荒いかもしれないけど、悪しからず
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「三人とも大丈夫!?」
蹴破られたかの如く開かれた扉から飛び込んで来たのは、血相を変えた加東だった。
「ケイさん!!」
部屋で一人ソファに佇んでいた稲垣は弾かれたように立ち上がり、加東の胸に飛び込んだ。
「真美!大丈夫!?怪我はない!?」
「はい・・・!」
「あぁ、よかった。一時は本当にどうなることかと・・・」
稲垣の思いの外しっかりとした声に安堵したのか、加東は頬を緩めて力一杯稲垣を抱き締めた。が、部屋を見回すとすぐに表情を曇らせてしまった。
「玄太郎と信介は?二人とも無事なの?まさか・・・」
「・・・大丈夫です」
「玄太郎!?」
加東が振り返ると、先ほど彼女が入ってきた扉に神崎が立っていた。疲れた様子を色濃く見せながらも、安心させるように微笑んでいるその姿に加東は思わず抱き着いていた。
「ケイさん!?なにを・・・!?」
「よかった、無事で・・・。本当に・・・!」
「・・・!」
抱き着かれた神崎は慌てて引き離そうと彼女の肩に手を伸ばすが、その震える声と肩に感じる涙の感触に何も言えなくなってしまう。ここまで心配してくれた彼女を無下にできる訳もなく、結局伸ばした手は所在無く宙を彷徨っていた。
「報告で、玄太郎が血塗れだったって聞いて。もしかして、重傷を負ったんじゃないかって・・・」
「本当に・・・ご心配おかけしました」
神崎は戸惑いながらも、加東の震える背中に手を回してゆっくりとさする。すると、加東は神崎に回している腕に更に力を込めつつ、ゆっくりと顔を上げた。その涙で濡れた睫毛と若干上気した艶やかな表情に神崎は思わず息を呑んでしまう。
「玄太郎・・・」
「ケイ・・・さん」
互いに見つめ合う二人。そのまま二人は何も言わず、しかし何かに憑りつかれたように顔と顔との距離を縮めていく。
そして・・・
「あ~・・・。ケイさん?ゲン?もうそろそろやめた方がいいんじゃないすか?真美も困ってるっすよ?」
神崎から少し遅れて帰ってきた島岡の申し訳なさそうな声で二人は飛び下がるようにして距離を離した。神崎が我に返って周り見れば、島岡がバツの悪そうに頬を掻いており、真美が真っ赤になって顔を両手で覆い、その指の隙間からこちらの様子を除き見ていた。
「し、信介・・・」
「あ~あ、ケイさんは俺のことは全然心配してなかったんすね。ひでぇなぁ・・・」
「そ、そういう訳じゃないのよ!?で、でも先に玄太郎がいたから・・・」
「別にいいっすけどね。俺にはライーサがいるし」
「ケ、ケイさんと神崎さんて、そ、そういう関係だったんですか!?」
「ま、真美!?ち、違うわよ!?こ、これは嬉しさの余りというか、なんというか・・・」
二人に責められ、しどろもどろになる加東。先ほど見た地獄のような光景とかけ離れた穏やかな三人のやり取りに、神崎は微笑みながらも疎遠な感情を覚えた。それと共に蘇る精神を蝕んでいくような胸の痛み。それが僅かに表情に出ていたのだろう。目を向ければ、島岡が意味ありげ視線をこちらに向けていた。
(まだ大丈夫だ・・・。まだ・・・な)
加東と稲垣にはばれないように静かに首を縦に振る。そして、再び微笑みながら言った。
「モントゴメリー将軍が護衛を出してくれます。帰りましょう・・・基地へ」
扶桑皇国、東京、霞ヶ関、海軍省
数年前は大空に広がる戦場を飛び、絶体絶命の扶桑を救うために力を奮った北郷章香だが、「あがり」を迎えてほとんどの魔力を失った今は机の上を戦場としていた。扶桑海軍に所属する
その報告を受け取った時も大量の書類仕事の最中だった。
夕焼けに染まり始めた時刻。宛がわれた部屋でペンを動かす北郷に従卒が声をかけた。
「北郷大佐、電報が届いております」
「うん、ありがとう。誰からかわかるかな?」
「はい。・・・『K・K』という方からです」
従卒が言ったその一言にペンを動かす北郷の手が一瞬止まる。
「・・・わかった。そこに置いておいてもらえるかな?」
