ストライクウィッチーズ 一匹の狼   作:長靴伯爵

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アルンヘムの橋を見てきました!
私の中でのペリーヌの好感度が倍の倍でした!

もうそろそろTVシリーズ情報ないのかな?

そんな訳で四十話です。

感想、アドバイス、ミスの指摘などなどよろしくお願いします

遅れて申し訳ない!


第四十話

 

 

 

 程なく夜明けという時間。

 常夜灯の灯りがポツポツと燈る宿舎は静寂に包まれていた。

 

 その静寂が破られるのはいつも突然だ。

 

「敵襲!!!」

 

 誰かの怒号を皮切りに新しく設置されたサイレンがけたたましく空気を震わせた。

 

「・・・ッ!!!」

 

 サイレンが鳴り響いたのと同時に、神崎はすぐさま覚醒し毛布を跳ね除けた。毛布の上に置いてあった小物類が床に散らばったが気にしている暇は無い。ベッドから飛び降り、欄干にあらかじめ用意してあった、「炎羅(えんら)」とC96が取り付けてある弾帯を腰に巻きつける。厚手の寝巻きの上からだが、1秒の差で勝負が決してしまうこの状況で、第2種軍装に着替える余裕など一切無い。

 部屋を飛び出し、隣の格納庫へと駆け込と、そこではすでに慌しい空気が流れていた。

 鷹守子飼いの整備兵達が盛んに動き回り、しかし怒号が飛び交うことなく、短い会話を行いつつ着々と零式艦上戦闘脚の出撃準備が整えられていく。

 神崎もすぐさまユニットケージに駆け寄り、今しがた整備が終えられた零式を装着した。神崎から溢れ出る魔法力が零式の魔導エンジンに火を入れ、格納庫に力強いエンジン音を響かせる。

 

「銃を!」

 

 零式の点検を行いつつ神崎が右手を出すと、すぐさま一人の整備兵が反応し銃を手渡した。

 

「MG34!弾数50!予備弾倉4!」

 

「了解。ケージから分離し滑走路へと向かう」

 

 神崎は点検を終え、MG34と予備弾倉を受け取り滑走路へと出た。外は雪は降っていないが、未だ薄暗い。滑走路には視認しやすいようにとランプが置かれていた。

 

『あっあ~。聞こえている?神崎君?』

 

 インカムから鷹守の声が聞こえる。朝っぱらにも関わらず、何が楽しいのかいつもの通りの明るい声。神崎は離陸位置に移動しつつ答えた。

 

「ああ。聞こえている」

 

『了解~。じゃあ軽く状況説明といこうか?確認されている敵戦力は、中型規模の爆撃機型が3。護衛の小型が20.ここから東北東に約50km地点を約時速300kmで飛行中。予測進路はヴィープリ。本格的な侵攻の割りには規模が小さいから、威力偵察?みたいな感じなのかな?僕は技術屋だからよく分からないけどね』

 

 鷹守の言葉を聴きつつ、神崎は離陸位置に到着。すぐさま零式に魔法力を注ぎ込む。

 

「神崎玄太郎、発進する」

 

 合図と共に加速を開始。離陸可能な速度まで達すると一気に未だ闇が残る空へと舞い上がった。下に目を向ければ雪で白んだ大地がぼんやりと見える。こちらの出撃に気付いたのか、スオムス陸軍の防衛陣地にもポツポツと灯りが燈り始めていた。

 鷹守の通信は続く。

 

『最優先目標は爆撃機型の殲滅。出来るなら全部墜としてしまってもかまわないよ?』

 

「了解。シンは?」

 

『島岡君は2次襲撃に備えて待機かな。陽動の可能性もあるしね。じゃあ頑張って~』

 

「・・・了解」

 

 なんとも気が抜けてしまいそうな応援を残し、鷹守からの通信は途絶えた。神崎は嘆息しつつも意識を戦闘用のそれに切り換えた。

接敵までそう時間はかからない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・見えた」  

 

 11時の方向。白み始めた空に連なる黒々とした斑点を神崎は視認した。距離が縮まるにつれ、斑点の細部がはっきり見え始める。細長い胴体と長い主翼を持つ爆撃機型が3機。ヒエラクスに酷似した小型が20機。報告通りである。

