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第二話
「海、広い~。大き~」
飛行服姿の島岡が欄干に体を預け、つぶやく。その隣には、欄干を背もたれにして座り、刀の―ちなみに名は「
「シン。それは当たり前だ」
「うるせ~よ。ゲン」
二人がいるのは空母赤城の後方側面。アフリカに向け、遣欧艦隊に便乗中であった。
時は遡り、舞鶴の飛行場、基地司令室。
いきなり、アフリカ派遣を言い渡された神崎と島岡。困惑する二人を尻目に基地司令は話を続ける。
「四日後に横須賀から遣欧艦隊が出港する。両名は赤城でロマーニャまで便乗。そこからトブルクまで移動だ」
困惑から抜け出せない神崎がやっと口を開く。
「よく・・・わからないのですが?」
基地司令は少し同情の目を向けた。
「・・・いきなりで混乱するのもわかる。もうすぐ担当官が来るから・・・」
そこまで言った時、ガチャリと扉が開いた。神崎と島岡が振り返ると、そこには海軍士官服を前を開けたまま着た女性士官がいた。
「やあ」
彼女は穏やかな笑みを浮かべ、気さくに挨拶をした。島岡は「誰?」という顔をしていたが、神崎は彼女の顔を見るなり、驚き叫んだ。
「き、北郷大佐!?」
神崎は慌てて敬礼をする。遅れて島岡。彼女、北郷章香大佐は見事な敬礼を返した。
北郷章香。高い戦闘能力と指揮能力、頭脳明晰で駐欧武官も務め、「軍神」とまで呼ばれていた。先の扶桑海事変では扶桑を勝利に導いた立役者の一人であり、扶桑軍に属する者なら知っているだろう人物だ。
現在、彼女は上がりを迎え、海軍の全ウィッチを統括する部署に勤務していた。
「今からアフリカ派遣について説明するよ」
扉を閉め基地司令の隣に立つ北郷。二人の顔を見て微笑むと説明を始めた。概要は戦力不足のアフリカに扶桑海軍、陸軍からそれぞれ増援を送ることになった、ということらしい。大体は把握した神崎と島岡。
北郷は話を続けた。
「二人には最近設立された、統合戦闘飛行隊『アフリカ』に合流してもらう。補給物資は後から送ることになる」
その後、細かな説明が続いた。
「説明は以上。何か質問は?」
北郷が問いかける。それに島岡が口を開いた。
「今回の増援になぜ自分が?神崎はともかく、自分は普通のパイロットです」
「必要な人員を選別した結果、君たちが選ばれたんだ。ちゃんと仕事もあるよ?」
「はぁ」
冗談めかした北郷の答えに今ひとつ納得していない顔で島岡は返事をした。
「君は?」
北郷は神崎に問いかけた。なぜ、自分がアフリカに派遣されるか考えていた神崎だが、理由はなんとなく分かっていた。
「ありません」
「よし。ならば解散。各自準備するように」
先に島岡が部屋を出た。ついで神崎が出ようとすると、北郷が声をかけてきた。
「ゲン。成すべきこと、したいこと。見つけたかい?」
あの日、自分にかけられた言葉。それを噛み締めて神崎は答えた。
「まだ・・・分かりません」
「そうか・・・。頑張るんだよ」
優しく響く北郷の声。神崎は振り返ると、深々と頭を下げた。顔を上げると北郷が微笑みながら頷いてくれたのだった。
扉が閉まると基地司令が口を開いた。
「彼らで大丈夫でしょうか?アフリカには例の件も・・・」
「その為に選んだ彼らです。私は信じていますよ」
そう言った北郷だが、目は扉に向けたままだった。
「アフリカまで行くのにどんぐらいかかるんだ?」
「多分、一ヶ月ぐらい」
部屋を出た二人は、出口に向かい歩いていた。島岡は、神崎が北郷に何を話しかけられてたか気になっていたが、彼の表情を見てやめておいた。代わりに別の質問を口にする。
「なぁ。お前は自分が選ばれた理由わかるか?」
神崎はため息をついて答えた。
「お前はともかく、俺は厄介払いだろ」
「厄介払いって・・・」
島岡が口をつぐむ。構わず神崎は続けた。
「アフリカにあまり戦力を割きたくない海軍上層部は、これを機にウィッチとして運用しづらい俺を……」
「!?ちょっと待て!」
自虐臭が強く、また他人が聞けば反逆罪に問われてしまいそうな台詞をつらつらと話し始めた神崎を、島岡が慌てて止める。なぜなら、建物の出口には二人の上官がそれぞれ待っていたからだ。
「神崎少尉。ついてこい」
神崎の上官、鈴木大尉が呼ぶ。島岡も彼の上官に呼ばれる。二人は顔を見合わせた。
「アフリカ派遣の件は聞いている」
「はい」
神崎は鈴木の後ろを歩きながら答えた。鈴木は続ける。
「今回のアフリカ派遣の人員決定の際、私はお前を推した」
「そうですか」
(やはり・・・)