一礼して部屋から退出する従卒。扉が閉まると、北郷はおもむろにペンを置き、静かに電報を手に取った。窓から差し込む西日が電報に目を落とす彼女の横顔を照らす。その表情はどこか哀愁を漂わせるものだった。
「『蛇は脱皮した』・・・か。これは、こちらも本格的に動き出さなければいけないね」
北郷は独り呟くと机の引き出しからマッチを取り出し、電報の紙切れに火をつけた。瞬く間に火の手が広がっていく紙切れを今まで使ったことのない備え付けの灰皿に放り、椅子から立ち上って窓の外を眺める。
「ゲン、君は成すべきことを見つけたのかな?望んだことなのかな?それとも・・・」
憂鬱な表情になって呟く北郷。しかし、最後の一言は口に出すことはなく、その胸の内にしまう。そしてその表情のままに電話に手を伸ばした。
「私だよ。・・・うん。そろそろ最終的な段階に移行させていかないとね。・・・そうだね。あれは今後への実証実験にもなるから・・・、うん・・・そこはしょうがないないね。技術提供の交換条件だったから・・・。どちらにしろ、『伊計画』は完成させなきゃいけないよ。そうだね・・・最低でも半年・・・いや三ヶ月かな。・・・うん。あぁ、それともうひとつ。ユニットの件は・・・うん、そうだね、連絡がつき次第送ることにしよう。じゃあ、頑張ってくれ」
統合戦闘飛行隊『アフリカ』基地
『もともと、ネウロイとの和平の考え自体は存在していたものだ』
暗転
『お前の
暗転
『だが、それらはネウロイの知的能力に対する疑念とコミュニケーションが不可能なことにより消滅した』
暗転暗転
『一匹狼はいらない』
暗転暗転
『圧倒的な戦力による攻撃で人類は絶望の淵に立たされた』
暗転暗転
『転機となったのはスオムスでの戦いだ』
暗転暗転暗転
『一人なら大丈夫って。それってどういう意味?』
暗転暗転暗転
『
暗転暗転暗転
『俺だってな・・・戦えるんだよ!赤城の時とは違う!』
暗転暗転暗転暗転
『人は絶望的な状況に陥ると拠り所を探すものだ』
暗転暗転暗転暗転
『私達自身を信用しろ。
暗転暗転暗転暗転
『ネウロイとのコミュニケーションの可能性の再燃した』
暗転暗転暗転暗転
『炎を使い過ぎれば、魔導エンジンが再び熱暴走を起こす可能性が高いということです』
暗転暗転暗転暗転暗転
『和平・・・共生。盲信的にネウロイとの戦いを終結を求める人々が速やかに増えていった』
暗転暗転暗転暗転暗転
『・・・私もゲン君が婚約者でよかった』
暗転暗転暗転暗転暗転
『ガリア、スオムス、アフリカ、・・・ネウロイからの攻勢が激しいこの三か所で狂信的な者達の行動が過激化していった』
暗転暗転暗転暗転暗転
『貴様は我々の障害だ。消えてもらう』
暗転暗転暗転暗転暗転
『結果・・・』
暗転暗転暗転暗転暗転
『・・・ン、ゲ・・・、・・・!』
暗転
「・・・ゲン!いつまで寝てる!起きろ!」
「・・・ああ」
いつもの散らかったベッドから神崎が身を起こすと、天幕の扉から見える空はすでに暗くなりかけていた。護衛部隊に守られて基地に入ったのが午後三時頃だったから、四時間ぐらい寝ていたことになる。まだ完全に覚醒しきれてない頭を抱えて宙を眺めていると、島岡が心配そうに顔を覗き込んできた。
「大丈夫か?」
「・・・ああ。・・・なにか状況に変化があったのか?」
神崎が頭を振りつつ尋ねると、島岡はバツの悪い表情を浮かべた。
「いや・・・、実は俺も今起きてよ。もう日が暮れてるもんだから慌てて起こしたんだよ」
「・・・そうか」
申し訳なさそうに目を逸らす島岡に特に反応することなく、神崎はふと会話を続けた。
「ケイさんが気を利かせてくれて休みをくれたんだ。・・・少しぐらいは大丈夫だろう」
「そうだけどよ・・・」
「・・・ライーサが心配か?」
「・・・そうだな」
基地に帰ってきた時、ライーサとマルセイユは居なかった。今回のトブルク市街での戦闘を陽動としたネウロイの襲撃を警戒し、周辺空域の哨戒任務に就いたのだ。聞けば二人は、ライーサの方は特に、出撃するのを渋ったらしい。
「・・・愛されてるな」
「・・・おう」
