ストライクウィッチーズ 一匹の狼   作:長靴伯爵

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段々と寒くなってきて、冬間近ですね
506のドラマCDで黒田邦佳の声がつぼってきてますw

そんな訳で第四十六話です。少し短めです。
感想、アドバイス、ミスの指摘、などなどよろしくお願いします



第四十六話

 

 

 

 

 アウロラが休日を宣言した翌日から早速休日申請を行う者が続々と現れた。

 

 しっかりと隊員間で調整し、人員不足に陥ることなく、任務に支障をきたすようなこともなく、それぞれが晴れやかな表情で休日を満喫すべく陣地の外へと歩いていく。

 

 

 

 そんな陣地の様子を、神崎は上空からじっと眺めていた。その視線に含まれるのは、理解と諦めと疲労、そしてほんの少しの羨ましさ。

 

『さぁて、今日もお仕事頑張りましょうかね。ほら、神崎君もしょげてないで哨戒頑張れ~』

 

「・・・了解」

 

 いつもの明るい鷹守の声が今日はいつも以上に耳に残る。神崎は気分を切り替えるべくいつものように嘆息すると、反転して哨戒ルートに入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 アウロラは神崎を先に休ませると言ったが、結局島岡が先に休むことになった。

 理由は彼の搭乗機である零式艦上戦闘機の故障。

 搭乗機が無くて暇を持て余すパイロットを先に休ませるのは当然の判断だろう。

 

『大量に釣ってからな!捌く準備をしておけよ!』

 

 久しぶりの釣りでテンションが上がった島岡は、愛用の釣竿をしっかりと用意していた。しかもいつの間にか同好の士を見つけていたようで、他部隊のスオムス軍人と一緒にトラックに乗り込み、陣地の外へと出発していった。

 相変わらずの人付き合いの良さに、神崎はいつものことながら呆れたように嘆息した。

 

『何か今日は溜息が多いね~。何かあったのかい?』

 

「・・・別に何も」

 

 インカム越しに溜息が伝わったのか鷹守が神崎に尋ねてくる。無遠慮な声に神崎は若干イラつきつつ答えた。無礼な態度だが鷹守は全く気にしていないようで、更に遠慮なく話しかけてくる。

 

『もしかして島岡くんが居ないから寂しいの?それとも他の人に取られちゃって不貞腐れてるの?』

 

(何を言っているんだ、こいつは・・・)

 

 呆れてものが言えないとはこのことか。神崎は疲労を滲ませた声音で答えた。

 

「何故、そんな思考になる?シンは俺と違って顔が広い。いつものことだ」

 

『またまたぁ、そんな事を言って本当は・・・』

 

 鷹守はまだ何か言っていたが、神崎は途中で通信を切った。

 これ以上彼の言葉を聞いていると本格的に疲れてくる。技術者としては天才なのに、どうしてああなのか?

 いや、むしろ天才だからこそああなのか。すでに何度も思った疑問である。

 

(何はともあれ、まずは任務だ)

 

 いくら鷹守相手に疲れたからといって任務をおろそかにする訳にはいかない。神崎はMG34を構えなおすと哨戒に集中した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その哨戒も特に何事も無くすぐに終わり神崎は滑走路へと戻った。ネウロイの勢力を削いだのは確かなようだった。

 着陸し、格納庫でストライカーユニットを整備兵に預け、任務の結果を報告すれば、緊急出撃か次の哨戒になるまで待機。

 神崎は無駄に明るい鷹守の絡みをあしらいつつ報告を終えると、格納庫の隅にあるテーブルに着いた。テーブルには誰かが気を使ってくれたのか、ポットに入れたコーヒーとサンドウィッチが置かれていた。いくら魔法力特性が炎で熱を持つといってもやはり寒いものは寒い。

 勿論、魔力も消耗している。そういう訳でこの差し入れはとてもありがたかった。

 サンドウィッチを齧り、コーヒーを飲む。空腹が満たされ体が温まったところで、ほぅ・・・と溜息を吐いた。

 

「哨戒、ご苦労だったな」

 

「っ!ユーティライネン大尉」

 

