次からは二部へ移行していきます
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その日の朝は至って平和だった。
演習場の近くに設置された居住スペースは朝から異様な賑わいを見せていた。皆、飯盒を片手に朝食を配る食堂車の前に殺到し、我先にと朝食を受け取ろうとする。
「皆さん!まだまだたっぷりあるので、慌てないで下さい!!」
先程まで朝食を作り、今は配膳をしている稲垣が大きな声をあげるも、この騒ぎは治まる気配がなかった。
というのも、稲垣が作る『アフリカ』の食事は大変美味だということが頻繁に食事にくるロンメル将軍によって、(そもそも将軍が前線部隊に食事を取りに来ること自体おかしいのだが)アフリカに配置されている部隊の大部分に知れ渡っていたのだ。
そして今回是非にということで稲垣が朝食作りに参加し、この始末である。
その喧騒の横で、少尉とはいえ士官である立場を利用して早々と朝食を確保していた神崎はすました顔で舌鼓を打っていた。
「うまいな・・・」
いつもと変わらない朝食の旨さに安心感を覚え、ほぅ・・・と溜息を吐いた。
結局、この朝食の騒ぎは各部隊の指揮官がやって来て一喝するまで続いた。なお、その後彼らも稲垣の朝食を食べ、胃袋を握られてしまうのに大した時間はかからなかった。
そんな朝の一幕もあったが、二日目の演習は滞りなく開始された。
今回は先日のような大規模な戦闘演習ではなく、部隊間での連携強化または部隊の錬度向上を主眼に置いた小規模での訓練だった。ある部隊では精鋭部隊から教えを請い、またある部隊では連携強化の為に他部隊と戦闘訓練を行っていた。
一通りの訓練を終えて、神崎と稲垣は滑走路に降り立ち格納スペースへ戻ってきた。二人がストライカーユニットから降りると整備兵達がすぐに整備と燃料補給を開始する。
その間に休憩を取ることにした。
「・・・大丈夫か?」
「は、はい!大丈夫です!」
神崎の問いかけに稲垣は元気よく返事をするが、その実呼吸は荒い。体力を消耗していることは一目で分かった。
(無理もない・・・か)
水筒の水を口にする稲垣を見つつ、神崎は先程までの訓練内容を思い出す。
今回の訓練は各部隊への航空支援だった。
普段、航空
その中でも特に要請が多かったのは陸戦
「今無理しても意味はない・・・。座って休め」
「はい。分かりました」
近くにあった木箱の上に稲垣が腰かけると、神崎はその向かい側の木箱に寄りかかった。そして、気分転換がてらに話しかける。
「昨日の夜はどうしていた?俺はずっと会議やら何やらで構ってやれなかったんだが・・・」
「私はシャーロットや陸戦
神崎とマイルズが話し合いをしている間は
「色々な話をしましたよ。それぞれの上官や部隊のこととか、日々の生活のこととか、好きな食べ物とか」
「そうか。・・・楽しめたか?」
「はい!とっても楽しかったです!」
演習期間中なのにはしゃぐのはどうかと一抹の不安を覚える神崎だが、稲垣が楽しそうにしているので気にしないことにした。騒いだおかげで今回のコンディションが良くなったならそれで十分だ。
「そういえば神崎さんのことも話題になりましたよ」
「俺の・・・か?」
稲垣の予想外の一言に神崎は首を捻った。いったいどんな内容だったのかと疑問に思っていると稲垣が顎に手を当てて思い出しながら口を開いた。
「身長とか体重とか好きな食べ物とか趣味とか・・・」
「・・・おい、ちょっと待て」
「日常生活はどうしているのかとか、好きな女性は・・・。はい?どうしましたか?」
「・・・まさか、全部話したのか?」
「いえ、少しは話しましたけど・・・。というより、私が一つ話したら勝手に十くらいに膨らんでしまって・・・。みんなの中で神崎さんは何か凄いことになってしまいました」
「・・・どんな風に?」
ジト目で稲垣を見ると彼女は申し訳なさそうに言葉を続けた。
