ストライクウィッチーズ 一匹の狼   作:長靴伯爵

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明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

予定ではもっと早く投稿するはずだったんですが、溜まっていた本を読んでいて書くのが遅れました。
だって、厚いんだもの!すばる姫、最高!俺も幻肢虎欲しい!

と、いうわけで第十六話です

一つの節目となる話になると思います。すこし、不安な部分もありますが・・・

感想、アドバイス、ミスの指摘などよろしく!


第十六話

臨時司令部 マトルー基地

 

 

 

 

 

 予定の時間から少し経過してしまったが、結果的に『アフリカ』は神崎を止めることに成功した。

 地上部隊は遅れてやってきたライーサと稲垣の護衛を受けて進撃を開始した。

 部隊の先頭に立つのは、セシリア・G・マイルズ少佐率いるC中隊とリベリオン陸軍のパットン・ガールズ。

 C中隊、パットン・ガールズは立ち塞がるネウロイを尽く突破し、戦線の再構築に成功した。

 

 その報告を受けると、ロンメルは深い溜息をつきながら座っていた椅子の背を軋ませる。

 

「なんとかなったか・・・」

 

 トブルクの司令部が麻痺、且つ戦線が崩壊したという報告を受けた時はアフリカからの撤退も覚悟したが、結果的に防衛戦に勝利した。状況から考えて、最上級の勝利だろう。ロンメルが窓に目を向けると日が暮れていた。ネウロイの攻撃が始まったのが夜明け前だったから、ちょうど半日程度戦ったのだろう。

 

「将軍、トブルクからモントゴメリー中将、パットン中将が到着しました」

 

「こっちに通してくれ」

 

 従卒からの報告が入り、ロンメルは報告書を読みながら二人を待つ。数枚読み終えた時、ドスドスと野太い足音が響き渡り、誰かが扉を蹴破って現れた。

 

「おう!ロンメル!儂の天使(エンジェル)ちゃん達は無事だろうな!?」

 

「貴様はもう少し静かにできんのか・・・。まぁ、私の陸戦魔女(ウィッチ)達がどうなったのかは気になるがな」

 

 パットンとモントゴメリーが揃って部屋の中に入ってきた。トブルクの暴動は既に終息していたが、基地機能が十分に回復していなかった為、わざわざマトルーに出向いたのだった。ロンメルはタバコを咥えると落ち着き払って言った。

 

「もちろん無事だし、彼女達のおかげで速やかにネウロイを撃退できた。いやはや、彼女達は私の養女にしたいものだな」

 

 年甲斐もなく顔を緩ますロンメルに、パットンは青筋を立てた。

 

「貴様なんぞに儂の天使(エンジェル)ちゃん達は渡さん!!」

 

「私が指揮した方が彼女達のためになると思うが?」

 

「今回も儂が指揮していれば、昼頃にはネウロイを叩き潰しておるわ!!」

 

「ハッ!基地に缶詰だった奴がよく言う」

 

「貴様もネウロイ共々叩き潰してやろうか!?」

 

「よろしい。ならば戦争だ」

 

 バチバチと火花を散らし臨戦態勢を取る二人を、モンドゴメリーは頭痛を押さえるようにこめかみを押しながら見た。

 

「今はそんなことを話す時じゃないだろう。あとロンメル、私の魔女(ウィッチ)は絶対に渡さないからな」

 

 モントゴメリーは、ちゃっかりロンメルに釘を刺しつつ持参した報告書を取り出した。

 

「今回のトブルクでの暴動に関する物だ。私たちもただ基地に缶詰だった訳ではない」

 

 モントゴメリーとパットンは今回の暴動が組織的なものだと考え、秘密裏に諜報部隊を回して探らせていたのだ。

 

「今回の暴動は、戦闘が始まったのと同時多発的に起こり、尚且つ基地機能を効果的に奪うように行動している。そしてこちらがネウロイを撃退した直後に退散した。余りにも戦闘と同調しすぎているとは思わんか?」

