ストライクウィッチーズ 一匹の狼   作:長靴伯爵

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サントロンの秘め歌、ゲットしました

全部いい曲!はやくカラオケで歌いたいですね~

感想、ミスの指摘、アドバイス等々よろしくお願いします

所々ミスがあったので修正しました


第三十六話

 

 

 ガタンゴトンと揺れる車両の中で、神崎と島岡、シーナは向かい合って座っていた。シーナは手にある書類を見ながら、二人にこれからの動きを説明し始めた。

 

「この列車に一時間程乗った後、降りた駅から犬ゾリでソルタヴァラに向かいます。ラドガ湖沿いに進んで行くので・・・」

 

「・・・失礼。質問いいか?」

 

 つらつらとシーナが説明していくのを神崎はポーカーフェイスで遮った。シーナは少し驚きつつも特に気を悪くすることなく尋ね返してくる。

 

「何か疑問がありますか?」

 

「ああ。・・・なぜ、陸軍のヘイヘ曹長が空軍の自分達の出迎えに?」

 

 神崎の疑問に島岡もうなずく。

 空軍の増援として来たのだから、空軍の物が迎えにくるのが普通だろう。シーナ自身もそう思っていたのか、彼女の眉が困ったように八の字のように下がった。草臥れた雰囲気がより強くなる。

 

「仰るとおりなのですが・・・。先方は大規模作戦の為に忙しいらしく、代わりに手の空いていた私が・・・。すみません」

 

「謝らないでいい。別に非難している訳ではないしな・・・」

 

 頭を下げるシーナをやんわりと宥める神崎。彼女は、ありがとうございます・・・、と一言入れると小さな溜息と共に顔を上げた。大分苦労したらしい。

 

「ヘイヘさん、なんか疲れてないっすか?」

 

 どうやら島岡も同じことを考えていたらしい。これ幸いと神崎も興味深げにシーナを見る。

 

「こちらの方で色々と不備がありまして・・・。ささいな問題ですのでなんら影響はないですけど、ただ・・・」

 

「ただ?」

 

 シーナは気まずそうに口を開くが、開くに連れて疲労感が増していく。

 

「無駄に10km程自転車を漕ぐことになりました。全速力で・・・それ以外にも何だかんだで・・・」

 

 疲労感で今にでも沈み込んでしまいそうになっているシーナの姿に、神崎も島岡もいたたまれなくなってしまう。きっと

 

「それは・・・ご愁傷様だな」

 

「・・・ザリガニ、食べます?」

 

「・・・・・・いただきます」

 

 島岡が差し出した紙袋から、そっと一尾取るシーナだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば、ヘイヘ曹長は魔女(ウィッチ)なんすか?」

 

 島岡も神崎もシーナと共にザリガニを摘み全て食べ終えた頃、唐突に島岡が言った一言だった。

 

「はい。陸戦魔女(ウィッチ)です」

 

 シーナはコクリと頷く。ザリガニで腹を満たした為か、先程のような疲労感は形を潜めている。

 

「やっぱりっすか」

 

「主に後方からの支援が仕事ですけどね」

 

「前の部隊に居た時も陸戦魔女(ウィッチ)の皆さんにはお世話になったっす。そういえば、ヘイヘ曹長とは割と歳が近そうっすね?」

 

「17です」

 

「俺等と一緒じゃねぇか」

 

 あれよあれよという間に島岡はシーナと打ち解けていく。人付き合いのいい島岡の手腕に蚊帳の外の神崎は内心舌を巻いた。

 自分には到底できそうにない。

 そう思っている間にも会話は続いていく。

 

「書類では増援は魔女(ウィッチ)とパイロット一人ずつだったけど、パイロット二人だったんだね。何かのミス?」

 

「いや、あってる。パイロットとある意味魔女(ウィッチ)一人だ」

 

 シーナの疑問を島岡は軽い調子で否定し、自分を次いで神崎を指し示した。自分のことを魔女(ウィッチ)呼ばわりされ神崎はジロリと島岡を睨むが、本人は全く気にしていない。その姿に諦めの溜息を吐いていると、シーナが目を丸くしてこちらを見ていた。

 

「まさか・・・」

 

 俯くシーナを神崎は真正面から見据えた。重々しく呟いている所を見ると、彼女の中に思い当たる節があったのかもしれない。

 さて、どんな言葉が飛び出してくるのかと神崎が待ち構えていると、ついにシーナの口が呟きの続きを紡いだ。

 

「まさか・・・女の子ですか?」

 

「おい」

 