「えっと・・・、神崎さんがネウロイを一睨みすれば、そのネウロイは燃え上がるとか、刀を振れば何百のネウロイが一瞬で消し飛ぶとか、包丁と魚を前にしたら人格が変わるとか」
「・・・」
「実は女の子で島岡さんと付き合ってるとか・・・」
「・・・なんだ、最後のは。勘弁してくれ・・・」
この様子では既に色々な噂ができて広まっているかもしれない。そんなことは、一番最後のやつは特に、御免被りたかった。なんとも言えない疲労感に頭を抱えてしまいそうになるが、訓練中であることを思い出し、溜息だけで済ませる。
その時、神崎のインカムに通信が入った。
「こちら神崎」
『司令部です。先程、エジプト方面からネウロイの襲撃がありました。現在「アフリカ」及び戦線の部隊が迎撃中。この演習区画への侵攻に備えて周辺空域の哨戒を行って下さい』
「了解」
通信を終えた神崎に真美が真剣な表情を向ける。どうやら稲垣も今の通信を聞いていたようだ。これ幸いと神崎は細かな説明を省いて指示を出す。
「すぐに出る。真美は二番機位置に」
「了解です!」
二人がユニットまで走ると整備兵達が慌てて機材の撤収を始めていた。
「整備と補給、完了しました!」
「ご苦労」
敬礼と共に報告してくる整備兵に短く返事をしつつ、神崎はケージに飛び乗りユニットへ足を滑り込ませた。魔法力の光と共にフソウオオカミの耳と尻尾が表れ、魔力によってユニットの魔導エンジンが唸りをあげる。
「・・・発進するぞ」
「はい!」
ユニットケージから離れた二人は、神崎を先頭にして滑走路へと進む。そして、管制官の誘導のもと相次いで出撃していった。
『こちら司令部。こちらへの襲撃があるなら北東からの可能性が高い。そこを重点的に哨戒されたし』
「了解。・・・他方面の警戒は?」
『訓練を中断した地上部隊が行う。ブリタニア陸軍の
「了解」
司令部との通信を終えた神崎は、手に持つ九九式機関銃の感触を確かめながらチラリと自分の後ろに続く稲垣を見た。別段、変わった様子もなく十分に落ち着いているようだった。頼りなさなど何処にも無い。
(負けてられないな・・・)
気を引き締めつつ神崎は目標空域へと向かう。程なくして、彼の視線の先にポツポツと黒点が現れた。自然と銃を持つ手に力が入る。
「・・・司令部。ネウロイを視認した。数は6、機種は不明」
『了解。早急に迎撃を。今のところは・・・』
そこで司令部からの通信が途絶えた。神崎が眉をしかめ、こちらから通信を送ると何度目かで回復した。
「司令部、通信は大丈夫か?」
『一度に多数の通信が入り、混線してしまった。新たに入った情報を伝える』
通信手の声は先程に比べ焦燥感が強かった。しかも彼の声に混じって大声で怒鳴り合うような喧騒も聞こえる。何か悪いの自体が起こったらしい。神崎は嫌な予感を胸に抱きつつ次の言葉を待った。
『南西から多数の地上型ネウロイが接近中。未確認ではあるが、今まで発見されたことのない超大型ネウロイがいるという情報もある。至急、そちらにも向かえ』
「・・・了解」
司令部からの通信が切れると渋面を作りつつ神崎は稲垣に向き直った。
「真美、お前は地上型の方へ向かえ。・・・ここは俺だけで十分だ」
「で、でも・・・」
「飛行型にお前のボヨールドは向かない。それに威力が勿体無い。・・・行け」
すでに飛行型―接近してきてケリドーンだと分かった―が細部まで視認できるまで接近している。神崎の目は、話は終わりだと言わんばかりに既にケリドーンに向けられていた。
「分かりました」
稲垣はクルリと反転すると南西へと向かい加速した。その様子を確認した神崎は稲垣に通信を入れる。
「一つ言い忘れた」
『・・・なんですか?』
やはり先程の有無を言わさない言い方に傷ついたのか、少し落ち込んでしまったようだ。以前の・・・暴走した時の様に怒鳴りつけた時と又同じ事をしている。神崎は後悔しつつ、稲垣に語りかけた。
「信じている・・・頼んだぞ」
『・・・はい!』
稲垣は元気な声で返事をした。神崎はその事に安堵して静かに通信を切った。
