ストライクウィッチーズ 一匹の狼   作:長靴伯爵

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お久しぶりです!

短いですが、何とか一話分書き上げました。今後どのくらいの頻度で投稿できるか分かりませんが、どうか楽しんでいってください。

感想、アドバイス、ミスの指摘、よろしくお願いします!


第二十七話

 

 

 

 

 

 

 ブリタニア陸軍第八軍団総司令部

 

 

 シャワーを浴びて血も汚れも洗い流し、借り物のブリタニア陸軍の制服を着た神崎と島岡、そして稲垣はあてがわれた個室で待機していた。今でもトブルクの街では戦闘が行われており、この基地も攻撃されている。その戦闘音がこの部屋にも聞こえてきていた。

 

「・・・シン。少し落ち着け」

 

 神崎が、苛立たしげに部屋とウロウロと歩き回り時折窓の方を増悪を込めた目で睨み付ける島岡を諌める。神崎はソファーで憔悴して毛布にくるまった稲垣の隣に座っていた。この部屋に入ってから一言も発していない彼女を、神崎は気遣っていたのだ。

 島岡は窓に向ける視線をそのまま神崎に向けた。

 

「落ち着け?落ち着けって!?落ち着ける訳ないだろ!?あんなことがあってよ!?」

 

「・・それでもだ」

 

「うるせぇ!」

 

 島岡が大声で叫ぶ度に稲垣の体がビクリッと震える。神崎は稲垣を心配そうに見ると、おもむろに立ち上がり島岡の肩を掴んだ。

 

「・・・来い」

 

「んだよ!?」

 

「いいから」

 

 強引に島岡を引っ張り部屋の外に出る。扉を閉めた瞬間、神崎は島岡の胸元を掴みあげ、乱暴に壁に押し付けた。

 

「今の今まで殺し合いを、しかも人間同士でしていたんだ。お前が苛つくのはよく分かる。・・・俺もそうだ。意味がわからなくて、胸糞悪くて暴れまわりたい・・・」

 

 神崎は俯いたまま疲れたようにポツポツと語る。島岡を締め上げる手は小刻みに震えていた。だが、その力が弱まる気配は一切ない。

 

「だがな、真美のことも考えろ。俺達でさえこんなにも消耗しているんだ。あいつがどれ程のショックを受けたか、どれだけ消耗しているか、想像するのは難しくないはずだ。今は、俺達があいつを助けてやるしかないだろう・・・!」

 

 その呟く声は決して大きくない。寧ろ小さいのだが、一つ一つの言葉にえも言われぬ凄みがあった。

 

「心が傷ついてしまえば、長年苦しむことになる。・・・俺みたいに。俺は、真美が俺のようになって欲しくない。苦しんで欲しくない」

 

 何も言えない島岡に神崎が顔を上げた。その目は言葉とは裏腹に、すがりつくようなものだった。

 

「・・・基地に戻ったらライーサに慰めてもらえ。だから、今は・・・」

 

「・・・うるせぇ」

 

 島岡が言葉を遮り、目をそらして神崎の手を振りほどいた。神崎もあっさりと手を放し、黙ったまま島岡を見つめる。その視線に、島岡は苛ついたように舌打ちすると、神崎の横を通りすぎて部屋のドアに手を掛けた。

 

「・・・わかったよ」

 

 部屋の中に入る直前、島岡はそう一言言い残した。

 

 

 

 

 

 

 ソファの上で一人毛布にくるまる稲垣。先程、神崎と島岡が何かを言い争って部屋の外へ出ていったのだが、今の彼女はそのことに気づいてなかった。いや、気づく余裕も無かった。

 毛布の中の彼女の表情は能面のように無表情。しかし、その頭の中は混沌としていた。恐怖と混乱。それらがグルグルの回転し続ける。

 そして、未だに耳に残る銃声。いつもはもっと大きく重い重機関銃や対空砲の銃声を聴いているはずなのに、ちっぽけ拳銃の音が、短機関銃の音がしつこく耳に残る。その音と共に思い出されるのは、弾ける火花と向けられる銃口、そして辺りに広がる赤い液体の・・・。

 

「ヒッ・・・!?」

 

 頭にチラついたコワイモノに稲垣は自分で自分の肩を抱き絞めて、頭から毛布を被る。トラックで逃げる途中から、ずっとこの調子であった。頭の中にコワイモノが渦巻き、ジワジワと彼女の心を蝕んでいく。

 自分の周りにはコワイモノしかない。

 全てがコワイモノ。

 聞くのがコワイ。

 見るのがコワイ。

 コワイコワイコワイコわいこわいこわい怖い恐い怖い恐い怖い怖い怖い・・・!!!

