ストライクウィッチーズ 一匹の狼   作:長靴伯爵

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初めてのスマホからの更新

やりにくくて予想以上に手間取った・・・

と、いうわけでニ十三話です

ミスが結構あるかもなのでその時は報告よろしくお願いします

感想やアドバイスもよろしくです


第ニ十三話

 

 

 

 

「えぇ!?醇子ちゃん!?うわ!うわ!久しぶり!!元気してた?」

 

「はい!お久しぶりです。加東大尉」

 

 隊長用天幕の中から楽しそうな会話が聞こえる。加東と竹井は『扶桑海事変』を戦い抜いた戦友同士だから懐かしいのだろう。

 あの戦いで加東は敵を23機撃墜という戦果と共に「扶桑海の電光」として名を馳せ、竹井は魔女(ウィッチ)として大きく成長することになった。

 

  トブルクから返ってきた神崎は天幕の扉の前に立ち、歩哨紛いのことをしていた。どうやら機密事項に関することも話すらしく一応・・・という感じらしい。天幕から聞こえる声からは全く緊張感が感じられないが・・・。

 

「あれ?ここで何してるんですか?」

 

「暇そうだな、ゲンタロー」

 

 天幕での会話を極力聞かないようにして拳銃をいじっていたから、そう見えたのだろう。近くを通りかかった真美とマルセイユが神崎に話しかけてきた。

 

「ああ、お前達か。・・・ライーサは?」

 

「ライーサさんは格納庫です」

 

「格納庫の零戦にべったりのシンスケにべったりだ」

 

 ややウンザリした様子の二人に神崎は少なからず共感した。のろけの被害者同士、誰からともなくため息をつく。のろけ話を聞くことなど、他人には苦痛にしかなりえないのだ。

 それはともかく、実際神崎は暇だったので、これ幸いと二人と話し始めた。

 

「扶桑からの視察が来ている」

 

「視察とは珍しいな。ロンメルなら分かるが」

 

「ロンメルおじさんはよくご飯を食べに来ますからね」

 

 将軍をおじさん呼ばわりしているのはともかく、二人も今回の視察を珍しがっていた。そしたら、当然興味は視察は誰なのかという方へと向く。

 

「一体誰が来たんだ?」

 

「じゅ・・・。・・・扶桑の海軍の魔女(ウィッチ)だ。名前は竹井醇子。階級は中尉」

 

「えぇ!?あの『リバウの貴婦人』ですか!?」

 

 竹井を自分が呼び慣れた風にで呼んでしまいそうになった神崎だが、稲垣は特に気付かず、それどころか竹井の名前を聞くと驚きの声をあげた。あまりの声の大きさにマルセイユは面食らっていたが、彼女は全く気付いていない。それどころか、竹井の姿を一目見ようと天幕に突撃していた。しかし、そこへ立ち塞がる神崎。

 

「悪いが、ケイさんに人払いを頼まれている。中を見せることは出来ない」

 

「そ、そんな~」

 

 それでも中を見ようと抵抗する稲垣を、神崎は彼女の襟首を掴んで天幕から引き離した。神崎にズルズルと引きずられる稲垣を面白そうに見ていたマルセイユも、どうやら竹井に興味が湧いたらしく、彼女について尋ねていた。

 

「どんな奴なんだ?その『リバウの・・・』」

 

「『リバウの貴婦人』ですよ!」

 

 いつもは大人しい稲垣が興奮したように続けた。

 

「初陣はあの扶桑海事変!そして彼女の別名の由来となったリバウ航空隊に配属!そこで欧州の激戦を戦い抜き、押しも押されぬエースへと成長した、扶桑を代表する魔女(ウィッチ)なんです!!」

 

「あ、ああ。そうだな」

 

「そ、そうなのか」

 

 稲垣の力説に気圧されてしまう神崎とマルセイユ。そんな二人を見て自分がどんな風になっていたかの気づいた稲垣は顔を赤くして縮こまってしまった。

 

「す、すみません・・・。私ったら熱くなって・・・」

 

「・・・驚いただけだ。気にするな」

 

「そんなことより、そいつは強いのか?」

 

 稲垣の話を聞いて興味が更に湧いたのだろう。稲垣を気遣う神崎とは裏腹にマルセイユは自分の欲望に忠実だった。心なしか目が鋭くなっている。

 その表情に神崎は嫌な予感を感じた。

 

「あ!えっとですね・・・」

 

「欧州での戦闘を戦い抜いたんだ。醇子は強いぞ。だが、どちらかと言えば指揮官向きの強さだ」

 