「さて・・・手早く終わらせる」
そう呟いて神崎が銃を構えるのと、ケリドーン等が一斉にビームを撃ったのはほぼ同時だった。
長距離砂漠挺身隊、通称LRDGはブリタニア王国陸軍の特殊部隊である。砂漠での長距離長時間の偵察任務を主としており、車両に水や食料を詰め込み何週間もの間砂漠を駆け回る。強烈な日差し、乾ききった空気、夜間には鋭利な冷気という極限環境の中で長時間の任務を遂行する彼らは総じて屈強な肉体と強靭な精神を備えている。日頃からネウロイなど怖くない。怖いのは水と燃料が切れることだけだ、と言うように。
しかし、今岩陰に隠れて双眼鏡を通して見るネウロイはさしものLRDG隊員であっても恐怖を抱かずにはいられなかった。
そのネウロイは大きかった。いや、とてつもなく大きかった。縦幅は亀のような通常型の4倍、横幅は3倍、全長にいたっては100mに届くのではないかと思えるほどだ。そして胴体にはその巨体に見合う砲門が幾つもあり、百足のような沢山の足が砂煙を巻き上げて前進していく。その姿は白波を掻き分けて進む軍艦を連想させた。しかも、その超巨大ネウロイ一体だけではない。護衛のように数体の中型と数多くの小型ネウロイがいた。類を見ない大戦力だった。
LRDG隊員が逃げるように自分が乗ってきたジープへ走り無線機に飛びついた時、聞き慣れた音が聞こえた。彼が釣られるように空を仰ぎ見ると、一条の飛行機雲。身の丈ほどの銃を持つ、赤と白の衣装に身を包んだ小さな
あんな小さな
LRDG隊員は唇を噛み締めた。しかし、任務は忘れずその手は無線機のスイッチを入れていた。
超大型ネウロイを見た稲垣は思わず驚きの声をあげた。
「お、大きい!!」
空から見ればその大きさがよく分かる。圧倒的な超大型ネウロイの存在感に稲垣は竦みあがってしまった。
「こ、こんなの・・・どうすれば・・・」
恐怖に呑まれた為か稲垣の瞳が力なく揺れ、ボヨールド40mm砲を持つ手が小刻みに震える。そんな時に再び神崎からの通信が入った。
『真美・・・!状況は・・・!』
神崎の声の後ろからは断続的に射撃音が聞こえる。まだ戦闘中なのだろうが、稲垣は堪らず縋り付くように言った。
「とても大きな、戦艦みたいなネウロイが!他にも沢山・・・。神崎さん、私はいったいどうすれば・・・!?」
『・・・っ!?』
神崎が息を呑んだのが無線越し分かったが、すぐに冷静な声を出した。
『・・・少なくとも、地上部隊が展開するまでの時間は稼がなくては』
「わ、私には・・・!」
とても無理ですと続ける前に神崎が矢継ぎ早に言葉を続けた。
『俺が無茶なことを言っているのは分かっている。だが、今ここでお前が戦わなければ地上部隊は態勢を整えられず、壊滅だ。・・・つっ!?』
一瞬激しいノイズが走り、神崎の声が聞こえ辛くなってくる。
『お前だけが・・・頼り・・・だ。俺も・・・すぐ・・・かう・・・だか・・・頼む!』
「神崎さん?神崎さん!」
一際大きなノイズが走った途端、神崎との通信が完全に途絶してしまった。稲垣は何度も呼びかけるが、インカムはノイズが走るだけで何も聞こえなかった。
稲垣はギュッと目を瞑ると、静かにインカムを切った。ゆっくりと目を開けた時、彼女の目には先程までの恐怖の色は無かった。代わりにあるのは、自分のすべきことを果たさんとする決意の色。
「・・・行きます!!」
自分に纏わりつく恐怖を払うように大きな声をだす稲垣。ボヨールドを持つ手に力を込めると、急降下に入った。照準器を通して見る超大型ネウロイはみるみるうちに大きくなる。再び竦みあがりそうに心を稲垣は歯を喰いしばって耐え、ネウロイを精一杯睨み付ける。
稲垣の接近に気が付いたのか、超大型ネウロイも動き始めた。胴体上部に設置された砲のうちいくつかを動かし、稲垣へと向けビームを発射した。稲垣はロールの機動で回避し更に接近する。超大型ネウロイが再び砲門を向ける一瞬早く、稲垣が引き金を引いた。
ドンドンドンドンドン・・・・ッ!!!