 

「こちら神崎。敵編隊を捕捉。これより攻撃に移る」

 

 神崎は一言通信を飛ばすと、MG34を構え高度を上げた。まだこちらに気付いていないネウロイに逆落としによる奇襲を仕掛ける算段である。

神崎の思惑通り、気付かれることなくネウロイの上方に位置取ると、一気呵成に急降下を開始した。内臓が浮き上がるようなマイナスGを感じつつ、楔形の編隊を組む爆撃機型3機の先頭に狙いを定める。こちらに気付いたのか、ネウロイの動きがにわかに慌しくなるがもう遅い。

 神崎は無造作にMG34の引き金を引いた。

 圧倒的な連射速度により放たれる弾丸の雨が、爆撃型ネウロイの胴体中心を貫き、幾拍置いてネウロイは白い粒子となって爆発した。どうやら上手い具合にコアを破壊したらしい。

 神崎の攻撃はまだ終わらない。

 ネウロイとすれ違い高度が入れ替わった瞬間、クルリと一度だけロールして後方を向くと炎を放った。いつものような敵を追跡するものではない。強いて言うなら散弾のようなものだ。無数の小口径の炎弾が放たれ、一斉に爆発する。魔法力をあまり消費しないため発射速度が速いが、威力は小さく中型程度のネウロイには大したダメージを与えられない。しかし牽制もしくは小型ネウロイには十分な効果があった。

 現に、追撃しようと神崎を追ってきた小型ネウロイは爆発に巻き込まれ数機が撃墜、少なくない数がバランスを崩し追撃を断念していた。

 

 

「・・・よし」

 

 新しい炎の技の戦果を確認して神崎は小さく呟いた。魔法力を何とか節約しようと考えた技だ。これから魔法力切れに悩むことは多少少なくなるだろう。

 閑話休題。

 

「フッ・・・!クッ!」

 

 神崎は急降下から一転して急上昇へと転じた。身を軋ませるようなGに耐えつつ視界にネウロイ編隊を捉えると、護衛の小型は数機程度しか残っていなかった。

 

(ずさんな戦術。こちらとしてはありがたいがな)

 

 小型と爆撃機型が撃ってくるビームの弾幕をエルロンロールで回避すると、短い間隔で引き金を引き、牽制射撃を繰り返す神崎。小型が散らばったところで1機の爆撃機型の腹に潜り込むとMG34を手放して背中に回し炎羅(えんら)を抜き放った。先程の攻撃でコアの位置は既に把握している。

 

「ハァア・・・!!」

 

 3回連続のエルロンロールによって放つ回転切り。

 

ザシュッ!ザシュ!!ザシュ!!!

 

 一瞬のうちに3度切り裂かれたネウロイの腹から赤い光が漏れる。神崎はロールを終えた瞬間にMG34を構えた。

 

「終わりだ」

 

 残弾を全て放って止めを刺す。

爆発で降りかかってくる粒子をシールドで防ぎつつ残った爆撃機型1機を狙う。右手の炎羅(えんら)には既に十分な魔法力が集束していた。

 

「フッ・・・!」

 

 空を斬る炎羅(えんら)の軌跡から5筋の炎が放たれ、最後の爆撃機型を飲み込む。炎の爆炎とネウロイが爆発した粒子が交じり合い夜明け前の空に綺麗な花を咲かせた。護衛対象が全て撃墜されたためか残った小型は全て後退し始めていた。

任務完了である。

 が、神崎の緊張は解けていなかった。

 

「何だ?・・・いや、誰だ?」

 

 誰かの視線を感じる。

殺気ではないが、それでも隙があれば撃たれてしまう、そんな緊張感が神崎を支配していた。

 素早く周りに視線を向けると、視界の端に小さな黒点を発見した。

が、すぐに視界から消えてしまう。併せて緊張も消えてしまった。

 

「ネウロイ?いや・・・夜間航空魔女(ナイトウィッチ)か・・・?」

 

 ヴィープリからの増援にしては規模が小さすぎる。しかもこちらへの通信もない。どうも不可解すぎた。

 

