ストライクウィッチーズ 一匹の狼   作:長靴伯爵

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というわけで第十七話

今回は日常話ですかね。自分にはギャグのセンスとかないんで笑える話がかけるとは思えなんですけどね(汗 
でも楽しんでいってください

感想、アドバイス、ミスの指摘などよろしくお願いします


第十七話

 

 熱い

 

 

 胸くそ熱い

 

 

 降り注ぐ熱線は衣服を通して肌を少しずつだが確実に焦がし、身体から水分を奪っていく。

 

 

「あつ・・・い・・・」

 

 顎から滴り落ちる汗を拭う。

 

「あつ・・・い・・・!」

 

 汗が目に染みて痛い。

 

「暑い・・・!!」

 

 喉が乾いた。水が欲しい。

 

「暑い!!!」

 

 頭にきた。

 

「暑すぎんだよ!こんちくしょう!!」

 

 島岡は怒りに任せて叫び、手に持っていたスコップを地面に叩きつけた。

 

「喋ってないで手を動かせ」

 

 隣では神崎が黙々とスコップを動かしている。

 太陽は容赦なく二人を照らし続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 アフリカは砂漠。そして、『アフリカ』基地が建っているのも勿論砂漠。風で運ばれる大量の砂が基地の天幕に積もり、埋まってしまうこともある。

 連合軍が防衛戦に勝利してから三日たった。二人は今、雪掻きならぬ砂掻きの真っ最中であった。

 

「暑い暑い暑い!!なんで俺が砂掻き!?こんなのパイロットの仕事じゃないだろ!」

 

 スコップを叩きつけるだけじゃ飽き足らず、掻き出すべき砂の山を蹴りつける島岡。舞い上がった砂が汗で濡れた肌に張り付いているが、それを気にしないほどに苛立っているらしい。

 

「暑いというから暑くなる」

 

 砂にまみれる島岡の隣で、若干髪が短くなった神崎は黙々とスコップを動かし、砂を掬っては手車に落としていた。戦闘での傷は殆どが自身の炎での為か大体は回復しており、加東が撃たれた右腕と身体の一部には包帯は巻いているが問題なく身体を動かしていた。ちなみに、髪が短くなったのは炎で焦げたためだ。

 

「よく言うだろう。心頭滅却すれば火もまた涼しと」

 

「あぁん?何言ってやがる?暑いもんは暑いだろうが!」

 

「だから暑いと言うな。手を動かせよ。そうすれば早く終わって休める」

 

「ちくしょ~。あちぃ~」

 

 島岡は渋々と地面に転がったスコップを拾い上げ、砂の山に突き刺す。だが、口はぶつぶつと動いてるままだ。

 

「つか、ホントになんで砂掻き?」

 

「それはあんた達が飛行停止処分を受けたからでしょ。五日間と一週間」

 

 島岡の疑問にパシャリという効果音と共に答える声があった。二人が振り返ると、そこにはカメラ片手に立っている加東の姿が。

 

「いやいや、おかしいでしょ。ケイさん」

 

「確かにおかしいほど軽い処分よね。玄太郎の処分が、あれだけ暴れて飛行停止一週間だけって」

 

 加東のからかうような目を向けられ、神崎は困ったように頭を掻いた。

 今回の防衛戦で、神崎は独断専行、命令違反、暴走による味方への攻撃などをしでかしていた。状況が状況だった為に、最悪銃殺にも成りかねなかった。だが、その失敗を補うほどの功績があったのも事実だった。神崎の暴走でトブルクに侵攻しようとしたネウロイは数多く撃破されて後退。これがなければ勝てなかったかもしれない。

 

「失態と功績でトントンってことね。よかったわね、玄太郎」

 

「恐縮です」

 

「いやいや!そこじゃないっすよ!そこもおかしいけど!なんで俺まで飛行停止処分くらってんすか!?」

 

 加東と神崎が和んでいる所に、全力で島岡が突っ込む。加東はキョトンとして首を傾げた。

 

「なんでって当然の報いじゃない」

 

「俺、何かやったんすか!?」

 

「玄太郎に関する情報の隠蔽。まぁ、玄太郎の処分の流れから同じ内容になったけど、あなたも相当やばかったのよ?」

 

「・・・マジすか?」

 

 加東の言葉を聞き、島岡は暑さが原因の汗とは別種のものを流し始める。

 

「信介が情報隠蔽してたから玄太郎が暴走して味方に被害が出かけた。でも、信介が情報隠蔽してたから玄太郎が暴走してネウロイを撃退できた。玄太郎と同じでトントンね」

 

