ストライクウィッチーズ 一匹の狼   作:長靴伯爵

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一度書き上げたのにデータが壊れて全てパーになってしまった時はPCを叩き割ろうかと思ったぜ

と、いうわけで第24話です

感想とか何かあったら是非どうぞ


第二十四話

 

 

 トブルク某所

 

 

 

 トブルクの路地裏の雰囲気は一変していた。もともと人通りは少なく静かなものだったが、今は他者を寄せ付けない物々しい気配と、肌を刺すような緊張感が辺りに満ちている。

 その異質な空気の中をスカーフを巻いた男が歩いていた。頻繁に周りに視線を向けながら進んでいき、素早く一角の扉に入っていた。階段を上り、机に座る男の前に立つ。男は読んでいた本を手元に置くとスカーフを巻いた男を一瞥した。

 

「何があった?」

 

「最近、裏路地に妙な奴らが彷徨いています」

 

 そう言うと、懐からある物ものを取り出し、机の上にゴトリと置いた。

 

「見つけたのは三人でした。始末しようとしましたが手ごわく、結果的に5人が返り討ちに。それはそいつらが持っていたものです」

 

 黒光りする細身の銃身に若干太めの銃把。見る人が見ればワルサーP38と呼ばれる拳銃だとわかるだろう。しかし、その拳銃には所属を表すであろう表記は全て消され、尚且つ血で濡れていた。男はじっとその銃を眺め、ポツリと言った。

 

「この拳銃はトブルクの裏では流れにくい。そいつらは軍の奴らだろう。やっと、動き始めたか」

 

「どうしますか?」

 

 そう尋ねてはいるが、スカーフの男は相手がどう答えるかは分かっているらしく、確認に意味が強かった。男もそれを承知で答える。

 

「作戦の準備は全て済んでいる。あとは標的を確認でき次第実行するだけだ」

 

「ということは・・・」

 

「変更はない。だが、軍に感づかれるのは厄介だ。紛れ込んだ奴らは全て狩れ」

 

「了解しました」

 

 スカーフを巻いた男は踵を返して建物から立ち去る。男は立ち上がると窓際にあるラジオをつけた。

 

 

 

『・・・では、次のニュースです。本日、連合軍から夜間外出制限令が出されました。これは最近の治安の悪化が原因で、回復し次第解除される模様です。また、これに伴って市街地の警邏部隊数を増やすとの情報もありました。このことで市民は・・・』

 

 

 

 

 

 

 

統合戦闘飛行隊「アフリカ」基地 

 

 

 

「・・・落ち着いたか?」

 

「うん・・・。ごめんなさい。取り乱してしまって・・・」

 

「気にするな。・・・お前が泣くのは慣れている」

 

「・・・もう」

 

 星空が瞬くアフリカの空の下、神崎と竹井は砂から飛び出した岩に並んで腰掛けていた。

 つい先程まで泣いていた竹井は、神崎の言葉に不満そうに口を尖らす。そんな彼女の目は泣いたせいか腫れて赤く腫れており、睫毛はまだ濡れていた。それに気付いた神崎はポケットからハンカチを取り出し、彼女の目にあてがった。

 

「ん・・・」

 

「じっとしてろ。すぐ終わる・・・」

 

 手早く涙と頬についた涙の跡を拭ってしまう。神崎が納得して頷きハンカチをしまうと、竹井が赤くなって睨んでいた。

 

「・・・なんだ?」

 

「子供扱いしないで欲しいのだけど・・・?」

 

「さっきまでは子供のように泣いていたがな」

 

「う・・・。それは、そうだけど・・・」

 

 この言葉に竹井は何も言えなくなり俯いてしまう。そんな彼女の姿を懐かしく思った神崎はまた彼女の頭を撫でてしまった。先程とは違い、グシャグシャと髪をかき乱す乱暴な撫で方に竹井は慌てた。

 

「ちょ・・・、やめてよ・・・!」

 

「ん?・・・ああ」

 

 すまん・・・と神崎が呟きながら手を放すと、竹井は更に赤くなった顔を隠すように俯き、乱れた髪を直し始める。そして、顔を上げる頃には髪は綺麗に元に戻り、顔の赤みも若干引き、真剣な表情になっていた。

 

「聞きたいことがあるの」

 

「・・・なんだ?」

 

 竹井は一瞬逡巡するように目を伏せるが、すぐに意を決したように目を合わせた。

 

「ゲン君の・・・この三年間」

 

「・・・」

 

