々と話すことはあるが、まずは脱出だ」
アウロラは嬉しそうに神崎の肩を叩きつつ、耳のインカムに手を当てた。今はヤッコと神崎以外の救出班が周囲を警戒しているため若干の余裕があるようだ。
「神崎確保!作戦を次の段階に進ませるぞ!」
この通信に島岡、シェルパ、リタが一斉に歓声をあげた。
『ゲンと合流できたんすね!?』
『本当!?やったぁあ!!』
『これで一安心ですね』
アウロラが若干煩そうに顔を顰めるが、空気を読んだのか文句を言うことなく話を続けた。
「ああ。島岡すぐに着陸の用意をしろ。マルユト、シャルパ、リタは島岡の援護だ。私は護送に回るぞ」
通信を終えたアウロラは神崎を見て言った。
「今から島岡が着陸してくるから、お前をそれに乗せる。いいな?」
「また強引な作戦を・・・」
「それだけ皆がお前を助けたかったということだ。あそこのトラックに乗り込め。ヤッコ!!」
「了解!!!」
ヤッコはアウロラの声にすぐさま反応し、トラックの運転席に乗り込んだ。救出班もゾロゾロと荷台に乗っていき、神崎も手を借りて乗り込んでいく。そして最後にアウロラが荷台の搬入口を守るように立ち、カノン砲を構えた。
「まだ敵が来るぞ!早く出せ!!」
「了解!いきます!!」
ヤッコのかけ声と同時にトラックは急発進した。大きく揺れる荷台の中で神崎が見たのは、全速力で後進し、敵の銃撃をシールドで防ぐアウロラの背中だった。敵の銃撃は小銃のものだけでなく、車載式の大口径機関銃のものもあった。が、アウロラはそれらを1発も後ろに通すことなく、尚且つ果敢にカノン砲を放って敵の勢いを削いでいった。
やがて、滑走路上にいたマユルト達と合流しトラックは止まった。
「カンザキ少尉!本当に無事だぁ!!!」
トラックが止まるのとほぼ同時にシェルパが荷台を覗き込んできて嬉しそうに叫んだ。神崎が手を上げて答えると、今度はリタが。
「本当によかったです。シーナも喜びます」
「シーナは?」
「別働で周辺警戒を行っている。よく無事だったな。少尉」
神崎の問いに答えたのはマルユトだった。彼女も控えめに荷台を覗き込み笑っていた。陸戦
「神崎はまだ降りるな。よし、島岡!入って来い!」
『了解!』
アウロラが通信を送ると、上空を旋回していた零戦が進路を変えて滑走路に進入するコースを取った。敵もまだ追いついていない。追いつかれたとしても、こちらには陸戦
『島岡さん。緊急離脱を』
『ッ!?』
静かな、しかし鋭い警告が島岡に操縦桿を倒させた。身を翻した零戦が今しがたいた空間を貫いたのは2筋の火線だった。急激に増加するGに耐えつつ視線を上げる島岡。その目に映ったのは銃を構えて急接近してくる2人の航空
『嘘だろ!?格納庫は潰したじゃねぇか!?』
「早く離脱しろ!!やられるぞ!!」
『クソッ!!』
島岡の悲鳴に近い叫び声を聞いたアウロラは、素早く離脱の指示を出す。その表情は苦り切っていた。
この救出作戦に十分な下準備ができなかったのが悔やまれる。確かに格納庫は潰した。だが、それ以外にストライカーユニットを保管していない可能性が無いはずもなく、それを調べる時間は無かった。
更に悪いのはこのタイミングである。島岡が初撃を回避したのは不幸中の幸いだったが、そのせいで島岡は反撃することなく離脱せざるをえなくなり、完全に航空優勢を失ってしまった。
「隊長!どうする!?上から来るよ!?」
作戦は破綻してしまった。ここからはアウロラの采配1つで、皆の生死が決まる。
やってやるさ
絶対に全員で帰還してやる
もとより諦める気も負ける気も更々無いのだ。敵が追いすがってくるなら振り払うだけ。だからアウロラはトラックの荷台を叩き、思い切り叫んだ。
「出せ!!全力だ!!」
「りょ、了解!」