 思わず突っ込んでしまう神崎だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クヒヒヒ・・・。ゲンが女だってよ・・・!」

 

「笑いすぎだ」

 

「私、そんな変なこと言った?」

 

「いやぁ、最高だ!これから仲良くやっていけそうな気がするぜ」

 

 島岡はシーナが言い放った「神崎玄太郎、女の子説」が余程壷に入ったのか、閑散とした小さな駅に到着し待機している今でも笑い続けていた。さすがに神崎も面白くない表情になり、シーナは困惑していた。

 

「ヘイヘ曹長もヘイヘ曹長だ。なぜ、俺のことが女性に見える?」

 

「私、扶桑の方を見るのは初めてで、もしかしたら・・・と」

 

「・・・。服装や名前でも判断できるだろう?」

 

「扶桑の方は女性でもこんな感じなのかなぁっと・・・」

 

「・・・」

 

「そ、そもそも男性が魔力を持っていると思う方がおかしいのでは!」

 

「それは・・・そうだが・・・」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

 神崎の抗議にシーナはやや苦し紛れに反論した。その反論も尤もで神崎は何も言えなくなり、結局二人は黙りこくってしまう。やああって神崎は溜息と共にボソリと呟いた。

 

「・・・やめよう。下らなさすぎる」

 

「・・・そうですね」

 

 シーナも疲れたように眉を八の字にすると、どちらからともなく笑みを浮かべた。

 

「悪かったな」

 

「いいえ、私も・・・」

 

 と、シーナはそこまで言った所で何かに気付き、慌てて直立不動の姿勢を取った。

 

「も、申し訳ありませんでした、少尉!階級が上であるのにも関わらず・・・。失礼な言動をお許し下さい!」

 

「・・・ああ、そうだったな」

 

 他国の軍人であるとはいえ階級が上の者には敬意を払わなければならない。それが軍隊というものだ。(尚、鷹守は除く)

 確かに今のシーナの言葉は上官を侮辱するようにも聞こえるが、神崎には咎める気など更々なかった。

 

「許すも何もない。気にしなくていい」

 

「ですけど・・・」

 

「確かに階級は俺の方が上だが、俺はスオムス軍ではない。それにここではヘイヘ曹長がいないと右も左も分からん。そんなに畏まらなくていい」

 

「分かりました。ありがとうございます」

 

 そこまで言って、強ばったシーナの表情がやっと解れた。神崎は頷いて、次の行動を尋ねた。

 

「まずはあちらの小屋で待っていて下さい。私は部隊と連絡を取らないといけないので・・・。予定では移動ですけど、詳細についてはそこで受けます」

 

 シーナが示した先には丸太造りの小さな小屋が建ってあった。駅の待合室か何かだろう。シーナと別れて、二人は各の荷物を持て小屋へと向かう。中に入ると、ふわっとした暖かな空気が二人を迎え入れた。小屋には暖炉が設置されており、薪が赤々と燃えていた。

 

「ふぅ・・・。やっと一息つけるぜ・・・」

 

「そうだな」

 

 暖かい空間に居るためか、二人は自然と笑みをこぼしながら壁沿いに設置されている長椅子に座った。段々と冷え切った体が暖められ、気分が解れていく。

 

「そう言えば・・・」

 

「どうした?」

 

 ボケェとしていた島岡が何かを思い出したボソリと言った。目を閉じていた神崎は、ゆっくりと瞼を開くとチラリと島岡に目を向ける。

 

「お前、魔女(ウィッチ)恐怖症だろ?ヘイヘさんと結構話してたけど大丈夫か?」

 

「・・・ああ。大丈夫だ」

 

 神崎は大きく息を吐くと天井を見上げ頭を壁に預けた。ポツリポツリと言葉を続ける。

 

「普通に話す分は問題ない。前からな。だが・・・ケイさんやハンナのおかげか、今は魔女(ウィッチ)への嫌悪感はあまりない」

 

 苦手意識はあるがな・・・とニヤリと自嘲気味に笑った。

 

「克服するさ。いつかハンナに言ったようにな」

 

「へぇ・・・。がんばれよ」

 

 島岡もニヤリと笑うと拳を突き出した。神崎はそれにゴツンと自分の拳をぶつけた。

 丁度その時、小屋の扉が開いた。

 

「あれ?どうしたの?」

 

 拳をぶつけ合う二人を見て、入ってきたシーナは不思議そうに首を傾げた。

 

「別に何でもねぇよ」

 

 島岡はぶつけていた拳を開いてヒラヒラと振りながら言う。神崎もわざわざ自分の弱さ(魔女恐怖症)を話す必要はないと考え、黙って彼女を見た。シーナはもう一度首を傾げたが、それ以上興味が湧かなかったようで気を取りなおして口を開いた。