そう思う神崎を見透かしたように、鈴木がちらっとこちらを見て言った。
「厄介払いという訳ではないぞ」
(さっきの会話が聞かれていたか・・・)
気まずく思い、神崎は目をそらす。鈴木はそれを見て、ふんっと鼻を鳴らした。
「お前のウィッチとしての技量は評価しているつもりだ」
そうこう話しているうちに格納庫に到着した。まず鈴木が中に入り、神崎を呼ぶ。神崎が中に入ると、そこには新品のストライカーユニットがあった。神崎の目が驚きで見開かれる。
「だからこいつを用意した。零式艦上戦闘脚。欧州用のをこちらに回してもらった。」
鈴木が少し得意げに言った。
後に分かることだが、
『優秀なウィッチには優秀なストライカーユニットをよこせ』
と、上層部相手に相当ごねたらしかった。
「性能は旧型のキューロクとは段違いだ。」
「自分に・・・ですか?」
そう言って神崎は零式に触れた。傷一つ、汚れ一つない装甲を指で撫でる。感慨に浸る神崎だが、鈴木は待っていなかった。
「よし。では慣らしを始める。」
「はい?」
驚いて振り返った神崎に、鈴木は刀を放った。慌てて受け取る神崎だが、その刀が「
「・・・これは自分の部屋にあったはずですが?」
「緊急事態だ。許せ」
悪びれもせず鈴木が言う。神崎は一つため息をつくと、ユニットケージに登り、零式に足を滑り込ませた。
「今回は刀も固有魔法も使っていいぞ。最後だ。今まで溜まった鬱憤をはらせ」
神崎は炎羅を置こうとした手を止めた。鈴木を見、そして炎羅を腰にさす。ペイント弾が装填された銃を持ち神崎と鈴木は外に出た。
飛行場の中央に立ち、お互いに向かい合って立つ。
神崎は零式艦上戦闘脚、鈴木は十二試艦上戦闘脚―零式艦上戦闘脚の前身となったユニットだ―を履き、銃と刀を装備して背中に吹流しを付けている。
『同高度で模擬戦。すれ違ったところで戦闘開始。ペイント弾を受けるか、吹流しを切れば勝ち。いいな?』
「はい」
勝敗条件を確認した二人は、離陸して高度を上げた。距離を取り、ホバリングする。
『では、始めるぞ』
無線越しに鈴木がそう言った瞬間に、二人は加速した。急激に縮まる二人の距離。それはすぐに0となり、模擬戦が始まった。
すれ違うと、神崎はすぐに行動に移した。体をひねり、旋回する。猛烈なGがかかる中、そのまま加速し鈴木に迫った。
零式の旋回性能は世界でも類を見ないほど優秀だ。見れば鈴木はまだ旋回しきれていない。
神崎は鈴木の未来位置を予測し引き金を引いた。腕に衝撃が響き、ペイント弾が放たれる。
『やはり零式の方が上か・・・』
そう言うと鈴木は旋回をやめ、回避行動に移った。すんでのところでペイント弾を避けるとすぐさま反撃に移る。実戦を経験しているからだろう。神崎に比べ相手に対する位置取りが上手かった。
「ッ!」
危うく被弾しそうになる神崎だが、機体性能を生かし、不規則な機動で回避すると後ろに回り込むべく上昇し、鈴木に接近する。
鈴木も、待ってましたと言わんばかりにこちらに接近してきた。一気に二人の距離が狭まり、近距離での銃撃戦が始まった。
互いがどう動き、どこを狙い、いつ撃つかを予測し、その裏をかく。
互いのペイント弾はかすることもなく、二人の距離は再び離れた。神崎はいち早く旋回し、鈴木の後ろを取ることに成功する。
「これで・・・。!?」
鈴木の背中に狙いをつける神崎だが、引き金を引いても銃が反応しなかった。どこか故障したらしい。これでは攻撃手段が刀しかない・・・。
(いや、もう一つあった・・・)
固有魔法の炎。長らく訓練では使ってなかったが今回は許可が出ている。神崎は無線で鈴木に告げた。
「隊長。炎を使います」
『・・・相手に自分の攻撃を予告するとはずいぶんと余裕があるようだな。・・・来い!』
神崎は左手に魔力を集中し始めた。魔力は、集束し、熱を帯び、そして炎となる。
「・・・行けッ!!」
素早く左手を振る。左手が描いた軌跡から六筋の炎が放たれ、まるで生きているかのように飛び、火の尾を引きながら鈴木に襲いかかった。
『!!』
一瞬驚いたような表情をする鈴木だが、すぐに迎撃を始めた。
背面飛行を始めると、炎に向け撃ち始める。ペイント弾が炎に当たると猛烈な勢いで爆発するが、鈴木は構わず撃ち落としていく。結果、鈴木は炎が追いつくまでに6発中4発を撃ち落とした。そして残りの2発も落ち着いてシールドで防ぐ。歯を食いしばり、爆発の威力に耐えた鈴木だが、その間に鈴木は神崎を見失っていた。周囲を見渡す鈴木だが、ハッと殺気に気づき上を見上げる。そこには刀を手に迫る神崎がいた。
(捉えた・・・!)