連続する野太い砲声と共に40mm徹甲弾が一弾倉分全て吐き出される。何発かは発砲の反動で狙いが逸れ地面に着弾したが、少なくない数が超大型ネウロイの胴体へ、そして砲へ吸い込まれた。
ギギギギギャャャャァァァァアアアアア!!!!!
爆発と共に超大型ネウロイから響き渡る金属音のような鳴き声を聞きつつ、稲垣は代えの弾倉を装填する。
「まだまだこれからです!」
己を叱咤するように稲垣は叫ぶ。超大型ネウロイにはダメージを与えたが、少しすれば修復してしまうだろう。しかも、傷ついた超大型ネウロイを守るように追随する中型小型のネウロイが動き始めている。圧倒的な戦力差。しかし、もう稲垣の瞳には恐怖の色が浮かぶことはなかった。
演習場の司令本部にはLRDGによって情報がもたらされ、早急な対応策を講じていた。集まっていたのが精鋭部隊であることが幸いし、状況への対応が早かった。すでにブリタニア王国陸戦
「先生。この地点で戦闘が行われています」
「ふむ・・・。地形をうまく使えばこちらも十分に対応できるな」
フォルゴーレ空挺師団の部隊章が入ったトラックが次々出発していく中、バッハ少佐は自分の部隊に出発準備をさせつつ、副官のシンプソンと共に作戦を練っていた。
「アレを持ってきておいて助かったな。数が心もとないが・・・」
「訓練で使用する予定だったので、予備を含めて10台しかありませんが・・・」
「いや、これで十分だろう。多すぎるとこちらの動きが煩雑になる」
そこからバッハとシンプソンが作戦を練り上げるのと同時に部隊の出発準備が整った。
「どうやら今回の戦いは
「ああ・・・そうだな。それが喜ばしいのか悲しいのか・・・」
目の前にジープが止まり、二人は静かに乗り込んだ。
戦場にいの一番に駆けつけたC中隊が見たのは、ネウロイという大きな波をたった一人で塞き止める稲垣という防波堤だった。撃ちあげられる濃密な対空砲火を搔い潜り、ボヨールドを振り回して戦う様はまさに獅子奮迅の動きだった。
彼女に負けてはいられない・・・。先頭に立つマイルズはカノン砲を振り上げて叫んだ。
「全車両、一斉射撃!!撃ち砕け!!」
12のカノン砲が火を噴き、空気を震わせた。上空の稲垣に気を取られていたネウロイはC中隊に気付いていなかったため、成す術もなく砲撃を食らい爆散していく。不意打ちが完全に成功した形だった。
「ソフィは隊の半分を率いて露払いを!残りは私に!超大型ネウロイを足止めする!」
「了解!任せてください、隊長!」
副官ソフィの頼もしい返事を聞き、マイルズは声を張り上げた。
「行くわよ!全速前進!!」
制圧射撃による援護を受けつつ、マイルズは陸戦ユニットに魔力を注ぎ込んだ。魔導エンジンが唸り始めるのと同時にユニットの足部分が折り畳まれ、無限軌道がせり出てくる。砂煙を巻き上げマイルズ以下6名は回り込むように前進し、ネウロイの進行方向へと躍り出た。こちらの動きにようやく気付いたネウロイはビームで反撃してくるが、陸戦
「足を狙え!撃てぇ!!」
マイルズが放った弾丸は寸分違わず超大型ネウロイの脚部に命中し、いくつかを粉々に粉砕した。後に続く5発の弾丸も脚部を破壊し、ネウロイの足を確実に止めていた。
「味方が到着するまで此処で踏みとどまる!ブリタニアの
私は本当に
私が
私はアフリカ派遣の話を聞いて真っ先に飛び付き、苦手な船もなんとか我慢して、アフリカにやって来た。そして、出会った。