 いきなりかけられた声に神崎が振り向けば、アウロラが格納庫に入ってくる所だった。立ち上がろうとする神崎をアウロラは手を上げて制し、テーブルの向かい側に座った。

 頭に被っていた帽子を取ると、すまなそうに神崎を見た。

 

「率直に言うとな。お前を休ませるのは1日が限度だそうだ。すまない」

 

 ネウロイに十分に対抗できる戦力を遊ばせることは、今は小康状態といえど厳しいというのが司令部の判断のようだ。その1日の休養もアウロラが何とかもぎ取ったものらしい。

 

「そうですか。・・・大尉が謝ることではないです。むしろありがとうございました」

 

「そう言ってもらえると助かる」

 

 それだけ言うとアウロラは立ち上がった。これから鷹守と打ち合わせがあるらしい。

 

「この埋め合わせはいつか必ずするからな。期待しておけよ?」

 

「分かりました。楽しみにしておきます」

 

 アウロラは神崎の言葉に頷き、鷹守の方へと足を向ける。が、その寸前何か思い出したのか顔だけをこちらに向けた。

 

「そうそう、そのサンドウィッチとコーヒーな」

 

「はい?」

 

「うちの連中が作ってたものだ。休み返上は可哀想だから、せめてってな」

 

 うちの連中というのは陸戦魔女(ウィッチ)達のことだろう。予想外の所からの差し入れに神崎は食べかけのサンドウィッチとポットをまじまじと見て、軽く目を伏せた。

 

「それは・・・ありがとうございます」

 

「別に私がやらせた訳じゃないさ。会ったらちゃんとお礼を言ってやってくれ」

 

「勿論です」

 

「それと・・・お前の休みはちゃんとシーナと合わせてやる。羽目を外すなよ?」

 

「・・・そんなことをするつもりはありませんが、一応了解しときます」

 

 アウロラはニヤリと笑うと今度こそ鷹守の方へと歩いて行った。神崎はそれを見送ると、テーブルに着いてもう一度まじまじとサンドウィッチを眺め、そして食べた。

 

「ご馳走様・・・でした」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2回目の哨戒を終えると、本格的に暇を持て余すことになった神崎。

 哨戒にも監視網にも全く敵影が引っかからないのは、まだ短い期間しかいない神崎としても初めてのことだった。

 流石に暇を持て余し、しばらく手を着けていなかった趣味である歌の楽譜を読んだり、筋力トレーニングや扶桑刀で素振りをしたり、ラドガ湖防衛陣地を散策したりして時間を潰し、いまや夕刻。

 神崎は最低限度の装備を持って陣地の外へ出てラドガ湖の畔を歩いていた。何の気なしの散歩のつもりだったが、湖畔に夕日が反射するラドガ湖の美しさに思いのほか充足感で満たされていた。

 目の前に勢い良く何かがぶつかってくるまでは。

 

「バウッ!!」

 

「わぷっ」

 

 顔面に感じるモニュとした柔らかさとサラサラした感触はともかく、しかしそれなりの重さが顔面にかかり神崎は仰向けに倒れた。

 幸い、積もった雪のお陰で後頭部にダメージがくることはなかったが、追い討ちをかけるように体中に幾つもの重さが降りかかってきた。神崎は訳も分からぬまま、むーむーと唸ることしかできない。

 

「ちょっと、誰を押しつぶしてるの?え?まさか少尉?」

 

「むぐが」

 

「ほら!どいて!ああ、ほんとに神崎少尉だ・・・」

 

 聞いたことのある声と共に神崎の顔を覆っていた物がのかされた。視界一杯に夕暮れの空が広がると、ベロンと何かが頬を撫でた。

 

「何だ・・・?」

 

「ワンッ!」

 

 鳴き声の方に顔を向けると間近でハスキーがこちらを見ていた。少し頭を動かせば体の上を5匹の犬が占領していた。道理で体が動かない訳だと納得が言ったところで、頭上から声が。

 

「えっと・・・すみません、神崎少尉」

 

「・・・シーナか」

 