 

「予定ではお二人をソルタヴァラまでお送りするはずだったのですが、変更がありました」

 

「変更?」

 

「はい。一度、私の所属部隊の防衛陣地へ向かいます」

 

「そりゃ・・・なんでまた?」

 

 島岡が先程のシーナと同じように首を傾げると、彼女は諦めたように頭を振って眉を八の字にして言った。

 

「その説明も陣地の方で行うと・・・。もう、なんで変更ばっかりなの・・・」

 

 ついにポロリと愚痴を漏らしてしまったシーナ。

 もはや、彼女の八の字の表情がお馴染みになってしまっている。神崎と島岡は揃って彼女に同情の視線を向けた。その視線に気付いたのか、シーナは俯かせていた顔を上げて慌てて二人に出発を促した。

 

「さ、さぁ!すぐに出発しますよ!夜中の行軍なんて絶対に嫌なので!」

 

 暖かな暖炉を惜しむ暇も無く、シーナにせっつかれるようにして小屋から出る二人。小屋の前には先程までにはなかった木製のソリが置かれていた。しかも牽引用の索には地面に座ったり寝そべったりした犬が十数頭繫がれていた。どれも立派な体格のハスキー犬である。

 狼を自身の使い魔としている神崎は、ハスキー犬に少なからず興味を抱いたが・・・。

 

「さぁ乗ってください!」

 

「ちょっと押すなって!」

 

「・・・む」

 

 シーナに押し込まれるようにしてソリに乗せられてしまった。二人を押し込んだシーナは、そのままソリの最後尾に乗り込むと備え付けられていたムチを手に取った。

 

ピィーッ!!

 

 シーナの口笛が鳴り響くと地面に座り込んでいた犬達は、まるで統率の取れた軍隊のようにスクッと立ち上がる。

 

「ハァッ!」

 

 気合の入ったかけ声と共にバチンッとムチを地面に叩きつけるシーナ。それを合図に犬ゾリは急発進した。

 

「さぁ!しっかり掴まって下さい!もう面倒事は絶対に嫌ですから!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雪が降り積もり道が消えてしまった閑散とした森をシーナが駆る犬ゾリで駆け抜けること一時間。

 最初のうちは初めての犬ゾリで何度も振り落とされそうになった神崎と島岡だが、一時間も乗ってしまえばすっかり慣れてしまい、周りの景色や犬達の走る姿を楽しんでいた。

 不意に、ムチを振るっていたシーナが風を切る音に負けない声で叫んだ。

 

「ラドガ湖です!もう少しで到着しますよ!」

 

 その言葉と同時に目の前が一気に開いた。

 森を抜け切って雪原に出たのだ。

 いきなり現れた真っ白な世界に神崎の目は眩み、思わず目を細めた。滲んだ視界の中で何かがキラキラと光る。ゆっくりと目を開くと、視界一杯に広がる巨大な湖。

 ラドガ湖。

 神崎は思わず見入ってしまった。

 

「ずげぇ・・・」

 

「ああ・・・綺麗だ」

 

 島岡も同じように呆けたように呟いた。神崎も返事はするも視線はラドガ湖に釘付けだった。それほど、この光景は幻想的だった。そう、ここが戦場であることを忘れてしまうほどに・・・。

 

 だが、その幻想は一瞬にして壊されてしまう。

 

 ズドンッ・・・!!!

 

 空気を震わす程の爆音が彼方から響く。

 真っ白な世界にはあまりにも異質な黒煙。それが爆音が響く毎に二筋三筋と増えていく。今でも嫌という程見てきた赤い閃光が瞬くと共に。

 

「・・・ッ!!ネウロイ!!」

 

「掴まっていて下さい!一気に駆け抜けます」

 

 神崎の鋭い声に被せるようにシーナも怒鳴った。持っているムチを一際撓らせて犬を叱咤してスピードを上げる。その表情は先程のような困ったようなものではなく、幾多の戦いを潜り抜けた魔女(ウィッチ)のものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 犬ゾリは猛スピードで混乱の中にある防衛陣地内に滑り込んだ。シーナは横転しそうになるソリを巧みにコントロールし横滑りで停止させた。三人がソリから飛び降りるのと同時にすぐ近くにネウロイの砲撃が着弾し爆発が起こる。

 

「うおぁ!?」

 

「チッ・・・!」

 

