ストライクウィッチーズ 一匹の狼   作:長靴伯爵

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年末最後の更新ですね。

皆さん、今年一年お疲れ様でした。

来年も頑張りましょう。
私も頑張って書いていきます!!

感想、アドバイス、ミスの指摘などよろしくお願いします。

※急いで投稿したので、少し読みづらい部分があると思いますが、すぐに訂正するのでご容赦を


第十五話

 

 最初は何が起こったのか分からなかった。

 

 

「ゲンタロー!助けに来たぞ!」

 

 多数の航空型に囲まれていた神崎。マルセイユが見た時、彼の後ろに動きの速いケリドーンが回り込むのが見えた。素早くMG34を構えて叫んだ。

 

「後ろにいるぞ!動け!」

 

 しかし、神崎は呆けたようにこちらを見るだけで動かなかった。焦ったマルセイユは、神崎が当たらないギリギリのところでケリドーンに狙いをつけた。この照準が出来るのは、マルセイユの固有魔法「偏差射撃」の恩恵である。

 

「ゲンタロー・・・!」

 

 後ろの敵を狙っているとはいえ、味方が射線にいるのは辛い。それでも、マルセイユは眉を顰めながら引き金に指をかけた。

 

 その時だった。

 

 

「来るなぁぁぁぁぁぁああああああああああああ!!!」

 

 

「!?」

 

 戦場に響き渡る神崎の絶叫。それに伴って神崎の周りに魔力が渦巻く。渦巻いた魔力はマルセイユにも感じる程の熱を帯び始め、そして・・・

 

 

爆発した。

 

 

 正確には全方位に炎が放たれた。ただその勢いが凄まじく、まるで爆発したように見えただけだ。

 

「な!?ゲンタロー!?」

 

 全方位に放たれた炎、敵味方関係なく襲い掛かった。マルセイユは泡を食って炎を避けたが、神崎を狙っていたケリドーンを含めて、多数の航空型ネウロイが、そして地上の陸戦型ネウロイが炎に喰われ撃墜または破壊された。

 不幸中の幸いは味方の地上部隊は、陸戦型に攻め込まれ大きく後退していたために、この炎に巻き込まれなかったことだろう。

 

「何するんだ!?」

 

 マルセイユは怒って神崎に叫んだ。しかし、マルセイユが神崎に近づいて彼の表情を見た時、怒りは消え去って、代わりに驚きが生まれた。

 

 

「来るな来るな来るな来るなくるなくるなくルナクルナクルナクルナ・・・・!!」

 

 

 恐怖で顔を凍りつかせ、目から涙を流す神崎。何かを追い払うかのように炎を放ち続けている。

 

 

 いつもの姿とは余りにもかけ離れている神崎の姿。マルセイユは自分の目が信じられなかった。

 

「玄太郎!?マルセイユ、一体何があったの!?」

 

 遅れて到着した加東が神崎の姿を見て驚きの声をあげるが、そんなことはマルセイユにも分からなかった。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マトルー基地

 

 

 

 防衛任務を終えたライーサと島岡は、臨時司令部となったマトルー基地で補給を受けていた。

 ストライカーユニットと零戦が簡単な整備を受けている間、二人は滑走路の脇で軽食を摂る。戦闘飛行には多くの体力を使うのは、魔女(ウィッチ)もパイロットも同じ。栄養補給は大切である。

 そんな訳で、ボリボリと乾パンをかじっていた島岡だが、整備員がざわついているのに気付いた。

 

「ん?なんかあったのか?」

 

「真美が帰ってきたみたいですね」

 

 島岡の呟きにライーサが答えた。見ればライーサは頭から鳥の羽を出し、滑走路に繋がる空を見つめている。島岡も目はいいはずだが、何も見えない。

 

「魔力で強化してますからね。普通は見えませんよ」

 

「なにそれ、ずりぃ」

 

 そう言いながらも島岡は何か違和感を感じた。

 

「真美ちゃんだけ?ゲンはいねぇのか?」

 

「そうみたいです」

 

 島岡でもやっと見える距離まで近づいてきたが、やはり稲垣一人だけだった。二機編隊を組んでいたなら一緒に帰ってくるはずだが・・・。

 

「ゲンが落とされたわけねぇしな~」

 

「そこに疑問はないんですね」

 

 二人が早足でストライカーユニットを止めるケージに向かうと、ちょうど稲垣が着陸してこちらに近づいてきた。

 