 無意識の内に神崎は手を握り締めていた。

 三年間、いい思い出など殆どない。最悪なものばかり。虐げられていた話など誰も聞きたくないだろうし、もし竹井がこの話を聞いてしまえば更に責任を感じてしまうかもしれない。

 できればそれは避けたかった。

 怖い表情だったのだろう。竹井が心配そうに神崎の顔を覗き込み、握り締められた彼の手を優しく包んだ。

 

「ゲン君がこうなったのには私にも責任がある。だから知りたいの。幼馴染として・・・こ、婚約者として」

 

「・・・分かった。だが・・・」

 

 神崎は重なっている竹井の手を優しく振りほどくと彼女の頭を手刀で軽く叩いた。あうっと頭を押さえて混乱している彼女に神崎は一言告げる。

 

「さっきも言ったが、お前は悪くない」

 

「・・・分かった」

 

「なら話そうか・・・」

 

 星空を見上げて一つ深呼吸をする神崎。冷たい空気を胸いっぱい吸い込んで気持ちを切り替えると重々しく口を開いた。

 

 

 

 神崎はこの三年間の出来事をかいつまんでだが、全て話した。省略した部分もあったが、それでも竹井には相当辛かったらしく途中からまた泣いてしまった。だが、気丈にも最後まで聴き続けた。全てを話し終わると、神崎は落ち込んでしまった竹井の手を引いて天幕へと戻った。その時、彼女がまた「ごめんなさい・・・」呟いたが、神崎は何も言わずただ彼女を握る手に力を込めるだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 神崎が戻るとすでに島岡は天幕にいた。

 

「早かったな」

 

「お、おう。もういいのか?」

 

「ああ」

 

 島岡は自分のベッドに座り、加東の所からせしめてきたのであろう酒瓶を傾けていた。神崎を見ると少し慌てたようだったが、神崎は特に気にすることなく自分の散らかったベッドに腰掛けた。

 

「・・・今日は助かった。恩に着る」

 

「き、気にすんなって」

 

「いや、本当に助かった。・・・色々と話せたしな」

 

 神崎は疲れたような表情だったが、どこか憑き物が落ちたような清々しさも醸し出していた。島岡はいつもは見ることのない彼の表情に新鮮味を感じつつも、どうしても聞きたいことがあった。それは・・・

 

「なぁ、お前と竹井中尉はどういう関係なんだよ?」

 

ということ。神崎も詳しい説明もしないで加東を引き付けるように頼んだのだ。島岡が疑問に思うのも無理はないだろう。神崎は言うべきか言わざるべきか少し顔を伏せて悩んだが、すぐに顔を上げてあっさりと言った。

 

「婚約者だ」

 

「・・・は?すまん、もう一度頼む」

 

「婚約者だ」

 

「・・・はぁ!?」

 

 サラリと告げられた重大な事実に、島岡は素っ頓狂な声をあげた。しかし、神崎は至極冷静に彼の叫ぶ姿を見ていた。

 

「といっても、婚約者としては今日初めて会ったんだがな」

 

「衝撃が強すぎて、訳がわからねぇ」

 

 混乱しているのを体現するように頭を抱える島岡。その様子を見た神崎は一つ決心した。

 

「いい機会だ。お前には話そうか」

 

「ん?何をだよ・・・?」

 

「今まで話してなかったな。・・・俺の過去だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺の実家が神崎神社というのは知っているな?

 

 神崎神社は色々と特殊でな。

 千年以上も前から人の信仰を集め、祀っている神様が戦勝の神様だから、扶桑の軍部と強い結びつきがあった。ケイさんと初めて会った時言ってただろ?自分も神崎神社のお守りを持ってたと。それもその結びつきの結果だ。まぁ、今はないんだが・・・。

 

でだ。

 

 神崎神社の神主となると神崎家の一族の当主となる。そうなれば60ぐらいある分家を率いることにもなる。さらに神主となれば扶桑の軍部とそれに関連した各界の重鎮と関わり合うことになる。だから、それ相応の教養が求められる。具体的に言えば、茶道や華道といった芸能や柔道や剣道といった武道。あと、軍部との関係から射撃もだ。それに加えて俺には妹達の世話もあった。

 

 醇子と初めて会ったのは七歳の時。鍛錬をして、妹の世話をしてと、忙しい時期だった。

 その時は新年の初詣だった。

 神崎神社の本家ともなれば一般の人から各界の重鎮まで様々な人が来る。俺も次期神主として参拝客に挨拶してた。

 その中に一人の海軍の高級将校がいた。最初は特に気にしなかったんだが、後ろの方にチラッと見えた。何がって?桃色の振袖だった。そう、それが醇子だったんだ。その将校は醇子の父親でな。俺の姿を見つけると醇子に挨拶させようとした。

