ストライクウィッチーズ 一匹の狼   作:長靴伯爵

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今回も1万字越え!ちょっとしか超えてないけどな!

と、いうわけで第二十話です。

感想、アドバイス、ミスの指摘などよろしくお願いします。感想書いてくれたらもれなく作者のやる気が上がります。やったね!投稿速度が上がるよ!(保証はしないよ!)


第二十話

 

 

 

 

 

 

 砂丘に半ば埋まったそれは、零式艦上戦闘機と言われていた物である。

 

 

 その残骸の下に潜む者がいた。

 

「・・・ネウロイは来てねぇよな?」

 

 眠っているライーサを冷やさないように、落下傘を毛布代わりにして寝かせながら、島岡は周囲を警戒していた。日が暮れてから既に何時間も経っているが、緊張して神経が高ぶっているせいか、一向に眠気は襲ってこなかった。

 

「ったく・・・。ゲン、早く助けに来いよ・・・」

 

 ブルツと寒さ身体を震わせ島岡は呟いた。ライーサは静かに寝息をたてて眠っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

6時間前・・・

 

 

 

「・・・カ・・・ハ・・・ッ!」

 

 ライーサから力が抜け、武器がユニットが地面へと落ちていく。このままいけば、ライーサは空中に投げ出され、地面に紅い花を散らすことになる。

 

そんなことは絶対にさせるか・・・!!!

 

「ライーサァアアア!!」

 

 島岡は咄嗟にコックピットの天蓋を開くと、腕を伸ばした。その腕は、後ろに流されかけたライーサの腕を掴む。

 

「こんのぉぉおおお!!!」

 

 力任せにコックピットへ引っ張り込むと、ライーサを抱えながら機体を急降下させた。そうしなければ、ライーサに体当たりしたケリドーンに狙われるからだ。

 

 零戦が急降下を始めた直後にケリドーンもすぐさま追ってきた。ケリドーンはこちらを撃ち落とそうとビームを放つが、島岡はすんでのところで躱しながら地面ギリギリまで降下した。機体がギチギチ不気味な音を立てているが気にしてられない。島岡が地面スレスレを砂埃を巻き上げながら飛び、それをケリドーンが追う。

 一際高い砂丘が目の前に現れた時、島岡は仕掛けた。

 

「っそらぁ!!」

 

 零戦を砂丘をなぞる様に急上昇させて、先程とは比べ物にならないほどの砂埃を巻き上げる。

 

『!?!?』

 

 いきなり目の前を塞がれたケリドーンは明らかに動きを乱した。砂埃の目くらましはすぐに晴れるが、その間にケリドーンは零戦を見失い急上昇していた。その直後、

 

「獲ったぜ!!!!」

 

 完全にケリドーンの背後を獲った島岡は、20mm機銃の引き金を引いた。ケリドーンがこちらを見失った短い間に、島岡は零戦の小さい旋回半径を活かし、シャンデルの要領で背後に回ったのだ。野太い銃声と共に放たれた20mm炸裂弾は寸分違わず直撃し、ケリドーンは為す術もなく爆発した。今回は破片を浴びるなどのヘマはしない。

 

「なんとかなった・・・けど・・・」

 

 島岡は安堵の吐くが、今度は機体が持ちそうもないことに気づいた。被弾して機体の耐久度が減っているのにも関わらず、全力で戦闘機動をしたツケが回ってきたのだ。機体の不気味な振動は治まる気配は全くなく、エンジンから出る黒煙の量も目も当てられないことになっている。

 

「どっかの基地に戻らねぇと・・・ライーサが・・・」

 

 さっきの激しい動きでも目を覚ますことのなかったライーサ。むしろ、あんな激しい動きをしたから目を覚まさないのかもしれない。島岡はそのことに全く気づいていなかったが・・・。ともかく、基地に戻ることが先決なのは変わりなかった。

 だが、無常にも零戦が限界を迎えた。

 

「ちょ!?!?マジかよ・・・」

 

 一際大きな振動が機体に走ったかと思えば、エンジンが止まりプロペラがピタリと動かなくなる。燃料漏れと先程の戦闘で燃料が完全に尽きてしまった。零戦は滑空しながら徐々に地面に近づいていく。地面との距離が近づくにつれ、島岡の額から冷や汗が垂れてくる。だが・・・