神崎は自分を見失ったであろう鈴木に逆落としを仕掛けながら、心の中で叫んだ。
神崎は六筋の炎が防がれることは見越し、放った瞬間に行動を開始していた。上昇し太陽に隠れて隙を狙い、鈴木が炎をシールドで防いだ瞬間、炎羅を抜き急降下を始めた。もうすぐ間合いに入るというところで鈴木が気づくが、神崎はかまわず炎羅を構え振り切った。
しかし、神崎の手に残ったのは、吹流しを切った感触ではなく、硬質な物を切り裂いた感触だった。
神崎が状況を確認するために振り返ると、体勢を崩しながらも左手に折れた刀をもつ鈴木がいた。鈴木は迫り来る神崎に気づいた瞬間に左手で刀を抜き、神崎の斬撃を受け止めていたのだ。
『簡単にはやられんよ!』
「ッ・・・!?」
素早く体勢を立て直した鈴木は、急降下で満足に動けない神崎に向け、ペイント弾を撃つ。神崎も負けじと、無理やり体をひねり、炎を放つ。交差するペイント弾と一筋の炎。それらは神崎のユニットを汚し、鈴木の吹流しを焼き切った。
「せっかくの新品が・・・」
「どうせ、これから汚れるんだ。構わんだろう」
引き分けに終わった模擬戦の後、神崎はペイントで汚れた零式を掃除していた。鈴木はそれを後ろから監督している。零式を雑巾で拭きながら神崎は呟いた。
「まさか、防ぐとは思いませんでした」
「まさか、防げるとは思わなかったよ」
まさか、鈴木がそんな風に答えるとは思わなかった神崎は、少し驚いて振り返った。そんな神崎を見て、鈴木が少し笑った。
しばらく経ち、神崎が零式を掃除し終わった。道具を片付けて戻ると鈴木が待っていた。
「ユニットの清掃、完了しました」
「ご苦労」
敬礼し報告する神崎。それを受ける鈴木。
「それでは」
「待て」
帰ろうとした神崎を鈴木が止めた。まだなにかあるのか、と思った神崎だが、いきなり鈴木が頭を下げたのに驚く。
「隊長!?」
「すまない。私はお前を助けられなかった」
鈴木は神崎への嫌がらせを止められなかったことを詫びていたのだ。慌てて神崎が言う。
「頭を上げてください。何も隊長が謝ることじゃ・・・」
「いや、隊員の行動をしっかりと管理出来なかった私の責任だ。・・・隊長失格だな。許してくれ」
「失格ではありません」
自分を卑下する鈴木の言葉に神崎は断固とした口調で言った。
「鈴木大尉は隊長としての役目を十分に果たしています。そして、自分を贔屓せず、差別せずに接してくれたことに感謝しています」
「それは・・・」
鈴木が何かを言おうとしたが。それを制する形で今度は神崎が頭を下げた。
「いままでありがとうございました」
「・・・そうか」
神崎の言葉に少し涙ぐむ鈴木だが、神崎は頭をさげていたため、そのことは知られなかった。そして神崎が顔を上げた時には、もういつもの鈴木に戻っていた。
「がんばれよ」
「はい」
鈴木が手を差し出す。神崎は力強く握り返した。
時は戻り、赤城後方側面。
「で、お前はいつまでここにいんの?」
「さぁ?」
島岡が、鼻歌を歌いながら
「お前は?」
「俺はもうすぐ哨戒だよ」
「そうか」
島岡が被っている飛行帽の調整をしながら答えた。そして、そんな神崎の姿を見て、更に島岡が尋ねる。
「お前・・・もしかして中尉から逃げてるだろ」
「・・・。なんのことだ?」
とぼける神崎。その直後に、赤城艦内から凛とした少女の声が響いた。
『どこだ!神崎!!訓練を始めるぞ!!神崎!!どこに行った!!』
その声を聞き、げんなりする神崎。島岡が追い打ちをかける。
「・・・行けよ」
「いやだ」
遣欧艦隊は今のところ平和であった。
人物紹介3
名:鈴木昌子
年齢:18
階級:大尉
使い魔:柴犬
人物設定
神崎が所属していた舞鶴第一飛行中隊の隊長。扶桑海事変にも参加していた。目立った戦績はなかったが、部隊で唯一の実戦経験者。堅実な空戦技術と、非凡な指揮能力を持つ。
自分にも他人にも厳しい性格で、隊長として相手に平等に接することを心がけていたために、神崎が自分で嫌がらせを受けていることを認める前に、自分が嫌がらせを止めるのを躊躇っていた。
北郷さん、大好きです。
次に出てくくる予定のウィッチはお馴染みの・・・?
アフリカにはいつ着くことやら・・・。
9/9 今更ですが、サブタイトルと前書きが第三話になってました。第二話の間違いです。
すいません(^_^;)