私が憧れていた
何度も映画を見て、本も読んだ。
そう、扶桑海の電光、加東圭子大尉に。
初めて会った加東圭子、ケイさんは想像していたよりも気さくでざっくばらんな所があったけど、とても優しかった。ケイさんからの言葉は私の心に染み込むように入ってきた。ケイさんに会えただけでも、アフリカに来て本当に良かったと思う。
でも、それだけじゃない。
ここで沢山の人に会った。
マルセイユさん、ライーサさん、そして、神崎さんと島岡さん。
皆とても優秀な人達で不甲斐ない私は助けられてばかりて、色々なことを教わった。
マルセイユさんからは
ライーサさんからは人を支えていくことの大切さを。
神崎さんからは果たさなくてはならない責任を。
島岡さんからは戦うための勇気を。そして、ケイさんからは仲間を大切にすることを、優しさを。
私は
ただ、魔力や技術を持つという訳ではない。自分を
・・・分からない。
でも、そうなりたい。いや、そうならなければならない。そうなるんだ。
その為にも・・・
「絶対に・・・絶対に通しません!!!」
もう何度叫んだか分からない。
腰に沢山括り着けてきたはずの弾倉は既に使い尽くされ、今装填したので最後だ。体力も相当消耗しているのが分かる。時々視界が歪むし、ずっとボヨールドを握っていた両手はカチカチに固まっている。無意識のうちに無理な機動をしてしまったせいか体に痛みが走る。
でも、通さない。
負けない。
神崎さんの期待に応える為に。アフリカを守るために。私が
「アアアアア!!!」
何度も射撃を与えたはずの超巨大ネウロイは幾つかの砲を完全に破壊する迄には至ったものの、決定的なダメージは与えられていない。それでも、私は引き金を引き続ける。何発も着弾するが、反撃のビームが返ってくる。シールドを出して防いだ、が・・・。
「キャッア!?」
ビームを受け止めた衝撃を吸収し切れず、吹き飛ばされてしまった。あれだけ強く握っていたボヨールドが宙を舞い、私は重力に引き寄せられ落下していく。
(落ちたら・・・痛いかな・・・)
朧気な意識でそんなことを思っていると、柔らかな衝撃と共に落下が急に止まった。
もう地面に着いたのかなと思ってから、ふと気付いた。
背中から感じる温かさ。
自分のストライカーユニットとは違うエンジン音。
わたしを覆う影。
「待たせた・・・。よく、頑張ったな。真美」
私の顔を覗き込んだ神崎さんは微笑みながらそう言った。
「待たせた・・・。よく、頑張ったな。真美」
吹き飛ばされた稲垣を抱きとめて神崎は言った。
倒しても倒しても沸いて出てきたヒエラクスやケリドーン、さらには中型ネウロイを九九式機関銃の全弾と少なくない魔法力をつぎ込んだ炎で始末した神崎は全速力で稲垣を追った。途中で無線が完全に故障してしまい、自分が最後に言った言葉は彼女に届いたのかは分からなかったが、彼女は全力で戦っていた。
「・・・飛べるか?」
「飛ぶだけなら・・・なんとか・・・」
神崎ネウロイ達が撃つビームの射程から一度離れると、ゆっくりと稲垣を放す。彼女のストライカーユニットのエンジン音は頼りないが、しっかりと浮かんだ。
「演習場へ戻れ。そして、ゆっくり休め」
「で、でも・・・」
「お前は十分すぎるほど頑張ってくれた。・・・本当によくやってくれた」
神崎は安心させるように微笑み、稲垣の頭を撫でた。