 

「・・・ライーサを死なせる訳にはいかねぇよな」

 

 島岡はそう呟くと、恐怖で竦む顔に無理やり引きつった笑みを張り付けた。

 

 直後、島岡に今まで経験したことのない衝撃が襲いかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

統合戦闘飛行隊「アフリカ」基地

 

 

 

 

 

「電探の反応・・・消えました・・・」

 

 兵士はそう耳元で囁いた。

 加東が静かに目を見開き、机の下に置いていた手を握り締める。

 

 格納庫近くの会議所。

 

(まさか・・・そんなこと・・・)

 

 加東の思考はぐちゃぐちゃになった。ライーサと島岡、どちらも実力者であることは部隊長である加東がよく分かっている。だからこそ、この報告が信じられなかった。

 

「さらに敵の増援が・・・。司令部から出撃要請が出ています」

 

 何がともあれ対処するしかない。

 

「・・・ユニット、全機出撃できるように整備班に伝えて」

 

「・・・はい」

 

 静かに兵士は会議所から出て行った。

 

「ん?なにかあったのか?」

 

 マルセイユは能天気に尋ねるが、加東の様子が尋常ではないことに気付く。

 

「・・・何があった?」

 

「敵の増援よ。・・・ライーサと信介が突破されたわ。」

 

「な、なんだって!?」

 

 この一言は皆にとてつもない衝撃を与えた。突破された・・・乃ち、二人が落とされたということと同義だからだ。

 稲垣は、驚きのあまり声も出ていない。神崎も黙ったままだった。

 

「・・・すぐに出撃するわよ。敵を侵攻させる訳にはいかないわ」

 

「待て!今すぐ二人を救出しに行こう!!」

 

「そ、そうです!ライーサさんと島岡さんが・・・!!」

 

 この命令にマルセイユと稲垣が非を唱えるが、加東は一蹴した。

 

「これは命令よ。マルセイユ。真美。」

 

「ケイ!?」

 

「トブルクに攻め込まれる訳にはいかないの」

 

 冷徹な声で加東が言った。

 加東とて、できることなら一刻も早く二人を助けに行きたい。だが、トブルクに攻め込まれれば人類がアフリカを失うかもしれないのだ。だから自分の心を押し殺して軍人に徹する。そのことは固く固く握り締められ、白くなった拳が物語っていた。

 

「・・・クソッ!!!」

 

 マルセイユはテーブルに拳を叩きつけると、会議所を飛び出した。稲垣もキュッと口を引き締めマルセイユの後を追う。会議所には加東と島岡が残った。神崎は無表情のままだったが、静かに声をかけた。

 

「ケイさん」

 

「玄太郎は・・・玄太郎は・・・」

 

 加東は神崎にも命令を与えようするが、小さく震えて言葉にできなかった。加東は仲間を失ったのは初めてではない。既に扶桑海事変の時に数多くの部下と戦友を亡くしている。だが、初めてではないからといって平気なわけでは決してない。まして、自分の下した命令のせいで二人は撃墜されたのだ。そして、自分は二人を助けに行くことさえしない。その事実が加東に自責の念を募らせ、軍人の皮が崩れかけていた。

 

「玄太郎は・・・」

 

「・・・二人は大丈夫です」

 

 何とか続きを言おうとする加東に神崎は静かな声で言った。加東が顔を上げると、神崎はこちらを落ち着かせるような柔らかな表情をしていた。テーブルの上で震える加東の手を握り、諭すように言う。

 

「二人は凄腕です。ケイさんも分かっているでしょう?撃墜されたとしても絶対に生きています。絶対に」

 

 加東の手を握る神崎の手はとても暖かかった。その暖かさを噛み締めるように、加東は一つ深呼吸して自分を落ち着かせた。

 

「・・・そうね。ごめんなさい、情けない姿を見せたわ」

 

 加東は一度だけ自分から神崎の手を握ると、すぐに手を離して頭を切り替えた。そして神崎に命令を与える。

 

「玄太郎はまだユニットに慣れてないから待機。でも、二人が突破されてしまった以上私達も突破される可能性もあるから、いつでも飛べるようにしておいて」

 

