ストライクウィッチーズ 一匹の狼   作:長靴伯爵

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今度は506の小説とな!?
早く読みたい!しかも、今月はサントロンのDVDの発売じゃないか!
お金がー(泣)

感想、アドバイス、ミスの指摘、など諸々よろしくお願いします!



第三十二話

 

「いい加減離れやがれぇ!!」

 

 島岡の苛立った叫び声がコックピットに木霊するが、それが追撃してくる5体のネウロイに聞こえる訳もなく、聞こえたとしても人語を理解して尚且つ追撃を止めるとも思えないが、執拗にビームを撃ってくる。

 

「こなくそ!」

 

 もう何度したか分からないエルロンロールで回避した直後に島岡が見たのは、別方向から殺到してくる3体のネウロイだった。

 

「やばっ!?」

 

 とっさに操縦桿を引くが、その機動は回避運動には程遠かった。

 撃ち込まれる3条のビーム。しかし、それらは零戦の胴体を貫く寸前に何者かのシールドで拒まれた。

 

「誰だ!?」

 

 ゲンが助けに?あいつは別の所で戦っている。なら、いったい誰が・・・?

 体勢を整えた島岡が見たのは機関銃を両手で2丁持ちした航空魔女(ウィッチ)だった。目を凝らせばカールスラント空軍の制服であることが分かる。

 

『そこの戦闘機』

 

 あの航空魔女(ウィッチ)の物であろう声が無線を通して聞こえる。

 

『すぐにこの空域を離脱してブリタニアへ向かえ。ネウロイの相手は私達がする』

 

「お、おい!」

 

 いきなりの言葉に島岡が口を開こうとするも、航空魔女(ウィッチ)は全く見向きもせずネウロイに向かって飛んでいってしまった。おそらくMG42であろう機関銃2丁による射撃で悉くネウロイを撃ち落していく姿に島岡は何も言えなくなってしまう。

 

「・・・ッ。こちら、島岡。離脱する」

 

 今まで自分を追撃していたネウロイがあっという間に薙ぎ倒されていく様に、島岡は少しの悔しさを胸に抱きつつ機首を反転させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シンは・・・ブリタニア本土の基地に向かったようだ」

 

「既に連絡はしてあるよ。あの数のネウロイ相手に無事でいるとは・・・。『ゼロファイター』と呼ばれるだけのことはあるな」

 

 空母『翔鶴』から随分離れた所に展開していたネウロイの一団を坂本と共同で撃破した神崎は、島岡の通信を聞いて、まず彼が無事だったことに、ほぅ・・・と溜息を吐いた。坂本は感心したようにうんうんと頷いている。どうやら彼の二つ名は坂本にも知られていたらしい。

 

(まさか俺のも・・・?)

 

 少し疑問に思った神崎は辺りを見渡して敵影がないことを確認して坂本に声をかけた。

 

「坂本、少しいい・・・」

 

『美緒、聞こえる?』

 

「ああ。どうした?ミーナ?」

 

「・・・」

 

 話しかけようとした矢先、割り込むように無線が入ってしまい、神崎は黙るしかなかった。代わりに翔鶴の方に目を凝らせば、赤毛のロングヘアーと金髪のショートカットの魔女が滞空しているのが見えた。どちらかがミーナと呼ばれた航空魔女(ウィッチ)なのだろう。

 

『空母を攻撃していたネウロイは殲滅したわ。トゥルーデも戦闘機の救出に成功したみたい。そっちはどう?』

 

「こっちももう大丈夫だ。翔鶴の状況は?」

 

『大きなダメージを受けたみたいだけど航行は可能だそうよ。駆逐艦の方も同様。今は脱出した操縦者達の救出作業を行っているみたい』

 

「分かった」

 

 ここで、坂本は一度チラリと神崎を見た。

 

「私達は翔鶴を護衛しつつ基地に帰還する。ミーナ達は先に戻っておいてくれ」

 

『え、ええ・・・。気をつけてね』

 

 ミーナと呼ばれた航空魔女(ウィッチ)は坂本の提案に納得しかねるのか少し言い澱んでいた。しかし、反論することはなく、程なくしてやって来たもう一人の航空魔女(ウィッチ)を伴ってブリタニアの方へ向かって行った。