稲垣は目に涙を溜めるもグッと我慢し流すことはなかった。
代わりに大きな笑顔を浮かべた。
「はい!!!」
「よし。後は・・・任せてくれ」
そう言うや否や神崎は稲垣に背を向けた。
睨み付けるのは超大型ネウロイ。既に神崎には九九式機関銃はなく、魔力も消耗している。今あるのは腰の左右に装備している拳銃のC96と扶桑刀『
だが、神崎は何も心配していなかった。
「ここからは
この一言が引き金になったかのように、とてつもない轟音が戦場の空気を揺さぶった。
「そうとも。ここからは我々が相手だ」
双眼鏡を覗いているバッハが独りごちる。
その周りでは半自走砲に改造された10門の8.8cm対空砲がネウロイに向け砲撃を加えていた。もともと現地改造だったものだが、迅速な移動が可能になることから使用することになったのだ。一発撃つごとに場所を変え、ネウロイが反撃する隙を与えない戦術は効果あげ、多数を撃破する一方で此方の被害は皆無だった。
「我々だけではないぞ」
『騎兵隊の到着!』
『虎も居ますよ!』
『機甲師団の実力、見せつけてやろう!』
砂丘を越えて現れたのは、パットンガールズ、ティーガーを履くシャーロット、そして各国の機甲師団。魔法力を持つ陸戦
ギギギギャャャァァァァアアアア!!!
数多の砲弾を受けた超大型ネウロイは大きく嘶くと砲門を一斉に動かし、ビームを放った。数十発ものビームが
「させるか・・・!!!」
神崎が一瞬早く動いた。残存魔力を全て
「ハァァァアアア!!!」
裂帛の気合と共に鞘から解き放たれた
「さすがは『アフリカの太陽』だな!続けて撃て!!」
直撃を免れたビームが近くに着弾し、その爆風で飛びそうになる帽子を押さえながらバッハは叫ぶ。
「ここが正念場よ!」
超大型ネウロイに砲撃を続けながら、マイルズも叫ぶ。その時・・・
「割れた!ネウロイの装甲が割れたぞ!!」
戦車のキューポラから顔を出していたブリタニア戦車兵が双眼鏡を覗いて叫んだ。確かに、超大型ネウロイの上部からコアの光が漏れていた。しかし、地上からでは死角になって攻撃することができない。
『残弾なし、残存魔力も極僅かだ・・・!攻撃できない・・・!』
無線から神崎の辛そうな声が響く。そんな中、超大型ネウロイが動いた。膨大な砲撃にも関わらず、ゆっくりとだが確実に砲門を動かし、再びビームを撃とうとしている。もはや、神崎による防御もできない。もはやこれまでか・・・と皆が諦めかけた。
『ここは俺達に任せてもらおうか!!』
神崎とは違う、野太く荒々しい声。そして巨大なエンジン音。皆が空を見上げると、巨大な爆撃機が上空を通過していた。
『我々、フォルゴーレ空挺師団が止めを刺す!!!』
その言葉と同時に爆撃機から沢山の白い華が咲き始める。フォルゴーレ空挺師団が落下傘降下を始めたのだ。彼らが持つのは火炎瓶と対戦車地雷、そして収束手榴弾。彼らは寸分違わず超大型ネウロイの上に降下した。そして各々の武器を振りかぶり・・・そして・・・。
ギギギギイイギイイイイァヤアアヤァヤァアアアア!!!
一際大きな鳴き声が響き渡ると、超大型ネウロイは爆散した。
演習から始まったこの戦いは、ある意味この演習の成果を出した。
戦場での
ネウロイとの戦いは決して
両者が共に居てこそ勝利を手にし得うるのだ・・・と。
OVAを見て三回・・・はやくエーゲ海が見たいですね
はやく動くライーサが見たい(迫真