 

 モントゴメリーの問いかけにパットンが頷く。

 

「素人の集まりなら戦場の状況を把握できるはずもないしな。それに、送電線の切断ならまだしも基地に予備電源まで破壊できるとは思えん。それに戦場でも幾つかの奇妙な報告もある」

 

 ロンメルは二人の言葉を聞きながら報告書に目を通して言った。

 

「暴動が組織的な物にしろ、素人を誰かが扇動していたにしろ、調べはついたのか?」

 

「目下捜索中だ」

 

「暴動鎮圧と電力復旧が最優先だったからな。流石にそこまでは分からなんだ。だが、目的は儂等を混乱させてネウロイをトブルクに侵攻させることだろうよ」

 

「まぁ、そうだろうな」

 

 だが・・・とモントゴメリーが黒い笑みを浮かべて言った。

 

「敵がどんな奴だったとしても、そいつらの目論見は完全に外れたんだ。ここから、私に泥を塗ったことを存分に後悔させてやる」

 

「流石、英国紳士だ。性格が悪い」

 

 ロンメルの言葉が聞こえないほどモントゴメリーに怒りは凄まじいらしい。黒い笑みを浮かべるモントゴメリーをロンメルとパットン呆れた目で眺めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トブルク某所

 

 夕焼けに沈むトブルク。

 男は裏路地の建物の二階から景色を眺めていた。男が見下ろす大通りには暴動に参加していた民衆がたくさん歩いていた。

 

「作戦は失敗です。『同志』はエジプトに撤退。作戦に従事していた仲間は全員自決しました。」

 

 男の背後に立つスカーフを巻いた男は感情を押し殺した声で告げた。男はしばらく何も言わなかったが、静かに口を開いた。

 

「なぜ失敗した?」

 

「司令部機能を完全に潰しきれなかったようです。しかし、一番の問題は主力部隊が航空魔女(ウィッチ)によって大打撃を受けたことです」

 

「航空戦闘飛行隊『アフリカ』か・・・」

 

「はい」

 

 男は一つ溜息をつき、スカーフを巻いた男に言った。

 

「障害は排除するだけだ。準備しろ」

 

「はい」

 

 スカーフを巻いた男は静かに一礼し部屋から出て行った。

 

「まだだ・・・。まだ終わってない」

 

 部屋にはブツブツと呟く男だけが残った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 統合戦闘飛行隊『アフリカ』基地 

 

 

 

 戦闘が終了した後の基地は、帰還した機体の整備でとても騒がしくなっていた。しかし、隊長用天幕はそんな喧騒から離れ、冷たい雰囲気を醸し出していた。

 

 

 

 隊長用天幕の中。

 加東は椅子に座り、いつもの明るさはなりを潜めて厳しい表情を浮かべていた。その彼女の目の前には島岡が直立不動で立っていた。

 

「・・・説明してもらおうかしら?」

 

「・・・ゲンのことですね?」

 

 島岡の口調もいつもの軽い調子ではなく、真剣なものだった。加東は首を傾げ、更に問いかけた。

 

「何か知ってるんでしょ?」

 

「・・・」

 

 島岡は少し黙り込むと、意を決して話し始めた。

 

「ゲンは魔女(ウィッチ)恐怖症です」

 

 島岡はこのことを話すことを相当悩んだ。

 神崎も何か考えがあって自分とそういう約束をしたのだろうし、この話をするならば必然的に神崎の過去も話すことになる。そして何より親友との約束を反故にしたくなかった。だが・・・

 

 

 

「そういうことだったのね・・・」

 

 加東は、島岡の話を聞きポツリと呟いた。

 

「だから長機になると途端に動きが・・・。あんなに嫌がって・・・」

 

 加東は頭の中で情報を整理するようにブツブツと独り言を言っていたが、すぐに眉を顰め島岡を見た。

 

「なんで、話さなかったの?」

 

「ゲンが自分自身で解決すべき問題だと思ったからです。ゲンもそれを望んでいたので」

 

 島岡は何か思うところがあるのか目を伏せながら話す。その言葉を黙って聞くと、加東は島岡の目の前に立った。

 

「信介」

 

「はい」

 

「歯、食い縛りなさい」

 

 そう言うやいなや、加東は島岡の左頬に強烈な拳を叩き込んだ。

 

――ガッ!!!

