ストライクウィッチーズ 一匹の狼   作:長靴伯爵

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随分と時間が空いてしまいました
色々とあった訳ですが、何とか投稿できました

ブレイブウィッチーズに夢が膨らみますね

感想、アドバイス、ミスの指摘、など等よろしくお願いします


第四十八話

 

 

 

 

 

 

 

 神崎は窓の外を見ていた。

 

 すでに太陽は落ちてかけており、薄暗い中雪が舞う。

 座っているベッドは必要最小限といった所で、使い潰されたマットレス、枕と毛布。部屋にはその他に簡素なトイレ、入り口と窓に閉ざす鉄格子。それ以外何も無い。

神崎は窓の外を見て、溜息を吐いた。

 

「想像通りではあるが・・・こうなるとは・・・」

 

 神崎の独り言に答えるように、両手の手錠がカチャリと鳴った。営倉の中で、神埼は再び溜息を吐いた。

 

 

 

 

 

 レストランでコリン等『共生派』に拘束された神崎は、店の外に出るとそのままの勢いで停車していた車に押し込まれてしまった。そして抵抗する暇もなく何かの薬物を打ち込まれ、意識を失ってしまい・・・今に至る。武装と上着を奪われ、Yシャツとズボンだけで拘束されている。

 銃で脅されたとしても魔法力を使えば何とかなる。そう考えた結果がこれだ。そのぐらい相手も見抜いていたはず。だからこそ、衆目がある中で拉致行動を取ったのだ。

 

「考えが・・・甘かった」

 

 神崎がそう呟いて、ベッドに座ったまま背中を壁に付けた。

 シーナは果たして自分の異変に気付いているのだろうか?

 共生派の手が伸びていないだろうか?

 まさか・・・すでに手が下された後か。

 島岡や鷹守は動いてくれるのか?

 ユーティライネン大尉は?

 ・・・分からない。

 

 思考だけが巡っていく。

 

 その無意味な思考を止めたのは、部屋に響いた固いノックの音だった。

 

「居心地はどうですか?」

 

 このような殺風景な部屋にはそぐわない明るい声に、神崎はのっそりと首をもたげる。

 扉越しにコリンが神崎を見ていた。視線には今まで通り冷たい殺気が含まれていたが、その声は本当に彼女の物かと疑うほど明るく穏やかだった。

 

「・・・最悪だ」

 

「なら、結構です。準備した甲斐がありました」

 

「・・・」

 

 皮肉に答える気も無く、神崎は黙ってコリンを睨んだ。

 だが、コリンは余裕を含ませた表情で神崎の視線を受け止め、さて・・・と話を切り出してきた。

 

「ここは私の趣味ではありません。付き合ってもらいます」

 

 ガチャリという音が鳴って扉の鍵が解かれ、銃を持った兵士が2人入ってくる。神崎は小さく溜息を吐いて立ち上がるしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 連行された部屋は、先程の営倉とは打って変わった、品の良い調度品が揃えられた応接室だった。部屋の中央にはテーブルと2脚のイスが置かれており、ティーセットまで準備してあった。

 

「あなた方は下がって。『太陽』さん、どうぞ座って下さい」

 

 背後の兵士は踵を揃えた敬礼を残すと、踵を返して部屋から出た。

 神崎も先に席についていたコリンに見つめられ、止む無く席に着いく。神崎の前にティーカップが差し出され、紅茶が注がれていった。

 

「どうぞ。美味しいですよ。毒なんて入れてません」

 

 そう言ってコリンも自身のティーカップに紅茶を注ぎ、ゆっくりと口をつけた。そして満足げに微笑み小さく溜息を吐く。だが、神崎には紅茶に手を着ける気は一向に無かった。

 

「飲まないんですか?」

 

「・・・何が目的だ?」

 

「焦る必要はないでしょうに・・・。まぁ、いいでしょう」

 

 コリンは静かにティーカップを置いた。

 その瞬間、彼女から湧き上がる冷たい殺気。

 神崎は思わず立ち上がろうとし、その寸前で何とか動きを止めた。氷のように冷たい視線を向けるコリンは以前戦った時と変わりなかった。

 しばしの睨み合いの後、彼女の方から視線を緩めた。

 