「了解しました」

 

 敬礼する神崎を残し、加東は格納庫に向かう。会議所を出る時、加東はチラリと振り返った。

 

「玄太郎・・・ありがとう」

 

「・・・どういたしまして」

 

 加東は走り出した。自分の役目を果たす為に。

 ・・・顔が赤いのは気のせいだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ふぅ~」

 

 加東を見送ると、神崎は大きく息を吐いた。

 二人は生きているとは思う。が、それで心配しないのとは話は別だ。さっき加東に言った言葉も自分に言い聞かせたようなものだった。

 

「絶対に生きていろよ・・・シン、ライーサ」

 

 神崎はさらに自分に言い聞かせるように呟いた。現時点では加東達に任せるのが一番なのだろう。だが、頭では分かっていても不安はまったく拭えなかった。

 

(今俺に出来ることは・・・)

 

 じっと思考を巡らすと、神崎は会議所から出て通信所へと向かった。中に入ると通信兵に声をかける。

 

「すまないが繋いで欲しいところがある」

 

「はっ。どこにでありますか?」

 

 神崎はその通信兵だけに聞こえるように言った。

 

「ブリタニア陸軍第八軍団司令基地だ」

 

 

 

 

 

 

 

 加東が格納庫に入ると、既にマルセイユと稲垣が出撃準備を終えていた。

 

「遅いぞ、ケイ!さきに行くぞ!」

 

「分かった!」

 

 マルセイユと稲垣が勇んで格納庫から出て、離陸していく。加東も自分のユニット「キ61」に飛び乗り、八九式機関銃甲を掴んだ。

 

「玄太郎が使うE型の準備もしておいて!」

 

「了解しました!」

 

 氷野曹長に指示をだすと、離陸準備に入った。加速しつつ腰のメーターを見て機能確認をすると、一気に離陸した。先行しているマルセイユ達を追いつつ、通信を入れた。

 

「今、そっちの後を追っているわ。敵との接触は?」

 

『まだだ。いや・・・見つけた。中型がいるな。護衛の小型も複数いる』

 

『ケイさん、どうしますか?』

 

 マルセイユと稲垣が指示を請うた。二人共既にさっきのことから頭を切り替えたようだ。

 

「マルセイユは先行して攪乱して」

 

了解(ヤヴォール)

 

「真美は中型の護衛を遠距離から引き剥がして」

 

『了解です!』

 

『さっさと片付けて二人を助けに行くぞ!!』

 

『はい!』

 

 どうやら二人はそういう風に考えて自分を切り替えたらしい。

 

「すぐに追いつくわ!無理はしないでね!」

 

 加東はユニットに魔法力を注ぎ込み、更に加速した。

 

 既に戦闘は開始されている。

 

「撃ちます!」

 

 真美のボヨールド40mmが火を噴き、護衛の小型ネウロイをバラバラにしていく。そしてその間を抜いてマルセイユが突撃した。未だ残っている小型ネウロイが放つ弾幕を物ともせず中型ネウロイに肉薄し、MG34を構える。

 

「そらっ!!」

 

 中型ネウロイもビームを放つが、マルセイユは華麗な機動で躱し引き金を引いた。7.92mm弾が中型ネウロイの装甲を削るが大したダメージは与えられていない。マルセイユが忌々しそうに舌打ちして一度回避に切り替える。そこでやっと加東が到着した。

 

「ごめん!遅れたわ!」

 

「ケイさん!」

 

 稲垣が弾倉を交換しながら嬉しそうに顔を向ける。加東は一つ頷くと指示を出した。

 

「真美は中型の銃座を優先的に狙って。護衛の小型は私が片付けるわ」

 

「はい!」

 

 稲垣を残して加東は中型ネウロイに向かって飛んでいった。そして、マルセイユに気を取られこちらに気付いていない小型ネウロイを狙い引き金を引く。

 

「当たれ!!」

 

 次々と翼や胴体を貫かれ地上へと落ちていく小型ネウロイ。自分を追う小型ネウロイがいきなり減ったことで、マルセイユは加東の到着に気づいた。

 

「援護するわ!背中は任せて!」

 

「頼んだ!」

 

 自分にまとわり付く敵がいなくなると、マルセイユは縦横無尽に飛び回り、あらゆる方向から中型ネウロイに射撃を加えた。中型ネウロイはマルセイユの動きに全くついていけず、ビームを放つも虚しく空を切るだけだった。

 

「ッ!真美!右の銃座に集中砲火!!」

 

「はいッ!」

 

 マルセイユが離れるとすぐさま真美が撃った。7.92mm弾丸とは比べ物にならない程の威力の弾丸が中型のネウロイに直撃し、その身体に穴を開ける。

 

 

ギギギギイギァァァァァァアアアアアアアアア!!!!