 

 天幕に鈍い音が響き、島岡は後ろによろめいて尻餅をついた。唇が切れたらしく、地面に赤い点が滴り落ちる。

 

「立ちなさい。島岡特務少尉」

 

 若干赤く腫れた右手を腰にあてて睨み付ける加東。隊長然とした姿がそこにはあった。島岡は、殴られて直後で混乱する頭で、すぐさま直立不動の姿勢をとる。

 

「あなたは馬鹿じゃないから分かっていると思うけど・・・」

 

 加東は怒鳴り散らすのを必死に抑えるように続けた。

 

「あなたが前もって玄太郎のことを話していれば・・・、今回のような戦いにはならなかった!」

 

 しかし、加東は話しているうちに怒りを抑えることが出来なくなり、島岡の胸ぐらを掴んだ。

 

「確かに玄太郎が暴走したから、今回は勝てたのかもしれない。・・・でも!」

 

 島岡を睨み付ける目には涙が滲んでいた。

 

「一歩間違えれば、玄太郎の炎が地上の味方にまで及んだかもしれない!マルセイユやあなたが死んでたかもしれない!それになにより・・・!」

 

 次第に加東の胸ぐらを掴む手が、声が震え始めた。

 

「玄太郎を撃たずに済んだかもしれないのよ・・・!」

 

 その一言が島岡の胸をズキリと痛ませた。

 

「私は仲間を殺すなんて絶対に嫌!あなたもそうでしょう!?」

 

「だから・・・話しました」

 

 島岡が加東の手を掴みながら軽く睨んだ。。親友の為を思って秘密にしていた結果、部隊に連合軍に大きな影響を与えかけ、親友を死なせかけたのだ。その事実が、島岡に重くのし掛かかっていた。

 

 暫し睨み合う二人だが先に退いたのは加東だった。

 

「・・・そうよね」

 

 パッと手を放すと島岡に背を向ける。暫く立ったままでいたが、突然机にズドンと左拳を叩きつけた。自分を落ち着けるように数回深呼吸をして再び振り返れば、そこにはいつもの加東がいた。申し訳なさそうに、島岡の腫れた頬に手を添える。

 

「ごめんね、信介。殴っちゃって」

 

「こんくらい大丈夫っすよ。それよりもケイさんの右手の方が・・・」

 

「こっちこそ大丈夫よ」

 

 加東が右手を開閉しながら笑う。島岡もそれに釣られて口調を崩して少し笑ったが、すぐに真顔に戻り加東に尋ねた。

 

「ゲンの処分はどうなりますか?」

 

「私の一存じゃ決められない。多分、ロンメル辺りが決めると思うわ。それにこれからのことだって・・・」

 

 加東は、そこまで言うと自分の言葉を打ち消すように、いきなり口調を変えた。

 

「とにかく!まずは玄太郎の所に行くわよ。ちゃんと説教しないとね」

 

「そうすね。俺だけ殴られるのは納得できないっす」

 

「・・・本当は怒ってるでしょ?」

 

「いえ。別に?」

 

 二人が天幕から出ると、ライーサと稲垣が心配そうな表情をして立っていた。

 

「あら?どうしたの?」

 

「どうしたのって、怒鳴り声が聞こえたから何があったか心配して来てみたんです」

 

 稲垣が説明する横で、ライーサが驚いた声を上げた。

 

「島岡さん!左の頬が腫れてますよ!?」

 

「そんな驚くほど酷い?」

 

「唇から血も出てるじゃないですか!?」

 

 ライーサが懐から慌ててハンカチを取りだして、島岡の切れた唇に当てようとするが、島岡は慌てて飛び下がった。

 