「あなたに興味ができただけです」

 

「興味?」

 

「はい。あなたは私たち『共生派』にとって明らかに敵です。私もあなたを抹殺するつもりでしたが、貴方について調べるうちに興味が湧きました」

 

 コリンが自らの口で共生派と語った。その上で彼女は更に神崎に問いかけようとしている。僅かに身を強張らせた神崎に、コリンは微笑んで言った。

 

「『共生派』に入りませんか?」

 

「・・・なんだと?」

 

 神崎はまずコリンが本気でそのようなことを疑った。

 そして彼女の目にまったく遊びの色が無いことを認めると、沸々と怒りが生まれてきた。今まで自分が必死になって戦ってきたことを馬鹿にされている、そう感じた。

 そんな神崎の感情を知ってか知らずかコリンは言葉を続けた。

 

「神職であった家族の下から実質強制的に軍に入れさせられ、訓練期間や初期の部隊では魔女(ウィッチ)達から迫害を受け続けた。厄介払いのごとくアフリカに送られると使い潰すように何度も激戦に投入される」

 

 コリンの口から出ているのは神崎の経歴。どうやったかは分からないが、神崎の経歴は全て押さえているらしい。

 

「そのアフリカで我々『共生派』と事を構えることになり、『蛇』でしたか?私達に対抗する部隊に入れさせられることになった。人間同士の殺し合い、その先鋒。馬鹿な汚れ仕事を押し付けられたものですね」

 

 そこでコリンは言葉を切り、紅茶を飲んだ。いやにゆっくりとした動作でティーカップを置くと、再び問いかけた。

 

「そこまで戦うことに何の意味が?それよりも私達と共に戦いませんか?」

 

「ふざけるな・・・!!」

 

 怒気を滲ませた声で神崎は叫んだ。コリンをねめつける視線が更にきつくなる。

 

「ネウロイとの共生などありえないし、奴等を倒さなければ人類は生きていけない。だからこそ、それを妨害するお前等は俺を殺そうとした。それが事実だ・・・!!」

 

「否定はしません」

 

「俺がいままで歩んできた人生がお前達になんの関係がある?何も無い!」

 

「いいえ、それは違います」

 

「何が違うと・・・!」

 

 反論しようとした神崎より、一足早くコリンはただ一言言い放った。

 

「あなたは軍を憎んでいる」

 

「そんなこと・・・!」

 

 ふざけるなと一蹴したかった。何を馬鹿なと鼻で笑いたかった。

 

 

 だが・・・言えない。

 

 

 神崎はどちらの言葉も発することができず、固まってしまった。な

 ぜ自分が否定できないのか全く分からず、動揺して目が泳いでしまう。

 その様子を見ているコリンのまなざしはどこか優しげで、彼女の瞳にはやわらかな光が灯っていた。

 

「少し話しましょうか」

 

 そう言って話し始めたコリンの言葉は神崎にはどこか心地よく感じた。

 

 

 

 

 

 なぜコリン・カリラが『共生派』となったのか?

 彼女はスオムス、カレリア地方北部の牧場に生まれた。トナカイの飼育が主な仕事で、仕事の合間に狩猟をする。自然と共に生き、自然の中で死んでいく。

 平和で平穏な日々。

 彼女に魔法力が発現して魔女(ウィッチ)としての適性が明らかになると、スオムス軍に入隊し航空魔女(ウィッチ)としての訓練を積んだ。

 その時は『共生派』の思想など欠片も無かったという。

 

 

 きっかけは第一次ネウロイ侵攻だった。

 オラーシャに侵攻していたネウロイがスオムスにも進軍し、圧倒的な戦力差にスオムス軍は為す術もなく後退した。

 結果、ネウロイはオラーシャの国境沿いに国土を奪っていった。つまり、カレリア地方から奪われていったのだ。

 多くの避難民がスオムス中央部に逃れていく中、カレリア地方北部の避難民は極端に少なかった。陸軍の出動が間に合わず、避難民の多くが命を落としたのだという。

 コリンの両親もその中に入っていた。

 だが、コリンには悲しむ暇が無かった。ネウロイが絶え間なく侵攻し、最前線に配置されていたコリンが所属する部隊は防衛戦に明け暮れていたからだ。彼女達の奮戦の甲斐もあって、程なくして援軍を含めたスオムス軍の戦力の再編成が済み、戦線を押し返すことができた。