 もし余計なことを言えばマルセイユが熱くなって竹井と戦うと言い出し、暴走しかねない。

 そう予想した神崎は、それを未然に防ごうと稲垣に先んじて一気に説明した。

これでマルセイユの暴走を防ぐことが出来たと胸のうちで一安心する彼だが、一つミスをしているのに気付いていなかった。

 

「ん?ジュンコ?」

 

「神崎さん。何で竹井中尉のことを名前で?」

 

「・・・あ」

 

(しまった・・・)

 

 ブワッと神崎の顔に嫌な汗が吹き出す。急いだあまりに自ら墓穴を掘ってしまった。二人から疑惑の目を向けられ、神崎は内心ひどく焦ってしまい、それ以上何も言えず黙ってしまう。気の収まらない二人は更に追及しようと口を開いた。

 

「なぁ、ゲンタロー?そこのところを詳しく・・・」

 

「あれ?玄太郎はともかく、二人は何してるの?」

 

「あら?こんにちは」

 

「あ。ケイさん・・・。ッ!?た、竹井中尉!?」

 

「なに!?あれがタケイか!?」

 

 天幕からタイミングよく出てきた加東と竹井に二人は口をつぐんだ。そして、興味が竹井本人に移ったらしく、既に二人の目は竹井しか見てなかった。この機を逃す手はない。神崎は加東に一言いれてこの場所から離れることにした。

 

「では、自分は格納庫の方で零式の調整を」

 

「なら竹井中尉も一緒に。あなたがユニットを動かすのが見たいそうよ」

 

「・・・分かりました。では中尉、こちらへ」

 

「えぇ。・・・よろしく、少尉」

 

 神崎は先導して歩き始め、竹井はそれについていく。マルセイユと稲垣も一緒についていこうとするが、加東に止められた。

 

「あなたたちは自分の仕事に戻る!」

 

「「え~」」

 

「文句言わないの!」

 

 ぶうぶう文句を言い始めた二人を諌めると、加東も自分の仕事を再開すべく天幕に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 格納庫では既に零式の調整が始まっていた。竹井は見守っているだけのようでいつの間にか隅の方で佇んでいた。竹井との関係を知られて下手な騒ぎを起こしたくない神崎としてはありがたかった。

 

 ユニットケージには既に零式が収められており、整備されているようだった。神崎がユニットケージの側に寄ると

、近くで整備兵達と何かしら相談していた氷野曹長が駆け寄って言った。

 

「既にユニットの挿入口は大きくしてあります。不具合がないか確認してください」

 

「はい」

 

 通常のユニットの挿入口は少女の足の太さに合わせられているため、神崎が装着するとなると途中で足が閊えてしまうのだ。ちなみに、この前まで使っていたBf109E-4も、急ごしらえではあるが、しっかり改造されていた。

 神崎は、氷野に促されるままにユニットケージに上ると零式に足を滑り込ませた。そして神崎の頭からフソウオカミミの耳、臀部からは尾が飛び出す。竹井の視線を受けているのを感じながらも氷野に声をかけた。

 

「起動させます」

 

「どうぞ」

 

 神崎が魔導エンジン魔力を込めるとブゥン・・・という音が響いて零式が起動した。軽快なエンジン音と共に規則的な振動が神崎に伝わる。

 

「起動は大丈夫そうですね。それでは出力を最大まで上げて下さい」

 

「分かりました」

 

 氷野の指示を受けて、神崎は更に魔力を込めていった。込められる魔力に比例してエンジン音と振動が大きくなっていく。

 

(やはり零式はいいな・・・)

 

 エンジン音を聞き振動を体で感じながら神崎は思った。Bf109E-4も悪くはなかったが、やはり長らく使っている扶桑製のユニットには絶大な安心感があった。

 

 しばらく経つと氷野が手を挙げてユニットを止めるように指示を出した。神崎としてはもう少しこの振動に身を任せたかったがそうはいかないだろう。惜しみつつ込める魔力を少なくし、ユニットに出力を絞っていく。

 

「特に問題はないですね」

 

 零式に繋がっている計測装置の数字を見て氷野は判断した。その声を聞いてから、神崎は耳と尾を引っ込ませると零式を脱ぐ。長ズボンのシワを伸ばしてユニットケージから降りると、隅に居たはずの竹井が近づいてきた。

 

「・・・神崎少尉。少し時間を貰っても・・・」

 

「すみません。自分はまだ機体の調整があるので失礼します」

 

「あ・・・」

 