 

「坂本、彼女達は・・・」

 

「ん?ああ。カールスラント空軍の魔女(ウィッチ)で私の友人だ。カールスラント本国から撤退してきて、今はブリタニア空軍の基地に駐留しているんだ」

 

「・・・そうか」

 

「帰ったら紹介しよう。だが、まずは改めて・・・」

 

 坂本は持っていった扶桑刀を背中の鞘に納めると神崎に手を差し出した。

 

「久しぶりだな、ゲン。また会えて嬉しい」

 

「ああ。俺もだよ・・・坂本」

 

「それはよかった。アッハッハッハ!!」

 

 彼女の象徴とも言える豪快な笑い声を久しぶりに聞き、握手をしながら神崎も思わず微笑んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 神崎がアフリカに居る間、坂本は主にブリタニアで改良された零式艦上戦闘脚のテストパイロットとブリタニア防衛に明け暮れていたらしい。

 

「坂本の戦闘データを利用して改良を?」

 

「ああ。だが、私のだけじゃないぞ?」

 

 翔鶴周辺の哨戒しつつ二人はお互いの近況を話していた。

 

「実はお前の戦闘データも活用させて貰っていたんだ」

 

「俺の・・・?」

 

「アフリカから報告が上がってきていてな。知らなかったのか?」

 

「ああ・・・。だが、俺がとやかく言うことじゃない」

 

 おそらく金子中尉辺りが勝手にしていたことだろうと、神崎は適当に当たりを付けた。

 

「だが、俺なんかの情報が役に立ったのか・・・?」

 

「もちろんだとも!」

 

 この自嘲気味な質問に坂本は大げさ気味に答えた。

 

「ブリタニアは侵攻してくるネウロイは大型が大半でな。一撃離脱が主になってしまって格闘戦のデータが集まり辛かった。その分、お前のデータが役に立っていたよ」

 

「それならよかった・・・」

 

「それに、あいつも・・・ん?すまん、ちょっと通信が入った」

 

「ああ・・・。・・・あいつ?」

 

 坂本が通信で受け答えしている間、神崎は海上を航行する翔鶴を眺めていた。先程まで立ち昇っていた黒煙も今は止まり、甲板に空けられた大穴は応急処置として大きな布が張られている。護衛の役目は完全には果たせなかったが、轟沈だけは免れた。その事実に、神崎はほっと溜息をついた。

 

「分かった。それではな。・・・ん?どうした?」

 

「いや・・・、なんでもない。何かあったのか?」

 

「ブリタニア空軍が護衛を引き継ぐそうだ。私達は基地へ直行するぞ」

 

「了解」

 

「じゃあ、着いて来てくれ」

 

 坂本が速度を上げて前に出る。神崎は翔鶴に向かって敬礼すると、速度を上げていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 1時間程で神崎と坂本はブリタニア本土の空軍基地に到着した。上空から見る基地には、ブリタニア空軍の主力戦闘機であるスピットファイアだけでなく、カールスラント空軍のメッサーシャルフBf109が並べられていた。その中に、カラーリングが全く違う零式艦上戦闘機が1機だけあるのは恐ろしく目立っていた。

 そんな基地の横にある滑走路へ坂本が着陸し、それに神崎も続く。坂本に付き従うままに滑走路を抜け、整備兵や操縦者、そして航空魔女(ウィッチ)から沢山の視線を受けつつ、格納庫群の1つへと入り、ユニットをケージに繋いだ。

 

「美緒!お帰りなさい!」

 

「ああ、ミーナ。まだここに?」

 

「ええ。丁度今ユニットの点検が終わったのよ」

 

 ケージから降りた坂本に一人の魔女(ウィッチ)が話しかけていた。神崎は声と赤毛の髪から先程救援に来てくれた魔女(ウィッチ)たちの1人であることに気付く。神崎も自分のユニットをケージに繋げると坂本の傍に寄り尋ねた。

 

「坂本、彼女は・・・?」

「おお!紹介するんだったな」

 

 神崎の控えめな言葉に坂本は快く応じてくれた。

 