 

 そんな時にある作戦が実行されることになった。

 未だ反攻作戦を決行できず全く情報の無いカレリア地方各方面への長距離偵察任務。コリンは飛びつくように北部方面への作戦参加を志願した。彼女の志願は通り、コリンはカレリア地方北部へと飛びあがった。少しでも両親の手がかりを見つけたい一心で。

 

 偵察任務の最中、眼下に広がる湖の1つで奇妙な物を見つけた。

 

 この辺りの森は深く、移動の際にはボートで湖を渡るのが一般的だった。避難の際にも当然ボートが使われるはずだったであろう。

 しかし彼女が目にしたのは、沢山のボートが水面下に沈んだ光景だった。しかも全てのボートの壊れ方がネウロイの攻撃にしては異様に小さかった。

 疑問を抱きつつも、コリンは偵察を続けた。

 偵察中彼女が発見したものには不可解な物が幾つもあった。塞き止められ洪水を起こした川、土砂崩れで封鎖されてしまった道、破壊された橋など・・・付近には兵士の他に民間人の遺体があった。むしろ民間人が多かった。

 コリンの疑念は強くなっていった。

 これらの被害がどうしても人為的なものに見えて仕方が無かったからだ。破壊された橋にはネウロイのビームではない、爆発の痕跡が残っていたし、洪水や土砂崩れにしてもネウロイの仕業にしては的確に道を塞ぎすぎていた。

 まさか・・・という嫌な予感を押し殺して偵察を続けたコリンはついに自分の生家に辿り着いた。そこにあったのは牧場でトナカイがのんびりと草を食む、拍子抜けするほど牧歌的な風景。ネウロイが発する瘴気など何処にも無い。

 コリンは半ば呆然としつつも転がるように着陸し、家の中へと急いだ。もしかしたら、まだ両親が居るかもしれないという淡い希望を抱いて・・・。

 案の定両親は居らず、家の中は荒れており慌てて避難した様子が見て取れた。もう両親がいないという事実を再認識させられ、以前は戦闘続きで麻痺していた心がここで限界を迎えてしまった。床に膝を付き喉を枯らして泣き、涙が枯れてしまえば少しでも両親の痕跡を探すべく虚ろな眼差しで家の中を歩き回った。

 やがてコリンは壊れた心を引きずったまま軍人として任務に戻るべく機械的に家から出た。

 目の前の牧場を闊歩する陸戦ネウロイの姿があった。

 トナカイは全く警戒することなく草を食んだままで、辺りに瘴気も出ていない。あまりの光景にコリンは茫然自失となってしまい、ストライカーユニットに駆け寄ることすら出来ずに立ち尽くしてしまった。だが、陸戦ネウロイはコリンを一瞥するかのように体を向けただけですぐにどこかへと消えて行った。

 コリンが混乱から脱して動き始めたのは随分と時間が経った後だった。

 

 帰還中、コリンはずっと考えていた。破壊されたボートや橋、封鎖された道、無事だった牧場、そして攻撃してこなかった陸戦ネウロイ。その疑念はやがてしこりのように彼女の中に残りった。

 偵察作戦からしばらく経った時、コリンはある噂を聞いた。

 曰くカレリア地方北部に展開していた陸軍が民間人を見殺しにした、と。

 同僚たちはそんな訳ないだろうと全く信じていなかったが、コリンにとっては晴天の霹靂だった。彼女が偵察中に見てきた全ての事象が陸軍が仕組んだものとすれば、あの異様に小さい破壊の規模も納得がいく。陸軍は民間人をネウロイを引きつける餌とするために故意に破壊工作をしたのだ・・・!