 眉を八の字にしたシーナが申し訳なさそうに謝り、神崎の体に乗ったハスキー達を退かしていく。

 シーナにリールを引かれて彼女の足元に集まった6匹のハスキー。

 皆一様に精悍な顔つきだが、何が嬉しいのか激しく尻尾振ってこちらを見ている。シーナは今にも再び走り出しそうなハスキー達を抑えて言った。

 

「神崎少尉のことが大好きみたいですね、何でです?」

 

「俺に聞くな」

 

 立ち上がった神崎は付着いた雪や草を払うとハスキー達に近づいていった。

 襲い掛かってこられるよりも自分か向かう方がいいだろう。

 激しく尻尾を振りじっと見つめてくるハスキー達の前に座ると手を伸ばして1匹1匹撫でていく。ハスキー達は撫でられる度に激しくじゃれつき、更に近寄ってきて顔を舐めてきた。

 そんな中でハスキー達の顔をよく見ると、以前神崎達がここに初めてきた時の犬橇を引いていたハスキー達だった

 

「あの時の犬だったのか・・・。この前は助かった。ありがとう」

 

「ワン!!」

 

「神崎少尉の使い魔はオオカミでしたっけ?そのせいかは分かりませんが、とても懐いてます」

 

 まるで神崎の言葉を理解しているかのように吼えるハスキー達にシーナは微笑みかけた。

 シーナはこのままハスキー達を遊ばせるようでリールを放して雪原に解き放っていた。元気に雪原を駆け回るハスキー達を眺めつつ、神崎とシーナは倒れた大木に腰かけていた。

 

「元気がいいな」

 

「3兄弟が2つなんですよ。でも6匹一緒に育てたから6兄弟みたいなものですけど」

 

「・・・シーナが育てたのか?」

 

「そうですよ。実家にいた時によくやってましたし」

 

 取り留めの無い会話を交わす2人。

 神崎はハスキー達から視線を外すと隣に座るシーナに目を向けた。ハスキー達をまるで親のように眺める彼女。神崎はその横顔を見ていると訳の分からない感情が湧き上がり、自分の中で何かが噛み合わないような感覚を覚えた。

 

「そういえば・・・」

 

「どうした?」

 

 シーナが何かを思い出したのか急に神崎に顔を向けた。すでにシーナに顔を向けていた神崎と向かい合う形になる。

 

「この前の殲滅戦の時、少尉が最後爆撃しましたよね?剣でしたけど、どういう仕組みなんです?」

 

「ああ、あれは・・・」

 

 神崎は大木に立て掛けていた炎羅(えんら)を手に取ると少し刀身を覗かせ、シーナに見せた。

 

「この刀は名を『炎羅(えんら)』と言うのだが、魔法力の伝導率がとても高い。だから、俺が直接炎を放つよりも、この刀に炎を集中させた方が空中に発散してしまう魔法力が少なくなるため威力が上がる」

 

「へぇ~。だからとてつもない威力だったんですね?」

 

「そういうことだ。・・・まぁ、この刀ほど伝導率が高い物はほとんどないからな。ここぞという時にしか使えないがな」

 

「じゃあ、神崎少尉が外したら無駄使いってことですか?」

 

「まぁ、そうだな」

 

 刀身を覗き込んでくるシーナに諭すように説明する神崎。ある程度説明を終えたところでシーナは神崎を見上げた。その表情は無表情に近かったが、神崎はどこか悪戯っぽい物に感じた。

 

「少尉って、そういう時に外しそうじゃないですか?」

 

「・・・そんなことはないが?」

 

「でも、この前私達に当てそうでしたよね?」

 

「いや、当ててないが・・・」

 

「いえ、衝撃は凄かったです。これは謝罪を要求します」

 

「・・・お前は俺への当たりが強くないか?」

 

「それは神崎少尉だからですよ。友達じゃないとこんなこと言いません」

 

 

 

 友達

 

 

 

 シーナの何気無い言葉の中にあったこの言葉。

 このたった一言が神崎の中で大きな衝撃を与えた。

 そして、この一言が神崎の中で湧き上がっていた感情を噛み合わせた。

 マルセイユや稲垣の妹のような関係でもなく、上官である加東やマイルズのような関係でもない。

 同年代で階級も近い魔女(ウィッチ)の『友達』が初めて出来たのだ。少し魔女(ウィッチ)恐怖症の為に魔女(ウィッチ)と関わるのを避けていたのにも関わらずに。

 