「彼女は、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ少佐。カールスラント空軍、第3戦闘航空団の司令官だ。私がリバウにいた頃からの付き合いだ」

 

「少佐でしたか・・・。失礼しました。自分は坂本中尉と同じ扶桑海軍少尉、神崎玄太郎です。・・・今は所属はありませんが」

 

「ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ少佐です。あなたのことは美緒・・・失礼、坂本中尉からよく聞いています。よろしく、神崎少尉」

 

 坂本の紹介を受け、神崎はポーカーフェイスに切り換えて挙手の敬礼をした。一方のミーナも一瞬いぶかしむような表情を浮かべるも、すぐににこやかな笑みで返礼する。

 

「さっきの戦闘を少し見たけど、本当に魔力が使えるのね」

 

「恐縮です。・・・坂本中尉からはどんな話を?」

 

「あなたが優秀だって。中尉ったら、今回会えるかもしれないってとても楽しみにしていたのよ?」

 

「ミ、ミーナ・・・!それは言わない約束・・・」

 

「あら。いいじゃない、美緒。あなたの話を聞けば神崎さんは紳士みたいだし」

 

「それはそうだが・・・」

 

「それに・・・」

 

 そこでミーナは目をすっと細めた。巧妙に坂本からは見えない角度で神崎に冷たい視線を投げかける。神崎は小さく息を呑んだ。

 

「紳士が女性に恥をかかせる訳ないでしょう?」

 

「・・・ッ」

 

 背筋が凍る。ジワリと額に汗が滲む。

 燃え上がる怒りを無理矢理押さえ込み凍らせた、冷たいのに熱い視線が突き刺さった。

 

「そう・・・ですね」

 

 結局神崎はかろうじて、そう一言だけ搾り出した。

 

「そういえば、ミーナ。島岡はどこにいるんだ?」

 

「島岡さんなら、待機室の方に居るわ。フラウとトゥルーデと話していたみたいよ」

 

「そうか。よし、ゲン。私達もそっちへ行くぞ」

 

「あ、ああ・・・」

 

 坂本とミーナの会話をどこか他人事のように聞いていた神崎はあいまいに返事をした。先程のミーナの視線は何だったのか?

 坂本に連れられ格納庫から出る時、その背中にもう一度あの視線が突き刺さった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 美緒と神崎さんが格納庫から出た時、(ミーナ)は深い溜息が出るのを抑えられなかった。

 

 神崎玄太郎少尉。

 通称「アフリカの太陽」

 

 世にも珍しい魔力を持った男性魔女(ウィッチ)魔法使い(ウィザード)。カールスラント空軍JG3が母体となっている統合戦闘飛行隊「アフリカ」に所属していた。

 彼のことは美緒からよく聞いていた。彼がアフリカへ行く道中、彼を鍛え、初陣に同行したらしい。

 美緒は言っていた。

 彼はつらい経験をしているのに、闘おうと、もがき続けている。何故闘い続けるのかは分からないが、でもその姿勢は好きだと。今はまだ未熟だが、経験を積めば素晴しい魔法使い(ウィザード)になれると。

 

 彼がどんな過去を背負っているのか。

 

 美緒は知っているみたいだけど、決して教えてくれなかった。でも、それ以外のことなら色々話してくれた。その表情はとても楽しそうで・・・。

 私もカールスラント空軍司令部経由ではあるが、彼がアフリカでどんな戦いをしていたかを知っていた。

 

 だからこそ、彼を美緒に近づかせてはいけない。

 

 私のエゴかもしれない。だとしても、それで美緒を護れるのなら・・・。

 

 

ドォォォォォオオオオオオン!!!

