ストライクウィッチーズ 一匹の狼   作:長靴伯爵

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第四話です。

アフリカとヨーロッパで意外と近いんですね。あと零戦の航続距離の長さに驚きました。零戦パネェ。

感想、アドバイス、ミスの指摘などよろしくお願いします。


第四話 

  四話

 

 

                    航海日記                島岡信介

 

 あまりにもやることがないので、日記でも書こうと思った。途中からだけどな。

 

 出港から11日目

 三回目の哨戒任務があった。前みたいにネウロイに出くわすこともなく、至極普通に終わった。なんでも、この前のネウロイは、はぐれネウロイの類で完全に予想外だったらしい。早期に発見できたからよかったものの、発見が遅れていれば、船の何隻かは沈んでいた可能性があったと坂本中尉が言っていた。

 そういえば、ゲンと坂本中尉の互いの呼び方が、「坂本中尉」から「坂本」へ、「神崎」から「ゲン」に変わっていた。ゲンに聞くと、坂本中尉は「ゲン」の方が呼びやすいということで、そうなったらしい。ゲンは坂本中尉が階級で呼ぶなと言われたそうだ。今度、俺も呼んでみるか?

 

 

 12日目

 自分の零戦の整備に立ち会っていると、整備やパイロットの連中から、ゲンと坂本中尉がどういう関係になっているか、を聞かれた。どうも呼び方が変わったことで皆怪しんでいるらしい。よく分からん、と答えると「坂本中尉に手を出したらただじゃおかねぇ。」とか「出る杭は打っとくか。」とか「俺も中尉と話したい」みたいなことが聞こえた。面白そうなのでゲンには伝えないでおこう。

 

 

 13日目

 通路を歩いていたら、坂本中尉に話しかけられた。ゲンについて色々と尋ねるので、何故かと尋ねると、「あいつに合った訓練を新しく作りたい」とのこと。面白そうだったので、色々と教えといた。その日から、船室に帰ってくるゲンの顔には悲壮感が漂っていた。

 

 

 16日目

 ゲンが訓練から逃げ始めたので、坂本中尉が船室に押しかけてきた。そしたら、俺のベッドに比べて結構いや相当散らかっているゲンのベッドを見て、ゲンを一喝。何故か俺も巻き込まれ、小一時間ほど扶桑海軍軍人の在り方について説教された。その後、ベッドの清掃を命じられ、それが終わるとゲンは訓練に連れて行かれた。ちなみに、次の日にはゲンのベッドはまた散らかっていた。

 

 

 17日目

 今日は何もすることがなかったので、ゲンの飛行訓練を見学した。戦闘機とはまた違う機動に感心した。ゲンと坂本中尉の模擬戦もあり、刀を用いた接近戦では、いつの間にか沢山の観客がいた。結果は坂本中尉の勝ちだった。ゲンが炎を使えばどうだっただろうか?

 

 

 20日目

 喜望峰を通過した。通過中、海は大荒れに荒れて、海軍にも拘らず多数の船酔い者がでた。俺もだが。ゲンは坂本中尉の訓練が凄まじかったらしく、この大波の中でもずっと寝ていた。通過した後に起きて、「何があった?」と、聞くもんだから無性に腹が立ち、ゲンの顔面に枕を投げておいた。

 後から整備兵に聞いたことだが、坂本中尉は船が大揺れしているのにも拘らず、ずっと素振りをしていたらしい。あの人の体は、どうなってるんだ……。

 

 

 22日目

 今日は特別訓練として、ウィッチと戦闘機による編隊飛行の訓練を行った。ゲンと一緒に飛ぶのは久しぶりだった。なかなか楽しかったが、訓練が終わった後に体力づくりとしてさらに訓練を行うことになった。坂本中尉の指導にも熱が入り、最終的にゲン以外は全員へばっていた。ゲン曰く、「こんなのは、まだ優しい方だ。」とのこと。少しゲンを尊敬した。

 

 

 25日目

 俺たちはもうそろそろアフリカへ出発する。その前にと、整備兵やパイロットの連中が宴会を開いてくれた。ゲンは坂本中尉関連の質問攻めをくらっていた。俺は、飲み食い笑い楽しんだ。その後、賭け花札大会となった。俺は早々に負けてしまった。ゲンは強引に参加させられていた。最初は負けていたが、俺が助言をしていくと徐々に勝ち始め、最終的にゲンの一人勝ちだった。