 誘いを断られた竹井は残念そうに、しかし少し安心したように肩を落とした。そのことに気付いた神崎は周りの整備兵が気づかないほどに小さな声で言った。

 

「・・・夜、今日の仕事が全部終わってからだ。それまで待ってくれ」

 

「・・・分かったわ」

 

 竹井が体を緊張させて静かに頷いた。神崎も眉一つ動かさずに頷くと竹井から離れていった。 

 

 

 

「零式自体には問題ありません。砂漠仕様に改造すれば飛ぶことはできます」

 

「そうですか」

 

 氷野は先程確認した零式の出力数値を確認しながら言った。ユニットを砂漠の気候に適応させる為にサンドフィルターの設置や冷却装置の強化が必要となる。作業時間から考えれば明日には飛べるだろう。神崎の表情は心なしか明るくなったが、次の氷野の言葉ですぐに表情を曇らせることになった。

 

「ですが、少し注意事項が」

 

「・・・それは?」

 

「少尉の魔力特性で少し問題があるんです」

 

 浮かない表情になった神崎に氷野が詳しく説明を始めた。

 

 神崎の魔力は固有魔法『炎』の影響があって熱を持ちやすい性質がある。神崎が前に使っていた零式が大破したのも、その性質と暴走による魔力過多によって魔導エンジンが熱暴走したのが原因だった。そのことから、氷野は新しい零式が前の物の二の舞になるのを防ぐためにあれこれと対策を立てようとしたらしいが、結果は芳しくなかったようだ。

 

「少尉が戦闘で『炎』を使った際に発生する熱量と零式の冷却性能がどうやっても釣り合わないんです。メッサーシャルフなら液冷なのでなんとかなるのですが、零式は空冷なので・・・」

 

「つまり・・・」

 

「『炎』を使い過ぎれば、魔導エンジンが再び熱暴走を起こす可能性が高いということです」

 

「・・・」

 

 もし零式に乗って戦うなら、神崎は今後戦闘で『炎』の使用を制限せざるを得なくなるということだ。他と比べて神崎の魔力量が多いこともあり戦闘中に『炎』を多用していたため、この制限は神崎に取って相当厳しいものだった。神崎の眉間に深い皺が寄るのも無理がないことだろう。

 

「・・・」

 

「しかし、そこまで懸念することでもないかもしれません。熱暴走を起こしたのも少尉が暴走した時だけですので。今までの戦闘でも熱暴走は起こしてませんから」

 

「それはそうですが・・・」

 

「こちらでも色々と改良してみます。少尉も気をつけていてください」

 

「・・・分かりました」

 

 自分はこれで・・・と氷野は敬礼を残し離れていた。

 一人残された神崎はユニットケージの零式に触れてため息をついた。やっと零式で飛べると喜んだ矢先にこれである。

 

「自分で自分の首を絞めていたとは・・・。やるせないな」

 

 神崎はしばらくの間、その場で佇んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日の夕食は賑やかなものになった。

 

「この食事は稲垣さんが作ったの?とても美味しいわ」

 

「ほ、本当ですか!ありがとうございます!」

 

「なぁ、タケイ。今度模擬戦しよう!」

 

「時間があったらいいですよ?」

 

「こらこら、マルセイユ。醇子ちゃんは忙しいのよ。あとライーサ、醤油取って」

 

「はい、どうぞ」

 

 竹井はすでに「アフリカ」の魔女(ウィッチ)達と打ち解けていたらしく、彼女達のいる一角だけ周りとは違って異様なほどに明るくなっていた。一般兵士たちは、眩しいものを見るように目を細めて見ている。

 

「・・・」

 

 神崎は魔女(ウィッチ)たちがキャーキャー騒いでいるのを聞きながら黙々と料理を口に運んでいた。いつもなら彼も彼女たちと共に食べているのだが、零戦のことがあり今の神崎にはあの空気の中に入るほどの元気はなかった。

 

「おい、ゲン。元気ねぇな!」

 

「・・・お前は元気そうだな」

 

 もぐもぐと口を動かしていると、神崎とは対照的にやたらと元気な島岡が向かい側に座ってきた。その様子に多少ゲンナリとなる神崎だが、聞きたかったことがあったので食事の手を止めて口を開いた。

 

「お前、今日はどこにいた?格納庫にはいなかったが・・・」

 

「食料庫だよ」

 

「食糧庫・・・?」

 

 食料庫の管理は一般兵の担当だったはずだ。つまり、パイロットの島岡がする仕事ではないということ。

 

「・・・なぜ?」

 