「真美、お疲れ様」

 

「一人?」

 

 ユニットをケージに固定し、ケージから降りた稲垣にライーサと島岡が声をかけた。

 

「はい。弾が切れてしまって。神崎さんは残っています」

 

「一人で戦ってるのか?」

 

「ケイさんとマルセイユさんがすぐに向かうって言ってました」

 

「ならよかった。ありがとな」

 

 島岡がそういうと、稲垣が表情を暗くした。それにライーサが気付いた。

 

「?真美、どうしたの?」

 

「・・・神崎さん、何か様子がおかしかったです」

 

「おかしい?」

 

 ライーサが首を傾げ、島岡の方を見ると彼は眉をひそめていた。

 

「どんな様子だったの?」

 

「最初は普通だったんですけど、戦闘の途中から何か呼吸が荒くなり始めて、取り乱したような感じに・・・」

 

 その様子を思い出したのか、稲垣の声が段々と小さくなっていく。神崎の様子を聞いた島岡は、まさか・・・と呟き、稲垣に更に尋ねた。

 

「真美ちゃん、射撃の時はどこに居た?」

 

「二番機位置ですけど・・・」

 

 二番機位置つまりは背後である。その一言を聞いた島岡の顔色が変わった。

 

「やべぇじゃねぇか・・・!」

 

 島岡は血相を代えて踵を返すと、二人をおいて零戦に向かって走った。

 

「島岡さん!?」

 

 ライーサが驚いて島岡を呼ぶが、まったく反応しなかった。島岡は零戦につくと、整備兵に声をかけた。

 

「整備は終わったか!?」

 

「はい。一通りの整備と燃料補給は・・・って何乗ってるんですか!?」

 

 島岡は、整備兵の言葉を聞きつつコックピットに滑り込んだ。エンジンを始動しようとする島岡を慌てて整備兵が止めに入る。

 

「待って下さい!まだ弾薬補給が・・・」

 

「飛べればいい!さっさとどけって!」

 

「離陸許可が出てませんよ!」

 

「んなの待ってられっか!」

 

 島岡と整備兵が押し問答を繰り返すなか、ライーサと稲垣が追いついた。

 

「島岡さん、どうしたんですか!?」

 

「はやくしないと、ゲンがやばいことになる!」

 

「やばいことって・・・」

 

『みんな、聞こえる!?』

 

 ライーサが何か言おうとしたが、零戦の無線から聞こえた加東の声に遮られてしまった。ライーサと稲垣は耳につけてあるインカムに集中し、島岡はそのまま無線のマイクを取った。

 

「ゲンに何かあったんすか!?」

 

『信介!?・・・ええ。玄太郎が暴走状態になったわ。はやく抑えないと、味方にも被害が・・・』

 

「すぐに向かいます!」

 

 島岡は無線を切ると、エンジンを始動した。

 

「そういうわけだからどいたどいた!」

 

「弾薬の補給はほとんど済んでませんからね!気をつけてくださいよ!」

 

 整備兵が離れるのを確認してエンジンの回転数を上げていく。

 

「私たちもすぐに飛びます!」

 

「おう!先に行ってるぞ!」

 

 エンジン音に負けない声で島岡はライーサに声をかけると、滑走路まで機体を移動させる。そして、そのまま回転数を最大まで上げ離陸した。

 

(まさかこんなことになるなんてな)

 

 神崎のことを話しとくべきだった・・・と後悔する島岡。だが、なんとかするしかない。島岡は気持ちを切り替えようとした時、ふと思った。

 

「あれ?俺、具体的に何すりゃいいんだ?弾もねぇのに」

 

 神崎のところに飛ぶのに頭が一杯で、具体的なことを全く考えてなかった島岡だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『アフリカ』の面々と連絡を取った加東は、今度はロンメルと連絡を取っていた。

 

『・・・そうか』

 

 説明を受けたロンメルが重々しく呟いた。

 

「私で玄太郎を止めるわ。その間は地上部隊を前進させないで」

 

『残念だがそれはできない』

 

 加東の要請をロンメルがあっさりと切り捨てた。

 

『エジプトでネウロイの更なる動きが確認された。ここで前進を止めれば戦線を押し戻すことができなくなる』

 

「じゃあ、玄太郎を撃墜しろとでも!?」

 

『そうだ』

 

 つまりは「殺せ」ということだ。ロンメルの口調は断固としたもので、それに加東は激怒した。

 

