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ポーカーフェイスの下で、神崎は困惑していた。
「・・・なぜ、一緒に買い物を?」
お詫びしたいと言ったのは確かに自分だ。しかし神崎としてはマイルズが欲しい物でも買ってそこで別れるつもりだった。だが、彼女の口振りからして自分の考える通りにはならないだろう。マイルズは若干赤面して言った。
「あなたも何かを買いにここに来たのよね?私も買わなければならないものがあるし、一緒に行動するのがいいんじゃないかしら?お詫びはその時でいいから」
普通の男なら二つ返事で了承するだろうが、神崎は違った。困惑はもちろんだが疑いもしていた。今までそんな誘いを受けたこともなかったし、
(自分で言い出したことだが・・・どうしたものか・・・)
考え込んで黙ってしまったのがいけなかっただろう。マイルズが不安そうな顔で神崎を見た。
「その・・・嫌かな?」
マイルズは神崎よりも頭一つ分程低い為、自然と上目使いになる。・・・そんな表情をされては断るなど無理だ。
「・・・分かりました。行きましょう」
「ええ!」
神崎は心の中で嘆息しつつ、嬉しそうなマイルズを連れ添って歩き始めた。・・・島岡には悪いが、釣りには遅れるかもしれない。
「何を買うの?」
「このメモに書かれた物を・・・。少佐は?」
「私は紅茶よ」
「・・・さすが、ブリタニア人ですね」
「そう?あと、敬語じゃなくていいわ。今日は非番なんでしょ?」
「・・・ではお言葉に甘えて」
この前の宴会でも普通に話していたので、特に疑問は持たなかった。
「そういえば、髪型変わった?」
マイルズが神崎の髪を見上げて言う。
「この前の戦闘でちょっと・・・燃えてな」
「燃えたの!?」
あまりに予想外だったのか、マイルズはすっとんきょうな声を上げた。すぐに周りを見て慌てて体裁を整えると無理矢理落ち着いた声で訪ねる。
「あなたも出撃したのね。どこで戦ってたの?」
「すまないが、言えない」
アフリカでの航空戦力は貴重だ。その貴重な戦力に何か問題があると知れ渡れば、士気に関わる。そう判断した司令部は暴走の件に関しては箝口令を敷いたのだ。
「そう、分かったわ」
神崎の言葉でそれとなく察したのか、それ以上詮索しなかった。そうこうしているうちに百貨店に到着した。神崎がメモを広げるとマイルズが興味を持ったのか覗きこんできた。
「塩、胡椒・・・調味料?」
「真美だな。足りなくなったと言ってた」
「ビールジョッキって・・・誰?」
「この前の宴会でマルセイユが割ってたな」
「じゃあ、ハンカチは誰かしら?」
「多分ライーサだろう。フィルムはケイ大・・・さんだろうな」
「ん?なんで言い直したの?」
「あ~・・・」
マイルズの質問に口をつぐませる神崎。
事の起こりは、加東が神崎が
『私達のことは階級無しで呼びなさい』
と言ったのだ。
曰く、
『階級無しの方が緊張感や恐怖心を緩和できると思うのよ。親しみ易くなればなお一層、恐怖症を克服する手助けになると思うし』
軍隊である以上、上官を階級無しで呼ぶのは・・・と、神崎が渋れば、
『何言ってるのよ。玄太郎ぐらいよ。私に階級付けて呼ぶのは。それに、もうマルセイユは上官なのに、既に名前で呼んでるじゃない』
と言われる始末。さらに追い詰めるように、
『ヘタすれば、恐怖症を克服しない限り軍から追い出されるわよ。出来ることは全部するべきだと思うけど?』
と、黒い笑みを浮かべて言われれば了承するしかなかった。しかし、それをマイルズに伝える訳にもいかず、
「色々あってな」
と、言葉を濁すしかなかった。マイルズは面白くなさそうに「ふ~ん」と言っただけで後は特に何も言わなかった。
百貨店で二人は必要な物を買い揃えていく。
真美の調味料は日頃の感謝を込めて少し高級な物を、マルセイユのビールジョッキはまたすぐに割りかねないので安めの物を買った。ライーサのハンカチはマイルズに選んでもらい、加東のフィルムは写真屋の方で買うことにした。マイルズのお詫びには紅茶の代金を持つことになった。彼女が二つの銘柄で悩んでいたのを、時間を気にした神崎が半ば無理矢理払ったのだ。
・・・予想した値段よりも桁が一つ違って密かに冷や汗をかいたのは彼女には秘密である。男には意地があるのだ。
二人は買い物を終えてブリタニア陸軍第八軍団の司令基地へと歩いていた。ちょうど神崎が向かう港と同じ方向だったのだ。
「でね、モンティおじ様はいつも私達を後方に配置するのよ。クリケットのウィケットキーパーみたいに」
つい先程まで世間話だった筈だが、いつの間にかマイルズの愚痴を聞く羽目になっていた。
「クリケットは知らないが・・・野球の捕手みたいなものか?」
「野球?ベースボールのこと?ちょっと違うような気がするけど、大体そんな感じかしら。私達を温存するための配置らしいけど」
「・・・もっと前に出たいと?」
「そう!私達が早く敵と当たれれば、味方の被害も抑えられるし・・・。それにね!」
マイルズはつらつらと日頃の不満をぶちまけ始める。神崎は彼女にいつかの加東と同じような雰囲気を感じていた。彼女も一部隊を率いる隊長だ。やはりこういった風に時々不満を発散しなければやってられないのだろう。
(時々機密事項も話している気がするが・・・大丈夫だよな?)