「・・・俺は爆撃で中型のネウロイ撃破したりして基地守ったりしたんすけど?」

 

「だから玄太郎より二日短いんじゃない」

 

「・・・さいですか」

 

 肩を落とした島岡がいじけたようにスコップで砂を掬う。神崎は若干同情の目を向け、加東は逆にからかうような目を向けた。

 

「そんなに落ち込まないの。今は自分の仕事をしっかりとしなさい」

 

「そんぐらい分かってますよ。けど、納得はしてないんで、だらだら且つ手ぇ抜くかもしれないすけどね」

 

「あらそう。二人は午後からは休みにしようと思ってたけど、これじゃ休みは玄太郎だけになりそうね」

 

「よし、ゲン。自分達に与えられた仕事は抜かりなく終わらせよう。可及的速やかにな!」

 

「・・・おう」

 

「じゃあ、頑張ってね~」

 

 最後にもう一枚写真を撮って加東は去っていった。島岡はさっきまでの不満はどこにいったのか、一心不乱に砂を掻き出している。

 

「・・・熱いな」

 

 状況に置いていかれ気味の神崎は、一人ポツリと呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「昼飯は食ったか?釣具の準備は?釣った瞬間にさばく包丁の用意は?」

 

「全部大丈夫だ。それよりも、そんな興奮するな。トブルクに到着するまでに事故起こしそうで怖い」

 

 キューベルワーゲンのアクセルを踏みたくてウズウズしている島岡を諌めながら神崎は助手席に乗り込む。

 

 砂掻きに散々文句を垂れていた島岡だが、

「午後から休み=海に行ける=釣り」

 ということでで瞬く間に砂掻きを終え、昼食をかき込み、車を準備していた。神崎も釣りに行くのは久しぶりだったので、気分転換も兼ねて協力するのにはやぶさかじゃなかった。彼の興奮の程には若干引いたが・・・。

 そんな訳で車に乗り込んだ二人だが、出発する直前に助手席の窓を誰かが叩いた。神崎が窓を開けるとそこにはマティルダ。

 

「ケイからの伝言だ。これを買ってきて欲しいと」

 

 そう言って、マティルダはメモ用紙を差し出してきた。神崎が受け取って中を見てみるとそこには買い物リストが。

 

「誰のだ?」

 

「皆のだ。では頼んだ」

 

 用はそれだけらしく、マティルダはさっさと帰ってしまった。

 

「もう出発していいか?」

 

「ああ」

 

「よっしゃあ!行くぜ!」

 

 島岡はアクセルを勢いよく踏み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 しばらくの間砂漠の道をがたがた揺られ、鼻歌を聞きながら、野郎二人はトブルクに到着した。

 

「まずはお使いを済ましてくる」

 

 街道の入り口近くにキューベルワーゲンを停めて、神崎は降りた。神崎の服装はいつもの第二種軍曹ではなく、ラフな私服となっている。

 

「おう。じゃあ、俺は釣り場と餌の確保だな。一時間後に港な」

 

「ああ、分かった」

 

 打ち合わせを終えると、島岡はすぐさまキューベルワーゲンを発進させた。神崎はそれを見送ると街道に向かって歩き始める。平日ではあるが、街道は多くの人で溢れ賑わいを見せていた。一見平和に見える風景。しかし、目を向ければ壁が焦げていたり、窓ガラスが割れ板で補強された建物ある。先日の暴動の傷痕だった。どれだけ暴動が酷かったかがうかがえる。

 

(守るはずの人々から牙を向けられる。・・・やるせないな)

 

 神崎はマティルダから渡された紙を取り出しつつ街道を歩く。

 

(そういえばこの前もここで買い出ししてたな。あの時は・・・ん?)

 

 紙面に目を通して買うものを確認していると、何か違和感を感じた。正確に言えば、自分に向けられる視線。神崎は長い間魔女(ウィッチ)達から色々な意味で視線に晒されていた為か、そういうのに敏感になっていたのだ。

 

(つけられてる?誰が?)

