ってなわけで第十四話です。今回はなかなか難しかったです。読みにくかったらゴメンネ!
感想、アドバイス、ミスの指摘などよろしくお願いします。
ロンメル将軍がアフリカ基地と連絡を取った頃。ライーサ、島岡は戦闘空域に到着していた。連合軍の基地に陸戦ネウロイが殺到しており、基地からも砲火が上がっているのだが、押し返せずにいた。
島岡は他のネウロイより幾分大きく、
「ライーサ。中型に急降下の爆撃で不意討ちをかける。雑魚の露払いを頼んだ」
「
「おう。よろしくな」
戦車の上面装甲は他の部分に比べて薄くなっている。それはネウロイでも同じことで、そこを狙えばいくら中型ネウロイでもひとたまりもない。所謂トップアタックと言うものだ。本来、急降下爆撃はスツーカのような爆撃機で行うものであり、零戦では普通行わない。
しかし、緩降下爆撃では中型に早いうちから察知される可能性が高くなるため、無理をしてでも急降下で爆撃を行う必要があった。
島岡はコックピットから隣を飛んでいるライーサに目線を送ると操縦桿を押した。機首が下がるのと同時に内臓がひっくり返るようなマイナスGがかかり、飛行速度は一気に加速、ついで操縦桿も重くなる。チラリと横を見れば、ライーサはピッタリとついてきていた。まっすぐ前を見つめ、MG34を構えるその姿は本当に・・・
(・・・かっこいいな)
変なテンションになってるなこりゃと自覚しながらも、島岡は爆撃に集中した。中型の周りにいる
すでに島岡は中型しか見ていなかった。接近した際に、
(ここだ!)
当たると確信するタイミングで島岡は爆弾を投下する。機体がフッと軽くなり、放たれた60kg爆弾二発が中型に吸い込まれていく。
重く激しい爆発音が空気を震わせた。
60kg爆弾の爆炎は中型の上部装甲を食い破り、そのままコアまで達する。
『やりました!!命中です!』
無線機からライーサの嬉しそうな声が聞こえる。しかし、島岡は構っている余裕がなかった。
「こんのぉぉおおお!上がれぇぇえええ!!」
零戦は無理な急降下爆撃が祟り、速度過多に陥っていた。恐ろしく重くなった操縦桿を必死に引いて機体を持ち上げようとするが、このままいけば地面とキスすることになる。
「それだけは嫌だ!!」
『島岡さん!!』
ライーサが叫ぶ。島岡はそのまま地面とキス・・・することなく、ギリギリで機体を持ち上げることに成功した。砂を巻き上げながら急上昇しつつ、島岡は汗を拭いつつ呟いた。
「やっぱ無理なことしちゃ駄目だわ。あ~死ぬかと思った」
『島岡さん!大丈夫ですか!?』
島岡は、慌てて近寄ってきたライーサにヒラヒラと手を振りながら言った。
「大丈夫、大丈夫」
『ふぅ・・・。心配しました』
安堵の息をついて、微笑むライーサ。その様子を見ていた島岡は、感情が昂っているせいもあってか無性に彼女が可愛く思えた。
(いや、なに考えてんだ俺。今は戦闘中だぜ。ちょっと落ち着こう)
島岡は何回か深呼吸をして気持ちを整える。
『島岡さん?』
「何でもないよ。俺は今から小型の陸戦ネウロイを相手にするから残りの
『
陸戦ネウロイの装甲は厚く、7.7mm機銃ではたいした損傷は与えられない。しかし零戦に搭載されている20mm機銃なおかつ炸裂弾ならばある程度の損傷は与えられる。
ライーサもその事を理解しているのか、素直に頷き離れていった。それを確認すると、島岡は再び操縦桿を押すと急降下を始めた。爆弾を外した今は、より自由に機体を操ることができる。先ほどのような速度過多に陥らないように注意しながら、小型ネウロイに照準を合わせる。撃ち上げられる対空砲火を避けつつ、島岡は引き金を引いた。炸裂弾の雨が小型ネウロイに降りかかり、爆発によって損傷を与えていく。
空を飛ぶ零戦に気を取られたネウロイを、ライーサが
『こちら加東。ライーサ、信介、聞こえる?』
何度目かの機銃掃射を仕掛けようとした時、加東からの通信が入った。
「信介、聞こえます」
『ライーサ、大丈夫です』
一旦、機銃掃射を中止して旋回しながら島岡は答えた。ライーサの返事も聞こえる。
『そちらの戦況は?』
「中型陸戦ネウロイは撃破しました。現在地上部隊を援護中っす」
『航空ネウロイは
『・・・そう。よくやったわ。私たちも今私とマルセイユ、玄太郎と真美の二機編隊で出撃してるわ。そっちが落ち着いたら、一度マトルーの基地に戻って補給して』
「『了解(ヤヴォール)』」
通信が切れ、島岡は戦闘に戻る。
(ゲンと真美ちゃん・・・。なら、ゲンが長機か?)