神崎は人知れず周りを気にしながら、黙って耳を傾けた。
どのくらいそうしていただろうか?いつの間にか二人は基地の検問の前までたどり着いていた。マイルズは検問を通る前に神崎の方に向き直った。
「今日はありがとう」
「気にしないでいい。・・・投げ飛ばして悪かった」
「いいのよ。楽しかったし。じゃあまたね。」
そう言い残してマイルズは検問を通っていった。神崎は彼女が無事に通過するのを確認して、港へと足を向けた。
検問を通過したマイルズが振り返れば、すでに神崎の姿はなかった。
(少しぐらい見送ってくれてもいいのに・・・)
少しムスッとしてしまうマイルズだが、胸に抱えた紅茶の袋が妙に嬉しくて、無意識のうちに顔がほころび、宿舎に向かう彼女の足取りは軽くなっていた。すれ違う兵士が、いつもの凛々しい雰囲気とはかけ離れた姿にギョッとしているが当の本人はまったく気づいていない。
「ただいま~」
宿舎にたどり着いたマイルズが明るい声で扉を開く。
「お、お帰りなさい少佐」
マイルズの声に偶然近くにいた部下の一人が返事をした。彼女の名はソフィ・リーター曹長。眼鏡をかけて金髪をシニヨンにしている彼女は戦場ではマイルズの副官のような立場でもあるが、やはり彼女も他の兵士と同様に、いつもと様子の違うマイルズに若干驚いていた。
「な、なんか機嫌がいいですね。目当ての紅茶は買えましたか?」
「ええ」
そう言ってマイルズは抱えていた袋から紅茶の箱を取り出した。どんな銘柄か気になったのかソフィもいそいそと近づいてくる。
「どんなの買ったんですか・・・って、なんですかこれ!?高級品じゃないですか!?」
「でしょ?神崎さんが買ってくれたのよ」
嬉しそうにマイルズが話す隣で、事態を飲み込めないソフィは首をひねった。
「神崎さん?あの『アフリカ』のですか?」
「そうよ。偶然会ってね」
「へぇ・・・そうですか。どのような経緯で?」
なぜそうなったか興味が湧いたソフィはふと尋ねてみた。
「えっと・・・街道を歩いてたら偶然彼を見つけてね」
「はい」
「で、神崎さんは気づいてなかったから追いかけて」
「ふむふむ」
「追いついたら・・・投げ飛ばされたわ」
「・・・はい?」
その一言で目が点になるソフィ。
(うちの隊長は何してたんだろう・・・)
隊長の行動を理解しかね本気で心配になった部下であった。
島岡が居るであろう港には20分程で到着した。道中、加東から頼まれたフィルムを買うために写真屋に寄った為少し時間がかかってしまい、マイルズとの買い物で既に約束から1時間はオーバーしていた。
(絶対怒ってるだろうな・・・)
その時の為に詫びのレモネードを買ってはいるがどうなることやら・・・。
戦々恐々しながら歩を進めれば、港の外側に面した埠頭の端でそれらしき人影が。躊躇いつつも近づいていくと、丁度後十歩という所でグルンッと島岡が振り向いた。不自然な角度でこちらを睨み付ける島岡の顔に戦慄を覚える神崎。その直後、何か生臭い物が顔にべチャリと衝突した。
「てめぇ、一時間待たせるたぁどういう了見だ?」
島岡の怒りの声に連動するように、ビタンビタンと生臭い物が顔でのたうち回る。
「悪気はなかった」
「あぁ?聞こえねぇな」
「詫びにレモネードを買ってきたが・・・」
「今回は許してやる」
神崎がレモネードの瓶を取り出すやいなや、神崎の顔にぶつけていた生臭い物―釣糸に吊り下がった釣りたての魚―を退ける島岡。神崎はレモネード片手に島岡の隣に座った。
「いや、本当にすまなかった」
「もういい。俺もちょっと街に買い物してたし。」
「そうなのか?何を買ったんだ?」