「何かありそうだな・・・」

 

神崎の呟きは朝焼けの中に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「確認しました・・・。あれが『アフリカの太陽』・・・。魔法使い(ウィザード)・・・」

『直接見てどう感じた?』

「確実に脅威になると思われます・・・」

『・・・分かった。帰還後、詳細を報告しろ』

「了解・・・」

『早い内に手を打つべきか・・・』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こちら神崎。着陸する」

 

『はいはいお疲れ様~。どうぞ着陸して~』

 

「はぁ・・・了解」

 

 戦闘後の疲れが残る神崎には底抜けに明るい鷹守の声が少々重たかった。

嘆息と共に緩やかに滑走路へと着陸した神崎は、格納庫へと移動した。零式をユニットケージに接続していると飛行服姿の島岡が近づいてきた。

 

「お疲れ、ゲン」

 

「ああ。お前は待機だったのか?」

 

「おう。零戦のエンジンは温めてたけどな。結局出ずじまいだったよ」

 

 そんな会話をしつつ、神崎は零式から足を抜き取りユニットケージから降りる。すると島岡は地面に立った彼の姿に吹き出した。

 

「お前、その格好相当変だぞ?」

 

「・・・そうか?」

 

 神崎は自身の姿を見た。

 緊急の出撃で寝巻きのままだったが、ビームを回避又自身が炎を使用した為か所々焼け焦げ肌が露出していた。寝癖があった髪は飛行したために盛大に乱れている。そのような格好に銃と扶桑刀で武装しているとなると・・・

 

「なかなか酷いな・・・」

 

「だろ?」

 

 クククと未だ笑いを止めない島岡を神崎は溜息1つで諦めて視界から外すと、整備兵の一人に一言入れて宿舎へと向かう。まずは着替えなければ・・・と考えつつ格納庫の出口に向かうと誰かと鉢合わせになった。

 

「ほ~う?随分な格好だな、神崎少尉」

 

「少尉、それって扶桑の戦闘服なんですか?」

 

「ユーティライネン大尉にヘイヘ曹長・・・」

 

 出撃後の様子見なのかシーナを伴って現れたアウロラ。純粋な好奇心で尋ねてくるシーナはともかく、アウロラは今朝の緊急出撃のことは把握しているはずなのだが、それでもからかうように言ってくるあたり彼女の性格が窺えた。

 

「お見苦しい格好ですみません、大尉。後、ヘイヘ曹長。これは戦闘服じゃないからな」

 

「むぅ、まじめな回答だな。つまらん・・・」

 

「何言ってるんですか、隊長・・・」

 

 神崎の態度が気に食わなかったのかアウロラが不貞腐れた表情になるのをシーナが呆れたように諌める。このような会話はいつものことなのだろう。神崎は二人の間にお馴染みであるような空気を感じつつ、話を進めようと口を開いた。

 

「で、大尉はどうして此処に?」

 

「今朝の出撃。報告は受けたが直接色々と聞きたくてな。鷹守大尉はどこにいる?」

 

「自分は見ていません。格納庫にいる者に聞けば分かるかと」

 

「そうか。ありがとな」

 

「いえ、では自分はこれで」

 

 二人との会話を切り上げ、そそくさと宿舎に向かう神崎。いい加減、みっともない服を着替えたかったというのもあるが、何より・・・。

 

「流石に寒い・・・」

 

 寝巻き一枚で防寒具も無く魔法力も纏っていない今の状態では、氷点下の気温は厳しかったのだ。クシャミ1つ残し、神崎は宿舎へと入って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シーナが来たのは朝食を誘う為だった。

時間的にもう食事は出来ないはずだったのだが、緊急事態であったことを配慮してくれたようだった。これ幸いと神崎と島岡は二つ返事で誘いを受け陸軍の陣地へと向かった。

 

「そうだったんですか。だから少尉はあんな格好だったんですね」

 

「ああ・・・」

 

「俺はただ待機していただけだったけどな」

 