「ケイさんが気を利かせてくれてよ。視察の奴にバレねぇようにって、零戦の調整が終わったら、俺とライーサは食料の確認作業に回してくれたんだよ」

 

「それは・・・楽しかっただろうな」

 

「おう!」

 

 憎らしい程の笑顔を向けられ、神崎の気分は更に沈む。当の本人は神崎の気分など全く意に介せず、首を伸ばして明るい雰囲気の魔女(ウィッチ)達の方を見ていた。

 

「竹井中尉だっけか?視察に来たのは」

 

「ああ」

 

「ふ~ん。・・・ばれてないよな?」

 

「多分な」

 

「よしよし・・・大丈夫だな」

 

 島岡は安心したと言わんばかりに鷹揚に頷くと箸を動かし始めた。旨い旨いと頷きながら麦飯を頬張る島岡を、神崎はなんとなく箸を止めて眺める。

 

「・・・どうしたよ?」

 

「いや・・・」

 

「・・・何かあったか?」

 

 神崎の様子に違和感を感じた島岡は心配そうに尋ねた。いくら島岡が今、ライーサにぞっこんだといっても、親友の変化には気付くらしい。神崎は肩を竦めつつため息をついた。

 

「あるにはあったが・・・どうしようもないことだ。気にしなくていい」

 

「んだよそれ」

 

 島岡は視線が厳しくなるが、神崎はそれには取り合わなかった。

 

「それよりも頼みたいことがあるんだが・・・」

 

「・・・何だよ?」

 

「それはな・・・」

 

 神崎が内容を伝えると、島岡は微妙に嫌そうな表情をした。

 

「そんなことか?」

 

「ああ。・・・頼めるか?」

 

「けど、ライーサがなぁ・・・」

 

「・・・ダメか?」

 

「・・・分かったよ。貸しだからな」

 

 神崎の言葉少なな頼みに島岡は渋々といった感じで折れた。

 

「・・・すまない」

 

「いいって。さっさと飯食おうぜ?冷めたら不味くなる」 

 

「ああ」

 

 島岡に促されて神崎も箸を動かす。魔女(ウィッチ)達の喧騒をBGMに二人は食事を進めていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一日の仕事が終わり、加東は隊長用天幕で一人くつろいでいた。金子が来てからというもの書類関係の仕事速度が格段に上がったため、以前のように夜も徹して机に齧り付くことはなくなった。こんなに嬉しいことはない。

 

「さてと、醇子ちゃんの様子を見ておこうかしら」

 

 お客さんの様子はしっかりと把握しなきゃね~と、加東が伸びをして椅子から立ち上がった時、誰かが天幕の扉を開けた。

 

「ウッス」

 

「あら、信介。どうしたの?」

 

 中に入ってきたのは島岡。手に、おそらくマルセイユの天幕からくすねてきたのだろう、酒瓶と二つ杯を携えてニコニコして言った。

 

「今日は俺らに気を利かせてくれたんで、お礼にどうすか?これ?」

 

 手に持つ酒瓶を掲げて悪戯をする子供のような笑みを浮かべる島岡。加東は呆れた表情を浮かべた。

 

「自分の彼女を置いて別の女の所に来るなんて、最低な男じゃない?」

 

 「いやいや。ケイさんのお陰で昼はいい思いさせて貰ったんすから、これは大丈夫すよ」

 

 そう言うやいなや、島岡は勝手に近くのテーブルに杯を置くと酒を注ぎ始めた。

 

「私は今から・・・」

 

「どうぞ、ケイさん」

 

「・・・」

 

 差し出された杯とニヤリと笑う島岡を交互に見比べる加東。しばし、酒の誘惑に抵抗しようとするが、結局負けてしまい杯を受け取った。

 

「まったく・・・。少しだけだからね?」

 

「了解っす」

 

 加東は渋々といった感じでイスに座ると杯を傾けた。島岡も彼女の様子を見ながら自分の杯を傾ける。

 

(さてと・・・これでいいんだよな?ゲン)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 星空の下、神崎は基地の外れにある岩に腰掛けてた。

 

「・・・フンフンフンフン・・・♪・・・フンフンフンフン・・・♪」

 

 神崎が小さな声で口ずさむのは、カールスラントの名匠、ルーツィンデ・ヴァン・ベートーベンが作曲した交響曲第9番「歓喜の歌」。

 世界中の人々に愛されるこの曲は彼のお気に入りであり、心を落ち着かせる時に歌ったりしている。

 実家の神社では扶桑古来の音楽にしか触れ合う機会しかなかったため、軍に入らなければ外国の曲を聞くことなどなかっただろう。魔法使い(ウィザード)になって良かった事など数える程しかなかったが、この曲に出会えたのはその内に一つだ。