 

 

 硬い装甲を持っているとしても、流石にこの攻撃には耐え切れなかったのか、金属音のような苦悶の声をあげ、ぐらりと体勢を崩した。

 

「!!そこか!!ケイ!あの穴を狙え!」

 

「分かったわ!」

 

 加東とマルセイユは中型ネウロイに容赦無く一斉射撃を加える。中型ネウロイも二人の射撃から逃れようと苦し紛れに回避行動を取るが、二人はピッタリと張り付き射線から逃さなかった。ガリガリと内側を弾丸で削っていくと、ついにコアが現れる。

 

「コアだ!!」

 

「トドメよ!!」

 

 コアは二人の一連射で砕け散り、中型ネウロイは白い粒子となり消えた。マルセイユは満足そうに頷くと方向転換しようとした。

 

「よし!すぐに二人の救援に向かうぞ!」

 

「待って!!敵の増援よ!・・・。また中型がいるわね・・・」

 

「チッ!さっさと片付けるぞ!」

 

 マルセイユは舌打ちして再び敵に向かい加速していく。加東もそれに続いた。すぐにでもライーサと島岡を助けに行けることを信じて。

 

 

 

だが、現実はそんなに甘くなかった。

 

 

 

 敵もここが勝負どころと踏んだのだろう。

 三人がいくら倒しても後から後から増援が現れた。一度攻勢が途切れ補給ができたが救助に行く暇もなく、結局、待機の神崎を含めた四人で戦い、敵の侵攻が完全に止まった時には日暮れとなっていた。

 夜間飛行はナイトウィッチがいない身としては難しく、救助も明日以降となった。

 苦渋の決断であり、皆受け入れ難いものだった。特に整備部隊の反発が大きかった。神崎、島岡は男でもネウロイと対等に戦える数少ない人物だ。そして島岡に関しては通常の戦闘機でネウロイと戦える。整備兵達は皆自分たちが十分に戦えないことを不甲斐なく思っている分、二人が戦えることを嬉しく思っていた。だからこそ、この判断には納得できなかったのだ。独断で助けにいく可能性すら出てきたので、慌てて加東が説得してやっと納得した。

 

 その夜の「アフリカ」基地は火が消えたように静かにだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 砂漠の夜。

 

 島岡とライーサは、砂丘に頭を突っ込んだ状態で止まった零戦の下に潜んでいた。

 

 島岡は墜落した時に機体が爆発するのではと危惧していたが、燃料切れになったお陰でそんなことは起こらなかった。

 しかし、不時着する直前の機体を損傷を無視した機動が災いしたのか、零戦の翼は不時着の衝撃で折れてしまった。自分の愛機がこんなことになってしまって辛いが、命を拾っただけありがたいことだろう。

 戦場に取り残されるのは想像以上に辛かった。眠気がないとはいえ、いつ敵が現れるか分からない緊張した状況に神経がまいってしまいそうになる。

 

「腹減ったし、寒いし・・・。早く帰りてぇな・・・」

 

 護身用の拳銃―ネウロイ相手に通用するとは思えないが―ベレッタM1934をいじりながら島岡は独りごちた。

 目の前のライーサは一向に目覚める気配がなかった。ついさっき、頭を酷く打ったのではないかと調べてみたが、幸いそんなことはなかった。だが背中は確実に強く打っていたので、ライーサには悪いが調べさせて貰った。こちらも幸いにも骨折、酷い内出血もなかった。

 衛生兵ではない以上、それ以上のことは分からなかったので、島岡ただ無事であることを願うしかなかった。だからようやくライーサが目を覚ました時には心底ホッとした。

 

「う、う~ん・・・」

 

「ライーサ!気付いたか・・・良かった」

 