稲垣がいるということは、おそらく対地攻撃任務だろう。なら、空戦は起こるはずないし、そのくらい神崎なら大丈夫だろう。
(さっさとこっちを終わらすか)
島岡はそう決めると、機体をクルリと反転させて何度目かの急降下に入り、20mm機銃の引き金を引いた。
マトルー基地より東に100km地点
加東、マルセイユはマトルーに侵攻している航空型ネウロイを迎撃すべく飛行中だった。
「・・・そっちが落ち着いたら、一度マトルーの基地に戻って補給して」
『『了解(ヤヴォール)』』
加東はライーサと島岡に指示を出し終わると無線を切った。
「あっちは大丈夫そうだな」
無線を聞いていたマルセイユが言った。
「そうね。中型も撃破できたみたいだし」
「ということは爆撃は成功したのか。すごいな、シンスケは」
「そうね。玄太郎が彼のことを天才っていたのもあながち間違いじゃないかもね」
「ふむ・・・」
「・・・張り合って、自分も爆撃するとか言い出さないでね」
「・・・」
(やるつもりだったな、こいつ・・・)
先に釘を刺してて正解だった。勝手に爆装で出撃して怪我でもしたら大変だ。加東がジト目でマルセイユを見ていると、きまりが悪くなったのかとってつけたように話題を変えた。
「そういえば、なんで私たちはこんな装備なんだ?」
マルセイユは自分の姿を見せるようにクルクルとロールをしながら言った。彼女の装備は、いつものMG34と腰には幾つかの予備弾倉、背中には予備の銃身。更にユニットには増槽が付けられている。いつもの彼女から考えれば相当な重装備である。
「念のためよ。念の・・・ね」
そう言う加東のユニットにも増槽を付けられており、加東が使う九八式機関銃甲の予備弾倉も腰にくくり付けられていた。ちなみにカメラのフィルムもいつもより多く持ってきている。
「動きづらいのは嫌なんだがな・・・」
「文句言わないの」
不満気に口を尖らせ、嫌だー嫌だーとロールを繰り返すマルセイユを、加東が双眼鏡を覗きながらたしなめる。扶桑海事変の頃は固有魔法の超視力を使いこちらが発見される前に敵を見つけることができたが、「あがり」を迎えた今はそういうわけにはいかない。加東は、じっと前方を双眼鏡で注視し、そして見つけた。
「見つけたわ。敵は・・・ヒエラクスね。数は・・・少なくとも30以上」
「モンティが攻め込む戦力差だな」
マルセイユがMG34の薬室に弾丸を送り込みながら言う。ちなみにマルセイユの言葉は、モントゴメリーは味方と敵の戦力差が15:1にならないと攻勢に移らないことにちなんでの物だ。
「大丈夫?マルセイユ?」
「私を誰だと思っている?」
「飲んだくれの不良娘」
「・・・おい」
「冗談よ。いじけないの、『アフリカの星』さん」
「ふんっ。行くぞ、ケイ!」
そう言ってマルセイユはスピードを上げた。加東はその後ろにぴったりとついていく。戦闘に関してはマルセイユに敵う者は誰もいないので、長機は階級に関わらずマルセイユとなっている。それに加東のシールドは魔力減衰によって役に立たないため、その点も都合がよかった。
接敵にはたいした時間はかからなかった。
二人は見つかる前に、ヒエラクス部隊の後方下に回り込む。航空機にとって自身の下は死角である。尚且つ背後を取られてしまえばもはや為す術もない。それがネウロイでも、形状が航空機と類似しているのならその死角は同じだ。
「一気にいくぞ!!」
「了解よ!」
二人は敵部隊の背後から突撃した。マルセイユのMG34と加東の九八式機関銃甲が火を噴き、ヒエラクスを蜂の巣にしていく。この奇襲はに成功し、ヒエラクス部隊はたいした反撃もできずに編隊を崩した。さらに二人が反転して反復攻撃を加えれば、完全に算を乱した。
「なんだ。たあいないな」
「油断しないで。残りを確実に仕留めるわよ」
予想外の手応えのなさに拍子抜けするマルセイユ。加東はそんな彼女を諌めると、近くを飛んでいたヒエラクスを素早く撃ち落とした。