「地上部隊が壊滅しなかったのは紛いなりにも玄太郎のお陰でしょ!?その分の時間くらいよこしなさいよ!!」

 

 事実、先程の爆発的な炎により、侵攻してきたネウロイは後退してしまっている。

 

『・・・』

 

 加東が鼻息荒く怒鳴るが、ロンメルは押し黙ったまま。何も言わないのに痺れを切らして再び怒鳴ろうとした時、やっとロンメルが口を開いた。

 

『進撃を止めることはない。一人の為にアフリカを失うわけにはいかん』

 

「な・・・!?」

 

『だが・・・』

 

 加東が怒鳴るのを遮るように、ロンメルは続けた。

 

『モンティとパットンの計らいでC中隊とパットンガールズが増援としてくる。彼女達が到着するまで10分かかる』

 

「じゃあ・・・」

 

『10分でなんとかしてくれ。それ以上かかるなら・・・神崎少尉を撃墜しろ』

 

「・・・分かったわ。ありがとう」

 

 あの状態を神崎を10分で抑えられるとは思えないが、これがロンメルの、軍全体を指揮する者としての最大限の譲歩なのだろう。それを感じ、加東はそれ以上は何も言わなかった。無線を切ると、加東は炎を出し続ける神崎を見る。

 

「マルセイユ」

 

「ああ」

 

 加東の横にマルセイユが並んだ。彼女のユニットからは増槽が外され、いつもの身軽な姿になっている。

 

「私がゲンタローに近づいて正気に戻せばいいんだな?」

 

「ええ。タイムリミットは10分。それまでに出来なければ・・・」

 

「撃墜・・・か?」

 

「・・・そうよ」

 

 ふぅ・・・とマルセイユが溜め息をつき、厳しい目つきで一言呟いた。

 

「ゲンタローを死なせはしない」

 

 そう言うやいなや、マルセイユは一気に加速して行った。加東はそれを見送ると、自身も行動を起こした。

 

 

 

 

 

 

 

「ゲンタロー!!」

 

 そう叫んでマルセイユは突進した。撃墜する気は更々なく、銃は背負ったまま。だが、数多の炎が彼女の行く手を阻んだ。

 

「邪魔だ!」

 

 スロットルの出力を激しく変化させて、襲いかかる炎をすり抜けるように避け、神崎に肉薄していく。こちらの急接近に神崎も気付くが、マルセイユのトリッキーな動きについていけず、すぐに回り込めた。

 

「ゲンタロー、落ち着け!私はハンナだ!敵じゃない!」

 

 マルセイユは後ろから抱きつくようにして神崎を抑え込もうとした。神崎を取り巻く炎で自身が傷つかないように魔力で守りながら。しかし、そう簡単に上手くいかない。

 

「―――!!!」

 

「!!熱ッ!?」

 

 神崎が声にならない悲鳴を上げたかと思うと、神崎を取り巻く炎の熱が一気に上昇した。魔力での防御で防ぎきれない熱がマルセイユに襲いかかり、堪らず神崎から離れてしまう。そこに暴走した神崎が声にならない悲鳴をあげて炎羅(えんら)で斬りかかった。

 

「―――!!」

 

「!!」

 

 マルセイユが頭を引いたその一瞬後に、炎羅(えんら)の切っ先が通過し、マルセイユの頬をうっすらと切り裂いた。さらに、神崎の纏う炎によってジリジリと体を炙られていく。慌ててマルセイユは距離を取ろうとするが、神崎は距離を詰め、斬撃を繰り出し続けた。

 

「やめろ!やめてくれ!」

 

「――!!――!!」

 

 マルセイユは斬撃を避けながらも必死に呼び掛けるが、神崎は一向に正気に戻らなかった。むしろ、彼女が呼び掛けるごとに神崎の太刀筋のキレが増し、炎の熱が上昇し、そして泣き叫ぶ声が大きくなる。

 

「ゲンタロー・・・!」

 

 マルセイユは泣きそうな声で神崎を呼び続けた。神崎の姿は、真っ白の第二種軍装は自身の炎によって焼かれて黒くなっており、また、その火は服だけでなく神崎の体も焼いているのだろう、焦げ臭い匂いには人肉の焼ける臭さも混じっていた。ついさっきまで、お互いの命を預け合う仲間が、兄のように接してくれた人が、そんな状態で自分に襲いかかってくるのだ。