 水飲めるか?と島岡が尋ねると、ライーサはコクンと頷いた。身体が痛むのか、ライーサは身を起こそうとして顔を歪める。島岡は彼女が辛くないように支えながら水筒を口元へとあてがった。喉を潤すとライーサは再び横になり、島岡に尋ねた。

 

「状況は・・・どうなってますか?」

 

 朦朧としたような声で話すライーサ。しかし、意識ははっきりしているらしく目がしっかりしていた。

 

「・・・不時着して救援を待っている」

 

 島岡はそこうなった経緯を静かに話した。そして全て話し終わるとライーサに頭を下げた。

 

「俺の不注意でこうなっちまった。本当にすまねぇ」

 

 島岡は頭を下げ続けた。こうなってしまったのはどう考えても自分の責任。どんなに非難されても我慢するつもりだった。

 

「・・・」

 

「・・・」

 

 ライーサは黙ったままだった。島岡は一発殴られるのも覚悟していた・・・のだが・・・

 

 ナデナデナデナデ・・・・

 

「・・・ナンデ?」

 

 何故か頭を撫でられた。

 

 頭を押さえながら慌てて顔を上げると、ライーサは嬉しそうに微笑んでいた。

 

「ジョリジョリ・・・気持ちいい」

 

「ら、ライーサ?」

 

「ずっと触ってみたかったんです。シンスケの・・・坊主頭」

 

「そ、そうか?」

 

 自分の頭を触ってみても別に気持ちよくはないが・・・と不思議に思っていると、ライーサは言った。

 

「シンスケの責任じゃないですよ」

 

「いや、俺が被弾しなければ・・・」

 

「運が悪かったんですよ」

 

「だが・・・」

 

 さらに島岡が続けようとするが、ゆっくり伸ばされたライーサの手が島岡の手を握った。押し黙る島岡に、ライーサが優しく語りかけた。

 

「私こそ集中していれば私達が墜落することはなかったんです」

 

「それも元はといえば俺が・・・」

 

 島岡の手がギュッと握り締められる。ライーサはその拳を撫でて言った。

 

「シンスケは私の命の恩人です。そんなに自分を責めないで」

 

「なら、ライーサは俺の恩人だ」

 

「そんなことないです。それは・・・」

 

「今回のことだけじゃねぇんだ」

 

 島岡は少し語気を強めて、ライーサの言葉を遮った。

 

「え・・・?」

 

「俺と真美ちゃんの模擬戦の後、ゲンの援護に向かった時あったよな?」

 

「・・・はい」

 

 あの時、ライーサは落ち込む自分を慰めてくれた。出撃した時、戦うことへの恐怖で機体が震えるのをライーサは翼を押さえて止めてくれた。

 

「あの時のライーサのおかげで俺は今まで戦ってこれたんだよ」

 

 そう。あの時のライーサの微笑みで俺は飛べた。あの微笑みで自分は不思議な程に落ち着くことができた。

 

「ありがとな。ライーサ」

 

 島岡はライーサの手を握り返した。少しでも感謝が伝わるように。

 

「こちらこそ、ありがとうございます」

 

 ライーサは微笑んだが、眠くなったのか段々と瞼が落ちそうになっていた。

 

「もうちょい眠っとけ。俺は大丈夫だから」

 

「はい・・・。ありがとう・・・シン・・・スケ・・・」

 

 島岡は眠りについたライーサの手を放し、落下傘の中へと入れた。そして拳銃を構え、零戦の下から這い出て・・・。

 

(俺は何を言ってんだぁぁぁあああ!!!スッゲェ恥ずかしい!穴があったら入りたい!!そうだ!穴を掘ろう!穴がなければ掘ればいいじゃねぇか!)