 

 

 唐突な爆発音が私の思考を遮った。

 もはや慣れてしまった自分に腹が立てつつ外に出ると、格納庫が並ぶ列の一番奥の建物―古ぼけたレンガ造りの倉庫だ―から黒煙がもうもうと立ち昇っていた。

 

「はぁ・・・またなの?」

 

 頭を押さえて溜息を吐く。もう何度目かを数えるのも嫌だ。だが、一言言ってやらなければ気がすまない。

 

「あの男・・・今度こそ許さないわ」

 

 そう呟いて私は駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 格納庫から出た神崎と坂本はしばらく歩いた後に待機室に到着した。扉を通して島岡らしき声と明るく元気な声が聞こえる。神崎は先程のミーナの話から、この声がフラウかトゥルーデなる魔女(ウィッチ)のどちらかだろうと推測した。

 

「入るぞ」

 

 坂本が一言声をかけて扉を開けて中に入る。神崎もそれに続いた。

 

「で!で!次はどうやったの!?」

 

「おう!それで俺はこういう風に機体を動かして・・・」

 

「うわぁ・・・。信介って凄いね!そんな機動、普通の戦闘機じゃできないよ!」

 

「・・・」

 

 殺風景な部屋で、上機嫌で話す島岡と夢中になって聞き入っている金髪の小柄な魔女(ウィッチ)がテーブルに向かい合って座っていた。少し離れた所には不機嫌そうに眉をしかめている茶髪をお下げにした魔女(ウィッチ)もいた。

 島岡とその魔女(ウィッチ)まだ出会って間もないはずなのだが、すでに随分と仲良くなっている。

 神崎は何故かミーナに睨まれた自分との差に少し悲しくなってしまった。

 

「私はエーリカ・ハルトマン!君の戦闘見てたけど、なかなかやるじゃん!」

 

「・・・ゲルトルート・バルクホルンだ」

 

「神崎玄太郎です」

 

 片や明るく、片や暗く、全く正反対の自己紹介に神崎は内心戸惑いつつ、しかしポーカーフェイスで隠しつつ己の名を名乗った。ちなみに神崎は二人の名を既に知っていた。『アフリカ』で酒に酔ったマルセイユがやんややんやと騒いでいたからだ。やれハルトマンは私のライバルだとか、やれバルクホルンは堅くて面倒くさかったとか・・・。

 無理矢理付き合わされていた神崎も、喜んで付き合っていた島岡は何度もその話を聞いていた。だから島岡もすんなりとハルトマンと打ち解けていたのだろう。

 

「ゲン、二人はな・・・」

 

「大丈夫です、坂本中尉。お二人のことはハ・・・失礼、マルセイユ中尉から聞いています」

 

「うげぇ・・・ハンナかぁ・・・」

 

「・・・」

 

 神崎がマルセイユの名を口にした途端、ハルトマンは嫌そうに唇を歪めた。バルクホルンも眉の皺を深めている。神崎が二人の変化を不思議に思っていると、横にいた島岡が尋ねた。

 

「何かあったのか?」

 

「だってあいつ、会ったら『勝負しろ~!』としか言わないんだもん」

 

「・・・規律は守らない、命令には従わない、上官に反抗する。とてもカールスラント軍人とは思えないな・・・」

 

 エーリカの言葉は仕様がないと言える。だが、静かだと思っていたバルクホルンの言葉に神崎は不満を抱かざるを得なかった。妹分を悪く言われるのは我慢ならない。

 

「それは・・・失礼ではないかと」

 

「なに・・・?」

 

「・・・」

 

 言葉こそ丁寧だが口調には明らかな敵意が滲んでおりバルクホルンの目が厳しくなる。神崎はその視線を真っ向から受け止め対峙した。バチバチと火花が散りそうな睨み合いに島岡とエーリカがオロオロしていると、さすがにと思ったのか坂本が止めに入った。

 

「んんっ!二人ともその辺でいいだろう。ゲン、時間がそんなにある訳ではないんだ」

 

「・・・失礼しました」

 

「・・・いや、いい」

 

 神崎が引き下がるとバルクホルンも矛を収めた。二人の間にあった険悪な雰囲気が消えると、ハルトマンがその場を取り繕うように言った。

 

「えぇ~。もう行っちゃうの?まだ島岡の話聞きたかったのに~」

 

「悪ぃな、ハルトマン」

 

「よし、では行くぞ」

 

 ハルトマンの名残惜しそうな声を背に三人は待機室を後にした。どんよりとしたブリタニアの曇天の下を坂本を先頭に神崎と島岡は並んで歩く。

 

「ったく、何でバルクホルンさんに突っかかったんだよ?」

 