 

「ほら・・・挨拶しなさい」

 

「ひぅっ・・・!」

 

 だが、醇子は怖がって父親の後ろから出てこない。だから、父親が半ば強引に前に出して挨拶させた。気が弱い醇子は泣きそうになって、すでに涙目になっていたが・・・、やっと言った。

 

「た、竹井・・・じ、じ、醇子・・・です・・・」

 

 正直、結構傷ついたな。あの時は、今みたいなポーカーフェスでもなかったし、人付き合いはよかったしな。・・・おい、俺はずっとこんなだった訳じゃない。なにを驚いているんだ。

 

 最初はこんなだったが、仲良くはなった。

 

 きっかけは妹達だった。

 

 三つ下の妹の佳代と更に二つ下の千代。当時の二人は幼さ故かなかなか強引でな。醇子が家族と一緒に来たときは彼女を無理やり引っ張って一緒に遊んだりした。その強引さのおかげか醇子も段々と打ち解けていった。俺にも少しづつだが慣れていって、年も近かったし兄妹みたいになった。

 

 一緒に遊んで、妹達がはしゃいで、何かあって醇子が泣いて、俺が慰めて・・・。そんな風景が日常化した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、なんで竹井中尉と婚約者になったんだよ?それにその話ならお前は魔法使い(ウィザード)にはならなかったはず」

 

 話しすぎて疲れた神崎が水筒を傾けるのを、見計らって島岡が口を挟んだ。今の話を聞いた限りでは二人は兄妹のような幼馴染だというだけで婚約者に繋がるとは思えなかったからだ。

 神崎は黙ったままだったが、おもむろに島岡の持つ酒瓶を指差した。

 

「・・・?」

 

「それ、くれないか?」

 

「おいおい・・・。酒だぞ?いいのかよ?」

 

「ああ・・・。いい」

 

 島岡が恐る恐る差し出した酒瓶を神崎はかっさらうと、躊躇うことなく口をつけた。心配そうに見てくる島岡に構わず、一気に酒をあおると酒臭い息を吐き、重々しく口を開いた。

 

「こうなったのはな・・・。扶桑海事変のせいだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神崎玄太郎12歳、竹井醇子11歳

 

 

 

「ウラルに行くのか?」

 

「うん・・・先生と若ちゃんと美緒ちゃんの四人で」

 

 神崎神社の本殿。

 二人は縁側に並んで座って話していた。12歳となった神崎はまだ幼さを残しつつも精悍な顔つきになっており子供とは思えない落ち着いた雰囲気あった。

 たが、今は年相応の心配した顔をしていた。

 なぜなら、隣に座る竹井からは前線に向かう魔女(ウィッチ)とは到底思えない不安そうな表情をしていたからだ。神崎も怪異が現れて舞鶴基地周辺に現れて戦闘になったのは聞いていた。そして、竹井の先生と友人がそれを撃破したことも。だからといって、なぜまだ未熟な彼女達が対怪異戦の最前線であるウラルに送られなければならないのか?

 

「大丈夫か・・・?」

 

 妹と同じように大切な存在である幼馴染の竹井。何かしてやりたいが今は心配する事しかできない。そのことに心の中で歯噛みしていると、こちらを気遣うように彼女は笑顔を作った。

 

「うん・・・ちょっと怖いけど・・・」

 

 明らかに無理している・・・そう感じさせる彼女に笑顔に神崎は顔を曇らせた。自分が辛いはずなのに他人を気遣う彼女の表情はとてもいじらしく、神崎は思わず彼女の頭を強めに撫でた。

 

「大丈夫じゃないな・・・」

 

「・・・。本当は・・・とても怖くて・・・」

 

 撫でられた途端に竹井はポロポロと涙を落として玄太郎の腕に顔を押し付けた。玄太郎の顔は更に曇る。

 

「・・・泣くなよ。こっちまで泣きたくなってくる」

 

 腕に取り付いた竹井を丁寧に振りほどいて抱きしめた。大きくなる彼女の嗚咽を聞きながら神崎は呟く。

 

「俺はここの跡を継ぐ。お前が、お前のような魔女(ウィッチ)が無事であるように、勝てるよう

に神様に祈る。俺も頑張る。だから、お前も頑張れ」

 

 神崎は自分の思いを言いながら抱きしめる力を込めていった。少しでも彼女の力になればと願いながら。

 