 

 ガチャリという音と共にドアが開いた。部屋の外に出ていた島岡と神崎が帰って来たのだが、稲垣はやはり何も反応しない。ただただ自分の中の混沌に翻弄され続けられていた。

 が、それが唐突に遮られる。

 ドンッ!!!

 ガシガシガシッ!!!

 

「!?!?!?」

 

 下からの突き上げられるような衝撃が体を浮かし、次いで頭を激しく揺さぶられた。稲垣は想像だにしなかった出来事に能面のような表情を崩し、目を白黒させて驚くしかなかった。

 

「そんなに怖がるな!真美!俺らが守ってやるから!」

 

 恐怖で縮んでしまった心に喝を入れるような元気のいい大きな声。稲垣は自分が怖がっていたのも忘れて弾かれたように顔を上げる。すると、そこには先程までひどく苛ついていたとは思えないほど明るい表情の島岡。

 再び頭が揺れた。しかし、今度のは先程のような激しい物ではなく包み込むような優しい物。稲垣が撫でる手の先へ視線を向けると穏やかに微笑んでいる神崎がいた。

 

「シンの言う通りだ。お前ぐらい簡単に守れる。・・・安心していい」

 

「島岡さん・・・、神崎さん・・・」

 

 今でも外では戦闘が続いている。基地の中でひとまず安全とはいえ、これからどうなるか分からないこの状況下。加えて、彼女の中に渦巻くモノに押し潰されそうになっていた。

 だが、そんな中での二人の優しい言葉。能面のような表情が崩れ去り、稲垣の視界は急速に歪んでいった。

 

「わ、私・・・、ヒ、ヒック・・・、こ、怖くて・・・、とっても怖くて・・・」

 

 中に渦巻いていたものが外に噴き出す。涙となって後から後から落ちていく。

 

「泣け泣け。泣いちまえ」

 

「泣けば楽になる。思い切り・・・な」

 

「あ、あ、ああああァァァァ!!!!!」

 

 大声をあげて泣き始めた稲垣の頭を神崎は優しく撫で続けた。島岡もばつの悪い表情をしながらも稲垣の背中を擦っていた。

 稲垣は暫く泣き続けた。

 

 

 

 

 

 神崎はノックの音を聞くと閉じていた目を開けた。

 ソファから身を起こすと隣には泣き疲れて寝てしまった稲垣と、彼女を挟んで自分と同じように身を起こした島岡が目に入った。

 再び扉がノックされる。

 神崎は島岡に目配せをしながらソファから離れると、一応の警戒の為に腰からC96を抜いて扉を開いた。

 

「モントゴメリー閣下がお呼びです」

 

 扉の前にいたのはブリタニア陸軍の少尉だった。神崎は胸の内で安堵の息を吐くと静かに銃をしまう。

 

「自分だけ・・・でしょうか?」

 

「いえ。島岡特務少尉もです」

 

 将軍に呼ばれたなら応じるしかない。神崎は振り返ってバレッタM1934を構えていた島岡に声をかけた。

 

「モントゴメリーから呼び出しだ。すぐに行かなければ」

 

「・・・真美は置いていくのか?」

 

「・・・しょうがない。いくぞ」

 

「・・・おう」

 

 不承不承とした様子で島岡は頷き、神崎より先に扉を出る。神崎はいまだ眠り続けている稲垣を見つめるとその扉を閉めた。

 外に出ると今まで聞こえていた戦闘音はなくなっていた。しかし、基地の中はいまだ騒がしいままだ。

 

「まだ戦闘は続いているんすか?」

 

 島岡が先導するブリタニア陸軍少尉の背中に疑問を投げかける。すると、少尉は疲れたような雰囲気を漂わせて言った。

 