 14歳の少女には過酷すぎる。

 涙目のマルセイユが、神崎の斬撃を全力のシールドで受け止めた。

 

「玄太郎!!」

 

「!!」

 

 斬撃を受け止められて一瞬動きを止めた神崎に、直上から急降下してきた加東が八九式機関銃甲の銃床を叩きつけた。これで気絶してくれれば・・・と願うが、そう上手くはいかない。加東がゾワリと悪寒を感じるのと、マルセイユが叫んだのはほぼ同時だった。

 

「離れろ!ケイ!」

 

「ッ!?」

 

 二人がバッと離れたのから一瞬遅れて、二人を追い払うように神崎の体から炎が噴出した。

 

「―――――!!!」

 

 悲鳴を上げ、身を焦がしながらも炎を出し続ける神崎。彼を見て、マルセイユは呆然として呟いた。

 

「なんで・・・そんなになってまで・・・」

 

「分からない。分からないけど・・・時間がないわ」

 

 もう一刻の猶予もない。加東は最悪の事態を考え、薬室に弾丸を送り込んだ。

 

「手心加えるのは無理よ。本気でいかないと自分達がやられてしまう」

 

「・・・ああ。そうだな」

 

 そう答えるマルセイユだが、銃は構えなかった。弱気になる自分を奮い立たせるように言う。

 

「私は撃たない。ゲンタローを止めるんだ」

 

「・・・いいわ」

 

 加東は懐中時計で時間を確認した

 

「残り5分よ。もし間に合わないようなら、私が奇襲をかけて玄太郎を撃墜する。いいわね?」

 

 マルセイユは頷いて、再び神崎に向かって飛んでいった。

 

(玄太郎を殺すしかないなら・・・マルセイユにはやらせない。私がやる)

 

 それが隊長としての責任だから・・・と加東は冷たい決意を固めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゲンタローを死なせたくない。

 

 加東とは正反対の思いを胸に、マルセイユは飛んでいた。

 

 最初、神崎に対する評価は軽かった。

 子供が玩具を貰った感覚に近かったのだろう。特異な彼の存在がただ楽しかった。だが、自分が楽しかった故に彼の気持ちを考えていなかった。

 酒を騙して飲ませた時、彼に怒りをぶつけられてとてもショックを受けた。彼を怒らしたこともだが、自分がそこまで酷いことをしたことにだ。

 だが、神崎は自分を許してくれて、そして優しく接してくれた。それ以降、彼と接している時は楽しさに加えて安心感も生まれた。おそらく、自分は彼を兄のように思っていたのかもしれない。

 

 だから・・・

 

「ゲンタロー!!目を醒ましてくれ!!」

 

 マルセイユは神崎から噴き出す炎の熱を防ぎ、必死に叫ぶ。しかし、その声は届かない。

 

「―――――――!!!」

 

「ゲンタロー!」

 

 神崎の叫び声とともに、マルセイユに向け炎が襲いかかる。それは今までの数の比ではなく、回避するマルセイユの表情も凍りつく。

 だが、途中何発かの炎が爆発した。

 

『すまねぇ!遅れた!』

 

 島岡が駆る零戦がやっと到着し、マルセイユに追いすがる炎を次々と撃ち落としていく。

 

「シンスケ!助かったぞ!」

 

『ああ。だが、ゲンが・・・』

 

「ああ。早くしないとゲンを撃墜しなければならなくなる」

 

『最悪じゃねぇか!!』

 

「だから、協力してくれ!」

 

『当たり前だが、俺に何ができる?言っとくが補給中断して飛んできたから、弾もほとんどねぇぞ』

 

「ゲンタローに呼び掛けるんだ!」

 

『分かった!任せろ!』

 

 そう言うと二人は、再び襲いかかる炎を掻い潜って神崎に近づく。さすが操縦技術に卓越した二人といったところだろう。

 

『ゲン!なにやってんだ!!』

 

「!?!?」

 

 島岡の声が聞こえたせいか、神崎が急に混乱したような動きを見せた。それにマルセイユが感ずく。

 

「反応した!このままいけばなんとか・・・!」

 

『・・・時間よ。玄太郎を撃墜する。』

 

 加東が冷たい声で嬉しそうなマルセイユの声を遮った。

 

「ケイ!手がかりが見つかったんだ!?」

 

『ケイさん!少しでいいんで時間を・・・』

 

『ダメよ』

 