「教えねぇよ。それより、ほら。これで顔を拭け。生臭くてたまんねぇ」
「・・・お前のせいだろ」
レモネードとタオルを交換する二人。島岡から受け取ったタオルはご丁寧に水で濡らしたおしぼり状態であった。島岡が美味そうにレモネードを飲む隣で、顔を拭う神崎。あらかた汚れを落とし、生臭さを消すと島岡に釣果を聞いた。
「ぼちぼちだな。小さいのは放してるし」
そう言いながら島岡はそばに置いていた生簀を顎で示す。中には十数匹の大ぶりな魚が泳いでいた。
「お前の釣竿も準備してるぞ」
「ああ。すまんな」
神崎は生簀の近くに置いてあった釣竿を掴むと、手早く餌をつけて海に釣り糸を垂らした。
しばしの間、二人は黙ったまま潮風に当たって釣り糸を眺める。
「よっと・・・。でよ?なんで遅れた?」
一匹釣り上げたのを皮切りに、島岡は尋ねた。
「偶然マイルズ少佐に会ってな」
そう言うと島岡がジロリと睨んだ。
「なんだよ。デートかよ」
「違う。ちょっと失礼をしてしまってな。その詫びをしていた」
「だとしても羨ましいね」
そう言いながら島岡は更に一匹魚を釣り上げた。ちなみに神崎には未だに当たりさえきていない。
「つかよ、やっぱり
神崎がマイルズのことを話したせいか島岡がそんなことを言い始めた。下世話な話だが、しかし神崎も男。話すこと自体にはやぶさかではなかった。
「確かに。ハンナやマイルズ少佐を見るとつくづくそう思う」
「だよな~。・・・誰が好み?やっぱ、マルセイユかマイルズ少佐?」
「ハンナは妹みたいな感じだな。元々二人妹いるしな。マイルズ少佐は・・・っと来た」
と、ここで神崎に今日初の当たりがきた。一気にリールを巻き上げるが、魚の姿はなく餌だけ喰われた釣り針だけ。憮然として釣り針に餌をつける神崎に島岡が声をかける。
「当たりがきたからって慌てすぎ。もうちょっと落ち着きな」
「・・・分かった」
釣りは達人に域に達している島岡。神崎は素直にその言葉を受け入れる。再び釣り糸を垂らすと、島岡がさっきの続きを催促してきた。
「で、マイルズ少佐は?」
「そうだな・・・。綺麗だし、可愛いところもあると思うぞ」
「なんだよ。案外よく見てんな。で、付き合いたいとかあるのか?」
「今のところはない」
「なんだよ。つまんねーな」
「じゃあ、お前はどうなんだ?」
自分だけ質問されるのも癪なので、神崎は逆にこちらから質問した。
「いつもの基地での様子を見れば・・・。やっぱりライーサか?」
「あ~、ま~、うん」
島岡が珍しいことに目を逸らして言葉を濁した。
「ライーサは・・・なんかよく分からないだよな」
「ほう?」
「俺たちが勲章貰った戦いの時も、ライーサが励ましてくれたから戦えたもんだ。だけど・・・それが好きなのかどうかはよく分からないんだよ。いままでそんな経験ないし」
「・・・そうか」
「ま、可愛いのは確かだけどな!よく気も利くし!」
島岡は誤魔化すように大きな声でそう言うとは再び魚を釣り上げた。神崎と話している間に既に十匹ほど釣っていた。
「お前の好きなようにすればいい」
「おうよ。で、お前はなんで付き合おうと思わないんだ?」
「それは秘密だ?」
「はぁ?」
「親友にも話せないことがあるんだ」
「なんだそれ」
そう言って二人は自然と笑いあった。
「そういえば、ケイさんと真美は?」
「真美ちゃんは子供じゃないか」
「ケイさんは?」
「ケイさんは・・・俺的にはないかな」
「?十分綺麗だと思うが・・・?」
「だってよ・・・保護者かオカンだろ?あれじゃ」
「・・・否定できないのが辛い」
神崎と島岡のボーイズトーク?Y談?やっぱり二人共男の子だもの。そんな会話はするよね?