 

 疑問に思いながらも、極力自然に振る舞いながら、懐に手を伸ばす。そこには護身用にと愛用のC96が納められていた。いくら休みだとはいえ、暴動が発生してから余り日が経っていない。もしもの時にと軽く考えていたが、まさか使うことになるとは・・・。

 神崎は紙をポケットにしまうと、少し歩く速度を速めた。一段と混んでいる人混みで歩く人々の間を縫うようにスイスイと歩き、流れるように街道から外れる路地に滑り込む。先には進まず、入り口近くの物陰に隠れながらしばらく待っていると、慌ただしい足音と共に一人の人影が勢いよく入ってきた。その人影が物陰を通りすぎる直前、神崎はいきなり飛び出すと衝突する瞬間に身体を捌き、背負い投げの要領で人影を投げた。この不意討ちに人影は対応できなかった。

 

「キャア!?」

 

 地面に叩きつけられ叫び声を上げる人影。神崎は構わす、拘束するために馬乗りになり、素早く銃を抜き、顔に銃を突き付け・・・そこでやっと相手の顔をまともに見た。

 

「あ」

 

 間抜けな声を出して固まる神崎。そんな彼に相手が困惑したように話しかけた。

 

「神崎・・・さん?」

 

「マイルズ・・・少佐・・・」

 

 マイルズは涙ぐんだ目で神崎を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 街道を歩く人混みの中に彼らはいた。

 砂避け用のローブとスカーフを纏い、不自然ではないように顔を隠した彼らは目標の人物を追う。ローブによって隠された手にはナイフ。襲いかかる機を窺い、ある程度離れた距離を開けていたが、目標がいきなり移動速度を上げた。彼らは目配せし合い一気に距離を詰めるが、一段と混む人混みを抜けた時には目標を完全に見失ってしまった。

 

「チッ・・・」

 

 彼らは舌打ちすると再び人混みの中へ紛れていった。

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 神崎はマイルズと街道を歩いていた。

 

 神崎はマイルズの顔を確認すると、いつものポーカーフェイスはどこにいったのか大慌てで相手の上から飛び退き、地面に膝をつき平身低頭で頭を下げた。

 

『す、すみません!誰かにつけられているとは思ってたのですが、まさか少佐だとは』

 

 神崎は頭を地面に擦り付ける勢いで謝っていたのだが、起き上がったマイルズが慌てて止めに入る。

 

『そ、そんなに謝らないで!びっくりしたけど、私は大したことないから!』

 

『しかし上官に手を上げるなど!』

 

『本当に大丈夫だから!元はと言えば私が原因だし!気にしてないから!』

 

『しかし!――――』

 

 そういった具合で何度も押し問答を繰り返していたのだが、ずっとそうしているのも不毛だと二人は気付き、今は街道を歩いていた。

 

(上官に手を上げるなんて・・・俺は・・・)

 

 神崎はまだ自分の失態を悶々と引きずり、片やマイルズは、

 

(だ、男性にのし掛かれるなんて・・・私・・・)

 

 などと、自分がどんな状況を再認識して人知れず赤くなってたりしていた。因みに銃を突きつけられたことなど、すっかり忘れていた。

 しばらく黙っていた二人だが、神崎がいち早く立ち直った。ずっとこうしている訳にはいかないと、無理矢理思考を切り替えてマイルズに話しかけた。

 

「マイルズ少佐?」

 

「ヒ、ヒャイ!?」

 

「ヒャイ?」

 

 いきなり話しかけられて変な返事をしてしまうマイルズ。神崎は首を捻ったが特につっこまないことにした。

 

「少佐はお時間はありますか?」

 

「じ、時間?」

 

「はい。何か先ほどのお詫びがしたいと思いまして」

 

 神崎は相変わらずの無表情だが、どことなく申し訳なさそうな雰囲気を醸し出していた。

 

「お詫び・・・」

 

「はい」

 

 神崎の申し出に困惑するマイルズだが、何か思いついたのか、パッと表情を明るくした。

 

「じゃあ、私とお買い物しましょう!」

 

 今度は神崎が困惑する番だった。

 

 

 

 

 

 一方、島岡

 

 

「ん?」

 

 何かを感じた島岡は、目線を空へ向けた。特に何もないので首を捻るが、すぐに目線を戻した。今は商談中である。

 

「で、どうするよ?あんちゃん。こっちも商売なんでね」

 

「いや、もう少し安くできるでしょうよ」

 

 港の程近くの釣具屋で餌の購入に手間取っていた。

 

「おっちゃんの餌は質がいいんだけどな。でもちょっと高いんだよ」

 

「そりゃ他の店とは違うからな」

 

 自慢げな店主に島岡は指を指し示す。

 

「そこの海老も一緒に買うから、もうちょっと安く」

 

「じゃあ、こんくらいでどうだ?」

 

 店主は計算機を取り出し、数字を割り出す。だが、島岡はその数字を見て眉をしかめた。

 

「う~ん・・・。もう一声ない?」

 

「あんちゃんも粘るね」

 

 釣りに関して一切妥協しない島岡であった。




釣り行きたいな~

ちょっと書き方を変えてみました。意見があったらどうぞ

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