 スープと乾パンという簡単な朝食を取りつつ会話をする3人。シーナも今朝の緊急出撃に連動して万が一の為に戦闘配置についていたらしく朝食を取り損ねたようだ。堅い乾パンをスープに浸したり、ゆっくりと噛んだり、はたまた堅さなど構わず噛み砕いたりと三者三様の食べ方をしていると3人が座るテーブルに別の一団がやって来た。

 

「おはよー!シーナにシンスケにカンザキ少尉!」

 

「おはようございます、皆さん」

 

「今朝はご苦労だったな、3人とも」

 

「あれ?三人も今から朝食だったの?」

 

 聞けば、シェルパ、リッタ、マルユトの3人もシーナとは別区画の陣地で戦闘配置に着いていたとのこと。

何時の間にやら、6人の大所帯となって食事を取ることになっていた。そして話題も3人が話していたのと同様に今朝のことになる。

そういえば・・・とシーナは食事の手を止めてテーブルの端に移動した神崎の方を向いた。

 

「今回の敵はどのようなものだったんですか?」

 

「・・・ああ」

 

 神崎は乾パンをスープで飲み下すとシーナの質問に答えた。

 

「爆撃機型が3機と護衛の小型が20機だった」

 

「えっと・・・1人で迎撃を?」

 

「ああ」

 

 リッタの遠慮がちな問いかけに神崎が淡々と応えると、何故かシェルパが反応した。

 

「23対1で勝ったの!?凄い!!」

 

 そう思っているのはシェルパだけでなく、リッタやシェルパは勿論横で静かに話を聞いていたマルユトも驚いたように神崎を見ていた。4人の視線にさらされ神崎は居心地が悪そうに僅かに眉をしかめる。彼からしてみればアフリカの時の方が強敵だった為に大して凄いとも思えなかった。

 

「そうか?だが、爆撃機型を撃墜したら小型は撤退したが・・・」

 

「それでもだよ!」

 

「アフリカでもあんな戦闘をしていたのか?」

 

「はい、中尉。アフリカはここよりも航空魔女(ウィッチ)の数が少なかったので」

 

「島岡さんも戦っていたの?」

 

「おう。まあ、航空魔女(ウィッチ)には及ばなかったけどな」

 

「あれ?シマオカ特務少尉って普通の戦闘機だったような・・・」

 

 6人は他愛のない会話をしつつ食事を終えた。また今日も戦闘があるかも知れない。短い挨拶を残し、6人は各持ち場へと戻っていった。

 

 

 

 

 昼の出撃は島岡による哨戒だけだった。島岡も敵に遭遇することはなく戦闘も無し。アウロラ率いる第6中隊もネウロイの侵攻はなかった為に戦闘は無く、陣地の修復作業で終わったらしい。

 

 夜。

 

 ピンと張り詰めた冷たい空気の中、神崎は自分の部屋のベッドに腰かけ、炎羅(えんら)の手入れをしていた。ランプの明かりに刀身を翳し、汚れがないことを確認するとゆっくり鞘に納める。欄干に掛けてある弾帯に炎羅を取り付けようと立ち上がった時、神崎の耳に耳慣れない、いや寧ろ耳慣れた音が聞こえた。

 ドア越しに聞こえるカチャリカチャリとなる小さな金属音。

 ザワリと神経を逆撫でするような気配を感じ取った瞬間、神崎は炎羅を握りしめてベッドの下に飛び込んだ。

 

ダダダダダダダダッ!!!

 

 直後にドア越しに降りかかる弾丸の雨。雨は先程まで神崎が腰掛けていたベッドを、照らしていたランプをいとも容易く引き裂き砕いた。

 床や屋根を思う存分に穴だらけにして部屋の中を破壊し尽くした後、ようやくドアが開かれ、雨を降らした者達が現れた。

 床に散らばる色々な破片を踏みつぶして現れたのは全身を真っ白な雪中用迷彩で身を包み顔にも雪中用のマスクを被った3人の兵士。手には硝煙をあげるサブマシンガン、スオミKP/-31。彼らは銃を構えて慎重に部屋の中へ入ってきた。目的の達成、神崎を確実に始末できたかを確認するためなのだろうが、もちろんそんな物はない。部屋に血痕も死体もないことを不審に思ったのだろう。彼らが更に部屋の中に踏みいって穴だらけのベッドに達した瞬間、神崎は動いた。