「そのくらい分かってる。ちゃんとついてこい。ケイはシールドが張れないんだからな」
「はいはい。頼りにしてるわよ」
ムッとした顔で言うマルセイユの言葉に、苦笑いしながら加東が答える。マルセイユはフンッと鼻をならすと、追撃を開始した。
一部の敵がやっと混乱から脱し、こちらに向け反撃を開始する。ヒエラクスはビームだけでなく機銃も撃ってくるが、マルセイユにはかすりもしない。それは彼女の後ろを飛ぶ加東も同じだった。二人はすれ違いざまに更にヒエラクスを撃墜。しかし、相手もやられるばかりでなく、二人が攻撃している隙に離散していた別の編隊が二人の背後を取った。それに連携して周りのヒエラクスも二人を追い詰めるように迫りくる。
マルセイユの眼光が鷲のそれとなった。
「遅れるな!」
「ええ!」
そこからのマルセイユの機動は凄まじかった。彼女は、まるで敵がどう動くかが分かっているかのように縦横無尽に飛び回り、撃ち落とすだけでなく、引き込んだヒエラクスを別のヒエラクスと衝突させたりなど曲芸じみたことまでしてみせた。後ろからついていく加東にとってはたまったもんじゃない。
(ちょっとはこっちのことも考えなさいよ!)
そう思う加東だが、マルセイユの機動に遅れないようについていくのに精一杯で口に出す余裕がない。結局、文句が言える頃には敵のヒエラクス部隊は撤退していた。増援もないらしい。
「よし、終わったな。・・・どうした?」
「なんでもないわ」
その時には文句を言う気も失せてしまい、加東は抗議の目を向けるだけに留めておいた。不思議そうに首を傾げるマルセイユを尻目に、加東はロンメルに通信を入れる。
「こちら加東。マトルーに向かっていた敵部隊は撃退したわ」
『分かった。すぐに中央の援護に向かえるか?』
戦線の中央は神崎と稲垣が向かった場所だ。加東は何か嫌なものを感じた。
「何かあったの!?」
『敵の陸空含めた大部隊が侵攻中だ。どうやら他はこちらの戦力を分散させる陽動だったらしい。敵の狙いは戦線の中央突破だ』
ロンメルは更に続けた。
『陸戦型の方は、敗走していた部隊とカールスラントとロマーニャの部隊でなんとか食い止めている。ブリタニアとリベリオンの部隊が到着すればなんとかなるかもしれんが、それまでに航空型に制空権を完全に取られればおしまいだ』
「分かったわ。すぐ、『アフリカ』は全機そっちへ向かう」
『頼む』
ロンメルとの通信を終えると、加東はマルセイユを見た。
「聞こえたわね?」
「ああ。すぐに向かうぞ」
マルセイユは真剣な表情で頷くと、すぐさま進路を北に取った。増槽のおかげで補給のために基地にもどる必要もない。
「ケイはこのことを予想してたのか?」
「そんなんじゃないわよ。もしかしたら何かあるかも・・・てぐらいだったし。」
そう言いながら、加東は戦線の中央で戦っている神崎と稲垣に連絡を取ろうとした。しかし、いっこうに返事がない。
(玄太郎と真美なら・・・でも・・・)
神崎を長機とした模擬戦の時の動きから考えると、対地攻撃はいいとしても、空戦になったら危ないかもしれない。最悪、撃墜されている可能性も・・・ 。
『・・・さん!ケ・・・ん!ケイさん!!』
加東の悲観的な思考を断ち切ったのは、稲垣からの通信だった。
「真美!?状況は!?」
『は、はい。敵がたくさん増えました!私は弾切れで・・・キャ!!』
一瞬強いノイズが走る。
『航空型は神崎さんが・・・でも、様子がおかしくて・・・!』
「玄太郎が?」
『いつもみたいな動きじゃないし、呼吸が荒くて・・・』
『真美!!』
稲垣がそこまで言ったところで、神崎の声が割り込んできた。いつものような落ち着いた声ではなく、ひどく取り乱した声だ
『すぐにこの戦域から下がれ!マトルーに戻って補給しろ!』
『何言ってるんですか!神崎さん、具合が悪いんですよね!?置いて行けるわけ・・・』
『足手まといだ!さっさと行け!』