「うん・・・わかった・・・」

 

 竹井が頷いているのを感じながら、神崎は目を閉じた。

 

 

 

 

 

 言っておくが、この時も俺には恋愛感情はなかった。醇子は実の妹と同じくらい大切な幼馴染みだったからな。

 醇子がウラルに行ってからは、俺は少しでも早く跡を継げられるように鍛錬に集中した。妹達も大きくなって世話をしなくてもよかったしな。空いた時間には新聞やラジオでウラルの情報を手に入れたりしていた。お前も知っていると思うが、あの時の新聞もラジオも気前のいいことしか伝えてなかった。

 だが、俺は戦況が苦しくなっていることを知ってた。なぜなら、扶桑陸軍の奴らが連日押しかけてきたからだ。神崎神社の巫女は高い魔力と魔力減衰が起こらない性質を持ってるからな。これほど魔女(ウィッチ)に適する人材もいないだろうって扶桑陸軍の奴らは巫女を接収しようとしたんだ。どうやら奴らは神様の加護を捨てても実質的な戦力が欲しがるほどに切迫した状況だったらしい。

 ちなみに海軍の方は醇子の家、竹井家のおかげでそんなことはなかったが。この時は・・・な。

 

 日に日に厳しくなっていく陸軍からの要求に俺の父親、25代神崎家当主、神崎孝三郎、今の神主だな、は「巫女は神に仕える身であり、戦う身にあらず」という掟の元、頑なに突っぱねてきた。

 なぜかって?

 それはな、神崎神社にはもう一つの役割があったからだ。いくら魔力を持っていたとしても魔女(ウィッチ)になりたくないという少女もいる。そんな子は例外的な措置だが神崎家の分家の巫女になることができた。もし巫女になるならその分家の養子になる必要があったが、それでも少なくない人数の少女が巫女になっていた。そんな彼女達を守るためにもその要求を受け入れることはできなかった。

 

 だがな、神社を取り巻く状況は厳しくなっていった。お前も覚えているだろう?浦塩が陥落した。

 

 大陸から帰ってくる沢山の避難民を見たときの恐怖はよく覚えている。もしかしたら、扶桑もこうなるんじゃないのかとな。神崎神社でも住む場所のない多くの避難民を収容して、俺も避難民の世話で忙しかった。その最中だった。

 

 神崎家の分家が襲撃された。

 幸いにも死者はいなかったが巫女が誘拐されかけた。しかも犯人は分からずじまい。だが、皆薄々これが陸軍の脅しだということに気づいていた。そしてこの事件で神崎神社、特に分家が大きく動揺して、そしてこう言い始めた。

 

「掟に囚われて扶桑を滅ぼしてもいいのか?軍に協力すべきではないのか?」

 

とな。

 分家は本家ほどの権力はないから、自分達も襲われるのではと恐れていた。

 

 そこから神崎の分家は割れた。あくまでも掟を守る本家を中心する者達と、軍に協力するとして神崎家から離れていく者達。その数は続々と増えていき最終的に神崎家に残った分家は10程度になった。

 だが、事態はさらに悪化した。「山」と呼ばれた超弩級の怪異が現れると、陸軍だけでなく今まで黙っていた海軍も巫女を要求してきた。本家の巫女は分家とは比べ物にならないほどの高い魔力を持っていたからな。父は彼女達を死守せんとその要求を完全に拒絶した。だが、唯々こちらを脅迫してくる陸軍とは違い、海軍はこちらを社会的に追い詰めていった。国の一大事に己の利益を優先する逆賊という評判を世間に広めていった。

 その結果、神崎神社への信仰心は殆ど無くなり、そこへ追い打ちをかけるかのような更なる軍から要求。俺達は追い詰められていった。

 

 もうどうにもならないという状態になった時、竹井家から救いの手が差し出された。条件を飲めば神崎神社を救ってやるとな。結果、父はその条件を飲み神崎神社は救われた。

 条件?

 予想はつくだろう?

 俺が海軍の魔女(ウィッチ)として従軍、そして醇子の婚約。

 これが条件だった。

 この条件は神崎家にはありがたいものだった。俺は何より男で巫女ではないから、掟には当てはまらない。そして、相手の竹井家は深い関係があり、最も信頼できる軍人。父は俺を差し出すことを決めた。

 その時のどう思ったか、か?