そんな馬鹿騒ぎをしていると、突如坂本中尉がやってきて、「うるさい!!」と一喝。「そんな騒ぐ体力があるなら訓練だ!!」と言って、整備兵とパイロット連中を走らせたらしい。ちなみに、俺とゲンは、ゲンが謎の悪寒に襲われた為、こっそりと宴会から離脱。その直後に坂本中尉が来たというわけだ。どうやら、ゲンは坂本中尉の気配がわかるようになったらしい。

 ちなみに手に入れた賭け金は相当な金額で、二人で山分けした。

 今日で日記は終わり。また書く事はあるのか?

 

 

 

ジブラルタル海峡付近

 

 

 

「世話になった」

 

「なに。楽しかったさ」

 

 ストライカーユニットを履いた神崎と坂本はそんな会話をしながら握手をする。神崎も島岡も共に準備を終え、後は飛び立つだけだった。

 

「アフリカでも、お前なら大丈夫だ。なんせ、私が鍛えたんだからな!」

 

「一ヶ月だけだがな。」

 

 坂本の言葉に、神崎は苦笑して答える。神崎と坂本との関係も一ヶ月で変わったもので、今では友人として接している。

 

「私も欧州で戦うことになる。また会おう。ゲン」

 

「ああ」

 

 そう言って坂本は離れていった。神崎は発艦位置に移動する。そこで島岡からの通信が入った。

 

『よう。終わったか?』

 

「ああ。いつでも行けるぞ。」

 

『了解』

 

 島岡はそう言うと、エンジンの回転数を上げてそのまま赤城から発艦した。続いて、神崎もユニットに魔力を注ぎ込み、加速。赤城から発艦する。神崎と島岡は、赤城への挨拶替わりに揃って宙返りをすると、そのままアフリカに向け飛んでいった。

 

 

 

 

 

 ジブラルタル海峡から目的地であるトブルクまで3000km以上ある。いくら航続距離の長い零式と零戦でも一度に飛ぶのは無理があった。そのため、一度ロマーニャ軍の飛行場で、補給と整備を受けることになっていた。二人はロマーニャに向け地中海上空を飛ぶ。空から見る地中海は美しく風も穏やかで、気分は遊覧飛行のそれだった。

 

 神崎は零戦の翼に掴まりながら、歌を口ずさんでいた。

 

「フ~ンフフフ~、フ~フフフフ~ン♪

 フ~ンフフフフ~、フフ~ン♪

 フ~フフ~ン、フ~ンフ~ン♪」

 

『何の曲だよ。それ。』

 

 無線越しに島岡が尋ねる。今は、二人しか使っていない周波数であるため私語も問題なかった。

 

「ガリアの曲だ。さくらんぼがなんたらっていう。」

 

『ガリア?ここは地中海だぜ?なんでここでガリアの曲なんだよ?』

 

「ロマーニャと地中海と空とを考えたら、この曲が歌いたくなった」

 

『そうかよ。・・・そういやロマーニャには豚の耳の魔女(ウィッチ)がいたらしいな』

 

「それは知ってる。紅かったらしい」

 

『さすがロマーニャだな』

 

 そこで、ふと島岡が言った。

 

『そうだ。お前、翼を掴むな』

 

「なぜ?」

 

 不意に島岡が翼を揺らしたため、神崎は慌てて手を離す。

 

『俺は、自分の機体の翼は誰にも触らしたくないんだよ。こだわりだな』

 

「そうか・・・俺もか?」

 

『お前もだよ』

 

 島岡の答えに少し落ち込む神崎。

 

「じゃあ、誰ならいいんだ?」

 

『そうだな~。俺が愛した人かな?』

 

「お前、どこかで頭でも打ったか?」

 

『うるせぇ!!』

 

 そんな会話をしつつ、二人は時間を潰す。なにしろ、ロマーニャまで5時間程かかるのだ。二人は更に会話を続けた。

 

『しかし、こんな綺麗な海を見てると、釣りしたくなるな』

 