 

 まず先頭を歩いていた1人を転倒させるべく、ベッドから手を伸ばし力任せに引っ張った。思惑通り、1人がバランスを崩して転倒した時には、神崎はベッドの下から飛び出し呆気に取られている後続の2人に肉薄していた。その際に、倒れた1人目の鳩尾を思い切り踏みつけ気絶させるのも忘れない。2人の内前の1人が慌てて右手の銃をこちらに向けようとするが・・・。

 

「フッ・・・!」

 

 神崎は軽い呼吸をしつつ炎羅を抜き放つと、居合い切りの要領で銃を弾き飛ばした。そして流れるような動作で狼狽する相手の懐に入りこむと鳩尾に膝蹴りを叩き込んだ。

 

「ガハッ・・・!」

 

 肺から空気を根こそぎ奪われたような断末魔を残し、崩れ落ちようとする2人目の敵兵。だが倒れる前に神崎は魔法力を発動して思い切り蹴り飛ばした。飛ばされた敵兵の先には、隙を見て銃撃を加えようとしていた3人目。

 

「なん・・・!?」

 

 魔法力で強化された脚力は相当なもので、それによって蹴り飛ばされた敵兵の破壊力は凄まじいものとなる。3人目は2人目と一緒に吹き飛ばされ、呆気なく部屋の壁に叩きつけられた。

 神崎が襲撃者3人を制圧するのに大した時間は掛かっていなかった。

 

「・・・。・・・ふぅ」

 

 神崎は近くに敵の増援がいないことを確認すると、小さく息を吐いて炎羅を鞘に戻した。そして地面に転がる1人目に目を向ける。武装を見た限りでは、襲撃者はスオムス軍人だ。スオムス軍の裏切りと考えるのが1番妥当ではあるが、どうにも腑に落ちない点がいくつかあった。

 現在のここ周辺の航空戦力は、先のソルタヴァラ基地襲撃の為に神崎と島岡だけになっているはず。ここでこの戦力を失ってしまうのはどう考えても自殺行為でしかない。

 また襲撃の仕方も稚拙だ。壁越しの射撃など殺害には不確実すぎるし、もしスオムス軍が裏切ったのならもっと強力な戦力、アウロラを始めとした陸戦魔女(ウィッチ)を差し向けるはず。こちらが魔法使い(ウィザード)であるということを鑑みれば尚更だ。

 嘗められていると考えればそれまでだが・・・。

 

「・・・考えるのは後だ」

 

 神崎は頭を振って思考を止めた。まずは島岡や鷹守と合流するのが先決と思い、倒れている3人をどうするかに思考を傾ける。しばらくは目を覚まさないだろうが、背後から撃たれる可能性を残しておくのも気が引けた。

 

「・・・」

 

 神崎は黙って地面に転がった弾帯を拾うとC96を抜いた。初弾が装填されていることを確認すると、迷わず銃口を倒れている1人目に向ける。頭部に狙いを定め、引き金を引こうとして・・・。

 そこではたと気付いた。

 

(俺は一体何をしているんだ・・・?)

 

なぜ当然の如く人と戦っている?

なぜ当然の如く制圧している?

なぜ当然の如く・・・殺そうとした?

戦うべき相手はネウロイのはずなのに・・・。

 

 狙いを定めていたはずのC96の銃口がカタカタと震え始める。いや、震えているのは銃口ではなく、神崎の右腕だった。

 額から、C96を握る掌から汗が滲む。

 

「俺は・・・一体何をしているんだ?」

 

 先程の自問を神崎は無意識のうちに口に出していた。 脳裏に浮かぶのはアフリカのあの戦い。沢山の人々が行き交う平和の象徴であるはずの大通りで弾け飛ぶ赤い飛沫、飛び交う銃弾、響き渡る怒号と断末魔。

人と人との戦い。

 自分が始めて人を殺した・・・

 

「ハァ・・・ハァ・・・」

 

 自覚していなかった自分自身の変化を自覚し、荒くなった呼吸が更に体を震わせる。

 

「慣れたのか・・・?」

 

 人を殺すことに・・・?