 

 頭抱えて身悶えし、次いで一心不乱に穴を掘りだした。そして、すぐに自分の行動が無意味なことに気付き、砂の上に寝転がった。

 

「・・・死んでりゃこんなことも出来ねぇよな」

 

 ここは戦場で、いつ死んでもおかしくない。今日はその事がよく分かった。しかも魔女(ウィッチ)でも魔法使い(ウィザード)でもない只の人間なら尚更だ。今回は運がよかったが次はどうなるか分からない。

 

「・・・悔いは残したくねぇな」

 

 そう呟いて取り出したのは、基地を出る前にポケットに入れた小箱だった。島岡がおもむろに開けると中には鳥を象ったネックレスが入っていた。これはこの前釣りに行った時、神崎の到着が遅くて繁華街をぶらぶらしていた時に偶然見つけ、つい買ってしまった物だ。

 

 ・・・つい買ってしまったとは言ってるが、本当は渡す相手は決めていた。死ぬのを実感した今ならよく分かる。つまり・・・

 

 

「俺、ライーサに惚れてんなぁ・・・」

 

 

 多分、あの微笑みを見た時から。

 今考えれば、島岡は翼を触られるのが嫌だったはずなのにあの時ライーサが触っても嫌じゃなかった。アフリカに着く前、地中海上空で神崎に「翼に触っていいのは俺が愛した奴」と言ったのは冗談のつもりだったんだけど・・・と島岡は頭を掻いた。

 

「あながち間違いじゃなかったか」

 

 ネックレスの小箱を再びポケットにしまい、身体についた砂を払って立ち上がった

 

「先ずは無事に帰らなきゃな」

 

 島岡は零戦の残骸に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

統合戦闘飛行隊「アフリカ」基地

 

 

 

 深夜3時

 

 神崎は加東に意見具申した。

 

「夜明けと同時にシンとライーサの捜索に行かせて下さい」

 

「・・・理由は?」

 

 疲れた声音で加東が尋ねる。連戦に継ぐ連戦で加東も疲れているのだ。しかも寝ていないのだろう。目の下には隈が出来ていた。

 

「夜明けの明るさならギリギリで飛行可能です。それに日が完全に昇りきる前ならば、ネウロイの動きも少ないはずです」

 

「あなたも昨日の戦闘で消耗しているはずよ」

 

「自分は戦闘への参加が遅かったので三人ほど消耗していません。捜索の後に戦闘を行う体力は十分

に残っています」

 

「もし陸戦型ネウロイが出ていたら?炎を使うことになったら、魔力が足りないでしょう?」

 

「・・・手は打ってあります」

 

 神崎は頭を下げた。

 

「お願いします。行かせて下さい。・・・ケイさん」

 

「・・・」

 

 加東は黙ったままだった。

 

 

 

 結局加東が折れた。

 

 

 

 薄暗い中で整備兵達が忙しなく動き、離陸の準備をしていた。ユニットに燃料を注ぎ込み、離陸し易いようにと滑走路にランプを並べる。

 

 そんな喧騒の中、神崎は加東と会議所にいた。ちなみにマルセイユと真美はまだ寝ていてここにはいない。

 

「多分、二人が落ちたのはここ辺りね。電探で確認したから間違いないと思うわ」

 

 加東が地図を指し示しながら言う。そこは砂漠のほぼど真中だった。

 

「分かってるとは思うけど、慣れないユニットだから無理しないでね。航続距離も格段に短いわ」

 

「大丈夫です。把握しています」

 

 神崎はいつものようにポーカーフェイスで頷いた。だが、加東は彼の表情がいつもと違うことを見抜いていた。早く二人を助けに行きたくて焦っているのだ。

 

「・・・落ち着いて、玄太郎。あなたまで失いたくないわ」

 

 そう言って加東は神崎の顔を覗きこんだ。そして今度は自分から神崎の手を握る。加東が言わんとしていることが伝わったのか、神崎はポーカーフェイスを止めて少し表情を崩して言った。

 

「はい。・・・二人を見つけて三人で帰ってきます」

 

「頼んだわよ」

 

 神崎は敬礼を残し、会議所から出ていった。加東は力なく座り込むと、大きく息を吐いた。

 

「大尉殿。少し休まれた方が・・・」

 

 こちらの状況を確認しに来た金子が遠慮がちに言った。だが加東は顔をあげると首を横に振った

 

「ありがとう、金子中尉。でも、今は休んでる暇はないわ。何かあったら私も出ないと」

 

 加東は顔を引き締めて立ち上がった。外から神崎が離陸する音が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

砂漠、墜落地点

 

 

 

 島岡は砂を踏み締めるザクッという音で目を覚ました。まだ薄暗く、周りがよく見えない。ライーサも目を覚ましたらしく、真剣な目でこちらを見上げている。島岡は囁いた。

 