「基地への襲撃は防ぎました。ですが、いまだトブルクの市街地では戦闘は続いています」

 

「そうですが・・・」

 

「・・・被害のほうは?」

 

 島岡と入れ替わるように神崎も問いかける。

 

「少なくはありません。詳しくは・・・」

 

 少尉は歩みを止めて扉の前に立った。

 

「閣下から何かあるでしょう。どうぞ中へ」

 

 

 

 

 

「直接会うのは初めてだな。私がモントゴメリーだ。敬礼はいらん。貴様らのことは知っているし、何より時間がおしい」

 

 敬礼をしようとした二人に先んじてモントゴメリーが言った。

 バーナード・モントゴメリー。

 ブリタニア陸軍第八軍団総司令官にして、アフリカの戦線を支える三将軍の一人。通称、『砂漠の鼠』

 

「簡単にだが、状況を伝えよう。貴様らにはそれを知る必要がある。これからの為にもな」

 

 モントゴメリーは二人に息つく暇も与えず告げる。

 

「敵は人間だ。この状況下でこのような事態が起こるとは虫唾が走るが・・・。こちらの被害は、ブリタニア、リベリオン合わせて死者35名、重軽傷者57名だ。それと・・・」

 

 モントゴメリーは一旦言葉を切ると、二人の目を見た。

 

「貴様らと稲垣軍曹を守ったリベリオンの警邏小隊は全滅した」

 

「・・・ッ!?」

 

「・・・」

 

 島岡は息をのみ、神崎は黙ったまま右手を握り締めた。モントゴメリーは二人の様子を一瞥するが構わず話を続けた。

 

「基地を襲撃してきた敵の相当数は撃破した。今は掃討戦に移っている。殲滅にはさほど時間はかからんだろう」

 

 さて・・・、とモントゴメリーは顔の前で手を組むと感情を伺わせない目で交互に二人の顔を眺めた。

 

「何か聞きたいことはないか?いや、あるだろう?」

 

 その言葉に島岡がすかさず反応した。

 

「敵は何者なんすか!?なんで人間同士で殺し会わなきゃいけないんすか!?」

 

 モントゴメリーは淡々とした様子で島岡の声を受け止めると、催促するように神崎に視線を向けた。

 

「貴様は?」

 

「・・・同じです。彼らが何者なのか?なぜ殺し合う必要があるのか?自分には意味が分かりません」

 

 神崎の右手は色が白くなるほど固く握りしめられていた。

 今、神崎の中は稲垣と同じように混沌としていた。しかし、主となるのは彼女のような恐怖ではなく、疑問。ネウロイとの戦いで人類が窮地に立っている中、人間同士で殺し合うことへの疑問。それが分からなければ、今まで自分が戦ってきた意味が無くなってしまうような気がするから。

 

「貴様らの言うことは尤もだ。だが、それに関する情報は最上級に属する程の物だ。これを知ったからには、貴様らは今までのようには動けなくなる。それでも、貴様らはこれを知りたいか?その覚悟はあるか?」

 

 その言葉に嘘はないのだろう。現にモントゴメリーの目は本気だった。だが・・・二人に迷いは無かった。

 

「無論です」

 

「勿論・・・!」

 

「・・・よかろう」

 

 モントゴメリーの無感情だった目に初めて感情が伺えた。それは・・・喜び。組んだ手の下で唇を歪ませている。

 

「今までおかしいと思わなかったか?民衆による反戦デモとその過激化。我々の動きの裏を掻くようにしてのネウロイの襲撃。更には今回の襲撃。我々連合軍を消し、ネウロイという脅威から目を逸らさせるような、いや、ネウロイを受け入れさせるような動き・・・。それらは全て奴らによって実行されてきた物だ」

 

 モントゴメリーは静かに立ち上がり、その名を告げた。

 

「我々は、奴らを『ネウロイ共生派』と呼んでいる」

 

「『ネウロイ共生派』・・・」

 

 神崎は静かにその名を反芻させた。

 




話が進まなくてホントごめんなさい!

次の話でなんとか!

ボチボチ、一段落・・・かも?


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