「そんな恥ずかしいことしなくていい!こんくらい大丈夫!」

 

「逃げないでください!」

 

 ライーサも躍起になって追いかけ、島岡も意地になって逃げる。そんな二人を見て、加東は稲垣に言った。

 

「ごめんだけど、何か冷やすもの持ってきてくれる?」

 

「あ、はい」

 

 小走りでどこかに向かう稲垣を見送って、加東は嘆息した。

 

 

 

 島岡が濡れた手ぬぐいを受け取ったことで先ほどの騒動は終息した。

 

「で、ゲンはどこに?」

 

 左頬に手ぬぐいを当てながら島岡が尋ねる。

 

「基地の外れにある天幕よ。壊れた零式艦上戦闘脚と一緒に放り込んでおいた」

 

 目が覚めたら暴走したらたまったもんじゃないしね~と加東が言う。その一言で、ライーサと稲垣が若干緊張した雰囲気を纏ったのだが、取り繕うように慌てて続けた。

 

「冗談よ、冗談!本気にしないで」

 

 そんなことを言っていると、格納庫に着いた。入り口には歩哨が二人。口ではああ言っていたが多少は警戒していたのだろう。加東が歩哨を下がらせて格納庫の扉を開いた。

 

「玄太郎、入るわ・・・よ!?!?!?」 

 

 加東の語尾が変なことになり、後ろに居た三人も驚きのあまり絶句した。

 

 四人が見たもの。それは・・・

 

「ウォォオオリャァアア!!」

 

「ガフッ!?!?」

 

 マルセイユが全力のボディブローを神崎に叩き込んだ瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

「アフリカ」基地 倉庫

 

 熱い。 

 

 身体中が焼けるように熱い。

 

 身体がグズグズと崩れていくようだ。

 

 熱い、熱い、熱い熱い熱い熱い熱い。

 

 「・・・・・・熱い」

 

 そう呟きながら、神崎は目を覚ました。

 見慣れない天井に、油の鼻をさすような臭い。自分が居る場所を確認しようと顔を横に向ければ、壊れたストライカーユニットが目に入った。黒ずんではいるが、白い塗装がであるのが分かる。

 

「零式・・・!?」 

 

 掛けられた毛布をはねのけ急いで立ち上がろうとするが、身体中に鋭い痛みがはしった。

 

「ツッ!?なんだこれ・・・」

 

 上半身の至るところに白い包帯が巻かれている自分の身体と両手につけられた手錠に眉をひそめた。ズボンの下にも包帯が巻かれているのが分かる。なぜ自分がこのような状態なのかさっぱりだったが、まずは自分の愛機へ駆け寄ることを優先した。

 

 零式艦上戦闘脚は形状こそは留めているものの、内側から爆発したらしく、外装が捲れ上がり、内部もズタズタになっていた。

 

「なんでこんなことに・・・」

 

「大丈夫か?ゲンタロー?」

 

 呆然と愛機の残骸を見下ろしていたが、背後から聞こえた声に振り向いた。

 

「ハンナ」

 

「大丈夫そうだな」

 

 頬に絆創膏を貼り付けたマルセイユが軽く微笑む。

 

「ハンナ。一体何があった?」

 

「!・・・覚えてないのか?」

 

 マルセイユは怒りと悲しみが入り雑じった表情となって、自分の頬の絆創膏を撫でた。神崎は、その様子に嫌な予感を感じ、恐る恐る尋ねた。

 

「それは・・・俺がやった・・・のか?」

 

「・・・ああ」

 

 身体中の包帯、破壊された零式艦上戦闘脚、手錠、そしてマルセイユの返事。神崎はこれらのことと、自分の記憶を辿り考えた。

 稲垣に離れるようにと命令し、一人で戦って、そしてマルセイユが来て・・・。

 

「ゲンタローは暴走状態になったんだ」

 