 

「おい!ゲン!大丈夫か!」

 

「・・・ああ。お前は・・・?」

 

「俺は問題無ぇよ。こっちは1人だったしな」

 

 神崎が立ち尽くしている中、拳銃を片手に持った島岡が慌てた様子で部屋の中に入ってきた。彼も襲撃を受けたのか頬から血を流していたが、それ以外に怪我を負っている様子は無かった。そのことを確認すると、C96を下げ倒れている敵兵に背を向けた。

 

「格納庫に行くぞ。・・・鷹守と合流しなければ」

 

「おう。こいつらは?」

 

「当分目を覚まさないはずだ。置いていこう・・・」

 

 神崎は島岡を伴って正面だけを見つめて足早に部屋を出た。

 もう視たくなかった。敵も、今の自分も・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うんうん。まぁ、神崎くんが出撃したからこうなるかな~とは予想してたけど、随分と早かったね。けど幼稚だ」

 

 格納庫の隅に置かれたテーブルに腰掛けた鷹守はこのような状況でも楽しそうに言った。

 目の前で一方的な虐殺が行われていても。

 

 響き渡る絶叫と銃声の狂想曲。

 弾丸が人間の体を引き裂き、赤い地飛沫が舞う様子を鷹守は楽しそうに、ただ無感情に見ていた。

 そしてその観劇もすぐに終わる。

 

 パンッ!

 

 拳銃のちっぽけな銃声を最後に狂想曲は終わった。パチパチパチと気の抜けた拍手をする鷹守の前に銃口から煙をあげる拳銃を持った整備兵が立った。

 

「殲滅完了しました」

 

「ご苦労様~。ま、こんなもんだよね」

 

 鷹守がテーブルから飛び降り、今しがた狂想曲を演奏していたステージ(格納庫)を改めて見渡した。床に広がる赤い海に肉の山、これらは全て襲撃者達で生まれたものだ。ここにいる鷹守子飼いの整備兵達は誰一人欠けていない。

 

「当然の結果だね」

 

「これは・・・!?」

 

「なんだよ、これ!?」

 

「お?神崎くんも島岡くんも無事だったみたいだね」

 

 鷹守は格納庫に入ってきた神崎と島岡に見るとニヤニヤして言った。いつもなら彼の態度に一言言う二人も、格納庫の光景を前にしてそんなことに構っている余裕がなかった。神崎が赤い光景から目を背けるように鷹守を見る。

 

「大尉、この襲撃は一体?」

 

「ん?分からないかな?」

 

「こんな状況でふざけてんじゃねぇよ!」

 

 島岡の怒号を受けても鷹守はニヤニヤとした笑いを止めない。むしろより一層笑みを深くしていく。

 

「ふざけてないよ?君たちは既に知っているはずだ。経験しているはずだ。逆に、僕には何で分からないのかと思うけどね?」

 

「・・・そうか」

 

 もしかしたらと、いや、そうであって欲しくないと無意識の内に逃げていたのかもしれない。

 鷹守の言葉を聞いて神崎は確信を持って呟いた

 

「共生派・・・だな?」

 

「ご名答!」

 

 神崎の答えに鷹守は満足気に頷くと、芝居がかった仕草でクルリと周り大仰にお辞儀をした。彼の後ろには整備兵達が銃を片手に控えており、まるで楽団の指揮者のようだった。

 

「改めて自己紹介をしようか。僕は鷹守勝己技術大尉。扶桑皇国海軍スオムス派遣分隊整備班長、兼・・・」

 

 ここで鷹守はお辞儀を止め、ずれた眼鏡をクイッと上げた。

 

「対共生派特殊部隊『(シュランゲ)』、スオムス部隊隊長だよ」

 

「『(シュランゲ)』って・・・」

 

 島岡が戸惑ったように部隊名を諳んじるよこで、神崎は黙って笑う鷹守を見つめていた。

 




もうそろそろ登場人物設定を載せた方がいいですかね?

もう完全なオリジナルだよ・・・原作キャラどこに行った?

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