「ハンナのことを悪く言われたんだ。・・・反論しない方がおかしい」

 

 他人がいなくなりポーカーフェイスを取り払った神崎は露骨に嫌そうな顔をして、呆れ顔の島岡と言葉を交わす。坂本は困り顔だった。

 

「まぁ、なんだ。気を悪くしないでくれ。あいつらも近頃の戦闘で色々あったんだ。許してやってくれ」

 

「別に坂本のことを責めている訳じゃない。・・・だが、分かった」

 

 俺も固執しすぎたと神崎は溜息を吐いた。

 

「それで、どこに向かっているんだ?」

 

「この先にある建物は扶桑皇国海軍が間借りしている物の一つでな。そこで、ゲン、お前に会わせる奴がいる」

 

「・・・俺に?」

 

 予想もしていなかった言葉に神崎は首を傾げる。受けた命令の中にそのようなことは何も伝えられていなかったからだ。

 

「我が海軍の技術者だ。まぁ・・・何というか・・・途轍もなくアクの強い奴だが、話せばなんとか・・・」

 

 何か言い辛そうに話す坂本。しかし、その先の言葉は遮られた。

 

ドォォーーン!!!

 

 突然の爆発によって。

 

「なんだぁ!?」

 

「ネウロイか・・・!?」

 

 少し先の建物から黒煙が揚っているのを見て、神崎と島岡は身構える。一方、坂本は呆れたように額を押さえているだけだった。

 

「あいつはまたやったのか・・・」

 

 坂本の気の抜けた反応にネウロイの攻撃でないと分かると、二人は恐る恐る緊張を解く。周りを見れば周辺にいた基地の人々も慌てた様子が全く無かった。

 

「まったく・・・。二人とも少し急ぐぞ」

 

「ああ」

 

「お、おう」

 

 坂本に急かされるままに、二人は黒煙を吐く建物も元へ向かう。三人が半壊したレンガ造りの建物に着くと、中から場違いな笑い声が響いた。

 

「ハハハハハ!!失敗、失敗!!いやぁ、今回は流石に危なかったねぇ」

 

 瓦礫の山をガラガラと崩して現れたのは、ボロのように破れ汚れた白衣とひびの入った丸眼鏡をかけたヒョロリとした男だった。

 

「あぁ、坂本中尉。毎度毎度お騒がせしてすまないね」

 

「まったくだ!今月に入って三度目だぞ!」

 

「何、大丈夫だよ。修理費ならいくらでも出る」

 

「こんなこと続けていたらいつか死ぬぞ!」

 

「中尉の魔法力を感じられれば生き返る自信があるね。ミーナ少佐のでもいい」

 

「はぁ・・・」

 

 坂本は手の施しようがないと言わんばかりに重々しく溜息を吐くと、困惑中の神崎と島岡に向き直って言った。

 

「・・・紹介しよう。こいつは・・・」

 

「いや、中尉。ここは僕がやろう」

 

 男は坂本の言葉を制すと、立ち上がって白衣についた汚れを力強く叩き、眼鏡を押し上げて言った。

 

「僕の名前は鷹守(たかもり)勝己(かつみ)扶桑皇国海軍のしがいない技術屋だよ。一応技術大尉だ。会えて嬉しいよ、神崎君、島岡君」

 

 鷹守の自己紹介に神崎と島岡は敬礼で応えるが鷹守は手を振って笑いながら言った。

 

「大尉と言っても、僕は元々宮菱の技術者でね。なし崩しで軍に入ったからそんな堅苦しいのには慣れていないんだ。僕の前では普通にしていてくれ」

 

「は、はぁ・・・」

 

 島岡は戸惑いながらも返事をしておずおずと敬礼をしていた手を下ろした。神崎は一度坂本を見て、彼女が頷くのを確認してから手を下ろした。鷹守は満足そうに頷くと、廃墟のようになった自身の建物を見回して言った。

 

「さて、話したいことは沢山あるんだけど、まずはこの辺を片付けないと。すぐにでも怒ったミーナ少佐がやってくるからね」

 




スオムスに行くまでもう少し時間がかかります
申し訳ない!

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