 二人の必死な言葉を、加東は一言で切り捨てた。

 

『一人の為にアフリカを渡すわけにはいかないの。・・・恨むなら私を恨みなさい』

 

「やめろ!!!」 

 

 マルセイユの叫び声も虚しく、遥か上空から銃声が響き渡った。

 

 

 

 マルセイユと島岡が神崎に呼びかけていた丁度その時、加東は三人よりも高い上空で銃を構え待機していた。

 加東の特技は中距離での見越し射撃。扶桑海事変もこの特技で生き抜いてきた。今は魔力減衰も始まって当時のような芸当はできないが、正気を失って戦闘機動ができない神崎を撃つなど造作もない。

 

「玄太郎・・・ごめんなさい」

 

 小さく、本当に小さく呟いて加東は八九式機関銃甲の引き金を引いた。吐き出された7.7mm弾が神崎を貫き、神崎は錐揉みして落ちていく。

 マルセイユと島岡が何か叫んでいたが、加東の耳には届かなかった。

 

「ごめんなさい・・・。ごめ・・・!?」

 

 か細い声で加東が呟くが、突如神崎が墜落の途中で止まったことに息を飲んだ。確かに撃ち抜いたはず・・・と、双眼鏡を取り出して神崎を見てみると、右腕から血を流しているがそれだけだった。

 右手に持っていた炎羅(えんら)は右腕を撃たれたことで取り落としたのだろう。

 

(まさかギリギリで避けたの!?)

 

 双眼鏡を通して加東と神崎の目が合う。ゾワリと悪寒を感じて双眼鏡から顔を離すのと、神崎の炎が襲いかかってくるのは同時だった。シールドが使えない加東にとって、炎が近づくだけで相当危険だ。加東は素早く銃を構えて炎を撃ち落としていくが、撃ち落とした時の爆炎で視界が悪くなってしまった。加東に向け、島岡から注意が飛ぶ。

 

『ケイさん!ゲンがそっちに向かってる!』

 

『気をつけろ!援護する!』

 

「分かっ・・・!?」

 

 返事をしようと気を散らしたのが裏目にでた。加東の一瞬の隙を突くように、爆炎から神崎が飛び出して左腕で加東の首を掴んだ。

 

「―――!!」

 

「ングッ!?」

 

 神崎は力任せに加東を振り回し、勢いをつけて放り投げた。

 首を掴まれ振り回された加東は、若干朦朧としており、まともに動けなかった。神崎はそこを狙い、莫大な魔力を発しながら炎を放つべく構えた。

 

『やめろ!!!』

 

「――!?」

 

 突然の島岡の乱入。島岡は神崎の間近になけなしの7.7mm機銃を発砲して注意を引きつけた。それに合わせてマルセイユが朦朧とした加東のフォローに入る。

 

「大丈夫か!?」

 

「ゴホッゴホッ・・・。ええ、なんとか・・・」

 

 加東は首を押さえて苦しそうにしていたが、大丈夫そうだった。時折、咳込みながらも神崎に厳しい目を向ける。神崎は先ほどよりも更に高い魔力を発していた。

 

『やばい・・・!ケイさん!マルセイユ!逃げろ!!』

 

「クッ!?」

 

「マルセイユ!先に!」

 

 まだ満足に動けない加東と彼女を庇うマルセイユ。そんな二人に神崎は容赦なく狙いを定める。

 

「――――!?!?」

 

 神崎は叫び声をあげ、炎に込める魔力を上げて、構えた。そして・・・

 

 

 爆発した。

 

 

 先程のような炎を放ったわけではない。

 神崎のストライカーユニットと炎が爆発したのだ。ユニットの推進力を失い、爆発の直撃を受けた神崎は体ピクリとも動かさずに落ちていく。

 いきなりのことで呆然とした三人だが、いち早く島岡が我に返った。

 

『マルセイユ!頼む!!』

 

「!!」

 

 島岡の声を受けたマルセイユは矢のように飛び、気絶して落ち続ける神崎を抱き抱えた。神崎の焼き爛れた体の傷と、焦げた匂いに思わず顔をしかめる。

 

「なんでこんなになってまで・・・」

 

 寂しげな表情で神崎を見たが、気を失っている彼が答えるはずもなかった。

 




実はもう少し書きたかったんですが、予想以上に戦闘シーンが長引いてしまったり・・・(^_^;)


できるだけ早く続きは書こうと思います。

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