神崎が軽く冗談を交えたつもりで言った一言に、真顔で返事をする島岡。そんなやり取りに二人は力なく笑うが、その笑みはすぐに萎んでいった。
そして話題は自然とあの方向へと向かう。
口火を切ったのは島岡だった。
「・・・なぁ、信じられるか?ネウロイとの共生だぞ?そんなことのためにあんなことが・・・」
「・・・」
島岡の言葉に神崎は沈黙で答えた。
モンドゴメリーから聞かされた事実。
今までの戦闘がネウロイとの共生を望んでいる者達によって引き起こされていたという事実。それは島岡には到底受け入れられないものだったのだろう。それは声音にも色濃く表れていた。だが、神崎には一部理解できるところもあった。
「俺も以前は神道に関係していた身だから分かるが、人は何かを信じたくなるものだ。それが絶望的な状況であればあるほど、何でもいいからすがりつきたくなる。彼らの場合はそれがネウロイだった・・・」
「気が狂ってるとしか思えねぇよ・・・!」
「人の考えはその人個人の問題だ。とやかく言えることじゃない」
まぁ、俺もそう思うがな・・・、と神崎は暗い表情で島岡に同意し続けた。
「どちらにしろ俺は戦う。ネウロイと共生できれば兵士も
「・・・そうかよ」
この言葉に何故か島岡は不満そうに答えた。
「・・・?」
彼がなぜそうなったかは分からない神崎。
だが、そんなことはすぐにどうでもよくなる。低く唸るようなエンジン音が窓の外から響いてきた。
「帰ってきたみたいだな・・・」
「ライーサ・・・!」
島岡の視線が天幕から覗く空に釘付けになる。その様子を見た神崎の表情はほころんだ。
「・・・滑走路へ行くぞ。元気な姿を見せてやろう」
神崎と島岡が滑走路に到着したのと、マルセイユとライーサが着陸態勢に入ったのはほぼ同時だった。
「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・。ライーサ!!!」
「シンスケ!!!」
自分の天幕から全力疾走してきた島岡の力の限りの叫びに、ライーサはすぐに気付いた。管制官からの誘導を受けるのもそこそこに一目散に滑走路へと着陸。滑走が完全に停止するのも待たずにストライカーユニットから抜け出すと、バランスを崩しながら島岡の胸に飛び込んだ。
「よかった・・・!シンスケ!無事で!本当に・・・!」
「お前を残して死ねるかよ・・・!」
涙を流して縋り付くライーサを島岡は力いっぱい抱き締める。その光景に滑走路にいた面々は、無茶な着陸で破損してしまったストライカーユニットを見て頭を抱えていた整備兵も含めて、自然と頬を緩めていた。
「ゲンタロー!無事だったんだな!」
「ああ。心配かけたな」
しっかりと着陸してきたマルセイユが神崎の元へ嬉しそうに駆け寄ってきた。ニコニコと太陽のように明るい彼女の笑顔に神崎は目を瞬かせた。
「ん?どうした?」
「いや・・・なんでもない」
彼女の笑顔を見ていると胸が重くなっていく。今の神崎には彼女の純粋な表情はつらかった。
その夜はマルセイユの天幕で飲めや歌えやのドンチャン騒ぎだった。
皆よほど神崎や島岡、稲垣を心配していたのだろう。三人を元気づかせるようにとマルセイユは半ば無理やりテンションをあげていた。
ライーサに関しては片時も島岡から離れることなくずっと彼に寄り添い、加東はそんな彼らをカメラに収めつつ時々羨ましそうに島岡とライーサを眺めていた。
稲垣は最初は楽しそうにしていたが疲れていたのかすぐに寝てしまった。
神崎も楽しそうにコップを傾けていたが、時々どこか虚しそうに目を伏せていた。
宴会が終わり皆が解散し各々の天幕に戻った後も、神崎は一人未だマルセイユの天幕に残っていた。自分の天幕に戻って眠る気も、さりとて誰かと話す気もなく、ランプの淡い光を頼りにただただ酒瓶を傾けて、手の中にあるある物を眺めていた。それは栗色で艶のある小さな板のような物。
それは櫛だった。
昔、自分が妹たちの髪を梳いてやっていたそれは、竹井が帰り際に渡してきた物だった。普段なら懐かしさを感じる物だったが、今は気分をより憂鬱させるだけで、それを打ち消すために只々酒を流し込む。