 いくら初めての土地だからといっても二人はアフリカの激戦を戦い抜き、絶体絶命の危機を乗り越えてきている。突然の爆発にも即座に対応し、冷たい雪の上に身を投げ出していた。

 だが、シーナはその上を行った。

 彼女は膝を地面に着きつつ極力身を沈めると鋭い視線で辺りを見渡し、近くを駆けている若い兵士を呼び止めた。

 

「ちょっとそこの君!」

 

「はい!?って、ヘイヘ曹長!?戻られたんですか?」

 

「隊長はどこか分かる!?」

 

「多分指揮所じゃないですか!?スコップを肩に担いで酒瓶持っているのを見ましたよ!」

 

「ありがとう!あと、この犬ゾリ片付けといて!」

 

「はぁ!?」

 

 悲鳴に違い声をあげる兵士を無視して、シーナは伏せている二人の下へ駆け寄った。

 

「さぁ!立ってください!行きますよ!」

 

「ああ・・・!」

 

「お、おう!」

 

 シーナは二人に声をかけると身を低くして走り出した。二人も同様に身を低くして彼女の後に続く。指揮所まで続く坂を走る間にもネウロイの砲撃が至る所に着弾して爆発、そして兵士の怒声が響く。三人は丸太と土嚢で造られた小屋―ネウロイの攻撃で土嚢が半分ほど吹き飛んでいたが―に辿り着くと、爆発に追い立てられるように小屋の中に雪崩れ込んだ。

 

「おお、おお。随分なご登場だな、シーナ。それに扶桑からの客人」

 

 三人を出迎えたのはイスに踏ん反り返って酒瓶を煽る一人の魔女(ウィッチ)

 神崎は思わず自身の目を疑った。ネウロイの攻撃を受けている部隊の指揮官のはずなのに、酒を飲んでいるのだ。正気の沙汰ではない。

 

「隊長!扶桑からの援軍をお連れしました!」

 

「ご苦労、シーナ。早速だが、すぐに防衛戦に加わってくれ」

 

「了解!もう!今日は厄日です!」

 

 シーナは悲鳴のような悪態を吐きながら指揮所から飛び出していった。神崎と島岡はポカンとしながら彼女を見送ると、そのままの表情で酒瓶を携える魔女(ウィッチ)を見た。

 

「ようこそ、スオムスへ。私はアウロラ・E・ユーティライネン大尉。ここの指揮を任されている。歓迎するぞ、少々騒がしいがな」

 

 その魔女(ウィッチ)、アウロラが自己紹介をすると共に一際大きな爆音が響き指揮所を揺らした。パラパラと屋根から屑が落ちてくるの見てアウロラは眉を顰める。

 

「割と近いな。まったく、酒にゴミが入ったらどうする」

 

 その言動に若干の眩暈を覚えるも、神崎は律儀に直立不動の姿勢を取り自分の名を名乗った。島岡もそれに続く。

 

「扶桑皇国海軍スオムス派遣分隊所属、神崎玄太郎少尉です」

 

「同じく、島岡信介特務少尉っす」

 

 二人の名乗りをアウロラは酒瓶を片手に聞いていた。ふんふんと頷くと、ニヤリと笑ってイスから立ち上がる。

 

「神崎少尉は魔法使い(ウィザード)らしいし話したいことは沢山が、今は戦闘中だ。けど、君たちが陸軍の私たちにすることは特にない。なんなら、酒を飲むか?」

 

 神崎と島岡は黙ってお互いの顔を見合わせると、ネウロイの攻撃とは違う爆音が鳴り響いた。歩兵が操る対戦車砲と陸戦魔女(ウィッチ)が操る銃の発射音である。その音を聞きつつ、アウロラは一口酒を煽ると不適な声で言った。

 

「ここは絶対に抜かれない。なんたって、ここには私が指揮する最強の部隊がいるからな」

 

 

 

 

 

 指揮所から飛び出したシーナは先程駆け上った坂を転がるようにして下ると、空爆対策に半ば防空壕と化している格納庫に駆け込んだ。格納庫の中も外に負けず劣らず騒がしくなっており、陸戦魔女(ウィッチ)達も慌しく出撃準備を整えていた。

 シーナも自分のユニットがある区画へ走ると、ユニットが収められているケージに飛び乗った。ユニットを整備していた整備兵が慌てて駆け寄ってくる。

 

「ヘイヘさん、戻ってたんですか!?」

 

「今さっきね!早くいつもの!」

 

「短い方!?長い方!?」

 

「長い方!」

 