 その一言で神崎は理解した。自分は魔女(ウィッチ)への恐怖のあまり発狂してしまったのだと。この体の傷は発狂に伴って魔力も暴走したツケだろう。

 

「最悪だ・・・」

 

 神崎は自分のしでかした罪の大きさと失望でへたりこんでしまった。

 戦闘中に暴走状態に陥り、仲間に攻撃するなど軍法会議にかけられてもおかしくないし、それ以前に撃墜されても文句が言えない。

 

 それに・・・仲間を傷つけるなど、自分を撃った魔女(ウィッチ)と同じではないか。

 

「結果を見れば誰も死んではいないし、作戦は成功したんだ」

 

「だが、お前たちに攻撃したのには変わりない。すまなかった。本当にすまなかった」

 

「私はそんなに気にしてないぞ。だからゲンタローも・・・」

 

 へたりこんだ神崎を気遣って、手を差しのべるマルセイユだが、その手が近づくと神崎は怯えるようにビクリと震え、直後にマルセイユの手を払いのけた。

 

「な!?」

 

「ッ!?・・・すまない」

 

 払われた手を擦るマルセイユに、神崎は気まずそうに目を逸らして謝る。怒るだろうと思い黙ったままでいたが、マルセイユは逆に心配そうな声で言った。

 

「そんなに・・・私が怖いのか?」

 

「!?」

 

 予想外の一言に神崎は驚いて顔を上げた。その目に映るのは、今まで見たことのないマルセイユの真剣な顔。

 

「私が・・・魔女(ウィッチ)が怖いのか?」

 

「・・・・・・ああ」

 

 神崎は素直に肯定した。嘘をつけばまた彼女を仲間を傷つけることになる、そう感じたのだ。これ以上、魔女(ウィッチ)とは言え、仲間を傷つけたくない。

 

「俺は・・・魔女(ウィッチ)が怖いんだ」

 

「なんで、そうなったんだ?よかったら私に話してくれ」

 

 マルセイユが座り、神崎の目線と同じ高さとなる。彼女の目は全てを受け止めるような強い眼差しを持っていた。その目を見ると、神崎はあの―背後から二番機に撃たれた―事件を含めた今まで経験してきたことを魔女(ウィッチ)から受けてきたことをポツリポツリと話し始めた。

 

 神崎はまるで今まで溜まった膿を吐き出すかのように話し続け、マルセイユは黙ってそれを聞いていた。

 どのくらい経っただろうか?やがて話は終わった。

 

「これで全部だ。すまない、聞いて気持ちのいいものでもないのに」

 

「・・・」

 

 神崎は静かに頭を下げたが、マルセイユは何も答えなかった。神崎はずっと頭を下げたままだったが、マルセイユの言葉に戸惑うことになる。

 

「ゲンタロー、立て」

 

「?ああ、分かった」

 

 頭を上げて立ち上がると、マルセイユはつい先程とは打って変わった怒った表情をしていた。

 

「ハ、ハンナ?」

 

「動くなよ」

 

 混乱する神崎にドスの効いた声で脅しつつ、マルセイユは拳を構えた。そして・・・

 

「ウォォオオリャァアア!!」

 

「ガフッ!?!?」

 

 マルセイユのボディブローが炸裂し、神崎は肺に溜まった息を吐き出しながら、くの字に折れ曲がった。

 

 

 

 

 

「ちょっ、ちょっと、ちょっと!?マルセイユ、あなた何してるのよ!?玄太郎は一応病人よ!?」

 

 ピクピクッと痙攣して突っ伏している神崎に加東が慌てて駆け寄った。いきなりの光景に呆気にとられていた島岡、ライーサ、稲垣も加東の声で我に帰り、ぞろぞろと倉庫の中に入る。しかし、マルセイユは彼らには目もくれず、神崎だけを睨んでいた。

 

「ゲンタロー。なんで私が殴ったかわかるか?」

 

「・・・それは」

 

 神崎は口を開こうとして、チラリと加東を見た。それを横から見ていた島岡が言う。

 