 激情に駆られたコリンはその足で部隊長の下へ行き、自分の考えを伝え陸軍を断罪するべきだと声高に叫んだ。彼女にとっては至極当然のことだった。しかし、他人から見ればただ錯乱しているようにしか見えなかった。

 結果としてコリンは後方への転属を言い渡された。

 度重なる戦闘で精神的に消耗してしまったと判断されたのだ。通常であればそのまま魔女(ウィッチ)としての立場を剥奪され、軍の病院へ送られていただろう。しかし、コリンが今までの戦闘で確かな戦果を挙げていたことで、後方に送られるに止まったのだ。有体に言えば、当時のスオムス軍は魔女(ウィッチ)1人を手放すことを躊躇う程に余裕がなかったのだ。

 後方に送られたコリンが配属されたのは都市防衛部隊だった。後方と言っても、開戦当初に比べれば数は減ったものの、ネウロイが断続的に空爆を仕掛けてきていた。コリンは迎撃任務に鬱々とした思いを抱えたまま従事することになる。

 

 ある時、転機が訪れた。

 スオムス義勇独立飛行中隊が彼女達の姿を模した人型ネウロイ及びそのネウロイに洗脳された航空魔女(ウィッチ)と交戦したのだ。

 相手の姿を模す。

 相手を洗脳する。

 明らかにネウロイは人類について知ろうとしている。これらの行為により、ネウロイが何らかのコミュニケーションの手段を持っているのは明らかになった。

 この一件を知ったコリンはすぐに動いた。彼女のような思想を持つものは少なからず存在しており、それはスオムス空軍上層部も同様だった。それに取り入ったのだ。

 こうしてコリンは現在の地位を手に入れた。

 

『ネウロイは攻撃しなければ攻めてこない。にも関わらず、軍は自国民を犠牲にしてまでネウロイとの戦闘を続けている。その姿勢を改め、我々はネウロイとの戦闘を止め、共に生きなければならない』

 

 これがコリンが共生派となった理由であり、彼女の確固たる思想である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうしてコリンは口を閉じ、ただ静かに神崎を見つめた。神崎もコリンを見るが、なぜか彼女の姿が靄に掛かったようにはっきりとしない。

 

「私の根幹にあるのは軍への不信感、憎しみ。軍がネウロイを理解しようとしなかったばかりに、この忌わしい戦争は続いています。あなたが今ここにいるのも、その為でしょう」

 

 だが、そうはならなかった。なぜなら・・・

 

「頑なにネウロイとの戦争を望んだ軍が貴方を引き込んだ。当然、貴方にも恨みがあるはず。貴方の人生は狂わされたのだから。貴方に関わった人達の人生までも」

 

 コリンのささやくような声は不気味なほどに染み込んでいき、様々な記憶を思い起こさせた。

 

 強い日差し、見上げた鳥居、海へ出る軍艦、荒らされた部屋、汚されたストライカーユニット、侮蔑の言葉、蔑みの視線。イッピキオオカミ・・・。

 

 気付けば、神崎の呼吸は荒くなり、顔にびっしりと油汗をかいていた。机の下では力の限り両手を握り締め、視線は泳いでいる。

 そんな神崎をコリンは優しく見つめ、そして助けるようにゆっくりと手を差し出した。

 

「一緒に戦いましょう?」

 

 その一言は神崎を大きく揺るがせた。

 彼女が唯一の救いに見え、彼女の手を取らなければという思いが湧き上がった。左手を強く握ったまま、右手を伸ばそうとして・・・。

 フッ・・・とそよ風が顔を撫でた。

 直後、神崎は猛烈な違和感を感じ、伸ばそうとしていた手を止めた。

 

(なぜ、俺は彼女の話をこんなにも聞き入っているんだ?)

 

 その疑問が引き金となり、神崎の思考は次第に覚醒へと向かった。

 

(なぜ俺は彼女の手を取ろうとしていた?今の話は全て彼女の主観。事実という確証はない・・・!)

 

 今までに抱いたことのない激しい怒りのままに、神崎は伸ばしかけた右手をそのままテーブルに叩き付けた。テーブルが激しく揺れ、目の前にあったティーカップが音を立てて倒れる。神崎の目には既に力が戻っていた。

 

「断る!!」

 

「そうですか。今はそうでしょう」

 

 神崎の拒絶をコリンはさも当然とばかりに受け止めた。それと同時に応接室の扉が開き、先程神崎を連行してきた兵士達が中に入ってきた。

 

「あなたには営倉に戻ってもらいます。こちら側に来ていただけるなら、相応の待遇を約束しますが?」

 

「誰がするか」

 