 いつかオーケストラと何百人の合唱団と共に歌うのが神崎の密かな野望だったりする。

 

「・・・フンフンフンフンフ~ンフフ~ン・・♪っと。・・・来たか」

 

 神崎は口ずさむのを止めて、岩から立ち上がりズボンの砂を払った。

 少しすると砂を踏みしめる足音が聞こえ、竹井が現れた。

 

「ゲン君・・・」

「三年ぶり・・・か」

 

 向かい合う神崎と竹井。婚約者として初めての(・・・・・・・・・・)まともな会話になる。

 

(島岡に頼んでケイさんを引きつけて貰ったかいがあったか・・・)

 

 そう思いながら神崎は竹井に話しかけた。

 

「・・・随分と雰囲気が変わったな」

 

「・・・そ、そうかしら?」

 

 そう返事する竹井は目を合わせずに少し俯いていた。緊張しているのか制服のすそはギュッと握られて、彼女の体は刻みに震えていた。その不自然な様子に神崎が疑問を持っていると彼女が恐る恐ると口を開いた。

 

「・・・私、どうしても・・・ゲン君に謝らなくちゃ・・」

 

 絞り出すように紡がれる彼女の言葉。その声は弱々しく、体と同じように震えている。

 

(・・・そうか)

 

 神崎は彼女の心中を察し、一度目を伏せた。そして、おもむろに竹井に近づくと彼女の頭に手を置いた。ビクッと一段と震わせる彼女に一言告げた。

 

「・・・俺は恨んでない」

「ッ!?どうして・・・!」

 

 その一言で、竹井は弾かれたように顔を上げた。その表情は驚きと戸惑い、自責の念が入り混じったものだった。一方の神崎は相手を安心させるような小さな微笑みを浮かべていた。そんな笑顔を向けられた竹井は堪らず叫んだ。

 

「私の家のせいで勝手に私と婚約させられた(・・・・・・・・・・・・)のよ!?そのせいでゲン君は軍に無理矢理入れさせられて・・・!」

 

「お前は全く悪くない。遅かれ早かれ、結局俺は軍に入ることになった。家のためにな。・・・軍に入ってよかったことも少しはあった。だからそんなに気に病まなくていい」

 

「でも・・・!」

 

「むしろ、竹井の家には感謝している。訳のわからない奴らに利用させるよりも、よく知っている人に使われる方がよっぽどましだ。それに・・・」

 

 彼女に言うこの言葉には嘘がある。

 

 本当は竹井の家を恨んでいたし、竹井醇子にも怒りを感じていた。

 

 彼女とは幼少の頃から一緒にいたのに、自分の思いを知っていたはずなのに、どうしてそれを壊すような真似をしたのかと問い詰め、責めたかった。

 

 神崎は話しているうちに泣きそうになっている竹井の頭を強めに撫でる。昔、彼女が泣いた時に慰めていたように。

 

「婚約者が、醇子、幼馴染のお前なら俺は安心できる」

 

 彼女が自分のことを思ってこんなにも悩み苦しんでいたのだ。幼馴染みとして、婚約者として、そして何より男としてそんなことなどできない。できるわけがない。

 

「ゲン君・・・。ごめん・・・!ごめんなさい・・・!」

 

 神崎の優しい言葉を聞いて、竹井はついに泣き出してしまった。ポロポロと涙を流し、謝罪の言葉を口にする彼女の頭を神崎は更に力を込めて撫でた。

 

「・・・泣き虫なのは変わらないな」

 

 彼女が泣き止むまで神崎はずっと頭を撫で続けた。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「最近、街の裏で武器が大量に運び込まれています」

 

「更には麻薬類も横行しているようです」

 

「現在、諜報部及び『蛇』が行動しています」

 

「扶桑皇国海軍及び陸軍から返信が来ました」

 

「要請は了承。海軍は現在建造中の艦艇が完成次第提供するそうです。陸軍も人員を送ると」

 

「疑わしいのは、ここアフリカ、ブリタニア、ガリア、そしてスオムスかと・・・」

 

「分かった。状況は随時変化する。皆、臨機応変に対処してくれ」

 

 

 

 




この前発売されたスト魔女の画集すごいですね

更新が遅れた原因は読み込みすぎたせいだったり(笑)

ケイズリ3もあるし、ホントヤバイ

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