「動けるか?」

 

「なんとか・・・」

 

 そう言うライーサだが、身動ぐとまだ痛むのか顔を歪めた。その様子を見て、島岡は拳銃を構えて囁いた。

 

「・・・少し見てくる」

 

「危険です・・・!」

 

「無理なことはしねぇよ」

 

 島岡はライーサの肩をポンッと叩くと音を立てずに零戦から這い出た。周囲を確認すると拳銃を構えて音がした方向―砂丘を超えた先―に走る。砂丘から慎重に顔を覗かせるとすぐさま引っ込めた。そこには数多くの陸戦型ネウロイが、闊歩していた。

 

「やべぇ。なんでここにいるんだよ」

 

 冷や汗を流して元来た道を戻り、零戦の下に滑り込む。

 

「敵が来た。陸戦型が沢山だ」

 

「動くのは危険です。ここで通り過ぎるのを待ちましょう」

 

「けど、多分奴らが向かってるのはここだぞ」

 

「だけど・・・」

 

 言い争っているうちに足音が近くまで近寄ってきた。身を固くする二人だが、そこで足音とは別の音が聞こえてきた。いつも身近に、そしてよく聞いていたエンジン音。ライーサがいち早く反応した。

 

「メッサーシャルフ・・・!」

 

「やっとかよ!」

 

 島岡は再び飛び出した。ライーサの静止の声が聞こえるが構ってはいられない。こちらの位置を知らせる為に、腰から抜いた発煙筒で狼煙を上げた。これでよし・・・とライーサの方に目を向けると、丁度その時砂丘を超えてネウロイが現れた。

 

 島岡はネウロイを見て、ライーサ見る。ライーサも何が起きたか把握したようで覚悟した目をこちらに向けていた。それを見て・・・島岡は拳銃を抜いた。

 

(ライーサを死なせるわけにはいかねぇよな)

 

「・・・!!!シンス・・・!?」

 

「こっちだ!!!クソネウロイ!!!」

 

 島岡が何をしようとしているか察したライーサが叫ぶが、それを遮るように拳銃を撃ち、大声で叫んだ。それと同時に走り出し零戦から離れる。

 

 パァン・・・!パァン・・・!

 

 断続敵な拳銃の発砲音に誘われるようにネウロイが島岡の方へと動き始めた。

 

(少しでいい!少しでも時間を稼げばライーサは助かる!)

 

 走りながらも拳銃を撃つことは止めない。小さい拳銃弾などネウロイの装甲にとっては小石程度でしかないが、それでも注意は引きつけられる。

 

(もう少しライーサから引き離せれれば・・・。・・・ッ!?)

 

 懸命に走っていた島岡だが、直感的に何かを感じ横っ飛びに身を伏せた。

 

 その瞬間に隣の地面が爆発した。

 

「うおあッ!?!?!?」

 

 島岡は何が起こったかわからないまま為すすべもなく吹き飛ばされ、砂漠をゴロゴロと転がった。衝撃に揉みくちゃにされた身体を無理やり起こして見てみれば、そこには大きな穴が出来て熱によって赤くなっていた。

 

「ハハッ・・・。んだよこの威力・・・やってられねぇよ」

 

 呆けたように座り込む島岡にネウロイが近づく。昆虫のような六本足を動かし、腹に携えた砲塔を向けていた。

 

 島岡はつまらなそうにネウロイを見上げていた。

 

「もう終わりかよ・・・」

 

 ボソリと呟く島岡だが、そこであの音を聞いた。メッサーシュミットのエンジン音。それが段々と大きくなってくる。

 

「・・・ったく。遅すぎだよ・・・親友」

 

 島岡がニヤリと唇を歪めた。

 

 直後

 

 ネウロイを炎の槍が貫いた。

 




この前、おケイさんの扱いががががというコメントがあったので、ヒロインヒロインさせてみました。ルートは確定してません!

つか島岡が主人公しすぎて、神崎涙目

島岡の方が扱いやすいんだもの!しょうがないね!

島岡とライーサの会話、島岡の一人言のところでよくわからなかった人は、第十話、十一話、そして第四話を参照してみてください。

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