 島岡がぼやく。無類の釣り好きである彼は、最近は全然釣りをすることができないので、やきもきしているのだろう。

 

『なぁ。ここじゃ何が釣れると思うよ?』

 

「俺にロマーニャの魚類分布が分かるか」

 

『もしかしたら、扶桑じゃ見たこともない魚が釣れるかもな。そしたら・・・』

 

 島岡が釣りについて語り始めた。神崎も釣りは好きだが、島岡の話に付き合う気はなかった。神崎は腰に装備していたモーゼルC96を抜くと、飛びながらも器用に手入れを始めた。

 

 片や話しながら、片や黙りながら、二つの飛行機雲が伸びていった。

 

 

 

 

 ロマーニャでの補給と整備もつつがなく終わり、それからの約二時間の飛行を経て、二人はトブルクに到着した。トブルクのブリタニア第八軍の飛行場で機体から降りた二人をアフリカの砂塵が襲う。

 

「痛い!?風が痛い!?」

 

「・・・ぺっぺっ」

 

 顔面に砂を浴びた島岡がわめき、神崎は口に入った砂を吐き出す。

 

「なんか、さすが砂漠って感じだな」

 

「そうだな」

 

 二人は基地司令に挨拶しに行くことにした。神崎が近くにいたブリタニア兵に声をかけ、基地司令の場所を聞く。そのブリタニア兵に案内してもらい、二人は基地司令のところへ歩いて行った。

二人が通されたのは、石造りの殺風景な部屋だった。中には斜に構えた細身の少将が一人立っていた。

 

「私がここの指揮官を務めるオコーナーだ」

 

「扶桑皇国海軍神崎玄太郎少尉です」

 

「同じく特務少尉島岡信介です」

 

オコーナーは敬礼をする二人を見て言った。

 

「『アフリカ』への増援のことは知っている。ここじゃ増援は大歓迎だ。もっとも・・・」

 

 オコーナーはそこで言葉を区切った。

 

「それがウィッチのまがい物だとしてもな」

 

 島岡の眉がピクリと動く。神崎は顔色一つ変えず言った。

 

「自分がまがい物かどうかは、今後の戦果で判断してもらえば幸いかと」

 

「ふむ」

 

 オコーナーがニヤリと笑う。

 

「それは、もちろんだ。さて、二時間後に『アフリカ』からの迎えが来る。貴様が言うように今後の戦果とやらを期待していよう」

 

「はい」

 

 島岡と神崎は敬礼を残し、部屋を後にした。

 

 

 

「なんだ!?あの言い方!ゲンがもうネウロイ落としてんの知らないのかよ!」

 

「そんなすぐに情報が届くはずないだろう?それにブリタニア人は皮肉屋だ」

 

 我がことのように憤慨する島岡を、貶されたはずの神崎がなだめる。二人は今、トブルクの街で買い物中である。時間も空いていたし、防砂、防暑用の衣服も必要であったからだ。

 

「というか、お前はムカつかなかったのかよ?」

 

「まぁ、慣れてるからな」

 

 そんな会話を続けながら、二人は店で砂漠用のスカーフや手袋、ゴーグルを購入する。ついでに近くの酒屋でそれなりのワインを数本買った。マルセイユが酒好きであることを聞いていたからだ。

 

「だがよ・・・。お?」

 

「ん?」

 

 まだ何か言おうとした島岡が、何かを見て足を止めた。神崎も足を止めそれを見る。

 

 

 通りの向かい側では、手に看板のようなものを持った人々が口々に何かを叫びながらぞろぞろと行進していた。

 

「なんだ、あれ?なんかの祭りか?」

 

「さぁ・・・?」

 

 気になった二人は、道路を渡って行進に近づく。そこで、看板には何かの絵にバツ印がされ文字も書かれているのが分かったが、現地語の為に内容は分からなかった。

 

「・・・少なくとも祭りではないな」

 

「だな。おい、あれ見ろよ」

 

 島岡が指差した先、そこにはブリタニア兵の姿があった。どうやら行進を監視しているようだった。神崎が首を巡らすと、カールスラント兵やリベリン兵も見受けられた。物々しい雰囲気に島岡が唸る。

 

「なんか、やばくねぇか?」

 