時折、MG34の射撃音やシールドで弾く音が通信に混ざる。
「ちょっと玄太郎!?」
『一人なら大丈夫だ!早く俺から離れろ!!命令だ!』
加東の通信も神崎は耳に入ってないらしい。神崎は一方的に言い放つと、通信を切った。
(まずいわね・・・)
加東は目線でマルセイユにスピードを上げるように指示する。その意を汲んだマルセイユは、頷くとすぐにスピードを上げ、先に行ってしまった。
『ケ、ケイさん・・・』
稲垣の泣きそうな声が聞こえる。あまりにも雰囲気が違う神崎の物言いになにがなんだか分からなくなったようだった。加東も何故神崎がああなってしまったのかは分からないが、稲垣に指示を飛ばす。
「玄太郎の言う通り、一度マトルーへ戻りなさい」
『で、でも・・・』
「私もマルセイユも、今そっちに向かってるわ。すぐに到着するから、大丈夫」
加東は優しい声音で、稲垣を落ち着かせる。
「ライーサと島岡も基地に戻ってるはずよ。二人と合流しなさい。分かったわね?」
『はい・・・』
通信を終えると、加東もスピードを上げた。一刻も早く向かわないと何か手遅れになりそうな気がする。頭をぐしゃぐしゃと掻きながら、先を急いだ。
神崎は昔、
この出来事は、後の世でいう心的外傷後ストレス障害(PTSD)つまりトラウマとなり、神崎を苦しめている。
神崎は限界に近づいていた。最初の方はまだよかった。
しかし、戦闘が始まればそうはいかなくなった。自分の後ろから聞こえる稲垣の銃声が、あの時の銃声と重なってしまうのだ。聞こえる度に背中に衝撃がくるのではと緊張する。
そうなればもはや戦闘どころではない。一発一発鳴り響く度に神崎の神経はガリガリと削られてゆき、後には恐怖心しか残らなかった。稲垣が弾切れを起こさなければ、最悪、神崎は我を忘れて稲垣に襲いかかっていたかもしれない。それほど神崎は消耗していた。
「足手まといだ!さっさと行け!」
ろくに稲垣を見ずに叫ぶ。お笑い草だ。今の状態から見れば自分の方が足手まとい。
「一人なら大丈夫だ!早く俺から離れろ!命令だ!」
この恐怖から抜け出したい。早く
戦闘は続いている。
神崎は押し寄せる多数のネウロイを眺めた。ヒエラクスとケリドーンの混成部隊。いくら
神崎は静かに魔力を左手に集めた。魔力は集束し、熱を帯び、燃え上がる。
(・・・真美には悪いことをしたな)
神崎は少しだけ余裕ができた頭で思った。せめて本当に一人で大丈夫だというのを見せなければ。
神崎が左腕を振り、数多の炎を放った。放たれた数多の炎は空中を迸り、迫り来る航空型ネウロイの一群と接触し一斉に爆発。その爆発と同時に神崎は突撃した。爆発により混乱したネウロイを手当たり次第に撃ち落とし、弾が尽きるとMG34を背負い
時折、炎を織り交ぜた神崎の戦いぶりは獅子奮迅といってもいいだろう。
だが、それまでだった。
ネウロイが混乱から脱していくにつれて、神崎は次第に追い込まれていく。一体を追えば後ろから別のネウロイに追撃され、炎を放とうにも狙いを定める前に牽制射撃が入る。ついこの前のティーガーを守った戦いと同じような状況だった。
(今回は一人だがな)
だが、今はむしろ一人の方がいい。もし、ここに
『ゲンタロー!?』
神崎の思考を遮って、無線から声が響く。
(ハンナ!?早すぎるだろ!?)
振り返る神崎だが、その顔が恐怖で凍りつく。
『ゲンタロー!助けに来たぞ!』
そう言ってマルセイユは近づいてきた。
(来るな)
マルセイユの姿とあの時の
(来るな・・・来るな・・・)
あの時の
『――――――――』
(来るな・・・来るな・・・来るな・・・)
『イッピキオオカミ・・・ハ・・・キエロ』
そこで、神崎の何かが壊れた。
「来るなぁぁぁぁぁぁああああああああああああ!!!」
最近のブームは零戦。映画よかった~、映画見て初めて泣いた~。
あとハッピーバースデイ、フランチェスカ・ルッキーニ少尉!この話ではいつ出てくるのか!?
ではまたノシ