「ケイさんはお前が魔女(ウィッチ)恐怖症だということ知ってるよ。俺が喋った。スマン」

 

 ペコリと頭を下げる島岡を、神崎が咎めるように睨む。しかし、そこに加東が割り込んだ。

 

「私が無理矢理喋らしたの。殴ってね」

 

「・・・そうですか」

 

「話の続きだ。ゲンタロー、なんでか分かるか?」

 

 神崎は躊躇いながら言った。

 

「俺が魔女(ウィッチ)恐怖症だと言うことを黙っていたからか?」

 

「それもあるが違う」

 

「シンだけにこのことを打ち明けていたことか?」

 

「それも腹立たしいが違う」

 

「・・・分からん。何なんだ?」

 

「それはな・・・」

 

 マルセイユはズカズカと神崎に近づくと胸ぐらを掴み上げた。

 

「私を、そして私達を、ゲンタローを貶めたような低俗な奴らと同列にしたことだ!」

 

 呆気にとられる神崎に叩きつけるようにマルセイユは続ける。

 

「私は誰だ!言ってみろ!ゲンタロー!」

 

「ハ、ハンナ・ユスティーナ・マルセイユ中尉」

 

「なら、こっちは!」

 

 マルセイユは神崎の顔をを加東の方に向けた。

 

「加東圭子大尉」

 

「こっちは!」

 

「ライーサ・ペットゲン少尉」

 

「こっち!」

 

「稲垣真美軍曹」

 

 魔女(ウィッチ)全員に神崎の顔を向かせると再び睨み付けた。

 

「私達はゲンタローを貶めた奴らと同じなのか?」

 

「!?」

 

「どうなんだ!!」

 

「・・・違う。違うに決まってるだろう」

 

「なら、私達を怖がる理由はない!私達はそんな奴らとは違うんだ!」

 

 マルセイユは掴み上げていた手を離すと、神崎を見下ろして自信満々に言い放った。

 

「私達自身を信用しろ。魔女(ウィッチ)としてじゃなくて、私達自身を(・・・・・)!」

 

 神崎は思った。馬鹿らしい。そんな簡単なことで解決するはずがない・・・と。だが・・・。

 

「そのくらい出来るだろう?」

 

 ニヤリと笑うマルセイユが差し出す手を神崎は掴んだ。

 

 そんな簡単に魔女(ウィッチ)恐怖症が治る訳が無い。しかし、彼女の言葉を聞いているとそんなことを考えることが馬鹿らしい、そんな気分になった。彼女の言葉を信じれば乗り越えることができるかもしれない。そう思えた。

 

「頑張る。いつか克服する」

 

「当たり前だ。私達の仲間なんだからな」

 

 マルセイユはそう言いながら神崎を引き起こした。ジャラリと手錠が鳴るが、それを加東が何処からともなく取り出した鍵で外す。

 

「もうこれは必要ないわね」

 

「ケイ大尉、迷惑をおかけしました」

 

「本当よ。一発殴ろうかと思ったけど、マルセイユがもうやったから勘弁してあげる」

 

 神崎の謝罪に加東がいつものように軽く応える。

 

「皆も。迷惑をかけた。すまなかった」

 

 神崎は島岡にライーサに稲垣に深々と頭を下げた。

 

「もう馴れたし、気にすんな」

 

「私も気にしてませんよ」

 

「いつもは私が迷惑かけてばかりなので・・・」

 

 三者三様の返事。神崎は顔を上げると小さく微笑んだ。

 

 

 この日、神崎は本当の意味で『アフリカ』に所属することとなった。

 




あれでいいのか三将軍!?でも、原作でもあんな感じなんですよね、大体

さて、ここで神崎はターニングポイントを迎えた感じです。次はどうなっていくかは、まだ大雑把にしか決めてませんが、楽しみにしていてくれたら幸いです。

ではまたノシ

第一話と第八話を読んだらいいかもしれません。よければどうぞ

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