 

 その事を自覚した神崎は、炎羅(えんら)の刀身を鞘に収め大木に立て掛けた。そして、自分の変化への苦笑も交えつつ、小さく笑ってシーナを見た。

 

「友達・・・か」

 

「え?ええ、そうですよ。」

 

「・・・まぁ、多少は許してやるか」

 

「フフ・・・ありがとうございます。・・・っと、そろそろ暗くなりますね」

 

 シーナの言うとおり既に辺りは暗闇に閉ざされてきていた。

 柔らかな笑みを浮かべたシーナは座っていた大木から立ち上がるとピィッと鋭く口笛を吹いた。すると、遊んでいたハスキー達が反応し、一斉にシーナの元へと駆け寄って来る。シーナは慣れた手つきで1匹1匹にリールを付けていき、両手に3つずつ携えて神崎の方を見た。

 

「さ、帰りましょう」

 

「そうだな」

 

 ハスキー達に引っ張られるように歩くシーナ。神崎はその様子を眺めながら彼女の少し後ろを歩くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 神崎は既に暗くなった外を眺め、格納庫のテーブルに座り手紙を書いていた。

 宛先はアフリカと扶桑。

 統合戦闘飛行隊「アフリカ」と竹井醇子。

 スオムスに到着した時に手紙を受け取っていたが、いままで返事を書く暇が無かった。

 いや、こんな機会が無ければ返事を書こうとも思わなかったかもしれない。

 

 「アフリカ」へ書く内容といえば最近の近況だろう。任務については検閲に触れるため書けないが、ここでの生活について書いていればそれなりに埋めることが出来た。

 後、島岡にも写真でも同封することができればよかったのだが、生憎ここには加東のような頻繁に写真を撮影する人も、写真の現像機も無いので到底無理だった。

 

 竹井への手紙にも最近の近況と個人的な用件。

 近況についてはすぐに書くことができた。

 しかし、個人的な用件について書こうとして筆が止まった。

 竹井から来た手紙には1度扶桑に帰り家族と会って欲しいという旨が書かれていた。

 今でこそ彼女は自分の婚約者であるが元々幼馴染でもある。彼女と今のような関係になる経緯の中で神崎は家族と疎遠になってしまった。もともとそうなったこと事態彼女の意思とは全くの無関係なのだが、それでも神崎と彼の家族を修復したいと思っている。

 

 たった1行、「まだ実家に帰るつもりはない」と書くだけ。

 

 ただそう書くだけなのに、鉛筆を紙に付けた途端何故か手が止まった。

 

「・・・」

 

 便箋を見つめるだけでただただ無為に時間が過ぎていく。島岡が帰ってきたのはそんな時だった。

 

「大漁だけど滅茶苦茶寒ぃ!!」

 

「ああ・・・帰ってきたか」

 

 寒さで顔を赤くした島岡は右手には釣竿左手には大漁の魚が入った大きなバケツを持っていた。神崎は鉛筆を置き、バケツの中身を覗き込む。

 

「・・・マスか」

 

「おう。んじゃ、いつもの通り頼めるか?」

 

「陸軍の調理場を借りるか・・・」

 

 神崎が島岡からバケツを受け取ると、そこで島岡はテーブルの上にあった便箋や鉛筆に気が付いた。

 

「手紙書いてたのか?」

 

「ケイさんと醇子にな。アフリカに送るからお前もライーサに書いておけ」

 

「そうすっかな」

 

 まずは釣具を片付けてからだな、と島岡は自分の部屋へと歩いていく。神崎も格納庫から出ようと足を外に向けるが、その直前に何を思い立ったのか再び手紙に向き直った。立ったまま鉛筆を取り、竹井宛の便箋にサラサラと1行付け加え、今度こそ格納庫の外へと歩いていく。

 

 テーブルの上に残った手紙には、

 

『新しい友達が出来た』

 

 と、一言添えられていた。

 




日常?回というかそういう感じです
気がつけばスオムス編になってから戦いばかりなので息抜きも必要ですよね


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