「その返事が変わってくることを期待します」

 

 その言葉を最後に、神崎は営倉へと連行された。

 

 

 

 

 

 応接間の扉が閉まり完全に1人になると、コリンはゆっくりとイスの背もたれに体を預けた。手に取った紅茶の味と香りに癒されつつ、溜息と共に言葉を洩らした。

 

「失敗してしまいましたね」

 

「・・・申し訳・・・ありません」

 

 その言葉と共に何処からとも無く現れたのは、小柄な少女。コリンの部下である航空魔女(ウィッチ)の一人である。伸びた前髪で目が隠れ表情が窺えないが、落ち込んだ雰囲気が滲み出ていた。

 コリンはそんな彼女に微笑んで言った。

 

「こっちに来て紅茶を飲みなさい。長時間の魔法力行使で疲れたでしょう?」

 

「・・・結構です。ですが・・・1つ・・・質問が」

 

「何かしら?言ってみなさい」

 

 コリンが促すと少女は前髪の間から目を覗かせて行った。

 

「あの・・・『アフリカの太陽』・・・は抹殺するはず・・・だったのでは?」

 

「ええ。そうね」

 

「では・・・なぜ・・・洗脳を?」

 

 必ず抹殺する。

 この決意に変化は微塵も無い。ただ、その過程が変化しただけだ。

 

 

 

本当に?

 

 

 

「洗脳すれば敵の情報を引き出せ、尚且つ戦略的にも優位に立てる。そしていとも容易く殺すことができる。そんなところです」

 

「分かりまし・・・た。では・・・失礼・・・します」

 

 そう言い残し、少女は部屋から出て行ってしまった。余程、今回の失敗が堪えたのだろう。

 

「元々、彼女の固有魔法は微弱。失敗する可能性の方が高いというのに・・・」

 

 先程の少女はコリンと神崎が会話している間、常時固有魔法を発動していたのだ。

 その魔法は「振動」。その能力は直接触れた物を振動させるというものだが、威力は弱く、振動させて物を破壊するといった芸当など到底出来ない。だが、コリンはこの性質を利用して、ある技術を編み出した。

 コリンが話す言葉を震わせて、ある特定の周波数を持たせるというもの。

 

 よく分からない技術に思えるかもしれない。しかし、その特定の周波数というのは、無意識のうちに人間が心地よく感じる高さである。それに合わせて、コリンの話術と様々な仕掛けを施す。

 その結果、一種の洗脳が完成するのだ。少女の魔法力が弱いことや、空気を通してコリンの言葉に周波数を持たせるので気流の影響を受けやすいこともあり、使い勝手が非常に悪い。

 しかし、この技術を使ってコリンは何人もの魔女(ウィッチ)を仲間に引き込んだ。現在、彼女が率いている部下達はほとんど洗脳済み。コリンが神崎に長々と身の上話をしたのはその為である。

 しかし、ギリギリのところで失敗してしまった。

 

「もう少しだったのですが・・・なぜ失敗したのでしょう?」

 

 準備は完璧だった。気流が乱れないように完全な密閉にしていた。振動が途切れることはないはず・・・。

 思考を廻らせていると、いつの間にか紅茶を飲み干していた。紅茶の香りが消えたことを名残惜しく思っていると・・・別の匂いが鼻に付いた。

 

「・・・こげ臭いですね」

 

 席を立ち、テーブルを探ると臭いの原因がすぐに分かった。テーブルクロスの端、ちょうど座って手を膝に置いた時に拳がくる位置に火が着いていたのだ。

 

「なるほど・・・そういうことですか」

 

 洗脳に失敗した理由が分かり、コリンは1人頷いた。神崎は固有魔法の炎を手に発現させることで、熱による上昇気流を生み出したのだ。それで気流が乱れ、洗脳に失敗したのだろう。疑問なのは、神崎が故意にそうしたのかどうかだ。洗脳について彼が知る機会は無かったはず・・・。

 

「どちらにしろ、一筋縄ではいきそうにありませんね」

 

 さて、いつこちらを振り向いてくれるのやら・・・と、コリンはゆっくりとした足取りで応接間から出て行った。

 




ブレイブウィッチーズが放映されたら、ストライカーブレイクカウンターができそう

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