それは、ここの主が帰ってきても同じだった。
「お前がそんなに酒を飲むのは初めてじゃないか?」
「・・・そうかもな」
神崎は酒瓶を傾けつつ帰ってきたマルセイユに目を向けると、眉をしかめた。彼女はシャワーでも浴びてきたのだろう、制服をラフに着て若干髪や肌を湿らせていたのだが、髪が完全に乾ききっていないせいかボサボサになっていた。
「なんだその髪は・・・」
「ん?」
「こっちに来い。整えてやる」
「う、うん。な、なんか今日は変じゃないか?酔ってるのか?」
神崎の有無を言わさない口調にマルセイユが戸惑いながら従う。マルセイユが神崎の前に背を向けて大人しく座ると、彼は慣れた手つきで先ほどまで眺めていた櫛を操り、彼女の髪を梳き始めた。
「おぉ・・・。上手んだな、ゲンタロー」
「散々、妹達にやってきたことだからな」
「私は妹なのか?」
「そんなもんだ。・・・どれだけ妹が増えるんだよ」
「・・・本当に大丈夫なのか?ゲンタロー?」
「・・・何がだ?」
髪を梳きながら答える神崎にマルセイユは心配そうに尋ねる。
「お前がそんなに酒を飲むことなんて一度もなかった。やっぱり・・・」
「・・・」
マルセイユの言葉を聞きつつも神崎は黙ったままで手を止めない。
「どこか怪我をしたのか?それとも・・・」
「少しだけ・・・いいか?」
「え?」
神崎の突然の言葉。
マルセイユが反応する前に、神崎はマルセイユの髪に顔を埋めた。
「ゲ、ゲンタロー!?」
「すまん・・・少しだけ許してくれ、少しだけ・・・」
「・・・!?」
神崎の声が涙声に変わる。その今まで想像もできなかった声にマルセイユは驚いた。
神崎は呟く。
「人を・・・殺したんだ」
「っ!?」
「今までネウロイから人類を守るために戦っていたのに・・・。人を殺したんだ・・・。何をしてるんだよ・・・俺は・・・」
戦闘が終わってから、ずっとため込んでいたのだろう。吐き出されたこの言葉は誰にも聞かせるつもりのない独り言だったのだろう。耐えきれなかったのか、それとも酔いの勢いなのか。だが、そこにはマルセイユがいた。
「・・・ゲンタローのおかげでシンスケとマミは無事だったんだ。それだけでいいじゃないか」
「・・・そうなのか?」
「そうだ。少なくとも私はそう思う。だから・・・私はゲンタローに感謝してるぞ?」
「・・・そうか」
「ありがとうな、ゲンタロー」
「・・・ああ、ああ」
自分の後ろから聞こえるくぐもった涙声にマルセイユは不思議と穏やかな気持ちになっていった。
「・・・私の髪を貸してやったんだ。これは高くつくぞ、ゲンタロー」
数日後、神崎と島岡にスオムスへの転属の辞令が下った。
今のトブルクの裏路地は地獄だった。至る所に弾丸に撃ち抜かれた死体、死体、死体。周辺の建物の壁には血飛沫が飛び散り、辺りには焦げ臭いが充満していた。
そんな中に一段と無様な姿に変わり果てた建物があった。壁は爆発物で吹き飛ばされた為に無残に崩れ去り、二階に上がる為の階段は無数の弾痕が刻まれ今にも崩れ去りそうになっていた。そして、その二階の一室。ニュースを流していたラジオは真っ二つに壊れ、トブルクの街並みを見下ろせた窓はその大きさを無様に二倍にしていた。そんな部屋に一人の男が倒れていた。いつも座っていたイスにはもう座れない。立つための足はすでになく、腹部には目にも当てられないほどの傷を負っていた。
「もう・・・終わりか。我らの・・・同志は・・・」
何かを求めるように男は掠れて声を出しながら顔を動かす。しかし、既にその目には光はなかった。その為だろう。男は目の前にいる黒い装備で武装した数名の男達がいるのが分からなかった。隊長らしい一人が静かに拳銃を構える。
「我らの同志は・・・必ず・・・我らと共に・・・」
この言葉が男の遺言になった。
響き渡る一発の銃声。
隊長らしき男は無線機を手に取った。
「殲滅、完了しました」
無線機を持つ腕には蛇を象ったエンブレムが鈍く光っていた。
色々な伏線的なものも張っちゃいました
回収できるかは未定((笑))
次の更新もこのぐらいの時間がかかるかも・・・