ヤッコが思い切りアクセルを踏み込み、トラックは全速力で急発進した。コンクリートの滑走路では雪にタイヤを取られることはない。アウロラ達もトラックの後に続き、そのままトラックの四方を囲むようにそれぞれが位置取りした。
「もうすぐ日が暮れる。飛行場の先の森に入れば勝ちだ!」
「「「「了解!!」」」」
「リタ。信号弾を撃て。工作班に撤退の指示だ」
「はい!」
指示を受けたリタはすぐさま信号弾を取り出し、空へと撃ち上げた。煙を引き、空に上がった信号弾はパッと赤い光を放った。見入りそうになる赤い光が薄暗い空に十分に映えるが、アウロラ達が見たのは急接近してくる2人の航空
「撃て!!近づけるな!!」
アウロラの号令の下、トラックの荷台の救出班に至る全員が一斉に射撃を開始した。撃ち上げられる対空砲火はそれなりのものとなった。航空
このまま上手くいくかもしれない・・・神崎がそう思いはじめたその瞬間、トラックが大きく跳ねた。荷台に乗っていた者達は皆一様にどこかに捕まり体を固定した。だが神崎だけが、体力を著しく消耗させていた神崎だけが、トラックが着地した衝撃で手を滑らせてしまった。結果・・・神崎は荷台から雪原の中へと投げ出されてしまった。
トラックが上空からの攻撃を掻い潜り、飛行場を囲む柵を突破した時だった。
「神崎!?」
柵を無理矢理突破したせいで大きく跳ねたトラックから投げ出される神崎の姿にアウロラは急旋回して彼の下へ行こうとした。しかし、そこで襲い掛かってきたのが上空の航空
「クッ!?」
2方向からくる銃撃を片方はシールドで防ぎ、もう片方は後退することで何とか回避する。反撃しようにも上空で動き回る相手にカノン砲を直撃させるのは到底できることではない。
「隊長!退避を!!」
「神崎を置いていけるか!?」
マルユトの言葉を一蹴し、アウロラは再度神崎のところへ向かおうとする。だが、やはり航空
「チッ・・・!?」
どうする?
マルユト達を向かわせるか?そうすれば、救出班を危険にさらすことになるだけだ。ならば全員で?もたもたしていたら基地からの追手に捕まってしまうというのに?ならば、神崎を見捨てる?論外だ。ならば、この状況を打開するには・・・、できるのは・・・。
「・・・・・・シーナ」
『任せて下さい』
返事か聞こえた直後だった。
ダンッ・・・!ダンッ・・・!と、2発の銃声が当たりに響き渡る。今の今まで何十、何百発の銃弾を放っても1発も当たることはなかった2人の航空
「ふぅ・・・。美味しい所を持っていかれたな」
アウロラは使い物にならなくなったカノン砲を肩に担いで苦笑した。僅かに残った夕日が照らす雪原の中、雪の中から小柄な人影がムクリと起き上がり、神崎の所へ歩いていた。
トラックから投げ出され、雪の中に背中から落ちた。雪のお陰で大部分の衝撃が緩和されたとはいえ、弱った体は耐えることができず意識が混濁してしまう。
ストライカーユニットの駆動音も、銃声も、叫び声も、夢の中にいるように全部あやふやで霞掛かっていた。
けれど、2発の銃声だけははっきりと神崎の耳に届いた。
目を開ければ黒煙を吐きながらフラフラと離脱していく航空
「少尉。神崎少尉。」
なんとか頭を動かして声の方向を見ると、僅かに残った夕日に照らされたシーナの姿があった。雪原用迷彩と
「大丈夫ですか?」
「・・・ああ」
「嘘言わないで下さい。大丈夫だったら、こんな有様じゃないでしょう。見れば分かります」
「なら何で聞いたんだ・・・」
シーナは答えず、代わりに
「起き上がれますか?」
「・・・ああ」
腕を動かすのも億劫ではあるが、神崎はシーナの言葉に甘えて素直に彼女の手を掴んだ。グッと掴んだ手に力が込められ、ゆっくりと上半身が持ち上がり・・・気付けば彼女の腕の中にいた。
「・・・シーナ?」