 指示を出し終えるとシーナは自分の陸戦ユニット、T-26改に足を滑り込ませた。

 このユニットは、元々数年前の第一次ネウロイ侵攻の際にオラーシャから支援として送られ使用されていた物だ。だが、貧しいスオムス陸軍は故障しても何度も何度も修理し続け、こうして今でも使用し続けていた。元々使われていたパーツは1つも無く、もはや別物でT-26とは言っても形式上でしかなかった。しかし、T-26よりも性能は向上して、シーナ用に調整されていた。

 

「シーナ!先に行ってるよお!!」

 

 シーナが陸戦ユニットの起動準備をしているとすぐ近くをシェルパ・メルケリ軍曹が駆け抜けて行った。彼女はカールスラント製の陸戦ユニットⅢ号H型を装備しており、手にはブリタニア製の軽機関銃ブレンガンを持っていた。周りにいる他の陸戦魔女(ウィッチ)達も、皆がバラバラで古い兵装を装備していた。統一した兵装を揃えることが出来ない貧乏なスオムス陸軍ならではの光景である。

 T-26改の魔導エンジンが唸り声を上げる頃、先程の整備兵が手に銃を持って帰ってきた。

 

「ヘイヘさん!持ってきました!」

「ありがとう!」

 

 受け取って素早く銃の作動点検を行う。故障があるとは到底思えないが、それでも万が一を消していく。それが、長年慣れ親しんだ、第一次ネウロイ侵攻を共に戦い抜いた相棒への礼儀。

 

 M/28-30「スピッツ」

 

「よし、出るよ!」

 

 M/28-30(スピッツ)と持てるだけ徹甲弾を携え、シーナは格納庫を飛び出した。

 最前線に向け全速力で駆け抜ける道の脇には負傷兵が体を引きずって本陣へと向かっていた。皆、魔力を持たない身でありながらも陸戦魔女(ウィッチ)が到着するまでギリギリまで時間稼ぎをしていたのだ。恐らく、まだ戦っている者もいるだろうし、力尽きた者も・・・。

 彼女にとっては何度も見てきた光景だ。

 だからこそ今感傷に浸る暇がないことも理解している。

 

「・・・ッ」

 

 決死の思いで戦い抜いた彼らに敬礼を送る。これが今彼らに送れる精一杯の礼だった。

 雪を蹴りたてて全速力で駆け抜け、防衛陣地の後方部分に滑り込んだ。そこから眺めるとこちらに押し寄せてくるネウロイの軍勢がよく見える。

 四足の蜘蛛のような陸戦ネウロイがビームを撃ちながら進軍してくるのを、こちらの男性兵士は塹壕に篭りながら必死にビームに耐え37mm対戦車砲や対戦車ライフル、機関銃で応戦している。しかし、魔力を纏わない攻撃など足止め程度にしかならない。しかも、まだ最前線までシェルパ達は到着していない。もしかしたらネウロイの砲撃で道が途中で壊されたのかもしれない。

 

 ならここは私が食い止めるしかない。

 

 M/28-30(スピッツ)を構え、銃尾部に頬を付ける。彼我との距離は遠く、通常ならスコープを使うが、シーナのM/28-30(スピッツ)にはそんな物は装備されていない。照門と照星を迫り来るネウロイに慎重に合わせ、意識的に呼吸をゆっくりにする。一度、目を閉じるとゆっくりと開き、『視た』。

 

 M/28-30(スピッツ)から放たれる弾丸の弾道、ネウロイの動き、装甲を食い破る徹甲弾、砕け散る紅い結晶。

 

 チロリと唇を舐める。引き金を引いた。

 

 

 

 

「最強の部隊・・・ですか?」

 

 神崎は傍らに立つアウロラに尋ねた。

 いまだネウロイによる攻撃の振動が指揮所を襲っている中で神崎の左手は腰の「炎羅(えんら)」に添えられている。島岡も同様に腰のホルスターに手を添えられたままだった。対するアウロラは壁に寄りかかったまま酒瓶を傾けている。

 

「そう最強だ。ここの部隊には先の第一次ネウロイ侵攻を生き残った猛者達やいい才能を持つ若手達が居る。そしてシーナ・・・『白い死神』も」

 

 そう言うとアウロラは酒瓶に残った酒を一気に飲み干した。酒瓶を置くと代わりに壁に立て掛けてあったスコップを持ち、肩に担ぐ。

 

「もうそろそろ、シーナ達が最前線に着いた頃だろう。さぁ、着いて来い。最強たる私達の姿を見せてやろう」

 

 

 

 




スオムス編が本格的に始まりました

といっても、神崎と島岡にはユニットも戦闘機もないのですが・・・(笑)

さて、二人はどうなることやら・・・ 

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