「ああ。戻ろう」

 

 二人は、逃げるように基地へ戻った。行進の喧騒はまだ続いていた。

 

 

 

 二人が基地に戻ると、ちょうど『アフリカ』からの迎えが到着した。零式と零戦を運ぶ小型と大型のトラックだ。神崎の前に止まった小型トラックから、一人のブリタニア兵が降りてきた。

 

「統合戦闘飛行隊『アフリカ』所属、ガードナー上等兵です!」

 

「増援としてきた、扶桑海軍少尉、神崎玄太郎だ。よろしく頼む」

 

 神崎は挨拶を交わすと、ストライカーユニットの積み込み作業に入った。島岡も大型トラックに零戦を積み込んでいる。

 

「それでは出発します」

 

 積み込みが終わるのと同時に、トラックは出発した。神崎は小型トラックの助手席に座り、西日に照らされた街並を見ていた。トラックが道を曲がった時、神崎の目に先ほどの行進が映った。気になった神崎は、ガードナーに尋ねる。

 

「ガードナー上等兵。質問があるんだが・・・」

 

「はい。なんでしょう?」

 

「あれはなんだ?」

 

 神崎は行進を指差す。すると、ガードナーは苦虫を噛み潰したような顔になった。

 

「ああ、あれですか・・・。あれは・・・」

 

 ガードナーは話し始めた。

 

 

 つまりは、あの行進は連合軍に対する反戦デモらしい。ネウロイとの戦いに反対しているのだ。

 

「はぁ?なんで?」

 

 ちょうど神崎と同じことを聞いていた島岡が、大型トラックの運転手に尋ねる。

 

「彼らの言い分は『こちらが攻撃するからネウロイも攻撃してくるんだ。なら、こちらから攻撃しなければいい。』ということらしいです」

 

「そんなわけないだろう!?大体ネウロイの方から侵攻してきてるんだ!奴ら、ネウロイのこと知らないのかよ・・・。」

 

 呆れた声の島岡。しかし、その言葉に運転手は真面目に頷いた。

 

「そうなんです。知らないんですよ」

 

「はぁ?」

 

「そんな言い分を言い始めたのはトブルクの富裕層らしいです。トブルクは連合軍の拠点だったので、直接ネウロイの侵攻を受けたことはないんです。そのため、自分たちには実害のないネウロイの戦争で自分たちの税金を取られるのは納得できない・・・と」

 

「はぁあ!?」

 

 

 

 

 

 

「だが、他の人々がそんな馬鹿げたことを信じるはずがないだろう?軍人はともかく、一般人でもエジプトからの避難民といった実際にネウロイの侵攻を経験している人もいるはずだ」

 

 神崎がそんな疑問を口にする。しかし、ガードナーは力なく首を振った。

 

「そうなんですが・・・。そういう人たちはネウロイに対して相当な恐怖心を持ってしまってるんです。そして、恐怖心からその言い分を逆に信じてしまってるんです。ネウロイの侵攻から逃れたい一心で」

 

「な・・・!?」

 

 絶句する神崎。ガードナーは続けた。

 

「今はまだ、あんな風に行進するだけです。でも、うわさではそういった一派が連合軍に対する武装集団を作り始めたとか。上層部も頭を悩ませてるらしいです」

 

「そんなことが・・・。」

 

 ひどく驚いた様子の神崎。しかし、ガードナーは明るく言った。

 

「でも、僕たちがやることは変わりません。ネウロイと戦って人類を守るだけです。そうすれば、きっと、あの人たちも分かってくれますよ!」

 

「・・・そうだな」

 

 ガードナーの言葉に、神崎は少し頬を緩ませた。そのせいだろうか?神崎は急に眠気に襲われた。合計約7時間飛行していたのだ。無理もない。

 

「少し眠る。到着したら起こしてくれ」

 

「分かりました」

 

 神崎はガードナーに声をかけ、帽子を目深にかぶり直す。ガタガタと揺れるトラックの中、神崎は眠りにつくのだった。

 




ドイツもといカールスランドの戦闘機の航続距離って、零戦の五分の一しかないんですよね。

逆に零戦が長すぎるのかな?

次回、『アフリカ』の面々が出てくる予定です。

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