「心配しました。無事でよかったです。本当に」
痛いほど強く抱き締められ、僅かに上ずった声が耳をくすぐる。神崎はゆっくりと右腕をシーナの背中に回し、優しく叩いた。
「シーナ」
「食事中に勝手にいなくなったことも許します」
「・・・すまん」
「謝らなくていいです。ちゃんと帰ってきたから。けど、あのお土産は自分で配ってください」
「ああ・・・分かった」
シーナは神崎が拉致されたことへの責任を相当感じていたのだろう。それが彼女の言葉の端々からひしひしと伝わってくる。だからこそ、神崎は何も言わずただ優しく彼女の背中を叩き続けた。
この状況が続いたのはほんの10秒程度だった。シーナは抱き締めていた腕を解くと、そのまま神崎の腕を取り、左脇に自身の体を滑り込ませた。
「トラックに戻りましょう」
「ああ。・・・シーナ?」
「なんですか?」
神崎の問いかけにシーナは前を向いたまま答えた。その様子に神崎は穏やかに微笑みながら頭を振った。
「いや、いい・・・」
彼女の頬に夕日に照らされて輝いた水滴があるのは指摘しない方がいいかもしれない。
「・・・い。大尉・・・。・・・カリラ大尉」
体を揺さぶられて目を覚ましたコリンが見たのは、ぐちゃぐちゃに破壊された部屋と心配そうにこちらを覗きこんでくる数人の部下の顔だった。何がどうなってこのような状況になったかははっきりとは分からないが予想はできる。
「状況は?」
「『アフリカの太陽』は奪われ、基地の主要な兵器と格納庫が破壊されストライカーユニットは全損。即応要員が迎撃に出ましたが撃退されました。負傷者は多数ですが、幸い死亡者はいません」
「そう。相手は?」
「ユーティライネン大尉が率いるラドガ湖の部隊かと」
部下の報告内容はそれは酷いものだった。反撃は予想していたが、これほどに早く、これほど手痛いものだったとは・・・。
コリンは起き上がろうとして、体に奔った痛みで動きを止めた。強かに打ちつけた背中や腰が動くことを拒否しているようだった。仕方なく部下の手を借りて立ち上がった所で、慌しい足音が近づいてきた。
「緊急事態です!」
息せき切って現れた兵士が報告した内容は衝撃的なものだった。
「ヴィープリ基地から航空
「なんですって・・・!?」
この中で指揮官が狼狽してしまったことを責める者は誰もいないだろう。今の報告を聞けば誰であろうと驚愕するに決まっている。今までスオムス軍が共生派の弾圧に動くことは一度も無かった。一体誰の差し金なのか・・・。
だが、まずはともかくこの事態に対処しなければならない。
「この基地は放棄します。持てるだけの装備を持って、計画していたルートで撤退を。早急にです」
「りょ、了解!!」
大慌てで動き始めた部下達を見送り、コリンは1人唇を噛み締めていた。
「いや~この度は動いて下さりありがとうございました」
「礼には及ばん。あいつらには、ことらもほとほと我慢の限界だったからな。だが、お前の話し方は何とかならんのか?」
「いやぁ、こういう性分でして」
「ふん。まぁいい」
アッハッハ、と能天気に笑う鷹守を不機嫌な顔で見ているのはヴィープリ基地の司令官である。
何故、鷹守がここにいるのか?
それは彼が根回しに根回しを重ねた結果である。
ヴィープリ基地の司令官室、その質の高いテーブルの上には鷹守が持ってきた封筒が1つ。これ1つが鷹守が『色々考えていた』結果であり、簡易飛行場の共生派を捕縛に動く決定打になった。
「何時の間に上層部を抱き込んでいたのか・・・。貴様、本当に技術屋か?」
「僕はただの元民間企業の技術屋ですよ~。ひとえに優秀な上司と部下のおかげです」
そう言って鷹守は、やはりいつものようにアッハッハと笑うのだった。
やっと、神崎が助けられました
本当に主人公か、こいつ
主人公なんですよ