 ・・・俺自身、その時は神主になることに疑問を持ち始めていた。いくら祈っても戦況は好転せず、死んでいく魔女(ウィッチ)は増えるばかり。どうしても無力感を感じていたし、従軍できて嬉しかった部分もあった。

 だがな、同時に寂しさも感じた。醇子との約束は果たせなくなったし、何より家族に見捨てられたように思えた。

「お前は男だ。どういう意味かわかるな?」と父から言われた。家を守るためにはそうしなければならないのは頭では分かっていた。が、感情ではどうしても納得しきれなかった。

 家族のことは大切だが、このこともあってか今も殆ど連絡していない。

 

 そんなぐちゃぐちゃな精神状態で海軍に入った。その時に御神体だった『炎羅(えんら)』を渡されてな。14歳の時だった。

 俺が入ってすぐに扶桑海事変は終わり、すでに海軍と神崎神社は竹井家のおかげで和解していたが、流された評判は根強く残っていた。周りの人々に相当疎まれたよ。「一匹狼」という渾名はな、魔女(ウィッチ)の中で一人だけの魔法使い(ウィザード)というだけでなく、扶桑という群れから外れた逆賊の神崎神社という意味もあった。まぁ、それだけならまだ耐えられたが、さらに俺を追い詰めることがあった。

 それを知ったのは本当に偶然だったが、海軍の神崎神社に対する追い詰め、これは竹井家が主導で行われたものだったらしい。その上で、神崎神社を助けた。

 なぜだと思う?

 それはな・・・俺を手に入れる為だったんだよ。

 

 その時は自覚はなかったが、俺は相当な重要人物だったらしい。

 もし俺が魔女(ウィッチ)と子を作った場合、再び魔力を持った男が生まれる可能性があり、そうでなくとも優秀な魔女(ウィッチ)が生まれる可能性が高いと考えられていた。

 竹井家は扶桑皇国で魔女(ウィッチ)部隊を創設している。魔法使い(ウィザード)を取り込むことで海軍内での確固たる権力を手に入れようとしたということだった。竹井家の目論見は成功し、俺は海軍に入った。

 

 ・・・ショックだったよ。

 長年信頼していた相手に裏切られてたんだ。醇子もそれ目的だったのでは・・・と。考えたくもなかったがな。

 だとしても軍を抜ける訳にはいかなかった。もし俺が軍を抜ければ神崎神社がどうなるか分からなかったし、せっかく魔女(ウィッチ)になるのを免れた妹達が俺の代わりになるかもしれない。それだけは絶対に避けたかった。

 その時から俺は極力人と話すのを避けてポーカーフェイスをするようになった。魔女(ウィッチ)から色々な嫌がらせを受けてたし、人と関わりたくなくなったんだよ。魔女(ウィッチ)恐怖症になったのもこの頃だ。

 

 海軍に入って二年経って、舞鶴基地の第一飛行中隊に配属となった。そこでお前と会って・・・。後は知っての通りだ。

 

 

 

 

 

 そうして、神崎は酒が入って滑らかになった口を閉じた。

 

「・・・」

 

 神崎の話を聞き終わると島岡は絶句してしまった。親友が辛い経験をしているのは知っていたが、これほど規模が大きい話だとは思いもしなかった。それでも何か言わなければ・・・と島岡が口をパクパク動かしていると神崎が先んじて言った。

 

「今夜、責めるつもりで醇子を呼んだ。せめて一言でも何か言わなければ気が済まなかった」

 

 だが・・・、と神崎は疲れたように苦笑いした。

 

「あいつは泣いた。俺がこうなったのは自分の責任だって。笑えるよな。醇子も騙されたも同然だったんだよ」

 

 神崎には珍しく、自嘲するようにクツクツと声を上げて笑った。そうして妙に清々しい表情をして言う。

 

「嫌な話を聞かせて悪かった。忘れてもいい」

 

「・・・何かいいことはなかったのか?」

 

 その表情に島岡はポツリと言った。何か声をかけようと考えてもいい言葉が見つからなかった結果だったのだが、それを聞いた神崎はベッドに潜り込みながらポツリと言った。

 

「・・・少なくとも、お前と会えてよかった」

 

「え?今なんて・・・」

 

「おやすみ」

 

 すぐに隣のベッドから聞こえる寝息を聞こえた。島岡は彼が何と言ったか聞き取れず首を捻り、釈然としない表情で自分もベッドに潜り込んだ。

 

 

 

 

 

 

「・・・この話は絶対に他人に話すなよ。首が飛ぶぞ。身体的な意味で」

 

「お前と会わなければよかった・・・」

 




今回は過去編(?)でした

書き方を少し変えてみましたがどうでしょう?

それではノシ

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